2022年09月12日更新
経営資源集約化税制とは?仕組み、注意点、中小企業がM&Aで活用するメリットを専門家が解説
経営資源集約化税制は、主に中小企業のM&Aを実施する際に活用できるものです。生産性向上や税控除が受けられる点など、さまざまなメリットがあります。本記事では、経営資源集約化税制の仕組みや目的、中小企業がM&Aで制度を活用するメリットなどを解説しましょう。
目次
1. 経営資源集約化税制とは
2019年12月から、新型コロナウイルス感染症が世界各国に猛威を振るっています。国は、コロナ禍でも事業承継・M&Aを円滑に行えるよう、さまざまな支援制度を設けています。「経営資源集約化税制」もその一つです。
経営資源集約化税制は、中小企業が活用することによって、M&A実施後の経営を安定しやすくするのが目的です。中小企業等経営強化法に基づく支援措置として、2020年12月に制定されました。
経営資源集約化税制のポイント
経営資源集約化税制のポイントとして押さえておきたいのは、株式取得価格と準備金の扱い、対象となる買い手要件の3つです。ここでは各ポイントをそれぞれ見ていきます。
準備金の積み立てによって株式取得価格の一部を損金算入できる
M&Aを実施する際は株式の取得を伴うことが多いです。今まで、株式取得の費用を必要経費(損金)として計上することは認められていませんでした。
経営資源集約化税制では、株式取得のために積み立てを行うことで、取得価格の一部を必要経費(損金)として計上できます。株式取得に充てる予定であった資金を、M&A実施後の運転資金などに回せるため、M&A実施後のリスクを最小限に抑えられるでしょう。
株式取得のための準備金は、投資金額の7割以下の金額を5年間据置期間付きで積み立てた場合に適用されます。M&Aのリスクを考えて慎重に行動する中小企業がほとんどなので、積極的に活用したい制度といえるでしょう。
準備金の取崩しは益金算入できる
M&Aにおいて株式取得が必要な場合、準備金の積み立てを行う中小企業も多いでしょう。このようなケースでは、株式を保有しなくなった場合あるいは株式の帳簿価額を減額した場合は、準備金の取崩しを益金算入できます。
益金算入とは、企業会計上の収益と計上されないものの、法人税法上益金と計上するものです。積み立てから5年間が経過すると、準備金は5年間で均等に益金算入可能です。
準備金の一部取崩しを行っている場合でも、積み立てた準備金が残っているのであれば、5年間で均等になるように益金算入できるでしょう。
買い手の対象要件
経営資源集約化税制では、買い手にも要件があります。対象となるのは「青色申告を行っている中小企業者」で、かつ「経営力向上計画」を作成して国の認定を受けた中小企業・資本金の額が1億円以下の法人(発行済み株式が大規模法人に2分の1以上所有されていない)です。
【買い手となる中小企業の要件】
- 年間平均取得金額が15億円以内である
- 出資金や資本金が1億円以内である
- 大規模法人に属さない青色申告を行っている法人
中小企業等経営強化法の改正実施が前提
経営資源集約化税制の適用時期は、中小企業等経営強化法の改正実施が前提です。経営資源集約化税制の目的は新型コロナウイルス感染症の影響を受け、衰退しつつある日本の中小企業のM&Aや経営安定を支援することが目的だからです。
しかし、経済産業省は従来通りではなく大きな変革が必要と考えました。中小企業がM&Aや事業承継の実施が行いやすい、または生産性の向上が図りやすいよう改正されています。
改正の実施に関する詳細は未定です。2024(令和6)年3月31日までが対象と考えられるので、それまでに経営力向上計画の認定を受けた株式等の取得を行っておくのが好ましいでしょう。
経営資源集約化税制は改正の実施が重要なポイントになるでしょう。経済産業省のサイトなどから、随時、お知らせを確認することをおすすめします。
2. 経営資源集約化税制が必要な理由・背景
経営資源集約化税制が必要な理由・背景にはどのようなものがあるのでしょうか。この章では、主な3つの理由・背景を見ていきます。
- 損金算入でM&Aによるリスクを軽減
- M&Aは中小企業の生産性アップに有効なツール
- 新型コロナウイルス拡大による影響
損金算入でM&Aによるリスクを軽減
経営資源集約化税制が中小企業経営に必要であるとされる理由は、M&Aによるリスクを軽減できることです。M&Aは買い手・売り手ともにメリットが得られますが、リスクも存在します。
売り手の場合は、デューデリジェンス調査費や買い手を探すためのサービス利用費・仲介手数料などが必要です。M&Aで必要なデューデリジェンスとは、出資を行うにあたって投資対象となる企業や投資先の価値やリスクなどを調査することを指します。
新型コロナウイルス感染症の影響もあり、将来の投資価値が見えにくくなっているといえるでしょう。M&Aに踏み切る人が少なくなっている現状です。
経営資源集約化税制を利用すれば、株式取得のための費用の一部を経費計上できます。M&Aを実施して大きく損をする状況を抑えられるでしょう。経営資源集約化税制は、このようなリスクを軽減させることによって、さらにM&Aを実施しやすくすることを目的としています。
M&Aは中小企業の生産性アップに有効なツール
M&Aや事業承継は必ずしも成功するものではありません。失敗してしまうことを恐れて、なかなか踏み出せない中小企業も多いです。
経営資源集約化税制を活用し、M&Aを実施すれば、設備投資や雇用を積極的に行えるので、生産性の向上も期待できます。今までできなかった事業展開や新しい技術・考え方の取り込みも可能になるでしょう。M&A後の新規事業が軌道に乗り、成功を手にしている中小企業も見受けられます。
実際に経済産業省が公表しているデータでは、2010年にM&Aを実施した企業と実施しなかった企業を比較したところ、5年後になる2015年には、M&Aを実施した企業の生産性が向上していた結果も出ています。
新型コロナウイルス拡大による影響
経営資源集約化税制が必要とされる背景には、新型コロナウイルス感染症の影響と2025年問題が大きく関係しています。新型コロナウイルス感染症は、日本だけでなく世界各国で猛威を振るっています。
日本は海外ほど拘束が厳しくないものの、経済面で大きな負担がかかっている状態です。中小企業も経済面の打撃が大きく、雇用や経営の継続が難しくなって会社をたたむ経営者も少なくありません。
それだけでなく、新型コロナウイルス感染症の影響とともにM&A・事業承継が失速しつつある要因として「2025年問題」があります。日本は少子高齢化といわれ、2025年には団塊の世代の経営者が70歳を迎えるタイミングになります。
多くの中小企業の経営者が、事業承継・M&Aを考えるまたは実施することを視野に入れているといえるでしょう。
【中小企業・小規模事業者の経営者の2025年における年齢】
70歳未満 | 約136万人 |
70歳以上 | 約245万人 |
上の表からもわかるように、70歳以上になる人数は70歳未満の約2倍になっています。しかし、2025年に70歳以上になる中小企業の経営者245万人中127万人が後継者未定です。127万人中約半数近くが黒字であるにもかかわらず、廃業を検討している状態です。
このように廃業を考えている経営者を減らせるように、M&Aを行いやすい経営資源集約化税制などの制度が設けられています。
3. 経営資源集約化税制を中小企業がM&Aで活用するメリット
中小企業の事業承継・M&Aはリスクなどを考えるとなかなか踏み出せない経営者は多いです。しかし、税制を活用することで多くのメリットが得られるため、該当する中小企業者は確認しておきましょう。
- 設備投資の税控除が受けられる
- 従業員給与の増額で税控除が受けられる
- キャッシュフローの改善に期待できる
設備投資の税控除が受けられる
経営資源集約化税制は2023年(令和3年)3月31日までの間であれば、M&Aに関する設備投資の税控除を受けられます。設備投資の税控除対象となるのは、即時償却または取得価額の10%(資本金3,000万~1億円の法人は7%)です。
ただし、税控除を受けるには、中小企業等経営強化法の認定を受け、経営力向上計画に基づいて一定の設備を新規取得することが条件となっています。中小企業経営強化税制とは、中小企業等経営強化法に基づく支援措置の一つです。
当初は2021年まででしたが、2年延長されています。新型コロナウイルス感染症の影響が長引く恐れもあるため、期限がさらに伸びる可能性も考えられるでしょう。
経済産業省が令和2年9月に公表した「令和3年度税制改正に関する経済産業省要望【概要】」は以下のとおりです。
経済産業省「令和3年度税制改正に関する経済産業省要望【概要】」
出典:https://www.meti.go.jp/main/zeisei/zeisei_fy2021/zeisei_r/pdf/1_02.pdf
従業員給与の増額で税控除が受けられる
従業員の給与を増額させると会社の利益は当然減ることになるので、ためらってしまう経営者も多いのではないでしょうか。中小企業等経営強化法では、経営資源集約化税制とともに所得拡大促進税制があります。
従業員に対する支給額の増額があった場合、増額分の一部を税額控除できる制度です。適用されるには、前年度の雇用者給与等支給額に対して、適用する年度の従業員に支給する額が101.5%である必要があります。
改正前の段階では継続している従業員が対象でした。この改正により、従業員全体が対象となったため、より活用しやすくなっています。大企業だけでなく中小企業も活用しやすいように改正されているため、多くの経営者にメリットがあるといえるでしょう。
キャッシュフローの改善に期待できる
早期に損金計算を行うことにより、経営状況の判断がスムーズにできるようになります。キャッシュフローの改善も期待できる点がメリットといえるでしょう。
M&Aを実施する際には判断材料があると失敗しにくく、M&A実施後の経営安定化も図りやすくなります。キャッシュフローの改善は、M&A実施時だけでなく、社内の透明化を行う際にも役立ちます。
M&Aを視野に入れている場合は、経営資源集約化税制を活用してキャッシュフローの改善も促してみるとよいでしょう。
4. 経営資源集約化税制を活用する際の注意点
前述のように、経営資源集約化税制をM&Aで活用することによって、さまざまなメリットが得られます。しかし、活用する際に注意点も存在するので、事前にしっかり把握しておくことが大切です。
- 経営力向上計画を作成して認定を受ける必要がある
- 複雑な手続き・事務処理が増える
- 適用される期間に制限が設けられている
経営力向上計画を作成して認定を受ける必要がある
経営資源集約化税制では、設備投資や従業員の給与の増額で税控除を受けられるメリットがあります。活用するためには「経営力向上計画」の作成が必須です。
手順としては、事業所管大臣に申請して認定を受けると、主務大臣から計画認定書と計画申請書の写しが交付されます。認定を受けるまでの目安は申請日から30日以内です。
しかし、申請書に不備または不⾜書類があると、さらに期間が延びる場合があります。余裕を持って申請書を提出するのが好ましいでしょう。
中小企業庁のホームページでは、経営力向上計画の作成に関する手引き・申請方法や認定後に活用できる制度などが掲載されています。経営資源集約化税制の活用を検討している場合はチェックしておきましょう。
複雑な手続き・事務処理が増える
経営資源集約化税制を受けるためには、事業所管大臣から認定を受けるための経営力向上計画の作成が必要です。しかし、難しい内容になるため、専門家とともに作成を行う経営者がほとんどです。
書類作成や専門家との連絡・事務処理などの複雑な手続き・処理が増えることになります。場合によっては、一時的に生産性が低下する可能性もあるので、余裕を持って挑むとよいでしょう。
適用される期間に制限が設けられている
最も気をつけなければならないのは、適用される期間が制限されている点です。経営資源集約化税制は2年間の延長がありましたが、令和6年の3月31日までの認定を受けた株式取得が対象です。期限が過ぎてしまうと適用されません。
しかし、中小企業等経営強化法の改正が前提になるため、変更がある場合も考えられます。期限をしっかりと確認しておくとともに、中小企業等経営強化法の改正状況もチェックしておくことが好ましいでしょう。
M&Aに関するご相談はM&A総合研究所へ
経営資源集約化税制を活用してM&Aを実施したいとお考えの場合や、後継者問題でお悩みの場合は、ぜひM&A総合研究所にご相談ください。M&A総合研究所には経験豊富なM&Aのアドバイザーが多数在籍しており、ご相談からクロージングまで専任フルサポートします。
料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談は電話またはWebより随時受け付けていますので、M&Aをお考えの際はどうぞお気軽にお問い合わせください。
5. 経営資源集約化税制が中小企業M&A市場に与える影響
2021年版「中小企業白書」の第2節に「M&Aを通じた経営資源の有効活用」がまとめられています。これによると、M&A件数は、近年増加傾向で推移しています。2019年には4,000件を超え、過去最高を記録しました。
これを見ると、2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、前年に比べ減少しました。しかし、引き続き高水準を保っているといえます。
経営資源集約化税制を活用することにより、キャッシュフローの改善や税控除のメリットを受けられることが、M&Aを検討している中小企業の一つの判断材料になり得ます。今後、この税制の活用がM&A市場に与える影響は大きいといえるでしょう。
中小企業では、主に事業承継の選択肢として、M&Aが多く活用されています。第三者に企業を引き継ぐ中小企業者と、事業を譲り受けて事業拡大を目指す中小企業者などからの相談を受け、支援する公的機関として「事業承継・引継ぎ支援センター(2020年までは事業引継ぎ支援センター)」が全都道府県に設置されています。
下記は、センターの相談者数と成約件数の推移をまとめたものです。
相談者数、成約件数ともに増加傾向といえるでしょう。このセンターだけでなく、M&A仲介会社や金融機関、税理士などがM&Aの普及に努め、中小企業も身近な存在になりつつあります。
今後も、日本経済を支える中小企業を救うためのフォローアップ体制を万全にしていくことが重要といえます。経営資源集約化税制を活用し、M&Aによる事業承継を推進していくことが望ましいでしょう。
6. 経営資源集約化税制のまとめ
経営資源集約化税制は、適用される期間が決まっており、計画書の作成などが必要になります。活用を考えている場合は、事前によく確認しておくことが大切です。
キャッシュフローの改善や設備投資・給与増額に関する税控除、M&Aに関するリスク軽減など多くのメリットがあるので、積極的に活用したい制度といえます。経営資源集約化税制の適用時期などは未定なので、経済産業省のサイトのお知らせなどを定期的にチェックしておくとよいでしょう。
【経営資源集約化税制のポイント】
- 準備金の積み立てによって株式取得価格の一部を損金算入できる
- 準備金の取崩しは益金参入できる
- 買い手となる中小企業の要件・・年間平均取得金額が15億円内、出資金や資本金が1億円以内、大規模法人に属さない青色申告を行っている法人
【中小企業が経営資源集約化税制を活用するメリット】
- 設備投資の税控除が受けられる
- 従業員給与の増額で税控除が受けられる
- キャッシュフローの改善に期待できる
【経営資源集約化税制を活用する際の注意点】
- 経営力向上計画を作成して認定を受ける必要がある
- 複雑な手続き・事務処理が増える
- 適用される期間に制限が設けられている
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