M&Aの「のれん」とは?減損の意味や償却との違い、会計・税務上の扱いをわかりやすく解説

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

M&Aのニュースで聞く「のれん」や「のれんの減損」。これらは企業の価値を正しく評価するための重要な会計処理です。本記事では、M&Aにおけるのれんの基本的な意味から、減損と償却の違い、株価への影響、税務上の注意点までを解説します。

目次

  1. のれんの減損とは
  2. のれんの減損はいつ、どのように行われるのか?
  3. のれんの減損と償却との違い
  4. のれんの減損による株価への影響
  5. のれんを減損した際の税務
  6. のれんの減損事例
  7. のれんの減損まとめ
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1. のれんの減損とは

近年では、経営戦略の一環として、M&Aが用いられることが多くなっています。M&A関連の話題が上がることも増えており、それに合わせて、のれんの減損という言葉を耳にする機会も増えました。

「のれんの減損」は、ニュアンス的にマイナス効果を含むものであることはわかりますが、具体的にはどのようなものを意味するのでしょうか。この項では、のれんや、のれんの減損の基本的な意味を解説します。

のれんとは?M&Aで発生する目に見えない価値

のれんとは、目に見えない資産価値のことを指します。M&Aで買収された企業の時価純資産評価額と実際の買収価額の差額がのれんとして計上されます。

時価純資産評価額と実際の買収価額に差額が生まれるのは、企業が持つブランド力、技術力、ノウハウ、顧客リスト、優秀な従業員といった、目に見えない資産(=無形資産)の価値が買収価格に上乗せされるためです。

これらの無形資産は、将来的に優れた収益を生み出す源泉と期待されるため、M&Aの際には高く評価されます。事業活動を行っているほとんどの会社は、何らかの無形資産を保有しているといえるでしょう。

なお、時価純資産評価額より実際の買収価額が下回ることもあります。これは負ののれんとして知られ、買収される企業が致命的なリスクを抱えているなどの原因で、マイナス評価がされるために発生する現象です。

【IFRS・日本基準】のれんの会計処理の違い

ここでは、のれんの会計基準について説明します。日本の基準と国際会計基準(IFRS)の違いに注目して読み進めてください。

日本の会計基準では、のれんは資産として計上され、20年以内のその効果が及ぶ期間にわたり、定額法や他の合理的な方法で規則的に償却されます。ただし、のれんの金額が重要でない場合には、発生した年度の費用として処理することもできます。

また、のれんは無形固定資産として表示され、その償却費用は「販売費及び一般管理費」に計上されます。

これに対して、国際会計基準(IFRS)では、原則としてのれんは償却されません。その代わり、のれんの価値が低下していないかを毎年(または兆候がある都度)チェックする「減損テスト」が義務付けられています。

減損テストの結果、買収した事業の収益性が著しく悪化するなど、のれんの価値が毀損したと判断された場合に、帳簿価額を一括で減額する「減損処理」を行います。そのため、IFRSを採用する企業は、突然の巨額な減損損失を計上するリスクを常に抱えているといえます。
 

のれんの減損処理が必要になるケース

のれんの減損とは、M&Aの際に計上したのれんの価値を正しく書き直すことです。のれんは実在する資産(=有形資産)ではないため、何かしらの原因で価値がなくなったり減少したりした場合は、正しい価値に修正しなくてはなりません。

のれんの減損が起きる端的な理由は、本来の価値より高い価額で買収したためと考えられます。高いシナジー効果を期待できる買収のため、高額資金を投じ過ぎて高値つかみとなってしまったケースです。

また、M&A後の経営統合プロセス(PMI)がうまくいかず、想定したシナジー効果を発揮できないケースも減損の引き金となります。例えば、キーパーソンの離職、組織文化の衝突による従業員のモチベーション低下、システム統合の失敗などが原因で、買収した事業の収益性が計画を大きく下回ってしまう場合です。

そのように、期待してきたのれんの価値が失われてしまったときに、のれんの減損処理を行って適正な価値へと修正します。

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2. のれんの減損はいつ、どのように行われるのか?

のれんの減損は、会計基準に沿った厳密な手続きを経て実行されます。ここでは、減損処理が行われるまでの基本的な3つのステップを解説します。

ステップ1:減損の兆候の把握

まず、保有する資産に「減損の兆候」があるかどうかを判断します。減損の兆候とは、資産の収益性が著しく低下したことを示す事象です。

  • 具体的には、以下のようなケースが挙げられます。
  • 営業活動から生じる損益が継続して赤字である
  • 使用範囲や方法について、著しく不利な変化が生じた
  • 経営環境が著しく悪化した(市場の縮小、技術革新など)
  • 市場価格が著しく下落した

ステップ2:減損損失の認識の判定

減損の兆候があると判断された場合、次に減損損失を計上すべきかを判定します。

具体的には、資産から得られると予測される「割引前将来キャッシュ・フロー」の総額と、その資産の「帳簿価額」を比較します。この比較の結果、将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合に、減損損失を認識します。

ステップ3:減損損失の測定

減損損失を認識すべきと判定されたら、実際に損失額を測定します。減損損失の金額は、「帳簿価額」と「回収可能価額」の差額です。

回収可能価額は、「正味売却価額」と「使用価値」のいずれか高い方の金額とされます。この差額を、特別損失として損益計算書に計上します。
 

3. のれんの減損と償却との違い

のれんの「償却」と「減損」は、どちらも資産価値を会計帳簿上で減少させる処理ですが、その性質は全く異なります。

償却は、のれんの効果が及ぶとされる期間(日本基準では最長20年)にわたって、計画的に費用化していく会計処理です。これは、自動車の減価償却のように、価値の減少をあらかじめ見積もって規則的に行われます。

一方、減損は、買収した事業の収益性が著しく悪化するなど、予期せぬ事態によって資産価値が大幅に下落した際に、臨時的に行われる会計処理です。償却のように計画的なものではなく、突発的な損失として扱われます。

また、償却はキャッシュの支出を伴わない費用ですが、減損は将来得られるはずだったキャッシュ・フローが失われたことを意味するため、企業の収益力低下を直接的に示すシグナルとなります。
 

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4. のれんの減損による株価への影響

のれんの減損処理を行うと、企業の資産価値を大きく引き下げることになるため、株価や株主に対する影響が懸念されます。

過去ののれんの減損事例を見ると、株価に反映されるというわけではありませんが、十分に注意しておく必要があるのは明白です。

のれんの減損は株価に影響を与える

企業がのれんの減損処理を行うと、貸借対照表に記載されているのれんの価額が引き下げられ、特別損失に計上されます。

特別損失に計上された分だけ当期の純利益が目減りするので、株価への影響が危惧されます。

株価の評価指標の一つにPER(株価収益率)があります。PERは「株価 ÷ 1株当たり純利益」で計算され、企業の収益力に対して株価が割安か割高かを判断する際に用いられます。のれんの減損によって純利益が減少すると、このPERの指標が悪化し、株価の下落圧力となる可能性があります。

ただし、株価は市場の期待や将来性、経済全体の動向など、様々な要因で決まります。減損が市場である程度予測されていた場合や、減損によって悪材料が出尽くしたと判断された場合には、株価への影響が限定的となることもあります。

実際に、パーソルホールディングスのオーストラリア子会社ののれん減損事例では、一時的に株価が急落したものの、数日後には元の水準にまで回復しています。

のれんの減損は株主にも影響を与える

のれんの減損による株主への影響とは、配当金の減少です。のれんの減損処理は、のれんの減損額と同じ分を資本から減らすことで対応するため、資本から切り崩して行われている株主への配当金も減少することを意味します。

のれんの減損が巨額になる場合は、該当期の配当金はゼロという対応を取るケースも珍しくありません。株価減少による資産価値の減少という影響も合わせて、株主への影響は大きいといえます。

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5. のれんを減損した際の税務

のれんの減損処理において最も注意すべき点の一つが、会計上と税務上の取り扱いの違いです。

会計上、のれんの減損損失は「特別損失」として費用計上されます。しかし、税務上では、この減損損失は原則として損金に算入することが認められません。

税法では、M&Aで生じたのれんを「資産調整勘定」として扱い、5年間にわたって均等償却した金額のみが損金として認められます。会計上の突発的な減損損失は、この税法上のルールとは異なるため、損金として扱われないのです。

これにより、会計上は巨額の赤字でも、税務上は黒字という状況が生まれ、利益が出ていないにもかかわらず法人税を支払わなければならないケースが発生します。これは企業のキャッシュ・フローを大きく圧迫する要因となります。

過去の減損事例のなかには、のれんの減損処理をきっかけに巨額な特別損失を計上し、経営状態が一転した企業も数多く見受けられます。

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のれんの減損リスクについても正しく把握したうえで、万全の体制でM&Aに臨み、適切なアドバイスをいたします。

料金体系は完全成功報酬制(※譲渡企業様のみ)となっており、着手金は譲渡企業様・譲受企業様とも完全無料です。

M&Aに関する無料相談は随時お受けしています。M&Aやのれんの減損についてお悩みの際は、お気軽にお問い合わせください。

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6. のれんの減損事例

のれんの減損処理が行われたM&Aは、結果的に失敗したことを意味します。この項では、のれんの減損処理が行われた事例について、以下の4件をピックアップしました。

【のれんの減損事例】

  1. ベネッセホールディングスの減損処理
  2. LIXILグループの減損処理
  3. キリンホールディングスの減損処理
  4. NTTの減損処理

①ベネッセホールディングスの減損処理

2020(令和2)年5月、ベネッセホールディングスは、2020年3月期の決算において、のれんなどの減損損失を計上すると発表しました。のれん減損の対象となった連結子会社は2社です。

1社目はBerlitz Corporationで15億8,500万円、もう1社はベネッセビースタジオで15億6,000万円の減損額となっています。どちらも理由としては、新型コロナウイルス感染症拡大による外部環境の悪化により、当初想定した収益が見込めなくなったためということです。

そして、この減損処理と合わせて両社の株式評価額も下落したとして、Berlitz Corporation213億4,900万円、ベネッセビースタジオ20億300万円の株式評価損を特別損失として計上する事態となっています。

②LIXILグループの減損処理

2014(平成26)年、LIXILグループはドイツ水栓金具大手「グローエグループ」を約4,100億円で買収しました。1月に87.5%、12月に12.5%の株式を取得して完全子会社化しています。

巨額を投じたM&Aでその後の発展が期待されてました。しかし、2015(平成27)年4月にグローエグループの中国の子会社ジョウユウでの不正会計の発覚により事態は急変しました。

グローエグループは2009(平成21)年からジョウユウに出資していましたが、主要な財務情報にアクセスできていないことをLIXILに報告していなかったのです。

調査が行われると、ジョウユウは深刻な債務超過に陥っており、関係会社投資の減損損失や債務保証関連損として総額608億円の特別損失を計上しました。

③キリンホールディングスの減損処理

2011(平成23)年、キリンホールディングスはブラジルのビール会社「スキンカリオール」を買収しました。8月に50.45%の株式を取得し、続いて11月に残りの株式を取得して完全子会社化しています。

ビール市場で中国・米国に次ぐ第3位であるブラジルへの本格進出を目的として、買収費用に約3,000億円を投じた一大事業でした。

当時のスキンカリオール(買収後、ブラジルキリンと改名)は、ブラジル国内シェア2位の大手ビール事業者です。ブラジル進出の足掛かりとして期待されましたが、ブラジル国内の景気減速や競合他社との競争激化により業績は低迷します。

キリンホールディングスが描いた成長とは反する結果となり、2015年12月期に約1,100億円の減損損失を計上して、上場以来初の最終赤字となりました。

なお、その後の2017(平成29)年4月、キリンホールディングスは、ブラジルキリンをオランダのハイネケンに770億円で売却しています。

④NTTの減損処理

2010(平成22)年10月、NTTは南アフリカのIT会社「ディメンションデータ」を約2,860億円で買収しました。

ディメンションデータは、ネットワーク機器やサーバーなどの構築・運用を中核事業としているIT大手会社です。アジア・欧米・アフリカなどで事業展開しており、6,000社を超える法人顧客を保有していました。

買収の決め手は、NTTの事業領域と補完関係にあることとしていましたが、不採算事業の改善などの課題も多かったため、2016(平成28)年12月期において488億円の減損損失を計上しています。

【関連】事業譲渡ののれんとは?税務仕訳(会計処理)、償却期間を解説

7. のれんの減損まとめ

のれんは将来的な収益価値を見込んで計上されるものですが、判断を誤ると減損処理による特別損失で経営状態が悪化することもあります。

のれんの減損を避けるためには、M&Aの段階で売却企業の価値を正しく見極めることが重要です。計画性が求められますから、専門家のサポートを受けながらM&Aを進めることをおすすめします。

【のれんの減損】

  • のれんとは目に見えない資産価値のこと
  • のれんの減損とはのれんの価値を正しく書き直すこと

【のれんの減損による株価・株主への影響】
  • 当期純利益減少による株価低下リスクがある
  • 資本金減少による配当金減少

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