負債比率とは?適正水準や計算式、M&Aにおける影響を解説

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

負債比率とは他人資本と自己資本の比率を示す指標であり、財務の健全性を判断するために広く利用されます。本記事では、負債比率や有利子負債比率の意味や計算式、適正な比率の水準やM&Aにおける影響などを解説します。

目次

  1. 負債比率とは
  2. 負債比率の求め方、適正となる目安
  3. M&A時に負債比率が与える買取価格への影響
  4. 負債比率以外に確認すべき指標
  5. M&Aにおける負債比率の相談先
  6. 負債比率のまとめ
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1. 負債比率とは

負債比率とは、自己資本に対して他人資本が何パーセントあるかを示す数値のことです。負債比率が高いと、返済しなければならない負債が多く財務状態は厳しいと判断されます。

負債比率を理解するには、自己資本や他人資本といった用語の理解が必要です。ここからは、これらの用語の意味や違いなどを詳しく解説します。

自己資本

自己資本とは、会社が持っている資本のうち返済しなくてよい部分のことです。具体的には、株式を発行することで株主から出資してもらった資本金または利益剰余金などが該当します。

ここでいう利益剰余金とは、営業活動によって得た利益のうち、株主などに還元せず会社自身でためている資金のことです。

貸借対照表では、自己資本は純資産の部に記載されます。厳密には自己資本と純資産は同じではありませんが、同じと考えてもほとんどの場合は支障がありません。

自己資本と純資産の違いとしては、新株予約権などが挙げられます。新株予約権は現在の株主の持分ではないため自己資本には含まれませんが、純資産には含まれます。

他人資本

他人資本とは、資本のうち返済の必要があるものです。最も典型的な他人資本は金融機関からの融資であり、そのほかには買掛金や支払手形、ボーナスや退職金の引当金なども含まれます。貸借対照表では他人資本は負債の部に記載され、単に「負債」と呼ばれることも多いでしょう。

他人資本は、利息を付けて返済する必要がある「有利子負債」と利息がない「無利子負債」に分類可能です。代表的な有利子負債は金融機関からの借入金や社債、無利子負債の例としては支払手形や買掛金などがあります。

財務の健全性を判断する意味合いでは、無利子負債よりも有利子負債のほうが重要であるため、負債比率とは別に有利子負債比率と呼ばれる指標もあります。有利子負債の詳細は次章で解説します。

他人資本のもう1つの分類の仕方として、「固定負債」と「流動負債」といった分け方もあります。固定負債は支払い義務が生じるのが1年後以降のもので、流動負債は1年以内に支払い義務が生じる負債です。

自己資本と他人資本の違い

自己資本と他人資本の大きな違いは、返済の必要有無です、自己資本は返済の必要はありませんが、他人資本は期日がくれば返済しなければなりません。

自己資本が多いからといって、財務に何らかの問題が発生することはそれほどありませんが、他人資本が多すぎると返済が滞る可能性が高くなるので問題に発展します。

自己資本は会社の規模に応じて適切に設定すればよいのに対して、他人資本は常に気を配って多くなり過ぎないようコントロールすることが大切です。

会社における資本の定義

日常会話で、資本は「物事を行うための元手」の意味合いで幅広く使われている言葉です。お金や物品だけでなく「体が資本」のように身体能力や労働力をさすこともあります。

会社における資本の定義は、経済学・会計学・法律など分野によって異なる部分があります。会社の資本を考える際は、どの分野で議論しているのかを明確にすることが大切です。

会社の負債比率を考察する際は、会計学の視点で捉えます。学術的に厳密な定義は難しいですが、一般的に会計で資産というと自己資本や純資産と同じ意味合いで使われることが多いでしょう。

2. 負債比率の求め方、適正となる目安

会計の専門的な計算式は非常に複雑なものもあり、会計士でない一般の経営者が詳細を知らなくても支障がない場合も多いです。しかし、負債比率の計算式は非常に単純で理解しやすいので、専門家でなくても知っておいて損はありません。

この章では、負債比率の具体的な計算式や、負債比率がいくらくらいなら適正とみなされるのかの目安を解説します。

負債比率の計算式

負債比率は自己資本に対する他人資本の割合を示す数値です。計算式は「他人資本÷自己資本×100」となり、単位をパーセントにするために100を掛けます。

この計算式自体は非常に単純で、負債比率の意味をそのまま表しているのでイメージしやすいです。

負債比率と似た用語に「レバレッジ比率」「ギアリング比率」がありますが、これらも定義は負債比率と同様で計算式も同じです。

計算例としては、例えば他人資本が1億円で自己資本が2億円ならば、「1億円÷2億円×100=50%」と算出されます。他人資本が3億円で自己資本が1億円なら、「3億円÷1億円×100=300%」といった計算式です。

理想の負債比率

負債比率は自己資本と他人資本の割合なので、100%を下回れば自己資本で他人資本を全額返済できることになり、財務状況は健全であるといえます。しかし、実際は負債比率が100%を下回る会社はそれほどなく、事業拡大のために借り入れをした結果、負債比率が100%以上になる会社のほうが多いでしょう。こういった現実の経営状況で、理想の負債比率はいくらくらいなのかが重要です。

一般的に、負債比率が300%以下ならば標準的で健全な財務状態にあるとみなされます。300%は他人資本が自己資本の3倍あることを意味し、例えば他人資本が3億円で自己資本が1億円といった状態です。

負債比率が300%を超えると、財務状態の改善が求められます。負債比率600%までは倒産の危険性は少ないとみなされ、改善が推奨されるレベルとなります。

負債比率が600%を超えると危険なレベルとなり、早急な改善が必要です。900%を超えると返済が困難なレベルとなり、倒産の可能性が出てきます。

【負債比率の目安】

負債比率 財務状況
300%以下 標準的、健全
300~600% 改善を目指すことが推奨される
600~900% 早急な改善が求められる
900%以上 倒産の可能性あり

負債比率が高い場合と低い場合ではどちらが適正か

負債比率は返済しなければならない負債の割合なので、財務の健全性の面から見ると低いほどよいです。

しかし、会社は他人資本で積極的に投資しないと事業拡大できないので、経営の観点から見れば負債比率がある程度高いのはむしろ理想的といえる場合もあります

負債比率が高い場合と低い場合でどちらが適正かは難しい問題ですが、いかなる場合にしても負債比率が高すぎるのは倒産の危険性が高まるので、適正ではないといえます。

会社の状況によって適正な負債比率は違う

負債比率が高い場合と低い場合でどちらが適正かは、業種や会社の状況などによって変動します。

例えば、設立間もない会社や新規事業に進出している会社ならば、設備投資を積極的に行うために負債比率を高めることが必要であり、負債比率が低すぎるのはかえって適正ではありません。

一方、安定期や衰退期に入っている会社は、負債比率ができるだけ低いほうが適正であることが多いです。

業種によっても適正な負債比率は変わってくる

業種によっても、適正な負債比率は変動します。中小企業実態基本調査によると、負債比率が特に高い業種は宿泊・飲食業で、約500%とされています。

負債比率150%から200%程度のやや高い水準にある業種は、小売業・卸売業・娯楽業などです。負債比率100%以下と比較的低い業種には、情報通信業や専門・技術サービス業などがあります。

これらの業種別負債比率を見ると、店舗や不動産などの高額な設備投資が必要な業種は負債比率が高くなる傾向にあります。

3. M&A時に負債比率が与える買取価格への影響

M&Aでは、売り手企業の負債比率が売却価格に影響を及ぼします。買い手は負債比率の高い会社を買収するのはリスクが高いために売却価格を下げようとするでしょう。逆に、負債比率の低い会社は高く買い取ってもらえる可能性が高まります。

M&Aの買い手は、特に利息の返済が必要な有利子負債比率を気にします。有利子負債比率は負債比率とは若干異なる標なので、計算式やその意味を理解しておくことが重要です。

有利子負債比率

有利子負債比率とは、自己資本に対して有利子負債がどれくらいあるかを示す指標のことです。負債比率は無利子負債も含めて計算しますが、有利子負債比率では無利子負債を除いて計算します。

有利子負債は利息を付けて返済しなければならないので、会社の財務状態に大きな影響を及ぼします。M&Aの売却価格の交渉では、売り手の有利子負債比率が重要な要素です。

自己資本比率と有利子負債比率の違い

有利子負債比率と似た用語に「自己資本比率」がありますが、両者は全く違う指標なので違いを理解することが大切です。自己資本比率とは、総資本(自己資本+他人資本)における自己資本の割合のことで、計算式は以下のようになります。

自己資本比率は自己資本が大きいほど数値が高くなるので、比率が大きいほど財務が健全です。負債比率や有利子負債比率は数値が低いほど健全なので、見方の違いに注意しましょう。

【自己資本比率の計算式】

  • 自己資本比率(%)=自己資本÷総資本×100

有利子負債比率の求め方

有利子負債比率の計算式は、有利子負債を自己資本で割って100で掛けたものです。負債比率では買掛金などの無利子負債も含めていましたが、有利子負債比率ではこれらの負債は除いて計算します。

計算例としては、有利子負債が1億円で自己資本が2億円ならば、「1億円÷2億円×100=50%」といった具合です。

【有利子負債比率の計算式】

  • 有利子負債比率(%)=有利子負債÷自己資本×100

有利子負債比率を求める際の注意点

有利子負債比率を求めるには有利子負債の額を正確に把握する必要がありますが、中小企業では負債の内訳が明確でない場合も多いので、計算時は注意しなければなりません。

例えば、経営者自身や親族などが個人的に会社にお金を貸しているのは多く見られるケースです。こういったお金は仮に有利子負債に計上されていたとしても、実態は返済することはないと考えられています。

中小企業の有利子負債比率を求める際は、実体のない有利子負債はきちんと除いて計算しないと、正しい数値が求まらない可能性があります。

適正となる有利子負債比率の目安

適正となる有利子負債比率は、100%以内が目安です。無利子負債も含めた負債比率では300%以内が適正とされていますが、有利子負債比率では目安が変動します。

有利子負債比率が100%を超えていることは、利息のある返済を自己資本だけでまかなえない状態を意味します。M&Aや融資の場面では、有利子負債比率が100%超の状態はマイナス材料です。

有利子負債比率が100%を超えている会社は、何らかの経営の問題を抱えていることが多いです。例えば、運転資金が融資頼みで自転車操業になっていたり、事業拡大のために投入した有利子負債が利益に結び付いていなかったりする問題が考えられます。

有利子負債比率が100%を超える会社をM&Aで売却するならば、本格的なM&Aの交渉に入る前に会社の財務状態を改善する「磨き上げ」を行わなければなりません。

磨き上げで有利子負債比率を下げてからM&Aの交渉に入ると、買い手も見つかりやすくなり売却価格も高くなる可能性があります。

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4. 負債比率以外に確認すべき指標

ここでは、企業経営上、負債比率以外に確認すべき代表的な指標として2つをピックアップし、順番に解説します。

債務償還年数

現在の利益水準で借入金を完済するためにはあと何年間必要であるかを示す指標です。求めるための計算式は、以下のとおりです。

  • 借入金÷(当期純利益+減価償却費)

上記の式を見るとわかるとおり、借入金が多いほど債務償還年数は長くなる関係性があります。債務償還年数は、短ければ短いほど企業の返済能力は高いです。

有利子負債依存度

純資産に対する利子のある借入金の割合を見る指標です。有利子負債は金利の負担を伴う負債のことで、具体的には銀行からの借入や社債などです。有利子負債依存度は、低いほど財務の安全性が高いと考えられています。計算式は以下のとおりです。

  • 有利子負債残高 ÷ 総資産

5. M&Aにおける負債比率の相談先

M&Aでは、買い手は売り手の負債比率などを参考にして財務状況を検討します。負債比率の計算式は簡単ですが、どこまでを有利子負債とするかなどの判断には専門的な知識と経験が必要不可欠です。

特に中小企業は財務の把握がきちんとしていないことも多くあるので、専門家のサポートのもとで慎重にM&Aを進めていく必要があります。

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6. 負債比率のまとめ

本記事では、負債比率を幅広く解説しました。負債比率は他人資本の割合を簡単な式で把握できる指標で、M&Aの交渉でも重要な要素となります。負債比率や有利子負債比率の式とその意味、そして適正な比率の範囲を把握しておくことが大切です。

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