2023年09月21日更新
スタンドスティル条項とは
スタンドスティル条項とは、売り手企業が買い手候補企業へ情報開示した後、売り手企業の承諾を得ずに買い手候補企業が売り手企業の株式を株主から買い取ったり、委任状の勧誘などを行わないよう取り決めることを指します。本記事では、スタンドスティル条項について解説します。
目次
1. スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)とは
M&Aにおけるスタンドスティル条項(Stand Still Clauses)は、売り手企業と買い手候補企業のM&Aを友好的に進めていくうえで重要となる条項です。
まずは、スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)の意味と、スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)の英語表現について解説します。
スタンドスティル条項の意味
スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)とは、売り手企業が買い手候補企業へ情報開示した後、売り手企業の承諾を得ずに買い手候補企業が売り手企業の株式を株主から買い取ったり、委任状の勧誘などを行わないよう取り決めることを指します。
スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)は、M&A分野以外でも用いられることがあります。例えば、貿易協定におけるスタンドスティル条項(Stand Still Clauses)とは、お互いに関税を現在の水準から上げないことを取り決めるものです。
また、2国間で起きている紛争を一時的に停止する場合は、スタンドスティル協定(Stand Still Agreement)と呼びます。
M&Aにおいては、スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)を取り決めることで、売り手企業は買い手候補企業による強引な買収を防ぐことができます。
また、スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)を定めることで、買い手企業にとっては売り手企業に対して敵対的買収をするつもりはないという意思表明にもなります。
スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)は、売り手企業と買い手候補企業で秘密保持契約を結ぶ際に、秘密保持契約書に記載するケースが一般的です。
スタンドスティル条項の英語
「Stand Still」は直訳すると「停止」、「Clauses」は「条項」を意味します。M&Aにおける「停止」は、買い手候補企業が売り手企業の株式を買い進めることや、委任状の勧誘を行うことなどを停止することを指します。
スタンドスティル条項は「Stand Still Clauses」のほか、「Stand Still Agreement」や「Stand Still Provision」という表現を使うこともあります。表現は違いますが、どれも同じ意味を表しています。
2. スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)のメリット
スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)は、売り手企業と買い手候補企業双方にとってメリットのある取り決めです。
本章では、スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)が、買い手側と売り手側にとってどのようなメリットがあるのかを紹介します。
買い手側のメリット
スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)は、売り手企業を守るための条項と思われがちですが、買い手候補企業にとってもメリットのある条項です。
スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)を取り決めることで、買い手候補企業は売り手企業に対して有効的買収であることをアピールできます。そもそも日本では敵対的買収の成功率は低く、ほとんどが友好的買収です。
敵対的買収に対して売り手企業は買収防衛策などの対抗措置を取るので成功しにくいだけでなく、買い手候補企業は敵対的買収を仕掛けたことで資金面や世間的イメージなどで大きなダメージを負うことにもなりかねません。
そのため、日本でM&Aを成功させるためには、売り手企業や世間に対して友好的買収であることを強くアピールすることが効果的です。
売り手企業と買い手候補企業の間でスタンドスティル条項(Stand Still Clauses)を取り決めることは、友好的買収であることを内外にアピールでき、M&Aの成功率が高くM&A後も事業シナジーが得られることを伝える手段となります。
売り手側のメリット
スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)は、売り手企業にとって買い手候補企業による強引な買収を防ぐ効果があります。日本の企業はM&Aの際に信頼関係を重要視します。
もしスタンドスティル条項(Stand Still Clauses)がなく、売り手企業がM&Aを検討している間に買い手候補企業によって強引な買収が進められると、売り手企業は買い手候補企業についてよく知ることができません。
また、信頼関係も醸成されないままM&Aが進んでいくことになってしまいます。そのような形でM&Aが成立したとしても、信頼関係が損なわれている企業同士ではM&A後の統合作業に失敗する可能性が高くなります。
日本では、敵対的買収の成功率は高くありません。買い手候補企業によって敵対的買収を仕掛けられた売り手企業は、買収防衛策などさまざまな方策によって敵対的買収を阻止することになります。
しかし、敵対的買収を阻止するために売り手企業も大きなダメージを負うことがありますが、スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)を設けることで、そのような余計な損失を防ぐことができます。
3. スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)の重要性
前述のように、スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)によって、売り手企業は強引な買収を防ぐことができ、買い手候補企業は友好的買収であることをアピールすることができます。
スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)を設ける重要性は、売り手企業と買い手候補企業の信頼関係構築にあります。
スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)がなければ、交渉が難航した際に買い手候補企業が方針転換を行い、急に売り手企業の株式を強引に買い進める可能性もあります。
売り手企業は自社を高く売ることだけでなく、従業員を守ることや、売却後も会社を維持・成長させることなど、さまざまな目的を持ってM&Aに臨みます。
しかし、そのような交渉が買い手候補企業としっかり行われないままM&Aが進められてしまうと、両社の信頼関係が醸成されないままになり、トラブルの種になります。
場合によってはM&Aの成立に支障がでたり、M&Aが成立したとしても売り手企業と買い手企業の統合作業がうまくいかない可能性もでてきます。
スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)は、このようなトラブルの元となる信頼関係の欠落を防ぐ役割も担っています。
このように、トラブルを回避しながらM&Aを進めていくには専門知識が必要であり、専門家によるアドバイスが必要となります。
M&A総合研究所では、経験豊富なM&Aアドバイザーがフルサポートいたしますので、M&A相手との信頼関係を構築しながら成約を目指すことができます。
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4. スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)の事例
スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)がないことによりM&Aが混迷を極めている例として、直近ではDCMホールディングスとニトリホールディングスによる島忠の争奪戦が挙げられます。
2020年10月、ホームセンター大手のDCMホールディングスと島忠は経営統合を発表し、DCMホールディングスは島忠の株式をTOB(株式公開買付け)によって買い進めていきました。
しかし、DCMホールディングスによるTOBの最中に、ニトリホールディングスはDCMホールディングスよりも高額な買い付け価格で島忠に対してTOBを実施することを発表します。
ところが、ニトリホールディングスによるTOBは、島忠の経営陣としっかり交渉を重ねたうえでの取引ではないため、敵対的買収とまではいかないものの、友好的買収ともいえない行動となりました。
もし、ニトリホールディングスが島忠とスタンドスティル条項(Stand Still Clauses)を取り決めたうえで買収を行うことを発表したのであれば、島忠はDCMホールディングスとニトリホールディングスのどちらと取引を行うかじっくり考える余裕があったはずです。
しかし、今回はニトリホールディングスが半ば強制的にTOBの開始を発表した形であり、島忠は反応に困っている状態です。
もしニトリがTOBで勝利したとしても、買収後の統合作業でさまざまなトラブルが生じる可能性もでてきます。
このように、スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)がないことで、M&Aの行く末が不安定になることもあり得ます。
5. まとめ
また、スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)は、売り手と買い手候補の信頼関係構築といった面でも重要な役割を持っています。
【スタンドスティル条項(Stand Still Clauses)とは】
- 売り手が買い手候補へ情報開示し
た後、売り手の承諾を得ずに買い手候補が売り手の株式を 株主から買い取ったり、委任状の勧誘などを行わないよう取り決め るもの
- 買い手・・・友好的買収であることをアピールできる
- 売り手・・・買い手候補企業による強引な買収を防ぐことができる
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