M&Aの実務を徹底解説!手順・流れ・契約・バリュエーション・おすすめ本も紹介

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

M&Aを進めるうえで専門家の協力は必須ですが、経営者としても最低限の実務知識を身につけておく必要があります。本記事では、M&A実務の手順や流れについて要点をまとめました。M&A専門家が行う実務と分けて解説していますので、参考にしてみてください。

目次

  1. M&Aの実務を行う手順
  2. M&A専門家の実務①:売買先企業の絞り込み
  3. M&A専門家の実務②:バリュエーション(企業価値評価)
  4. M&A専門家の実務③:交渉
  5. M&A専門家の実務④:基本合意書の締結
  6. M&A専門家の実務⑤:デューデリジェンス(買収監査)
  7. M&A専門家の実務⑥:最終契約の締結
  8. M&A専門家の実務⑦:経営統合(PMI)
  9. M&Aの実務プロセスに必要な書類
  10. M&Aの実務を学ぶ際におすすめの本7選
  11. M&Aの実務まとめ
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1. M&Aの実務を行う手順

M&A取引は、売り手と買い手の双方にとり、非常に重要な意思決定です。M&Aの契約が締結されると、これまで別個に独立していた会社が合併し、一つの大きな会社になります。当然、プロセスが複雑であるうえ、不測の事態が発生すれば容易に解決できないため、十分に事前知識を得たうえで臨むのが大切でしょう。

一般的なM&A実務を進める手順は、以下のとおりです。

  1. 事前準備
  2. 業界・企業分析
  3. M&A仲介会社への相談
  4. アドバイザリー契約の締結
  5. 売買先企業の絞り込み
  6. 秘密保持契約の締結
  7. トップ面談
  8. 基本合意書の締結
  9. デューデリジェンスの実施
  10. 最終契約の締結
  11. クロージング

本記事では、主に売り手側の視点から、各手順の詳細を解説します。

①事前準備

社内におけるM&A実務として最初に実施するプロセスは、取引条件の検討および優先順位の設定です。

具体的には、以下の項目を決めます。

  • 売却を行う対象(企業や事業など)
  • 希望売却(買収)価格
  • 売却(買収)方法


取引条件に優先順位をつけておくと、交渉時に自社が譲れる条件と譲れない条件を明確にできるため、プロセスを円滑に進めやすくなります。

この段階で検討内容に不安がある場合には、M&A仲介会社などへの相談も有効策です。ただし、M&A仲介会社は外部の人間であるため、あくまでも自社が主体となって検討することをおすすめします。少なくとも、こうした条件の最終決定権は、自社にあることを肝に銘じておかなければなりません。

M&A・会社売却の動機を明確にする

M&A・会社売却は大きなイベントとなるため、ある程度の時間を確保し粘り強く交渉して相手を探すと、結果的にM&A・会社売却を成功に導ける可能性が高いです。

M&Aでは「どれだけ良い条件でM&Aできるか?」がポイントとなり、これを実現するためにも「なぜM&A・会社売却を実施するのか?」の動機を明確に持っておかなければなりません。

動機をしっかり記録しておく

M&Aの動機は、後継者不足・事業再編・セミリタイアなど、会社や経営者ごとに異なります。

ときに厳しい状況に立たされる交渉実務では、動機はM&A・会社売却を成し遂げるためのモチベーションとして必要不可欠です。明確にした動機は記録しておいて、M&Aの各プロセスで常に見返せる状態にしておくことをおすすめします。

M&Aの目標・目的を明確にする

動機を明確にした後は、M&A・会社売却における目標・目的を設定します。

具体的には、「M&A・会社売却によりどういった状態を作りたいのか?」「何が欲しいのか?」を記録しておき、その後の行動指針にすると良いです。

交渉場面では非常に多くの選択を迫られますが、行動指針がぶれなければ迷いが少ないため、判断力を欠くことなくプロセスを前に進められます。

目標・目的には、今後の会社運営面も含めて、少なくとも以下の項目を設定しておくと良いです。

  • M&A・会社売却で得たい金額
  • 会社のガバナンスや経営者自身の将来的な身の振り方など、会社運営
  • 給与水準や人事に関する取り決めや解雇条件など、従業員の今後
  • 取引先との関係

自社の強み・弱みを把握しておく

M&Aは単に会社を売ったり買ったりするだけではありません。目的は、両社が合併や買収後に業績を伸ばしたり、コストを削減する「シナジー効果」を得たりすることです。だから、最適な相手を選ぶためには、自社と相手企業の特長や強み、弱みをしっかりと理解し、業界の動向も考慮しながら進める必要があります。

M&Aについて知る

動機や目的が定まった後は、実務遂行に向けてM&A・会社売却に関する知識を最低限身につけておく必要があります。基本的に、M&A仲介会社などの専門家からサポートを受けない限り、M&A・会社売却プロセスを円滑に進められません。

専門家からサポートを受けると専門知識が豊富なエキスパートに対応してもらえるため安心できますが、専門家に頼りきってしまうと想定外のトラブルが発生するおそれがあります。M&A・会社売却の実務を成功させるためにも、自身でもM&Aに関する知識を身につけておきましょう。

②業界・企業分析

M&A・会社売却における相手企業は、単純に事業を引き継いでくれる相手ではなく、M&A後に技術向上やコスト削減などのシナジー効果(相乗効果)を多く獲得できる相手を選ぶことで、成功に近づきます。

自社にとってどのような企業(どのような業種・どのような地区・どのような強みや弱みを持っているかなど)が理想の相手先となるかを検討しなければなりません。

シナジー効果を検討するにあたっては、自社を十分に理解しておく必要があります。ここでは、自社の業務プロセス・強みや弱みを十分に理解するとともに、所属する業界の特徴・脅威なども改めて分析しておくと良いでしょう。

③M&A仲介会社への相談

次に、M&A仲介会社を決めます。M&A仲介会社に取引条件を説明したうえで、こちらの気持ちや考えを十分に理解してもらいましょう。M&A仲介会社に相談すると、M&Aの目的・希望条件などのヒアリング後、実現可能性などに関するアドバイスをもらえます。

会社売却に関して、最も関心が高い情報は売却相場といえますが、多くのM&A仲介会社ではこのタイミングで簡易評価によりおおよその金額が算定可能です。

M&AはM&A専門のアドバイザーに相談すべき

M&Aの相談先に迷った場合には、M&A総合研究所にご連絡ください。M&A総合研究所には、M&A・会社売却に関する知識や経験を豊富に持つアドバイザーが在籍しています。

M&A総合研究所の強みは、以下のとおりです。

  • M&A専門のアドバイザーが仲介業務を手掛けている
  • 利用しやすい手数料体系を採用している
  • 圧倒的なスピード感で実務を遂行できる

相談料は無料となっておりますので、M&A・会社売却を検討したらまずはお気軽にご相談ください。

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④アドバイザリー契約の締結

M&A仲介会社への相談によりM&A実施の意思が固まったら、M&A仲介会社とアドバイザリー契約を締結すると、M&A実務をスムーズに進められます。

アドバイザリー契約とは不動産媒介契約における専任媒介契約に当たる契約であり、M&A仲介会社にM&A実務を委託する契約のことです。状況によっては、委託するM&A業務の範囲を選択したうえで締結します。

アドバイザリー契約を締結するとM&A仲介会社から自社に関する資料の提出を依頼されるため、あらかじめ準備しておくと良いでしょう。

ここで提出された資料をもとに、M&A仲介会社は企業の社名を伏せた簡単な説明資料「ノンネームシート」や、社名を掲載した詳細な説明資料「企業概要書」などを作成します。

⑤売買先企業の絞り込み

その後はM&A仲介会社によって、M&A相手となる企業のリストアップが提示されます。リストアップにおける基準には業種・企業規模・地域・事業内容・資力などがあり、これらの基準から自社の希望に近い企業が30社程度掲載されるケースが多いです。

自社が遂行する実務としては、リストアップの確認および順位付けとなります。

⑥秘密保持契約の締結

M&A仲介会社を通して相手先企業に自社情報を提供するには、M&A仲介会社と秘密保持契約書を締結しなければなりません。

M&A取引に関する情報が自社の従業員や取引先などに漏れると、動揺を引き起こし業務に支障をきたす恐れがあります。そのため、秘密保持契約書をしっかりと締結したうえで、情報を提供する実務の遂行が必要です。

秘密保持契約の締結後は、まず「ノンネームシート」により相手先企業の関心を確かめます。関心があれば「企業概要書」を開示したうえで、プレゼンテーションを行う段取りです。ここでは、自社の希望条件や今後のスケジュールに関する説明も行います。

相手先企業も、M&A仲介会社との間で秘密保持契約を結んでいるケースがほとんどです。自社の情報がM&A仲介会社から相手先企業に提供されたとしても、売却交渉が行われている事実を第三者に開示・漏えいしない点や、開示された情報を買収の検討以外の目的に使用しない義務が課せられています。

⑦トップ面談

「ノンネームシート」や「企業概要書」を通して相手先企業からM&A仲介会社に向けて関心がある旨の連絡が届いたら、経営者同士のトップ面談に移行します。

トップ面談はあくまでも交流の場であり、交渉の場ではありません。経営者同士の相性確認が目的です。それぞれの自己紹介や質疑応答が中心となるほか、お互いの会社や工場などの見学が実施される場合もあります。

トップ面談の実施後に、M&A・会社売却の細かい条件交渉へと移行する段取りです。一度のトップ面談でM&A・会社売却の条件交渉に移行するかどうかは、ケースごとに異なります。

直接条件交渉を行うことは難しいため、M&A仲介会社に「緩衝材」の役割を担ってもらいながら、条件のすり合わせを行いましょう。交渉で問題とされる条件は、具体的にいうと、売却金額・売却予定日などです。

⑧基本合意書の締結

トップ面談・条件交渉を通じて自社と相手先企業の双方がM&Aの進行に合意ができた段階で、相手先企業と基本合意書を締結します。

基本合意書は仮契約の扱いで、本契約ではありません。基本合意書による契約は、あくまでもM&Aの検討をお互いに継続する意思を確認する契約です。

基本合意書には、売却予定金額・譲渡予定日・買収監査の進め方・独占交渉権の付与などが記載されます。

⑨デューデリジェンスの実施

M&A・会社売却に関する基本合意書を締結したら、デューデリジェンス実務に移行します。デューデリジェンスは、被買収会社の正確な価値や隠れた債務などを把握するために必須のプロセスです。どこまで調べるかは取引に寄りますが、法務、財務、税務の観点から調査されることが多いです。

公認会計士、税理士など外部専門家の手を借りて実施されます。

⑩最終契約の締結

デューデリジェンスの結果をもとに、M&Aの最終条件や細目事項を決定する、最終契約書の作成実務に移ります。

ここでは、以下のような事項を決定しなければなりません。もしもデューデリジェンスで指摘された箇所があれば、指摘内容を契約条件に反映させる方法を検討します。

  • M&A取引(売却)価格
  • 退職金の処理方法
  • 従業員の処遇
  • 役員の処遇
  • M&A取引金額の支払い方法
  • 連帯保証や担保提供の解除方法
  • 契約書に記載されていない債務の発生ケースの処理方法
  • その他細目事項の決定(社宅の処理・骨董品やゴルフ会員権などの取り扱い・役員人事など)

上記と合わせて、M&Aのクロージングに向けて、スケジュール調整・取引場所の手配・株券の準備・最終契約書の製本実務・売却後の引継ぎ計画策定をはじめ、さまざまな実務をM&A仲介会社などの専門家からサポートしてもらいながら進めていきます。

⑪クロージング

M&Aにおけるクロージングは、株式譲渡であれば株式の譲渡、事業譲渡であれば事業の譲渡を完了させるための実務をさします。つまり、株式の譲渡または事業の譲渡手続きおよび、これに伴う譲渡代金の決済手続きのことです。

M&A取引では最終契約締結のプロセスと合わせてクロージング実務が遂行されるケースもありますが、多くの場合は最終契約書の締結日以降(1カ月程度後が多い)にクロージング実務が遂行されます。

M&Aの最終契約書にはさまざまな前提条件が規定されており、基本的には規定された条件が満たされたうえでクロージング日が到来したときにM&Aは実行されると定められています。

最終契約締結日からクロージング日までの期間は、前提条件を満たすために実務を遂行する期間となります。前提条件が満たされていることを確認した後で、M&Aのクロージング実務に移る段取りです。

クロージングが終了すると、M&A取引の実務が完了します。

以下の記事でM&Aの流れをフロー図にまとめていますので、参考にしてみてください。

【関連】M&Aのフロー・流れを徹底解説!検討〜クロージングまで【図解あり】
【関連】M&Aによる会社売却の準備!行うべき身辺整理、必要な準備期間を徹底解説

2. M&A専門家の実務①:売買先企業の絞り込み

次に、M&A専門のアドバイザーを詳しく見ていきましょう。アドバイザーとは、M&Aで会社を買いたい、売りたい企業に対し、方針の助言からM&A実行までをサポートする企業のことです。

特に国家資格が必要な業務ではないことから、士業から株式会社まで、多くのプレイヤーが存在しています。中でも特に専門性が高いのが、M&A仲介会社・アドバイザーです

ロングリスト・ショートリストを用いた絞り込み

M&Aアドバイザーは、M&Aニーズのある企業に対して、買い手や売り手の候補を提示します。多数の候補先(ロングリスト)をもとに、M&Aを通じた企業価値向上の可否を議論しながら打診先を絞り込み、最終的に2~3社(ショートリスト)を決定します。

秘密保持契約の締結

秘密保持契約は、NDA(Non Disclosure Agreement)とも呼ばれ、M&Aプロセスの中で得られた情報を社外に公開しない義務を課すための契約です。

M&Aプロセスの中で、買い手は売り手の社内情報や財務情報を知らなければ、買収を進めるかどうか判断しようが有りません。そこで、売り手企業は多くの情報を買い手企業に渡します。

秘密保持契約は、M&Aプロセス上で得られた企業情報を、M&A以外のビジネスで悪用させないための契約で、ショートリストの作成後、実際の交渉段階に入る前に締結されます。

M&Aアドバイザーが間に入っていれば、アドバイザー経由で締結される場合が多いです。

ノンネームシート・企業概要書を用いた提案

一般的に、売り手企業は、自社の財務情報や社内情報を買い手企業候補に伝える資料を作成します。資料は、秘密保持契約書締結前であればノンネームシート、締結後であれば企業概要書(IM, Information Memorandum)と呼ばれます。実務上は、秘密保持契約書締結前に、ノンネームシートとして作成されることが多いです。

実は、「自社の売却を検討中であること」それ自体が大きな機密事項なので、ノンネームシートでは、自社名を隠しながらも自社の魅力を伝えるための工夫が必要です。資料作成の際は、M&Aアドバイザーなどと協力して十分な検討を行うと良いでしょう。

売買先企業の選定・打診を支援する専門家一覧

M&Aアドバイザーの役割ができる専門家は、主に、以下のような種類があります。それぞれの職業上の強みが異なりますので、相談・依頼をする際には、相手を慎重に見極める必要があります。

事業承継アドバイザー・プランナー

事業承継アドバイザーや、事業承継プランナーは、一般社団法人金融検定協会や事業承継センター株式会社によって運営されている民間資格です。事業承継やM&Aに関わる法務、税務、会計などの学習をして合格するため、一定の信頼性があるでしょう。

ただし、士業のような国家資格ではない点と、個人で資格を取得することが多い点から、小規模の事業承継で良く用いられています

公認会計士・税理士事務所

難関国家試験を突破し、高度な知識を有する、会計・税務の専門家です。会計士や税理士の業務分野は多岐にわたりますが、中にはM&Aに専門的に携わっている先生もいます。典型的には、会計士事務所や税理士事務所のグループにコンサルティング会社を持っている先生です

特に会計士は、M&Aプロセスのデューデリジェンス業務に関わるため、そこをきっかけにM&Aの世界に精通していく先生は多くいます。

弁護士事務所

M&Aアドバイザーとして活躍する場面はあまりありませんが、M&Aプロセスの重要な配役となるのが弁護士です。法律の専門家として、法務デューデリジェンスのみならず、事業承継時の親族間トラブルなどへの対応が可能です。

弁護士は、弁護士同士や会計士・税理士とのネットワークを持っていることが多いため、M&Aの相談をすればネットワークの中から適切な専門家の紹介が期待できます。

司法書士事務所

不動産の名義変更、会社の解散、株主総会の処理など、会社の登記全般で活躍する専門家です。M&Aの際にも、司法書士に依頼すべき事項がたくさんありますので、専門家のメンバーとして一人は必要でしょう。

M&A仲介・アドバイザリー会社

ロングリスト・ショートリストの作成や、秘密保持契約の作成などに関して、上記で最も頼りになるのがM&A仲介会社・アドバイザリー会社です。

M&A仲介会社とアドバイザリー会社は、売り手と買い手をマッチングする「仲介方式」と、どちらか一方の代理人となる「アドバイザリー方式」かの違いはありますが、企業の売りニーズ・買いニーズに精通している点では共通しています

仲介会社、アドバイザリー会社により得意な分野と不得意な業種・業態があるので、よく話を聞き、自社に適したアドバイザーを選ぶことが大切です。

3. M&A専門家の実務②:バリュエーション(企業価値評価)

M&Aプロセスの中でも、「買収価格」交渉は非常に重要な局面です。「一つの会社をいくらで買うか」といった命題はバリュエーション企業価値評価)とも呼ばれ、従来、ファイナンス理論などの学問でも議論されてきました。

実務で使われているバリュエーションは、学問上の知見をバックグラウンドにしつつ、独特の方法で行われます。以下では、その詳細を解説します。

バリュエーションを実施する目的

例えば、スーパーで野菜を購入する際には、値札を見れば値段がわかります。コンビニでパンを購入する時も同様です。それでは、会社を購入するときはどうでしょうか。

もちろん値札が付いていませんので、売主と価格を交渉しなければなりません。買い手はできる限り安く買いたいものですが、反面、売主はできる限り高値で売りたいと思うでしょう。

そこで、会計、税務、法律の観点からバリュエーションを実施することで、相手方との交渉をスムーズに進めることが可能になります

バリュエーションを行う方法

主に「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」「コストアプローチ」の3つの方法があります。それぞれ、「会社のどの部分に注目するか」が異なります。

相手との交渉の中で、どの観点を重視するかをすり合わせ、最終的な売却価格を決めていくと良いでしょう。

  • マーケットアプローチ:被買収会社の類似上場企業における業績値(営業利益、EBITDAなど)と市場株価の倍率を平均して、被買収会社の業績値に掛け合わせることで、株式価値総額を導く方法です。他の手法と比較して、客観性が高い特徴があります。
  • インカムアプローチ:被買収会社の事業計画から算出された将来に期待されるキャッシュフローの現在価値の合計を株式価値総額とする方法です。他の手法と比較して理論的説明がつきやすいでしょう。 
  • コストアプローチ:被買収会社の純資産額を、株式価値総額とする方法です。客観的な視点から見ると、会社が持っている資産・負債は考慮に入れられますが、社員のノウハウや知財などの無形資産を評価できません。

バリュエーションを成功させるコツ

理想的な条件では、マーケットアプローチとインカムアプローチの計算結果は整合します。しかし、それは実務上では起こり得ず、各アプローチによる計算結果にはばらつくのが普通です。

「真の企業価値」を追求するのではなく、適正価格はあくまで売り手と買い手の交渉によって決まることを肝に銘じ、適正と思う価格とその根拠を合理的にできるよう準備することをおすすめします

バリュエーションを担う専門家

M&A仲介会社やM&Aアドバイリー会社には、社内にバリュエーションの専門家チームがいて、M&Aプロセスの中で第三者目線からバリュエーションを行います

バリュエーションのみを外注できる専門家としては、公認会計士や株式評価専門会社があります。自社で企業価値評価をしたい場合には、バリュエーションのみを専門家に依頼すれば、適切な評価結果が得られるでしょう

4. M&A専門家の実務③:交渉

売り手・買い手と双方で秘密保持契約を締結後に、M&Aの交渉がスタートします。まず、トップ面談である経営者同士の顔合わせが行われるでしょう。この面談では買収金額や条件などの交渉ではなく互いの価値観、企業文化、経営理念など、書面ではわからない部分を確認します。信頼関係を構築するのが目的でもあるといえるでしょう。

トップ面談後、価格や条件、従業員の処遇など細かい部分を詰めていきます。交渉の際は、一般的にはM&A仲介会社が間に入り、条件のすり合わせなどを行います。

5. M&A専門家の実務④:基本合意書の締結

売り手企業が、複数の買い手候補の中から交渉を進めたいと思う企業を選んだ後は、基本合意書の締結に進みます。基本合意書は、MOU(Memorandum of Understanding)やLOI(Letter of Intent)とも呼ばれ、その時点までに当事者間で合意した事項が記載されます

基本合意書を締結する目的

基本合意書は、デューデリジェンスなどの本格的な実務に入る前に交わされる契約書で、その時点に当事者間で合意した、買収価格などの事項が定められます。法的拘束力は原則なく、互いの認識のすり合わせのために用いられます。

そのような中、唯一法的拘束力を持つのが、「独占交渉権」条項です。独占交渉権により、これまで複数存在した買い手候補企業が一本化され、売り手企業が単独の買い手企業以外と交渉できなくなる効果が生じます。

買い手企業としては、MOUを締結により、売り手企業の真摯(しんし)な交渉が保証されるメリットがあります

基本合意書の記載内容

具体的には、以下の項目が記載されます。

  • 法的拘束力の範囲
  • 買収価格
  • スケジュール
  • 費用分担
  • 独占交渉権
  • デューデリジェンスへの協力義務、表明保証
  • 有効期間
  • 準拠法、管轄

このうち、法的拘束力を持つのは「独占交渉権」「デューデリジェンスへの協力義務、表明保証」に限られるのが通常です。

基本合意書の作成・締結を支援する専門家

買い手や売り手に代わって契約書の作成ができるのは法律の専門家である弁護士のみです。基本合意書締結には、弁護士のサポートを受ける必要があります

もちろん、M&AアドバイザーであるM&A仲介会社やアドバイザリー会社は、日頃何件ものM&Aの契約を見ていますので、問題となるポイントや交渉方法のノウハウを持っています。積極的に活用し、適切な基本合意書を締結してください。

6. M&A専門家の実務⑤:デューデリジェンス(買収監査)

M&Aプロセスの中でも、外部のM&A専門家との連携が重要となるのが、デューデリジェンスです。デューデリジェンスでは、法務、財務、労務(税務)などの観点から被買収会社に対する調査を行い、その会社を買収した後に大きな問題が生じないかをチェックします。

流れを把握し外部の会計士、税理士、弁護士、コンサルタントなどを使いこなすことが、M&Aを成功に導くために欠かせません。

デューデリジェンスの目的

デューデリジェンスは、売り手企業の経営状態などの内部情報を買い手企業へ共有するプロセスです。M&Aの構造上、売り手企業が自社に不利な情報を隠したまま、買い手企業に買収されてしまいます。買い手企業は、売り手企業の経営実態を把握しなければM&Aの最終意思決定ができません。

デューデリジェンスとは、両企業対等な立場で交渉できる関係構築を目的にして、売り手企業から買い手企業へなされる情報共有です。具体的には、買い手企業から売り手企業への質問リストに沿ったQA形式で行われます。

デューデリジェンスを通じて明らかにするもの

デューデリジェンスに際して、買い手企業が質問リストを通じて明らかにしたい内容は、例えば以下のとおりです。

  • 買収は可能なのか
  • 買収価格は適正か
  • 買収後にトラブルを発生させる事情はないか
  • その他、買収を行うべきでない特殊な事情はないか

デューデリジェンスで必須の項目

一度のM&Aで行われるデューデリジェンスの種類は、一般的に財務・法務・労務・ビジネスの4つです。財務デューデリジェンスでは、書面で示された資産が実在しているか、書面に記載のない負債が隠れていないか、損益計算書は正しく作成されているか(粉飾はないか)などを調査します。

法務デューデリジェンスは、売り手企業の契約が法的にM&Aの障害にならないか、法令を順守した経営がなされているかなどを調査する行為です。労務デューデリジェンスでは、就業規則・賃金規定・退職金規定などの各種規程や残業代・有給休暇・決裁ルールなどを調査します。ビジネスデューデリジェンスは、営業方法・生産管理方法・資金管理方法などの観点から、ビジネスモデルの検証を行います。

デューデリジェンスを担う専門家

デューデリジェンス実務は、買い手企業が中心となり、買い手企業が委託した専門家により行われます。財務・法務などの専門分野では、公認会計士・弁護士・コンサルタントなどが選任されることが一般的です。その他の専門性の低い分野は、特段の問題が出てくると予想される場合を除いて、買い手企業の社員が調査します。

デューデリジェンスは、以下の3チームで行う場合が多いです。

  • 財務デューデリジェンスチーム
  • 法務デューデリジェンスチーム
  • 労務・ビジネスデューデリジェンスチーム

売り手会社の属性や過去の事情などに応じて、人事労務デューデリジェンス、ITデューデリジェンス、SDGsデューデリジェンスなどが実施される場合もあります。

デューデリジェンス結果の活用方法

デューデリジェンスの結果に基づいて、M&A取引の方針を具体的に決定します。最終契約締結に向けて、調査結果を活用し、取引価格・取引条件の見直し、表明保証を含めた最終的な交渉プロセスに進むかどうかを判断しなければなりません

想定外の問題が発覚し想定収益が実現不可能と見込まれた場合には、買い手企業とのM&A・会社売却における最終合意が困難となり、交渉が破断するおそれもあります。

デューデリジェンスの結果は、株主に対する説明にも活用されます。買い手企業の経営者は、自社が行ったM&A取引を、自社の株主に対して説明する責任があるためです。

デューデリジェンスの課題

デューデリジェンスを受ける売り手企業は、買い手企業に適正な情報を共有し、良い印象を与えられるよう適切な対応を心がけましょう。

デューデリジェンスでは、膨大な量の情報を開示するため、売り手側の従業員に負担が掛かります。開示資料の準備・プレゼンテーションに向けた資料作成や予行演習・質問や追加の資料要求への対応などを、日常業務と並行して進めなければなりません。

中小企業では、内部管理体制が完璧とはいえず、要求された資料を十分に作成できないケースが多いです。法的に必要な書類を作成できていない場合には、トラブルにつながりかねません。資料不足などが重なり、M&A取引が破談する場合もあります。

上記のトラブルを避けるには、M&A・会社売却を検討した初期段階で、顧問の税理士などと相談しながら瑕疵(かし)のない書類を整備するなど、今後の手順を計画しておきましょう。

売却側となる場合でも、買い手企業のいいなりとなる必要はありません。デューデリジェンス結果を買い手企業がどう判断するか専門家とともに予測し、必要な場合には、客観的な資料をもとに売却価格の反論・交渉を行いましょう。

【関連】M&Aのデューデリジェンス(DD)とは?用語の意味、項目別の目的、業務フロー、注意点を徹底解説

7. M&A専門家の実務⑥:最終契約の締結

M&Aプロセスの最後には、最終契約書(DA, Definitive Agreement)を締結します。具体的な種類はM&Aスキームにより異なり、株式譲渡であれば株式譲渡契約書(SPA, Stock Purchase Agreement)、事業譲渡であれば事業譲渡契約書、合併であれば合併契約書に分類されます。

最終契約書の記載内容

最終契約書に記載される項目は、典型的には以下のとおりです。記載内容は、基本合意書を前提に、その後の交渉で決定した内容が盛り込まれます

  • 売買条件(取引対象物の特定、取引価格、支払い方法など)
  • 売買の合意
  • クロージング条件
  • 表明保証
  • 補償
  • その他雑則

クロージングとは、その契約書が効力を有し法的に所有権が移転する日付のことです。最終契約書では、売り手と買い手双方の取引の安全のため、クロージング前までに〇〇が起きたら契約が解除される、といった条件が設定されます。

最終契約の締結を支援する専門家

最終契約書を間違いなく準備し、取り交わすためには、M&Aの全過程をよく理解している人が関与する必要があります。そのため、M&Aの初期段階から参加しているM&A仲介会社やアドバイザーなどが、契約書の作成から締結までのプロセスを担当するべきです。

本来、契約書の作成・締結に関しては弁護士に依頼するべきですが、そのM&Aに関わってきたM&Aアドバイザーの協力を得て、コストをかけずに作成することが可能です

8. M&A専門家の実務⑦:経営統合(PMI)

M&A完了後に行われるのが、経営統合(PMI)です。M&Aのプロセスの中でも重要なプロセスといえるでしょう。経営統合はM&A案件が成約した後にシナジーを最大化するため、新組織体制のもとで進めていく実務ですが、意外とおろそかにされやすいものです。

経営統合が不十分である場合、狙ったシナジー効果を十分に得られずにM&Aが失敗してしまうケースも珍しくありません。経営統合の実践では明確なビジョンを持ち、全体的なスキームを専門家に助言を受けながら時間をかけて設計する必要があります。

9. M&Aの実務プロセスに必要な書類

ここでは、いかなるM&A・会社売却ケースであっても最低限準備が必要となる書類を紹介します。基本的には社内で管理されている書類のほか、簡単に取得できる書類が中心です。

会社の基礎資料

こちらは会社の概要を説明する資料となります。M&A実務で必要な書類は以下のとおりです。

  • 会社案内・会社経歴書・工場案内など
  • 定款
  • 会社商業登記簿謄本(法務局で最新の履歴事項全部証明書を取得する)
  • 株主名簿
  • 議事録(株主総会・取締役会・経営会議など、添付資料を含む)

財務関係の書類

こちらは確定申告で必要となる書類が中心です。顧問の税理士に相談してみましょう。

  • 決算書・期末残高試算表・勘定科目の内訳明細(3期分)
  • 法人税・住民税・事業税・消費税の申告書(3期分)
  • 減価償却資産台帳(直近期末分)
  • 月次試算表(直近期1年分および進行期分)
  • 支払保険料内訳・租税公課内訳(総勘定元帳の写しなど、3期分)
  • 固定資産課税明細書(最新のもの)
  • 土地・建物の登記簿謄本(法務局より最新の全部事項証明書を取得)
  • 事業計画

営業・製造関係の書類

自社の営業実態を詳細に説明する資料です。M&A・会社売却では、通常公開しない種類も提出する必要があります。

  • 製品・サービスのカタログ
  • 店舗・事業所の概況(所在地・人員数など)
  • 採算管理資料(部門別・商品別・取引先別など、3期分を要約)
  • 売上内訳(部門別・商品別・取引先別など、3期分を要約)
  • 仕入内訳(部門別・商品別・取引先別など、3期分を要約)

人事・労務関係の書類

こちらは中小企業で十分に作成・管理されていないケースが多い書類です。作成・管理されていない書類は、M&A・会社売却に取り掛かった際になるべく早くそろえておかなければなりません。

  • 組織図(組織別人員数もわかるもの)
  • 主要役員・部門長の経歴書
  • 従業員名簿(生年月日・入社年月日・役職や取得資格などがわかるもの)
  • 社内規程(特に就業規則・給与・資金規程・退職金規程)
  • 給与台帳(直近期末分)

契約関係の書類

こちらは各種契約関係の書類です。契約の事実がある場合には、準備しておく必要があります。

  • 土地・建物の賃貸借契約書
  • 銀行借入金残高一覧(返済予定表・差入担保一覧)
  • 保険積立金の解約返戻金資料(直近期末時点の金額)
  • 株式・ゴルフ会員権などの保有数量がわかる資料(取引残高報告書・現物集計など)
  • 金融商品・デリバティブ(為替予約・スワップ・仕組み債など)の最新時価資料
  • 取引先との取引基本契約書
  • 生産・販売委託契約書
  • リース契約一覧
  • 連帯保証人明細表
  • 株主間協定書
  • その他経営に関わる重要な契約書

その他重要事項(許認可関係)の書類

M&Aスキームによっては、許認可を買収先に引き継げない場合もありますが、自社の活動の根拠となる書類であるため準備しておきましょう。

  • 事業活動に必要なすべての免許・許認可・登録・届出の各書類

【関連】M&Aのクロージングとは?手続き・流れ・期間・必要書類・成功ポイントを解説

10. M&Aの実務を学ぶ際におすすめの本7選

M&A・会社売却の実務をスムーズに済ませるには、専門家に任せる必要があります。ただし、経営者はM&Aの大きな決断の当事者となるため、当然ながらM&Aの基礎知識や実務の流れを把握しておかなければなりません。

最後に、M&A実務を学べる本を7冊紹介します。

①トップM&Aアドバイザーが初めて明かす 中小企業M&A 34の真実

出典:https://www.amazon.co.jp/%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97M-A%E3%82%A2%E3%83%89%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%B6%E3%83%BC%E3%81%8C%E5%88%9D%E3%82%81%E3%81%A6%E6%98%8E%E3%81%8B%E3%81%99-%E4%B8%AD%E5%B0%8F%E4%BC%81%E6%A5%ADM-34%E3%81%AE%E7%9C%9F%E5%AE%9F-%E8%97%A4%E4%BA%95/dp/4492533303

1冊目は、『トップM&Aアドバイザーが初めて明かす 中小企業M&A 34の真実』(藤井一郎 著/東洋経済新報社)です。主に以下の点を明らかにしながら「売り手」「買い手」「仲介会社」の各視点から中小企業M&Aの事実をまとめています。

  • 大企業のM&Aと中小企業のM&Aでは何が根本的に違うのか?
  • M&Aの成功率は低いのか?
  • M&Aで人気のある業種・人気のない業種はあるのか?
  • オーナー社長はどういう理由で会社を売却しているのか?
  • 会社を売却するベストタイミングはいつか?
  • 売却しやすい会社とはどういう会社か?
  • M&Aで従業員の雇用は守られるのか?
  • 買い手の買収理由や買収戦略にはどのようなものがあるか?
  • シナジーとは何か?どのようなシナジーがあるか?
  • 売り手および買い手のM&A成功のポイントやおかしやすいミスとは?
  • 仲介会社とアドバイザリー会社の違いとは?
  • 仲介会社は何を基準で選ぶべきか?

中小企業の経営者がなぜM&Aで会社を売るのか、買い手企業はどういう戦略で買収しているのかなど、立場と思考行動経路を本音に踏み込みながら解き明かして説明されています。

説明が極めて論理的になされており、数あるM&A書の中でも読みやすい1冊です。実務の事前準備段階で、いかなる考え方を持ってM&A実務を進めていくべきなのか把握できます。

②200万円でもできるM&A~百年企業を育てる最強のM&A活用術

出典:https://www.amazon.co.jp/200%E4%B8%87%E5%86%86%E3%81%A7%E3%82%82%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%82%8BM-%E7%99%BE%E5%B9%B4%E4%BC%81%E6%A5%AD%E3%82%92%E8%82%B2%E3%81%A6%E3%82%8B%E6%9C%80%E5%BC%B7%E3%81%AEM-A%E6%B4%BB%E7%94%A8%E8%A1%93-%E8%90%A9%E5%8E%9F-%E7%9B%B4%E5%93%89/dp/4864870764

2冊目は、『200万円でもできるM&A~百年企業を育てる最強のM&A活用術~』(萩原直哉 著/スモールサン出版)です。著者は中小企業のコンサルティングを手掛ける株式会社オプティアスの代表取締役であり、この会社では中小・零細企業を専門としたM&Aアドバイザー業務も手掛けています。

著者は信用調査会社に勤めていた経歴があり、その期間に1,000を超える企業の経営者と面談を重ねました。この経験は現職であるM&Aアドバイザー業務に生かされているほか、本書では従来、それほどスポットが当てられなかった「中小企業の小規模なM&A実務」に関する実務が詳しく述べられています。

中小企業特有である、ピンチな場面における「守りの戦略」として実施するM&Aや、限られた経営資源の中で実施するM&A実務の生々しい現場の解説に力点を置いた1冊です。

非常に読みやすく理解しやすいため、M&A実務を進めていく前に読んでおくと良いでしょう。

③M&Aの契約実務・第2版

出典:https://www.amazon.co.jp/M-A%E3%81%AE%E5%A5%91%E7%B4%84%E5%AE%9F%E5%8B%99-%E7%AC%AC2%E7%89%88-%E5%A4%A7%E4%B9%85%E4%BF%9D%E5%9C%AD/dp/4502274712

3冊目は、『M&Aの契約実務』第2版(藤原総一郎 編著/中央経済社)です。シンプルなタイトルが印象的な、弁護士の共著によるM&A専門書です。

本書では、M&Aで締結される最終契約の概要解説や、典型的な契約条項の法的性質・意図・趣旨・条項の相互関係などが体系的に述べられています。守秘義務契約や基本合意書など取引の前段階で交わされる契約書が整理されている良書です。

M&Aの契約実務に関して把握しておくべきポイントがほとんど網羅されているだけでなく、非常にわかりやすく解説されている1冊といえます。M&Aの企業実務担当者である場合には、こちらの1冊の理解で十分となるケースが多いです。

実務で疑問点が生まれた際には、まず本書をヘルプとして活用できます。

④公認会計士と弁護士が教える「専門家を使いこなす」ためのM&Aの知識と実務の勘所

出典:https://www.amazon.co.jp/%E5%85%AC%E8%AA%8D%E4%BC%9A%E8%A8%88%E5%A3%AB%E3%81%A8%E5%BC%81%E8%AD%B7%E5%A3%AB%E3%81%8C%E6%95%99%E3%81%88%E3%82%8B%E3%80%8C%E5%B0%82%E9%96%80%E5%AE%B6%E3%82%92%E4%BD%BF%E3%81%84%E3%81%93%E3%81%AA%E3%81%99%E3%80%8D%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AEM-A%E3%81%AE%E7%9F%A5%E8%AD%98%E3%81%A8%E5%AE%9F%E5%8B%99%E3%81%AE%E5%8B%98%E6%89%80-%E6%9C%A8%E6%9D%91-%E7%9B%B4%E4%BA%BA/dp/4539724118

4冊目は、『公認会計士と弁護士が教える「専門家を使いこなす」ためのM&Aの知識と実務の勘所』(木村直人、他 著/日本法令)です。

経営者であっても、M&Aは珍しい経験であるといえます。企業のM&A実務担当者であるならば、初めてM&Aの実務に直面する人も非常に多くいます。

M&Aに関して未経験であると、どうしても実務をM&Aの専門家に丸投げしてしまいがちです。

本書は、M&Aを専門家に依頼する側がM&Aに関する実務の基礎知識を身に付けることで、専門家が何を行っているのかを理解したうえで「専門家を使いこなせるようになろう」といった視点で述べられています。

専門家を使いこなすことが目標であるため、デューデリジェンスの実務に重きが置かれた内容です。デューデリジェンス中に弁護士・会計士などはいかなる点に着目していかなる作業を実施しているのか、基礎知識と裏事情を交えてまとめています。

デューデリジェンス実務に不安を感じる場合には、ぜひ頭に入れておきたい内容の1冊です。

⑤M&Aドキュメント 事業売却

出典:https://www.amazon.co.jp/M-A%E3%83%89%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88-%E4%BA%8B%E6%A5%AD%E5%A3%B2%E5%8D%B4-%E8%97%A4%E7%94%B0-%E6%B5%A9/dp/4785711388

5冊目は、『M&Aドキュメント 事業売却』(藤田浩 著/商事法務)です。2004年刊行で少々古い本ですが、現実のM&Aの流れをもとに物語形式で記述されている珍しい1冊となります。ハウツー本ではわかりにくいM&A実務の流れですが、本書では物語を通して追えるため読みやすいでしょう。

文章は簡潔で非常に読みやすいうえに内容も入門向けですが、事業売却実務の流れは時系列順にしっかりと書かれています。M&A実務の全体的な流れが理解できていない段階で読んでおくと、楽しみながら流れのツボを押さえられる1冊です。

物語形式であるため、何となくM&Aの実務現場の雰囲気を予習できます。これは、他にはない本書ならではの特徴です。

⑥M&A実務の基礎・第2版

出典:https://www.amazon.co.jp/M-A%E5%AE%9F%E5%8B%99%E3%81%AE%E5%9F%BA%E7%A4%8E%E3%80%94%E7%AC%AC2%E7%89%88%E3%80%95-%E6%9F%B4%E7%94%B0-%E7%BE%A9%E4%BA%BA/dp/4785726466

6冊目は、『M&A実務の基礎』第2版(柴田 義人、他 著/商事法務)です。「本書でM&Aの全体像がわかる」と銘打たれており、M&A実務に関する網羅性が非常に高い1冊となります。

M&A実務を網羅的に把握できるよう、M&Aの典型的な契約条項だけでなく、金融商品取引法・独占禁止法・労働法・知的財産法をはじめとする関係法令が幅広く述べられている点が特徴的です。

第2版となり初版が全面的に見直されたことで、組織再編行為・事業譲渡・一部出資や共同出資については各論として独立項目で取り上げられるようになり、より詳しく解説する構成に変更されました。

M&A実務の段階に沿って必要となる検討ポイントが網羅的に解説されているため、M&Aに臨む段階にある企業の法務担当者や経営者を中心におすすめしたい1冊です。

⑦最新版 M&A実務のすべて

出典:https://www.amazon.co.jp/%E6%9C%80%E6%96%B0%E7%89%88-M-A%E5%AE%9F%E5%8B%99%E3%81%AE%E3%81%99%E3%81%B9%E3%81%A6-%E5%8C%97%E5%9C%B0%E9%81%94%E6%98%8E/dp/4534056605

7冊目は、『最新版 M&A実務のすべて 』(北地達明、他 著/日本実業出版社)です。さまざまなM&Aスキームが紹介されたうえで、企業価値評価・デューデリジェンスなどM&A実務のプロセスが徹底的に解説されています。それだけでなく、連結会計・税制適格要件・組織再編税制など、会計・税務分野の実務までを幅広くカバーする1冊です。

2019年に刊行されたため比較的新しく、最新動向を踏まえてM&A実務を理解したい人におすすめします。

【関連】M&Aの勉強になる本・書籍おすすめ30選〜初心者にもわかりやすい

11. M&Aの実務まとめ

M&Aを検討する場合、実務に取り掛かる前にまずは動機と目的を明確にすることが重要です。これにより、M&A交渉の要を築けます。

実務の段階に入ったら専門家に任せるべき事項以外の自社に深く関わる事項は、知識と手順を把握しておきましょう。特に売却側となるときに把握しておかないと、売却価格を必要以上に下げざるを得ないといった不利益が発生する場合も少なくありません。

基本的に提出が求められる書類は従来からしっかり管理されているケースが多いですが、非常に膨大な量となるためスピーディーな対応は困難です。M&A実務を遂行する前に、必須となる書類を一つひとつ準備しておくことをおすすめします。

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