2022年11月04日更新
株式移転と株式交換の違いとは?手法やメリット、費用も解説【事例あり】
株式移転と株式交換とは、手続きや費用などのメリットが大きいことから、企業再編に用いられる事例も多くみられます。株式移転と株式交換にはどのような違いがあるのか、メリット・デメリット、手続き方法や費用、事例もあわせて紹介します。
目次
1. 株式移転・株式交換とは
株式移転とは、主に持ち株会社を設立する際に用いられる手法です。持ち株会社とは、自身は事業を行わず、子会社の株式を保有管理する会社をいいます。
会社名に「ホールディングス」と付いている企業は、株式移転によって組織再編を行っている企業が多いです。
株式移転とは
株式移転とは、株式移転を行う2つ以上の株式会社が新しく会社を設立し、そこへすべての自社株式をすべて移転させる手法です。
新設された会社が完全親会社となり、その傘下として既存の会社が完全子会社となります。そして株式などを対価として交付され、株式移転が成立します。完全子会社は1社から複数社まで可能ですが、株式移転を行えるのは、親会社・子会社ともに株式会社だけです。
ホールディングカンパニーでは、株式移転を活用しているケースがほとんどです。中小企業でも、新規事業参入や事業承継などを目的に、株式移転を実施するケースもあります。
会社法によると、株式移転の対価として完全親会社となる会社の株式交付は必ず実施されます。株式移転の対価の種類は、株式移転設立完全親会社の社債、新株予約権および新株権付社債に限定されるでしょう。
株式移転により完全子会社となった企業は、株式が完全親会社に移転するのみで、不動産や機械設備といった資産の移転はないといった利点があります。
ほかにも、上場会社A社と非上場会社B社が株式移転をして、特定親会社C社を設立したとします。この場合、非上場企業であるC社が、A社と同じ証券取引所への新規上場を希望した際は、テクニカル上場制度によって、上場が認められるケースがあるでしょう。
株式移転の目的
株式移転の目的は、大きく分けると2つです。M&Aを進める際には、目的を明確に定めておくのが重要になります。
- 経営統合
- 持ち株会社の体制移行
まず、2社以上の企業同士の経営統合です。例えば、異業種の企業同士が相乗効果を期待して、1つのグループにまとまるといった方法です。複数の企業が経営統合する際は、それぞれの独自性を保ちつつ経営統合できるため、経営統合を成功させたい企業間で多く用いられる手法といえます。
ただし、経営統合で株式移転の手法をとる場合、対等な立場での企業統合でないケースもあるでしょう。一方の企業が経営に行き詰まっているケースの経営統合では、対等な立場をアピールするために、株式移転を活用した経営統合を行います。
株式移転は、経営統合後もそれぞれ法人格が変わらず維持されるため、経営陣や従業員の心理的な抵抗を受けにくい傾向があるでしょう。
持ち株会社の体制移行として活用する方法は、1つの法人が単独で行います。持ち株会社を新規で立ち上げ、その会社に完全子会社としてグループ企業が持ち株会社の傘下に入ります。
これは、強固なグループ経営体制を目指すホールディングス化の際に多く用いられる手法です。ほかにも複数社が共同株式移転によって経営統合を行った後、最終的に吸収合併による相乗効果を目指すといった流れもあります。
株式交換とは
株式交換とは、相手企業を完全子会社化する際に用いられる手法です。株式の交換によって買収できるので、現金が必要ない点が大きな特徴の1つでしょう。
株式交換では、親会社となる企業の株式を子会社となる企業の株式に割り当て、子会社の株式をすべて取得します。交換する株式は、親会社1株に対して子会社1.5株といったように、当事会社同士で比率を決めます。
親会社が株式交換する相手企業は1社から複数社まで可能です。株式移転と同じく、株式交換によって親会社となる企業を完全親会社、子会社となる企業を完全子会社と呼びます。
株式交換ができるのは、親会社の場合株式会社か合同会社で、子会社は株式会社のみです。
2. 株式移転と株式交換の違い・活用方法
株式移転の場合は、新会社を設立して親会社とし、既存の企業はすべて子会社となります。
一方、株式交換は、既存の会社が親会社と子会社に分かれる方法です。株式交換は主に企業買収の手法として用いられますが、株式移転は主にグループ企業の再編に用いられるのがほとんどです。
大きな違いは、既存の会社に株式を取得させるか、新設する会社に株式を取得させるかでしょう。ほかにも、株式交換の効力発生日は、株式交換の場合は契約書に記載された日付になりますが、株式移転の効力は親会社が登記した時点です。
株式移転を用いるケース
株式移転を用いる主なケースは、グループ再編で持ち株会社を設立し、その傘下にグループ内企業を子会社とするケースです。グループ企業になると、新規サービスを迅速に提供できるといったメリットが享受できるでしょう。
あるいは、2つ以上の会社で共同持ち株会社を設立し、共同経営を行う際に株式移転が用いられます。
株式交換を用いるケース
株式交換を用いるケースは、グループ連携を強化する狙いがあります。既存の100%子会社でない会社の株式をすべて取得し、子会社にするケースです。
株式移転・株式交換の違いまとめ
株式交換と株式移転は、いずれも買収側にとっては対価を自社の株式の割当で負担するために現金を準備する必要がなく、売却側にとっては買収後の親会社の株式価値上昇の利益を受けられる点にメリットがあります。
これとは反対に、会社法が規定する複雑な手続きを経なければならなかったり、買収側が非上場会社である場合には売却側が入手した株式の現金化が困難であったりするデメリットもあります。
株式交換と株式移転の主な違いを以下にまとめました。
- 売り手の締結する契約や雇用関係の承継の有無
- 売り手が事業遂行上必要となる許認可の承継の有無
- 偶発債務に関わる買い手の負担の範囲
- 債権者保護手続きが必要か否か
株式移転では完全子会社の法人格は維持され、原則として完全親会社は完全子会社の権利義務を引き継ぐ必要はなく、人事制度の統一もすぐに行う必要もありません。
3. 株式移転・株式交換のメリットとデメリット
株式移転・株式交換にはさまざまなメリット・デメリットがあります。この章では、株式移転と株式交換のメリット・デメリットを解説します。
メリット
まずは株式移転・株式交換のメリットから解説します。メリットは以下5点です。
- 新株の発行を対価にするため買収資金が不要
- 3分の2以上の買収先企業の株主の承認で100%子会社化が可能
- 買収後も別法人として存続できる
- 少数株主を一挙に排除できる
- TOBの規制を受けることがない
新株の発行を対価にするため買収資金が不要
株式移転・株式交換では、買収資金が不要となるメリットがあります。
株式譲渡や事業譲渡といった他のM&A手法では、買収の対価として現金を用いなければなりません。企業に買収用の十分な資金がなく、買収を行うための資金集めに苦労する事例もあります。
一方、株式移転や株式交換の場合は、自社株を買収に用いられるので、買収にかかる資金繰りが容易になるメリットがあります。
3分の2以上の買収先企業の株主の承認で100%子会社化が可能
株式移転・株式交換では、3分の2の株主承認で完全子会社化できるメリットがあります。
株式譲渡のように、株主から株式を買い集めて子会社化する場合、原則すべての株主から株式を譲り受けることで完全子会社化が可能です。株式の譲渡に同意しない株主が多いほど買収企業の経営支配権は低くなります。
実際、少数株主によって経営が滞る事例は多くあります。一方、株式移転や株式交換であれば、株主総会の特別決議で3分の2以上の承認を得ることで完全子会社化ができる点がメリットです。
買収後も別法人として存続できる
買収後法人格が消滅しない点もメリットです。株式移転や株式交換では、株主に変動はありますが、組織が消えるわけではありません。事例によっては買収された後も、それまでとほとんど変わらずに事業を続けられています。
合併のように手続き後法人が消滅する場合、システムやルールを作り直す必要があったり、企業文化が大きく変わってしまったりと、統合後に苦労する事例は多いです。
しかし、株式移転や株式交換であれば、統合後もスムーズな事業運営が可能となるメリットがあります。
少数株主を一挙に排除できる
株式移転や株式交換では子会社の株式を100%取得するので、少数株主がいません。少数株主とは、完全親会社以外の株主のことです。
少数株主がいても、親会社に友好的で全面的に協力してくれるのであれば問題はありませんが、実際には経営方針に反対したり、経営権を手に入れようとしたりする少数株主が問題になる事例もあります。
完全親会社と完全子会社が円滑に事業を進めるにあたって、少数株主がいなくなることは大きなメリットといえます。
TOBの規制を受けることがない
株式移転・株式交換では、TOBの規制を受けずに買収できる点がメリットです。TOBとは、株式公開買付とも呼ばれる、企業買収手法の1つです。
TOBでは、買収する企業の保有株式を公開市場外で買い取ります。株主に対して価額と期限を提示して株式を買い集めますが、株主が買い取りに応じるかどうかは任意です。
TOBで集めることのできる株式数にも上限があるため、株式を100%集めることには向いていません。一方、株式移転や株式交換であれば、公開市場で株式を集める必要はなく、株主総会で承認が得られればすべての株主から株式を買い取れます。市場の動向や規制に左右されない点がメリットです。
デメリット
続いて、株式移転と株式交換のデメリットを解説します。デメリットには、主に以下の3つがあります。
- 上場企業を買収した場合は株価下落の可能性がある
- 買い手企業の株主に買収先企業の人間が加わり株主比率が変わる
- 複雑な手続きを行う必要がある
上場企業が買収した場合は株価下落の可能性がある
株式移転や株式交換では、親会社は新株を発行して相手企業の株式を取得します。
新株発行によって、1株当たりの価値は下がる可能性もあるでしょう。株式移転や株式交換後に薄まった価値以上の成果を上げられなければ、ネガティブな要素がなかったとしても株価が下がる可能性はあります。
株式移転や株式交換によって株価が上がる事例は多くありますが、株式交換で赤字企業を買収する場合などは注意が必要です。
買い手企業の株主に買収先企業の人間が加わり株主比率が変わる
株式交換の場合、自社株を相手企業に渡すので、相手の企業規模によって株主比率に与える影響は大きくなります。
形式上相手が完全子会社とはいえ、親会社と子会社の実質的な関係が対等の事例または子会社が上といった事例もあります。統合後、方針が対立したときなどは注意が必要です。
複雑な手続きを行う必要がある
株式移転や株式交換は、M&A手法のなかでも比較的手続きが簡便な株式譲渡と比べると手続きが複雑です。
完全親会社と完全子会社が、簡易手続きや略式手続きが活用できる関係であれば手続きは多少短縮できます。
それでも、債権者手続きや株券提供に関する手続きなど、手間と時間のかかる手続きを行わなければなりません。一方で、合併ほど統合後の組織整備は必要ないため、合併の前段階として株式移転や株式交換を行う企業も存在します。
4. 株式移転・株式交換の手続きと流れ
株式移転・株式交換を行う際は、主に以下の手順で手続きを進めます。
- 株式交換契約の締結・株式移転計画の作成
- 事前開示書類の備置
- 株主総会による株式交換契約・株式移転計画の承認決議
- 債権者保護の手続き・株券などの提供公告
- 反対株主からの株式買取請求
- 公正取引委員会・金融商品取引法上の届け出
- 株券・新株予約権の証券提出手続き
- 株式交換・株式移転の効力発生
- 新株発行・設立・変更の登記申請
- 事後開示書類の備置・開示
①株式交換契約の締結・株式移転計画の作成
株式交換の場合は株式交換契約を締結し、株式移転の場合は株式移転計画を作成します。
株式交換契約書・株式移転計画書には、完全親会社となる企業や完全子会社となる企業の商号・事業内容・資本金などの企業情報を記載します。
株式交換・株式移転を行う目的や、親会社が子会社へ支払う対価、スケジュール、効力が発生する日なども明記しなければなりません。
②事前開示書類の備置
株式移転・株式交換を行う当事会社は、株主や債権者への情報開示のために、事前開示書類を公開しなければなりません。事前開示書類には契約内容や交付する対価の内容、相手企業の情報などを記載し、それぞれの会社の本店に備置します。
③株主総会による株式交換契約・株式移転計画の承認決議
株式交換・株式移転を行う企業は、株主総会の特別決議で承認を得なければなりません。
株主総会への招集通知は、株主総会の開催1週間前まで、上場企業の場合は2週間前までに通知します。電子投票の場合は非上場企業でも2週間前までに通知しなければなりません。
株主総会への招集通知と株式交換・株式移転の通知は、同時に行っても問題はありません。一定の条件を満たしていれば、親会社となる企業は簡易手続きによって株主総会を省略でき、子会社となる企業は略式手続きを行うことによって株主総会を省略できます。
④債権者保護の手続き・株券などの提供公告
株式交換・株式移転を行う企業は、必要に応じて債権者保護手続きや株券などの提供公告を行わなければなりません。債権者保護手続きが必要となるのは、完全親会社が株券以外の対価を交付する場合です。
当事企業は、効力発生日の1カ月前までに官報公告と個別通知を行います。官報公告とともに日刊新聞での公告か電子公告を行う場合は、個別通知を行う必要はありません。
株式移転の場合は、新設会社の企業情報と、債権者から異議申立てを受け付ける旨を周知します。株式交換の場合は、相手企業の企業情報と、債権者からの異議申立て受付の周知が必要です。
完全子会社となる企業が株券を発行している場合、株式移転では完全親会社設立日まで、株式交換では効力発生日までに株券を提供するよう、株主に公告と通知を行わなければなりません。
公告と通知は、株式移転の場合は親会社設立日に行い、株式交換の場合は効力発生日の1カ月前までに行います。該当日までに株券を提出しない株主がいた場合は、株券を提供するまで対価を渡す必要はありません。ただし、何らかの理由で株券が提出できない株主に対しては、他の手続き方法によって対価を交付できます。
⑤反対株主からの株式買取請求
少数株主を保護するため、当事会社は反対株主からの株式買取請求に応じなければなりません。当事会社は株式買取請求に関して、公告か通知によって株主に周知します。
反対株主は、反対の意思を表明し、株主総会で反対票を提出します。その際、当事会社は効力発生日や会社設立日から60日以内に、適正な価額で対価を支払わなければなりません。
株式買取請求は、簡易手続きや略式手続きによって株主総会が開催されない場合でも請求可能です。
⑥公正取引委員会・金融商品取引法上の届け出
規模の大きい株式移転や株式交換によって市場に悪い影響が及ばないよう、一定の条件を超えた株式移転・株式交換を行う場合は、独占禁止法の規定によって公正取引委員会への報告・届出が必要です。
組織再編を伴う場合は投資家などを保護するため、適正な情報開示・提供義務が金融商品取引法で定められています。
⑦株券・新株予約権の証券提出手続き
株式移転・株式交換では、完全子会社となる企業が株券を発行している場合や新株予約権証券を発行している場合、株券や新株予約権証券の提供を求める公告を行う必要があります。
当事会社は株式交換の効力発生日・株式移転の親会社設立日の1カ月前までに公告と株主への個別通知をしなければなりません。株主が期日までに提出しなかった場合は、対価の受け取り権利が無効となります。
⑧株式交換・株式移転の効力発生
株式交換の場合は、株式交換契約で定めた効力発生日に完全子会社から株式をすべて取得します。株式移転の場合も、親会社設立日に子会社の株式をすべて取得します。
ただし、期日までに債権者による異議申立てが解決していなかった場合は、株式交換・株式移転の期限は延期されるでしょう。
⑨新株発行・設立・変更の登記申請
株式交換・株式移転では、完全親会社は基本的に登記が必要です。しかし、完全子会社は株主が変わるだけで発行株式数や資本金などに変化はありません。完全子会社は登記をする必要がありません。
登記申請は、株式交換の効力発生日・株式移転の親会社設立日から2週間以内に申請します。登記申請の際は、各種書面とともに登録免許税も支払います。
⑩事後開示書類の備置・開示
株式交換の効力発生後・株式移転の設立登記後は、速やかに事後開示書類を6カ月間本店に備置するよう定められています。
速やかな備置の期限は明記されていませんが、当日、遅くても2週間以内に備置するのが一般的です。事後開示書類には、株式買取請求や債権者異議申立ての進捗(しんちょく)状況なども記載します。
5. 株式移転と株式交換が使用された事例
株式移転と株式交換にはさまざまなメリットがあるため、多く活用されます。株式移転が用いられた事例と株式交換が用いられた事例を紹介します。
株式移転が使用された事例
まずは、株式移転が用いられた以下の事例をご紹介します。
- ココカラファインによる株式移転
- 第四銀行と北越銀行による株式移転
- メガネスーパーによる株式移転
- 橋本総業ホールディングスによる株式移転
- ドワンゴによる株式移転
ココカラファインによる株式移転
株式移転の事例は、ココカラファインとマツモトキヨシホールディングスによる株式移転です。2019年8月、ココカラファインとマツモトキヨシホールディングスは、経営統合に向けて協議開始をする覚書を交わしました。
そして、2020年1月末に、経営統合で基本合意しました。今回の経営統合は、ドラッグストア業界を取り巻く環境や、経営統合によるシナジー効果など、両社が事業理念を共有し、今後の方向性が一致していることを確認した結果としています。
両社は共同株式移転による持ち株会社を設立し、経営統合を行いました。将来は「美と健康の分野でアジア No.1」を掲げ、社会的使命である地域包括ケアシステムの構築も推進を目指します。
第四銀行と北越銀行による株式移転
株式移転の事例は、第四銀行と北越銀行による株式移転です。2018年10月に第四銀行と北越銀行は、株式移転による経営統合を発表しました。
共同持ち株会社として第四北越フィナンシャルグループを新設し、第四銀行と北越銀行は完全子会社となります。株式移転比率は、北越銀行の1株に対して完全親会社0.5株、第四銀行の1株に対して完全親会社1株でした。金融緩和政策の長期化で地方銀行は、軒並み苦戦しました。
第四銀行と北越銀行は今回の統合によって、金融機関としての付加価値を高め、経営の効率化を目指します。
メガネスーパーによる株式移転
眼鏡一式市場規模は、業界再編の機運が高まっていくことが予想されるなか、メガネスーパーは2017年7月、単独による株式移転によって、持ち会社であるビジョナリーホールディングスを設立しました。
それに伴い、ビジョナリーホールディングスの完全子会社となったメガネスーパーの株式は上場廃止です。今回メガネスーパーは、純粋持ち株会社体制へ移行するために株式交換を行いました。
今回の株式移転により、グループ全体の事業規模拡大および事業基盤の共有化を戦略的に展開し、眼鏡小売市場における競争優位の確立を目指すとしています。
橋本総業ホールディングスによる株式移転
株式移転の事例は、橋本総業ホールディングスによる株式移転です。橋本総業ホールディングスは、管工機材や住宅設備の卸売を営む住宅関連企業です。
橋本総業ホールディングスは2017年5月、建材卸売を営むJKホールディングスと株式移転による統合を発表しましたが、その後統合に向けた協議を中止し、業務提携契約を締結しています。
住宅関連業界市場の現状は悪くありませんが、今後市場は縮小していくことが予想されるでしょう。橋本総業ホールディングスとJKホールディングスは、業務提携契約の締結により、環境の変化にいち早く対応できる体制を整えることを目指しています。
ドワンゴによる株式移転
株式移転の事例は、ドワンゴによる株式移転です。ドワンゴとは、動画配信サイトのニコニコ動画などで有名なIT企業です。
ドワンゴは2014年7月、出版事業や映画事業、デジタルコンテンツ事業を行うKADOKAWAと統合しています。
株式移転によって、持ち株会社を新設し、ドワンゴとKADOKAWAが新設持ち株会社の子会社となりました。株式移転比率は、ドワンゴ株式1株に対して完全親会社1株、KADOKAWA1株に対して完全親会社1.168株です。
ドワンゴのプラットフォームとKADOKAWAが持つコンテンツ力のシナジー効果を見込んで、株式移転による統合が決まりました。
株式交換が使用された事例
続いて、株式交換が用いられた以下の事例をご紹介します。
- フォーバルによる株式交換
- アイビーシーによる株式交換
- 出光興産による株式交換
- パナソニックによる株式交換
フォーバルによる株式交換
株式交換の事例は、フォーバルです。フォーバルは2020年6月に、カエルネットワークスを株式交換により完全子会社化を発表しました。
カエルネットワークスは、金融機関・官公庁系ネットワーク、データセンター構築など豊富な経験を持つ会社です。
今回の締結で、フォーバルはネットワークの内製化の取り組み、顧客先の中小・中堅企業のネットワークにおける企画や設計などの能力強化を見込み、グループシナジーの創出と強化を図っています。
アイビーシーによる株式交換
株式交換の事例は、アイビーシーです。アイビーシーは、システム開発・コンサルティングを行っているIT関連企業です。
アイビーシーは2019年2月、ブロックチェーンの開発などを行うサンデーアーツを株式交換によって完全子会社化を発表しました。株式交換比率は、アイビーシーの株式1株に対してサンデーアーツ株が410.51株です。
簡易株式交換による手続きのため、アイビーシーは株主総会を開催せずに手続きを進めています。アイビーシーはサンデーアーツの高度なシステム開発技術力を手に入れることで、新たな事業創出を目指しています。
出光興産による株式交換
株式交換の事例は、出光興産です。出光興産と昭和シェル石油は2018年7月、出光興産を完全親会社、昭和シェル石油を完全子会社にして、株式交換による統合を発表しました。株式交換比率は、出光興産の株式1株に対して昭和シェル石油が0.41株です。
出光興産と昭和シェル石油の統合は長い間難航してきましたが、周囲の反対を乗り越えて石油業界の大型再編が実現しました。
パナソニックによる株式交換
株式交換の事例は、パナソニックです。パナソニックは2017年4月、パナホームを株式交換によって完全子会社化しています。株式交換比率は、パナソニック株式1株に対してパナホーム株式が0.80株です。
株式交換による統合で、パナソニックは重点事業の1つである住宅事業の強化を図り、パナホームはパナソニックの経営資源を最大限活用できます。
6. 株式移転・株式交換に関する税務
株式移転・株式交換の税務は、税制適格に該当するか税制非適格に該当するかで変わります。税制適格とは、簡単にいうと株式移転・株式交換を行う企業が同じグループ内の企業であることが条件です。
税制非適格とは、グループ以外の企業が株式移転・株式交換を行う場合です。グループ企業内株式移転・株式交換の税務を解説します。
完全親会社の税務
完全親会社の税務は、適格か非適格かによって税務上の処理方法が変わります。非適格の場合、完全子会社の株主から取得する株式の価額は、効力発生日に交換する際の時価です。
適格の場合は、完全子会社の株主数によって変わります。株主数が50人よりも少ない完全子会社からの取得は帳簿価額を参考にします。50人以上であれば、簿価純資産を参考にします。
完全子会社の税務
完全子会社の税務も、適格か非適格かによって違います。非適格の場合、完全子会社の時価評価資産は、益金算入か損金算入をします。
時価評価資産とは、株式などの有価証券や土地、固定資産などです。適格の場合、税務上の処理は必要ありません。
完全子会社の株主の税務
株主交換によって完全子会社の株主が保有株式を売却すると、税務上、株式の譲渡として取り扱われます。
株式交換が非適格の場合は時価による譲渡とみなされますが、適格の場合は簿価での譲渡とみなされ、譲渡損益の繰延が認められます。
完全親会社から対価として株式のみ受け取った場合も、適格か非適格かは関係なく、譲渡損益の繰延が可能です。
株式移転後の連結納税について
株式移転によって完全親子関係になると、連結納税を採用できるため、会社間の損益通算ができます。
連結納税とは、例えば完全親会社が黒字で完全子会社が赤字の場合、両者の損益を合わせた額に対して課税される仕組みです。
なかには連結納税での節税対策も兼ねて株式移転を行う企業も存在しますが、連結納税の節税目的で組織再編・グループ再編を行うことはリスクも伴うので注意が必要です。
7. 株式移転・株式交換にかかる費用
株式移転・株式交換に必要な費用は、対価に現金を用いた場合はその費用です。M&Aに共通の費用に、M&Aアドバイザーなどの専門家に依頼する際の手数料があり、手数料は依頼する専門家や株式移転・株式交換の規模によって変わります。
株式移転にかかる費用としては、新設会社の登記をする際の登録免許税があります。登録免許税は、資本金に1,000分の7を乗じて計算し、算出の結果15万円よりも低かった場合の登録免許税は15万円です。
そのほかにも、株式移転契約書や株式交換計画書の作成費用、株主総会関連の費用、債権者保護関連の費用など、各種事務費用が必要です。
8. 株式移転・株式交換の法的効果
株式交換・株式移転は、手法の内容や活用目的に違いがあります。ここでは、株式移転・株式交換の法的効果をそれぞれ紹介します。法的効果は、法令で定められている権利義務です。
株式移転での法的な効果
株式移転には、いくつかの法的効果があります。
- 完全親会社の設立
- 完全親会社による完全子会社の全株式の取得
- 必要に応じて完全子会社の株主に対価の交付
完全親会社の設立
株式移転では、完全親会社となる新設会社を設立した時点で法律効果が発生し、親会社は子会社の株式をすべて取得しなければなりません。
完全子会社の株主は、新設会社設立に伴い、完全親会社から対価を受け取るよう法令で定められています。
完全親会社による完全子会社の全株式の取得
株式移転では、完全親会社が設立された時点で、完全子会社の株式をすべて取得するよう法令で定められています。
必要に応じて完全子会社の株主に対価の交付
株式移転では、完全親会社が設立された当日に、完全子会社の株主に対価を交付するのが法令で定められています。対価には、株式や現金、新株予約権などがあります。
株式交換での法的な効果
株式交換での法的効果は以下のとおりです。
- 完全親会社による完全子会社の全株式の取得
- 必要に応じて完全子会社の株主に対価の交付
完全親会社による完全子会社の全株式の取得
完全親会社は株式交換の効力発生日当日に、完全子会社の株式をすべて取得するのが法令で定められています。
必要に応じて完全子会社の株主に対価の交付
完全親会社は効力発生日当日に、対価を交付する必要のある株主に対して対価の交付を行うことが法令で定められています。完全親会社が交付する対価とは、株式に限らず、現金や新株予約権なども含まれます。
9. 株式の移転比率と交換比率
株式移転や株式交換の際は、完全親会社と完全子会社の間で株式を割り当てる比率を決める必要があります。株式移転の場合は株式移転比率、株式交換の場合は株式交換比率と呼ばれます。
株式移転の移転比率
株式移転比率とは、親会社が子会社に株式移転の対価として割り当てる株式の割合のことです。株式移転比率では、子会社に割り当てられる株式の比率は、子会社の企業価値によってそれぞれ違います。
株式の割り当て方は、親会社1株に対して子会社A社は何株、子会社Bは何株といった形で決めます。
株式交換の交換比率
株式交換比率とは、親会社と子会社が株式交換で交換する株式数の割合のことです。株式交換比率は、親会社の株式1株に対して子会社の株式何株といった形で決めます。
企業価値評価と株式交換比率の算定の関係性
株式交換比率を決定するベースとなるのは、企業価値評価です。
企業価値評価には、時価純資産価額法や収益還元法、市場株価法、類似会社比準法などさまざまな方法が用いられ、企業価値を発行済株式総数で割ると、1株当たりの企業価値が算出されます。この1株当たりの企業価値から、適正な株式交換比率が導かれるでしょう。
株式交換比率は最終的には当事会社の交渉で決定されますが、適正値からあまり外れていると株主の権利を侵害する可能性もあります。
企業価値評価は、上場企業であれば比較的評価しやすいですが、非上場企業の場合は適正な評価が難しく、専門家による綿密な算定が重要です。
M&A仲介会社などの中には、企業価値算定に強い会社もあります。企業価値算定を依頼する専門家選びは、重要なポイントとなるでしょう。
株価変動リスクに関する対処法
株式交換契約が締結された後、成約までは数カ月程度の期間を要します。株式交換の前後に株価が大きく変動し、1株当たりの企業価値が想定していたよりも大きく変わり、業績が悪化する可能性もあるでしょう。
株式交換比率には、固定比率方式と変動比率方式があります。通常、契約時に決定した値で固定する固定比率方式が一般的です。
しかし、成約までの期間が長くかかるケースや株価変動が予想されるケースでは、変動比率方式にする場合もあります。変動比率方式をとった場合、成約直前の株価を基にして株式交換比率を決めます。
端数株式・単元未満株式の処理法
株式交換比率は小数となるのが一般的で、株式に端数が出てしまいます。端数が出た場合、切り捨てはできません。
端数株式の場合、旧株主から端数分の株式を集め、合計した数の株式を現金化して株主に払い戻すか、あるいは会社がそのまま買い取る必要が出てきます。
単元株式数も、端数株式と同じような対応が必要です。単元株式数は、一定数の株式をもって1単元とし、議決権が与えられます。しかし、1単元に満たない株式の保有者には議決権が与えられません。
単元株式数株式の場合も、株主から株式の買い取りを行う必要があります。
10. 株式移転・株式交換の際の役員・社員の扱い
株式移転・株式交換は組織再編を伴うため、当事会社の役員や社員にも少なからず影響が及びます。株式移転や株式交換を行った際の役員や社員、株主の扱いを解説します。
役員の扱い
株式移転の場合、完全子会社となる企業で役員を務めている人が、新設される親会社の役員になる事例が多くみられます。その他の役員は引き続き子会社の役員として残るケースが一般的です。
株式交換の場合は、完全親会社から役員として完全子会社に出向するケースがありますが、その際、もともと子会社にいる役員も残ることが多いです。
社員の扱い
株式移転・株式交換の場合、事業譲渡のように雇用契約をし直すことなどはありません。基本的には株式移転や株式交換が行われる前と同じ業務を続けることになります。
ただし、株式移転であれば、新設会社の下に移転した企業が横並びの立場になるので、企業間での不満はあまり出ることがありません。
しかし、株式交換の場合は一方が子会社となるので、立場が下であると不満を感じる従業員も少なくありません。
株主の扱い
株式移転・株式交換では、完全子会社の株主は基本的には完全親会社の株式を割り当てられるので、親会社の株主としてさまざまな権利を行使できます。
親会社の株主になることが不服であれば、株式買取請求による株式の売却も可能です。ただし、親会社の株式割り当てを望んでいるにもかかわらず、保有している子会社の株式を期限内に提供しなかった場合は、権利を失ってしまいます。
やむを得ない理由で提供できない場合は、その旨を伝えることで対応してもらえます。
11. 株式移転・株式交換の相談はM&A仲介会社へ
株式移転・株式交換では、法的な手続きや税務処理だけでなく、組織再編後のマネジメントも重要です。
株式移転・株式交換後に期待したシナジー効果が得られるようにするためには、M&A仲介会社の専門家によるサポートがおすすめでしょう。M&A総合研究所では、豊富な実務経験を持つM&Aアドバイザーが案件をフルサポートします。
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12. 株式移転・株式交換の違いまとめ
株式移転は共同持ち株会社を作る際などに多く用いられる手法であり、株式交換は買収先企業を完全子会社化する際によく用いられる手法です。
会社の統合には不安や心配なことが多いです。社風や経営方針が変わり、退職を考える従業員が出てくるケースも考えられます。自社にあった条件や、状況、環境に応じて株式移転・株式交換を活用するのが大切です。
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