M&Aで経営者保証や担保はどうなる?連帯保証人から解放されるためには?

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

経営者保証とは、金融機関などから融資を受ける際に提供する経営者の個人保証のことです。M&Aの際はどのような扱いになるのでしょうか。本記事では、M&Aにおける経営者保証の扱いや、連帯保証人から解放されるためのポイントなどについて解説します。

目次

  1. M&Aで経営者保証や担保はどうなる?
  2. 経営者保証から解放されるには?
  3. M&A手法別の経営者保証や担保の取り扱い
  4. M&Aでの経営者保証や担保の取り扱いまとめ
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1. M&Aで経営者保証や担保はどうなる?

M&Aで経営者保証や担保はどうなる?

個人保証とは、金融機関などからの融資と引き換えに経営者が負う義務のことです。会社の債務を人が保証することから人的担保ともいわれます。

担保とは、債権の弁済手段を確保するために、特定の財産に抵当権を設定することです。主に土地や建物などの不動産が対象になり、物的担保といわれます。

経営者保証(個人保証・担保)は、普段は企業と金融機関における信用補完の役割を果たしますが、M&A売却の際はその扱いや引き継ぎに理解していないと全体の進行に支障がでる恐れもあるでしょう。

経営者保証や担保を提供する理由

中小企業の経営者が経営者保証(個人保証・担保)を提供する理由は、個人資産を担保にして事業資金を確保するためです。赤字経営の場合は、赤字の補填に事業資金を充てなければならなくなり、事業資金不足が加速してさらなる経営難に陥る可能性もあります。

業績好調の企業でも、売掛債権の回収期間が長かったり棚卸資産の割合が多かったりすると、キャッシュフローが悪化して事業資金不足に陥りやすいでしょう。企業の事業活動は資金が必要になるので、経営者保証を提供して金融機関などの債権者から融資を受けて資金調達を行っています。

経営者保証や担保を要求される理由

金融機関などの債権者が経営者保証(個人保証・担保)を要求する理由は、中小企業と債権者の間で信用補完機能が必要になるためです。中小企業は経営者自身が筆頭株主で私的な経営を行っていることが多いです。経営状況や財務状況が可視化されていないと、債権者側からは投資回収の見通しが立てにくいため経営者保証が必要になります。

債権の弁済手段を提供することによって、中小企業における事業の安定性や将来性が不安視される状況でも融資を受けられます。

個人保証を要求するとき、金融機関は根保証と特定保証を徴求しますが、根保証とは継続的な取引関係から生じる不特定多数の債務のために行う保証です。債務者が有する債務や将来有する債務の全てを保証する約束になります。特定保証とは、特定の債務にのみ保証債務を負う保証です。

金融機関は、根保証の金額をどのように設定しているのか見ていきましょう。

山田ビジネスコンサルティングによる「個人保証に関するアンケート調査」では、65.9%の金融機関が「実際の融資金額に対し120%の極度額」と答えています。融資額に対し100%より大きな保証極度額を徴求する金融機関は、トータルで79.5%を占め、債務者にとって大きな負担です。

担保を提供した中小企業経営者の多くは不動産を担保として金融機関へ提供しています。

会社の運用資金を調達する際の個人保証や担保の提供は、経営者個人の生活にも影響するため、経営者は個人保証や担保に関する理解を深めなければなりません。

上場企業の場合は広く一般の投資家から資金の提供を受けることで、より公的な存在になり、経営者に強く依存しない独立した存在となるので、上場の際に経営者保証を解除するのが一般的です。

経営者保証や担保が経営に与える影響

経営者保証は中小企業における事業資金の確保に必要ですが、提供することで経営に与える悪影響もあります。特に注意しなければならない影響は以下の3点です。

【経営者保証(個人保証・担保)が経営に与える影響】

  • 積極的な挑戦がやりにくくなる
  • 事業承継の妨げになることがある
  • 事業をやめにくくなる

積極的な挑戦がやりにくくなる

経営者保証の提供は、個人資産を失うリスクを恐れて積極的な挑戦がやりにくくなる悪影響が考えられます。企業成長のためには、リスクを承知で挑戦しなければならない場面もありますが、経営者にとって失敗したときに個人資産まで失うリスクは重すぎるといった問題もあるでしょう。

自己破産後に再び融資を受けて再挑戦する選択肢もありますが、日本の金融機関は一度失敗した事業者への融資は敬遠する傾向が強いです。こうした影響から、経営者保証を提供した経営者はリスクのある積極的な挑戦がやりにくくなり、企業成長のチャンスもつかみにくくなります。

事業承継の妨げになることがある

事業承継では、経営権や資産と一緒に経営者保証も引き継ぎますが、金融機関が経営者保証の引き継ぎに難色を示すことがあります。

引き継ぎが認められない主な理由は、後継者の資産不足です。後継者に融資額に見合うだけの資産がなければ、連帯保証人としての役割を果たせないとみなすからです。

親族への事業承継では、経営者保証を引き継ぐことをためらう経営者も多く、後継者側もリスクを嫌うことが少なくありません。経営者保証の存在が中小企業の事業承継を滞らせる一因になっています。

事業をやめにくくなる

会社の業績は企業努力で向上できますが、ときには外的要因も強く影響します。ふとしたことがきっかけで採算性が悪くなり、会社全体の経営状況が悪化することも珍しくありません。

その際、経営者保証の提供や借入金がない状態ならば、一度会社や事業を畳んで新たな切り口で再挑戦する選択を取ることも可能です。経営者保証を提供している場合は、事業をやめた時点で弁済する方法が個人資産の売却しかなくなります。

社会環境の変化などで事業の採算性が悪化しても、経営者保証を解除するまではやめにくくなります

M&Aにより経営者保証や担保に起こること

経営者保証は、経営者における一定のリスクと引き換えに事業資金を確保しています。実際に多くの中小企業経営者が、経営者保証を提供して会社の事業活動を行っている状況です。事業承継を妨げる悪影響もありますが、M&Aでの売却では経営者保証はどのように扱われるのでしょうか。

結論としては、経営者保証はM&Aにより引き継がれます。譲渡企業における全ての資産・負債を引き継ぐ方法なので、経営者保証も譲受企業が引き受ける形となります。

親族への事業承継では、引き継ぎ拒否や後継者の事業失敗などで引退後も気が抜けませんが、M&Aなら経営者保証から解放されて引退後の安定した生活を送りやすくなるでしょう。

M&Aには売却益獲得のメリットもあります。会社の価値に応じた売却益を経営者(株主)が獲得できる仕組みなので、引退後の生活資金や新たな事業資金に充てることも可能です。

【関連】会社売却のメリット・デメリットを徹底分析!リスクはある?

2. 経営者保証から解放されるには?

経営者保証から解放されるには?

この章では、経営者保証から解放される方法を見ていきましょう。

連帯保証とは

連帯保証とは、主たる債務者と連帯して債務を弁済する義務を負うことです。中小企業が融資を受ける際は、企業の債務を経営者が連帯する形になります。

連帯保証人(経営者)は検索の抗弁権が排除されます。主たる債務者(企業)が債務を履行できないときは、債権者の要求により主たる債務者と区別されることなく、連帯保証人が債務を履行しなくてはなりません。

融資取引などでは、単なる「保証」の場合でも「連帯保証」を意味していることが多いです。経営者保証と連帯保証はほぼ同義と捉えて差し支えありません。

借入と連帯保証

借入とは、個人や企業が他者からお金を借りることをいいます。企業の融資場面では、企業が借入者、金融機関が貸付者となるのが一般的です。

日常生活では、借入という言葉にマイナスなイメージを持つことも多いですが、企業の事業活動では借入による資金調達で事業展開の幅を広げられます。

個人の少額借入では、借用証書や約束手形の差し入れで済むことが少なくありませんが、企業が借り入れする場合は高額借入になるので連帯保証が必要になることが多いです。

具体的には、経営者保証による人的担保か、不動産などの抵当権による物的担保を提供します。抵当権は、借入者が所有する財産に設定されるのが一般的です。

経営者が連帯保証人から解放されるには

経営者にとって経営者保証は頭を悩ませる要因です。事業承継で親族に引き継ぎをしても、親族である以上、後継者が事業に失敗したときは前経営者も影響を受けます。

経営者保証は、経営者の積極的な挑戦や事業承継を妨げる要因になることが問題視されており、その対策として2014年に「経営者保証に関するガイドライン」が制定されました。

経営者保証に関するガイドラインとは

経営者保証に関するガイドラインとは、経営者保証により経営者や企業が受ける弊害を除去することを目的に設けられた制度です。

一般的に、経営者保証を提供している状態で事業に失敗すると、破産手続きの選択が濃厚になります。しかし、本ガイドラインを利用すれば、一定の財産を保持したまま保証債務の整理を行う選択肢も検討できるでしょう。

新規に融資を受ける際も、経営者保証が不要になることもあります。本ガイドラインの適用対象は、下記の要件を満たす主な債務者および保証人です。

【経営者保証に関するガイドラインの要件】

  • 主たる債務者が中小企業であること
  • 保証人が主たる債務者である中小企業の経営者であること
  • 主たる債務者および保証人の双方が弁済について誠実であり、債権者の請求に応じて財産状況などを適時開示していること
  • 主たる債務者および保証人が反社会的勢力ではないこと

【中小企業に求められる経営状況】
  • 法人と経営者の関係の明確な区分・分離
  • 財務基盤の強化
  • 経営の透明性

法人と経営者の関係の明確な区分・分離

法人と経営者の間における資金のやり取りの明確化をさします。社会通念上における適切範囲内の体制を整備して、公認会計士などの外部専門家による評価を受け、運用状況・情報を債権者に対して適時開示することなどが定められています。

財務基盤の強化

財務状況・業績の改善をつうじて返済能力の維持・向上に取り組むことで社会的信用力を強化することをさします。具体的な強化方法は、「自己資本の充実」や「源泉となる利益を生み出すこと」です。

経営の透明性

自社の財務状況・業績を正確に把握し、債権者からの請求に応じて資産負債状況や事業計画・見とおしなどの情報を正確に説明することで透明性を確保することをいいます。

経営者保証に関するガイドラインの相談先

中小企業経営者は、経営者保証に関するガイドラインをしっかり確認しましょう。経営者保証に関するガイドラインの相談先は、商工会、商工会議所、取引先の金融機関、公認会計士、税理士などがあります。

【関連】M&Aとは?M&Aの流れやメリット・手法などわかりやすく解説!| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

3. M&A手法別の経営者保証や担保の取り扱い

M&A手法別の経営者保証や担保の取り扱い

M&Aは、目的に合わせた適切な手法を選択することで、得られる効果を最大化できるでしょう。M&A手法は合併や会社分割などもありますが、中小企業のM&A実務では株式譲渡事業譲渡の2つが主流です。

株式譲渡と事業譲渡は手続きや得られる効果に違いがあり、経営者保証の引き継ぎも扱いが異なります。

株式譲渡の場合

株式譲渡とは、売り手から買い手に対して株式を譲渡・売却して経営権を移転させるM&A手法です。経営者が保有する株式を売買することで、会社の経営者が入れ替わる仕組みになっています。

株式譲渡で売却された会社は、法人格を維持したまま譲受企業の傘下に加わります。つまり、譲渡企業の資産・負債の全てを譲受企業に引き継ぐでしょう。

経営者保証も同様で、経営者は連帯保証人から外れるケースが多いですが、自動的に引き継がれないので、解除手続きに関して譲受企業との話し合いを進める必要があります。

早期段階から話し合いを進め、M&Aの契約書に「買い手が売り手における経営者保証の解除責任を負う」などの条項を入れて、債権者も交えて交渉しましょう。

事業譲渡の場合

事業譲渡とは、事業の一部あるいは全部を譲渡・売却するM&A手法です。事業の売買なので会社の経営権は維持される特徴があります。株式譲渡は会社ごと売却するM&A手法ですが、事業譲渡は事業ごとに売買対象を決定するM&A手法です。譲渡企業と譲受企業の間で交渉を行い、売買範囲を細かく決定します。

事業譲渡では資産・負債や権利義務を切り離して考えることが多いため、売買対象の事業と関連しない債務を一緒に引き継ぐケースはほとんどありません。経営者保証も一般的な債務と扱いは同じです。譲受側より受け取った事業譲渡の売却益で返済して経営者保証を解除するケースが多いでしょう。

【関連】事業譲渡のメリット・デメリット30選!手続きの流れ・方法、税務リスクも解説| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

M&Aでの経営者保証や担保の取り扱いに関する相談先

M&Aで経営者保証を引き継ぐ際は、事前に準備を進めましょう。M&A相手との交渉や債権者との調整を進め、M&A契約書の条項に経営者保証の扱いを盛り込む手順を踏みます。

M&A総合研究所は、M&A・事業承継の仲介サポートを手掛けるM&A仲介会社です。特に中堅・中小規模の案件を得意とし、中小企業のM&A仲介や経営者保証の扱いに豊富な経験を培っています。

機動力にも強みを持ち、最短3カ月のM&A成約実績も有しています。料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談を受け付けていますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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4. M&Aでの経営者保証や担保の取り扱いまとめ

M&Aでの経営者保証や担保の取り扱いまとめ

経営者にとって、個人資産を担保にする経営者保証の扱いは慎重になる必要があります。M&A・事業承継の場面になれば、適切な措置を行わなければ引き継ぎを阻害してしまう恐れもあるでしょう。

特にM&Aでは、利用するM&A手法によって経営者保証の扱いが異なります。M&A専門家の知識も必要なので、経営者保証からの解放を検討する際は、早期に準備を進めましょう。

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