JTのM&A成功の秘訣を徹底解説!買収失敗はあるの?

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この記事の監修専門家
M&A総合研究所 公認会計士
高谷 俊祐

JTは1985年の民営化後、事業の多角化を始めましたが、その多くは失敗に終わりました。一方で、クロスボーダーM&Aによる海外展開に積極的に打って出ました。そんなJTのM&Aについて、成功の秘訣と最近の動向をまとめました。


目次

  1. JTのM&Aを徹底解説!
  2. JTのM&A成功の秘訣
  3. JTのM&A事例
  4. JTの買収失敗事例
  5. JTのM&Aから学ぶなら本もおすすめ
  6. JTのM&A成功の秘訣まとめ
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1. JTのM&Aを徹底解説!

JTのM&Aを徹底解説!

JTの前身は日本専売公社で80年にわたって続いた歴史がありましたが、1985年に民営化されました。ただし現在も、財務大臣が33.35%の株式を持っています。

そんなJTですが、1999年にRJRナビスコの海外たばこ事業(RJRI・アメリカ)を約9,400億円、2007年にギャラハー(イギリス)を約1兆7,310億円で買収しています。いずれも、当時の日本企業の外国企業買収としては史上最高額でした。

JTはこれらを買収する以前の海外売上高比率は7.4%(1998年)と低く、基本的には国内をターゲットにたばこ販売の歴史がありましたが、こうした大型案件に代表されるように、ここ20年ほどは積極的にクロスボーダーM&Aを行い、海外に打って出ています。

2018年においてもロシアの会社の買収を行い、またバングラディッシュの会社を買収することも発表されています。

国内のたばこ市場は縮小する中、海外でのたばこ売上を順調に伸ばしていますし、今ではたばこ事業の売上の2/3は海外で獲得していますので、概ねJTの戦略は成功しているものと考えられます。

そんな、JTのM&Aを解説していきます。

2. JTのM&A成功の秘訣

JTにおけるM&Aの成功の歴史と秘訣をご紹介します。

多角化の失敗がルーツ

JTは1985 年の民営化後、国内のたばこ事業の成長が見込めないなか、事業の多角化戦略を始めた歴史があります。

多角化の歴史の中には、スッポンの養殖、野菜・果物の栽培、バーガーキングの経営、スポーツクラブの運営、不動産業等も含まれましたが、結果的にはほぼ失敗に終わったまま撤退しています。

多角化の失敗についての最も最近のトピックとしては、2015年の飲料事業の撤退です。飲料事業においては、1998年に自販機運営大手のユニマットコーポレーション(現ジャパンビバレッジホールディングス)を買収して、販路拡大のテコ入れを図っていた歴史もありました。

しかしながら商品自体では、「桃の天然水」や缶コーヒー「ルーツ」といったヒット商品を生み出しましたが、それ以降は目立ったヒットもなく赤字が続き、存在感がなくなったままサントリーグループに売却し、撤退となっています。

それ以外にも、医薬事業は継続中ではありますが、長年赤字でJTの業績を押し下げていました。こちらも、1998年に鳥居薬品を買収するなどして、研究開発のテコ入れを図ってきた歴史があります。

2017年に何とか、2度目の黒字化を達成しましたが、事業開始から約30年の歴史のほとんどで赤字を垂れ流している形でした。

このように、JTが多角化で始めた事業は、多角化の初期の段階からことごとく失敗の繰り返しの歴史でした。

クロスボーダーM&A

多角化の失敗から、会社の存続はたばこ事業にかかっていた形ですが、それまでほぼ国内にのみ販売していた歴史のたばこの市場は、縮小していくのが明白です。

そこでJTは、海外に活路を見出すための、クロスボーダーM&Aに積極的に出ることになりました。

1999年にRJRナビスコの海外たばこ事業(RJRI・アメリカ)を傘下に収めたの買収を皮切りに、各国のたばこ事業の買収を重ねる歴史を積み上げていきます。

最も買収規模が大きかったのは、2007年のギャラハー買収の1兆7,310億円です。

2018年には、すでにロシアでドンスコイ・タバックを買収しました。

JTはM&Aを「成長の時間を買う」手段と位置づけていますが、もはやM&AはJTのお家芸となった感もあります。

なお、参考までにですが、たばこ市場でJTがシェア1位となっている国は日本、ロシア、台湾です。

シナジー効果の最大化

シナジー効果の最大化

JTが買収で期待するシナジー効果としては、例えば2007年のギャラハー(イギリス)買収時のプレスリリースには、「規模拡大によるスケールメリットの享受」「両社の相互補完性」「技術・流通インフラの強化」、その他「売上増」と「事業効率化」といったあたりでシナジーを図るということ、とあります。

これら自体は、M&Aにおいてよく期待されるシナジー効果と言うべきもので、JTに特異なものではありません。

結果としては、1999年にRJRI(アメリカ)を買収した際には、従来の約10倍となるたばこ販売本数を、海外市場で獲得することに成功しています。またこれにより、パッケージの配色やデザインを統一するなどの積極的なマーケティング投資によるブランド強化を行い、世界での知名度を上げられるようになりました。

また、2007年にギャラハー(イギリス)買収によって、欧州展開のブランドと共に、英国、アイルランド、オーストリア、スウェーデンなどの販売基盤も獲得しました。それと共に技術や流通のインフラも強化され、海外での販売本数も急増しています。

今もって世界のたばこ販売ではJTは世界3位ですが、1位と2位と戦う基盤を、M&Aによる事業拡大とシナジー効果で整えてきたと言えます。

独自のM&Aプロセス

クロスボーダーM&Aを繰り返してきた歴史のあるJTですが、M&Aにおいてよく登場する投資銀行やコンサルタントはあまり利用しません。

自社内で日頃からM&Aの候補となりそうなところを検討し、現地や候補先の情報収集からシナジー効果の検討までも、ほぼ自社内でやってしまいます。

投資銀行やコンサルタントには、例えば発展途上国などで地元の投資銀行でしか得られない情報を得たい時などの、情報収集のために適材適所で入ってもらうのみです。また、サポートに入ってもらうのも、買収が成立するまでで、その後の統合は全て自分たちで進めていきます。

JTのM&Aプロセスにおいて大切にしている点を要約すると、JT独特の理念も入っているので抽象的ですが、以下の通りとなります。
 

  • 買収・統合に関わる社員には、当事者意識を強く持つようにする
  • 「進駐軍」にはならず、買収先の人的な側面を大切にする
  • 買収した後の、顧客、株主、従業員、社会の4者の満足度を高めていくとする経営理念「4Sモデル」から目を離さない

買収先への権限移譲

JTでは、その買収が成功かどうかを決定付けるのは、買収のプロセスではなく、買収後の統合作業にかかっているとしています。

反省材料としてあるのは、クロージングから統合計画の完成までに8カ月を要したRJRI買収の時の失敗です。その間、RJRIの社員や役員たちは、自分たちの将来について不透明な状況に置かれ、その間に人のモチベーションが大きく下がってしまった苦い経験が、JTにはありました。

これは組織運営上大きな問題となり、この経験から「もっと早く統合計画をつくるべきだった」という教訓が生まれます。

次の大型買収であるギャラハー買収の時には、統合のスピードを加速するために大きく以下二つの工夫をし、実際にクロージングから100日で統合計画を作成しています。
 

  • JTからJTI(RJRI買収時に誕生したJTの海外たばこ事業を担う組織)に大幅な権限委譲をし、「JTI主体の統合」を行うこと
  • 統合における基本原則を買収発表前から準備し、コミュニケーションを繰り返しながら、全社での遵守を徹底してくこと

3. JTのM&A事例

JTのM&A事例

近年におけるJTのM&Aの歴史において、目立つものを以下に挙げています。

これらの事例について説明します。

イギリスとアメリカを除けば、近年の買収先のある国は、中南米やアフリカ、バングラディッシュなど、今後も経済発展が見込まれる開発途上地域に多いことがわかります。

なお、2018年8月には、バングラディッシュのアジキグループを買収することを発表しました。こちらは予定として入れています。
 

2007 ギャラハー(イギリス) 1兆7,310億円
2011 ハガー(スーダン) 350億円
2013 ナラハ(エジプト) 非公表
2015 フラクソ(ブラジル) 非公表
2016 ラ・タバカレラ(ドミニカ共和国) 約20億円で株式50%
2016 レイノルズ・アメリカン(アメリカ) 約6,000億円で米国外のたばこ事業
2017 マイティー(フィリピン) 約1,100億円
2017 カリヤディビア・マハディカなど2社(インドネシア) 約1,100億円
2017 ナショナル・タバコ・エンタープライズ(エチオピア) 約490億円で、出資比率70%
2018 ドンスコイ・タバック(ロシア) 約1,900億円
2018 【予定】アキジグループ(バングラディッシュ) 約1,645億円

ハガー(スーダン)

2011年に、スーダンと南スーダンで事業を展開している「ハガーシガレット&タバコファクトリー(北スーダン)」社と同(南スーダン)社の全発行済株式を取得しています。

ハガーはスーダンでは80%超のシェアがあります。新たな市場へ事業展開を始め、新興国市場で収益力強化を目指します。

なお、スーダンはこの年、南北に分離しています。いわば転換期にあり、両国経済の発展も期待しての買収です。

買収総額は約350億円で、原資は手元資金、既存借入枠内での借入です。

南北スーダンの人口は約5000万人と日本よりは小さいですが、アフリカを含む新興国は国全体の経済成長の余地もあり、たばこ市場の成長もまだ期待できる地域です。

ローカルブランドのBringiを用いたブランド・ポートフォリオの強化や販売網の強化、生産設備の近代化、製品品質向上と従業員の能力向上に注力した結果、2012年には9億本から55億本への販売数量増を達成しています。規模はさほど大きくないものの、買収の効果は大きく成功だったと考えられます。

ナハラ(エジプト)

2012年には、エジプトの水たばこ会社、ナハラを買収しています。

水たばこは液体状の糖分などを混ぜた葉たばこを、細長いつぼ状の専用機具で熱しながら煙を吸引するもので、日本ではなかなか見られないですが中東、北アフリカでは現在でも人気が高いものです。

エジプトのたばこは3割は水たばこで、かつ中東と北アフリカ地域にはこの水たばこの需要も多いことから、成長が見込めると判断したものです。ただ、水たばこ事業、エジプトでの事業(紙巻きたばこ含む)ともにJTにとっては初めてですので、M&Aにより新市場への参入を図ったものと理解できます。

正確には、ナハラの国内事業と海外事業を手掛ける2社を買収しました。買収前年の売上高は88億円で、エジプトのほか中東、北アフリカの85カ国で水たばこの販売は、紙巻きたばこ240億本に相当する本数です。

具体的な効果のほどは数値などで公表されていませんが、2018年にはエジプトで紙巻きたばこの新商品投入の発表がありました。買収を足掛かりとして、新市場で着実にビジネスを展開しているようです。

フラクソ(ブラジル)

2016年には、ブラジルのフラクソという会社を買収しています。

ただし、フラクソはたばこや喫煙具などを扱う流通会社です。JTは南米や東南アジアが手薄となっており、南米で最も人口が多いブラジルで流通面も含めて事業基盤を強化し、海外たばこ事業の成長につなげるためのものです。

JTはブラジル市場には2014年に再参入し、「キャメル」や「ウィンストン」などの銘柄を販売しています。しかしながら、ブラジルのたばこ市場規模は約730億本ととても大きい一方で、JTのシェアは1%未満でした。

この効果のほどは、正確な数値などで公表されていませんが、2017年にはブラジルに生産ラインを建設しています。買収を足掛かりに流通を強化し、現地生産でさらに競争力を高めて、さらなるシェア向上を狙うものです。

まだ買収戦略は進行中と言えますし、成功かどうかは今後の展開次第だと考えられます。

ラ・タバカレラ(ドミニカ共和国)

ラ・タバカレラ(ドミニカ共和国)

2016年には、ドミニカのラ・タバカレラを買収しています。

同社の個人株主から、約16億円で50%の株式を取得します。49.5%を出資するドミニカ政府と共同のジョイントベンチャーです。

JTは中南米地域は手薄なため、販路拡大を狙うものです。ブラジルのフラクソの買収と同じ戦略の一環と考えられます。

JTとしては中南米初の紙巻きたばこ製造拠点を得たことになり、将来的には近隣のグアテマラやエルサルバドルへの事業拡大の検討もしている模様です。

規模も小さいですし、効果のほども詳しくは公表されていません。こちらも今後の事業展開をにらんだ上での買収と言えますので、現在進行中の話と言えるでしょう。

レイノルズ・アメリカン(アメリカ)

ナチュラル・アメリカン・スピリット

2016年、JTは米たばこ大手のレイノルズ・アメリカンから、たばこブランド「ナチュラル・アメリカン・スピリット」(アメスピ)の米国以外(日本、ドイツ、スイス、イタリア、スペイン、英国等)での事業を、約6000億円で買収しています。買収額としてはとても大きいです。

なお、アメスピは1982年発売のブランドで、ネイティブアメリカンのイラストが描かれたパッケージで知られています。その他、香料や保存料などの添加物を使用せず、たばこ葉も天然で高品質なものだけを採用しています。また、一般的な商品と比べて約25%多くたばこ葉を使っているのが特徴です。

JTは多角化の失敗から、事業の柱はたばこ事業に落ち着きつつありますが、たばこは広告宣伝や販売促進に関する規制が厳しく、新たなブランド立ち上げも難しくなっています。

そこでのアメスピの買収は、海外市場の開拓と言うよりは、日本を含む成熟市場での売上増加とプレゼンス強化を狙ったものと言えます。

買収価格の高さとのれんの問題

ただし、JTは6000億円でアメスピを買収したのに対し、買収の実質的な買収価値は約4700億円ではないかと言われました。また、アメスピの税引き前純利益は21億円でしたから、実に利益の286倍の金額を投じる計算です。

実際、株式市場ではこの買収は高値づかみと判断されたため、買収の発表翌日、株価は約10%も下がりました。

本来考えられる価値より高い金額で買収した場合に、特に問題になってくるのが「のれん」です。JTの場合、買収を繰り返した結果、こののれんが2017年決算で1兆6,000億円を超えています。

こののれんですが、買収した事業が計画通りに進んでいれば、特に問題はありません。ただ、問題はないとは言うものの、のれんがJTのように膨大な金額になってくると、不穏な時限爆弾に見えるのも事実です。

なぜかというと、JTが採用しているIFRSの会計では、買収した事業が計画通りにいかなかった場合、その買収で積み上げたのれんは、一気に損失処理しなければなりません。

つまり、ある時突然、まとまった金額の損失が発生してしまうかもしれないのです。

JTにおいてはそのようなことはまだ発生していませんが、注意しておく必要があります。

アメスピの買収においても、買収してからまだ年月が浅いとはいえ、日本国内に限っては2017年での販売数量や収益、利益は前年比落ちています。ただ、アメスピの新製品の投入や改良を続けて行っているようですので、買収が成功だったかどうかはこの先の展開による思われます。

ギャラハー(イギリス)

上記とは話が遡りますが、2007年にイギリスのたばこ大手ギャラハーを買収しています。

買収価額は約1兆7,310億円で、ギャラハーの純有利子負債を含めた買収総額は約2兆2,530億円と、けた違いに大きいものです。

ギャラハーの買収は、外部資源の獲得を通じた規模の拡大を狙ったものです。JTは世界3位のタバコ製造会社でしたが2位とはまだ差があったため、ギャラハーを買収してより競争力を高めることが必要との結論に達していました。

ギャラハーは世界5位のたばこ製造会社で、英国・北欧諸国など5市場に40%以上のシェアを持っていました。日本・台湾・マレーシアの3市場だったJTの主要市場ですが、ギャラハー買収によってシェア2位以上の市場の数が一気に10になるまでに大きく躍進しています。

競争力がどうかについては議論の分かれるところですが、その後のJTの世界戦略を鑑みれば、ギャラハー買収によるこの規模の拡大自体は大きな意味を持つ成功事例だったと考えられます。

マイティー・コーポレーション(フィリピン)

2017年には、フィリピンのたばこ大手のマイティー・コーポレーションの製造設備や流通販売網、またたばこ事業に関する知的財産権などを、約1,048億円で買収しています。

マイティーはフィリピンで2位のたばこメーカーで、フィリピン市場でのシェアは約23%でした。

一方で、元々JTはフィリピンで「ウィンストン」などの製品を展開していましたが、現地でのシェアは5%以下と低迷していました。

結果としてフィリピンでのシェアは、ちょうど両者を足した29%に一気に上がっています。

ただしこの買収は、インドネシアやバングラディッシュと共に、東南アジア地域における事業基盤の更なる強化の基点とする目的が大きいものです。実際にも2016年に、ここフィリピンに建設した新工場で新たにたばこの製造を始めました。

シェアの上昇には成功したと言えますが、今後東南アジア地域でプレゼンスを広げられるかが、この買収が成功したかどうかの分かれ目と考えられます。

脱税疑惑

ただし、このマイティー・コーポレーションですが、脱税疑惑で訴追されていました。

このため、JTは買収にあたり130億円をフィリピン当局へ払う必要があり、実際の買収に要した金額は約1,178億円です。

クロスボーダーM&Aについては、国内よりもこういうことが起きやすいですが、それでも敢えて買収すれば、効果は大きいものとJTは判断したものと考えられます。

KDM(インドネシア)

2017年に、インドネシアのたばこメーカーと流通会社を、合わせて約1,100億円で買収しています。

一つは、インドネシアでタバコ製造を手掛ける、カリヤディビア・マハディカ(KDM)です。葉タバコに香辛料などを混ぜたインドネシア特有の「クレテックたばこ」を主に生産しており、2016年の売上高は約560億円で同国での市場シェアは2.2%でした。

もう一つは、KDMの製品を販売する流通会社のスーリヤ・ムスティカ・ヌサンタラです。

インドネシアは中国に次ぐ世界2位のたばこ市場で、紙巻きたばこの販売本数は約2850億本と巨大な市場です。また、今後も市場の拡大が見込まれています。

JTはメビウスなどの製品を展開していましたが、シェアは1%に満たない程でした。買収で現地の生産設備や販売網を手に入れることで早期のシェア向上を目指すものです。

KDMの買収で、インドネシアたばこ市場の約94%を占めるクレテックたばこカテゴリーにおけるプレゼンスを構築しています。また同市場全域に亘る流通網を獲得出来ましたので、将来的には同国内でのブランドの成長を図る目的があります。

こちらもまだM&A成立から年月が浅く、今後の事業展開をにらんだ上での買収と言えますので、成功したかどうかは今後の展開次第と言えます。

ナショナル・タバコ・エンタープライズ(エチオピア)

2017年には、エチオピアのたばこ専売会社ナショナル・タバコ・エンタープライズの株式40%を5約530億円でエチオピア政府から取得しています。

この株式取得により、JTグループは筆頭株主になり、市場が拡大しているアフリカでの販売体制の強化を目指しています。

9,700万人と大きな人口を抱えるエチオピアは、2011~2015年の実質経済成長率が年平均約10%と高成長が続いており、また今後もたばこ市場の拡大が見込まれています。その中でJTは、同社が保有しているたばこブランド「Nyala」などのブランドを活用しながら、製造・流通体制の更なる強化を図るものです。

資本参加ではありますが、スーダンやエジプトでM&Aを行ってきたのと同じ流れですので、同様に今後さらなるテコ入れをしていくものと考えられます。

ドンスコイ・タバック(ロシア)

ドンスコイ・タバック(ロシア)

2018年には、ロシア4位のたばこメーカー、ドンスコイ・タバックを1,900億円で買収しました。

ただし、JTはロシアでは、1999年のRJRI買収とその後のギャラハー買収によって、既に33%のシェアを持つ最大手にはなっていました。この買収は、ロシア国内のシェアを40%まで引き上げ、ロシアでのたばこ事業の盤石化を図る狙いで行われたものです。

また、同社は低価格帯製品に強みを持っていますが、この買収によってJTの収益が大幅に拡大する期待はあまり持てないものと考えられています。

現時点でのロシアのたばこ市場は世界第2位ととても大きいのですが、最近のロシアではたばこの規制が強化されています。たとえロシア国内でのシェアは上がったとしても、長期的にはロシアでのビジネス拡大は見込まれません。

実際に、この投資には失望感が広まったためか、買収発表日の株価は7.8%下落しました。まだ年月が経っていませんので今後の展開次第ですが、買収価額は高い割に、ロシア市場の現在を考えれば、他の買収に比べて効果は期待できないものかもしれません。

【予定】アキジグループ(バングラディッシュ)

アキジグループ(バングラディッシュ)

2018年8月に、バングラディッシュのたばこ市場シェア2位の、地場アキジグループのたばこ事業を買収することを発表しました。

買収額は1,645億円となる見込みで、これまでのバングラディッシュへの日本企業の投資額としては最大となる予定です。また、このM&Aが完了すれば、日本の対バングラディッシュ投資残高は米国、英国に次いで3位ともなります。

バングラディッシュはたばこ市場としては世界8位規模を持っています。また市場成長率も2%と他国に比べて高いです。JTは2015年からバングラディッシュ市場に参入していますが、バングラディッシュでのJTのプレゼンスは低いままでした。

バングラディッシュ政府は近年、農村部の開発・所得向上に力を入れており、JTは政府のこの方針と足並みをそろえる予定です。買収したアキジグループで働く1万4,000人以上の従業員の雇用を維持しながら、さらにたばこ農家の所得向上も目指します。

バングラディッシュ中央銀行のカビール総裁はこの点を高く評価していますし、JTの投資により輸出産業としてのたばこ産業の成長にも期待をされるなど、バングラディッシュからは歓迎されています。

【関連】M&A(買収)は株価に影響する?上昇・下落事例まとめ!

4. JTの買収失敗事例

JTの買収失敗事例

海外の買収においては、のれんの部分を除いてはほぼ成功事例と見て取れるJTの買収ですが、一方で国内の事業多角化で行ったM&Aについては、明らかに失敗と考えられるものがありました。

自動販売機事業の株式会社ユニマットコーポレーション(現・株式会社ジャパンビバレッジホールディングス)の買収(正確には、過半数の株式取得と資本・業務提携)。

そもそもこの買収は、事業多角化で参入したものの、振るわなかった飲料事業の販路拡大のテコ入れを目的としたものでした。

しかしながら、自動販売機に頼りっきりになったせいか、コンビニエンスストアをはじめとする他の販路開拓は全く振るわず、またそのせいか同社の飲料製品のブランドの認知度は低いままで育っていきませんでした(飲料業界では自販機の販路別構成比で3割程度なのに対し、JTは5割以上でした)。

飲料事業は赤字を続け、結局、2015年に飲料事業の売却と共に、この現・ジャパンビバレッジホールディングスの持ち株も、サントリーグループに売却することになっています。

何のシナジー効果も発揮できないまま終わった、JTのM&買収失敗事例と言えます。

5. JTのM&Aから学ぶなら本もおすすめ

JTのM&A 日本企業が世界企業に飛躍する教科書

JTのM&Aについては、よく読まれている人気の本があります。

新貝 康司 『JTのM&A 日本企業が世界企業に飛躍する教科書』、日経BP社、2015

著者は、幾多のJTのM&Aにも関わり、JTやJTIの副社長を務めた経歴もある方です。今の海外事業が大きくなったJTの礎を築いた方と言ってよいでしょう。

専売公社としての歴史の中では国内事業しかしていなかったJTが、グローバルになるひとつの方法として選んだ同社のM&Aは、その一つ一つが入念に準備されたものであることがわかります。

成功事例だけでなく失敗事例もその原因分析まで含めて書かれており、また、同社のM&Aに対する社員の意識の高さも成功のカギであると感じ取ることができる良書です。

また、話の中心はM&Aですが、海外現地法人のマネジメントにも応用できる記述も多く、ガバナンスの点でも勉強になります。

6. JTのM&A成功の秘訣まとめ

JTのM&A成功の秘訣まとめ

JTは専売公社から民営化された後、事業の多角化に乗り出していきましたが、ことごとく失敗の歴史に終わっていました。

多角化の失敗例としては、飲料事業があります。飲料事業においては自販機事業のユニマットコーポレーション(現・ジャパンビバレッジホールディングス)の買収(正確には過半数の株式取得と資本・業務提携)に乗り出しましたが、シナジー効果を発揮できず撤退しました。こちらは、M&Aの失敗例と言えます。

しかしながらJTは、多角化の失敗の一方で、海外のたばこ事業の強化を強力に推し進めることになります。その過程で、アメリカやヨーロッパを対象とした、大型のクロスボーダーM&Aも行ってきた歴史があります。近年のギャラハーの買収価額は、なんと1兆7,310億円です。

ここ最近でも、規模はそれより小さいものの、これまで手薄だった地域や国の販路拡大戦略に目的をシフトして、M&Aを続けています。2018年においても、バングラディッシュの会社を買収することが発表されています。

2018年に関しては一方で、JTにとって既に多くのお客様がいたロシアでの買収は、今後の展開にはあまり期待が持てません。ロシアはたばこの規制を強化し始めており、この流れは今後続いていくだろうと考えられるからです。

このJTのM&Aですが、投資銀行やコンサルタントをあまり利用しないのが独特です。基本的には情報収集のために適材適所で入ってもらうのみですし、サポートに入ってもらったとしても買収が成立するまでで、その後の統合は全て自分たちで進めていきます。

今もって世界のたばこ販売ではJTは世界3位ですが、1位と2位と戦う基盤を、クロスボーダーM&Aによる事業拡大とシナジー効果で整えてきたと言えます。

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