2023年11月01日更新
事業承継(M&A)と廃業(清算)を比較!どちらが得する?
経営者引退の場合、通常は事業承継となりますが、近年、後継者問題で廃業(清算)を選ぶしかないケースが増加中です。それと同時に、M&Aで第三者に事業承継する事例も増えてきました。そこで、事業承継と廃業(清算)の損得比較を試みます。
目次
1. 事業承継と廃業とは?
経営者が経営から身を引くにはいろいろな方法が存在しますが、結果的には事業承継か廃業のどちらかです。本記事では、事業承継と廃業の説明を行い、どちらを選択する方が賢い選択になるかを考えながら、後継者問題などの対応方法を解説します。
事業承継の意味
事業承継とは、会社の事業や経営などを後継者に受け継がせることを意味します。今後も長い間、会社を存続させるためにも、事業承継は非常に重要な問題です。親族から探す場合や役員・社員から適任者を選ぶ場合、そして外部の人材を登用する方法などがあります。
廃業の意味
廃業というのは、会社の経営を経営者判断で清算することです。資金繰りが困難な状況に陥ったときに、債務を法的に清算する倒産と違い、廃業は、買掛金や借入金などの会社が抱えている負債を完済し清算することが条件となります。
廃業は倒産と違って計画を立てて進めていくため、取引先や従業員などに負担がかかることは少なめであるといえるでしょう。
2. 年間4万社を超える会社が廃業や休業をしている
ここでは、中小企業の廃業の実態に迫ってみましょう。調査データに基づいて数値を確認していきますが、資料にある「廃業」には、類似する状態も含まれたものとなっています。廃業に類似する状態とは、以下のとおりです。
- 休業:登記簿上の記録は残っているものの事業・営業活動を一切停止している状態
- 解散:営業活動を止め、会社を消滅させる手続き、およびその状態
休業状態の会社の別称は休眠会社です。解散手続きの中には、債務整理などの清算手続きも含まれます。解散と廃業はほぼ同意といっていいでしょう。それでは、廃業の実像を見ていきます。
中小企業の廃業数の推移
中小企業庁の資料で用いられている東京商工リサーチの統計調査によると、2016(平成28)年に休廃業・解散(清算)企業数は、初めて年間4万社を超えました。
そして、直近の2019(令和元)年では、歴代最高の前年よりも多少減少したものの、歴代2位である43,348社が休廃業・解散(清算)しています。別の資料によると、2019年の倒産(破産)した企業数は約8,300社でした。
つまり、債務超過や経営不振などで倒産に追い込まれるケースの約5倍の数の企業が、経営上、特に問題は出ていないような状況下で、休廃業・解散(清算)の道を選択していることになります。
上図の休廃業・解散(清算)した企業の経営者年齢を分析すると、経営者の高齢化が進んだことによる廃業が増えている現象が見て取れます。
経営者の事業継続に関する意思
中小企業庁の資料「中小企業白書2014」では、帝国データバンクのアンケート調査資料として中規模企業、小規模企業それぞれの現経営者の事業継続の意思が紹介されています(合計が100%になりませんが、資料そのままの数値を転記しています)。
中規模企業 | 小規模企業 | |
---|---|---|
事業を何らかの形で他社に引継ぎたい | 63.5% | 42.7% |
自分の代で廃業することもやむを得ない | 5.4% | 21.7% |
自分の代で事業を売却したい | 2.2% | 2.9% |
まだわからない | 18.9% | 32.8% |
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H26/PDF/08Hakusyo_part3_chap3_web.pdf
なお、中規模企業(中小企業)の定義は以下のとおりです(個人事業主を含む)。
- 製造業その他:資本金3億円以下または従業員300人以下
- 卸売業:資本金1億円以下または従業員100人以下
- 小売業:資本金5千万円以下または従業員50人以下
- サービス業:資本金5千万円以下または従業員100人以下
小規模企業の定義は以下のとおりです(個人事業主を含む)。
- 製造業その他:従業員20人以下
- 商業・サービス業:従業員5人以下
廃業してしまう理由
せっかく運営してきた事業をなぜ廃業してしまうのでしょうか。従業員や地域社会に対するデメリットも考えられる廃業を選択するのには、複数の理由が考えられます。それは、以下の4つです。
- 後継者不在のため
- 後継者候補の意識の問題
- 事業承継の資金がないため
- 経営者の時間的・体力的限界
後継者不在のため
事業は順調で黒字経営が続いているにもかかわらず、後継者難により会社を廃業する場合があります。非上場の中小企業では、この廃業理由が多いのが実態です。これは、少子化によって身内に後継者が存在しないことが、最大の理由となっています。
後継者候補の意識の問題
経営者としては親族を後継者として事業承継を行いたい意思があっても、肝心の後継者候補が経営者として不向きであったり、事業承継する意識や意欲がなかったりするために、やむなく廃業を選ばざるを得ない場合もあります。
日々の経営や事業に追われるがあまり、人材教育まで手が回らないなどの要素があり、後継者問題として第二の課題です。
事業承継の資金がないため
会社に知的財産や技術力、あるいは地域とのコネクションなどはあるものの、事業承継するための資金不足により会社を廃業するケースがあります。
たとえば、知的財産などを担保に銀行から資金調達することは不可能ではありません。しかし、後継者側が借金してまで事業承継する気はないという場合もままあり、そうなると経営者の選択肢は廃業となってしまいます。
経営者の時間的・体力的限界
事業承継には、教育などを含めると、準備に5~10年程度かかるともいわれています。経営者が高齢な場合はもはや、そのような準備期間をかけられないと考え、廃業を選択しているのです。
廃業のデメリットとは?
廃業を行うメリットは、短時間で事業を停止できることや、事業を清算することで後継者問題に悩む必要がないことです。以後の事業悪化などのリスクを避けられることもあるでしょう。一方で、廃業のデメリットには以下の3点が考えられます。
- 従業員を解雇しなければならない
- 取引先との関係が終わってしまう
- 資産売却で低く見積もられる
従業員を解雇しなければならない
経営者として一番心苦しいのが、廃業による従業員の解雇です。従業員の家族の生活まで背負っているといっても過言ではない経営者にとって、従業員を解雇することは重大な決断になります。
取引先などに引き取ってもらえる人材もいるでしょうが、中には再就職先が決まらない従業員もいるでしょう。従業員の生活・人生への責任という観点で、従業員の解雇は経営者にとって重い出来事です。
取引先との関係が終わってしまう
廃業によるデメリットの1つとして考えられるのは、今まで築き上げた取引先との関係も終了を迎えてしまうことです。中には個人的に付き合いが残る人もいるかもしれませんが、基本的には構築された人間関係は全て終了します。
それは、廃業によって関係各社が少なからずデメリットを被ることや、日常的な関係性がどうしても薄れてしまうことが原因です。地域社会との関係性も薄れていきますので、廃業による関係性の終了は覚悟しなければなりません。
資産売却で低く見積もられる
廃業の際には、自社が保有している所有物などの資産を売却処分することになります。一般にも転用できる一部の資産を除き、ほとんどの資産は事業を行っているからこそ価値があるものです。
したがって、多くの資産はこちらの思い入れほどの高値はつかないでしょう。設備などは、値が付くどころか場合によっては、解体や処分などに費用発生があるかもしれません。
3. 事業承継と廃業(清算)を比較
後継者問題で事業を継続できない場合、M&Aによる事業承継か廃業という選択肢が残ります。そこで、M&Aによる事業承継と廃業ではどういった違いが出てくるのか、ここでは2点に絞って比較を行いました。
- 手取り価額の違い
- 従業員・取引先の関係
手取り価額の違い
会社を廃業、またはM&Aによる事業承継をするにあたり、経営者の手元にいくら資産が残るかは非常に重要なことです。経営から引退すると考えた場合、基本的に無収入に転じることになります。
つまり、今後のために、少しでも多くの財産を手にしたいと誰もが思うはずです。それでは、M&Aによる事業承継と廃業の場合、それぞれ経営者にどれくらいの金額が入ってくるか考えてみます。
事業承継の手取り価額
M&Aによる事業承継を行った場合、概算では純資産額に営業権を加えた金額で取引が行われます。営業権の額面は、業種や業績にもよりますが営業利益の3年分が一般的です。
たとえば、営業利益が2,500万円の会社の場合、M&Aによる事業承継では、3年分の営業権で概算すると営業権だけで7,500万円、さらに会社の純資産額を加えた金額が相場になります。純資産額は、貸借対照表にある資産の総額から負債の総額を差し引いた金額です。
オーナー経営者が会社を株式譲渡で売却した場合、譲渡所得(株式譲渡で得た利益額)に対し20.315%の課税を受けます(2022(令和4)年6月現在)。株式譲渡の対価が、そのまま手元に残るわけではない点に留意しましょう。
廃業の手取り価額
廃業の場合は、まず、M&Aのような営業権の買取りは発生しません。あるのは資産の売却のみです。そして、会社を清算するにあたっては、どうしてもその評価額は低いものとなるでしょう。いわゆる「足元を見る」というケースであり、事業があってこそ価値がある資産もあるからです。
廃業するにあたり、借入金などが残った場合は経営者が返済していく必要があります。当初、もくろんでいた資産価格に到達できないばかりか借金が残ることもあり、廃業によって手取り価額がマイナスになる場合もあるでしょう。
従業員・取引先の関係
廃業した場合、義務ではありませんが、できるだけ従業員の就職先をあっせんしてあげる必要が生じるでしょう。取引先に迷惑をかけるだけではなく、地域社会への何らかの影響も考えなくてはいけません。
M&Aによる事業承継であれば、従業員はそのまま事業を支えてくれますし、基本的に取引先や地域社会への影響も発生しないはずです。
4. 事業承継先の3種類
廃業にもメリットがあるものの、数々のデメリットもあることがわかりました。では、事業承継をする場合にはどういった方法があるのでしょうか。事業承継には、M&A以外にも親族や従業員への承継があります。それぞれの事業承継の概要を確認しましょう。
①親族への事業承継
中小企業が事業承継を行う場合にまず考えられるのが、親族への承継です。日本では慣習的な意味合いもあり、従業員も納得できる事業承継として広く行われてきました。会社の資産や財産などを経営者一族が所有できますので、経営者は今後も安定した生活が見込めるわけです。
しかし、親族に後継者にふさわしい人材がいるかということや、子供に事業承継する場合には兄弟などの存在に気を回さなければいけないなど、親族だからこその後継者問題も存在します。
②従業員への事業承継
従業員や役員への承継も事業承継の方法の1つです。従業員・役員であれば、業務内容はもちろんのこと社風や会社の事業の流れなどを理解しているので、経営者になっても戸惑うことは少ないといえるでしょう。
一方で従業員を後継者にする場合、教育する時間が問題です。経営者としての人材育成には非常に時間がかかるもので、5~10年程度かかる場合もあります。したがって、社内での事業承継の場合は、早い段階から計画的に進めていくことが必要です。
もし、後継者として見込んでいた人材がふさわしくなかった場合は、さらに新たな人材を教育し直さなければならなくなり、その時間の分だけ事業承継が遅れてしまいます。従業員が後継者となるには、会社の株式取得のために資金が必要です。この資金が用意できないため、後継者を辞退するケースもあります。
③M&Aによる事業承継
かつての日本では、M&Aというとネガティブなイメージがありました。それは、経営がうまくいかなかった企業が、最後の手段として外部の経営者に手助けをしてもらうといった印象があったからです。
しかし、超高齢社会による担い手不足は深刻で、後継者となる人材を見つけることが困難な状況となっています。中小企業や零細企業などでは、その傾向が特に顕著です。そこで、最近では後継者問題を解決する手法として、M&Aによる事業承継の需要が伸びてきています。
後継者問題の解決策
M&Aによる事業承継は、後継者問題の解決手法として有効で適切なものです。親族にも従業員にも後継者に値する人材が見つからない場合に、会社を存続させる唯一の道でもあります。人材育成に要する時間も短縮または必要ない点でも、有効性は明らかです。
M&A相談ならM&A総合研究所
中小企業がM&Aで事業承継を検討するとき、実際にどのようにしたらよいのか、わからないことも多いでしょう。M&Aでは、相手探しだけでなく手続きでの専門的な知識も必要となるため、M&A仲介会社に相談し業務を委託するのが得策です。
M&A仲介会社選びでお困りでしたら、M&A総合研究所にご相談ください。M&A総合研究所は、中小企業のM&Aを主に手掛ける仲介会社です。最適な相手探しから交渉、クロージングまで、豊富な知識と経験を持つM&Aアドバイザーがフルサポートします。
料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。随時、無料相談を受け付けていますので、事業承継・M&Aをご検討の際には、どうぞお気軽にお問い合わせください。
5. M&Aによる事業承継のメリット
M&Aによる事業承継にはさまざまなメリットがあります。ここでは代表的な3つのメリットをピックアップし、順番に解説します。
引退後の資金を確保できる
事業の売却は、会社のオーナーや経営者が引退するときに、十分な資金を得るために効果的です。
M&A(企業の合併や買収)を利用すると、会社の土地や建物などの具体的な資産だけでなく、スタッフのスキルやお客さんとの関係、技術など、目に見えない価値も評価されて高く売れることが多いです。普通に廃業して資産を売るより、M&Aを使った方が高い価格で会社を売却できることがよくあります。
従業員の雇用を維持できる
M&A(企業の合併や買収)を通じて事業を引き継ぐことで、従業員の仕事の場を保持できる可能性が高まります。買収される側の企業が、従業員の現在の条件での雇用を保つように交渉することができます。そして、買収する側の企業にとって、すでに経験豊富な従業員を持つことは大きな強みとなるため、多くの場合、これらの従業員を引き継ぐことに前向きです。
廃業よりも簡単な手続きで行える
中小企業がM&A(合併や買収)を検討する際、多くの場合、M&Aの専門家やアドバイザーと提携します。契約を結ぶと、このアドバイザーが最も適した買収希望の企業を探してくれます。資料作成などの準備は必要ですが、専門家たちが詳しい情報を取りまとめて、M&Aの手続きをサポートしてくれます。
M&Aは費用がかかるかもしれませんが、専門家のサポートを受けられるので、自分で全ての手続きをする廃業よりも手間が少なく感じることでしょう。
6. 事業承継5ヶ年計画
中小企業庁は、事業承継ガイドラインに基づいて2017(平成29)年に事業承継5ヶ年計画を策定しています。これにより、国や自治体が、今まで以上に事業承継をバックアップしていくこととなりました。そこで掲げられている5つの施策は、以下のとおりです。
- 経営者の「気付き」の提供
- 後継者が継ぎたくなるような環境を整備
- 後継者マッチング支援の強化
- 事業からの退出や事業統合などをしやすい環境の整備
- 経営人材の活用
①経営者の「気付き」の提供
事業承継に早めに取り組むことの重要性を伝えるだけでなく、事業承継診断などを通じて事業承継のニーズを引き出すとしています。
②後継者が継ぎたくなるような環境を整備
事業承継5ヶ年計画によると、安心して後継者が事業承継できるように、経営改善支援と新事業への挑戦を支援するとしています。
③後継者マッチング支援の強化
公的機関として各都道府県に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターでは、後継者のマッチング支援(後継者人材バンク)を促進するとともに小規模M&Aマーケットの構築・支援を目指すとしています。
④事業からの退出や事業統合などをしやすい環境の整備
会社の廃業が起きたとき懸念されるのは、地域社会への影響です。そうした状況にならないように、サプライチェーンや事業統合、共同化の支援を行うとしています。
⑤経営人材の活用
事業承継をした後継者の課題を取り除くために、サポートとして経営経験豊富な人材を経営幹部として紹介したり社外アドバイザーの活用を促進したりするような環境を構築するとしています。
7. 事業承継・廃業について学べる本・書籍
廃業や事業承継に関してインターネットなどでも調べられますが、書籍でじっくりと時間をかけて勉強する必要もあるでしょう。廃業や事業承継については多くの書籍がありますが、内容の難しいものが多いことが難点です。ここでは、おすすめの1冊を紹介します。
『失敗しない廃業・事業承継のしかた事典』
数多くある書籍の中でおすすめの1冊が、「失敗しない廃業・事業承継のしかた事典」です。難しい部分をわかりやすく解説してあるだけでなく、いつまでに何を実行すればよいのかをポイントを押さえながら解説されています。
廃業や事業承継に関わりの深い公認会計士や税理士についても触れていますので、この1冊で廃業や事業承継の理解を深められると人気です。
- 出版社:西東社
- 1,650円(税込)
『社長、会社を継がせますか?廃業しますか? 誰も教えてくれなかったM&A、借金、後継者問題解決の極意』
テレビにも出た有名なコンサルタントが、経営者が抱える「会社の将来の方向性」の悩みを解決するための方法を紹介しています。特に、後継者が未定の会社や、社長が65歳以上の場合はこの内容が役立ちます。
- 出版社:翔泳社
- 1,760円(税込)
8. 事業承継と廃業の比較まとめ
これまで後継者問題などで事業継続が難しい場合は、廃業(清算)する企業が多かったのが実情です。しかし、事業承継と廃業(清算)を比較すると、事業承継がおすすめなのは明らかといえるでしょう。
後継者問題では、適任でない親族や従業員などを登用するぐらいであれば、M&Aによる事業承継を視野に入れるべきです。現経営者の引退後も、会社の無事な存続を願うのであれば、M&Aによる事業承継は安心できる手段といえます。
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