2023年05月30日更新
配当還元方式とは?要件や非上場株式の計算方法から活用方法まで紹介!
本記事では、配当還元方式の種類や特徴・利用シーンなどを解説します。配当還元方式とは、株式の配当金を用いて株価を算出する方法です。非上場の会社の株式の相続・贈与時の評価に使われることが多いです。企業価値評価について知りたい方は必見です。
目次
1. 配当還元方式とは
配当還元方式とは、非上場企業の株価を評価する方法です。同族会社や同族株主がいる会社の少数株主が、保有する株価を評価する際などに主に用います。
少数株主が、非上場株式を相続や贈与により取得したときの評価方式で、株式の所有によって受け取る1年間の配当金額を一定利率(10%)で還元し、元本の株式価額を評価します。
保有する議決権が少なく、会社の経営にも携わっていない少数株主は、会社の経営に強い影響を与えられません。このような少数株主は、多くの場合で配当金を目的に株式を保有しているため、株価を評価する際は配当金を基準に算定する配当還元方式を利用します。
配当還元方式は他の株式評価法よりも低く評価される傾向にあるため、相続税や贈与税が安いでしょう。
2. 配当還元方式の要件
ここでは、配当還元方式の要件として、同族株主の定義、中心的な同族株主の定義、中心的な株主の定義を解説します。
同族株主の定義
課税時期や相続開始時における評価会社株主の中で、株主の1人やその同族関係者が持つ議決権の合計数が、評価会社における議決権総数の30%以上であるケースの株主や同族関係者が、同族株主です(議決権合計数が最多のグループが持つ議決権の合計数が50%超であれば、50%超です)。
ここでいう「同族関係者」とは、同族関係にある個人または法人のことです。このうち同族関係にある個人とは、以下のいずれかに該当する人をさします。
- 株主の親族
- 株主と内縁関係にある人
- 株主の使用人
- 株主から受ける金銭やその他の資産によって生計を維持している人
- 2~4の人と生計を一にする親族
同族株主に該当するか否かを判定する際の基準に、「納税義務者かどうか」といった事項は含まれません。
中心的な同族株主の定義
中心的な同族株主とは、課税時期に同族株主の1人そして株主の配偶者・直系血族・兄弟姉妹・1親等の姻族が持つ議決権の合計数が、会社における議決権総数の25%以上であるケースの株主をさします。
直系血族とは親・祖父母・子・孫などで、祖父母より上の世代・孫より下の世代も含みます。
中心的な株主の定義
課税時期に株主の1人やその同族関係者が持つ議決権合計数が、会社の議決権総数の15%以上である株主グループの中で、どれかのグループに単独で議決権総数における10%以上の議決権を持つ株主がいるケースの株主が、中心的な株主です。
3. 配当還元方式による非上場株式の計算方法
配当還元方式で非上場企業の株式を計算する方法はいくつかありますが、相続や贈与の際に多く利用される国税庁の配当還元方式は以下に紹介する計算方法です。
簡単にいうと、直前期以前の2年間における年平均の1株当たりの配当金額を10倍した金額が評価額です。
ただし、1株当たりの資本金などの金額を50円とする際の直前期以前における2年間の年平均配当金額(年配当金額)が2.5円未満、あるいは配当なしの場合は、年配当金額を2.5円とします。
そして、その金額を10倍した金額に1株当たりの資本金などの金額÷50円を乗じた金額が1株当たりの価額です。
【国税庁配当還元方式の計算方法】
- 評価額=(1株当たりの年間配当額/10%)×(1株当たりの資本金などの金額/50円)
将来の成長を考慮したゴードンモデル法を用いた場合は、以下の計算式で算出します。
【ゴードンモデル法の計算方法】
- 評価額=将来予測される年間配当額/(資本還元率-投資利益率×内部留保率)
投資利益率と内部留保率を用いることで、内部留保を再投資することで得られると予想される利益を反映させます。
配当還元方式による株式価値評価にはさまざまな計算方法が用いられます。しかし、計算式が難しいため、より正確な評価額を求めるためには専門的な知識が必要です。
M&A総合研究所では、M&Aの豊富な実績を持つM&Aアドバイザーが、M&Aのご相談や交渉・手続き、配当還元方式による算出などを丁寧にサポートします。
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4. 配当還元方式と他の企業評価方法との違い
非上場企業の株式価値を評価する際は、配当還元方式以外に類似業種比準法や純資産価額法などが代表的な方法として用いられます。
相続税や贈与税対策としては配当還元方式が好まれますが、配当還元方式はすべての株主が利用できるわけではありません。株主の状況や会社の規模などにより適切な企業評価方法を用いることが大切です。
以下、原則的評価方式・純資産価額方式・類似業種比準方式・特例的評価方式の概要を順番に解説します。
①原則的評価方式
原則的評価方式は、純資産価額方式と類似業種比準方式をさします。一般的にこれら2つの方法で評価します。
②純資産価額方式
純資産価額方式では、会社の純資産価額を発行する株式の数で割ります。会社が解散したと仮定して株主に分配される財産の価値を評価する方法です。
③類似業種比準方式
類似業種比準方式では、評価を受ける会社と似た業種の会社における平均株価・年利益金額・1株当たりの配当金・純資産価額を比較して計算します。
実際の取引価額を参考にしているため説得力があり、M&Aなどに利用されます。
④特例的評価方式
配当還元方式が、特例的評価方式に該当します。配当還元方式は、株主に還元される配当金のみが評価対象です。株式の発行数に左右されない一律の計算方法があります。
M&Aの企業価値評価(バリュエーション)については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
5. 配当還元方式を採用すべき2つのケース
配当還元方式を採用すべき場合は、下記のケースです。
- 半数超の株式を持つ同族の関係者グループが存在する
- 30~50%の株式を持つ同族の関係者グループが存在する
上記のケースでは会社経営に大きな影響を与える株主の存在が想定できるため、それ以外の配当金のみが目的である株主へ配当還元方式を適用できます。
このようなグループ・人がいなくても、15%以上の株式を持つ人がいるケースに多大な影響を与える人物の存在を想定でき、それ以外の株主へ無条件で配当還元方式が用いられます。
6. 配当還元方式の事業承継・相続での活用方法
ここでは、配当還元方式の事業承継・相続での活用方法を解説します。
従業員持ち株会を組織する利点
従業員持ち株会は、会社の従業員により組織されます。従業員は従業員持ち株会に属すと、自社株の一部を買い受けて所有できます。
株式を譲渡する株主は、従業員持ち株会に株式を持たせると財産が減るので、相続税を抑えることが可能です。従業員は、財産形成につながるほか、株式の譲渡で従業員が会社に属する意識を高める効果もあります。
従業員持ち株会の存在は、経営者にとって福利厚生のアピールポイントにもなります。「従業員持ち株会に属して株式を所有していた従業員が離職する際は株式をすべて売り渡す」旨の条項を定めれば、自社株の社外流出も防ぐことが可能です。
従業員持ち株会を組織する問題点
従業員持ち株会を組織することには、問題点もあります。譲渡する株式数が増えすぎると、経営者側の実権がおびやかされるおそれがあります。退会する人が一時期に集中すれば、株式の買い戻しに多額の資金も必要です。譲渡株式の数をしっかりと考慮することが重要だといえます。
従業員持ち株会を組織する前から株式を所有していた従業員が加入しないケースでは、従業員の所有する株式を管理しにくくなります。
役員持ち株会を組織する選択肢
血縁者以外の役員を後継者と定め、役員持ち株会を組織して株式を渡す方法を用いて配当還元方式を利用できます。
会社の経営権を、血縁者以外に譲るケースもあります。役員となる従業員が経営者の血縁者ではなく大株主でもないケースでは、役員持ち株会を作り配当還元方式を利用した株式譲渡が可能です。この場合の利点と問題点は、従業員持ち株会とほとんど同じといえます。
税金を逃れるために役員持ち株会を組織したと言及されないよう、適正に運営することも大切です。
7. 配当還元方式を採用する際の3つの注意点
配当還元方式は直前期末以前2年間の配当金額を計算する際に、下記に挙げる注意点を理解し採用しましょう。以下の3点が大切なポイントです。
- 配当金額の中で、非経常的な特別配当・記念配当などは除去する
- 評価会社が中間配当を行う際は、中間配当額と期末配当額の合計が1年間の配当金額
- 評価会社の事業年度が6カ月の際、直前期末以前4事業年度における配当金額の合計額が、直前期末以前の2年間の配当金額
8. 配当還元方式のまとめ
本記事では、配当還元方式の種類や特徴・利用シーン・配当還元方式を用いた企業価値評価の計算方法などを解説しました。
配当還元方式は、同族会社や同族株主がいる会社の少数株主が保有する株価を評価する際などに用います。しかし、企業価値評価の方法にはさまざまな種類があります。株主の状況や会社の規模などにより適切な方法を選ぶことが大切です。
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