事業承継の費用相場を方法別に解説|税金や専門家への依頼料、補助金も紹介

会計提携第二部 部長
向井 崇

銀行系M&A仲介・アドバイザリー会社にて、上場企業から中小企業まで業種問わず20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、不動産業、建設・設備工事業、運送業を始め、幅広い業種のM&A・事業承継に対応。

経営者の高齢化に伴い、事業承継は多くの企業にとって重要な課題です。しかし、どれくらいの費用がかかるのか不安な方も多いでしょう。本記事では事業承継の費用相場を方法別に解説し、税金や専門家への依頼料、費用を抑えるポイントまで網羅的に紹介します。

目次

  1. 事業承継の方法別に見る費用相場
  2. 事業承継の費用を抑えるための3つのポイント
  3. 事業承継で発生する税金の種類と注意点
  4. 事業承継を専門家に依頼した際の費用
  5. 事業承継の費用を抑えられる補助金・制度
  6. 事業承継の費用に関する相談先
  7. 事業承継の費用まとめ
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1. 事業承継の方法別に見る費用相場

事業承継の方法は、誰を後継者とするかによって以下の3種類に分類されます。ここでは、事業承継を行ったときにかかる費用や料金をケースごとに見ていきましょう。

  1. 親族内事業承継の費用
  2. 親族外事業承継の費用
  3. M&Aによる事業承継の費用

①親族内事業承継の費用負担と相場

親族内事業承継とは、子どもや親戚など経営者の身内に事業を引き継ぐ方法です。後継者候補が明確で、関係者の合意形成がスムーズに進めば、費用を最も抑えられる可能性があります。

主な費用は、株式や資産の評価、税務申告などを依頼する税理士や公認会計士への報酬です。報酬相場は数十万円からとなりますが、事業規模や資産状況によって変動します。

また、親族間でのトラブルが発生した場合は、弁護士への相談費用が別途必要になるケースもあります。

【関連】親族内承継とは?手続き方法からメリット・デメリットまで徹底解説!

②役員・従業員承継(親族外)の費用相場

親族外事業承継とは、会社の役員や従業員に事業を引き継ぐ方法です。この場合、後継者は株式や事業用資産を経営者から買い取るのが一般的です。

後継者個人の資金力が十分でないケースが多いため、金融機関からの融資(MBOローンなど)や、買取価格の交渉が必要になります。

そのため、税理士や会計士に加え、ファイナンシャルアドバイザーやM&A仲介会社といった専門家のサポートが不可欠です。親族内承継に比べて専門家への依頼範囲が広がるため、費用は高くなる傾向にあります。

③M&A(第三者承継)の費用相場

M&Aによる事業承継とは、社外の第三者(企業や個人)に事業を引き継ぐ方法です。M&A仲介会社やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)といった専門家を介して進めるのが一般的で、相談料、着手金、中間金、成功報酬などの手数料が発生します。

近年は着手金などが無料の完全成功報酬制を採用する仲介会社も増えています。

成功報酬は、取引金額に応じて料率が変わる「レーマン方式」が主流です。例えば、取引金額5億円以下の部分には5%といった形で計算され、M&Aの規模によって報酬額が変動します。

2. 事業承継の費用を抑えるための3つのポイント

事業承継には多額の費用がかかる場合がありますが、事前の対策によって負担を軽減することが可能です。ここでは、費用を抑えるための3つのポイントを解説します。
 

①事業承継税制や補助金を最大限活用する

事業承継で最も大きな負担となりうるのが、相続税や贈与税です。国は中小企業の円滑な事業承継を支援するため「事業承継税制」を設けており、一定の要件を満たせば納税が猶予・免除されます。

また、国や地方自治体が提供する事業承継・引継ぎ補助金などを活用すれば、M&Aの専門家への依頼費用や設備投資費用の一部を補助してもらえます。これらの制度を最大限活用することが、費用を抑えるための鍵となります。
 

②複数の専門家に相談して費用を比較検討する

事業承継をサポートする専門家は、M&A仲介会社、税理士、弁護士など多岐にわたります。専門家によって料金体系や得意分野は異なるため、最初から一社に絞るのではなく、複数の専門家から見積もりを取り、サービス内容と費用を比較検討することが重要です。

特にM&A仲介会社の手数料は、着手金が無料の完全成功報酬制か、成功報酬の計算方法(レーマン方式の料率など)がどうなっているかなど、事前にしっかり確認しましょう。
 

③早期から計画的に準備を進める

事業承継は準備に5〜10年かかるといわれています。準備期間が短いと、後継者育成が不十分になったり、自社の株式評価額が高くなりすぎて税負担が増えたりと、結果的に費用がかさむ可能性があります。

早い段階から準備を始めることで、計画的な株価対策や節税対策を講じることができ、相続・贈与やM&Aのタイミングを最適化できます。結果として、トータルの費用を抑えることにつながります。
 

3. 事業承継で発生する税金の種類と注意点

事業承継を行う際は、M&A仲介会社などの専門家に支払う費用だけでなく、税金もかかります。この章では、事業承継の際にかかる税金を見ていきましょう。

事業承継にかかる税金は、以下の6つです。

  1. 相続税
  2. 贈与税
  3. 法人税
  4. 消費税
  5. 登録免許税
  6. 不動産取得税

①相続税

ある人が亡くなったとき、その人が持っていた資産は配偶者や子などの親族に相続されますが、対象となる資産には相続税が課せられます。親族が会社の後継者になるときは、相続人の後継者が相続税を納めなければなりません。

相続税には累進課税制度が採用され、相続される資産の額が大きいほど税率が高くなります。税率は1,000万円以下の10%から6億円超の55%までです。しかし、親族に相続する場合は控除制度があり相続税額を抑えられます。

例えば、配偶者が資産を相続する場合、「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額まで相続税がかからない配偶者控除が適用されます。また、生命保険金には「500万円×法定相続人の数」で計算される非課税枠があります。


ただし、相続税は現金で納めなければなりません。不動産など現金以外のものを多く相続する場合は納税も考える必要があります。

【関連】会社相続と事業承継の基本!経営者が親の死亡時にするべきことを解説!

相続税の速算表は、下記です。
 

法定相続分に応じた取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円
出典:国税庁 相続税の税率

相続時精算課税制度の改正点(2024年〜)

相続時精算課税制度は、最大2,500万円までの贈与が非課税になる制度です。2024年1月1日以降の贈与からは、この2,500万円の特別控除とは別に、年間110万円の基礎控除が新設されました。

これにより、年間110万円以下の贈与であれば贈与税の申告が不要となり、相続財産にも加算されません。使い勝手が向上したため、計画的な株式移転の選択肢として注目されています。なお、要件は「贈与する年の1月1日時点で贈与者が60歳以上」「贈与される者が18歳以上」などです。

事業承継税制による100%の納税猶予

事業承継促進のため、納税の猶予期間が設けられています。事業承継を行う場合、後継者は会社の資産を引き継がなければなりません。会社の経営権を握るためには株式の保有が必須ですが、引き継いだ資産に対しては相続税や贈与税が課税され、現金で納めます。

中小企業の場合は、納税に必要な現金が用意できないケースもあり、納税が原因で倒産する恐れもあるでしょう。そこで事業承継税制の制度が設けられ、要件を満たせば相続・贈与された自社の株式にかかる相続税や贈与税が猶予されることになりました。

この制度(特例措置)は、2027年12月31日までに行われる贈与・相続を対象とした時限措置です。適用を受けるには、2026年3月31日までに、贈与・相続の前に「特例承継計画」を都道府県庁へ提出する必要があります。提出期限が延長されたものの、後継者の決定や育成には時間がかかるため、早期の準備が重要です。

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②贈与税

贈与税とは、贈与人が被贈与人に資産を譲渡したときに課せられる税金のことをいいます。贈与税も累進課税制度で、贈与される額が高ければ課税される額は多くなるでしょう。

近年は日本人の寿命が延び、現役世代の所得が減少しているため、贈与税を控除できるケースが増えています。例えば、子や孫の教育や住宅購入目的による贈与は、通常の控除よりも高額な控除が可能です。60歳以上の人が20歳以上の子や孫に贈与すると、2,500万円を上限に控除される相続時精算課税もあります。

事業承継では親族内の後継者に対して贈与税が猶予されていましたが、平成30年の税制改正で後継者の範囲が広がり、親族外の後継者も贈与税が猶予されるようになりました。

事業承継税制による贈与者・受贈者の対象拡充

贈与税にも相続税と同じく、事業承継税制の利点があります。以前は株式などの財産を贈与する経営者と受け取る後継者は、各1名の限定でした。しかし、事業承継税制の改正で、複数人の承継が可能となったのです。

例を挙げると、父と母から1人の子どもへの承継、父から最大3名までの子どもに対する承継が、納税猶予の対象となりました。経営者だけでなく、配偶者や親族が所有している株式も、納税猶予の対象です。

こちらも特例措置であり、適用を受けるためには2026年3月31日までに、都道府県庁へ「特例承継計画」を提出する必要があります。

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③法人税

法人税とは、法人が得た利益に対して課せられる税金のことです。法人税は相続税や贈与税と異なり、法人の規模により一定の税率が課せられます。

一般的な事業承継では法人税はかかりません。しかし、事業譲渡による事業承継の場合、売却益は法人が得るため、それに対して法人税が課せられます。

④消費税

消費税は、商品やサービスを消費するときに課税される税金です。消費税は、2019年10月から軽減税率が導入され、飲食などに関する消費税率は8%、その他は10%課税されます。

消費税は、一般的な事業承継では発生しません。株式の授受も所得税や住民税は課されますが、消費税は非課税扱いです。

ただし、事業譲渡など個々の資産が移動する場合は消費税の課税対象になります。事業承継の方法によって法人税や消費税がかかるので、税金は税理士や会計士に相談しましょう。

⑤登録免許税

登録免許税は、不動産の所有権移転登記や会社の設立・役員変更登記などを行う際に課される税金です。事業承継に伴い、代表取締役の変更登記や、相続による不動産の名義変更登記などが必要になるため、登録免許税が発生します。

税率は登記の種類によって異なり、例えば不動産の所有権移転(相続の場合)は固定資産税評価額の0.4%、会社の資本金を増加させる登記は増加資本金額の0.7%です。

なお、一定の要件を満たすM&A(合併や会社分割)を行う場合、登録免許税が軽減される特例措置があります。

⑥不動産取得税

不動産取得税とは、土地や建物を取得したときに課せられる税金で、不動産登記の有無にかかわらず課税されます。

土地や建物の取得は固定資産評価額の3%、住宅以外における家屋の取得は4%の課税です。なお、贈与による不動産の取得には不動産取得税がかかりますが、相続による取得の場合は不動産取得税がかかりません。

不動産取得税も事業承継税制により条件を満たした事業承継には軽減措置が取られ、土地や建物の取得は2.5%、住宅以外における家屋の取得は3.3%に減税されます。

【関連】会社分割の際の不動産取得税は非課税?課税?税率は?

事業承継税制をM&Aによる承継で利用するメリット

相続税や贈与税と同じく登録免許税や不動産取得税も、事業承継税制による軽減措置があります。中小企業のM&Aによる事業承継で、不動産の所有権が移転すると、不動産取得税・登録免許税が減税されるでしょう。

登録免許税の場合、合併は通常の税率が0.4%ですが半額の0.2%になり、会社分割は2%が0.4%になります。不動産取得税の場合、事業譲渡では土地・住宅の税率3%が2.5%になり、非住宅は4%が3.3%です。合併や一定の会社分割は、非課税です。

ただし、これらの軽減措置を受けるには一定の要件を満たす必要があり、事業承継税制の特例措置とは別の制度である点に注意が必要です。例えば、事業承継税制(特例措置)の適用を受けるには、2026年3月31日までに都道府県庁へ「特例承継計画」を提出する必要があります。
 

⑦事業承継にかかる税金一覧

事業承継にかかる税金を以下の表にまとめました。
 

  課税対象となるもの 税率
相続税 ある人が亡くなったときに引き継ぐ資産 累進課税制度
贈与税 ある人から譲り受ける資産 累進課税制度
法人税 法人が計上した利益
(事業承継のスキームによって売却益に課税される)
23.4%
(中小法人は利益の800万円までは15%)
消費税 商品やサービスを消費した対価
(事業承継のスキームによって課税)
10%(軽減税率適用のものは8%)
登録免許税 会社や不動産の登記変更にかかる費用 事業承継税制が適用されると
・合併にかかる手続き:0.2%
・会社分割にかかる手続き:0.4%
・その他の手続き:1.6%
不動産取得税 取得した不動産に対して課税される
(固定資産評価額が課税対象額)
事業承継税制が適用されると
・土地や建物の取得:2.5%
・住宅以外における家屋の取得:3.3%

4. 事業承継を専門家に依頼した際の費用

事業承継を専門家に依頼した際の費用

事業承継を行う際は、税理士や会計士・仲介会社などに依頼することが大半で、どの専門家に相談しても費用はかかります。ここでは、それぞれの専門家に依頼したときにかかる費用を見ていきましょう。

①弁護士に支払う費用

事業承継を弁護士に相談したときにかかる手数料は、相談料・着手金・報酬金・実費があります。相談料は弁護士に相談したときにかかる費用で、相場は1時間当たり5,000円~1万円です。着手金は、弁護士に依頼してサポートを受けた場合に支払う手数料で、相場は50万円からになります。

報酬金は事業承継に成功したときに支払う報酬で、相場は獲得する利益の10%です。実費にあたるのは弁護士の交通費や収入印紙代金などで、事業承継の内容によって金額は変わります。

弁護士は経営法務や経営者個人における相続・贈与トラブルの解決に関する専門家なので、相続や遺産をめぐってトラブルが想定される場合は弁護士に依頼すると良いでしょう。

②税理士・会計士に支払う費用

税理士や会計士に事業承継の依頼をする場合は、サポートを受ける範囲・難易度によって手数料が異なります。税理士や会計士は財務会計に関する専門家なので、相続税・贈与税の計算や自社株評価を行います。

事業承継のサポートを行っている税理士・会計士は会社経営にも精通しているため、事業承継に伴う経営計画や組織再編計画、事業承継税制に伴う申請書作成も依頼可能です。

手数料は事業承継の規模ではなく、依頼内容の難易度によって変わります。例えば、売却益1億円を獲得し、難易度が中程度の事業承継であれば、すべての業務を依頼すると約400万円~450万円の手数料がかかるでしょう。

③M&Aアドバイザー・仲介会社に支払う費用

仲介会社に依頼する場合にかかる報酬体系は、一般的には弁護士とほぼ同じです。しかし、多くの仲介会社は完全成功報酬制を採用しているため、途中の手数料は発生しません。成功報酬は、レーマン方式を採用している仲介会社が多いです。

例えば、1億円の売却益を獲得する事業承継を行った場合、費用は500万円程度が一般的になります。

M&A仲介会社の特徴は、依頼者である企業の将来を一番に考えて事業承継を行うことです。事業承継後は従業員が安心して働けるのか、売上を低下させないためにはどうすれば良いのかを総合的に分析・判断して事業承継を進められます。

自社の将来を第一に考えて事業承継を進めたい場合は、M&A仲介会社にサポートを依頼しましょう。

【関連】M&Aの仲介手数料の相場は?M&A仲介会社に支払う報酬の計算方法や買い手・売り手別にかかる費用の種類も解説

5. 事業承継の費用を抑えられる補助金・制度

事業承継の費用を抑えられる補助金・制度

後継者問題を抱える中小企業の経営者が多いため、事業承継を促すために補助金制度や納税を猶予する期間が設けられています。

事業承継補助金とは、経営者の交代を契機に経営革新などを行う後継者に対して与えるものです。ここでいう後継者は経営者個人だけでなく、中小企業が行っていた事業を引き継ぐ中小法人なども対象になります。

この補助金は、中小企業者などの事業承継・引継ぎを契機とする新しい取り組みや廃業にかかる費用の一部を補助し、また事業再編、事業統合に伴う経営資源の引継ぎに必要な経費の一部を補助する事業を実施して日本における経済の活性化を図ることが目的です。

事業承継補助金を受けるには事業を引き継ぐだけでなく、経営に関して一定の実績や知識があることが要件なので、事業を引き継げば誰でももらえるものではありません。補助額は対象となる経費の3分の2ですが、さらに要件を満たせば最大で1,200万円の補助が受けられます。

日本政策金融公庫には低利の融資制度もあり、事業承継を検討する中小企業に向けた融資、再建資金、事業再生支援資金の融資などもあるのです。

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6. 事業承継の費用に関する相談先

事業承継の費用に関する相談先

事業承継の相談には仲介会社がおすすめです。M&A仲介会社にはM&Aや事業承継の専門家が在籍し、相談だけでなく事業承継の交渉や手続きなど一貫したサポートを行っています。

M&A総合研究所では、M&A・事業承継の知識や実績が豊富なM&Aアドバイザーがクロージングまで案件をフルサポートします。

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7. 事業承継の費用まとめ

事業承継の費用まとめ

事業承継にはさまざまな税金がかかり、事業承継のサポートを依頼した専門家への手数料・費用も必要になるため、経営者は後継者の問題だけでなく資金の準備も行わなければなりません。

ここでは弁護士や税理士・会計士、仲介会社の相場も紹介しましたが、あくまでも一般的な目安や例で、相談・依頼する専門家によって手数料体系はさまざまです。相談や依頼をする前に手数料体系をしっかりと確認することをおすすめします。

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