事業売却・会社売却の相場は?金額の決め方・高く売る方法・税金も解説【事例あり】

提携本部 ⾦融提携部 部⻑
向井 崇

銀行系M&A仲介・アドバイザリー会社にて、上場企業から中小企業まで業種問わず20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、不動産業、建設・設備工事業、運送業を始め、幅広い業種のM&A・事業承継に対応。

中小企業のM&Aでよくあるのが、事業の一部を売却する事業売却と会社を丸ごと売却する会社売却です。両者は相場が違い、課税される税金の種類も違います。本記事では、相場や税金の違いに対する考え方、事業売却や会社売却の事例などを紹介します。

目次

  1. 事業売却とは?会社売却との違い
  2. 事業売却と会社売却の相場
  3. 事業売却を相場より高くする方法
  4. 事業売却・会社売却にかかる税金の違い
  5. 事業売却のメリット
  6. 事業売却のデメリット
  7. 事業売却を行う手続きの流れ
  8. 事業売却と会社売却の事例
  9. 事業売却と会社売却の相場まとめ
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1. 事業売却とは?会社売却との違い

事業売却とは、会社における事業の一部を売却することをいいます。中小企業の場合は、ほぼ間違いなく事業譲渡M&Aスキームで行う売却のことです。

事業譲渡のM&Aスキームは、売却する事業の中でも、ヒト・モノ(商品や工場など)・権利(取引先など)を定めて売ります。事業譲渡は、事業売却する会社が事業買収する会社に売る形です。したがって、売却対価は会社が受け取ります。

事業売却の定義

事業売却とは、すでに存在する会社が事業のすべてあるいは一部を、他社や個人へ売却することをさします。売却対象の資産と負債が、契約に基づいた取引行為として、移転手続きなどを実施することで移転・承継されるのです。

事業譲渡は、事業売却と同じ意味の言葉になります。

事業売却の持つ意義

事業売却は、特定の事業を切り離すときに用いられます。赤字事業やノンコア事業など、経営戦略に応じて売却する事業を選ぶことが可能です。

事業を売却すると対価を獲得できるので、それを新しいビジネスに投資もできます。事業売却は、経営戦略において有効といえるのです。

【関連】事業売却とは?会社売却との違い、メリット・デメリット、相場・税金を解説!

会社売却とは?

会社売却とは、会社を丸ごと売却することです。中小企業の場合は、ほとんどが株式譲渡のM&Aスキームで行う売却をさします。

株式譲渡のM&Aスキームで会社を売却する場合、会社におけるすべての株式を買収会社に売却します。株式譲渡のM&Aスキームは、株式の全部ではなく一部のみを売却することもありますが、本記事の「会社売却」は一部のみの売却は含めません。株式を全部売却する場合です。

株式譲渡は、売却する会社の株主が所持している株を買収会社に売る形なので、売却対価は株主が受け取ります。

事業売却と会社売却の違い一覧

事業売却と会社売却の違いは下記です。
 

  • 取引の対象
  • 対価の受領者
  • 消費税が課されるかどうか

取引の対象

事業を構成する資産や負債を取引の対象として売却するのが事業売却です。事業売却の際は、資産・負債となる対象を事業譲渡契約書に記載します。

株式を取引の対象として売却するのが会社売却で、資産・負債の一覧は株式譲渡契約書に記載しません。

対価の受領者

売却における対価の受領者は、事業売却では事業を持つ会社で、会社売却では株式を持つ株主です。対価の受領者である株主は個人株主だったり、子会社株式や投資有価証券を売却するケースなどでは法人株主だったりします。

消費税が課されるかどうか

消費税が課されるかどうかも違いがあります。事業売却対象資産に消費税の課税対象となる資産があれば、事業売却に消費税がかかりますが、会社売却では株式の売却なので消費税は課税されません。株式譲渡は非課税取引です。

【関連】株式譲渡による事業承継の方法!メリット・デメリット、税金、事業譲渡との違いも解説

2. 事業売却と会社売却の相場

事業売却と会社売却は、売買金額の相場を比較すると「事業売却<会社売却」です。相場が違う理由を見ていきましょう。

売却相場が違う理由

同じ事業規模の会社で比較すると、売却するのが「会社の一部か」「会社の全部か」によって相場が異なります

事業売却は事業の移動

事業売却は、会社全体における一部の事業のみを切り離して売却します。会社全体の一部なので、当然ながら会社売却よりも相場は低くなるのです。

なぜ相場の低い事業売却を選択するのかといえば、「継続保有したい事業・資産を法人格ごと残せる」メリットがあるからです。これにより、例えば以下が可能になります。
 

  • 会社所有の不動産を事業譲渡後も継続保有する
  • 法人格を継続使用する

会社売却は全資産の移動

会社売却は会社を丸ごと売却します。したがって、基本的に売却会社が持っていたすべての資産が、買収会社に移動するのです。全資産を取引するため、同じ事業規模で比較すれば事業売却より相場が高めになります

大きな金額が入るのでそれだけでもメリットがありますが、会社売却は株主兼経営者の中小企業にとって、事業承継の問題解決にメリットがあるのです。会社売却をして売却先に事業を引継いでもらえば、以下が可能になります。
 

  • 創業者利潤を得る
  • 個人資産を借入金の担保から外す
  • 会社債務の連帯保証から外れる
  • 経営者としての責任・ストレス・プレッシャーからの解放
  • 買収会社が株主となることで会社経営の安定性が増す
  • 従業員の雇用維持
  • 取引先に迷惑をかけない

【関連】会社売却、M&Aの相場を解説!企業評価とは?

事業売却の金額の決め方

会社売却における売却金額の決め方はいくつかあるため、代表的なものを紹介します。事業売却の価値算定方法で代表的なのは、「DCF法」「マルチプル法」「純資産法」「過去事例比較法」です。

動画でも解説しておりますので、ぜひご覧ください。

売却額の相場と簡単な計算式

よく使われているM&Aにおける売買価格の算出方法を紹介しますが、純資産法を除いて検討要素が多く、目安となる金額を計算するにも時間や手間がかかります。

1,000万円程度の小規模なM&Aでは純資産法でも良いかもしれませんが、規模が大きい会社の売買ほど、純資産法では検討要素が不十分な面があるのも事実です。

しかし、最終的にどのような方法で売却会社の評価をするにせよ、金額の目安を出す方法として以下の計算式があります。

売買評価額=時価純資産(修正純資産)+営業権(単年度利益×3年分程度の持続年数)

これは、修正純資産に3年分程度の期待収益を反映した目安にすることが可能です。期待収益は、最新年度の利益から特別利益・損失や、何か特別な事情で収益の上げ下げがあった場合は、それらを除いた利益で代用できます。

事業売却の相場で客観性が高いのが、株式市場と照らし合わせることです。東証一部に上場の銘柄におけるPERは、「時価総額÷当期純利益」で計算できます。売却対象となる事業の純利益がわかると相場が計算できるのです。

例を挙げると、売却事業の純利益が年間1,000万円で平均PER21.2倍の場合、1,000万円と21.2を乗じて相場は2億1,200万円になります。ただし、東証一部の平均値、株式市場はマクロ経済などの影響を受けやすい、本来は類似企業のPERを乗じる点は覚えておきましょう。

DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法

DCF法は、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く(ディスカウント)のことで企業価値算定する方法です。売却する会社の売却する資産や事業計画書などをもとに、M&A後にどれだけの収益・キャッシュフローが見込めるか計算して算定します。

DCF法では、企業が将来に生み出す収益の期待や予測を反映できるので、後述する修正純資産法では困難である「のれん」などの無形資産における評価も行うことが可能です。

一方、算定では事業計画書に重きを置くため、事業計画の精度・客観性などにより、算出される企業価値の信頼性が大きく左右されるリスクもあります。

マルチプル法

マルチプル法は、「類似会社比較法」とも呼ばれ、会社売却の対象となる企業と事業内容などが類似する上場会社の株価を参考にして買収の企業価値を算定する方法です。

比較対象として主に使用される指標は、「EBITDA倍率」「営業利益倍率」「純資産倍率(PBR)」です。実際の株価や決算情報など誰でも見られる数字を基礎として計算するので、客観性が高い評価といえます。

一方、ニッチな事業などを行っており比較する対象がない場合は、マルチプル法は使用できません。類似会社の中で売却する会社がどのような位置づけにあるか、類似会社より強い成長が実現できそうかどうかなどを計算に加味する必要があります。

以下の動画でM&Aアドバイザーが計算例を用いてマルチプル法を解説しておりますので、ぜひご覧ください。

純資産法

純資産法には、「簿価純資産法」と「修正純資産法」の2種類あります。

簿価純資産法

簿価純資産法は、帳簿価額に基づいた資産と負債の差額である純資産をもって株価を計算する方法です。

会計上の帳簿価額をベースにした計算方法で、客観性があり計算も容易ですが、含み益や含み損などを反映した時価ではないため、実際に比べ割安もしくは割高な評価となる可能性があります。

修正純資産法

修正純資産法は、帳簿上の資産と負債を時価で再評価したうえで、純資産の金額を計算して株価を計算する方法です。実務的には、すべての資産と負債を時価評価になおすのではなく、主要な土地や有価証券などの資産のみを評価しなおすこともあります。

修正純資産法は、簿価純資産法では無視されていた時価を反映した評価ですが、のれんやブランド価値といった会社の貸借対照表に載っていない無形資産は評価できません。

過去事例比較法

過去事例比較法は、売却会社の株式に関して過去に売買がある場合や、売買は行わなくても株価評価をしたことがある場合に、その取引価額をもとに株式の評価をする方法です。「取引事例法」と呼ばれることもあります。

過去に株式売買などの実例があれば客観性の高い評価です。しかし、過去の評価日から売買までの期間や取引株数における規模などの要因も加味して評価する必要があります。

なお、紹介したいずれの方法も専門性が高いため、実際に算出する際は専門家に依頼すると良いでしょう。その際は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。

M&A総合研究所は中小・中堅規模のM&A仲介を主に取り扱っており、知識や経験が豊富なM&Aアドバイザーが案件をフルサポートいたします。

料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談をお受けしていますので、どうぞお気軽にお問合せください。

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株式市場から見る事業売却の相場

事業をどのくらいの価格で売るかの目安として、株式市場のデータを参考にすることがあります。2020年9月のデータで、東京証券取引所の一部上場企業の平均PER(価格収益率)は21.2倍でした。PERとは、会社の株価をその会社の1年間の純利益で割ったものです。

この場合、もし売りたい事業の1年の純利益が1,000万円なら、21.2倍すると2億1,200万円がその事業の目安の価格です。ただ、この方法には注意点がいくつかあります。例えば、この平均値は大きな会社が多い東証一部のものだったり、株価が経済の動きに左右されたりすることです。そして実際には、似たような事業のPERを使うべきであるとも考えられています。

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3. 事業売却を相場より高くする方法

短期間でできることではありませんが、高い金額で事業売却をしたい場合に、相場より高く評価してもらいやすくなるポイントもあります。そのポイントや方法を見ていきましょう。

①人材を同時に売却

事業売却の対象事業でも、ほとんどのケースで人材が買収会社に移動します。企業における人材の中には、専門知識や技術を持ち会社に大きく貢献している人材もいるでしょう。

こうした人材がいる場合は、その人材にも買収会社に移ってもらうとより高い金額で会社売却ができる可能性があります。その人材における給与水準が低い場合は、利益が大きいので高い金額となる可能性が高いです。

そのような人材がいなくても、売却会社で長く働いている人材ほど会社内部での経験・知識が豊富にあります。買収側は、そのような人材が少ないほど事業継続の点で買収後に苦労するので、人の入れ替わりが激しい会社は人材の面から見てマイナス評価になることもあるのです。

②価値のある取引先・顧客リストを持つ

売却事業の持つ優良な取引先や顧客が、会社の価値として評価されることがあります。そもそも買収側の目的は、取引先や顧客リストの獲得であることも少なくありません。

特になかなか取引できない大企業との取引は高い評価を受けます。大企業との取引は、取引金額が大きいだけでなく、売却会社の技術・サービス力や回収できない債権などの不安リスクが少ないなど、帳簿には載らない部分にまでおよぶのです。

③別会社を設立し子会社としてから売る

事業譲渡では、単にそのまま事業売却をするのではなく、いったん事業を会社分割で子会社化し、子会社の株式を売却して高い金額で事業売却できることがあります。

のれんを資産に含む子会社を設立して、その子会社を買収会社が買うことで税金を抑える効果が生まれるからです。買収会社側は繰延税金資産と関係があり、税金が抑えられる分だけ高評価になります。詳しくはM&A仲介会社や税理士に相談しましょう。

④市場にシェアを持っておく

市場シェアも、高い金額で事業売却をするために重要な要素です。当然ながらシェアが高い方が高額で事業売却ができる可能性があります。

その市場は、できれば市場規模自体が大きければ大きいほど良いですが、市場規模が小さくても特定の地域や特定の世代、大きな特徴を持った商品などでシェアを占めていれば、それらがどうしても欲しい買収候補が現れる可能性が高まるのです。

極端にいうと会社や事業が赤字でも、買収候補がどうしても市場シェアが欲しい場合はセオリーを外れた金額で会社売却ができることもあります。

⑤業種が専門職である

業種が専門職であることは、「特許や技術」「シェア」と同じ考え方です。最もわかりやすいのが弁護士や公認会計士、医師などの専門サービス業です。

こうしたサービス事業は国家資格の取得によって、サービスの独占性が担保されています。技術や知識があれば誰でもできるわけではありません。

事業努力が不要ではないですが、最初からライバルとの競争にさらされる危険性が少ないので、買収側にはリスクが少なく高評価となります。

⑥特許や技術がある

特許や技術も、高い金額で事業売却ができるかどうかを左右する大きな要因です。この場合は、他社にまねできない確実に収益を生む特許や技術に限られます。

製造業は、特許や技術を得るためにM&Aによる買収が企てられることが多いでしょう。買収会社の事業と、売却事業の特許や技術がシナジー効果を発揮できると判断されれば高評価となります。

⑦企業体質や経営理念を持っている

企業体質や経営理念も、高い金額で事業売却ができる要素になります。

買収会社が、売却事業を評価する要素に「企業風土が合うか合わないか」があり、企業風土は企業体質や経営理念が会社の見た目に表れたものです。企業風土が合う会社の事業を買収した方が、買収後もスムーズに収益を生み出し、それをさらに伸ばせる期待が高まります

当然、その期待が高い方が高評価です。

⑧同業者への売却

同業者への売却は高く売れるか安くなってしまうか、一か八かの面があります。しかし、高い金額で事業売却ができる可能性は十分にあるのです。

買収会社が同業である場合は、売却事業の見た目だけでなく、より本質的な強みや弱みから、事業売却に至った事情や状況まで深く理解されることが多く、シビアに判断されることもあります。それらも含めて、買収会社の買収する意欲が強ければ、高い金額での交渉も可能です。

売却価格は買収会社によって異なるため、複数の会社と交渉してより高い金額で買収してくれる会社を探すことも重要になります。

4. 事業売却・会社売却にかかる税金の違い

事業売却(事業譲渡)と会社売却(株式譲渡)のいずれも、得た売却益は課税されます。課税の違いを見ていきましょう。

事業売却時は法人税と消費税

事業売却時は法人税と消費税が課せられます。売却企業にかかる税金と買収企業にかかる税金に分けて見ていきましょう。

売却企業にかかる税金

事業売却(事業譲渡)では、事業を売却したことによる対価は事業売却(事業譲渡)をした会社が受け取ります。会社が受け取る対価が売却益で、それに課税されるのです。

売却側が利益の出ている法人の場合、譲渡益が生じた際に法人税の支払が必要になります。法人税は売却して受け取った対価のすべてに課税されるのではなく、「譲渡益=売却額-譲渡資産の簿価」への課税です。

譲渡益にかかる法人税の課税は約40%(法人事業税と法人住民税を含めて)と見ておきましょう。事業売却は合併や会社分割などの組織再編行為に当たらず、税制適格要件は存在しないので注意しましょう。

買収企業にかかる税金

事業の買収は消費税の課税取引に当たるので、譲渡対象資産に課税対象資産があれば、消費税10%(2022年1月時点)の課税です。消費税は、譲渡する資産にかかる税金なので、たとえ法人税でいう譲渡益がマイナスでも課税されます。

ただし、消費税の課税対象となる資産とならない資産があり、代表的なものは以下のとおりです。
 

  • 課税資産:土地以外の有形固定資産、無形固定資産、棚卸資産、営業権(のれん代)
  • 非課税資産:土地、有価証券、債権

会社売却時は所得税と住民税

会社売却(株式譲渡)の際、会社を売却したことによる対価は、売却会社の株主が受け取ります。一般的に会社の株主は個人、法人いずれもあり得ますが、中小企業の場合はほとんどが経営者やその一族が個人で出資して株主になっています。

会社売却(株式譲渡)で得た売却益は「経営者=株主個人」となり、個人が得た売却益には所得税と住民税が課税され、所得税と住民税を合わせ売却益に対して約20%の課税です。

税金が低いのはどちらか?

税金の金額自体で、どちらが低いのかは一概にいえません。そもそも事業売却(事業譲渡)と会社売却(株式譲渡)では、課税対象となる取引自体が違うからです。

そこで単純に税率で比較しますが、まとめると以下のとおりです。
 

  • 会社売却(株式譲渡):所得税15%+住民税5%
  • 事業売却(事業譲渡):譲渡益の法人税40%+譲渡資産の消費税8%

税率だけ見ると事業売却(事業譲渡)より会社売却(株式譲渡)の方が税金は安くなるように見えます。しかし、普通は事業売却(事業譲渡)に比べると会社売却(株式譲渡)の方が課税対象となる取引金額の相場が大きいです。

事業売却(事業譲渡)での消費税は最終的に会社全体の収益に対する課税で、非課税資産がどのくらいあるかによっても消費税の金額が変わります。

したがって、どちらの税金が低いのかは、ケースバイケースです。正確な税金額の算出には無数の要素が絡み、それぞれの売却方法に工夫して税金を抑える方法もあります。M&A仲介会社や税理士などに相談しながら進めましょう。

税金以外の費用

事業売却(事業譲渡)や会社売却(株式譲渡)の実施にあたり、M&A仲介会社などの専門家に相談やサポートの依頼をするケースは少なくありません。相談やサポートの依頼を行った場合、相談料や着手金、中間金、成功報酬などの費用が発生します。

最近では相談料や着手金、中間金が発生しない完全成功報酬制を採用している専門家も多く、着手金や中間金が発生しても相談は無料とする専門家もあり、着手金や中間金は100万円~300万円が相場です。

成功報酬はレーマン方式の売却額に応じて変動する方式を採用することが多く、売却額に一定の割合を乗じた額を支払います。事業売却や会社売却で専門家の力を借りる場合は、税金以外に発生するこれらの費用にも注意しましょう。

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5. 事業売却のメリット

この章では、事業売却のメリットを紹介します。売却企業のメリットと買収企業のメリットに分けて見ていきましょう。

売却企業のメリット

まずは、売却企業のメリットです。

自社の商号を売却後も使用できる

会社売却を選ぶと、会社の商号は買収企業が使用するので売却企業は使用できません。しかし、事業売却を選ぶと、売却企業に商号が残ることがメリットです。商号に歴史やブランド価値があれば、事業売却を検討すると良いでしょう。

経営資源の集中を図れる

売却企業は、赤字事業や本業とのシナジーが少ない事業を事業売却すれば、本業に経営資源の集中を図れるメリットがあります。強固な経営体制が可能になり、企業価値の増加となるでしょう。

買収企業のメリット

続いて、買収企業のメリットです。

不要な資産を承継する心配がない

会社すべてを買収すると、買収企業に不必要な資産や負債も承継する必要があります。しかし、事業を買収する場合は、買収企業は必要とする資産や負債を選択できるので、不要な資産を承継する心配がありません。投資資金を効果的に使用できるのです。

簿外負債・偶発債務を承継するおそれがない

簿外負債は、帳簿に載らない負債のことです。買収企業が簿外負債を承継すると、予想しなかった損失を追うリスクがあり、M&Aによる投資コストが回収不能となるでしょう。

事業を買収する場合は、簿外負債や偶発債務を承継するおそれがないので、事業のみを安全に承継できるメリットがあります。

6. 事業売却のデメリット

この章では、事業売却のデメリットを紹介します。売却企業のデメリットと買収企業のデメリットに分けて見ていきましょう。

売却企業のデメリット

まずは、売却企業のデメリットです。

手続きに多くの手間・時間がかかる

株式譲渡の場合、基本的に買収企業へ自社が持つ株式を譲渡すれば売却手続きが終わります。しかし、事業売却は、個別財産ごとに事業承継の許可や許諾を得なければなりません。手続きに多くの手間・時間がかかるのです。

事業譲渡契約書の締結後は、実際に譲渡が完了するまで力を注がなければなりません。

対象事業の財務諸表を作成しなければならない

A事業とB事業を経営し、B事業を売却したいケースでは、B事業の事業別財務諸表を作る必要があります。A事業とB事業を合算した財務諸表しかなければ、別途作成しなければなりません。

適切な間接費の配分を行いB事業におけるスタンドアローンの正常収益力を把握するために、複数のステップを経て事業別財務諸表を作成します。

買収企業のデメリット

続いて、買収企業のデメリットです。

消費税が課される

事業買収では、買収企業に消費税が課されるデメリットがあります。事業譲渡の金額に消費税10%が課された金額を、売却企業へ払うのです。投資回収ができるかどうかは、消費税も踏まえて前もって検討しましょう。

税制適格組織再編税制による優遇措置を受けられない

グループ内の合併など一定条件を満たせば、被合併会社の繰越欠損金を引き継ぐことが可能です。繰越欠損金を引き継げば、買収企業は将来の税負担を減らせます。

しかし、事業買収は税制適格組織再編税制による優遇措置を受けられないため、売却企業に繰越欠損金があっても引き継げないのです。事業買収は当事者間の取引行為なので、税務上の特別なルールは存在しません

7. 事業売却を行う手続きの流れ

この章では、事業売却を行う手続きの流れを見ていきましょう。

売却対象事業の選定

まず、どの事業を売却するか売却対象事業の選定を行います。不採算事業、ノンコア事業、成長事業だがこれからの投資額増加を見込む事業など、経営戦略に沿って切り離す事業を選ぶのです。

売却対象事業が決まれば、売却事業に関する数字を整理しましょう。事業別の貸借対照表や損益計算書がすでに作成してあれば良いですが、情報が整理されていなければ改めて準備しましょう。

相手企業探し

相手企業探しを行う方法は、4つあります

1つ目は、売却企業が直接売却の打診を行う方法です。経営者同士が顔見知りであれば、迅速に計画が進むでしょう。仲介者がいないので、仲介手数料なども節約できます。

次に、M&A仲介会社やM&Aプラットフォームを用いる方法です。これらを利用すれば、複数の企業へ事業名を明かすことなく初期の売却打診ができ、多くの買収候補を集められます。M&Aプラットフォームは、システム面が効率化しているので成約手数料が安価です。

3つ目は、金融機関へ相談する方法で、金融機関はビジネスの特性上多くの企業と接点がありどの企業に売却案件がマッチするか判断できます。

4つ目は、信頼する人物へ相談する方法です。買収側企業と共通の知人、業界団体・地元経済界に詳しい人など、幅広いコネクションがある人に相談すれば、売却事業を求めている買収候補が見つかる可能性も上がるでしょう。

基本合意契約書の締結

最終契約となる前に基本的な事項を書面で確認するのが、基本合意です。LOI(Letter of Intent)、あるいはMOU(Memorandum of Understanding)とも呼びます。

事業売却のスキーム、金額、対象資産や負債、従業員の引き継ぎ条件、事業譲渡契約書の締結日、クロージング日の目安などを基本合意に盛り込むのです。

一般的に法的拘束力はありませんが、締結によって事業売却に成功する確率が上がります。買収企業も、独占交渉権を得たり買収価格の上限を設定したりスケジュールを明確にしたりするなど、買収側にも売却側にもプラスとなる内容です。

デューデリジェンス(買収監査)の実施

デューデリジェンス(買収監査)は、買収企業が行う買収前の監査です。買収対象となる事業が持つリスクを把握し、移転手続きなどの準備をするために行います

財務DD、税務DD、法務DD、システムDD、ビジネスDD、人事DDなどがあり、事業売却では、デューデリジェンスの範囲が対象事業のみなので会社売却より狭いです。

売却企業は、デューデリジェンスの過程で求められる資料を用意し、マネジメントインタビューの質疑応答に対応します。効率的なデューデリジェンスを実施すれば、事業売却の成功へつながるでしょう。

事業譲渡契約書の締結

事業譲渡契約書は、内容に法定記載事項や規制がないため、売却企業と買収企業の合意に基づき事業譲渡契約書を結びます。記載する事項は、主に譲渡対象事業の資産や負債、譲渡対価、譲渡期日、譲渡対象資産などの移転手続き、競業避止義務などです。

事業譲渡契約書の締結には、機関決定を必要とします。売却企業は株主総会の特別決議が要りますが、一定金額以下の事業売却であれば必要ありません。

買収企業は、事業をすべて譲受するケースであれば株主総会の特別決議が要ります。一部譲受であれば必要ありません。金額により、取締役会決議などを経て事業譲渡契約書を結びます。

事業の移転手続き・各所への届出

事業売却は、事業譲渡契約書の締結のみでは個別契約や地位が移転しません。別途手続きを行います。買収企業が各取引先における契約を公開したり、事業に必要な許認可を再取得したりするなどです。

売却企業は、買収企業が個別契約や地位をしっかり移転できるように協力しましょう。

8. 事業売却と会社売却の事例

この章では、事業売却と会社売却の事例を紹介します。

事業売却の事例

ある会社の外食事業が、食品小売の会社に事業売却された事例です。
 

  売却会社 買収会社
事業内容 外食 食品小売
売上 8,000万円 50億円
目的 事業再編 新規事業

【売却会社】
本業は建設業で外食事業も行っていました。しかし、本業が不振で資金繰りも楽ではない状態となったため、外食事業を売却して本業に資源を向ける決断を下しています。

【買収会社】
外食事業の経営に意欲を持つ社員がいたため、買収に至りました。ただし、外食事業は未経験でノウハウがないので、最初は売却会社を本部とするフランチャイズとして運営をはじめ、ノウハウを学んだ段階で買収会社が完全に運営する形にしています。

武田薬品工業による帝人ファーマへの事業売却

武田薬品工業は2021年4月、糖尿病薬事業を帝人ファーマへ事業売却しました。

事業売却した糖尿病治療薬は、国内で製造販売する「ネシーナ」「リオベル」「イニシンク」「ザファテック」です。武田薬品工業は、糖尿病薬は主力事業一つでしたが、現在はがんや消化器系疾患などの領域をメインとしています。帝人ファーマは、医薬品事業と在宅医療事業を行っています。

今回のM&Aにより、武田薬品工業は6兆円を投じたシャイアー(アイルランド)の買収による負債を圧縮するため、事業の選択と集中を進める予定です。

日本における糖尿病治療薬4剤の帝人ファーマ株式会社への譲渡完了について

HIT社によるイード社へのめしレポ事業売却

2019年12月、HITはめしレポ事業を、イードへ事業売却しました。めしレポは、食べログやぐるなびなど多くのサイトで高い口コミを得ている飲食店を紹介するグルメ情報に特化したサイトです。

これにより、イードは、より専門性の高いグルメ情報を発信しメディアの価値を向上させる狙いです。

「めしレポ」の事業を東証マザーズ上場のイードに譲渡

会社売却の事例

仕出し弁当の製造・販売会社が、同業のライバル会社に売却された事例です。
 

  売却会社 買収会社
事業内容 仕出し弁当の製造・販売 仕出し弁当の製造・販売
売上 2億円 6億円
目的 後継者不在 事業拡大

【売却会社】
高級仕出し弁当を提供し顧客から高い評価を得ていましたが、後継者がいないことに加え、赤字の経営が続いていたため売却する決断を下します。インターネットを駆使した集客および効率的な配送に強みを持っていました。

【買収会社】
売却会社は赤字でしたが、集客や配送の強みを自社が得ることで経営効率化は可能になり、十分に再生できると判断し買収しています。その後は、実際に黒字化を達成しました。

キーウォーカーによる共同ピーアールへの会社売却

キーウォーカーは2022年5月、共同ピーアールへ株式57.3%を追加売却するなど会社売却を行い、連結子会社となりました。

キーウォーカーはWebデータの自動処理技術を展開しています。共同ピーアールは、メディアリレーションズをメインとした広報活動の代行、コンサルティング、IR・インターネット関連業務に至る総合的なコミュニケーションサービスを行う企業です。

今回のM&Aにより、キーウォーカーが保有するWebスクレイピング(情報抽出)技術を導入し、PR領域のDX(デジタルトランスフォーメーション)に必要なサービスを加速させます。

SaaS型クローリングサービス国内No.1の㈱キーウォーカーを連結子会社化

武田薬品工業によるブラックストーングループへの子会社売却

2020年8月、武田薬品工業は、連結子会社である武田コンシューマーヘルスケアの全株式を、The Blackstone Group Inc. と関係会社が運用するプライベート・エクイティ・ファンドが管理するOscar A-Coへ譲渡することを決めました。

これにより、武田薬品工業は、武田コンシューマーヘルスケアが市場ニーズに迅速に対応し、製品ブランドをより成長・発展させることを狙います。

武田コンシューマーヘルスケア株式会社株式のBlackstoneへの譲渡について

9. 事業売却と会社売却の相場まとめ

事業売却は会社における一部の事業のみを売却することで、会社売却は会社を丸ごと売却することです。事業売却はM&Aにおける事業譲渡のスキームが、会社売却ではM&Aにおける株式譲渡のスキームが使われます。

一部を売るか全体を売るかの違いで、会社売却の方が売却金額の相場は高くなります。売却金額の決め方について、いくつか紹介しました。売却時の課税は、会社売却(株式譲渡で株主が個人の場合)は所得税と住民税、事業売却(事業譲渡)の場合は法人税と消費税が課税されるでしょう。

少しでも会社を高く売るためには、他社にはまねできない特許や技術を持ち、ある分野で市場シェアがとても高い特徴を持つと良いです。その他にも人材や経営理念などが、会社売却の価格を左右する要素になり得ます。

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