2023年12月13日更新
M&Aスキーム・手法別でメリット・デメリットを比較!
M&Aスキームにはたくさんの種類があります。そのため、M&Aを行う経営者はそれらについてしっかりと理解をしておき、比較したうえで違いを知っておく必要があります。この記事では代表的なM&Aスキーム6種類のメリット・デメリットを紹介し、それらを比較します。
目次
1. M&Aスキームとは?
M&Aスキームとは、M&Aを行う際の手法や流れを示したものです。M&Aを行うときには、事前にM&Aスキームを作成しておき、それに沿って契約やクロージングを行うことになります。
このようにM&Aスキームを作成しておく理由には主に以下の2つがあります。
- 計画的でスピーディーなM&Aを実行するため
- M&Aで失敗せずに確実に行うため
これらの理由について簡単に解説していきます。
M&Aスキーム作成理由①:計画的でスピーディーなM&Aを実行するため
M&Aは、計画的でかつスピーディーに行う必要があります。現代の時代の流れは速くなっており、中長期的な経営戦略を立てることが難しくなっています。M&Aという戦略も中長期的な経営戦略の一つです。
もし、M&Aを計画どおりに実行できない、もしくは実行が遅れてしまうと経営戦略が狂ってしまい、多額の損失を出す恐れがあります。これを防ぐためにM&Aスキームを作成しておきます。
M&Aスキーム作成理由②:M&Aで失敗せずに確実に行うため
M&Aは失敗をせずに確実に実行する必要があります。会社同士の合併や買収には、多額の資金がかかるということは容易に想像がつきます。そのため、M&Aで失敗すると多額の損失を出すことになり、今後の経営が困難になる恐れがあるのです。
また、M&Aのクロージングを行うまでには、秘密保持契約や基本契約書の締結などさまざまな契約を行う必要があります。万が一、契約を一つでも忘れているとM&Aを行ううえでトラブルが発生したり、損失を出したりする恐れがあります。このようなことがないようにM&Aスキームを作成しておくようにします。
なお、この記事ではこれから代表的なM&Aスキームを6つ紹介していきます。
2. M&Aスキームの代表的6手法
ここからはM&Aスキームの概要について紹介します。M&Aスキームは、買収する会社や売却する会社の状況によりたくさんの手法があります。その中でもよく利用されているM&Aスキームが以下の6つです。
- 吸収合併
- 新設合併
- 単純株式売買
- 分割型(ヨコ)分割による株式売買
- 事業譲渡
- 分社型(タテ)分割による株式売買
まずは、これらM&Aスキームの概要やスケジュールについて紹介します。
①吸収合併スキーム
概要
吸収合併とは、合併により消滅する会社の権利や義務すべてを存続する会社に引き継がせる形態のことです。消滅会社が保有している負債なども引き継ぐ必要があるため、合併を行うときには入念なデューデリジェンス(企業監査)を行う必要があります。
スケジュール感
吸収合併は、準備からクロージングまでに一般的に2~3か月かかることが想定されます。一般的なM&Aは半年近くかかる可能性があるのに対して、比較的スピーディーにクロージングできます。
しかし、このスケジュールにはデューデリジェンスの期間は入っていません。デューデリジェンスは約1か月程度かかるため、余裕をもって準備や手続きを行う必要があります。吸収合併のクロージングまでの一般的なスケジュールは以下の順番で行います。
- 吸収合併の準備
- 両社での取締役会での決議(合併の承認)
- 官報へ合併についての公告を掲載
- 両社での株主総会での特別決議(合併の承認)
- 合併の効力が発生
株主総会での特別決議可決には、議決権の3分の2以上の賛成が必要となります。そのため、株主の賛同が得られるようなM&A経営戦略を示せなければM&Aが承認されません。
②新設合併スキーム
概要
新設合併とは、合併により消滅する会社の権利や義務すべてを新設する会社に引き継がせる形態のことです。この合併での対価の受け渡しに現金は使えません。株式などで対価を支払うことに注意が必要です。
スケジュール感
新設合併にかかる期間は、3か月から半年間です。合併までの流れは基本的には吸収合併と同じです。しかし、新設合併で注意するべきことは合併後、新設する会社の設立手続きを行う点です。会社を新設するために営業上の許認可や免許、さらには登記などをしなければ新設会社の経営を行うことができません。
③単純株式売買スキーム
概要
単純株式売買スキームは、買収される会社の株式を買収する会社に譲渡し、その会社に経営権を持たせることでM&Aを行うスキームです。中小企業における事業承継では、このスキームがよく採用されています。
スケジュール感
単純株式売買スキームは、手続きだけであれば約1か月で済みます。以下が株式譲渡制限のある会社の単純株式売買スキームのスケジュールです。
- 株式譲渡承認請求
- 取締役会(取締役会非設置会社の場合は株主総会)での承認
- 株式譲渡実行
- M&A実行
単純株式売買スキームで重要なのは、株主総会で特別決議を必要としないことです。そのため、買収される会社の経営者が全発行済み株式の50%以上を保有していたとき、定款に株式譲渡制限がある場合は取締役会(取締役会非設置会社の場合は株主総会)で承認を得ることができれば、M&Aを行うことができます。このように、単純株式売買スキームは、比較的簡単に手続きを行うことができるM&Aです。
④分割型(ヨコ)分割による株式売買スキーム
概要
分割型(ヨコ)分割による株式売買スキームとは、会社をヨコに分割、つまり兄弟会社を設立し、そのうちの買収相手が必要とする会社を売却するスキームです。中小企業の事業承継に用いられる方法の一つで、単純株式売買よりも節税の効果が見込めます。このM&Aスキームについてのメリット・デメリットについては後ほど紹介します。
M&Aスキームの流れ
分割型(ヨコ)分割による株式売買スキームの流れについて解説します。まずは、売却したい会社の会社分割を行います。そのとき、各事業を兄弟会社となるように分割させます。分割した兄弟会社のうち、買収する会社が必要としている会社の株式を売却します。
⑤事業譲渡スキーム
概要
事業譲渡とは、会社が経営を行っている事業をほかの会社に売買契約することをいいます。このM&Aスキームでは、会社の数の増減はありません。事業を譲る会社のことを譲渡会社、事業を譲り受ける会社を譲受会社といいます。事業譲渡は、一般的に譲渡会社の経営を効率化するために行われます。
スケジュール感
事業譲渡は、会社の売買ではなく、事業のみの売買を行うため、目的の事業が売買できる状態である会社を見つけるまでに時間がかかります。そのため、事業譲渡を準備し始めてからクロージングまでにかかる一般的期間は、短い事例で2か月程度、長い事例で1年以上かかります。
事業譲渡のスケジュールは、以下の手順に従って行います。
- 事業譲渡の準備
- 事業の売買を行う会社の探索
- 両社での取締役会での決議(事業譲渡の承認)
- 事業譲渡について株主に向けて公告を掲載する
- 両社での株主総会での決議(事業譲渡の承認)
- 事業の売買が成立
事業譲渡における株主総会の決議要件は、譲渡の対象となる事業の大きさによって異なっています。譲渡会社は、譲渡の対象が事業の全部または重要な一部であるときは、原則として株主総会特別決議(議決権の3分の2以上の賛成)が必要です。一方で譲受会社は、他の会社の事業の一部を譲り受ける場合は株主総会の決議は不要ですが、他の会社の事業の全部を譲り受ける場合は原則として株主総会特別決議が必要になります。
譲受会社は、どのような事業を譲り受けても利益が必ず増加するわけではありません。特に事業全部の売買契約となると事業譲渡に失敗したときの損失は大きくなります。そのため、譲受会社ではこのような決議のルールになっています。
⑥分社型(タテ)分割による株式売買スキーム
概要
分社型(タテ)分割による株式売買スキームでは、会社をタテに分割、つまり子会社を設立し、その子会社を買収する会社に売却します。このM&Aスキームも中小企業の事業承継に用いられる方法の一つで、単純株式売買よりも節税の効果が見込めます。分社型(タテ)分割による株式売買スキームついてのメリット・デメリットも後ほど紹介します。
M&Aスキームの流れ
分社型(タテ)分割による株式売買スキームの流れについて解説します。まずは、売却する会社について会社分割を行います。そのとき、買収する会社が必要としている事業を子会社に、その他の事業を親会社にして分割させます。分割した子会社の株式を買収する会社に売却し、譲渡会社はそれによって譲渡益を得ます。
3. M&Aスキームの選び方のコツ
先に紹介したようなM&Aスキームの中でどれを選べばよいかは、売り手側を優先させるか、買い手側を優先させるかで異なります。ここでは、そのような視点で見たときのM&Aスキームの選び方のコツについて紹介します。
売り手のプライオリティ
M&Aにおいて、売り手側が優先されるときは、譲渡益が大きくなることとクロージングが早く行われることの2点に重点を置くと考えられます。
譲渡益が大きくなるようなM&Aスキームを行いたい場合は、吸収合併や新設合併など会社ごと買収されるスキームを行うことをおすすめします。その理由は、事業だけよりも会社ごと買収された場合は譲渡益が大きくなる可能性が高いからです。
一方、クロージングを早く行いたいときは、単純株式売買をおすすめします。このM&Aスキームは、必要となる手続きが少ないため先に紹介した6スキームの中では最も早くクロージングを行うことができます。
買い手のプライオリティ
M&Aにおいて買い手が優先されるときは、手続きの簡便性とM&Aの費用を抑えることに重点をおくと考えられます。
手続きの簡便性に関しては、単純株式売買が最も簡便です。一方で、M&Aの費用を抑えたいときは、事業譲渡や分社型(タテ)分割による株式売買をおすすめします。詳しくは、後ほど紹介しますが、これらのM&Aスキームを実行するときにのれんが発生する場合があります。会計上ののれんに相当する費用は、税務上の資産調整勘定として5年間の均等償却を行うことで各事業年度の損金の額に算入するので、節税効果が見込めます。
4. M&Aスキーム①吸収合併
ここからは、各M&Aスキームのメリットとデメリットを紹介していきます。まずは、吸収合併を行うときのメリット・デメリットを紹介します。
吸収合併のメリット
会社名・ブランド名の継続使用
吸収合併のメリットの一つに、会社名やブランド名を合併後も継続して使用できる点があります。新設合併のように存続会社が存在しない合併形態では、元の会社の名前を用いることはできません。場合によってはブランド名も使用することができません。M&Aを行う際、会社名もしくはブランド名が有名である会社は、吸収合併を行うことか簡便です。
手続きが複雑ではない
吸収合併は、M&Aスキームの中で比較的手続きが複雑でない部類に入ります。新設合併のように存続会社が存在しないような合併形態では、新たに設立する会社の許認可や登記などを行う必要があります。一方、吸収合併では、存続会社が存在し、その会社の許認可や登記をそのまま使うことができます。そのため、これらの手続きを省いて合併を行うことができます。
このようなメリットがあるため、M&Aスキームの中では吸収合併を利用している件数が一番多いです。
吸収合併のデメリット
包括承継によるリスク
吸収合併では、原則として資産や負債などを包括承継します。包括承継とは、消滅会社のすべてを引き継ぐことなので、簿外債務などのリスクに警戒する必要があります。
例えば、消滅会社の負債について契約時に開示した金額よりもさらに簿外の負債を抱えており、正確に開示していない可能性があります。これに対してはM&A契約時にデューデリジェンスを実施し、消滅会社が虚偽申告をしていないか、申告漏れをしていないか、など調査をする必要があります。この例のように包括承継で考えられるリスクに対して事前に準備をしておきましょう。
吸収される側の従業員の不満
先ほども紹介したとおり、吸収合併は包括承継で引き継がれます。当然、従業員も全員引き継ぐことになります。そのため、存続会社にとって必要のない人材も引き継ぐことになります。
しかし、必要のない従業員でも簡単に解雇することはできません。そのため、その従業員が今まで経験したことがないような仕事をさせざるを得ない可能性があります。その結果、消滅会社の従業員満足度は極端に低くなり、最悪の場合、存続会社の評判が悪くなる可能性があります。
これを防ぐためには、存続会社の経営陣は吸収合併前に消滅会社の従業員と十分に話し合いを行い、従業員の満足度を下げないために仕事の割り振りを決めておくなど様々な対策をとる必要があります。
5. M&Aスキーム②新設合併
次に新設合併のメリットとデメリットについて紹介します。新設合併は手続きが多いため、件数としては吸収合併よりも少ないです。しかし、代表的なM&Aスキームの一つであるため、経営者であるならば、そのメリットとデメリットは知っておく必要があります。
新設合併のメリット
関係がフラット
新設合併は吸収合併とは異なり、対等な合併であれば消滅会社同士の合併であるため従業員同士の関係がフラットな状態で経営を始められることが期待できます。先ほど紹介したような消滅会社の従業員が不満を持つような環境にならない可能性が高まります。
また、新設会社の経営者も各消滅会社の従業員を同じように評価するため、社内で公平な競争を起こすことができ、新設会社が活気づく可能性があります。
新設合併のデメリット
合併までの手続きが多い
新設合併のデメリットの一つ目は、合併までの手続きが多いことです。新設合併では、消滅会社の許認可や免許をそのまま使うことができません。そのため、新設合併後には新設会社に対しての許認可や免許を再申請する必要があります。
また、新設合併では新たに会社を設立するため登記を行う必要があります。さらには上場株式会社同士の合併であれば、上場の再申請が必要になります。これらの例は、氷山の一角です。
このように新設合併で必要となる手続きは、吸収合併よりも多いです。これだけ手続きが多ければ、それに対する費用や労力がかかります。これを回避したいと考える経営者が多いため、新設合併の事例は吸収合併の事例よりも少ないと考えられます。
文化の違いから混乱が生じる
新設合併のメリットは、対等な合併であれば関係がフラットであることを紹介しました。しかし、関係がフラットであるからこそ、企業文化の違いから混乱が生じる可能性があります。
吸収合併であれば、企業文化やシステムは存続会社のものに合わせて経営を行っていきます。しかし、新設合併では企業文化やシステムを新たに構築する必要があります。
各消滅会社の良い部分を集めることで、それまでよりもさらにより良い会社になることが考えられます。しかし、良い部分を集めるために各社の代表者同士による打ち合わせが必要となるため、新たに構築するためにはかなりの時間がかかるでしょう。
経営者はこのデメリットを考慮したうえで、余裕を持ったM&Aスケジュールを作成するなどの対策が必要になります。
6. M&Aスキーム③単純株式売買
次は、単純株式売買のメリットとデメリットについて紹介します。
単純株式売買のメリット
一連の流れが速い
単純株式売買では、M&Aの準備からクロージングまでの一連の流れが速いというメリットがあります。M&Aのクロージングまでにかかる期間は、一般的に約6か月程度です。しかし、単純株式売買の場合は、極端な例では、最短で1か月でクロージングに至るM&Aもあります。
この理由は、単純株式売買でのM&Aについて法規制があまりないからです。そのため、M&Aでの手続きは代表的な6つのM&Aスキームの中で最も少ないです。
許認可の再取得がいらない
単純株式売買のメリット2つ目は、会社の許認可再取得の必要がないことです。このM&Aスキームにより、新たに会社が設立されない新設合併のように許認可の再取得の必要はありません。
単純株式売買のデメリット
税金が高くなる
単純株式売買のデメリット一つ目は、税金が高く可能性があることです。基本的に単純株式売買によるM&Aを行う場合、会社名義の資産はすべて買収する会社に引き継がれることになります。
しかし、会社経営に必要のない資産(M&A対象外資産)を除外してM&Aを行うことはできません。M&A対象外資産を必要とする場合、買収相手からそれらの資産を買い戻すことになります。このとき、売主において株式の譲渡益とM&A対象外資産を買い戻す際の利益に税金がかかり、高くなる可能性があります。
詳しくは後ほど紹介しますが、株式譲渡によるM&Aの節税対策として分割型分割もしくは分社型分割による株式売買を行い、合併を実施します。
過去の責任が買い手に移る(買い手側のデメリット)
単純株式売買に限ったことではありませんが、合併前のトラブルの責任が事実上買収側に移るというデメリットがあります。もし、デューデリジェンスを十分にせず表明保証などで担保していなければ、合併前の労働問題や財務問題などが、合併後に発見された場合、予定していた利益をあげることが困難になる可能性もあります。
近年は、情報社会のため社内の問題が公の場に出やすい環境になっています。M&Aを行う際には、デューデリジェンスを実施するなど慎重に行うようにしましょう。
7. M&Aスキーム④分割型(ヨコ)分割による株式売買
次は、分割型(ヨコ)分割による株式売買のメリットとデメリットについて紹介します。
分割型(ヨコ)分割による株式売買のメリット
税金を抑えられる
分割型(ヨコ)分割による株式売買では、単純株式売買よりも納税額を抑えることができます。分割型(ヨコ)分割により、兄弟会社を設立しますが、そのときに事業を行うための会社とM&A対象外資産を集めた会社に分割します。一般的に、株主は両社とも分割前の会社の経営者の場合が多いです(特に中小企業の場合)。
そして、M&Aの際に事業を行うための会社のみを売却します。これにより、単純株式売買よりも売却益による税金を抑えることができ、かつ資産の買い戻しがないのでその分の税金も抑えることができます。
本業の許認可の再取得がいらない
このM&Aスキームも会社を新たに新設するわけではないので、許認可の再取得の必要はありません。
分割型(ヨコ)分割による株式売買のデメリット
分割に時間が必要
このM&Aスキームのデメリットには、分割に時間がかかるという点があります。その理由は、会社分割の際にさまざまな手続きを行う必要があるからです。しかし、それらの手続きは一般的に約1か月程度なので、それほど大きなデメリットではありません。
8. M&Aスキーム⑤事業譲渡
次に事業譲渡のメリットとデメリットについて紹介します。
事業譲渡のメリット
事業以外の責任を負わなくて済む(買い手のメリット)
事業譲渡は、吸収合併や新設合併とは異なり、包括承継ではありません。そのため、事業以外の責任や簿外債務を引き継ぐ必要はありません。無駄なリスクを背負う必要がないため、比較的気軽に行えるM&Aスキームといえます。
一連の流れが速い
事業譲渡は、事業のみの売買なので、準備からクロージングまでの一連の流れが比較的速いです。吸収合併や新設合併では債権者へ告知や公告が必要ですが、事業譲渡ではこれらは不要です。このように事業譲渡では、通常M&Aで必要となる手続きを省略できます。
節税効果の期待
事業譲渡を行うことで買い手側は節税効果を見込むことができます。譲受会社は、事業を買収するときの「のれん分」を節税できる可能性があります。
のれんとは、会社や事業の買収の際、簿記に記載されている金額以上を支払ったときの剰余分の金額のことです。この剰余分は、簿記に記載されていない分(例えば、ノウハウや顧客情報など)への対価であるため、のれんはM&Aの際によく見られます。
例えば税務上ののれんに相当する費用は、税務上の資産調整勘定として5年間の均等償却を行うことで各事業年度の損金の額に算入するので、節税効果を見込むことができます。
事業譲渡のデメリット
従業員の混乱(売り手側のデメリット)
事業譲渡のデメリットの一つ目は、従業員が混乱する恐れがあることです。包括承継を行うM&Aスキームの場合は、従業員の同意なく異動できることが原則です。
しかし、事業承継は包括承継ではありません。その事業に関係している従業員を譲受会社に異動させる場合は、個別に同意を得る必要があります。
個々で対応するため従業員の混乱を招く可能性があります。また、譲受会社も譲渡会社の事業に関係している従業員が全員異動するわけではないことを知っておく必要があります。
事業許認可がリセットされる(買い手側のデメリット)
事業譲渡のデメリット2つ目は、事業許認可がリセットされることです。売買された事業を行う現場の人が同じであっても、それを管理している会社が異なるため、事業許認可の再申請が必要になります。
9. M&Aスキーム⑥分社型(タテ)分割による株式売買
最後に分社型(タテ)分割による株式売買のメリットとデメリットについて紹介します。
分社型(タテ)分割による株式売買のメリット
節税効果がある
分社型(タテ)分割による株式売買でも節税効果が見込めます。このスキームでは、M&Aを行う前に事業の部分を子会社として新設し、元の部分(親会社)にはM&A対象外資産を集めます。
売り手のメリットとしては、分割型(ヨコ)分割による株式売買と同様に節税効果が見込めます。特に、分社型(タテ)分割による株式売買のほうが分割型(ヨコ)分割による株式売買よりも節税効果が比較的高いです。
分割型(ヨコ)分割のM&Aスキームは、純資産を売買価格としますが、分社型(タテ)分割のM&Aスキームは、会社設立時の出資額をもとに売買価格を算定します。そのため、場合によっては納税額を半分程度に抑えられる可能性があります。
また、買い手側にも節税のメリットがあります。それは、のれん分の節税です。税務上ののれんに相当する費用は、税務上の資産調整勘定として5年間の均等償却を行うことで各事業年度の損金の額に算入するので、節税できるのです。
子会社への負担が少ない
このM&Aスキームでは、合併前に子会社が設立されています。合併後は、子会社として譲渡されるため、親会社が変わっても内部組織が急に変わることはありません。
分社型(タテ)分割による株式売買のデメリット
このM&Aスキームのデメリットには、以下の2つが挙げられます。
- 時間と労力が掛かり、従業員が混乱する恐れがあること
- 許認可再取得が必要なこと
先ほども述べたようにこのM&Aスキームによる子会社の売買は、事業譲渡と同様の扱いとなるため、これらのようなデメリットが生じます。詳しくは、先に紹介した事業譲渡のデメリットをご覧ください。
10. M&A6手法の比較(項目別)
M&A6手法のメリット、デメリットを紹介してきましたが、実際にはどれを利用すればよいのかわからないものです。そこで先ほど紹介した6つのM&Aスキームを項目別に比較します。M&Aスキームを選択する際に参考にしてください。
金額
まずは、M&Aにかかる費用についてです。6つの中で比較的費用が掛からないスキームは、事業譲渡と分社型(タテ)分割による株式売買です。これらは事業のみに対して契約金を決めるからです。そのほかのスキームは会社の売買になるため、金額は高くなります。
速さ
M&Aを完了させるまでの期間が比較的短くて済むスキームは、単純株式売買です。このスキームにおいて、手続きはあまり必要ありません。また、節税対策の手続きを行わないため、比較的早くクロージングを行うことができます。
リスク
比較的リスクのないM&Aスキームは、事業譲渡や分割による株式売買です。これらは、吸収合併や新設合併とは異なり、包括承継ではありません。これらは、簿外債務などのリスクを承継しなくてもよいM&Aスキームです。
税金
比較的税金がかからないM&Aスキームは、分社型(タテ)分割による株式売買です。会社分割による株式売買は、単純株式売買の節税対策用のM&Aスキームですが、特に分社型(タテ)分割による株式売買は節税効果が高いといわれています。
許認可
吸収合併については、許認可再申請の必要はありません。一方で、新設合併や事業譲渡など、新たに会社を設立したり、事業を行ったりする場合は、許認可再申請を行う必要があります。
総合
総合的に一番良いM&Aスキームは、M&Aを行う会社の状況によって異なります。6つのスキームにはそれぞれ一長一短があるため、どれが優れているか断言はできません。
M&Aスキームはいろいろとあるため、検討する際は下記の順で整理することをおすすめします。
- 目的-M&Aの大分類
- 形態-M&Aの種類
- 手段-M&Aスキーム
ゴールから逆算して考えるようにすると、混乱を避けることができるでしょう。しかし、どのM&Aスキームを用いるかは、M&Aの専門家と相談して決めるのが一般的です。
11. その他のM&A手法
M&Aの手法には、先ほど紹介した6つの方法以外にもあります。これから紹介するM&Aスキームは先ほどの6種類に比べると実施されている件数はとても少ないです。
しかし、M&Aを行う各社の状況に応じて最もスマートなM&Aスキームを選択する必要があります。ここからは、6種類以外のM&Aスキームを紹介していきますが、参考程度にご覧ください。
居抜き(店舗M&A)
居抜き(店舗M&A)とは、土地や物件、設備をそのまま使えるうえ、そこで働いている従業員もそのまま譲り受けることができるM&Aスキームです。この形態は、個人で経営している飲食店などでよく見られます。
しかし、居抜きの問題点は契約が難航しやすいことです。居抜きとして売りに出されている店舗は、何かしら問題があった可能性があります。特に、経営がうまくいかずに売りに出されているものが多いです。
このような経営者は、この店舗にかけた資金を回収するためにある程度高く金額を提示してくる可能性があります。この場合買い手は、価格を下げようと交渉するため難航することが多いです。買い手として居抜きを行おうと考えている場合は、専門家に相談して居抜きを行うことをご検討ください。
不動産管理会社と事業会社の分離
会社の資産を不動産と事業部門に分けて、不動産管理会社と事業会社に分離させるM&Aスキームもあります。事業会社は、M&Aにより従業員も含めて売却して売却益を得ます。
不動産管理会社は経営者がそのまま所有しておき、家賃収入で利益を得ます。このM&Aスキームは、主に後継者がいない経営者が行うスキームです。
株式交換
株式交換とは、買収される会社の株式と買収する会社が新たに発行する株式を交換する手続きのことです。株式交換を行うことで、被買収会社の株式を買収会社が取得できます。この方法で被買収会社の議決権付き株式を50%以上保有できれば、会社の経営権を取得できます。
なお、被買収会社の全株式を株式交換で取得した場合、買収会社は被買収会社を完全子会社にすることもできます。
株式移転
株式移転は、会社を新設するときの株式の移動方法として用いられます。合併前の会社の株式と新設する会社で新たに発行される株式を交換します。これにより、合併前の会社の株式を新設会社が取得できます。
合併前の会社の議決権付き全発行株式の50%以上を取得すれば、経営権が取得でき、3分の2以上を取得できれば合併できます。なお、新設会社が合併前の会社の全発行株式を100%取得すれば、完全子会社化ができます。
MBO
MBOとは、会社の経営者が自社や事業部を買い取ることです。例えば、グループ会社内からの独立や子会社の雇われ社長が親会社から独立するときにMBOを行い、自社の経営権を取得します。
なお、従業員が会社の経営権を取得できる手続きをEBO(Employee Buyout)といいます。
TOB
TOBとは、経営権の取得を目的として、買収したい会社の株式を取得する方法です。TOBでは、買収したい会社の株式を買い取る情報を公開し、不特定多数の株主から株式を買い取ります。買収したい会社の株式の保有割合を増加させ、50%以上の議決権付き株式を取得することで会社の経営権を取得します。
TOBは公開買い付けともいわれており、情報が公開されるため、M&Aスキームの中では有名な部類に入ります。しかし、実際にTOBが行われる件数は先に紹介した6種類のM&Aスキームに比べると少なく、ごくまれなケースです。
新株発行
M&Aスキームとして新株発行があります。被買収会社が新株を発行し、その新株を買収会社が買い取ります。議決権付き全発行株式のうち50%以上取得できれば、被買収会社の経営権を取得できるため、そのようになるまで新株発行を行います。代表的な方法として、第三者割当増資があります。
第三者割当増資
第三者割当増資は、新株発行の一つです。新株を発行するときの割り当ては、原則的に発行元が自由に決めることができ、悪影響をおよぼすと考えられる相手には新株を渡す必要はありません。
第三者割当増資は、従業員や取引先の会社など利害関係のある人に優先して新株を発行することです。特にM&Aの目的で使用する場合は、買収会社に新株を優先的に発行し、自社の経営権を取得させます。被買収会社の主要株主の同意が得られれば、第三社割当増資によるM&Aスキームは比較的手続きを早く済ませることができます。
資本の移動がないM&A
M&Aスキームの中には資本の移動がないものもあります。この記事では以下の2つについて紹介します。
- OEM連携
- 業務提携
OEM連携
OEM連携とは、相手会社のブランド名を借りて商品を製造し、販売することです。製造する机を販売する架空の町工場を例として解説します。
その町工場で作られている机の技術はとても高く、同業者の中では高く評価されています。しかし、その情報は消費者に伝わっていなかったため、その机の売り上げは今一つでした。そこで、その町工場は大手家具製造メーカーのA社とOEM連携を行うことにしました。
町工場で製造されている机にA社の有名ブランドZを付けて販売すると、ブランドZの効果により、机の売り上げは大きく増加しました。
この例のようにOEM連携では、資本の移動なしに売り上げを増加させる可能性があります。
業務提携
業務提携は、ある事業に対して、各社が資金や技術・人材などを出し合うことです。これによりシナジー効果を得て、さらなる市場競争力向上が目的となっています。業務提携は、大きく3種類に分けることができ、技術提携・共同開発・共同販売があります。
12. M&Aスキーム・手法比較まとめ
M&Aスキームの方法やその比較について紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?
M&Aを行う際には、自社の利益ができるだけ最大になり、損失ができるだけ最小になるようなM&Aスキームを選択する必要があります。M&Aの専門家と相談したうえで、慎重にM&Aスキームを選択しましょう。
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