建設業のM&A動向と売却・買収事例15選!メリットや成功へのポイントも解説!【2024年最新】

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

近年、国内の建設業ではM&Aが盛んに実施されていますが、背景にあるのは事業承継問題など業界が抱える課題です。この記事では、建設業のM&Aの動向・メリット・成功させるポイントなどについて、実際に行われた事例紹介ととも解説します。

目次

  1. 建設業界の現状と市場動向
  2. 建設業界のM&A動向
  3. 建設業界のM&A事例15選
  4. 建設業のM&Aメリット
  5. 建設業のM&Aを成功させる5つのポイント
  6. 建設業界のM&A注意点
  7. 建設業界のM&Aの相場価格
  8. 建設業界のM&Aのまとめ
  9. 建設・土木業界の成約事例一覧
  10. 建設・土木業界のM&A案件一覧
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  • 建設・土木会社のM&A・事業承継

1. 建設業界の現状と市場動向

建設業のM&A動向や事例を確認する前に、まずは建設業とM&Aの定義や現状、課題を簡単に紹介します。

建設業とは

建設業とは「建築業法に規定される建設工事の完成を請け負う営業」のことです。土木建築に関する工事を建設工事と呼び、建築・土木・その他の3つに区分されています。

建設と建築は混同されやすいですが、建設業が「ビルやマンションなどの建築物を含む施設・設備・インフラを造る業種」であるのに対し、建築業は「家やビルなどの建物を建てる業種」です。また、建設には道路やダムなどを新たに造ることなども含まれますが、建築業には含まれません。

建設業業法上の工事には29種類があり、下表のように一式工事が2種類と専門工事が27種類と細かく分類されています。
 

一式工事(2種類)
 
  • 土木一式工事
  • 建築一式工事

専門工事(27種類)
  • 大工工事
  • 左官工事
  • とび・土工・コンクリート工事
  • 石工事
  • 屋根工事
  • タイル・れんが・ブロック工事
  • 電気工事
  • さく井工事
  • 建具工事
  • 塗装工事
  • 防水工事
  • 内装仕上工事
  • 機械器具設置工事
  • 管工事
  • 鋼構造物工事
  • 鉄筋工事
  • 舗装装工事
  • しゅんせつ工事
  • 板金工事
  • ガラス工事
  • 水道施設工事
  • 消防施設工事
  • 熱絶縁工事
  • 電気通信工事
  • 造園工事清掃施設工事
  • 解体工事


一般的に、一式工事(土木一式工事あるいは建築一式工事)をまとめて請け負う業者を「総合建設業」と呼び、専門工事を請け負う業者を「専門工事業者」と呼びます。

建設業界の商流

建設業者は、「総合建設業」と「職別工事業」の2種類に分かれます。

総合建設業は、建築工事や土木工事などは発注者から直接請負い総合的に行う業者を指し、一般的に「ゼネコン」と呼ばれるのは、、設計から施工まで一貫して行う比較的大きな規模の業者です。一方、職別工事業は、建築工事や土木工事に関して一部分のみ工事を行う業者をいい、内装工事や大工工事などが該当します。

建設業界における最大の特徴は、ゼネコンと呼ばれる建築工事、土木工事などを総合的に担う総合建設業者が元請として発注者と契約を締結し、下請業者(職別工事業者)に各工事を委託する形で仕事が進行していくケースが多い点です。

下請業者は、さらに工事の一部を下請業者の下請業者に請け負わせるケースも多く、これを二次下請業者や孫請け業者といいます。

建設業界の現状と市場規模

国土交通省「建設業の働き方改革の現状と課題」を基に作成

出典:https://www.kensetsu-kikin.or.jp/news/57a42379796b2a6c1d23286d40ea5b611f163364.pdf

建設業界の市場規模は、国土交通省の資料「建設業の働き方改革の現状と課題」によると、1976年から1992年は建設投資額が右肩上がりに増加しており、1992年には約84兆円となりました。

その後は公共工事の減少や景気悪化による民間工事の減少などで市場規模は縮小が続き、2010年にはピーク時の半分となる約42兆円まで落ち込みました

しかし、復興需要や民間投資の回復、さらに政府建設投資などにより2021年度は約58.4兆円となる見通しと同資料では報告されています。
 

国土交通省「建設業許可業者数調査の結果について」を基に作成

出典:https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001610921.pdf

建設業許可を持つ業者数は1999年度末が約60万業者と最多、その後は緩やかに減少して2020年度末時点の事業者数は約47.4万業者です。

参照:国土交通省「建設業の働き方改革の現状と課題(令和3年)」

建設業界の課題

建設業界は、人手不足が深刻な課題です。少子高齢化による生産年齢人口減少は、建設業の担い手不足だけでなく、次世代への技術や技能の伝承できない事態も懸念されています。

総務省「労働力調査」を基に作成

出典:https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00200531&kikan=00200&tstat=000000110001&cycle=7&year=20220&month=0&tclass1=000001040276&tclass2=000001040283&tclass3=000001040284&result_back=1&tclass4val=0


建設業界の建設業就業者数は、1997年の685万人から2010年の498万人、2020年は492万人と減少傾向です。若年層就業者の減少は建設業界の課題でもある過酷な労働環境や賃金水準の低さが原因といえるでしょう。

業界の年間総実労働時間は、全産業と比べて360時間以上(約2割)長くなっているため、国では働き方改革の促進、工期の適正化、現場の処遇改善、建設現場の生産性向上など、課題の解決に向けて対策を行なっております。

参照:国土交通省「建設業の働き方改革の現状と課題(令和3年)」

2. 建設業界のM&A動向

これまで、建設業はM&Aおよび業界再編が行われにくい業種といわれていました。なぜなら、生産規模の拡大に応じて利益を獲得できる「規模の経済」の効果が生じにくいためです。

さらに、複数の企業が合併すると公共工事の入札参加機会が減少するといったデメリットも、M&Aが行われにくい要因の1つでした。しかし、近年は以前に比べ建設業でM&Aが盛んに実施されるようになっており、以下のような動向が目立っています。
 

①後継者問題による倒産・廃業件数の増加

総務省「労働力調査」を基に作成

出典:https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00200531&kikan=00200&tstat=000000110001&cycle=7&year=20220&month=0&tclass1=000001040276&tclass2=000001040283&tclass3=000001040284&result_back=1&tclass4val=0

他業種の中小企業と同じく、建設業でも後継者不在や人手不足による廃業が増加しています。建設業許可業者数は直近数年で微増となっていますが、ベテラン職人の多くが定年退職を迎えており、経営悪化や事故増加などにつながっている点は早急に改善すべき課題といえるでしょう。

国土交通省の資料「建設業の働き方改革の現状と課題」資料によると、建設業就業者の約36%が55歳以上を占める一方で、29歳以下の割合はわずか約12%です

そのようななか、就業者の高齢化が進む建設業界では次世代への技術継承が大きな課題となっています。

この課題を解決するため、中小の建設会社がM&Aによる事業承継を行うケースが増加してきました。大手・中堅企業は、高い技術を持つ人材を獲得するために同業種を買収するケースが増えています。

参照:国土交通省「建設業の働き方改革の現状と課題(令和3年)」

②異業種・関連業種からのM&A

建設業では、ハウスメーカーや不動産会社が自社グループで建築会社を持つなど、異業種・関連業種からのM&Aも顕著です。

特に建設業では、資材価格や人件費の高騰に対応するために、自社内でトータルサポートを行う戦略に移行する傾向が見られます。

③2021年以降の国内需要

日本建設業連合会の資料によると、近年の建設業は、東京オリンピックに向けたインフラ整備の影響を受けて、50兆円前後で市場規模を維持してきました。しかし、2021(令和3)年以降の国内需要は、落ち込むものとみられています

そこで、2021年以降の需要低下に備えるため、建築業ではリフォーム・リノベーションに経営資源をシフトする企業が増加してきました。

出典:日本建設業連合会「建設業ハンドブック 2020 3 建設市場の現状」

④震災関連の需要

日本では、2011(平成23)年の東日本大震災および、各地で頻発した地震・洪水などの自然災害に対する復興工事需要が継続しています。

日本建設業連合会の資料によると、東日本大震災の復興需要を受けて、2011年以降は建設投資が増加傾向にありました。実際に、2010(平成22)年には約42兆円だった建設投資は、5年後の2015(平成27)年には約57億円にまで増加しています。

しかし、最近では、復興関連の建築事業を受託しても、人手不足や経費高騰のため収益確保が難しい中小建設会社が増加している状況です。

出典:日本建設業連合会「建設業ハンドブック 2020 3 建設市場の現状」

3. 建設業界のM&A事例15選

ここでは建設業界で行われたM&A事例を紹介します。

サイタホールディングスによる朝倉生コンクリートの子会社化

2024年6月24日、サイタホールディングス株式会社(1999)は、福岡県朝倉市にある朝倉生コンクリート株式会社の株式を取得し、同社を連結子会社化することを決定しました。

譲渡企業の概要

朝倉生コンクリートは、生コンクリートの製造販売を行っています。

譲受企業の概要

サイタホールディングスは建設業や砕石業などを展開する持株会社です。

M&Aの目的

この株式取得により、サイタホールディングスは経営および事業の強化と業績拡大を目指しています。

M&A手法

株式譲渡

持分法適用関連会社の株式の追加取得に関するお知らせ

工藤建設による日建企画の結子会社化

2024年5月、工藤建設は、持分法適用関連会社である日建企画の株式を追加取得し、連結子会社化することを決定しました。

譲渡企業の概要

日建企画は不動産業を営んでいます。

譲受企業の概要

工藤建設は、マンションや住宅の建設工事や高齢者向け介護事業を展開しています。

M&Aの目的

今回の株式追加取得は、厳しい経営環境の中で工藤建設グループの収益性向上と競争力強化を図り、さらなるシナジー効果を発揮することを目的としています。

M&A手法

株式譲渡

持分法適用関連会社の株式追加取得(連結子会社化)に関するお知らせ

イチケンによる片岡工業の子会社化

イチケンは、2024年5月27日に片岡工業の全株式を取得し、子会社化することを決定しました。

譲渡企業の概要

片岡工業は土木工事を主力とする建設業を行っています。

譲受企業の概要

イチケンは総合建設業や商業施設の企画・設計・施工を手掛けています。

M&Aの目的

今回の株式取得は、片岡工業の持つ土木工事や舗装事業のノウハウを取り入れ、グループシナジーを追求し、企業価値の向上を図ることを目的としています。

M&A手法

株式譲渡

片岡工業株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ

安江工務店によるガーデンの子会社化

安江工務店は、2024年5月14日にガーデンの全株式を取得し、株式譲渡契約を締結しました。

譲渡企業の概要

ガーデンは新築注文住宅の設計・施工やリノベーションを行っています。今回の株式取得は、安江工務店が関西圏でのシェア拡大を目指し、ガーデンの強みと自身の集客・顧客維持ノウハウを融合させ、シナジー効果による競争力強化を図るためです。

譲受企業の概要

安江工務店は住宅リフォームや新築住宅事業を展開しています。

M&Aの目的

今回の株式取得は、安江工務店が関西圏でのシェア拡大を目指し、ガーデンの強みと自身の集客・顧客維持ノウハウを融合させ、シナジー効果による競争力強化を図るためです。

M&A手法

株式譲渡

ガーデン株式会社の全株式取得に関するお知らせ

瀧上工業による菊池鉄工所の子会社化

瀧上工業は、2024年3月26日に菊池鉄工所の全株式を取得し、子会社化することを決定しました。

譲渡企業の概要

菊池鉄工所は鉄骨や溶接H形鋼の製作を行っています。

譲受企業の概要

瀧上工業は、橋梁や鉄骨などの鋼構造物の設計・施工を手掛けています。

M&Aの目的

今回の株式取得は、瀧上グループの鉄骨事業の強化を目的としており、民間大型開発への対応力を高め、事業の成長を加速させるための戦略的な動きです。

M&A手法

株式譲渡

株式取得(子会社化)に向けた株式譲渡契約締結のお知らせ

清水建設による第一設備工業を完全子会社化

清水建設は、株式交換(簡易株式交換)により、連結子会社の第一設備工業株式会社を完全子会社すると発表しました。清水建設を完全親会社、第一設備工業を完全子会社とする株式交換(簡易株式交換)で行われます。

譲渡企業の概要

第一設備工業は、建築設備工事の請負事業を手掛ける総合設備エンジニアリング企業です。

譲受企業の概要

清水建設は、建設・土木・フロンティアなどの事業手掛ける大手総合建設会社です。土木構造物の設計・施工や再成工事などを多数手掛けています。高い技術力とノウハウを活かし国内外で事業を展開しています。

M&Aの目的

本M&Aの目的は、グループ経営における機動性と柔軟性の向上です。清水建設は、第一設備工業を完全子会社化することで、経営環境の変化に対応可能な連結経営体制を構築を目指すとしています。

M&A手法

株式交換(簡易株式交換)
株式交換比率は1:0.9(第一設備工業の普通株式1株に対し清水建設の普通株式0.9株を割当交付)
※効力発生日は2023年10月31日

簡易株式交換による連結子会社(第一設備工業株式会社)の 完全子会社化に関するお知らせ

清水建設による丸彦渡辺建設の子会社化

2023年5月、清水建設は丸彦渡辺建設の発行済み株式を取得して、同社を子会社化しました。

譲渡企業の概要

丸彦渡辺建設は北海道の総合建築会社であり、建設業、不動産業、運送業を手掛けています。

譲受企業の概要

清水建設は、建設・土木・フロンティアなどの事業手掛ける大手総合建設会社です。土木構造物の設計・施工や再成工事などを多数手掛けており、高い技術力とノウハウを活かし国内外で事業を展開しています。

M&Aの目的

清水建設は、建築・土木事業の事業基盤強化を目的としてM&Aに至りました。清水グループの持つノウハウと丸彦渡辺建設のリソースを融合させることでシナジーを発揮し、当該事業の基盤強化を目指すとしています。

M&A手法

株式譲渡

丸彦渡辺建設株式会社の株式取得(子会社化)について

ナカノフドー建設によるトライネットホールディングスの子会社化

2023年3月、ナカノフドー建設はトライネットホールディングスの株式を取得し、同社を子会社化しました。

譲渡企業の概要

トライネットホールディングスは長野県に本社を置く企業であり、建築工事・一般土木工事・リフォーム工事をグループで展開しています。長野県の飯田市を中心に安定した経営基盤を持っています。

譲受企業の概要

ナカノフドー建設は建設事業や不動産事業を行う企業で、耐震・免震工事技術に強みを持っています。

M&Aの目的

ナカノフドー建設はトライネットホールディングスの子会社化によって、ノウハウ・技術・リソースを相互活用し、土木事業の強化と企業価値向上を目指すとしています。

M&A手法

株式譲渡

株式会社トライネットホールディングス及びそのグループ子会社の株式 の取得(子会社化)に関するお知らせ

矢作建設工業による北和建設の子会社化

2023年3月、矢作建設工業は北和建設の発行済み株式をすべて取得し、同社を完全子会社化しました。

譲渡企業の概要

北和建設はマンション工事を主軸とする建設会社です。ホテル・福祉施設などの建築工事も行っており、関西エリアを中心に事業を展開しています。

譲受企業の概要

矢作建設工業は、建設事業や不動産事業などを手掛ける総合建設会社です。 マンション建設や鉄道関連工事を強みとしています。東海エリアを中心に事業を展開している企業です。

M&Aの目的

矢作建設工業は、中長期計画において事業エリアの拡大や新規技術・サービスの開発を重点的な取り組み事項に揚げています。

北和建設の子会社化も事業規模拡大に向けた取り組みの一環であり、事業エリア拡大と競争力強化を図るとしています。

M&A手法

株式譲渡

メイホーホールディングスによる安芸建設コンサルタントの子会社化

2022年6月、メイホーホールディングスは子会社のメイホーエンジニアリングを通じ、広島県の安芸建設コンサルタントの全株式を取得して子会社化すると発表しました。

譲渡企業の概要

安芸建設コンサルタントは、建設コンサルタント業や測量業を手掛ける広島県の企業です。

譲受企業の概要

メイホーHDは、建設コンサルタント・建設・人材派遣・介護の4事業を手掛けており、建設コンサルタント関連企業6社を持っています。

そのうち、メイホーエンジニアリングは測量・設計・地質調査や土木インフラ調査などを行っており、豪雨災害復旧事業の実績も多い企業です。

M&Aの目的

本M&Aの目的は、スケールメリットの享受およびシナジー創出による建設関連事業分野のネット ワーク強化と経営基盤安定化です。メイホーHDは互いのノウハウ・強みを合わせることで、地域社会へのさらなる貢献を目指すとしています。

M&A手法

株式譲渡

当社子会社による株式会社安芸建設コンサルタントの株式の取得(孫会社化)に関するお知らせ

SDSホールディングスによるイエローキャピタルオーケストラのM&A

SDSホールディングスは2022年3月、イエローキャピタルオーケストラの株式を取得し、連結子会社しました。

譲渡企業の概要

イエローキャピタルオーケストラは、資産運用に関するコンサルティング 、宅地建物取引業、不動産の分譲、売買、賃貸、管理、不動産の仲介、コンサルティングなど幅広い事業を行う会社です。

譲受企業の概要

SDSホールディングスは、再生可能エネルギー事業、省エネルギー事業、施設ソリューション事業を行っている会社です。

M&Aの目的

本M&Aの目的は、業容拡大と収益力向上です。SDSホールディングスは「脱炭素」をコンセプトとして収益規模の大きな不動産販売事業の展開を目指すとし、成長性のある事業の積極的な展開により業容の拡大を図るとしています。

M&A手法

株式譲渡

株式会社イエローキャピタルオーケストラの株式取得(子会社化)に関するお知らせ

鹿島建設の連結子会社によるシンガポール企業のM&A

鹿島建設の子会社であるカジマ・デベロップメント・PTE・リミテッド(シンガポール、カジマ)は2022年3月、セントラル・キャヒタル・ホールディングス・PTE・リミテッド(シンガポール、セントラル)の全ての株式を取得し、同社を子会社化しました。

譲渡企業の概要

セントラル・キャヒタル・ホールディングス・PTE・リミテッドは、シンガポール中心業務地区に所在するオフィスビル1棟を保有するなど、ビルの賃貸、管理を行う会社です。

譲受企業の概要

鹿島建設は、ゼネコン大手5社の1社であり、建設・建築事業のほか、多岐にわたり事業を展開しています。カジマ・デベロップメント・PTE・リミテッドは、アジア地区の開発事業を統括するシンガポールの鹿島建設子会社です。

M&Aの目的

本M&Aの目的は、譲渡側セントラル・キャヒタル・ホールディングス・PTE・リミテッドがシンガポール中心エリアに保有するオフィスビルの取得です。

当該物件は希少性が高く、鹿島建設は開発事業の不動産価値向上と収益性強化につながるものと判断し、本M&Aに至りました。

M&A手法

株式譲渡

当社連結子会社による株式の取得(特定子会社の異動)に関するお知らせ

清水建設による日本道路のM&A

清水建設は2022年3月、日本道路の株式を取得し、連結子会社化しました。

譲渡企業の概要

日本道路は、建築事業・土木事業を中心に、不動産開発事業、エンジニアリング事業など幅広く事業を展開しています。

譲受企業の概要

清水建設は、1804年創業のスーパーゼネコン5社の1社で、メンテナンス事業にも定評があります。医療福祉施設の豊富な工事受注実績を持つ総合建設企業です。

M&Aの目的

本M&Aの目的は、競争力の強化と工事受注件数の拡大です。清水建設グループは、日本道路グループと協働で受注拡大、両社の顧客網・技術・拠点網を活用した事業競争力の強化、研究開発体制の合理化により、さらなる成長・発展を図るとしています。

M&A手法

株式譲渡

日本道路株式会社株式(証券コード:1884)に対する公開買付けの結果及び子会社の異動に関するお知らせ

インフロニアHDによる東洋建設のM&A

インフロニア・ホールディングスは2022年3月、株式公開買い付け(TOB)により東洋建設の株式を取得して子会社化すると発表しました。

譲渡企業の概要

東洋建設は、国内土木事業・国内建築事業・海外建設事業・不動産事業を展開する企業です。海洋土木工事に強みがあり、多数の施工実績を持っています。

譲受企業の概要

インフロニア・ホールディングスおよびグループは、前田建設工業、前田道路、前田製作所をはじめとする子会社62社、関連会社24社で構成されている企業です。

建築事業、土木事業、舗装事業、機械事業、インフラ運営事業をメインとし、リテール事業から不動産事業まで幅広く事業展開しています。

M&Aの目的

本M&Aの目的は、グループ全体の競争力強化および企業価値の向上です。今回のM&Aにより、インフロニア・ホールディングスは、公共インフラの包括管理、PPP・コンセッション分野での協業、グループ全体でのDXなど連携強化を図り、企業価値向上を目指すとしています。

M&A手法

株式公開買い付け(TOB)

東洋建設株式会社株式(証券コード:1890)に対する 公開買付けの開始に関するお知らせ

瀧上工業による東京フラッグのM&A

2022年3月、瀧上工業は東京フラッグの発行済み株式をすべて取得し、同社を完全子会社化しました。

譲渡企業の概要

東京フラッグは、鋼構造物工事にて現場溶接を行う専門会社です。主に、各種鋼構造物工事の現場溶接を手掛けています。

譲受企業の概要

瀧上工業は、橋梁・鉄骨、鋼構造物の設計、製作・架設まで一貫した施工を行う専業メーカー。瀧上工業が保有する鉄骨製作工場は鉄骨加工業者の最高位である「Sグレード」に認定されており、確かな技術力と豊富な実績を持っています。

M&Aの目的

本M&Aの目的は、鋼構造物製造事業の強化および事業ポートフォリオの拡大です。

瀧上工業は、東京フラッグの子会社化で溶接に関する技術を深化させて主軸である鋼構造物製造事業を強化するとともに、グループの不動産事業や海外事業の拡大や積極的な投資による事業ポートフォリオ拡大を目指すとしています。

M&A手法

株式譲渡

株式取得(子会社化)に向けた株式譲渡契約締結のお知らせ
  • 建設・土木会社のM&A・事業承継

4. 建設業のM&Aメリット

建設業のM&Aには、売り手・買い手それぞれ以下のようなメリットがあります。
 

売り手側のメリット 買い手側のメリット
  1. 後継者問題の解決
  2. 倒産や廃業を回避
  3. 従業員の雇用安定
  4. 売却益の獲得
  1. 技術やサービスの強化
  2. 人材の確保
  3. 事業規模やエリアの拡大
  4. 相互補完を図れる

売り手側のメリット

建設業のM&Aにおける売り手側のメリットには、以下4つが挙げられます。

①後継者問題の解決

経営は順調であるにもかかわらず、後継者不在により事業の継続が難しくなる建築会社が増加中です。その場合、後継者問題を解決するための対策として事業・会社を譲渡し、買い手を後継者に据えた事業承継を行う選択肢が効果的とされています。

事業承継の実施では、単に後継者問題が解決できるだけでなく、事業成長の可能性も期待できます。

②倒産や廃業を回避

倒産や廃業を回避する手段として、M&Aによる売却を行うことも選択肢の1つです。倒産や廃業の場合、負債が残るうえに廃業コストの負担が必要ですが、M&Aを実施すれば、それらの負担は回避できます。

③従業員の雇用安定

事業が継続できなくなった場合、従業員の仕事を失わせてしまいます。しかし、M&Aを実施すれば、売却先企業に従業員の雇用を引き継げるため、従業員を失業させずに済みます

④売却益の獲得

売却益を得られると、生活費・老後資金・新たな事業への資金などに充てることが可能です。倒産や廃業を選択する場合と比べて、資金的・精神的に大きな余裕が生じます。

買い手側のメリット

建設業のM&Aにおける買い手側のメリットには、以下4つが挙げられます。

①技術やサービスの強化

買収する側からすれば、技術やサービスの強化などを目的にM&Aを行います。建築業は競争が厳しい業種でもあるため、生き残るうえで優れた技術やサービスを保有しなければなりません。

技術やサービスの強化を自社のみで行うことは難しいですが、M&Aを行えばスムーズにノウハウを獲得できます。自社で行っていない技術・サービスを取り込めば、手間や時間をかけずに安定度の高い事業参入が可能です

②人材の獲得

建築業の業務は特殊な技術・知識・経験が必要であるため、優秀な人材を育て上げるまでに相当な時間がかかります。過酷な労働を強いられるイメージから、若い世代の人材が少ない点も課題です。

建築業の会社は常に人材不足に頭を抱えています。そこで、M&Aの実施により技術・知識・経験が豊富な人材を獲得し、人材不足の解消を図る動きが目立っています。

M&Aを行えば、これまで人材不足により受注できなかった仕事にも対応可能です。このように、優秀な人材を獲得できれば、会社の成長が図れるでしょう。

③事業規模やエリアの拡大

買い手側は、事業規模やエリアの拡大を目的としてM&Aを行うケースも多いです。建設業は隣接する企業が多いためシナジー創出が見込みやすく、外注していた業務を内製化したり、顧客へのサービスを拡充したりすることもできます。

また、隣接エリアでの事業展開や、地方から都心あるいは都心から地方への進出が実現できるのも大きなメリットです。建設業界は地域特性などもあるため、新たなエリアで事業基盤を構築するまでには時間を要しますが、M&Aを行うことで大幅に短縮できます。

④相互補完を図れる

同じ建設業に属していても、民間に強い企業もあれば官公庁に強い企業もあります。安定した業務受注には幅広い顧客を持つことが重要ですが、M&Aで同業種あるいは関連業種を買収することで相互補完が可能です。

互いの強みを活かすことで受注が安定するだけでなく、別の業務内容を加えることで閑散期も仕事が平準化しやすくなります。

5. 建設業のM&Aを成功させる5つのポイント

建築業のM&Aを成功させるには、以下のポイントを実践する必要があります。

①M&Aを行う理由を明確にする

自社がどのような業種であっても、M&Aを実施する際は「なぜM&Aを行うのか」を明確にしておくことが必要です。

たとえば、事業承継を目的とするのか、事業規模の拡大を目指すのか、なにを理由に行うかによって相手先選びの判断基準が変わってきます。

まずは自社がM&Aを行う理由を明確にし、そのうえで希望条件などを決めていくとよいでしょう。

②M&A先の選定をしっかりと行う

なぜM&Aを行うのかという理由が明確になったら、次はM&A先の選定をしっかり行うことが大切です。どんなに規模の大きい企業へ売却できても、自社の目的や希望に合わなければ満足度の高いM&A実現とはならないでしょう。

事前に自社の希望条件とその優先順位をはっきりさせておくと、相手先の選定もしやすくなります。また、M&Aの専門家にサポートを依頼する場合は、自社の価値観や風土などを伝えておくのもよい方法です。

③許認可・従業員・設備など強みに関してまとめる

M&Aの交渉を進めていくうえでは、自社の強みをしっかり相手先へ伝えることが重要です。そのため、M&Aに着手する前に、自社の強みを分析・把握し、許認可・従業員・設備などを資料にまとめておくと役立ちます。

また、この段階で改善できる点があれば事前に対応しておくなど、磨き上げをしておくことも成功のポイントです。

④事業シナジーを考える

M&Aを成功させるためには、どのような事業シナジーが見込めるかを考えることも必要です。たとえば、スケールメリットによって材料コストが下げられる、顧客の認知度が上がるなど、さまざまなシナジーが考えられます。

相手先の事業内容をよく分析して、想定されるシナジーを具体的にイメージしておくことは、売り手・買い手双方にとって満足度の高いM&A実現にもつながるでしょう。

⑤M&A仲介会社等に相談する

M&Aの工程は非常に多いため、日常の事業運営をしながら自社のみで進めていくのは現実的に難しい部分が多いでしょう。M&Aを仲介会社等では手続き面をサポートすれば、業務への支障を最小限にとどめながらM&Aを進めることができます。

M&A仲介会社をお探しの場合は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。M&A総合研究所には、M&Aアドバイザーが在籍しており、親身になって案件をフルサポートいたします。

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6. 建設業界のM&A注意点

建設業界でM&Aでは、業界特性による注意点があります。事前対応が必要な事項もあるので、実施前に確認しておくことが重要です。

M&A手法により建設業許可の引き継ぎ方法が違う

建設事業を行ううえでは事業内容にあった建設業許可が必要です。建設業界のM&Aではどのスキームを用いるかによって許認可の引継ぎ方法が異なります。

株式譲渡を用いる場合は、包括承継となるため売り手のもつ許認可を買い手はそのまま引き継ぐことが可能です。事業譲渡の場合は、事前手続きを踏むことで建設業者としての地位を空白期間なしで引き継ぐことができます。

以前は事業譲渡により許認可取得の空白期間が生じるケースもありましたが、2020年に事業譲渡における建設業許可に関する制度が新設されたことでスムーズな引継ぎが可能となりました。ただし、事前許可申請は、買い手側の法人が建設業の許可要件を満たしていることが前提となります。

経営管理責任者の確認をする

国土交通省「許可基準の見直しについて(建設業法第7条関係)」 3ー(1)許可基準の見直しについて

出典:https://www.mlit.go.jp/common/001365752.pdf

建設業許可の認定を受けるためには、建設業法により定められた経営管理責任者を配置しなければなりません。法令で定められた体制には「経営管理責任者のみを配置」「常勤役員+それを直接補佐する者」の2パターンがあり、それぞれ上図のように要件が設けられています。

基本的には「経営管理責任者のみを配置」するパターンが多いです。それ以外のケースでは個々に審査があるため、詳細は国土交通省HPか同省の問い合わせ先でご確認ください。

粉飾決算の有無を把握する

建設業の会計は「建設業会計」という方式で行われます。建設業では1つの受注案件が数か月~数年かかることも少なくないため、その性質を考慮した会計方式です。

この方式では、工事費用を資産として一旦計上するため、数字上では実態よりも利益が大きくなります。会計の性質上、経営者が意図していなくとも粉飾決算が起こりうるため、買収前はデューデリジェンスを徹底し粉飾決算の有無を確認することが重要です。

7. 建設業界のM&Aの相場価格

M&Aの価格は企業(あるいは事業)規模で異なりますが、同程度の規模でも財務状況・保有しているリソースの内容・M&A時の市場動向によっても違いがでます。

また、M&A最終的な価格はこのような要素を加味したうえで、売り手側・買い手側の交渉で決まるため、どの程度が相場価格なのかを判断するのは難しいものです。

ですが、中小規模の建設会社が行うM&Aであれば「時価純資産+営業利益の2〜5年分」をひとつの目安にすることができます。

M&Aの最終的な価格は交渉で決まりますが、その際は「企業価値」をベースに進めるのが一般的です。企業価値の評価方法にはコストアプローチ・マーケットアプローチ・インカムアプローチの大きく3種類があり、そのなかから自社に合った方法を選び(あるいは複数の方法を併用して)価値を算出します。

コストアプローチ

コストアプローチは、貸借対照表上の純資産を基に企業価値を評価する方法をいい、代表的な手法にには時価純資産法・簿価純資産法があります。

シンプルな計算で算出ができ、売り手・買い手ともに納得感が得られやすい点がメリットですが、一方で企業の特性や将来性が反映されないというデメリットもあります。

M&A実務上では、企業の特性や将来性をある程度反映させるために、資産にのれん(営業権)を加えるケースが多いです。

インカムアプローチ

インカムアプローチとは、対象企業の将来予測されるフリーキャッシュフローを基に企業価値の評価を行う方法です。代表的な手法には配当還元法・DCF法などがあり、DCF法は大企業のM&Aで多く活用されています。

最大のメリットは企業固有の特性や将来性が反映される点ですが、フリーキャッシュフローの予測は対象企業が策定した事業計画を基に行うため客観性は高いとはいえず、主観性が入りやすく正確な評価とならないケースがある点がデメリットです。

マーケットアプローチ

マーケットアプローチは、対象企業と事業規模や事業内容が類似する上場企業を選び、その企業の市場株価や過去に行なったM&Aの取引価格などを基に企業価値評価を行う方法です。

代表的な手法には市場株価法・マルチプル法(類似会社比準法)があり、トレンドや動向など市場環境が反映される点や客観性が高い点がメリットとして挙げられます。

その一方で、中小企業の場合は類似条件に該当する企業をみつけることが難しい点や、選定時に主観が入りやすい点がデメリットです。

コンプライアンスを遵守している

売り手企業が過去に談合を行っていたり、社会保険の未加入や残業代の未払い分があったりする場合、買い手企業は知らずに買収してしまうと後に大きなトラブルを招くリスクがあります。

売り手企業がコンプライアンスを遵守しているかは売却価格に大きく影響する要素です。中小規模の建設会社の場合、社会保険加入義務があっても未加入で事業運営をしているケースもみられますが、2020年に行われた建設業法改正で社会保険への加入が建設業許可の要件となっています。

また、未払い残業代がある場合は退職済み従業員からの訴訟リスクや、談合した事実があれば独占禁止法違反に問われる恐れもあるため、売却価格が不利になるだけでなくM&A交渉自体が進まない可能性もあるでしょう。

高額売却を実現するためには、自社がコンプライアンスを遵守しているかをM&A前に再確認し、問題がある場合は可能な限り是正しておくことが重要です。

経営事項審査および競争参加資格審査の評価点が高い

公共工事の受注は入札によって決まりますが、入札に参加するためには経営事項審査と競争参加資格審査を受けていることが前提です。

経営事項審査は各地域の許可行政庁が行うもので、経営規模・技術力・労働環境や状況などが審査されます。一方の競争参加資格審査は、独自審査項目による評価です。

2つの合計点でランク(格付け)が決まりますが、それによって入札参加できる公共工事の規模が違います。ランクが高いほど大きな規模の公共工事に入札できるため、評価点の高い建設会社は高額売却につながりやすいです。

安定した受注先(取引先や下請け先)を持っている

建設会社は、公共工事だけでなく民間企業や個人の仕事も受注します。受注案件数が多いほど当然利益もあがるため、建設会社の事業成長には安定した受注先の確保が不可欠です。

そのため、安定した受注先を多く持っている売り手企業ほど、買い手側からの評価は高くなる傾向にあり、取引先や下請け先が多ければ高額売却につながる可能性も上がります

技術・ノウハウ・特許・優秀な人材などを持っている

最新技術や特許製法を持っているなど技術力が高い会社や、独自ノウハウを持っている会社は買い手からの評価が高くなりやすい傾向にあります。

また、建設業界は慢性的な人材不足であるうえ、特に若手人材が少ないのが課題です。技術力・特許などだけでなく、若手従業員が多く在籍している売り手企業の場合は、高額売却につながる可能性も高くなります。

財務・税務面が健全である

建設業界のM&Aに限ったことではありませんが、財務面・税務面で正しい処理がなされているのは高額売却の必須条件ともいえるものです。

特に建設業界の会計は「工事進行基準」「工事完成基準」など他業種とは異なる基準が設けられており、2021年度からは「新収益認識基準」が上場企業への適用が義務付けられました。

会計・税務面での正しい処理が行われていない場合、デューデリジェンスによって発覚することがほとんどであり、そのようなケースでは売却価格が引き下げられたり、問題が大きければM&Aが白紙撤回される可能性もあります。

売り手企業はM&A前に自社の会計・税務面を再度確認し、問題点がある場合は可能な限り解消しておくことが重要です。

8. 建設業界のM&Aのまとめ

建設業は、これまでM&Aおよび業界再編が行われにくい業種として知られていました。しかし、現在ではM&Aが盛んに実施されるようになっています。

M&Aでは買い手・売り手ともにさまざまなメリットがあるものの、成功させるには工夫が必要です。スムーズにM&A手続きを済ませるためにも、M&A仲介会社などの専門家にサポートを求めると良いでしょう。

9. 建設・土木業界の成約事例一覧

10. 建設・土木業界のM&A案件一覧

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