2023年04月28日更新
割引現在価値とは?意味やメリット・デメリット・活用シーン・計算方法を例題でわかりやすく解説
M&Aの企業価値評価では、DCF法などの割引現在価値を用いた手法を利用します。企業価値評価は専門家が行いますが、経営者の方も基本的な事項を知っておけば、役立つ場面も多いです。本記事では、割引現在価値の意味や計算方法を、例題も交えながらわかりやすく解説します。
目次
1. 割引現在価値とは?
M&Aや不動産投資では、買収する会社が将来もたらす利益または将来入ってくる家賃収入をもとに、どの額までなら投資すべきか判断する必要があります。
しかし、将来の利益や家賃収入がいくらになるかを正確に知ることはできないため、現時点の状況から予測していくことになります。
将来の予測には経験や勘による主観的な判断も重要ですが、それだけでは正しい投資判断を続けていくのは難しいでしょう。やはり、ある程度理論的・数学的な根拠がある、客観的な手法も利用していく必要があります。
割引現在価値とは、将来得られる利益が現在に換算していくらになるのかを理論的に求めるための指標です。将来の利益に対するリスクと不確実性を反映することで、現在価値を数学的に見積もれます。
2. 割引現在価値の意味
割引現在価値とは、将来受け取れると見込まれる利益またはキャッシュ・フローが、今現在はいくらの価値を持つかを表すものをいいます。
この意味を理解するためには、お金の時間的な価値も考える必要があります。例えば、今私たちが持っている1万円と1年後持っている1万円は、どちらも同じ1万円です。物価が変わらなければ、どちらも同じ価値となるでしょう。
しかし問題なのは、1年後の1万円は、今の私たちにとっても価値が同じなのかどうかです。割引現在価値は、このような問題を考える際に必要となります。
割引現在価値の意味を理解するには、「現在価値」や「将来価値」といった用語も知っておく必要があります。
現在価値について
割引現在価値と似た用語に「現在価値」がありますが、将来の利益について論じられているときは、現在価値も割引現在価値と同じ意味で使われます。
現在価値(割引現在価値)から投資額を引いた「正味現在価値」の指標もあり、正味現在価値のことを現在価値と呼ぶこともありますが、本記事では現在価値と割引現在価値が同じ意味として話を進めます。
現在価値(割引現在価値)を理解するためには、1年後に1万円を受け取れることの価値は必ずしも1万円ではないことを把握しなければなりません。
1年後に1万円もらえるといっても、事業が失敗して利益が出ずに受け取れない可能性があります。そのリスクを考慮すると、1年後に1万円もらえることの価値は1万円より少なく見積もる必要があります。
1年後確実に1万円もらえる場合と、半分の確率でしかもらえない場合では、半分の確率のほうが価値は小さいです。つまり、どれくらい少なく見積もるかは、個々の事例によって変わってきます。
このように、将来得られる利益のリスクの大きさによって、今現在における価値を調整したものが現在価値(割引現在価値)です。
将来価値について
現在価値(割引現在価値)を理解するにあたって、対になる概念として知っておきたいのが「将来価値」です。将来価値は、現在価値(割引現在価値)の逆または対のような概念であり、今現在の資産が未来の自分にとってどれくらいの価値になるかを表した方法です。
例えば、今1万円持っているとして年利10%で1年間運用すると、1年後には11,000円になっています。このことから考えると、今現在の1万円は1年後の自分にとっては11,000円の価値があると解釈できます。
つまり、今持っているお金は運用すれば増やせるので、未来の自分にとっての価値は少し高めに見積もる必要があるでしょう。現在価値(割引現在価値)が少し低く見積もれるのと対のため、これで両者はつじつまが合います。
リスクによって将来価値の値が変わるのも、現在価値(割引現在価値)の場合と同じです。1年後確実に11,000円になる場合と、半分の確率でしか11,000円にならない場合では、半分の確率の場合が将来価値は小さくなります。
3. 割引現在価値の計算方法と例題
前章では、割引現在価値とはどのようなものかを述べました、次は具体的な計算方法を解説します。計算式自体は高度なものではないので、数学が得意でなくても十分理解できるでしょう。
割引現在価値を求める計算式
割引現在価値は以下の計算式で求められます。
【割引現在価値】
- (n年後の資産の価値)÷(1+割引率)ⁿ
例えば、1年後の資産の割引現在価値と2年後の場合は、それぞれ以下のように求めます。
- 1年後の資産の割引現在価値 →(1年後の資産の価値)÷(1+割引率)
- 2年後の資産の割引現在価値 →(2年後の資産の価値)÷(1+割引率)²
割引現在価値の計算式で重要になるのは「割引率」です。割引率は資産のリスクや不確実性に応じて設定するパラメータです。例えば5%にしたい場合は0.05、20%にしたい場合は0.2などと設定します。
割引率はリスクが高いほど大きい値に設定します。割引率を大きくすれば式の分母が大きくなるので、その分だけ割引現在価値が下がるでしょう。
割引現在価値の計算式には、割引率以外に「n(年後)」のパラメータが出てきます。
分母の(1+割引率)は1より大きい値なので、掛ければ掛けるほど値が大きくなり、分母が大きくなれば計算式の値は小さくなります。つまり、遠い将来ほど(nが大きくなるほど)、割引現在価値は小さくなることになりました。
割引現在価値の計算例題
割引現在価値の計算式を解説しましたが、式を見ただけでは具体的なイメージが沸きづらいかもしれません。その場合は具体的な例題を計算してみると、式の意味が分かりやすくなります。
ここでは、いくつかの簡単な条件下で実際に割引計算価値を計算し、n年後や割引率が変わると値がどのように変化するのかを見ていきます。
例題1:1年後の1万円の割引現在価値は?(割引率10%)
前節の割引現在価値の計算式
- (n年後の資産の価値)÷(1+割引率)ⁿ
上記に、(n年後の資産の価値)=1万円、(割引率)=0.1、n=1を代入すると、以下のようになります。
- 1万円÷(1+0.1)=1万円÷1.1≒9.091円
例題2:1年後の1万円の割引現在価値は?(割引率20%)
例題1と比べて割引率が10%から20%に変わっています。(n年後の資産の価値)=1万円、(割引率)=0.2、n=1を代入すると、以下のようになります。
- 1万円÷(1+0.2)=1万円÷1.2≒8,333円
単純に割引率10%なら9,000円、20%なら8,000円とはならない点に注意しましょう。
例題3:2年後の1万円の割引現在価値は?(割引率10%)
例題1と比べて1年後が2年後に変わっています。(n年後の資産の価値)=1万円、(割引率)=0.1、n=2を代入すると、以下のようになります。
- 1万円÷(1+0.1)²=1万円÷1.1²=1万円÷1.21≒8,264円
例題4:2年後の1万円の割引現在価値は?(割引率20%)
例題1と比べて、割引率が10%から20%、さらに1年後が2年後に変わっています。
(n年後の資産の価値)=1万円、(割引率)=0.2、n=2を代入するので、以下の式になります。
- 1万円÷(1+0.2)²=1万円÷1.2²=1万円÷1.44≒6,944円
4. 割引現在価値が活用されるシーン
割引現在価値は、将来の収益から投資判断をする場面において、幅広く活用できます。特に利用されているのは、M&Aでの企業価値評価と不動産投資での投資判断です。
【割引現在価値が活用されるシーン】
- M&Aでの活用
- 不動産投資での活用
- 会計基準での活用
M&Aでの活用
M&Aでは、買収する企業の価値がいくらになるかを見積もるために、割引現在価値がよく利用されます。
買収する会社の価値を見積もる場合、単純に会社の資産から負債を引いたものや時価総額を企業価値とみなすことも可能です。
しかし、それでは見積もり方が単純すぎるうえ、事業がもたらす将来の利益は考慮できていません。M&Aは会社を買収して事業拡大を目指すため、その会社が将来どれくらいの利益をもたらすかが重要です。
そこで、会社がもたらす将来の利益を割引現在価値に換算し、それを会社の現在の価値とすれば、買収価格をより現実的に見積もれます。
M&Aで将来の利益から企業価値を見積もる手法は「インカムアプローチ」と呼ばれ、企業価値評価手法のなかでは最も一般的な方法です。
代表的なインカムアプローチの手法であるDCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)では、1年後・2年後・3年後...と各年度の割引現在価値を全て求め、その合計を企業価値とみなします。
不動産投資での活用
不動産投資の判断のために、割引現在価値を活用することがあります。不動産投資では、将来得られる家賃収入や値上がりした時の売却益などを予想し、それを割引現在価値になおして投資判断をします。
割引現在価値より安ければ投資する価値があり、高ければ見送るといった形で、どの不動産に投資するかを選択できるでしょう。
会計基準での活用
会計基準における割引現在価値の活用は、さまざまな場面で使用されています。主な会計処理は、減損会計、金融商品会計、退職給付会計、資産除去債務会計などです。
2000年以降に出てきた基準でよく使用されており、将来発生するキャッシュ・フローや債務額に対して、現在の価値へ引き直すプロセスが採用されています。
5. 割引現在価値のメリット
割引現在価値を用いるメリットは、主に以下が挙げられるでしょう。
- 将来価値を企業価値に反映できる
- 個別案件に応じて評価が可能
割引現在価値は、現在価値に将来的に見込める利益を反映できるため、企業価値をより正確に計算するのが可能です。したがってM&Aの意思決定がしやすいといったメリットがあります。判断が難しい企業価値を数値化できる点は、割引現在価値のメリットのひとつです。
対象の企業全体もしくは事業が生み出す個別案件を踏まえ、割引率をとおして属性に見合うリスク反映ができるのも割引現在価値のメリットです。
6. 割引現在価値のデメリット
割引現在価値法にはメリットだけでなく、デメリットもあります。割引現在価値を用いるデメリットは、主に以下が挙げられるでしょう。
- 利益計画によってキャッシュ・フローを見積もるため、計画の実現可能性に関する不確実性
- 将来発生するリスクを割引率に反映することが難しい
割引現在価値を算出する際には、将来計画など過去の実績を鑑みながら計算するのが一般的です。しかし、企業側の主観に基づく評価になるため、恣意(しい)的な判断が入ることで、客観性に乏しいケースが発生する可能性があります。将来価値はあくまでも予想であって、利益獲得が確実なものではありません。
売り手側は割引現在価値を大きく見積もりたい、買い手側は保守的に判断したいなど、利害が分かれます。したがって、現在価値へ将来のキャッシュ・フローを割引くにあたり、将来のキャッシュ・フローの見積もりは妥当なのかを事前に把握するのが大切です。
また、数値として将来のリスク全てを反映させることは非常に難しいです。「どの要素を割引率に反映するのか」「リスクはすべて反映できたのか」といった問題を処理するのは決して容易ではありません。
企業価値を求める際は、複合的に判断しましょう。
7. M&Aで割引現在価値を求める理由
M&Aにおける割引現在価値は必須ではありませんが、なぜ実際には割引現在価値がよく使われるのでしょうか。この章では、割引現在価値がM&Aで有効な理由を解説します。
割引現在価値を求める意味
M&Aで会社を買収するからには、その会社・事業を最大限に生かして収益拡大を目指すのは当然です。したがって、買収する側としては、売却する側の会社が将来どれだけの利益をもたらすかが、買収価格を決めるポイントとなります。
例えば、売却する側の会社が今現在は多くの資産を持っていたとしても、将来的に高い利益を上げられないのなら、高いお金を払って買収したいとは思わないでしょう。
逆に、今現在は価値が低いまたは赤字だったとしても、将来的に高い利益を上げられるのなら高額でも買収したいと思うはずです。
このように、M&Aでは将来の企業価値が重要になるケースが多いので、将来の企業価値を見積もって適切な買収価格を求めるために、割引現在価値が重要になります。
主要な企業価値の求め方
M&Aにおける企業価値の求め方にはいろいろな種類があり、それらはコストアプローチ・インカムアプローチ・マーケットアプローチの3種類に分類されます。
割引現在価値を使うのはインカムアプローチで、それ以外の2つは割引現在価値を使わずに企業価値を求めます。
【主要な企業価値の求め方】
- コストアプローチ
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
コストアプローチ
コストアプローチとは、会社が現在持っている純資産を企業価値とする評価手法のことです。インカムアプローチと違って将来の収益は考慮されないものの、普通は「のれん」として将来の収益もできるだけ反映するようにします。
M&Aは将来の利益が重要と述べましたが、将来の利益を予想しづらい中小企業や吸収合併で消滅する会社の価値評価では、今現在の企業価値を求めるコストアプローチが優れていることがあります。
インカムアプローチ
インカムアプローチは将来もたらす収益を企業価値とする評価手法で、割引現在価値を使用して算出します。
代表的な手法であるDCF法では、将来の各年度の割引現在価値を全て求め、その合計を企業価値とみなします。
DCF法は、割引現在価値を活用した有力な企業価値評価手法ですが、将来の利益のキャッシュ・フローを現在の事業計画から推測する必要があるため、誰が計算するかによって値が変わってしまうデメリットがあるでしょう。
このように、各手法はどれも一長一短があるため、どの手法を用いるかをうまく選択することが重要になり、割引現在価値を求めさえすれば正しい企業価値が算出できるわけではありません。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、買収したい会社と似た企業を主に上場企業から探してきて、その企業の株価や各指標を参考に企業価値を見積もる手法のことです。
マーケットアプローチもコストアプローチと同様に、割引現在価値は使用しません。コストアプローチとマーケットアプローチは、将来の利益よりも現在の企業価値を重視しており、割引現在価値で将来の利益を求めるインカムアプローチとは考え方が異なります。
8. M&Aにおける割引現在価値の活用に関する相談先
M&Aで適切な買収価格を決めるには、割引現在価値などの数学的な概念も必要となります。独力で見積もるのは難しいため、M&A仲介会社などの専門家のサポートを受けるのがおすすめです。
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9. 割引現在価値のまとめ
将来の利益拡大を目指して会社を買収するM&Aでは、将来の利益から企業価値を求める割引現在価値は重要な概念になります。
数学的な詳細までを知る必要はありませんが、基本的な事項を把握しておくと専門家が行う企業価値評価を適切に判断できるようになります。
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