2022年06月06日更新
M&A・企業買収で株価は上昇・下降する?株価の変動要因、事例も徹底解説
M&Aの実施は、会社にとって重要な決断です。そして、その影響は当然ながら株価に影響します。では、M&Aの実施は、株価にどのような影響を与えるのでしょうか。この記事では、会社が実施するM&Aの株価に対する影響について、事例を用いて紹介します。
目次
1. M&A・企業買収が株価に与える影響
M&A・企業買収で株価は変動する
2000年代に入り、日本でも国内企業同士、あるいは海外企業を絡めたM&Aの合計件数が増え、頻繁にM&A絡みのニュースを見聞きする機会が増えました。
2018年5月には、武田薬品工業がアイルランドのバイオ薬品メーカー・シャイアーを約460億ポンド(約6兆8,000億円)で買収するのを発表し、日本企業による買収案件として、その取得価額が過去最大となる見込みで話題となりました。
M&Aの公表およびその実行により、当該企業の株価は上昇するのか、それとも下落するのでしょうか。
一般的には、取得企業が支払う買収価格や、取得企業の事業規模に対する被取得企業の規模、取得企業と被取得企業の事業における関連性などにより、取得企業および被取得企業の株価に影響をおよぼします。
M&Aの公表および実行が、当事者企業の株価にどのような影響をおよぼし、どのようになるのか、具体的に紹介します。
M&A・企業買収で株価が上下動する要因
株価は、企業における売上高などの業績、保有する資産、将来性、ブランド価値など、いろいろな要因から影響を受けます。値動きには、各企業における業績などの影響が大きいのはもちろんですが、日本経済・世界経済の景気、為替・政治動向などの影響も受けます。
人の心理なども株価には大きく影響し、その動きを予想するのは簡単ではありません。好調な業績発表をして株価上昇が見込まれても、市場が期待するくらいの業績でなければ失望されて株価は下がるのです。
一方、減収減益が苦しい決算でも、市場が想定するより業績が悪くない場合は、株価が上昇するケースもあります。
M&A・企業買収で企業が受ける影響
M&A(買収)により企業はどのような影響を受けるのか見ていきましょう。
買収の発表により、業績向上などが株式市場から期待され、買収する会社の株価は上がる可能性が高まります。
しかし、近年は、大型買収の発表をすると次のように取られ、株価が下落するケースもあるのです。
- 買収株価が高すぎるかもしれない
- 買収資金調達で負債が増加するかもしれない
- 買収効果のない企業買収かもしれない
- 結果的に買収会社の業績が悪化するかもしれない
前述した武田薬品によるシャイアーの買収も、買収を発表して株価が下落しました。既存株主に株式の希薄化の懸念が生じたこと、買収における社債や借入による負債の増加、高額な買収価格が不安視されたのでしょう。
買収する企業の株価にもたらす影響
買収する企業の株価にもたらす要素は、その企業の業績やブランド力が大きな影響を受けます。買収の発表によって、企業規模の拡大や業績向上が期待された場合は、買収する会社の株価は上昇するケースが高いでしょう。
しかし、近年の傾向として大型買収を発表すると、株価が下がるケースも見られるようになりました。その主な理由は以下が挙げられます。
- 買収する株価が高すぎる
- 買収資金の調達で負債が増える可能性
- 買収効果のない可能性
- M&Aによって買収会社の業績までも悪化する可能性
買収される企業の株価にもたらす影響
一方、買収される企業の株価にもたらす影響はどのようなものがあるのでしょうか。企業買収は一般的に、対象会社の株価が安いと判断し、プレミアム価格を付けてTOBを実行します。
TOBを行わない場合でも市場で株式を買い集めれば、買収される側の会社の株価は上がるため、買収される会社の株価は上昇する傾向が高いといえるでしょう。
M&A・企業買収による株価の動きに規則性はある?
他企業あるいは他企業の事業を取得する会社の株価を前提とすると、M&Aによる株価の動きには一定の規則性が見られます。
例えば、売上高3,000億円未満の中規模上場会社が実施するM&Aは、一般的には短期的な株価上昇を導きますが、中長期的には株価の押し下げ要因となるのです。
これは、M&A後の事業統合などがうまくいかず、リストラクチャリングコストなど多額の費用および損失を計上する会社が多く見られることに起因すると考えられるでしょう。
それに対して、売上高5,000億円超の大規模上場会社では、M&Aの公表および実行初期には多額のM&A費用の計上などにより、短期的には株価の下落要因となる場合があるのです。しかし、中長期的にはM&A後の事業シナジーなどの発現により、株価が上昇するケースが多く見られます。
上述した買収会社の株価規則性は、すべてのM&Aを実施した会社の株価に当てはまるものではなく、当該M&Aの内容やその後の事業状況により大きく異なります。
2. M&A・企業買収が株価に影響を与えた事例(買収する側)
M&A事例をとおして、M&Aによる株価の影響(買収する側)を見ていきましょう。
M&A・企業買収により株価が上昇
まず、買収サイドの株価が上昇した事例として、ダイキン工業のグッドマングローバルグループインク(以下、グッドマン)の事例、およびRIZAPグループのM&A戦略事例を紹介します。
ダイキン工業
ダイキン工業は2012年8月に米国空調機器大手であるグッドマン社の買収を発表し、2012年11月、買収に関する手続きがすべて完了したことを、2012年11月9日の四半期報告書で公表しました(買収価格37億ドル)。
なお、当該事象は2010年末のニュースで買収交渉が行われていることが報じられていました。2010年末から2012年の買収、さらに現在までの株価および日経平均の推移は以下のとおりです。日経平均は()で記載しています。
2010年12月27日 終値:2,880円/株(10,355.99)
2012年 8月30日 終値:2,112円/株(8,983.78)
2012年11月 9日 終値:2,165円/株(8,757.60)
2012年12月 終値:2,942円/株(10,395.18)
2013年12月 終値:6,550円/株(16,291.31)
2014年12月 終値:7,810円/株(17,450.77)
2015年12月 終値:8,901円/株(19,033.71)
2016年12月 終値:10,735円/株(19,114.37)
2017年12月 終値:13,335円/株(22,764.94)
2018年12月 終値:11,695円/株(20,014.77)
2019年12月 終値:15,450円/株(23,656.62)
(出典:日本経済新聞(日経電子版)-ダイキン工業より抜粋)
このように、グッドマンの買収金額総額(37億ドル)は、2012年4月1日時点に保有する現金および預金1,354億円の約2倍であり、不足する買収金額は銀行からの借り入れで補填されたことから、買収の公表および完了時の株価は上昇していません。
しかし、2013年以降、株価は上昇し、その上昇率は日経平均の上昇率を大きく上回っています。これは、ダイキン工業のグッドマン買収後における事業拡大の影響です。下記は、グッドマンを買収した13年3月期以降における各年の売上高・経常利益・税前利益です。
単位:億円
|
13年3月期 |
14年3月期 |
15年3月期 |
16年3月期 |
17年3月期 |
18年3月期 |
売上高 |
12,909 |
17,876 |
19,150 |
20,436 |
20,439 |
22,905 |
経常利益 |
941 |
1,555 |
1,942 |
2,095 |
2,310 |
2,550 |
税前利益 |
435 |
927 |
1,196 |
1,369 |
1,539 |
1,890 |
(出典:ダイキン工業-決算説明資料より抜粋)
このように、13年3月期と18年3月期を比べると売上高は1兆円増加し、経常利益は約2.5倍、税前利益は約4倍となり、企業価値が向上し株価が上昇したことがわかります。
2019年以降も、売上高および利益額の増加が期待され、株価は引き続き上昇傾向にあると考えられます。
RIZAPグループ
次はRIZAPグループです。RIZAPは有名なフィットネスビジネス以外に、M&Aを積極的に実施し事業を拡大してきました。
2017年2月に実施したジーンズメイトの株式公開買付・第三者割当増資の引き受け、2017年3月に実施した「ぱど」の第三者割当増資の引き受け、2017年6月に実施した堀田丸正の第三者割当増資の引き受けなど、事業拡大を図っています。
その結果、株価は2017年3月31日の株価211円が、2017年11月30日には1,474.5円と8カ月で約7倍に上昇しました。
その後は、業績予想を下回った影響などにより株価は下降しましたが、2018年9月にも672円と2017年3月31日株価の約3倍となりました。
今後、株価がどうなるかは業績次第と考えられます。
M&A・企業買収により株価が下落
買収サイドの株価が下落した事例として、パナソニックによる三洋電機の買収・子会社化と、グリーによるM&A戦略の事例を紹介します。
パナソニック
パナソニックは、2009年12月に三洋電機を連結子会社化し、2011年4月に完全子会社化しました。
しかしその後、三洋電機との重複ビジネス統廃合などで追加コストが発生するとともに、三洋電機から取得したソーラー事業および民生用リチウムイオン電池事業などに関連するのれんについて、2013年3月期に減損損失を計上し、多額の税引前当期純損失を計上し株価が下落しました。
日経平均は()で記載しています。
2009年12月 終値:1,325円/株(10,546.44)
2010年12月 終値:1,153円/株(10,228.82)
2011年12月 終値: 654円/株(8,455.35)
2012年12月 終値: 522円/株(10,395.18)
2013年12月 終値:1,224円/株(16,291.31)
2014年12月 終値:1,427円/株(17,450.77)
2015年12月 終値:1,240.5円/株(19,033.71)
2016年12月 終値:1,189.5円/株(19,114.37)
2017年12月 終値:1,649.5円/株(22,764.94)
2018年12月 終値:990.6円/株(20,014.77)
2019年12月 終値:1,029.5円/株(23,656.62)
(出典:日本経済新聞(日経電子版)-パナソニックより抜粋)
このように日経平均は、2009年12月から2013年6月にかけて、約30%上昇しているにもかかわらず、パナソニックの株価は、約40%下落しています。
グリー
グリーはビジネスの拡大を目的に、インターネット事業会社を2011年1月および2011年4月に買収し、事業の拡大を期待して株価が拡大しました。
しかし、2012年5月にコンプガチャが景品表示法に抵触する可能性があるとして問題視されたことにより、グリーはユーザーへの課金方法やサービス提供方法の変更が必要となり、株価が大きく下落しました。なお、日経平均は()で記載しています。
2010年12月 終値:1,033円/株(10,228.82)
2011年12月 終値:2,652円/株(8,455.35)
2012年12月 終値:1,338円/株(10,395.18)
2013年12月 終値:1,039円/株(16,291.31)
2014年12月 終値:724円/株(17,450.77)
2015年12月 終値:576円/株(19,033.71)
2016年12月 終値:617円/株(19,114.37)
2017年12月 終値:708円/株(22,764.94)
2018年12月 終値:435円/株(20,014.77)
2019年12月 終値:493円/株(23,656.62)
(出典:日本経済新聞(日経電子版)-グリーより抜粋)
このように日経平均は、2009年12月から2013年6月にかけて約30%上昇しているにもかかわらず、グリーの株価は、約15%下落しています。
3. M&A・企業買収が株価に影響を与えた事例(買収される側)
M&A事例をとおして、M&Aによる株価の影響(買収される側)を見ていきましょう。
M&A・企業売却により株価が上昇
売却サイドの株価が上昇した事例として、三菱電機のルネサステクノロジ売却(NECエレクトロニクスとの吸収合併)、NECのパソコン事業における中国レノボグループへの売却を紹介します。
三菱電機
三菱電機は、2003年4月に競争が激化していた半導体部門を分社化し、日立製作所の半導体部門と統合して、ルネサステクノロジを設立し、株式の45%を保有しました。
その後、2010年4月にNECエレクトロニクスとルネサスエレクトロニクスが合併し、株式の保有割合を25%にしました。2012年の産業革新機構によるルネサスエレクトロニクスへの出資などに伴い、2017年12月末時点では、その保有割合を約4%としています。
この期間、2008年に起きたリーマンブラザーズの倒産や2011年の東日本大震災の影響により、株価は一時的に下落します。しかし、半導体部門の分社化やルネサスエレクトロニクスの株式保有比率減少後に株価は上昇し、2003年4月と2017年12月比では株価が約6倍です。
なお、日経平均は()で記載しています。今後は、手堅く業績および株価が上昇するのが期待できるでしょう。
2003年4月 終値:309円/株(7,831.42)
2003年12月 終値:445円/株(10,676.64)
2004年12月 終値:502円/株(11,488.76)
2005年12月 終値:835円/株(16,111.43)
2006年12月 終値:1,086円/株(17,225.83)
2007年12月 終値:1,168円/株(15,307.78)
2008年12月 終値:552円/株(8,859.56)
2009年12月 終値:685円/株(10,546.44)
2010年12月 終値:852円/株(10,228.92)
2011年12月 終値:738円/株(8,455.35)
2012年12月 終値:731円/株(10,395.18)
2013年12月 終値:1,320円/株(16,291.31)
2014年12月 終値:1,446円/株(17,450.77
2015年12月 終値:1,283円/株(19,033.71)
2016年12月 終値:1,630円/株(19,114.37)
2017年12月 終値:1,872円/株(22,764.94)
2018年12月 終値:1,217円/株(20,014.77)
2019年12月 終値:1,499円/株(23,656.62)
NEC
NECのパソコン事業における中国レノボグループへの売却事例を紹介します。
NECは2016年7月に、NECと中国レノボグループが合弁でパソコン事業を統括するレノボNECホールディングスの株式を、レノボグループへ売却するのを発表しました。
これによりNECは、1980年代後半から2000年代にかけ、国内シェアNo.1であったパソコン事業から撤退しました。しかし、下記のように社会インフラ事業の拡大が期待され、短期的に株価は上昇しました。
M&A・企業売却により株価が下落
売却サイドの株価が下落した事例として、日立製作所の日立物流および日立キャピタルの株式譲渡、東芝の東芝メモリにおける売却M&A戦略を紹介します。
日立製作所
日立製作所は、注力する情報および社会インフラ事業ではない、子会社日立物流の株式一部をSGホールディングへ譲渡するのを2016年3月に公表しました。
2016年5月13日に、日立キャピタルの株式一部を三菱UFJフィナンシャルグループへ譲渡するのを公表しています。利益を恒常的に計上した子会社の事業分離などを不安視し、短期的に株価は事業譲渡を公表後に下落しました。
東芝
東芝の東芝メモリ事業における分社化および譲渡の事例を紹介します。東芝は2017年1月に、2016年12月27日付「CB&Iの米国子会社買収に伴うのれんおよび損失計上の可能性について」にて公表しました。
グループ会社であるウェスチングハウス社のCB&Iストーン&ウェブスター社の買収に伴うのれんに関して、数十億米ドル規模(数千億円規模)にのぼることが判明しました。
のれんの減損損失計上による債務超過の解消を目的として、メモリ事業の分社化および売却を公表しています。
通常の事業譲渡は、不採算部門の売却や経営戦略上の事業選択と集中に基づき行われるのが通常ですが、東芝のメモリ事業売却は損失補填の目的で行われ、収益獲得事業の売却として、短期的には株価の下落要因となりました。
4. M&A・企業買収のメリット・デメリット
M&A(買収)には、メリットとデメリットがあるので見ていきましょう。
メリット
まずは、主なメリットからです。
- 企業規模の拡大
- 成長スピードの加速
- 不足している経営資源の入手
- 進出したい商業エリアへの進出
- 業務の共通化・効率化によるコスト削減
M&A(買収)によって、生き残りをかける競争に勝つために、経営資源・成長スピードなどを得られることがメリットといえます。
デメリット
次に、主なデメリットは下記です。
- 買収対価が必要となる(現金を使用しない株式交換の手法もあり)
- アドバイザーコストがかかる
- 買収検討からクロージングまで時間がかかる
- 買収後のシナジー効果が発揮できないリスクがある(業績の悪化)
- コングロマリットディスカウントにより株価が下がる可能性
- 買収によって企業風土に変化するおそれがある
買収を検討するときは、自社にプラスとなる展開を期待しますが、実際にはデメリットも多く潜んでいるため、安易なM&A(買収)は経営上のリスクが高いことを認識しましょう。
5. M&A・企業買収におけるTOBが株価に与える影響
TOBとは、Take Over Bidの略で、日本語では「株式公開買い付け」です。TOBとは、買収や資本業務提携を行うときに取得する株式価格や期間、目標株数などを公告して株式を取得する行為のことです。
証券取引所をとおすことなく対象企業の株式を既存株主から大量に買い付けできるため、既存株主の合意を得れば友好的に買収へ取りかかれます。
TOBによる取引価格は既存株価よりプレミアムが付いた価格なので、TOB発表後は株価がTOB価格前後へと一気に上昇します。しかし、TOB後に期待した業績がなければ、TOBを行う前の株価になることがほとんどです。
先述したように、人の心理が株価に大きく影響するといえます。
TOBにおける友好的買収
買収は良いイメージがないと思うかもしれませんが、友好的買収といったケースもあります。友好的買収とは、買い手も売り手も友好的に両社合意のうえで買収を実施するものです。
TOBという手段を採択して買い手は買収を宣言し、売り手もTOBに賛同すると発表する方法なので、スムーズに企業買収が行えます。他にも資本業務提携で新株を発行するものや経営統合も友好的な買収といえるでしょう。
昨今は経営者の高齢化に伴う事業承継も友好的買収といいます。
TOBにおける敵対的買収
反対にTOBにおける敵対的買収は、相手の合意を得ずに株式を購入し、経営権を取得するM&Aです。M&Aのイメージとしてこちらのイメージの方が強いかもしれません。
企業は上場すると株式が証券市場に流通し、誰でも株式を購入できるため、TOBが採択される場合があるでしょう。会社を上場させるのは経営者の目標でもありますが、一方で自社が敵対的買収のリスクもある可能性があるのです。
買収防衛策とは
敵対的買収に対して、防衛策はあるのでしょうか。買収防衛策の1つに株式の持ち合いが考えられますが、昨今は株式市場のグローバル化やコーポレート・ガバナンスの強化の観点から、株式の持ち合いが選択されるケースはなくなっているでしょう。
買収防衛策は以下が挙げられます。
- 黄金株:重要事項の決議に拒否権が与えられた株式
- ポイズンピル:新株予約権の1つで、既存株主に有利な条件で新株発行が可能
- ホワイトナイト:自社を友好的な企業に買収してもらう
- パックマンディフェンス:買収を仕掛けられた会社が、反対に買収を仕掛ける
近年は、買収防衛策の導入企業が減少傾向にあります。なぜなら、買収防衛策が既存経営者の保身につながると一般的に見られてしまい、株主総会での反対が増えるからです。
6. M&A・企業買収の株価算出方法
M&Aの実施時における被買収会社あるいは事業の価値(株価)算定のうち、代表的なものを紹介します。
コストアプローチ
コスト・アプローチは、企業価値評価の手法の1つです。コスト・アプローチは、評価対象会社の貸借対照表の純資産を基準に算定するものになります。一方で、過去から蓄積された純資産をベースに評価するため、将来の収益は一切織り込まれません。
評価対象会社に知的財産権などの無形資産があったとしても、評価されないといったデメリットが存在します。純資産が評価のベースとなるため、帳簿金額などが間違っている場合や、計上漏れの場合は、適切に評価できないでしょう。
純資産価額方式
純資産価額方式は、評価対象会社あるいは事業資産の評価額から負債の評価額、および評価差額に対する法人税額など相当額を控除して、会社や事業の価値を算出する手法です。
当該方法は、国税庁でその評価技法の定めが行われている方法であり、通常は非上場中小企業の事業評価に使用されます。
当該評価技法を使用する場合に留意したいのが、通常の会計基準に基づき作成される貸借対照表に計上されている資産・負債を、財産評価基本通達の定めるところによって評価し直し、資産・負債の時価に基づき計算を行う点です。
つまり、当該会社あるいは事業を一定時点で現金化した場合の価値がいくらになるかに着眼した計算方法で、将来の事業成長性などの付加価値を評価に含めない方法であるといえます。
インカムアプローチ
インカム・アプローチは評価対象会社から将来期待される利益、キャッシュ・フローに基づいて企業価値を決定する評価方法です。
インカム・アプローチでは、対象会社の収益力や固有の事情を評価結果に反映できるといった点で優れています。複数のシナリオや変動要素を考慮できるため、柔軟に評価できる方法でしょう。
しかし一方で、主観的な要素が盛り込まれるため、客観的評価ができない可能性があります。当然ながら継続前提とした企業を評価対象としているため、疑義がある場合には慎重な適用が必要です。
収益方式
収益方式は、評価対象会社や事業の収益性に着目して、当該会社や事業の価値を算定する方法です。
当該方法には、一般的に収益のみに着眼する収益還元法、事業活動から生み出されるフリーキャッシュフローに着眼するCF法、フリーキャッシュフローを一定のディスカウントレートで割り引くDCF法が含まれます。
当該評価技法は、事業会社などが他の会社を買収する場合、被買収会社の事業規模などにかかわらず使用される一般的な評価技法になります。
なぜなら、当該評価技法はM&A後の事業計画に基づく将来計画やシナジーなどを織り込んで評価するのが可能だからです。
しかし、将来計画やシナジーなどを織り込むことは、不確定な事項やどうなるかわからない事項を、被買収会社の評価額に織り込むこととなってしまいます。その評価の客観性を立証するのが困難な場合がある点に留意が必要です。
APV方式
APV法は、無借金の事業価値と負債による節税効果の価値を加算して、株価を計算する方法です。無負債の事業価値は、将来得られるであろうフリーキャッシュフローを、アンレバード資本コストで割引いて求められます。
APV法であれば、資本構成が変化しても切り分けて計算できるので問題ありませんが、借入金を増やすことで発生する財務リスクは加味できないため注意が必要でしょう。
したがって、借入金の返済額がフリーキャッシュフローの範囲に収まっているかを事前にしっかりと確認するのが大切です。
配当還元方式
配当還元方式は、評価対象会社あるいは事業から生み出される1年間の配当金額を一定の利率で還元して、元本となる会社や事業の価値を算定する評価技法です。
税法上、取引相場のない株式における評価技法の特例として認められていますが、企業同士が実施するM&Aでは、特定の事業から生み出される配当額を計算するのは困難です。
事業戦略上、配当を行っていない場合もあるでしょう。一定利率の設定を客観的に行うことが困難であるため、使用されるケースは限られます。
なお配当還元方式は、広義には将来の収益に基づき行われる配当を基礎として評価が行われることから、収益方式の一技法と考えられます。
マーケットアプローチ
マーケット・アプローチは同業他社や類似取引事例などの比較によって企業価値を評価するものです。上場会社であれば、評価対象会社の株価で算定し、上場していない会社であれば、類似の株価を用いて算定する方法になります。
市場株価を使用して算定するため、客観的、公正に株価が評価されるでしょう。一方で、市場株価が異常値を示している場合や、類似の上場会社がないケースなどは妥当な評価ができません。
評価の基ととなる市場株価は少数株主価値といい、経営権を取得する場合にはコントロール・プレミアムを考慮する必要性があります。
類似会社比準方式
類似会社比準方式は、類似する特定の上場会社における市場株価などを参照して、評価対象会社あるいは事業の価値を評価する技法です。
評価対象会社の業種、規模などを考慮し、類似する特定の上場会社を選定し、評価対象会社と選定した上場会社の純資産価額などの財務数値を比較して倍率を算出します。算出した倍率を、選定した上場会社の市場株価などに乗じることで、評価対象会社の株価を算定するのです。
株式を公開する場合の公開株価を決定する際、参考利用されるケースがあるでしょう。なお当該技法は、類似する上場会社の選定および倍率の設定が恣意的になりやすい問題があります。
その他、税法上で類似業種比準方式が、取引相場のない大会社株式の原則的な評価技法として認められているのです。
当該評価技法は、評価対象会社と類似する業種の上場会社全部を選定し、評価対象会社と類似業種会社の純資産価額などの財務数値を比較して倍率を算出します。
そのうえで、算出した倍率を類似業種会社の株式市場株価に乗じることにより、評価対象会社の価値を算定する方式です。
取引事例方式
取引事例方式は、評価対象会社の株式に関して、過去に適正な売買が行われた場合、その取引価額を基に株式の価額を算定する方式です。過去の売買事例が複数回存在している場合は、基本的に直近の売買事例を用いることが一般的でしょう。
なお当該評価技法は、中小企業庁における非上場株式などの評価ガイドラインのうち、所得税および法人税の基本通達で利用されます。
当該評価技法は他の情報を活用し、評価対象会社の価値を算定する方式として、広義には比準方式の一部と考えられます。
市場株価平均方式
市場株価平均法とは、上場している会社の一定期間の平均株価を基に株価を評価する方法で、マーケット・アプローチの典型的なものになります。
過去1カ月~6カ月程度の市場株価をベースにした平均株価を評価額とし、平均値は出来高加重平均や終値平均でとるケースが多いです。
M&Aの対象会社が上場会社でなければ市場株価がないため、使用はできないでしょう。他にも市場株価が一時的な要因で異常値を示しているケースや出来高が極端に少ない銘柄などは、評価結果が合理的であるとはいえないため注意が必要です。
7. M&A仲介会社の株価変化
M&Aに関連する業務は、フェーズ毎に関与するアドバイザーなどが異なり、M&A仲介会社は主にマッチングから譲渡契約の締結までをサポートし、その中で必要に応じて弁護士や会計士などの専門家を利用してデューデリジェンスを実施するのが一般的です。
- マッチング
- 基本合意書の締結
- デューデリジェンス
- 価格決定
- 譲渡契約書
- PMI
ここでは、M&Aの仲介会社として株式を上場している企業の株価推移などを紹介します。
GCA
GCAは、2004年に設立したM&Aアドバイザリー会社であり、前身であるGCAホールディングスの株式を2006年に東証マザーズに上場し、2012年に東証1部へ市場変更しています。
2008年3月、GCAサヴィアングループとなり以降の株価は以下のとおりです。
2008年 3月 終値:3,590円/株
2009年 3月 終値:1,169円/株
2010年 3月 終値: 889円/株
2011年 3月 終値:1,377円/株
2012年 3月 終値: 880円/株
2013年 3月 終値: 928円/株
2014年 3月 終値: 889円/株
2015年 3月 終値:1,444円/株
2016年 3月 終値:1,184円/株
2017年 3月 終値: 946円/株
2018年 3月 終値: 662円/株
2019年 3月 終値: 788円/株
2020年 3月 終値: 563円/株
このように2009年以降、株価1,300円台から800円台で推移しており、PERも平均的に10%後半から20%前半で推移しているのです。
2017年は通期で利益額が大きく減少しましたが、2018年以降は売上高および利益額の増加が期待されています。今後どうなるかはわかりませんが、株価は上昇傾向にあると考えられるでしょう。
山田コンサルティンググループ
山田コンサルティンググループは、1989年10月に設立されたM&A仲介会社です。M&A仲介会社の中では、古くからある会社です。
事業内容は経営コンサルティング、不動産コンサルティング、事業再生コンサルティング、M&Aコンサルティングなど、他の仲介会社とは異なり、幅広く事業を行っているのが特徴です。過去の株価は以下となっています。
2012年 12月 終値:300.5円/株
2013年 12月 終値:574円/株
2014年 12月 終値:775円/株
2015年 12月 終値:968.8円/株
2016年 12月 終値:1,192.5円/株
2017年 12月 終値:2,726円/株
2018年 12月 終値:1,663円/株
2019年 12月 終値:1,621円/株
2020年 12月 終値:986円/株
8. M&A・企業買収が株価に与える影響まとめ
M&Aの実施は、会社業績の改善および株価の上昇を導く1つのトリガーとなりますが、当然ながら、その成功が約束されたものではありません。
M&Aの目的や性質は、実施する会社毎に異なり、長期的なビジョンに基づき実施するものが多く含まれます。
M&Aの実施により、株価がどうなるかは、M&Aの実施時点で判断するのは困難です。しかし、M&A実施の有無をトリガーとしつつ、その後の業績推移を確認し、M&Aが成功した事例か否かを確認することで、成功案件=株価上昇の図式を導けるのが期待できます。
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