2025年07月16日更新
業務提携と資本提携の違いとは?メリット・デメリット、契約のポイントを解説
業務提携は、他社と協力して事業成長を目指す有効な手段です。本記事では、資本提携やM&Aとの違いを明確にし、業務提携のメリットや契約時の注意点を解説します。
目次
1. 業務提携とは?資本提携やM&Aとの基本的な違い
業務提携は大企業・中小企業問わずよく行われるものなので、会社経営者ならある程度内容を理解しているでしょう。
しかし、業務提携の手法はとても幅広いので、全体像まで把握している人は多くないかもしれません。また、資本提携やM&Aなど、似た用語との違いの理解があいまいなこともよくあります。
そこでまずこの章では、業務提携とは何か、資本提携やM&Aとは何が違うのかといった、基本事項を解説していきます。
業務提携の定義と目的
業務提携とは、複数の企業が互いの経営資源(技術、人材、販売網など)を持ち寄り、協力して事業活動を行うことです。資本の移動を伴わず、各企業の独立性を維持したまま、特定の業務範囲で協力関係を築くことでシナジー効果の創出を目指します。
事業全体の包括的な協働ではなく、生産や販売、研究開発など特定の分野に限定して協力するケースが一般的です。
資本提携との違い|資本業務提携も解説
資本提携とは、企業同士が経営権を取得しない範囲で資本関係を持つことです。
資本関係を持つとは、どちらかの企業が相手企業の株式を保有する、またはお互いの株式を持ち合うことです。
資本提携はM&Aと違い経営権の取得は行わず、お互いの企業の独立性は維持します。よって、株式の取得割合は1%から33%くらいになるケースが多いです。
業務提携は資本の移動を伴わない点で、資本提携とは根本的に異なります。資本提携は、業務上の協力関係をより強固なものにするため、または将来的なM&Aへの布石として、一方の企業が相手企業の株式を取得したり、互いに株式を持ち合ったりする手法です。
なお、両者を組み合わせた「資本業務提携」は、資本関係を構築しつつ具体的な業務でも協力するもので、単なる業務提携よりも強固で長期的な関係構築を目的とする場合に選択されます。
資本業務提携については、下記の記事でも紹介しています。あわせてご覧ください。
M&A(買収・合併)との違い
M&Aは、株式譲渡や事業譲渡による「買収」や、企業同士が一つになる「合併」を通じて、経営権の移転や組織再編を行う手法です。企業の独立性を維持する業務提携とは異なり、M&Aでは一方の企業が他方を支配下に置くか、統合により一体化する点が大きな違いです。
ただし、業務提携や資本提携は、本格的なM&Aの前段階として、協力関係の相性を見るために活用されることもあります。これらは協力関係を築くという広い意味で「広義のM&A」に含まれる場合があります。
業務委託との違い
業務委託とは、生産や販売などの業務を他の会社や個人に委託することです。業務提携はお互いの企業が協働するのに対して、業務委託は協働ではなく発注者と受注者の関係である点が違います。
業務提携と業務委託という用語も、厳密な定義で明確に分けられているわけではなく、業務提携でも実態は業務委託に近い形態もあります。
2. 業務提携の主な4つの類型
業務提携で協働する業務の種類は、販売・生産・開発が多く、主な類型としては販売提携・技術提携など以下の4つがあります。
ただし、業務提携は当事者同士が合意すればどのような業務でも提携することが可能で、実際はこれら以外の類型も存在します。
【業務提携の主な類型】
- 販売提携
- 技術提携
- 共同開発提携
- 生産提携
1.販売提携
販売提携とは、自社製品の販売を他の会社に行ってもらうことです。販売に強い企業と提携することで、製品をより効率的に流通させることができます。
販売提携は契約の形態によって、販売店契約・フランチャイズ契約・代理店契約の3種類に分類されます。
【販売提携の種類】
- 販売店契約
- フランチャイズ契約
- 代理店契約
①販売店契約
販売店契約とは、販売店がメーカーから商品を仕入れて販売する契約です。
メーカーは販売店への売却代金が利益となり、販売店は商品を顧客に販売した価格と、仕入れ時にメーカーに支払った代金の差額が利益になります。
販売店契約では、たとえメーカーの商品でも、顧客と売買契約を結ぶのはメーカーではなく販売店となるのが特徴です。
商品の価格設定や在庫管理なども販売店が行い、商品の不具合などに対する対応も原則として販売店が対応します。
②フランチャイズ契約
フランチャイズ契約とは、本部企業の商品や経営ノウハウなどを加盟店に提供し、加盟店は対価として本部にロイヤリティを支払う契約です。コンビニや飲食チェーンなどでよく利用されています。
FC(フランチャイズ加盟店)の事業譲渡・事業売却については、下記の記事でも紹介しています。あわせてご覧ください。
③代理店契約
代理店契約とは、メーカーの商品の販売を代理店が請け負う契約です。代理店は商品を仕入れないのが販売店契約との違いで、あくまで販売の業務を代行するのみの関係となります。
よって、代理店契約では顧客との売買契約はメーカーが直接結び、販売価格や在庫管理なども原則としてメーカー側が行います。
2.技術提携
技術提携とは、製造や開発などの技術に対する業務提携のことです。お互いの技術を活用し合う形態と、一方の企業が技術を提供する形態があります。
一方の企業が技術を提供するケースでは、提供を受けた側が対価として技術の使用料を支払います。
3.共同開発提携
共同開発提携とは、複数の企業や機関が協力して製品や技術を開発することです。共同開発では普通はお互いの技術を提供し合うので、分類としては技術提携の一種だともいえます。
共同開発提携は民間企業同士で行うこともありますが、大学や研究機関と提携することも多いです。
4.生産提携
生産提携とは、自社の製品の生産を他の企業に委託することです。
委託する企業が製造方法などについて指示を出し、受託側がそれに従って製造するのが典型的な方法で、これは「OEM(Original Equipment Manufacturing)」と呼ばれます。
他には、受託側が主体的に開発・製造した製品を、委託側のブランドをつけて売るという形態もあり、これは「ODM(Original Design Manufacturing)」といいます。
5.その他
その他の業務提携としては、材料の仕入を共同で行う調達提携や、材料や商品の配送を共同で行う物流提携などがあります。
調達提携はスケールメリットによるコストダウンが期待でき、物流提携は物流ルートの共有による効率化およびコストダウンが見込めます。
アライアンスについては、下記の記事でも紹介しています。あわせてご覧ください。
3. 業務提携の4つのメリットと2つのデメリット
業務提携はM&Aに比べるとハードルが低いので、よく検討せずに行って失敗するケースが多いといわれています。
よって、業務提携を行う際はメリットとデメリットを理解して、メリットが大きいと判断した時にのみ実行することが大切です。
4つのメリット
業務提携のメリットは、販売提携・技術提携などの類型によって大きく変わってきます。よって、業務提携のメリットについて考える時は、類型ごとのメリットを理解しておくことが大切です。
①販売提携を活用するメリット
販売提携で販売を委託する側のメリットは、自社にない販売網を活用できることです。
特に、中小企業・ベンチャー企業は、独自の魅力を持つ商品があるのにそれをうまく流通できていないケースがあるので、販売提携が有力になることが多いといえます。
また、大企業が海外の販路を手早く獲得したい時に、海外企業と販売提携するのも有力です。
受託する側としては、自社にない魅力を持つ商品を販売でき、売り上げを伸ばせるメリットがあります。
②技術提携を活用するメリット
技術提供を受ける側は、自社にない技術を活用できるのがメリットです。自社にない技術の活用は製品開発を促進させ、開発期間とコストの節約につながります。
提供する側は、ライセンス料を獲得できるなどのメリットがあります。特に、自社でほとんど活用できていない技術を他の企業に提供すれば、知的財産を有効活用できます。
③共同開発提携を活用するメリット
共同開発提携は、自社にない技術をお互い提供し合うことで、自社単独では開発できない製品・技術を生み出すことができます。
また、開発が失敗した時の損失も両社で分け合うことになるので、リスクヘッジになる意味合いもあります。
④生産提携を活用するメリット
製品開発力はあるが十分な規模の工場を持っていない企業は、工場を持つ企業と生産提携することで手早く生産力を獲得できます。
受注側としては、工場の稼働率を手早く上げられるのがメリットです。
2つのデメリット
業務提携を検討する際は、デメリットも踏まえて判断しなければなりません。主なデメリットとしては、資源や情報の流出リスク、関係の希薄化や自然消滅のリスクがあります。
【業務提携のデメリット】
- 経営資源や情報が流出するリスク
- 提携関係が希薄化したり自然消滅したりする可能性
①経営資源や情報が流出するリスク
業務提携では、自社の重要な技術やノウハウ、顧客情報などを提携先に開示する必要があります。そのため、情報が外部に漏洩したり、提携の目的外で利用されたりするリスクは常に伴います。
このリスクを管理するため、提携開始前に秘密保持契約(NDA)を締結し、情報の取り扱い範囲や責任の所在を明確に定めておくことが不可欠です。
②提携関係が希薄化したり自然消滅したりする可能性
業務提携は資本的な拘束力がないため、期待した成果が出ない場合や、担当者の異動などをきっかけに、協力関係が形骸化・自然消滅してしまうことがあります。
これを防ぐには、契約時に提携の目的や目標(KPI)を具体的に定め、定期的なミーティングやレポーティングの実施を義務付けるなど、コミュニケーションを維持する仕組みを構築することが重要です。
4. 業務提携を成功に導くための3つのポイント
業務提携を成功させ、期待するシナジー効果を得るためには、事前の準備と計画が重要です。特に以下の3つのポイントは必ず押さえておきましょう。
1. 提携の目的とゴールを明確にする
なぜ業務提携を行うのか、提携を通じて何を達成したいのか、その目的と具体的なゴールを明確にすることが成功の第一歩です。売上向上、コスト削減、開発期間の短縮など、具体的な数値目標(KPI)を設定し、両社で共有することで、取り組みの方向性がぶれにくくなります。
2. パートナー企業を慎重に見極める
提携によって本当にシナジー効果が見込めるのか、相手企業の経営理念や企業文化、事業に対する姿勢が自社と合致するかを慎重に見極める必要があります。また、相手企業の財務状況やコンプライアンス体制も事前に調査し、信頼できるパートナーかどうかを多角的に評価することが大切です。
3. 緻密なコミュニケーション計画を立てる
提携関係を円滑に維持するためには、緻密なコミュニケーション計画が欠かせません。担当者レベルでの日常的な連携はもちろん、経営層も含めた定期的な進捗確認会議の場を設けるなど、意思疎通を図る仕組みを構築しましょう。問題が発生した際の報告ルートや意思決定のプロセスを事前に決めておくことも重要です。
5. 業務提携契約における類型ごとの主な条項と検討事項
業務提携を行う際は当事者同士で契約を締結しますが、生産提携・技術提携など類型ごとに記載すべき事項が変わってきます。
業務提携契約を締結する際は、類型ごとの条項と検討事項を把握して、適切な内容の契約書を作成することが大切です。
販売提携契約の場合
販売提携契約では、販売権の範囲や最低取引数量など、以下のような項目が重要になります。もちろん、実際の契約ではこれ以外にも記載する項目はあります。
【販売提携契約の主な条項と検討事項】
- 販売権の独占性および範囲
- 最低取引数量
- 販売提携の形式
- 販売促進方法およびコスト負担
- 競業避止
①販売権の独占性および範囲
販売権を独占的にするかどうかは、販売提携契約の重要な争点となります。
なぜなら、販売を委託する側は独占権を与えないほうがメリットがあるのに対して、受託側は独占権を得たほうが得という、利益相反の関係があるからです。
独占性をどの程度持たせるべきかはケースバーケースなので、当事者同士が納得できる条件を交渉していく必要があります。
②最低取引数量
販売提携では、最低これだけは販売してほしいという、最低取引数量を受託側に課すことが多いです。最低取引数量を下回った場合に受託側にペナルティを課すことで、委託する側はリスクヘッジできます。
ペナルティを課すのは厳しすぎる場合は、単なる努力義務として締結することも可能です。
最低取引数量は基本的には委託側のリスクヘッジを目的としますが、最低取引数量を上回った場合にインセンティブをつけることもあり、受託側にとってもメリットがある場合があります。
③販売提携の形式
販売提携には販売店契約・代理店契約・フランチャイズ契約があり、それぞれ仕組みが全く違います。販売提携契約を結ぶ際は、どの形式で提携するのか明記しなければなりません。
④販売促進方法およびコスト負担
提携後のトラブルを避けるためには、どのように販売を促進していくのか、コストはどちらの企業が負担するのかなどを、販売提携契約に明記しておく必要があります。
委託側は販売を受託側に丸投げするのではなく、必要に応じて適切な協力を行う必要がありますし、他には販売結果を定期的に報告することなど、できるだけ具体的な販売促進方法を契約条項に盛り込んでおきましょう。
コスト負担に関しては、どの業務で発生したコストをどちらが負担するかについて、できるだけ詳細に決めておくことが大切です。
⑤競業避止
受託側が、委託側が提供する商品の類似商品を販売してしまうと、委託側が不利益を被る可能性があります。類似商品の販売によって不利益を被ると考えられる場合は、契約時に競業避止義務を課すのが一般的です。
ただし、類似商品が非常に多く競業避止義務を課すのが現実的でない場合などは、契約に盛り込まない選択肢も考えられます。
M&Aの競業避止義務については、下記の記事でも紹介しています。あわせてご覧ください。
技術提携契約の場合
技術提携契約の場合は、主に以下のような条項と検討事項を考えていくことになります。
【技術提携契約の主な条項と検討事項】
- 技術の範囲および用途
- 使用権の独占性
- 使用料
- 技術に関する保証
- 特許や商標の有効性に関する保証
- 改良技術の取り扱い
- 秘密保持および流用防止
①技術の範囲および用途
技術提携は技術が流出しないことが非常に重要なので、使用できる技術の範囲と用途を明確に定めておく必要があります。
技術提携は、必ずしも特許のようにはっきり決まった技術を提供するわけではなく、範囲が明確でないノウハウなどを提供することもあります。
こういった範囲の分かりづらい技術・ノウハウに関しては、特に慎重に範囲と用途を定めておかないと、お互いの解釈の違いなどによる意図しない流出が起こる危険性もあるので注意が必要です。
②使用権の独占性
技術提携も販売提携と同様に、提供する技術の独占性について契約で明記しておく必要があります。提供する側は独占性がないほうが有利で、受託する側は独占的なほうが有利という利益相反があるのも同様です。
技術を一方的に提供するライセンス契約でも、独占性を持たせず契約することは可能です。独占性のないライセンス契約なら、複数の企業と業務提携してより多くのライセンス料を得ることもできます。
③使用料
ライセンス契約の使用料は、支払いの形式によって主に以下の4つに分類されます。この中からどの使用料が発生するのかを、契約時にしっかり定めておくことが重要です。
【ライセンス契約の使用料の種類】
- イニシャルペイメント
- ランサムペイメント
- ミニマムロイヤリティ
- ランニングロイヤリティ
イニシャルペイメント
イニシャルペイメントとは頭金のことで、契約締結時にライセンス使用者が提供者に一定額を支払います。契約締結までにかかったコスト回収、情報開示リスクに対するヘッジなどの意味合いがあります。
ランサムペイメント
ランサムペイメントとは、ライセンス料の一括支払いのことです。ライセンスを提供する側としては、不払いなどのリスクをヘッジできるメリットがあります。
ライセンス使用者にとっては、使用時にまとまった資金が必要になるのがデメリットです。しかし、一旦使用料を回収してしまえばその後は全て利益になるので、有利な面となる場合もあります。
ランニングロイヤリティ
ランニングロイヤリティとは、提供した技術を使って製造した製品数や販売数、売上高などに比例して課す使用料です。
最初に多額の支払いがあるランサムペイメントに比べると、ライセンスを使用する側にとって受け入れやすい形態だといえます。
ミニマムロイヤリティ
ミニマムロイヤリティとは、ランニングロイヤリティに設定する最低使用料のことです。
ランニングロイヤリティでは、製造数や売上高が非常に少ない場合、ライセンス提供側がほとんど利益を得られないことになります。
こういったリスクを避けるため、ランニングロイヤリティと一緒にミニマムロイヤリティを設定することが多いです。
④技術に関する保証
技術に関する保証とは、提供された技術が、使用者側の想定と大きく違わないことを保証するものです。
交渉時は良い技術だと思って契約したが、いざ使ってみると思っていたのと違っていたなどのトラブルを避けるために、ライセンス使用者が要求することがあります。
⑤特許や商標の有効性に関する保証
特許や商標はたとえ契約時には登録されていたとしても、類似した特許・商標の所有者から訴えられるなどのトラブルで、業務提携締結後に有効性が消滅することもあり得ます。
こういったトラブルを避けるために、例えば契約時点で特許・商標に関する訴訟を抱えていないことを保証するなど、有効性を担保する条項を設けることがあります。
⑥改良技術の取り扱い
技術提携では、提供した技術を使用者側がより良い技術に改良したり、新技術を生み出したりすることがあります。よって、この改良技術や新技術の所在を、契約時点で明確にしておかなければなりません。
改良技術・新技術を一方的にライセンス提供者のものにするといった、ライセンス使用者にとって不利な契約は、独占禁止法違反で無効になる可能性もあるので注意が必要です。
⑦秘密保持および流用防止
技術提携は他社に自社の重要な技術・ノウハウの情報を提供するので、秘密保持と流用防止の条項は契約に必ず盛り込んでおかなければなりません。
提携解消後に情報を返還および破棄する、提携解消後も一定期間は秘密保持義務が継続するなど、トラブルが起こらないように適切な条項を設けます。
秘密保持契約(NDA/CA)については、下記の記事でも紹介しています。あわせてご覧ください。
共同開発提携契約の場合
共同開発提携契約では、以下のような条項と検討事項を考慮して内容を決めていきます。
【共同開発提携契約の主な条項と検討事項】
- 開発対象および目的
- 業務および費用の分担
- 成果の帰属と利用
- 研究開発における制限
①開発対象および目的
共同開発提携では、共同開発によって何の製品を作るのか、その目的は何かを明確にしておく必要があります。
ただし、契約締結時点では開発対象と目的を確定できないこともあるので、その場合は現時点で確定している内容を記載しておきます。
②業務および費用の分担
共同開発提携では、お互いの企業がどの業務と費用を担うのかを明確にしておく必要があります。
共同開発提携の形態はさまざまで、業務を分担する場合もあれば、片方が資金やノウハウを提供し、他方がそれを利用して開発や製品化を行うケースもあります。
分担する業務と費用について、現時点で確定している部分をできるだけ詳しく記載しておきましょう。
③成果の帰属と利用
開発した製品や技術をどちらの企業のものとするかは、共同開発提携で非常に重要な点です。お互いが納得できる条件を交渉し、トラブルがないように規定しておく必要があります。
成果を共有するのか、どちらか片方の帰属とするのか、共有する場合は持分割合をどうするのかなどを定めます。
④研究開発における制限
共同開発提携で得た相手企業の技術・ノウハウを使って、類似製品の開発などを行うと相手企業の不利益になるので、これを制限する条項を記載しておきます。
生産提携契約の場合
生産提携契約では、以下のような条項と検討事項を考慮して契約内容を定めていきます。
【生産提携契約の主な条項と検討事項】
- 受発注・納入・支払い
- 原材料の調達および生産方法
- 商標表示方法、流用禁止
- 品質保証に関する事項
- 利用者からの訴えへの対応
①受発注・納入・支払い
生産する商品の受発注量、納入形式、代金の支払い方法などについて、契約時点で確定している事項を記載します。
価格や受発注量は契約時点で確定していないことが多いので、契約書には現時点で分かっている部分だけ書いて、詳細は実際に受発注や販売を行う時に発注書などで確定させます。
②原材料の調達および生産方法
原材料は何を使用して、どのような方法でどらくらい調達するのか、および生産方法について契約時点で分かっている事項を記載します。
③商標表示方法、流用禁止
発注者側の商標を使う場合、その商標を商品どの部分に表示するのか、位置や大きさなどを指定します。また、発注した商品以外に商標を流用しない旨も記載します。
④品質保証に関する事項
生産提携では発注者の製品の製造を他社が行うので、発注者が望む品質の製品を納入するように保証してもらう必要があります。
発注書にきちんと従って製造することに加えて、それ以外に要求したいものがあれば別途記載します。
⑤利用者からの訴えへの対応
もし、生産提携で販売した商品に何か不具合があり、利用者から苦情や訴訟などがあった場合の対応方法について、契約時点で規定しておく必要があります。
生産提携では原則として発注者が対応することになりますが、受注者側に問題があった場合の受注者の責任範囲などを決めておかないと、後でトラブルになる恐れもあります。
6. 業務提携が行われた事例
最近行われた業務提携・資本業務提携の中から、最新の事例や有名な事例として以下の8例を紹介します。
【業務提携が行われた事例】
- インテックとブルーイノベーションの資本業務提携
- SOMPO Light VortexとACESの資本業務提携
- あいホールディングスと伊Matica Fintech社の資本業務提携
- 楽天と日本郵便の資本業務提携
- ファミリーマートとTOUCH TO GOの資本業務提携
- スギホールディングスと台湾大手ドラッグストアチェーンの業務提携
- 日本気象協会と伊藤忠商事の業務提携
- 厚生労働省・武田薬品工業と米Novavax社・Moderna社の業務提携
1.インテックとブルーイノベーションの資本業務提携
2022年5月に、株式会社インテックとブルーイノベーション株式会社が資本業務提携を締結しました。
本件は、ブルーイノベーションのドローン・ロボットの技術・ノウハウと、インテックのITプラットフォームを活用した共同開発提携です。
ドローンやロボットを使ったDXソリューションの構築を目的とし、スマートシティの実現へ向けた貢献も目指します。
2.SOMPO Light VortexとACESの資本業務提携
2022年5月に、SOMPO Light Vortex株式会社と株式会社ACESが資本業務提携を締結しました。
本件は、ACESが持つ映像・音声などの構造化技術と、SOMPO Light Vortexが持つAIなどの研究開発技術を活用した共同開発提携です。
両社は以前からモビリティデータに関する事業で協働していましたが、今回の資本業務提携によりモビリティ関連の新規事業進出を目指します。
3.あいホールディングスと伊Matica Fintech社の資本業務提携
2022年5月に、あいホールディングス株式会社が、イタリアのMatica Fintec社と資本業務提携を締結しました。
さらに、あいホールディングスのグループ企業である、米Card Technology社と英NBS Technologies社の株式を、Matica Fintec社が取得します。
Matica Fintec社とCard Technology社・NBS Technologies社は、金融機関や政府機関向けのカード発行などを手がける企業で、本件は製品開発の共同化を目指した共同開発提携です。
Matica Fintec社の米国や英国での基盤強化に加えて、あいホールディングスを通して日本国内でMatica Fintec社製品の販売を促進していく効果も期待できます。
4.楽天と日本郵便の資本業務提携
2021年3月に、楽天株式会社と日本郵政株式会社・日本郵便株式会社が資本業務提携を締結しました。
本件は、物流DXプラットフォームの開発を目指す共同開発提携に加えて、共同の物流拠点や配送システムの構築など、特定の類型にとどまらない包括的な業務提です。
配送システムなどに関するシナジー効果に加えて、日本郵便は楽天のIT技術やノウハウの活用、楽天は日本郵政からの資本提供によるモバイル基地局設置費の調達といった効果もあります。
5.ファミリーマートとTOUCH TO GOの資本業務提携
2021年3月に、株式会社ファミリーマートと株式会社TOUCH TO GOが資本業務提携を締結しました。
本件は、TOUCH TO GOの無人決裁店舗システムをファミリーマートに導入するのが主な目的で、TOUCH TO GOによる技術提携の側面が強いといえるでしょう。
近年売り上げが伸び悩んでいるファミリーマートとしては、無人店舗によるコスト削減が期待でき、TOUCH TO GOは、無人決裁店舗システムの主要な販売先を確保できるメリットがあります。
6.スギホールディングスと台湾大手ドラッグストアチェーンの業務提携
2020年11月に、スギホールディングス株式会社が、台湾のドラッグストアチェーン「Great Tree Pharmacy社」と業務提携を締結しました。
Great Tree Pharmacyの店舗にスギ薬局のコーナーを設ける販売提携を中心に、スギ薬局の陳列・販売方法などを提供する技術提携、およびスギ薬局のロゴ使用を許諾するライセンス契約も行います。
スギ薬局の海外での事業拡大の足がかりとし、将来的には東南アジアへの進出も目指すとしています。
7.日本気象協会と伊藤忠商事の業務提携
2020年11月に、伊藤忠商事株式会社と一般財団法人日本気象協会が業務提携を締結しました。
本件は、日本気象協会のデータ解析技術と、伊藤忠商事のアパレル業界でのネットワークを活用し、アパレル業界向けの需要予測システムの開発を目指すものです。業務提携の類型としては、技術提携・共同開発提携に分類できます。
需要予測システムの活用により、アパレル業界が適切な発注量を設定できるようになれば、過剰在庫による無駄なコストの削減効果が見込めます。
8.厚生労働省・武田薬品工業と米Novavax社・Moderna社の業務提携
2020年10月に、厚生労働省・武田薬品工業株式会社と米Novavax社・米Moderna社が、新型コロナワクチンの日本での供給に関する業務提携契約を締結しました。
本件は、Novavax社とModerna社が販売するワクチンを、厚生労働省と武田薬品工業が購入する契約なので、類型としては販売提携の一種となります。
7. 業務提携の実行・解消フェーズにおける注意点
業務提携はM&Aに比べて手軽に契約できる反面、実行時や解消時にトラブルが起こりやすい面もあります。業務提携をうまく経営に生かすためには、実行時や解消時の注意点を押さえておくことが不可欠です。
業務提携の実行時の注意点
業務提携実行時の注意点としては、業務スケジュールの共有と情報交換、キーパーソンの異動に伴う希薄化の2点があります。
【業務提携実行時の注意点】
- 業務スケジュールの共有と情報交換
- キーパーソンの異動に伴う希薄化に注意する
①業務スケジュールの共有と情報交換
業務提携は資本関係のない会社同士が協働していかなければならないので、業務スケジュールの共有や情報交換をしっかり行う必要があります。
定期的な合同ミーティングを開催するなど、どのような形でスケジュール共有および情報交換していくのかを、契約の時点でできるだけ明確に決めておくことが大切です。
②キーパーソンの異動に伴う希薄化に注意する
業務提携は資本関係がないので、業務提携のキーパーソンが異動すると突然関係が希薄化し、自然消滅することがあります。
よって、業務提携ではできるだけ属人的な要素を排除して、キーパーソンが異動しても連携が維持できるシステムを構築することが重要です。
業務提携の解消時の注意点
業務提携解消時には、契約解除や更新拒否への対応、在庫処分、設備や雇用の処理に特に注意する必要があります。
【業務提携解消時の注意点】
- 契約解除や更新拒否への対応
- 商品や材料の在庫処分
- 設備・雇用の処理
①契約解除や更新拒否への対応
業務提携はM&Aと違って最終的には契約終了することになるので、契約解除や更新拒否への対応の仕方を明確にしておくことが大切になります。
特に、何らかの理由で一方の企業だけが解除・更新拒否をしたい状況になった時に、どのように解決すべきかはっきり決めておく必要があります。
②商品や材料の在庫処分
業務提携終了時に残った商品や材料の在庫処分について、契約時に明確な規定を設けておく必要があります。
例えば、在庫処分の責任の所在をはっきりさせる、残った商品を提携終了後も販売できる期間を定める、といった規定を設けることが考えられます。
③設備・雇用の処理
業務提携のために増設した設備や増員した雇用を、解消後にどのように処理するかも重要な点です。
特に、雇用は提携が終わったからといって簡単に解雇することはできないので、増員する場合は提携終了後の雇用維持についても考えておかなければなりません。
8. 業務提携を円滑に進めるためには
業務提携を円滑に進めるためには、専門家のサポートを得ることが不可欠です。
サポートを受ける専門家としては、業務提携に詳しい弁護士などが考えられますが、資本業務提携や将来的なM&Aを見据えている場合は、M&A仲介会社に相談するという選択肢もあります。
M&A総合研究所は、中堅・中小企業のM&A・事業承継を専門に扱う仲介会社です。豊富な支援実績を持つM&Aアドバイザーが、業務提携や資本提携、M&Aといった選択肢の中から、貴社の課題解決に向けた最善の戦略を共に模索し、フルサポートします。
まだ方針が固まっていない段階でのご相談も歓迎しております。相談料は無料で、料金体系は成約まで費用が発生しない「完全成功報酬制(※譲渡企業様のみ)」です。まずはお気軽にお問い合わせください。
9. まとめ
業務提携は、販売・技術・生産など、目的応じて多様な形態が存在します。それぞれの特徴やメリット・デメリットを正しく理解し、自社の戦略に合った手法を選択することが重要です。
また、資本提携やM&Aとは異なり、資本的な拘束力がないため、関係が希薄化しやすいといった特有のリスクも存在します。成功のためには、明確な目的意識とパートナー企業との良好なコミュニケーションが不可欠です。
【業務提携の主な類型】
- 販売提携
- 技術提携
- 共同開発提携
- 生産提携
【販売提携の種類】
- 販売店契約
- フランチャイズ契約
- 代理店契約
【業務提携のデメリット】
- 経営資源や情報が流出するリスク
- 提携関係が希薄化したり自然消滅したりする可能性
【販売提携契約の主な条項と検討事項】
- 販売権の独占性および範囲
- 最低取引数量
- 販売提携の形式
- 販売促進方法およびコスト負担
- 競業避止
【技術提携契約の主な条項と検討事項】
- 技術の範囲および用途
- 使用権の独占性
- 使用料
- 技術に関する保証
- 特許や商標の有効性に関する保証
- 改良技術の取り扱い
- 秘密保持および流用防止
【ライセンス契約の使用料の種類】
- イニシャルペイメント
- ランサムペイメント
- ミニマムロイヤリティ
- ランニングロイヤリティ
【共同開発提携契約の主な条項と検討事項】
- 開発対象および目的
- 業務および費用の分担
- 成果の帰属と利用
- 研究開発における制限
【生産提携契約の主な条項と検討事項】
- 受発注・納入・支払い
- 原材料の調達および生産方法
- 商標表示方法、流用禁止
- 品質保証に関する事項
- 利用者からの訴えへの対応
【業務提携実行時の注意点】
- 業務スケジュールの共有と情報交換
- キーパーソンの異動に伴う希薄化に注意する
【業務提携解消時の注意点】
- 契約解除や更新拒否への対応
- 商品や材料の在庫処分
- 設備・雇用の処理
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