M&Aの表明保証保険とは?仕組みやメリット、注意点を解説【三井住友海上/損保ジャパン/東京海上】

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

M&Aの表明保証違反による損害を補償する「表明保証保険」の国内向け商品が販売され始め、よりリスクを抑えてM&Aを行うことが可能となりました。本記事では、表明保証保険とは何か、その仕組みやメリット、注意点などを解説します。

目次

  1. M&Aの表明保証保険とは
  2. M&Aの表明保証保険の仕組み
  3. M&Aの表明保証保険を活用するメリット
  4. M&Aの表明保証保険に加入するまでの流れ
  5. M&Aの表明保証保険を取り扱っている保険会社
  6. M&Aの表明保証保険を利用する注意点
  7. M&Aの相談はM&A総合研究所へ
  8. まとめ
  • 今すぐ買収ニーズを登録する
  • 経験豊富なM&AアドバイザーがM&Aをフルサポート まずは無料相談

1. M&Aの表明保証保険とは

2020年から、M&Aの表明保証違反による損害を補償する「表明保証保険」の国内向け商品が販売されています。

表明保証保険はM&Aを安全に行うために非常に有用なものですが、まだ販売が始まって間もないこともあり、どういうものか分からない、そもそも表明保証保険を知らないという人も多いのが現状です。

まずこの章では、M&Aにおける表明保証や表明保証保険とは何かといった、基本的な事項を解説していきます。

表明保証とは

M&Aでは、売り手が買い手に提供した情報に嘘や偽りがないことを保証する、「表明保証」という条項を最終契約書に記載します。

一般的には、売り手企業の財務諸表などに間違いがなく簿外債務などが存在しないことなどを盛り込むのことが多く、M&Aの買い手は、基本的に売り手が提示した情報をもとに買収するか判断するので、この情報に嘘や偽りがないことを保証してもらうことが重要です。

もし本当は簿外債務があるのにないという虚偽の情報をもとに株式譲渡を行った場合、買い手は簿外債務も引き継いでしまうことになります。

表明保証では、もしこのような損害が生じた時に、売り手に損害賠償を請求できる権利を付与してリスクをヘッジします。

【関連】表明保証とは?条項の内容や注意ポイントを解説!違反したらどうなる?| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

表明保証保険とは

表明保証保険とは、M&Aで表明保証違反があった時に、それによって発生した金銭的な損害を補償する保険です。

基本的な仕組みは火災保険などの損害保険と同じで、保険会社に一定の保険料を支払い、表明保証違反によって金銭的な損害が出た時は、損害額の一部が保険金として被保険者に支払われます。

表明保証違反は本来は違反した売り手が損害賠償を支払うものですが、表明保証保険はそれを肩代わりする役割を果たします

M&Aの表明保証保険はなぜ必要なのか?

M&Aの表明保証保険は、表明保証やデューデリジェンスだけではカバーしきれないリスクをヘッジするために必要となります。

M&Aでは売り手企業が自社の情報を正しく提示することが重要ですが、必ずしも売り手自身が自社の情報を全て把握しているとは限らず、悪意がなくても虚偽の情報を提示してしまうことは決して珍しくありません。

もちろん、売却価格を高くするために不利な情報を隠す売り手も一部存在します。また、売り手企業の情報はデューデリジェンスで調査しますが、これも全てを把握できるものではありません。

このように、M&Aでは正確でない情報による損害のリスクを完全に排除することが不可能なため、そのリスクをできるだけ減らすために表明保証保険が必要になります。

2. M&Aの表明保証保険の仕組み

M&Aの表明保証保険に加入する際は、保険料や補償限度額、補償内容についてよく理解しておくことが大切です。

しかし、表明保証保険はまだ歴史が浅いので、事例が少なくまだ相場が分からなかったり、仕組み自体が確立されていない部分もあります。

そこでこの章では、2022年現在で認識されている保険料・限度額の相場観や、補償内容といった仕組みについて解説します。

表明保証保険が補償する内容

表明保証保険は表明保証に対する保険なので、表明保証に記載されている事項の違反による損害が補償内容となります。

例えば、「デューデリジェンスで開示した情報に虚偽がない」ことを表明保証していたにも関わらず、情報に誤りがあって買い手に損害が出た場合は、その損害額が表明保証保険の補償対象です。

逆に、たとえ虚偽の情報によって損害が出たとしても、それが表明保証されていなければ補償対象にはなりません

表明保証で表明する具体的な事項は事例によって変わる部分もありますが、「財務諸表が正確である」「デューデリジェンスで開示した情報に虚偽がない」「開示していない偶発債務がない」「訴訟を抱えていない」などはほとんどの場合盛り込まれます。

補償限度額の相場

表明保証保険は必ずしも損害を全額補償するわけではなく、補償限度額が存在します。限度額の相場は、売り手企業の企業価値の10%から20%くらいが一般的です。

ただし、これまでの表明保証保険は基本的に大企業のクロスボーダーM&Aを対象としたもので、この相場もこれまでの保険にもとづいたものなので、最近販売され始めた小規模な国内M&A向けの表明保証保険が、この相場と同じくらいになるかどうかはまだ未知数な部分もあります。

保険料の相場

表明保証保険の保険料は、補償限度額の1%から3%くらいが相場です。相場は業種によって変わる面もあり、損害が大きくなる可能性がある業種(例えば金融や製薬など)は保険料が高くなる傾向があります

保険料の相場も先ほどの補償限度額と同様に、最近販売され始めた国内向けの表明保証保険では相場が変わってくる可能性もあり、小規模なM&Aでは従来の相場だと保険料が高すぎるため、相場は下がってくる可能性が高いです。

実際、現在販売されている国内向け表明保証保険では、最低保険料が30万円や50万円など、従来の相場よりかなり安く(10分の1程度)設定されています。

3. M&Aの表明保証保険を活用するメリット

表明保証保険は基本的には買い手が加入するものですが、買い手だけでなく売り手にもメリットがあるものです。実際、売り手向けの表明保証保険というのも少数ですが存在します。買い手・売り手双方のメリットを理解したうえで、表明保証保険に加入するか検討しましょう。

売り手側のメリット

表明保証保険を活用する売り手側の主なメリットは以下の3つです。

【M&Aの表明保証保険を活用する売り手側のメリット】

  1. M&Aを円滑に進められる
  2. クリーンイグジットが実現できる
  3. エスクロー設定の必要がない

①M&Aを円滑に進められる

売り手が表明保証保険に加入すると、買い手はもし表明保証違反が起きても、確実に損害が補償されるという安心が得られるので、より円滑にM&Aを進められるようになります。

②クリーンイグジットが実現できる

クリーンイグジットとは、後日損害賠償を請求されるリスクがない状態でイグジットすることです。クリーンイグジットすれば、売却益をすみやかに投資家に分配したり、新規事業の資金に充てることができます。

売り手が表明保証保険に加入すれば、もし表明保証違反があっても保険で補償できるので、確実にクリーンイグジットを実現できます

【関連】イグジット(EXIT)とは?意味やメリット・デメリットを徹底解説| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

③エスクロー設定の必要がない

エスクローとは、決済の安全性を確保するために、売却代金を直接売り手に支払うのではなく、一旦金融機関などに預けることです。

売却代金の一部を金融機関などに預け、表明保証違反の補償期間が終わってから売り手に支払うことで、買い手は表明保証違反による損害のリスクをヘッジできますが、これだと売り手は売却代金を全額受け取るまでにかなりの期間がかかってしまいます

一方で、売り手が表明保証保険に入っておけば、もし損害が出ても保険で補償できるのでエスクローの設定が不要です。

【関連】エスクローとは?| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

買い手側のメリット

買い手が表明保証保険を活用する主なメリットは以下の4つです。

【M&Aの表明保証保険を活用する買い手側のメリット】

  1. M&Aを円滑に進められる
  2. M&A後のリスクを軽減できる
  3. 補償請求の際に手間・時間がかからない
  4. 外国籍企業との交渉もしやすくなる

①M&Aを円滑に進められる

買い手が表明保証保険に入っていると、売り手はもし表明保証違反があっても、自社が全額補償する必要はないという安心感が得られます。これにより、売り手は情報開示しやすくなり、M&Aを円滑に進めることができます。

②M&A後のリスクを軽減できる

M&A後の表明保証違反のリスクを軽減できるのは、もちろん表明保証保険の最も主要なメリットです。

【関連】M&Aのリスクとは?買収側・売却側それぞれのリスク、マネジメント方法を徹底解説| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

③補償請求の際に手間・時間がかからない

損害賠償請求は非常にコストと時間がかかるので、たとえ全額補償されたとしても失うものが大きいです。

一方、表明保証保険なら保険会社との交渉になるので、損賠賠償請求に比べてかなり手間と時間を省くことができます

④外国籍企業との交渉もしやすくなる

表明保証保険は従来はクロスボーダーM&Aを対象としていたので、外国籍企業と交渉しやすくなるメリットがあります。

外国は法律や商習慣が日本とは違うので、国内M&Aより表明保証違反が起こりやすくなります。そのリスクヘッジとして表明保証保険は非常に有用です。

【関連】クロスボーダーM&Aの成功要因・メリットを解説!件数も紹介!| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

4. M&Aの表明保証保険に加入するまでの流れ

表明保証保険の加入方法の概要は、まず保険会社に見積もりを出してもらい、その後に引受審査を受けて、受理されれば契約という流れになります。

表明保証保険は補償内容をオーダーメイドで決めるのが原則なので、加入の際は複数の見積もりをとってもらうことが重要です。

引受審査では、デューデリジェンスの報告書や株式譲渡契約書などの審査に加え、電話や面談でのヒアリングも行われます。審査をもとに補償内容や補償金額が決定され、内容に合意したら契約となります。

5. M&Aの表明保証保険を取り扱っている保険会社

国内M&A向けの表明保証保険を取り扱っている保険会社はまだ少なく、主な会社は以下の3社です。これから取扱会社はさらに増えてくるでしょう。

【M&Aの表明保証保険を取り扱っている保険会社】

  • 三井住友海上火災保険
  • 損害保険ジャパン
  • 東京海上日動火災保険

三井住友海上火災保険

三井住友海上

三井住友海上

出典:https://www.ms-ins.com/

三井住友海上火災保険は以前からクロスボーダーM&A向けの表明保証保険を販売していましたが、2020年から国内M&Aも対象となりました。

買い手向けだけでなく、売り手向けの保険もあるのが特徴です。また、M&A仲介会社のストライクと提携し、仲介会社が保険料を負担する表明保証保険サービスなども展開しています。

損害保険ジャパン

損害保険ジャパン

損害保険ジャパン

出典:https://www.sompo-japan.co.jp/

損害保険ジャパンは2015年からクロスボーダーM&A向けの表明保証保険を販売していましたが、2020年から国内向けの販売も始めました。

小規模なM&Aを対象とした商品で、保険料は30万円から、補償金額の設定は1,000万円からです。また、2022年5月にはM&A仲介会社のM&Aキャピタルパートナーズと業務提携し、さらなる販売拡大を展開しています。

東京海上日動火災保険

東京海上日動火災保険

東京海上日動火災保険

出典:https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/

東京海上日動火災保険は、2020年から国内M&A向け表明保証保険の販売を始めました。事業承継などでM&Aを行う中小企業を想定しており、最低保険料50万円、補償限度額の下限は1,000万円からと、小規模M&Aで実際に活用できる水準となっています。

表明保証保険は保証範囲をオーダーメイドで決めるのが従来の形ですが、保証範囲を固定化することでコスト削減しているのが特徴です。

また、M&Aマッチングサービス「バトンズ」が提供するデューデリジェンス「バトンズDD」を利用した買い手に対し、表明保証保険をセットで提供するサービスも展開しています。

6. M&Aの表明保証保険を利用する注意点

M&Aの表明保証保険を利用する際は、免責事項があることと、日本語対応していない商品が多いことに注意しましょう。

【M&Aの表明保証保険を利用する注意点】

  1. 免責事項がある
  2. 引受審査や保険証券が日本語対応していない場合がある

免責事項がある

表明保証保険は表明保証違反に対する保険なので、表明保証に記載されていない事項による損害は原則として補償対象外です。

また、表明保証保険は原則としてデューデリジェンスを行うことを前提とするので、デューデリジェンスの調査範囲外、および調査が不十分だった事項による損害は対象外となります。

そのほかには、保険契約締結前にすでに認識していた表明保証違反や、業績予測が大きく外れたことによる損害なども、原則として対象外です。

引受審査や保険証券が日本語対応していない場合がある

表明保証保険は、2015年からクロスボーダーM&Aのみを対象とした商品が販売され始めて、国内M&Aを対象とした商品は2020年から販売が始まったばかりです。

2022年時点ではまだ国内向け商品が少なく、日本語対応していない商品が多いのが現状であり、日本語対応していない表明保証保険では、引受審査や保険証券が原則として英語になります。

そのため、デューデリジェンス報告書などを英語で作成したり、英語でのヒアリングを行ったりしなければなりません。

7. M&Aの相談はM&A総合研究所へ

M&Aをご検討中の経営者様は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。経験豊富なアドバイザーが、表明保証保険を含めたM&Aの手続きをトータルにサポートさせていただきます。

当社は独自のマッチングシステムによるスピードを強みとしており、平均で6.2か月での成約を実現しています。

スピードを重視することにより、最適な売買タイミングを逃さないとともに、経営者様の時間的・精神的負担を最小限に抑えます

料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。表明保証保険やM&Aに関して、無料相談をお受けしておりますのでお気軽にお問い合わせください。

【関連】M&A・事業承継ならM&A総合研究所
電話で無料相談
0120-401-970
WEBから無料相談
M&Aのプロに相談する

8. まとめ

M&Aの表明保証保険はまだ始まったばかりの保険商品ですが、ニーズが高く今後広く普及していくと考えられます。

表明保証保険を有効活用して、リスクを抑えたM&Aを実現しましょう。

【M&Aの表明保証保険を活用する売り手側のメリット】

  1. M&Aを円滑に進められる
  2. クリーンイグジットが実現できる
  3. エスクロー設定の必要がない

【M&Aの表明保証保険を活用する買い手側のメリット】
  1. M&Aを円滑に進められる
  2. M&A後のリスクを軽減できる
  3. 補償請求の際に手間・時間がかからない
  4. 外国籍企業との交渉もしやすくなる

【M&Aの表明保証保険を取り扱っている保険会社】
  1. 三井住友海上火災保険
  2. 損害保険ジャパン
  3. 東京海上日動火災保険

【M&Aの表明保証保険を利用する注意点】
  1. 免責事項がある
  2. 引受審査や保険証券が日本語対応していない場合がある

M&A・事業承継のご相談ならM&A総合研究所

M&A・事業承継のご相談なら経験豊富なM&AアドバイザーのいるM&A総合研究所にご相談ください。
M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴をご紹介します。

M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴

  1. 譲渡企業様完全成功報酬!
  2. 最短49日、平均6.6ヶ月のスピード成約(2022年9月期実績)
  3. 上場の信頼感と豊富な実績
  4. 譲受企業専門部署による強いマッチング力
>>M&A総合研究所の強みの詳細はこちら

M&A総合研究所は、成約するまで無料の「譲渡企業様完全成功報酬制」のM&A仲介会社です。
M&Aに関する知識・経験が豊富なM&Aアドバイザーによって、相談から成約に至るまで丁寧なサポートを提供しています。
また、独自のAIマッチングシステムおよび企業データベースを保有しており、オンライン上でのマッチングを活用しながら、圧倒的スピード感のあるM&Aを実現しています。
相談も無料となりますので、まずはお気軽にご相談ください。

>>完全成功報酬制のM&A仲介サービスはこちら(※譲渡企業様のみ)

関連する記事

新着一覧

最近公開された記事