インカムアプローチとは?企業価値評価法としての特徴・種類やメリット・デメリットまで解説!

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

本記事では、インカムアプローチの特徴や計算方法について解説します。インカムアプローチとは、企業価値評価において将来的な収益価値を基準とする計算方法です。将来性を考慮した合理的な手法とされています。インカムアプローチについて知りたい方は必見です。

目次

  1. インカムアプローチとは
  2. インカムアプローチの特徴と3つの種類
  3. インカムアプローチのメリットとデメリット
  4. インカムアプローチ(DCF法)の計算方法と手順
  5. インカムアプローチのまとめ
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1. インカムアプローチとは

M&Aを検討する際、取引対象の価値やその価値を算出する基準は重要なポイントです。取引価格を決める際に売り手・買い手の交渉を行うので、双方が納得できるだけの材料を提示する必要があります。

こうした場面で活用されているのがインカムアプローチです。現段階の価値だけでなく将来の計画に基づいた算出を行うので、適正な評価を行いやすい特徴があります。

大手企業やベンチャー・スタートアップなどの成長性が高い企業は、インカムアプローチによる評価が適切になる場合が多いでしょう。以降の章では、インカムアプローチの特徴やメリット・デメリット、計算方法を詳しく解説します。

その他の企業価値算定方法との違い

インカムアプローチの特徴やメリット・デメリット、計算方法などを紹介する前に、その他の企業価値算定方法との違いを見ましょう。

  • インカムアプローチ₋将来的な稼ぐ力
  • コストアプローチ₋過去の事業で得た純資産
  • マーケットアプローチ₋自社における過去の業績や類似した会社

起業してすぐのベンチャー企業における企業価値を算定する際は、ほとんど資産がなく収益性が高いので、インカムアプローチで算定すると高く評価されますが、コストアプローチで算定すると低く評価されます。企業価値算定では、会社の状況に応じてインカムアプローチ以外の算定方法を選ぶことも大切です。

割引現在価値については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】割引現在価値とは?意味やメリット・デメリット・活用シーン・計算方法を例題でわかりやすく解説

2. インカムアプローチの特徴と3つの種類

インカムアプローチとは、将来得られる収入や利益に基づいて、企業価値を算出する評価方法です。算出過程では計画性が求められるので、損益計算書やキャッシュフロー計算書などの指標を用います。

インカムアプローチは大きく分けて3種類です。ここでは、M&A場面で最もポピュラーな評価方法とされるDCF法以外に、収益還元法と配当還元法も解説します。

【インカムアプローチの種類】

  1. DCF法
  2. 収益還元法
  3. 配当還元法

DCF法

DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー)とは、将来的な収益価値を現在価値で割り引くことで企業価値を算出する評価方法です。

企業価値は事業価値と非事業資産の価値に分けられます。2つの値における合計が企業価値となり、そこから借入金や社債などの債権者価値を差し引いて株式価値を算出します。

それぞれの価値算出には、さまざまな指標が必要なので、ここでは、DCF法の計算で使う指標を見ましょう。

【DCF法の計算で使う指標】

  • FCF
  • 割引率
  • WACC
  • ゴーイングコンサーン
  • ターミナルバリュー
  • 非事業用資産
  • 株式価値

FCF

FCF(フリー・キャッシュフロー)とは、企業の事業活動で得た収益のうち、自由(フリー)に使える現金(キャッシュ)はいくらかを示す指標です。

自由に使えるFCFは、借入金の返済や事業資金への投資など幅広く活用できるので、FCFが多い企業は財務状況が良好と判断されるでしょう。

インカムアプローチのDCF法ではFCFの予測を行います。損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書の予測計算書を作成し、5年程度のFCFの予測を立てます。

割引率

割引率とは、FCFの予測価値を現在価値に割り引くための掛け目です。あくまで予測値にすぎないので、適切な割引率を用いて現在価値に換算しなくてはなりません。

一般的にTOPIXの期待収益率は6%程度といわれ、この数値を基準に割引率を4~7%に設定することが多いでしょう。上場企業のM&A実務であれば、6%前後を基準に企業の抱えるリスクに応じて割引率を設定することが少なくありません。

非上場のベンチャー・スタートアップなどの企業は、50%以上の割引率が設定されることが多いです。成長性が期待できるので毎年FCFを倍増させていくと考えられるためです。

割引率は上記のように大まかな目安を用いて自由設定もできますが、正確な割引率を設定する場合は「WACC」の理解が必要になります。

WACC

WACC(Weighted Average Cost of Capital)とは、株主資本コストと負債資本コストを加重平均して算出される資本コストのことです。加重平均資本コストとも呼ばれており、実際に資金調達するためにかかるコストを示しています。

企業はWACC以上の利回りをあげられると、債権者と株主の両方を満足させられるので良好な経営状態であると判断できます。

【WACCの計算方法】

  • WACC=D/D+E×rD×(1-T)+E/D+E×rE
  • rE=株主資本コスト
  • rD=負債コスト
  • D=負債総額
  • E=株主資本
  • T=実効税率

ゴーイングコンサーン

ゴーイングコンサーンとは、企業が将来にわたり存続して事業を無期限に継続していく前提のことです。DCF法は将来的な収益価値を考慮する評価方法なので、ゴーイングコンサーンが大前提となります。

一定のキャッシュフローが永続する場合の現在価値を、永続価値またはPV(Perpetual Value)といいます。無期限に継続するキャッシュフローを計算し続けるのは不可能なので、下記の簡単な計算方法を用いるのが一般的です。

【永続価値の計算方法】

  • PV=CF÷r
  • CF=キャッシュフロー
  • r=割引率

ターミナルバリュー

ターミナルバリューとは、個別にキャッシュフローの予測が難しい期間について設定される永続価値のことです。予測期間における最終事業年度の予想FCFを基準にして、以降のFCFを一定の永久成長率で予測して現在価値に換算することで求められます。

非事業用資産

事業のために運用されていない資産のことであり、売却・処分しても事業価値に影響を与えない資産のことです。現金預金・純粋な投資目的の有価証券・遊休資産(事業に使っていない不動産)などです。

これらは事業価値に含まれませんが、売却・処分した際に同額のFCFを獲得することが期待できるので、企業価値を算出する際に加算します。

売却・処分する際は、該当する資産の時価評価を行います。売却・処分した場合に得られる金額を時価として、売却・処分にかかる費用を減算して算出するでしょう。

非事業用資産の価値が明確になったら、FCFや割引率を用いて算出した事業価値を加算し、会社全体の企業価値を算出します。

株式価値

株式価値とは、企業価値のうち、株主に帰属する部分の価値です。企業価値から有利子負債などの債権者価値が差し引かれた価値なので、M&Aで株式を売買する場合はこの株式価値を基にして取引価格を交渉する形が一般的です。

証券取引所で一般公開されている株価と混同するケースが多いですが、株式価値と市場の株価は同一ではありません。株式価値は対象企業のあらゆる指標を用いて算出されるので、市場の株価とは異なる結果となることがあるためです。

【株式価値の計算方法】

  • 株式価値=企業価値(事業価値+非事業用資産の価値)-債権者価値(有利子負債)

収益還元法

収益還元法とは、DCF法と同様に将来的な収益価値を現在価値に換算する評価方法です。FCFに相当する部分に一定の予想収益利益を計算に入れ、割引率に相当する部分には資本還元率を用います。

収益還元法のメリットは、DCF法よりも計算が簡便なことです。算出にかかる手順を省略できるので、多数の候補から数社に絞り込む際、簡易的な評価方法として利用しやすいです。

ただし、年度ごとの予想利益を求めないので変化に弱いでしょう。業績の変化が大きい企業や成長企業の評価には不向きなので、不動産賃貸業などの収益が安定しやすい業種に向いている評価方法です。

配当還元法

配当還元法は、株主への配当金を基準とした評価方法です。配当金の期待値を割り引くことで現在価値が算出されます。配当還元法は計算式がシンプルですが、配当金を物差しに計算する方法なので企業の収益性が配当政策に正しく反映されている必要があります。

多額の欠損などの事情から配当が見込めない企業は過小評価になりやすいため、利用できる企業は実質的に限定されるでしょう。

非上場株式を相続・贈与した際の評価方法である配当還元方式とは別物です。両者とも配当金を基準とした評価方法ですが、計算方法も算出される結果は全く異なります。

M&Aの企業価値評価(バリュエーション)については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】M&Aのバリュエーションとは?算定方法やメリット・デメリットを解説【事例・動画あり】

3. インカムアプローチのメリットとデメリット

M&Aにおける取引価格の計算ではインカムアプローチ以外にも、純資産を基準とするコストアプローチや市場価値を基準とするマーケットアプローチなどの評価方法があります。

自社にとってインカムアプローチのデメリットが大きければ、ほかの評価方法を検討することも大切です。この章では、インカムアプローチのメリット・デメリットを解説します。

インカムアプローチの3つのメリット

まずは、インカムアプローチのメリットから見ます。特に影響が大きいメリットは、以下の3点です。

【インカムアプローチのメリット】

  • 将来性など不確定な要素も計算に含められる
  • M&A以外の状況にも利用できる
  • 市場変動の影響を受けにくい

将来性など不確定な要素も計算に含められる

インカムアプローチにおける1つ目のメリットは、将来性やシナジー効果を企業価値に含められることです。M&A時点であまり利益が出ていない企業でも、将来性を考慮して高い評価を受けることも不可能ではありません。

シナジー効果は売り手・買い手の強みが合わさることで生み出される相乗効果のことです。単体で事業を行っているときよりも、より大きな利益を生み出すことが期待されます。

M&Aはシナジー効果の創出を狙って実施されることが多いので、将来性やシナジー効果を重視したインカムアプローチは適切な評価方法として幅広く使われています。

特にベンチャー・スタートアップなどの成長性が高い企業は、将来性やシナジー効果が高く評価される傾向があるでしょう。ほかの評価方法では適切な評価が難しいため、インカムアプローチが採用されることがほとんどです。

M&A以外の状況にも利用できる

インカムアプローチにおける2つ目のメリットは、M&A以外の状況にも利用できることです。具体例として、事業の投資判断や不動産の売買などがあります。

企業は将来的な収益を見込んで事業を展開するため、事業投資や設備投資を行う際はインカムアプローチによる評価が重要です。投資額に見合うだけの収益があるかどうか判断するために役立ちます。

インカムアプローチには不動産の収益性に着目した収益還元法の評価方法があり、土地に無駄な部分が多い場合でも適切な価格を算出できるので、投資に対する期待リターンを算出して投資の判断材料として活用可能です。

主にアパートや賃貸マンションなど投資用収益物件の査定で役立ちます。個人事業主の不動産賃貸業などでも応用できるので利用場面は幅広いといえるでしょう。

知的財産の評価にも使えます。知的財産は将来にわたって収益価値を生み出すことが期待されるので、著作権や商標権を取得・買収する際も基準にできます。

市場変動の影響を受けにくい

市場の動きに関わらず、企業や資産の未来の見込みが変わらなければ、その評価も大きく変わりません。そのため、インカムアプローチでは、取得側の企業が長期的な考え方で決定を下すことが可能です。

インカムアプローチの3つのデメリット

続いて、インカムアプローチのデメリットを見ましょう。M&Aにおける取引価格の計算に利用する際に、特に注意したいデメリットは以下の3点です。

【インカムアプローチのデメリット】

  • 客観性に欠けてしまう
  • 企業が続くことが大前提
  • 将来の予測が難しい

客観性に欠けてしまう

インカムアプローチにおける1つ目のデメリットは、客観性のある評価が難しいことです。客観性が伴わなければ、投資意思決定の判断材料として認められにくいでしょう。

M&Aにおける取引価格の計算は、売り手・買い手の双方が納得できなくてはなりません。将来性やシナジー効果はM&A時点では不確定かつ主観的なものなので、インカムアプローチによる評価は客観性が乏しく交渉が長期化する傾向があります。

インカムアプローチによる評価に具体性や説得力を持たせるためには、シナジー効果による収益価値を実現するための計画性を示さなくてはならず、第三者視点でも納得できるだけの綿密に練られた事業計画が必要です。

このように、事業計画の精度次第で算定される評価の客観性・信頼性が大きく変化してしまう欠点があります。

企業が続くことが大前提

インカムアプローチにおける2つ目のデメリットは、企業が続くことを前提とした評価方法であることです。評価した収益力を発揮させるためには企業が継続して事業を行う必要があります。

評価時点から数年で企業が消滅する見込みがある場合、インカムアプローチによる評価は適切ではありません。例えば、廃業・倒産寸前の企業の場合は将来的な収益性を考慮できないので、純資産を基準とするコストアプローチの方が適切な評価方法です。

M&Aにおける取引価格の計算方法は、それぞれに特徴があります。状況・場面に合わせて使い分けなければ、適切な価値の算出が難しくなり、交渉が冗長化する原因になりやすいでしょう。

将来の予測が難しい

インカムアプローチは、将来的な収益の予測に適しません。市場の動きや経済の不安定さなどの影響で、正確に予想することが難しいことがあります。

4. インカムアプローチ(DCF法)の計算方法と手順

インカムアプローチ(DCF法)の計算方法は経営者自身が把握する必要はないですが、大まかな概要を押さえておくと専門家からの説明を受ける際に理解しやすくなります。この章では、インカムアプローチの計算方法を見ましょう。

【インカムアプローチの計算手順】

  1. FCFの算定
  2. 割引率の算定
  3. 永続価値の算定
  4. 現在価値の算定
  5. 株式価値の算定

①FCFの算定

インカムアプローチ(DCF法)は、M&A対象の企業が将来いくらのキャッシュフローを稼ぐか把握することから始めます。DCF法においては、FCF(フリー・キャッシュフロー)と呼ばれています。

FCFはキャッシュフロー計算書、もしくは貸借対照表と損益計算書から算定する2通りの方法があり、キャッシュフロー計算書を作成している場合は、営業CFから投資CFを差し引くだけです。

【FCFの算定方法】

  • 営業CF-投資CF
  • 営業利益×(1-税率)+減価償却費-投資±運転資本

②割引率の算定

続いて、FCFを現在価値に換算するための割引率を算定します。DCF法における割引率は、将来のリスクや不確実性を示す値です。債権者から求められるコストや株主から求められるコストを加重平均して、WACC(加重平均資本コスト)を算定します。

③永続価値の算定

永続価値は将来のCFを見積もった期間後の価値を計算したものです。企業は永続的に存在するべきという前提があるため、永久に継続するFCFを考慮しなくてはなりません。

しかし、遠い未来のFCF予測を立てるのは非現実的なので、永続価値を使ってFCFの簡略化を図ります。予測期間における最終事業年度の予測FCFを基準として、翌年度のFCFを割引率で割ることで求められます。

④現在価値の算定

現在価値は将来FCFを現時点の価値に換算した金額のことです。基本的に資金運用すると資金は増えていくので、将来FCFと現在価値は必ずしも同じ価値とは限りません。

現在価値の算定は割引率・永久価値を使用して行い、1~5年のFCFと5年目以降の永続価値を割引率で割り引いて現在価値を算定します。

⑤株式価値の算定

インカムアプローチ(DCF法)で算定した現在価値は企業の事業価値です。事業自体の価値しか反映されていないため、事業価値に非事業用資産価値の加算と債権者価値の減算を行って株式価値を算定します。

綿密に練られた事業計画を反映させた株式価値であれば、デューデリジェンスの結果が直接反映されます。

M&Aの企業価値評価のご相談はM&A総合研究所へ

インカムアプローチは幅広い場面で利用できますが、計算方法は非常に複雑です。売り手・買い手の双方が納得できるように適切な評価を行うのなら、専門家に相談することをおすすめします。

M&A総合研究所は、主に中堅・中小規模のM&Aに携わっているM&A仲介会社です。M&A総合研究所では、M&Aの経験と知識が豊富なM&Aアドバイザーが案件をフルサポートします。

数多くの企業価値評価に携わっておりますので、インカムアプローチを利用した適切な評価が可能です。その他の評価方法も含めたうえで比較検討もできます。

料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談を受け付けていますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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5. インカムアプローチのまとめ

インカムアプローチは企業価値評価の1つです。将来的な収益価値を考慮できる特徴から、主に大手企業やベンチャー・スタートアップのM&Aで利用されています。

インカムアプローチの計算が複雑と感じた場合は、専門家に相談しましょう。M&A仲介会社であれば豊富な経験があるので、適切な評価によりM&Aにおける進行の円滑化を期待できます。

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