2024年04月12日更新
後継者不足の現状と解決策・対策10選!【M&A/事業承継/廃業】
近年は後継者不足で事業承継ができず、廃業を検討している経営者が増加しています。後継者不足の解決策・対策には、M&Aによる事業承継が有効です。本記事では、M&Aなどによる後継ぎ不足の解決策・対策10選と、それぞれのメリット・デメリットを解説します。
1. 後継者不足の問題とは
中小企業の後継者問題とは、事業の継続性・成長性に問題はないものの、後継者不足が原因で廃業を余儀なくされている中小企業や個人事業主が増加している問題のことをさします。
後継者不足による廃業の増加は、地域経済、日本経済にとっても大きな打撃となるため、国や自治体もさまざまな対策を実施中です。本記事では、後継者不足の現状や、後継者不足の解決策・対策方法などを掲示します。
後継者不在による中小企業の廃業の増加
出典:日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」(2023年)
出典:https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/sme_findings230323_1.pdf
後継者不在が原因で廃業した中小企業や廃業予定の中小企業は、年々増加しています。日本政策金融公庫総合研究所が約4,000社の中小企業経営者に行った、事業承継に関するアンケート調査(2023年)によると、中小企業のうち後継者が決定している企業は10.5%で、廃業を予定している企業が57.4%あることがわかっています。
従業者規模別にみると、「決定企業」の割合は「1~4人」の5.6%が、「5~9人」では16.0%に高まるものの、10人以上のいずれのカテゴリーでも20%台にとどまっている状況です。
地域別の後継者不在率
帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査(2023年)」によると、日本の中小企業約26万社において後継者不在率は、2011年に調査を開始して以来最低の53.9%を記録しました。年々、不在率は改善されているため、後継者問題が徐々に解消されつつあることがわかります。調査では、都道府県別の数値も公表されています。
そのうち、後継者不在率が高く、70%を超えているのは以下の2県です。
- 鳥取県:71.5%
- 秋田県:70.0%
一方、後継者不在率の下位である10の都道府県は、いずれも50%以下を記録しています。
- 新潟県:47.2%
- 山形県:46.6%
- 福島県:46.1%
- 京都府:44.2%
- 千葉県:43.9%
- 鹿児島県:43.8%
- 佐賀県:43.1%
- 和歌山県:43.0%
- 茨城県:42.1%
- 三重県:30.2%
業種別の後継者不在率
帝国データバンクの同資料では、業種別の後継者不在率も公表されています。
- 建設業:60.5%
- 製造業:45.5%
- 卸売業:50.7%
- 小売業:57.9%
- 運輸・通信業:49.9%
- サービス業:58.2%
- 不動産:54.5%
どの業種も半数は後継者が不在となっていることがわかります。
2. 後継者不足が起こる理由
後継者不足が起こっている主な原因は、以下のとおりです。
- 少子化
- 事業の将来性
- 親族承継への不安
- 後継者不在に対する対策の遅れ
①少子化
後継者不足が起こる原因として、少子化による後継ぎ不在が1つの理由です。これまで中小企業の後継ぎは、多くが子どもへの事業承継で成り立っていました。
しかし、少子化によって子どもの数が減り、さらに事業を引き継ぎたくないと考える子どもが増えたことで後継者不足が起こり、親族間の事業承継は年々減り続けています。
②事業の将来性
前述した日本政策金融公庫総合研究所が行った事業承継に関するアンケート調査で、廃業予定理由として最も多かったのは「当初から自分の代でやめようと思っていた」、次点が「事業に将来性がない」でした。この2つの理由が全体の65%以上を占めています。
日本国内の消費活動が人口減で縮小していくなか、テクノロジーの進化により経済トレンドの変化は速くなる一方です。数年先を見通すのも難しい現代で、経営者や後継者候補の親族は事業の継続性に不安を抱えています。
その結果、事業の引き継ぎをためらう事態となり、後継者不足に拍車をかけています。
③親族承継への不安
ひと昔前までは、家業は子どもが継ぐものという風潮がありました。しかし、価値観の多様化や家族のあり方が変化したことによって、中小企業の経営者や個人事業主は、子どもに後継ぎを強制することが少なくなり、後継者不足が起きています。
親族間の事業承継は、相続の問題や個人保証の問題など、さまざまなトラブルが起こる可能性があることも問題です。事業譲渡や株式譲渡などのM&Aによる事業承継の際も、後継ぎの税負担や資金面の負担を考えて、親族承継をためらうオーナー経営者が多く存在します。
つまり、親族間のトラブルや後継者の負担を避けたい意識が、後継者不足を助長しています。
④後継者不在に対する対策の遅れ
事業承継の準備期間は、後継ぎの育成も含めると5年から10年は必要であるとされています。
しかし、帝国データバンクの「中小企業における事業承継に関するアンケート・ヒアリング調査」によると、60歳以上の中小企業経営者のうち約半数が「これから準備をする」「現時点では準備をしていない」「現在は事業承継を考えていない」との回答です。
後継者不在を解決するには早めの対策が必要ですが、実際には解決のための対策ができていない経営者が多い現状です。経営者が後継者不在への対策ができていない主な理由としてあるのが、以下の3点です。
- 日々の経営で精一杯
- 何から始めればよいかわからない
- 誰に相談すればよいかわからない
これらは経営者の自助努力では解決が難しい面があり、対策の遅れが後継者不足につながっています。後継者不在に対する対策の遅れを解決するには、国や地方自治体、M&Aの専門家などのサポートが欠かせません。
3. 後継者不足の解決策・対策10選!
後継者不足を解決するには、以下のような方法があります。
- 事業承継・引継ぎ支援センターを活用
- 後継者募集のマッチングサイトを利用
- M&A・事業承継の専門家に相談
- 親族や従業員に引き継ぐ
- 後継者候補を教育する
- 外部から招へい・登用を行う
- 技術やノウハウを外部にアピール
- 株式公開を行う
- 会社の将来性をアピール
- 廃業
これらの解決策にはメリットとデメリットがあります。それぞれのメリット・デメリットをまとめると、以下の表のとおりです。
後継者不足の解決策・対策 | メリット | デメリット |
---|---|---|
事業承継・引継ぎ支援センターを活用 | ・信頼性が高い | ・M&A・事業承継の実績がまだ少ない |
後継者募集のマッチングサイトを利用 | ・マッチングの機会を増やせる | ・信頼性に不安がある |
M&A・事業承継の専門家に相談 | ・案件数、実績が豊富 ・一貫してサポートしてもらえる |
・専門家によって報酬体系に差がある |
親族や従業員に引き継ぐ | ・交渉、手続きがスムーズに進みやすい | ・税金や資金の負担が大きい ・経営者としての適性に不安 |
後継者候補を教育する | ・企業風土に合った後継者を育てられる | ・教育に時間とコストがかかる |
外部から招へい・登用を行う | ・経営能力が高い人物を選べる | ・企業風土が変わる可能性がある |
技術やノウハウを外部にアピール | ・企業価値の向上につながる | ・手間と時間がかかる ・アピール方法に工夫が必要 |
株式公開を行う | ・会社の信頼性が高くなる | ・株式公開までの条件が厳しい |
会社の将来性をアピール | ・会社のブランド力が向上する | ・マーケティングのノウハウが必要 |
廃業 | ・リスクが少ない | ・経営資源が失われる |
それぞれの内容は以下で解説します。
解決策・対策①:事業承継・引継ぎ支援センターを活用
事業承継・引継ぎ支援センターとは、中小企業の事業承継を総合的にサポートする公的機関です。2011(平成23)年、前身の事業引継ぎ支援センターが、国(中小企業庁)からの委託事業として各都道府県に設置されました。
事業承継・引継ぎ支援センターの運営は各自治体に委任されており、親族内承継・社内承継のサポート、後継者不足に関する相談受付、事業承継相手のマッチング(後継者人材バンク)、M&Aの専門家や士業事務所、金融機関の紹介などが行われています。
メリット
事業承継・引継ぎ支援センターは中小企業庁が管轄する公的支援機関であるため、後継者不足の相談先として信頼性があります。営利企業ではないので、利益重視の対応をされることはなく、基本的に無料ですから高い手数料を取られることもありません。
各都道府県に設置されているので、後継者不足に関する相談に行きやすい点もメリットです。
デメリット
事業承継・引継ぎ支援センターは2011年から設置が始まった機関なので、認知度はまだあまり高くありません。中小企業庁の調査によると、2016(平成28)年時点で「事業承継・引継ぎ支援センターを知らない」と答えた小規模事業者は、8割近くにまで及んでいます。
つまり、認知度の低さから事業承継のマッチング案件数はまだ少なく、後継者不足で悩む企業への対応数もまだ少ない点がデメリットです。今後、認知度が上がりM&Aなどの実績も増えていけば、後継者不足で悩む小規模事業者には有用な支援機関となり得るでしょう。
解決策・対策②:後継者募集のマッチングサイトを利用
近年は、オンラインでM&Aのマッチングができるサイトが増えています。M&Aマッチングサイトの多くは、WEBサイトの売買や個人事業主のM&A案件が中心です。サービスはマッチングまでで、実際の交渉やM&Aの手続きはサービス外というサイトも多くあります。
しかし、なかにはオンラインとオフラインを融合させ、中小規模の企業案件を取り扱い、マッチングだけでなく交渉からM&Aの手続きまでをサポートする会社も出てきました。
メリット
M&Aマッチングサイトであれば、自分のペースでM&Aの相手を選べます。M&Aマッチングサイトに登録することで、より多くの買い手の目に触れることが可能です。マッチングの機会を多く増やせる面で、M&Aマッチングサイトにはメリットがあります。
デメリット
M&Aマッチングサイトによっては、登録している案件の信頼性に不安がある場合があります。特に個人の事業を売買する際は、会社の売買に比べて信頼性が低いので、登録案件をしっかりと調査していないM&Aマッチングサイトの場合はリスクが高いでしょう。
M&Aマッチングサイトを利用する場合は、M&A仲介も行っていて信頼性の高いサイトを選ぶ必要があります。
解決策・対策③:M&A・事業承継の専門家に相談
後継者不足の解決策として、M&A・事業承継の専門家に相談する方法があります。M&A・事業承継の専門家とは、M&A仲介会社や、M&A・事業承継支援を扱っている金融機関、M&A・事業承継支援の実績がある税理士、弁護士などです。
メリット
M&A・事業承継の専門家であれば、信頼できる幅広い情報を持っています。後継者不足に関する相談先としての信頼性が高く、事業の引き継ぎ先として最適な相手を紹介してもらえる可能性が高くなります。
M&A・事業承継の手続きも一貫してサポートしてもらえるため、トラブルや失敗の確率を低く抑えることが可能です。
デメリット
M&A・事業承継の専門家に依頼した場合、依頼先によっては仲介手数料が高額になることがあります。報酬体系には各社で大きな差があるため、依頼を検討する際は事前によく確認することが必要です。
場合によっては、専門家側の都合に合わせた相手を紹介されることもあります。依頼する専門家が誠実に対応してくれるか、よく見極めることが重要です。
解決策・対策④:親族や従業員に引き継ぐ
子どもを後継ぎにすることが不可能だった場合、その他の親族や従業員を後継ぎにすることで後継者不足を解決する方法もあります。
メリット
親族であれば条件などの交渉が進めやすく、話がまとまりやすいメリットがあります。事業承継の手続きも簡略化できる場合があり、短期間で完了可能です。
従業員へ事業承継する場合は、すでに自社の業務内容を把握していることから、後継ぎとしての教育期間を短縮でき、教育コストも少なくすみます。
デメリット
親族間の事業承継では、相続税や贈与税の負担の問題が起きます。事業承継にはさまざまな税務上の特例があるので、うまく活用すれば税負担を抑えることは可能です。ただし、特例を活用するには専門家の協力が欠かせず、時間もかかります。
従業員への事業承継の場合、実務では優秀だったもののリーダーには向いていないことがあるかもしれません。その結果、他の従業員や取引先などから受け入れられない問題が起きます。経営者としての覚悟が弱いことも多く、経営者として長続きしない可能性も懸念事項です。
解決策・対策⑤:後継者候補を教育する
親族や従業員で後継者不足が解決できない場合は、外部から後継者候補を探して入社させる方法があります。その場合、自社の業務を覚えることや、リーダーとしてのスキルを身につけさせるなどの教育が必要です。後継ぎの教育には、一般的に5~10年かかるとされています。
メリット
後継ぎ候補を選んで教育する方法であれば、自社の業務内容に適性のある人物やリーダーとしての資質がある人物に事業承継できるので、事業を継続、成長させていくことが可能です。
自社の理念や経営方針も身につけさせるので、企業風土も維持できるでしょう。後継ぎ候補を教育している間に、従業員や取引先との関係も築けるので円滑な事業承継が期待できます。
デメリット
後継者候補が複数いる場合は、後継者争いが起きる可能性があります。後継者候補を育てるには時間がかかり、身につけるべきスキルは多岐に渡るため、計画的に後継ぎ教育を行わないと、徒労に終わる可能性も否定できません。
解決策・対策⑥:外部から招へい・登用を行う
すでに経営者としてのスキルや実績を持った人物を外部から招くことで、後継者不足を解決する方法もあります。
メリット
経営者のスキルと実績を持った人物を招くことで、事業の継続と成長が期待できます。新しい経営者の視点から、自社の強みを伸ばし、弱みを改善できる可能性もあるでしょう。
デメリット
外部から後継ぎを招く場合は、候補者を見つけて交渉する必要があります。後継者を招き、後継者不足は解消されたとしても、経営方針の違う経営者の就任によって、企業風土が変わる可能性は否定できません。
解決策・対策⑦:技術やノウハウを外部にアピール
後継者不足が解決できない原因の1つに、M&Aの場合に買い手がつかない問題があります。後継者不足解決のためにも、自社の魅力を磨き上げ、企業価値を高めて、外部に自社の魅力を伝える必要があるでしょう。
メリット
自社の技術やノウハウを外部にアピールするためには、自社の魅力や強みを分析・把握し、磨き上げる必要があります。磨き上げる過程で企業価値も上がり、M&Aが有利になるだけでなく事業の成長にもつながるはずです。
デメリット
自社の技術やノウハウを磨き上げるには、時間とコストがかかります。日々の業務に追われる中小企業の場合、なかなか手が回らないかもしれません。外部に技術やノウハウをアピールするための手段を工夫する必要があります。
解決策・対策⑧:株式公開を行う
株式公開によって、後継者不足を解決する方法もあります。株式公開とは、公開取引市場に株式を公開し、誰でも自由に自社の株式を売買できるようにすることです。
メリット
株式公開によって会社の透明性と信頼性が高くなるので、M&Aの場合での買い手がつきやすくなります。
非上場の中小企業は、多くが株式譲渡制限を定款で定めているので株式を自由に売買できません。しかし、株式公開によって株式の流動性が高くなれば、経営権を後継ぎに事業承継するのも容易になります。
デメリット
株式公開には厳しい条件があるため、その条件をクリアしなければいけません。株式公開を決めたとしても、実際に公開するまでは多くの手続きが必要です。公開までには時間とコストもかかります。
公開準備中は新規事業ができないなど、さまざまな規制があり困難です。もし、株式公開できたとしても、意図しない相手から敵対的買収を仕掛けられる可能性もあります。
解決策・対策⑨:会社の将来性をアピール
各種メディア広告やWEB広告、オウンドメディアやSNSの活用などによって、自社の将来性をアピールし、企業価値を高めて後継者不足を解決します。
メリット
有効なマーケティング手法を用いることで、自社のブランド力を高められます。ブランド力が高くなればM&Aで買い手がつきやすくなるだけでなく、会社を高値で売却することも可能です。
デメリット
マーケティング手法は有効に活用できなければ、無駄に資金を垂れ流すだけになってしまいます。マーケティング手法の効果を発揮するにはノウハウも必要です。マーケティング会社に依頼しても費用対効果が低い場合もあり、目に見えた効果を得るには工夫と努力が欠かせません。
解決策・対策⑩:廃業
後継者不足解決の最終手段として、廃業を選択する方法もあります。日本政策金融公庫総合研究所のアンケートでは、38.2%の経営者が事業を「当初から自分の代で辞めようと考えていた」と答えています。
メリット
廃業であれば、M&A・事業承継で起こり得るトラブルを回避できます。廃業してしまえば、引き継いだ後に事業がきちんと経営されているか心配する必要もありません。子どもなどの後継ぎにリスクを背負わせなくてもよい安心感はあります。
デメリット
中小企業庁の調査では、廃業予定企業のうち約4割が、事業の継続性・成長性が見込めるにもかかわらず廃業を予定しています。継続可能な事業が廃業することで、従業員や取引先、地域にとって不利益が生じるのは否めません。
経営者には、M&Aでの事業承継であれば得られた売却益は獲得できなくなります。
4. 後継者不足解決のための相談先
後継者不足に関する相談は、内容によって最適な相談先が変わります。後継者不足を解決するための相談先を、相談内容ごとにまとめました。以下の表をご覧ください。
承継準備を始めるには | 商工会、商工会議所、中央会、金融機関、 士業などの専門家、よろず支援拠点、事業承継・引継ぎ支援センター |
承継前の総点検をするには | 商工会、商工会議所、中央会、士業などの専門家、 よろず支援拠点、事業承継・引継ぎ支援センター |
後継者に対する教育は | 中小企業大学校 |
相続税・贈与税の相談 | 税理士 |
株価に関する相談 | 士業などの専門家 |
資金調達(株買取)の相談 | 金融機関、信用保証協会 |
個人保証を外すには | 金融機関、中小機構、事業承継・引継ぎ支援センター |
債務を整理するには | 金融機関、中小企業再生支援協議会、 弁護士 |
承継後の事業の見直しには | 商工会、商工会議所、中央会、士業などの専門家、 よろず支援拠点 |
後継者を探すには | 事業承継・引継ぎ支援センター |
円滑に廃業するには | 士業などの専門家、商工会、商工会議所、 よろず支援拠点 |
5. 後継者不足の解決策・対策〜M&Aによる事業承継
後継者不足の解決策として、M&Aによる事業承継を用いるメリット・デメリットについて解説します。
M&Aによる事業承継の手法
M&Aによる事業承継を行う際は、主に株式譲渡か事業譲渡の手法を用います。株式譲渡と事業譲渡の特徴について、それぞれ簡単に見てみましょう。
株式譲渡
株式譲渡とは、株式を譲渡することで経営権を引き継ぐ手法です。中小企業経営者が全株式を譲渡する場合、経営権を含め会社を丸ごと売却することになります。取引先や従業員などとの契約や許認可もそのまま引き継がれることになり、手続きが比較的簡便にすむ点が特徴です。
ただし、負債も含めて丸ごと引き継ぎとなるので、簿外債務などの隠れたリスクには注意が必要になります。株式譲渡は、その手続きの簡便さから、中小企業のM&Aによる事業承継で最も多く採用されているのが実情です。
事業譲渡
事業譲渡とは、事業および関連する資産や権利義務などを選別して売買する手法のことです。譲渡対象を選別できるので、後継者は債務などのリスクを回避できます。
しかし、株式譲渡に比べて手続きが煩雑であり、規模の大きい企業ほど事業譲渡はあまり採用しません。事業譲渡は、デメリットが小さい小規模の中小企業や個人事業主のM&Aによる事業承継によく用いられます。
M&Aによる事業承継のメリット
後継者不足の解決のため、M&Aによる事業承継を用いる主なメリットには、以下の2点があります。
- 売却益を得られる
- 事業や技術が引き継がれる
売却益を得られる
M&Aによる事業承継は後継者不足が解決するだけでなく、売却益を得られます。中小企業がM&Aで用いる手法は、主に株式譲渡です。
株式譲渡による売却益には、個人では譲渡所得税と住民税、法人では法人税が課税されます。しかし、個人の場合、税引後でも十分にリタイア生活を送れるだけの売却益が得られることもあります。
事業や技術が引き継がれる
廃業すると長年育ててきた事業や技術が失われてしまいますが、M&Aによる事業承継であれば貴重な経営資産を残せます。後継者不足が解決されるだけでなく、事業を支えてきた従業員や取引先などの生活も守れるので、経営者には大きな安心材料です。
M&Aによる事業承継のデメリット
後継者不足対策としてのM&Aによる事業承継には、デメリットもあります。以下のデメリットについて、見ていきましょう。
- M&Aによる事業承継後に問題が発覚する可能性がある
- 満足いく引き継ぎができるとは限らない
M&Aによる事業承継後に問題が発覚する可能性がある
M&Aによる事業承継を株式譲渡で行う場合、後継者に債務も引き継がれます。その際、後継者に引き継いだ債務の中に簿外債務が隠れている可能性があるでしょう。簿外債務とは、帳簿上に出てこない隠れた債務を意味します。
売り手が意図的に隠している場合もあります。しかし、売り手も気付かないままM&Aが完了してしまうこともあるでしょう。これを防ぐには、売り手はM&Aの際に自社のリスク要因をしっかりと洗い出し、買い手はデューデリジェンス(企業監査)を入念に行わなければなりません。
満足いく引き継ぎができるとは限らない
M&Aによる事業承継の手続きが無事にすんだとしても、統合後に思ったように事業シナジーが得られなかったり、人材が流出してしまったり、予定以上に多くのコストがかかったりすることもあります。
後継者不足の解決だけでなく、M&Aによる事業承継後の事業継続性、成長性も考慮することが必要です。
後継者不足対策としてM&Aによる事業承継をする際は
子どもが事業を継ぎたがらないことや、オーナー経営者が子どもに事業を継がせたがらないケースが増えたことで、親子間での後継者不足解決は難しくなっています。第三者へのM&Aによる事業承継をすることで後継者不足を解決するケースは増加中です。
しかし、M&Aによって後継者不足は解決できても、M&A後の事業統合に失敗するケースは少なくありません。M&Aによる事業承継を用いて後継者不足を解決し、さらにM&A後の事業を円滑に進めるには、M&A専門家のサポートがおすすめです。
専門家に依頼することで、M&Aによって後継者不足を解決できるだけでなく、M&Aで起こり得るトラブルを減らしたり、M&Aの成功率を上げたりできるでしょう。
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6. 後継者不足の解決策・対策まとめ
後継者不足が原因で廃業を検討している中小企業の割合は、日本経済全体にも影響を与えるほど深刻なレベルです。後継者不足の主な要因は、少子化、事業の将来性、親族承継への不安、後継者不足に対する対策の遅れ、などが考えられます。
後継者不足を解決するため、国や自治体でもさまざまな施策を打ち出しています。今後の動きに注目しましょう。
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