事業承継における融資・保証・補助金の制度を徹底解説【要件・利用方法】

会計提携第二部 部長
向井 崇

銀行系M&A仲介・アドバイザリー会社にて、上場企業から中小企業まで業種問わず20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、不動産業、建設・設備工事業、運送業を始め、幅広い業種のM&A・事業承継に対応。

事業承継の資金繰りをお悩みなら、国の融資や補助金の制度を利用しましょう。事業承継における融資・保証制度や事業承継補助金について、詳しく説明します。どのような条件で融資・補助金を受けられるか、個人保証を解除できるか、ぜひご参考ください。

目次

  1. 事業承継では個人保証を引き継がなければならない
  2. 事業承継で後継者が準備する必要のある資金
  3. 事業承継をサポートする融資制度
  4. 事業承継をサポートする保証制度
  5. 返済なしの事業承継・引継ぎ補助金とは
  6. 事業承継・引継ぎ補助金を受け取る方法
  7. 事業承継でお悩みなら専門家に相談を!
  8. 事業承継における融資・保証・補助金の制度まとめ
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1. 事業承継では個人保証を引き継がなければならない

会社を引き継ぐ際に、一般的には経営者個人の債務や保証も引き継ぐ必要があります。中小企業が銀行から資金を借りる場合、経営者が連帯保証人になることが一般的です。理由は、以下の3つです。

  1. 会社の経営が経営者の意思であることを反映させているから
  2. 会社の借入金を経営者に持ち逃げさせないため
  3. 返済が滞った際の担保にするため

経営者は会社のお金を自由に使用できますが、ときに会社名義の借入金を個人の用途に使ってしまう場合があります。最悪、会社名義で借りたお金を経営者が持ち逃げしてしまうこともあります。会社の利益がなくて返済が滞った際も、個人資産がある場合は返済してもらえるよう、担保としての意味で経営者を連帯保証人にする仕組みです。

このような理由から、会社への融資=経営者個人への融資と考えられており、経営者は個人保証を負います。事業承継をする際、後継者が経営者となるには前経営者の個人保証を引き継がなければなりません。

個人保証を引き継がなくて良いケース

個人保証の引き継ぎは、後継者にとって大きな負担です。しかし、一定の条件を満たせば、金融機関が保証契約の解除に応じてくれる可能性があります

個人保証の解除に関しては、2013(平成25)年に公表された「経営者保証に関するガイドライン」に記載されています。経営者保証に関するガイドラインとは、経営者の保証を解消し、思い切った事業展開や早期事業再生などを応援するために政府が金融機関に示した指針のことです。

経営者保証に関するガイドラインでは、経営者の個人保証について次のような場合、個人保証を解除できる可能性があるとしています。

  • 法人と個人の業務、経理、資産所有などが明確に分離されている場合
  • 適切な範囲を超える借入でない場合
  • 適時適切な情報開示を行えた場合

実際に、事業資産がすべて法人所有であったり、財務資料の提出をスムーズに行ったりした場合、経営者の個人保証を解除してもらい、さらに新しい経営者から個人保証を求められなかった事例もあります。中小企業の資金調達を円滑にするため、金融庁は金融機関に対し経営者保証に関するガイドラインの積極的な活用をすすめています。

しかし、経営者保証に関するガイドラインに法的拘束力はないため、金融機関の裁量に任せられているのが現状です。経営者保証に関するガイドラインに沿って個人保証を解除できるかは、借り入れをしている金融機関や専門家にご相談ください。

事業承継の専門家であるM&A総合研究所でも、無料相談を受け付けています。ぜひお気軽にご相談ください。

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2. 事業承継で後継者が準備する必要のある資金

事業承継をする際、ある程度の資金が必要です。資金を個人で用意できない場合は、金融機関から借りる必要があります。事業承継に想定される必要な資金は、次の通りです。

  1. 他の相続人や役員へ分散した自社株式・事業資産を買い取るための資金
  2. 相続税や贈与税を納税するための資金
  3. 事業承継前後で会社を整備するための資金

このように、事業承継には多額の費用がかかります。事業の規模にもよりますが、1,000万円以上の資金が必要になることもあるでしょう。

資金調達は、後継者だけでなく現在の経営者と協力して行います。いくら優秀な経営者だとしても、すぐに多額の資金を集めてくるのは難しいでしょう。

そこで、国が用意している制度を使って集めてくることも検討しましょう。

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3. 事業承継をサポートする融資制度

本章では、事業承継を支援する代表的な融資制度を利用するために知っておくべき概要を取り上げます。

事業承継ローンとは

自社株式の取得資金や運転資金など、事業承継に必要な資金の融資が受けられるものです。日本政策金融公庫をはじめ、多くの金融機関で提供されています。さまざまな金融機関で用意されていますが、その名称は各機関によって異なります。

事業承継ローンの種類

大まかに、「政府系」と「一般金融機関系」の2種類に分かれます。

政府系では、日本政策金融公庫が提供している「事業承継・集約・活性化支援資金」が最も有名です。これは、地域経済の産業活動の維持・発展のために、事業の譲渡・株式の譲渡・合併などにより経済的または社会的に有用な事業や企業を承継・集約化する中小企業者の資金調達の円滑化を支援する融資です。

これに対して、一般金融機関系、銀行や信用金庫などの一般金融機関でも用意されている制度です。他の融資と比べると審査に通過しやすく、以下のような特徴が見られます。

  • 担保や保証人なし
  • 不動産購入なら20年以内の融資期間
  • 5年・10年の据え置き期間あり

事業承継ローンを利用するメリット

主に以下のようなメリットが期待できます。

  • 事業承継にかかる費用を自費でまとめて払う必要がなくなる
  • 事業承継を契機に新たな挑戦をする資金を確保できる

例えば、「事業承継したいものの後継者にまとまった費用がなく廃業の道を強いられている」「新たな設備投資を検討している」といったケースの場合、事業承継ローンは有効な解決策となり得ます。

事業承継ローンを利用する流れ

利用する際の流れは、大まかに以下の通りです。

  1. 専門家への相談
  2. 事業承継計画書の策定
  3. 支店窓口への相談
  4. 必要書類の準備
  5. ローンの申し込み
  6. 審査
  7. 貸付契約の打ち合わせ
  8. 返済の開始

まずは、どのような事業承継ローンを組むのか、専門家に相談します。このとき、税理士に相談すれば、事業承継でどれほどの税金がかかるのか概算してもらえるためおすすめです。

4. 事業承継をサポートする保証制度

続いて、事業承継を支援する保証制度の中から、代表的な制度をピックアップし、解説します。

事業承継特別保証

経営者の個人保証や担保の差し入れにかかる負担は重く、事業承継における後継者候補が引き継ぎをためらう要素として大きいです。このネックを取り除くための施策が、事業承継特別保証の制度です。

この制度を活用すると、保証に関する不安材料が解消されるため、後継者はためらうことなく事業を引き継ぐことが可能です。ただし、利用するには、以下の要件をすべて満たさなければなりません。

  • 資産超過の状態
  • EBITDA有利子負債倍率が10倍以内
  • 法人と経営者個人が分離している
  • 返済緩和している借入金に該当しない

本制度を実際に利用するための手順は以下の通りです。
  1. 信用保証協会へ問い合わせ
  2. 書類を作成(事業承継計画書など)

なお、経営者保証を解除したいと考えているすべての企業が制度を利用できるわけではない点にご注意ください。

5. 返済なしの事業承継・引継ぎ補助金とは

ここまで事業承継における融資について解説しました。事業承継の資金繰りをサポートする制度には、融資制度以外に補助金制度も設けられています。中小企業が事業承継の際に受け取れる補助金は、「事業承継・引継ぎ補助金」といいます。

事業承継補助金は1年に1度の募集があり、最大支給額は500万円です(令和4年度当初予算)。融資とは異なり、返済しなくても良いことがメリットです。ただし、誰もが補助金を受け取れるわけではありません。応募しても落選することがあります。それでも採択率は年々上昇しており、補助金を受け取りやすくなっている現状です。

しかし、事業承継補助金はそもそも5カ年計画として始まったもので、数年後で打ち切られる可能性もあるため、事業承継を考えているなら、事前に中小企業庁のサイトをチェックしておくと安心です。

6. 事業承継・引継ぎ補助金を受け取る方法

事業承継補助金を受け取るために、制度の仕組みを確認しましょう。

  1. 事業承継・引継ぎ補助金における3つのタイプ
  2. 認定支援機関の確認書が必要
  3. 支給される補助金額の決まり方
  4. 補助金を受け取るまでの流れ

ぜひご参考してください。

①事業承継・引継ぎ補助金の3タイプ

事業承継・引継ぎ補助金には、次の3種類があります。

  • 経営革新
  • 専門家活用
  • 廃業・再チャレンジ

それぞれを詳しく述べます。

まず、経営革新の支援対象は、事業承継や経営資源を引き継いだ創業を含むM&Aをきっかけにして、経営革新などにチャレンジする中小企業や小規模事業者です。

続いて、専門家活用は、M&Aによって経営資源を誰からか引き継いだ、もしくは引き継ぐ予定がある、中小企業や小規模事業者が対象とされています。

最後に、廃業・再チャレンジは、廃業・再チャレンジを行う中小企業者などを支援する事業です。経営革新事業/専門家活用事業とあわせて申請を行う「併用申請」と、廃業・再チャレンジ事業単独で申請を行う「再チャレンジ申請」に分かれており、それぞれ要件が異なります。

②認定支援機関の確認書が必要

事業承継・引継ぎ補助金の申請は、税理士などの専門家へ依頼しましょう。なぜなら、補助金の申請書に経済産業省から認定を受けた税理士などによって作成された確認書を添付する必要があるためです。

経済産業省から認定を受けた機関を「認定支援機関」といいます。認定支援機関は、中小企業庁が地域別で一覧を公表しているので、事前にご確認ください。

③支給される補助金額の決まり方

支給される補助金の金額および補助率がどちらになるかは、応募する制度の種類により異なります。

タイプ 補助対象経費 補助率 補助金額の範囲
経営革新事業

設備投資費用、人件費、店舗・事務所の改築工事費用など

2分の1 500万円以内
専門家活用事業 M&A支援業者に支払う手数料、デューデリジェンスにかかる専門家費用、セカンドオピニオン など 2分の1 400万円以内
廃業・再チャレンジ事業 廃業支援費、在庫廃棄費、解体費など 2分の1 150万円以内

例えば、補助率が2分の1の場合、100万円の費用が必要なら50万円が補助金として支給されます。補助金制度のどの部分に当てはまるか、しっかり要件を確認して、受け取れる補助金額を計算しておきましょう。

④補助金を受け取るまでの流れ

ここでは、事業承継・引継ぎ補助金(経営革新とは)を受け取るまでの流れについて、7つに分けて説明します。

  • 事業承継・引継ぎ補助金を理解する
  • 新しい取り組みについて考える
  • 認定支援機関による確認書を取得する
  • 申請のために書類などを準備する
  • 交付申請をする
  • 新しい取り組みを実施する
  • 補助金を受け取る

事業承継・引継ぎ補助金を理解する

まず、事業承継・引継ぎ補助金の募集要項をしっかりと読み、内容を事前に理解しておきましょう。もし、申請内容が条件に合わなければ、補助金を受け取れないからです。申請できる内容、申請書の書き方、申請する場所、申請に必要な書類、受け取れる補助金の計算など、前もって確認しておきましょう。

新しい取り組みについて考える

事業承継・引継ぎ補助金(経営革新事業)を受け取るには、新規の取り組みを進める必要があります。どのようなことを新規で始めるか、じっくりと考えましょう。

新しい取り組みの一例として、新しい商品の開発や新しい店舗の出店、新規の設備導入など幅広く含まれます。ただし、現在ある資金でできることでなければ補助金は受け取れません。なぜなら、補助金は新しい取り組みを行った後に交付される仕組みであるためです。資金が尽きてしまっては継続が困難になります。

総じて事業の活性化につながるような取り組みを考えましょう。

認定支援機関による確認書を取得する

新規の取り組みの内容が決まったら、認定支援機関で確認書を取得しましょう。確認書がなければ、事業承継補助金の申請ができないので忘れずに行いましょう。事業承継・引継ぎ補助金募集サイトから認定支援機関の確認書をダウンロードし、近くの認定支援機関に依頼すると確認書を作ってもらえます。

申請のために書類などを準備する

事業承継・引継ぎ補助金の申請に備え、準備を進めましょう。申請書以外にも、以下のような書類が必要です。

  • 補足説明資料
  • 住民票
  • 認定支援機関の確認書
  • 申請資格を有していることを証明する後継者の書類

そのほかにも、法人ならば履歴事項全部証明書や直近の確定申告書、個人事業主ならば所得税青色申告決算書の写しと確定申告書など、申請者によって必要なものが異なります。事前にしっかり確認をして、漏れのないようにそろえましょう。

交付申請をする

書類がそろったら交付申請をします。申請は原則電子申請です。事業承継補助金の募集サイトにて申請マイページを開設したら、必要事項を入力します。書類はデータにして添付しましょう。最後に申請内容を確認し、交付申請はこれで完了です。審査が行われた後、申請マイページを通じて採否結果の通知が届きます。

新しい取り組みを実施する

事業承継補助金の交付が決定したら、いよいよ新規取り組みの実施に移ります。補助金交付決定後に新規取り組みの期間や内容を変更したい場合は、申請マイページから承認を得る必要があります。新規取り組みの進行状況の報告も適宜必要です。

補助金を受け取る

新規の取り組みが完了した後、報告を終えたら事業承継・引継ぎ補助金を受け取れます。補助金を受け取った後も、5年間は収益状況を報告する義務があります。

新規の取り組みにおいて一定以上の収益があったと認められた場合、補助金で受け取った額を上限として収益の一部を納付する必要があるので気をつけておきましょう。

【関連】事業承継を行うタイミングとは?時期を検討する際のポイントも解説| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

7. 事業承継でお悩みなら専門家に相談を!

事業承継の手順や融資に不安を感じる人も多いでしょう。事業承継に不安があるなら、専門家に相談しましょう。事業承継の相談に乗ってくれる専門家には、主に次の3つがあります。

  • 銀行・商工会議所
  • 弁護士・税理士・会計士事務所
  • M&A仲介会社

専門家の中でも、M&A仲介会社であれば事業承継のさまざまな案件を取り扱っており、ワンストップ支援を行っている機関がほとんどです。M&A仲介会社の中でも、以下のポイントを踏まえて相談先を選ぶと良いでしょう。

  1. 相談料は無料である
  2. 専門家が在籍している

①相談料は無料である

相談料は無料のM&A仲介会社が多いですが、無料でない場合は5,000~10,000円程度かかります。料金がかかるからといって、特別なことはありません。反対に無料であるから、手抜きで話を聞くわけでもないため、相談料はなるべく無料のM&A仲介会社を選びましょう

②専門家が在籍している

社内にアドバイザーが在籍しているかどうかは、相談料よりも重要です。なぜなら、アドバイザーが社内にいることで税務や法律など専門的な分野で話を聞けるためです。

もしも社内にアドバイザーがいなければ、専門的な疑問に対して即座に回答を得られない可能性があります。社内にアドバイザーが在籍しているM&A仲介会社を選びましょう

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8. 事業承継における融資・保証・補助金の制度まとめ

事業承継の資金繰りにお困りなら、政府が行っている融資制度や補助金制度の利用を検討してみましょう。条件を満たせば、個人保証を解除できたり、補助金を受け取れたりします。

政府が行っている制度のため、安心して利用可能です。とはいえ、融資や補助金、事業承継全体に関して不安があるなら、M&A仲介会社など専門家に相談することをおすすめします。

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