JTのM&A成功の秘訣を徹底解説!買収失敗はあるの?

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

1985年の民営化以降、JTは事業の多角化を始めましたが、多くの失敗を経験しています。しかし、その後はクロスボーダーM&Aによる海外展開へと路線を変更して、数々のM&Aに成功しました。今回は、JT特有のM&Aについて成功の秘訣や最新動向などを紹介します。

目次

  1. JTのM&Aを徹底解説!
  2. JTのM&A成功の秘訣
  3. JTのM&A事例
  4. JTの買収失敗事例
  5. JTのM&Aから学ぶなら本もおすすめ
  6. クロスボーダーM&AならM&A総合研究所
  7. JTのM&A成功の秘訣まとめ
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1. JTのM&Aを徹底解説!

JTの前身は、日本専売公社です。80年にも及ぶ経営の歴史がありましたが、1985年に民営化されました。ただし、現在でも財務大臣が33.35%の株式を持っている状況です。

こうした歴史を持つJTですが、1999年にはRJRナビスコの海外たばこ事業(RJRI・アメリカ)を約9,400億円で、2007年にはギャラハー(イギリス)を約1兆7,310億円で、それぞれ買収しています。

いずれのM&Aも、当時の日本企業における外国企業買収として史上最高額となりました。上記の企業を買収する以前、JTの海外売上高比率は7.4%(1998年)と低く、基本的に国内をターゲットにたばこを販売していました。

その一方で、M&Aの大型案件に着手するようになってからは、積極的にクロスボーダーM&Aを狙い、海外展開を推進しています。直近の2018年においても、ロシア企業やバングラディッシュ企業を買収しています。

国内のたばこ市場が縮小する中、海外におけるたばこの売上を順調に伸ばしている点や、たばこ事業における売上の2/3を海外で獲得している点を鑑みると、JTの戦略は概ね成功しているといえるでしょう。今回は、JT特有のM&Aについて詳しく解説していきます。

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2. JTのM&A成功の秘訣

ここではJTにおけるM&A成功の歴史と秘訣として、以下の項目に分けて紹介します。
 

  1. 多角化の失敗がルーツ
  2. パイロット買収の経験
  3. クロスボーダーM&Aの成功
  4. シナジー効果の最大化
  5. 独自のM&Aプロセス
  6. 買収先への権限移譲

それぞれの項目を順番に見ていきます。

①多角化の失敗がルーツ

1985年の民営化後、JTは国内たばこ事業の成長が見込めない中で、事業多角化の戦略を開始した歴史があります。

多角化の歴史を見ると、スッポンの養殖・野菜や果物の栽培・バーガーキングの経営・スポーツクラブの運営・不動産業などが該当しますが、結果的にほとんど失敗してしまい撤退しています。

多角化の失敗に関する最も最近のトピックとしては、2015年に発表された飲料事業の撤退が挙げられます。飲料事業では、1998年に自販機運営大手のユニマットコーポレーション(現・ジャパンビバレッジホールディングス)を買収して、販路拡大のテコ入れを図っていた時期がありました。

ここでは「桃の天然水」や缶コーヒー「ルーツ」といったヒット商品を生み出しましたが、その他に目立ったヒットがなく赤字経営も続いたことで、存在感をなくしてサントリーグループに売却し、撤退しています。

上記以外にも医薬事業を継続していますが、長年の赤字でJTの業績を押し下げてきました。1998年には鳥居薬品を買収するなどして、研究開発のテコ入れを図ってきた歴史があります。

2017年には2度目の黒字化を達成しましたが、事業開始から約30年という歴史におけるほとんどの期間で赤字を計上しています。

このように、JTが多角化に向けて始めた事業は、初期段階からことごとく失敗を繰り返していました。

②パイロット買収の経験

JTというとクロスボーダーM&Aによる大型買収案件が大きな話題を集めましたが、成功の裏には綿密な準備がありました。

初のクロスボーダー形式による大型M&A実施の7年前にあたる1992年、JTはマンチェスター・タバコ(イギリス)を買収していました

本件買収時にはすでにRJRナビスコの買収を視野に入れており、パイロット買収(試験的買収)としての役割を担わせています。

本件によってJTは海外展開のノウハウを獲得しており、RJRナビスコ社の海外たばこ事業買収への足がかりとしました

あらかじめ大型買収に向けて経験や知識を蓄えておいたことで、その後のM&Aを成功させる道筋を作っていたといえるでしょう。

③クロスボーダーM&Aの成功

多角化の失敗があり、JTを存続させる鍵は「たばこ事業」にかかっていましたが、これまでほとんど国内のみで展開していた「たばこ市場」は徐々に縮小されていきます。

そこでJTは海外に活路を見出すべく、クロスボーダーM&Aに積極的に取り組むようになりました。

1999年にRJRナビスコの海外たばこ事業(RJRI・アメリカ)を傘下に収めた買収を皮切りにして、各国のたばこ事業買収を積み重ねていきます。

最も買収規模が大きかった事例は、2007年のギャラハー買収(1兆7,310億円)です。

直近の事例は2018年で、ロシアのドンスコイ・タバックおよび、バングラディッシュのアキジグループを買収しています。

JTは「成長の時間を買う」手段としてM&Aを位置づけており、業界では「M&AはJTのお家芸」とも呼ばれている状況です。

ちなみに、現在のJTがたばこ市場で1位のシェアを獲得している国は、日本・ロシア・台湾となっています。

④シナジー効果の最大化

JTが買収で期待するシナジー効果の具体例を挙げると、2007年のギャラハー(イギリス)買収時のプレスリリースに掲載された、「規模拡大によるスケールメリットの享受」「両社の相互補完性」「技術・流通インフラの強化」のほか、「売上増」や「事業効率化」などが挙げられます。

上記は一般的なM&Aでも広く期待されるシナジー効果であり、JT特有のものではありません。

結果として、1999年にRJRI(アメリカ)を買収した際には、海外市場において従来の約10倍となるたばこ販売本数の実現に成功しています。また、パッケージの配色やデザインの統一といった積極的なマーケティング投資によりブランド強化を行ったこともあり、世界的な知名度向上も実現しました。

2007年のギャラハー(イギリス)買収では、欧州展開のブランドとともに、英国・アイルランド・オーストリア・スウェーデンなどの販売基盤も獲得しています。これに伴い技術・流通のインフラも強化されており、海外における販売本数が急増しました。

世界のたばこ販売を見るとJTは世界4位のシェアに留まっていますが、M&Aによる事業拡大とシナジー効果の獲得によって世界1位〜3位と争うための基盤を整えています。

⑤独自のM&Aプロセス

クロスボーダーM&Aを繰り返し行った歴史を持つJTですが、M&Aで一般的に活用される投資銀行・コンサルタントなどをそれほど利用していません。

日頃から自社の中でM&A候補となりそうな企業を検討しているほか、現地・候補先企業の情報収集からシナジー効果の検討に至るまで、ほとんどの準備を自社内で行っています。

投資銀行やコンサルタントを活用する機会を見ると、例えば、発展途上国において地元の投資銀行のみが把握している情報を獲得したいときなど、情報収集のため一時的に依頼するのみです。

サポートの依頼に関しても買収成立まででストップし、企業統合(PMI)プロセスはすべて当事者で済ませています。JTがM&Aプロセスにおいて大切にする点を要約すると、以下のとおりです。
 

  • 買収・統合に関わる社員には、当事者意識を強く持たせるようにする
  • 「進駐軍」にはならず、買収先の人的側面を大切にする
  • 買収後、顧客・株主・従業員・社会という4者の満足度を高めていくための経営理念「4Sモデル」から目を離さないようにする

⑥買収先への権限移譲

JTにおいて買収の成否を決定付ける要素は、買収プロセスではなく、買収後の統合作業にかかっています。

JTの反省材料は、クロージングから統合計画の完成までに8カ月を要したRJRI買収時の失敗です。このときに、RJRIの社員・役員たちの将来を不透明な状況に長く置いてしまい、人材のモチベーションを大きく低下させてしまった苦い経験があります。

上記は組織運営上大きな問題となっており、ここでの経験から「もっと早く統合計画を作成すべきだった」という教訓が生まれたのです。

次の大型買収となったギャラハー買収時には、統合スピードを加速すべく以下2つの工夫を実行しており、実際にクロージングから100日というスピードで統合計画を作成しています。
 

  • JTからJTI(RJRI買収時に誕生したJTの海外たばこ事業を担う組織)へ大幅に権限委譲して、「JTI主体の統合」を行うこと
  • 統合の基本原則を買収発表前から準備しておき、コミュニケーションを繰り返しながら全社での遵守を徹底すること

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3. JTのM&A事例

近年におけるJTのM&Aの歴史において、目立つ事例を以下にまとめました。

これらの事例について詳しく説明します。

イギリスとアメリカを除くと、近年の買収先は、中南米・アフリカ・バングラディッシュなど、今後も経済発展が見込まれる開発途上地域が多いです。
 

2007年 ギャラハー(イギリス) 1兆7,310億円
2011年 ハガー(スーダン) 350億円
2013年 ナラハ(エジプト) 非公表
2015年 フラクソ(ブラジル) 非公表
2016年 ラ・タバカレラ(ドミニカ共和国) 16億円で株式の50%
2016年 レイノルズ・アメリカン(アメリカ) 約6,000億円で米国外たばこ事業
2017年 マイティー(フィリピン) 約1,100億円
2017年 カリヤディビア・マハディカなど2社(インドネシア) 約1,100億円
2017年 ナショナル・タバコ・エンタープライズ(エチオピア) 約490億円で出資比率の70%
2018年 ドンスコイ・タバック(ロシア) 約1,900億円
2018年 アキジグループ(バングラディッシュ) 約1,645億円

ギャラハー(イギリス)

2007年、イギリスのたばこ大手ギャラハーを買収しています。

買収価額は約1兆7,310億円であり、ギャラハーの純有利子負債を含めた買収総額は約2兆2,530億円と非常に大規模な買収となりました。

ギャラハーの買収では、外部資源の獲得による規模の拡大を狙っています。当時のJTは世界3位のタバコ製造会社でしたが、2位とは差があったためギャラハーの買収で競争力を高める必要がありました。

ギャラハーは世界5位のたばこ製造会社であり、英国・北欧諸国など5つの市場で40%以上のシェアを持っていた企業です。日本・台湾・マレーシアの3市場だったJTの主要市場ですが、ギャラハー買収によってシェア2位以上の市場数を10にまで増やしています。

その後のJTの世界戦略を鑑みると、規模拡大を実現したギャラハー買収は大きな意味を持つ成功事例でした。

ハガー(スーダン)

2011年、スーダンと南スーダンで事業を展開している「ハガーシガレット&タバコファクトリー(北スーダン)」社および同(南スーダン)社の全発行済株式を取得しています。

ハガーはスーダンで80%超のシェアを持つ企業です。新たな市場への事業展開を開始して、新興国市場における収益力強化を目指しています。

なお、同年、スーダンは南北に分離しており転換期にあったことから、両国の経済発展も期待する買収でした。

買収総額は約350億円となり、原資は手元資金・既存借入枠内での借入です。

南北スーダンの人口は約5,000万人と日本に比べると小規模ですが、アフリカを含む新興国は国全体の経済成長に余地があり、たばこ市場の成長も依然として期待できる地域だといえます。

ローカルブランドのBringiを用いたブランド・ポートフォリオの強化や、販売網の強化・生産設備の近代化・製品品質向上・従業員の能力向上などに注力した結果、2012年には9億本から55億本にまで販売数量を増やすことに成功しました。規模は比較的小さいですが、買収効果を大いに実感できた事例です。

ナハラ(エジプト)

2012年には、エジプトの水たばこ会社「ナハラ」を買収しています。

水たばこは液体状の糖分などを混ぜた葉たばこを細長いツボ状の専用機具で熱しながら煙を吸引する仕組みであり、北アフリカで高い人気を誇るほか、最近は日本でも人気に火がついているたばこです。

エジプトにおけるたばこの3割は水たばこであるうえに、中東と北アフリカ地域では水たばこの需要が高いこともあり、JTは成長が見込めると判断しました。ただし、水たばこ事業・エジプトでの事業(紙巻きたばこ含む)ともにJTにとって初めての経験であるため、M&Aにより新市場への参入を図っています。

正確にいうと、ナハラの国内事業と海外事業を手掛ける2社を買収しました。買収前年の売上高は88億円であり、エジプトのほか中東・北アフリカ85カ国での水たばこ販売数は紙巻きたばこ240億本分に相当します。

具体的効果については数値で公表されていませんが、2018年にはエジプトで紙巻きたばこの新商品投入が発表されました。買収を足がかりとして、新市場において着実にビジネスを展開しています。

フラクソ(ブラジル)

2016年には、ブラジルのフラクソという会社を買収しています。

フラクソは、たばこや喫煙具などを扱う流通会社です。JTは南米や東南アジア地域に弱点を感じており、南米で最も人口が多いブラジルの流通面も含めて事業基盤を強化して、海外たばこ事業の成長につなげる狙いがありました。

2014年、JTはブラジル市場に再参入しており、「キャメル」や「ウィンストン」などの銘柄を販売しています。ブラジルのたばこ市場規模は約730億本と非常に大きいですが、JTのシェアは1%未満でした。

買収の具体的な効果は数値で公表されていませんが、2017年にはブラジルに生産ラインを建設しています。買収を足がかりとする流通の強化により現地生産で競争力を高めつつ、さらなるシェア向上を狙っている状況です。

買収戦略は進行中であるため、成否は今後の展開次第だといえるでしょう。

ラ・タバカレラ(ドミニカ共和国)

2016年には、ドミニカのラ・タバカレラを買収しています。

ラ・タバカレラは、49.5%を出資するドミニカ政府と共同のジョイントベンチャーです。同社の個人株主から、約16億円で50%の株式を取得しています。

JTは中南米地域を手薄に感じており、販路拡大を狙いました。ブラジルのフラクソの買収と類似する戦略だといえます。

JTは中南米初の紙巻きたばこ製造拠点を得たことで、将来的には近隣のグアテマラやエルサルバドルなどへの事業拡大も検討中です。

本件M&A自体は小規模であり、具体的な効果は公表されていません。今後の事業展開を図ったうえで買収しているため、現在進行中の事例です。

レイノルズ・アメリカン(アメリカ)

2016年、JTは、米たばこ大手のレイノルズ・アメリカンからたばこブランド「ナチュラル・アメリカン・スピリット」(アメスピ)の米国以外(日本・ドイツ・スイス・イタリア・スペイン・英国など)での事業を約6,000億円で買収しています。取引金額を見ると、非常に大規模な事例です。

アメスピは1982年発売のブランドであり、ネイティブアメリカンのイラストが描かれたパッケージで広く知られています。

そのほか、香料や保存料などの添加物を使用せず、たばこ葉も天然で高品質なものだけを採用している点や、一般的な商品と比べて約25%多くたばこ葉を使っている点なども特徴的です。

JTは、多角化の失敗から事業の柱をたばこ事業に落ち着かせていますが、たばこは広告宣伝や販売促進に関する規制が厳しいため、新たなブランドの立ち上げも難しくなっています。

アメスピの買収は、海外市場の開拓よりも、日本を含む成熟市場での売上増加とプレゼンス強化を狙った事例です。

買収価格の高さとのれんの問題

JTは6,000億円でアメスピを獲得しましたが、実質的な買収価値は4,700億円程度だったのではないかと批評されています。アメスピの税引き前純利益は21億円であったため、利益の286倍もの金額を投じていた計算です。

実際に株式市場において本件買収は高値づかみと判断されており、買収発表の翌日の株価は約10%も低下しています。

本来の価値よりも高い金額で買収した場合、特に問題となるのが「のれん」です。JTでは買収を繰り返した結果として、2017年決算時にのれん部分が1兆6,000億円を超えています。

買収した事業が計画どおりに進んでいれば、特に問題はありません。ただし、のれんが膨大な金額になると、まさに不穏な時限爆弾となる可能性もあります。

なぜなら、JTが採用するIFRSの会計では、買収した事業が計画どおりにいかなかった場合、買収で積み上げたのれんを一気に損失処理しなければならないためです。

つまり、あるとき突然、まとまった金額の損失が発生してしまいかねません。現時点においてJTでは発生していませんが、今後とも注意しておく必要があります。

アメスピの買収においても、買収から年月が浅いとはいえ、日本国内では販売数量・収益・利益などが低下している状況です。

ただし、アメスピの新製品投入や改良を継続しており、買収の成否は今後の展開にかかっています。

マイティー・コーポレーション(フィリピン)

2017年には、フィリピンのたばこ大手「マイティー・コーポレーション」の製造設備・流通販売網・たばこ事業に関する知的財産権などを約1,048億円で買収しています。

マイティーはフィリピンで2位のたばこメーカーであり、フィリピン市場でのシェアを約23%保有していました。

その一方で、もともとJTは、フィリピンにおいて「ウィンストン」などの製品を展開していましたが、現地でのシェアは5%以下と低迷していたのです。

M&Aの結果として、JTのフィリピンにおけるシェアは、両社を足した29%程度まで向上しています。

ただし本件買収は、インドネシアやバングラディッシュとあわせて、東南アジア地域における事業基盤のさらなる強化の基点とする目的が大きい事例です。実際に2016年には、フィリピンに建設した新工場にて新たにたばこの製造を開始しました。

シェア向上には成功しましたが、今後は東南アジア地域にてプレゼンスを広げられるかどうかが、本件買収の成否を大きく分けます。

脱税疑惑

マイティー・コーポレーションの買収において、JTは脱税疑惑で訴追されていました。

これによりJTは買収にあたって130億円をフィリピン当局へ払う必要があり、買収に要した実際の金額は約1,178億円です。

クロスボーダーM&Aでは国内と比べてトラブルが発生しやすいですが、あえて買収を選ぶことで非常に大きな効果を獲得できると当時のJTは判断しています。

KDM(インドネシア)

2017年には、インドネシアのたばこメーカーおよび流通会社を、合計約1,100億円で買収しています。

買収企業のひとつは、インドネシアでタバコ製造を手掛ける「カリヤディビア・マハディカ(KDM)」です。葉タバコに香辛料などを混ぜたインドネシア特有の「クレテックたばこ」を主に生産しており、2016年の売上高は約560億円・同国での市場シェアは2.2%でした。

買収企業のもう一方は、KDMの製品を販売する流通会社「スーリヤ・ムスティカ・ヌサンタラ」です。

インドネシアは中国に次ぐ世界2位のたばこ市場であり、紙巻きたばこの販売本数は約2,850億本と非常に巨大な市場です。今後とも、市場の拡大が見込まれています。

JTはメビウスなどの製品を展開していましたが、シェアは1%に満たないほどでした。買収により現地の生産設備や販売網を手に入れることで、早期のシェア向上を目指しています。

KDMの買収で、インドネシアたばこ市場の約94%を占めるクレテックたばこカテゴリーのプレゼンスを構築しました。また同市場全域にわたる流通網を獲得しており、将来的には同国内でブランドの成長を図るものと見られます。

M&A成立から年月が浅く将来的な事業展開を狙った買収であるため、成否は今後の展開次第です。

ナショナル・タバコ・エンタープライズ(エチオピア)

2017年には、エチオピアのたばこ専売会社ナショナル・タバコ・エンタープライズの株式70%を約490億円でエチオピア政府から取得しました。

本件株式取得によりJTグループは筆頭株主となり、市場が拡大するアフリカにおける販売体制の強化を目指しています。

9,700万人と膨大な人口を抱えるエチオピアは、2011〜2015年の実質経済成長率が年平均約10%と高成長が続いており、今後もたばこ市場の拡大が見込まれる国です。

こうした中でJTは、同社が保有するたばこブランド「Nyala」などのブランドを活用しながら、製造・流通体制のさらなる強化を図っています。

資本参加という形ですが、スーダンやエジプトで実施したM&Aと類似しており、これらの事例と同様に今後さらなるテコ入れを加えていく見込みです。

ドンスコイ・タバック(ロシア)

2018年には、ロシア4位のたばこメーカー、ドンスコイ・タバックを1,900億円で買収しました。

ロシアにおいてJTは、1999年のRJRI買収と2007年のギャラハー買収によって、すでに33%のシェアを持つ最大手たばこ企業となっていました。本件買収は、ロシア国内のシェアを40%にまで引き上げて、ロシアにおけるたばこ事業の盤石化が図られています。

買収企業は低価格帯製品に強みを持っていますが、本件買収ではJTの収益が大幅に拡大する期待はそれほど持たれていません。

ロシアのたばこ市場は世界第2位と非常に大きいですが、昨今のロシアはたばこ規制が強化されています。たとえロシア国内でのシェアを上げたとしても、長期的にはロシアにおけるビジネス拡大は見込まれません。

実際に本件投資により失望感が広まったことも相まって、買収発表日の株価は7.8%下落しました。

年月が経っていないため今後の展開次第ですが、ロシア市場の現状を考慮すると、買収価額が高額であるにも関わらず他の買収に比べてそれほど良い効果は期待されていません。

アキジグループ(バングラディッシュ)

2018年8月には、バングラディッシュのたばこ市場シェア2位のアキジグループのたばこ事業を買収すると発表しました。

買収額は1,645億円となっており、バングラディッシュに対する日本企業の投資額としては最大規模です。本件M&Aの完了によって、日本の対バングラディッシュ投資残高は米国・英国に次いで3位となっています。

バングラディッシュはたばこ市場としては世界8位の規模を持つ国です。市場成長率も2%と、他国に比べて高いといえます。JTは2015年からバングラディッシュ市場に参入していますが、バングラディッシュにおけるJTのプレゼンスは低い状況にありました。

近年、バングラディッシュ政府は農村部の開発・所得向上に力を入れており、JTは政府の方針と足並みをそろえていく予定です。買収したアキジグループで働く1万4,000人以上の従業員の雇用を維持しながら、たばこ農家の所得向上も目指しています。

バングラディッシュ中央銀行のカビール総裁はJTの姿勢を高く評価しており、JTの投資によって輸出産業としてのたばこ産業の成長にも期待されるなど、バングラディッシュからは大いに歓迎されている状況です。

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4. JTの買収失敗事例

のれん部分を除くと、海外の買収においてほとんど成功を収めているJTの買収事例ですが、その一方で国内の事業多角化に向けて実施したM&Aについては明らかな失敗と捉えられる事例がありました。

それが、自動販売機事業を手掛ける株式会社ユニマットコーポレーション(現・株式会社ジャパンビバレッジホールディングス)の買収です。正確には、過半数の株式取得と資本・業務提携が行われました。

もともと本件買収の目的は、事業多角化で参入したにも関わらず振るわなかった飲料事業における販路拡大のテコ入れです。

しかし、自動販売機に頼り過ぎたこともあり、コンビニエンスストアをはじめとする他の販路開拓が全く振るわないばかりか、同社の飲料製品ブランドの認知度が低いまま育ちませんでした。

飲料業界における自販機の販路別構成比は3割程度であるのに対して、JTでは5割以上を占めていたためです。

飲料事業は赤字を続けた結果、2015年には飲料事業の売却とともに、現・ジャパンビバレッジホールディングスの持ち株もサントリーグループに売却しています。

いかなるシナジー効果も発揮できないまま終わってしまった、JTのM&A買収失敗事例です。

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5. JTのM&Aから学ぶなら本もおすすめ

JTのM&Aについては、広く読まれている人気の本があります。

それが、 『JTのM&A 日本企業が世界企業に飛躍する教科書』(新貝 康司 著/日経BP社)です。

著者はこれまで幾多のJTのM&Aに関わったほか、JTやJTIの副社長を務めた経歴を持っています。現在のように、海外事業の規模が大きくなったJTの礎を築いた人です。

専売公社としての歴史において国内事業のみしか手掛けていなかったJTですが、本書を読むとグローバル化する方法として選んだM&Aは、ひとつひとつ入念に準備されていたことがわかります。

成功事例だけでなく失敗事例も原因分析を含めて記述されており、M&Aに対する社員の意識の高さも成功の鍵であると感じ取れる良書です。

話の中心はM&Aですが、海外現地法人のマネジメントに応用できる記述も多く、ガバナンスの面でも勉強になる一冊だといえます。具体的なM&A戦略・手法・自社で期待できるメリットやデメリットなどを検討したい人にもおすすめです。

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6. クロスボーダーM&AならM&A総合研究所

M&A総合研究所は、国内のみならず、アジア圏のM&Aにも積極的に取り組んでいる仲介会社です。経験豊富なM&Aアドバイザーが親身になってサポートいたします。

料金体系は完全成功報酬制(※譲渡企業のみ)、着手金は完全無料となっております。ご相談は無料でお受けしておりますので、クロスボーダーM&Aをご検討の際は、お電話・Webよりお気軽にご連絡ください。

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7. JTのM&A成功の秘訣まとめ

JTは専売公社から民営化された後に事業の多角化に乗り出しましたが、多くの事例が失敗しています。

多角化の具体的な失敗例は、飲料事業です。飲料事業では自販機事業のユニマットコーポレーション(現・ジャパンビバレッジホールディングス)の買収に乗り出しましたが、シナジー効果が発揮されず撤退しました。上記は、M&Aの失敗例ともいえます。

しかしJTは、多角化に失敗した一方で、海外たばこ事業の強化を積極的に推し進めました。この過程では、アメリカやヨーロッパを対象とする大型のクロスボーダーM&Aを行った歴史を持っています。近年行ったギャラハーの買収は、1兆7,310億円という膨大な買収価格で取引された事例です。

最近でも規模は比較的小さいものの、これまで手薄だった地域・国の販路拡大戦略に目的をシフトしてM&Aを続けています。2018年には、ロシアおよびバングラディッシュの会社を買収しました。

とはいえ、JTにとってすでに多くのシェアを抱えていたロシアの買収は、将来的な展開にそれほど大きい期待は持たれていません。ロシアはたばこの規制を強化しており、この流れは今後も続いていく見込みであるためです。

JTのM&Aは、投資銀行やコンサルタントをそれほど利用しない点に特徴があります。基本的に情報収集目的で利用するのみに留まっており、サポートを依頼しても買収成立までの契約とし、経営統合はすべて当事者のみで進めている状況です。

世界のたばこ販売においてJTは世界4位ですが、クロスボーダーM&Aによる事業拡大とシナジー効果によって1位〜3位と争う基盤を整えています。

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