M&Aで会社売却した時の退職金はいくら?

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この記事の監修専門家
M&A総合研究所 公認会計士
高谷 俊祐

M&A・会社売却をした際の退職金は、株式譲渡(M&A・会社売却)と事業譲渡(事業売却)によってさまざまな違いが現れます。また役員と従業員の立場によっても受ける影響に差があります。この記事ではM&A・会社売却・会社売却をした際の、各パターンにおける退職金に関する注意点について解説をしますので、ぜひ参考にしてみてください。

目次

  1. 退職金に税金はかかる?
  2. M&A・会社売却した時の退職金
  3. 株式譲渡と事業譲渡で退職金は変わる?
  4. M&A・会社売却した時の退職金①社員・従業員
  5. M&A・会社売却した時の退職金②役員・社長
  6. M&A・会社売却した時の退職金支払いの注意点
  7. まとめ
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1. 退職金に税金はかかる?

M&Aや会社売却の際に入手する退職金の前に、まずは一般的な退職金についてお話ししましょう。退職金は税法上「退職所得」と呼ばれます(所得税法(退職所得)第三十条)。法で定義されるところの退職所得とは、いわゆる退職手当や恩給のように、退職をすることによって一時的に受ける給与と、その他のこうした性質を持つ所得を指します。

所得税法
(退職所得)
第三十条 退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下この条において「退職手当等」という。)に係る所得をいう。

退職金は、通常の場合、支払を受けるときに事前に所得税、復興特別所得税・住民税が源泉徴収又は特別徴収されます。しかし、その一時的に得た所得が大きすぎる場合、総合課税で計算すると所得税額が大きくなってしまい、税負担も過大になってしまいます。

そこで、これを避けるために、他の所得と合算することなく退職所得のみ分離し(分離課税)、これに課税することで税負担を軽減するべく工夫されています。

ただし、退職金はなんら法に定められたものではなく、慣習として定着している制度に過ぎません。そのため、もし退職金を得たいと思う場合は、所属する法人が退職金規定を設けているかどうか注意する必要があります。

もし所属する法人に退職金規定があれば、事業譲渡(事業売却)によるM&A・会社売却が行なわれた場合、従業員には退職金が、また役員には役員退職金が支払われます。

なお企業買収やM&A・会社売却のうち、株式譲渡(会社売却)と事業譲渡(事業売却)の方法いかんによっては退職金額に差が出るため注意が必要です。これについては、後ほど詳説します。

2. M&A・会社売却した時の退職金

前述した通り、退職金は税法上の「退職所得」として扱われ、他の所得と分離して所得税を計算する、いわゆる分離課税の形式をとっています。分離課税のメリットとしては、仮に退職所得の他の所得、たとえば利子所得などがあったとしても、累進課税の対象とならないため、税率の増加を抑えることが挙げられます。

また退職金にかかる税金は退職金の総額ではなく、まず退職所得控除がなされ、差し引いた金額をさらに2分の1にした金額に課税されるため、ここでも税負担が大きく軽減されています。  

また法人にとっても、退職金は節税効果が高いため積極的な利用が期待されます。退職金は損金処理することができるため、退職者の月額報酬額の大きさ、及び勤続年数の長さに応じて、大きな額の退職金の支払いが認められ、法人税を軽減することが可能です。

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3. 株式譲渡と事業譲渡で退職金は変わる?

株式譲渡(会社売却)と事業譲渡(事業売却)とでは、課税率(法人税の有無など)や、対価(退職金や株の売却益など)を受取る対象などが異なるために、どちらの方法を選択するかによって企業買収やM&A・会社売却後の役員、および従業員の手元に残る金額は変わってきます。ここからは、順を追って説明して行きます。

株式譲渡の場合

「株式譲渡(会社売却)」とは、M&A・会社売却の売手企業の株主(企業のオーナーなど)が、企業買収の買手企業に株式を売却して、事業を継承するM&A手法です。この場合、売手企業の株主がその対価である売却代金を入手します。ここで課税される主体は、M&A・会社売却により売却代金を受け取った売手企業の株主になります。この株主が役員などの個人であれば、M&A・会社売却時の株式の売却益に対して所得税が課されますので、売却した年の翌年の確定申告で申告・納税する必要があります。

なお、株式譲渡(会社売却)でM&A・会社売却を実行する場合、前述の通り役員退職金を組み合わせることで、売手企業の税負担を軽くできる可能性があります。

また株式譲渡(会社売却)とは、株式がM&A・会社売却により他社に譲渡されるということなので、単に経営権が移動するに過ぎません。そのため、売手企業の従業員の雇用契約は継続されます。前職での労働条件に変更もないため、退職金制度もそのまま引き継がれると考えて良いでしょう。
 

事業譲渡の場合

一方で「事業譲渡(事業売却)」では、M&A・会社売却の売手企業が、企業買収の買手企業に事業を売却し、その対価は売手企業が受け取ることになります。株式譲渡が、オーナーなど個人が対価を得たのと異なり、事業譲渡の場合は法人に対価が支払われるので、たとえM&A・会社売却をしたとしても売手企業のオーナーが資金直接を受け取ることはできません。

また、事業譲渡した場合に利益が出れば、M&A・会社売却の売手企業に法人税が課税されることになります。加えて、株式譲渡(会社売却)と違い、消費税の課税対象となります。

さらに、事業譲渡では、M&A・会社売却をすることにより、会社資産や権利義務、その他に契約関係も移転します。そのため、M&A・会社売却をした側の売手企業の社員は、買手企業と新たな雇用契約を締結することになります。

実際には、売手企業の社員は、買手企業との間で「転籍同意書」を交わし、新たに雇用契約書を取り交わすことになります。

当然ながら、事業譲渡の場合には、M&A・会社売却の売手企業の社員は譲渡される前の会社の退職金制度の条件で退職金を受け取ることになります。従って、退職金については、転籍前の会社で保証されている分を、前の会社が支払っておくなどの対応が必要です。   

具体的には、事業譲渡による退職金の支払いには、次の2つの方法が考えられます。
 

  1. 事業譲渡の際に、売手企業がいったん従業員の退職金を支払う。買手企業の中に新たな退職金規程がある場合は、その規程に沿う。
  2. 事業譲渡前に発生した退職金を買手企業が引き継ぐ場合、従業員が譲渡先である買手企業を退職する際に、引き継いだ退職金とあわせて事業の譲渡先が退職金を支払う。

上記1.の場合は、売手企業にとって多額のお金が必要となりますので、M&A・会社売却を行う前に従業員に支給する退職金額を事前によく計算しておく必要があるでしょう。

2.の場合は、売手企業が事業譲渡する際に、将来転籍した従業員に支払うはずの退職金に相当する額を事業譲渡の額から事前に差し引いておく、つまり事業譲渡の買手企業は「引き受ける退職金債務の分を買収金額から割り引いておく」といった措置が行われます。

4. M&A・会社売却した時の退職金①社員・従業員

退職金は分離課税によって課税され、計算式は下記の通りとなります。

<計算式>
(退職金の額 - 退職所得控除(※))× 1/2 × 税率
※退職所得控除の計算

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数(80万円)未満の場合は、80万円)
20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

なお前述した通り、株式譲渡(会社売却)によるM&A・会社売却の場合は従業員の退職金に変更はありませんが、事業譲渡(事業売却)によって従業員が退職する場合、退職金が譲渡先である買手企業に引き継がれない可能性があるため、譲渡前によく確認しておく必要があるでしょう。

5. M&A・会社売却した時の退職金②役員・社長

次に②役員・社長の場合ですが、法人税法では不当に高額な役員退職金は損金として算入が認められていないため、合理的な金額が求められています。また、退職金は役員在任期期間に対する論功行賞の側面があるため、一般的には下記のような計算式で決められるケースが多いと思われます。

<計算式>
退職時の月額報酬×役員勤続年数×功績倍率(※)=退職金
※功績倍率とは
役員として在任した期間中に、会社に与えた貢献度合について、任意の倍率で定義したものです。特に決まった倍率が定義されている訳ではなく、その人の功績の内容により増減されます(社長:3.0倍、常務:2.5倍、取締役:2.0倍 等)。

以下は、ある企業の代表取締役の役員退職金を試算したケースです。仮に月額報酬が100万円で役員勤続年数が30年であれば、社長の功績倍率は3.0倍ですので、合計で9,000万円となります。

<計算例>
100万円×30年×3.0倍=9,000万円

損金不算入となった場合
もし役員退職金が不当に高額だという理由で損金不算入になった金額は、法人税法上の経費に適用されないため、損金不算入となった場合の役員退職金には法人税が課せられます。加えて、退職金として支給しているため、退職者には退職所得に対して応分の所得税が課せられます。

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6. M&A・会社売却した時の退職金支払いの注意点

M&A・会社売却・会社売却による従業員の退職金については様々な注意点があります。従業員にとって退職金が重要なものであるとは想像に難くありませんし、また退職金が急に減額されれば買手企業への不信につながり、モラールの低下を招きかねません。

従業員が不利にならないよう、M&A・会社売却や買収をした売手企業は、退職金の扱いについて買手企業と真摯に交渉しておくことが必要でしょう。ポイントは3点あります。

  1. 退職金を精算する場合の支払い
  2. 勤続年数による所得税の控除金額の違い
  3. 勤続年数の取扱い

1.退職金を精算する場合の支払い

退職金を精算する場合、その支払い方法は、売手企業の規定に基づいて行われます。もし事業譲渡の際に買手企業が退職金(の債務)を引き継ぐ場合も、これまでの規定従い支払いが行われます。

M&A・会社売却の買手企業にとっては、もともとは売手企業が支払うべき債権を引き継ぐわけですので、その金額は事業譲渡を引き受けた時の譲渡価格から差し引かれるのが一般的です。

2.勤続年数による所得税の控除金額の違い

事業譲渡の場合、退職金を計算する際には転籍前の会社での勤続年数が通算されるかどうかは、社員にとって重要な問題です。そのため、勤続年数を譲渡先企業が継承するかどうかを、事前に相手先企業と交渉しておく必要があるでしょう。

事業売却の場合は転籍をする関係上、勤続年数が途中で切れてしまう恐れがあります。前述の通り、退職金にかかる所得税の控除金額は、勤続年数によって異なります。つまり勤続年数の継承について何もしなければ従業員が所得税で損をすることになります。

3.勤続年数の取扱い

勤続年数の長短によって所得税の控除額に差が出るため、社員のためには譲渡先企業においても勤続年数は出来るだけ継続するよう扱ってもらう方が良いでしょう。

株式譲渡(会社売却)と事業譲渡(事業売却)に関わらず、前職での勤続年数と合算して退職金の計算をする場合は、所得税法第30条(退職所得)に関する所得税基本通達30-10に基づき、退職給与規定で明示することが求められますので、買手企業が勤続年数を継続して計算できるような規定にしておくのが良いでしょう。

(前に勤務した期間を通算して支払われる退職手当等に係る勤続年数の計算規定を適用する場合)
30-10 令第69条第1項第1号ロ及びハただし書の規定は、法律若しくは条例の規定により、又は令第153条《退職給与規程の範囲》若しくは旧法人税法施行令第105条《退職給与規程の範囲》に規定する退職給与規程において、他の者の下において勤務した期間又は前に支払を受けた退職手当等の支払金額の計算の基礎とされた期間(以下30-11においてこれらの期間を「前に勤務した期間」という。)を含めた期間により退職手当等の支払金額の計算をする旨が明らかに定められている場合に限り、適用するものとする。(昭63直法6-1、直所3-1、平15課個2-23、課資3-7、課法8-11、課審4-37改正

7. まとめ

M&A・会社売却を行った際の退職金について解説してきました。この記事についてまとめると以下のようになります。

・慣例としての退職金制度
・株式譲渡(会社売却)と事業譲渡(事業売却)における退職金の違い
・退職金の計算方法について
・役員退職金の一般的な求め方
・事業譲渡をした際の従業員への退職金支払いに関する注意点

M&Aを行う際には、退職金に限らず、様々なポイントについて対策と準備が必要となりますが、特に法務に対する知識に自信のない企業が自前で準備をするのは一苦労ではないでしょうか。

この場合、M&Aに関する膨大な知識と経験を持った専門家に相談するのが良いでしょう。M&A総合研究所は、数字に強いM&Aエキスパートの会計士が専任で担当します。ぜひM&Aの際の退職金に関して不安な方はご相談ください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

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