2022年12月14日更新
サーチファンドとは?メリット・デメリットや仕組み、歴史を解説【実績あり】
欧米ではすでに普及しつつある「サーチファンド」の投資ファンドが、ここ数年日本でも出てきています。本記事では、サーチファンドとは何か、その仕組みや歴史、メリット・デメリット、今後の課題や事業承継への活用などを解説します。
目次
1. サーチファンドとは
サーチファンドとは、会社を買収して自らが経営者になりたい個人が、買収資金などを調達するためのファンドのことです。
成長しそうな会社を買収して成長させ利益を得る点ではPEファンドと似ていますが、サーチファンドは基本的に個人が行うものである点や、買収資金以外に買収企業探しの資金も提供する点などが違います。
個人M&Aとも似ているようにみえますが、個人M&Aは自己資金でスモールM&Aを行うことをさすのに対して、数億円程度のM&Aを実施し、イグジットを目指すのがサーチファンドです。
日本において、サーチファンドはまだなじみの薄いM&Aの形態ですが、アメリカではすでに成功事例が多数あり、日本でも今後普及していくと考えられます。
サーチファンドの歴史
サーチファンドは、1980年代にアメリカで始まったM&Aの形態です。ビジネススクールの卒業生など起業を目指す若者のなかには、会社を経営したいけれどゼロから起業する能力が乏しい、または興味がない人もいます。
こういった、既存の事業を改善・成長させることに興味がある、または秀でている人が能力を発揮できる枠組みとしてサーチファンドが生まれました。
サーチファンド誕生後、2005年くらいまでは年に数件設立される程度の状態が続きましたが、その後設立数が増えて年に数十件程度のサーチファンドが誕生しています。
日本におけるサーチファンドは2022年現在も非常に少ない状況ですが、2018年からサーチファンドを手がける業者が出てきており、今後件数が増えてくるものと考えられます。
2. サーチファンドの仕組み
ここでは、サーチファンドの仕組みを解説します。
サーチ活動のサポート依頼
サーチファンドは、まず会社を買収して経営者になりたい人(サーチャー)が、サーチ活動のための資金出資、その他の支援を得るために、投資家へサポートを依頼します。
サーチ活動の実施
資金を元手に2年程度の期間をかけて、買収する企業を選定します。選定の際は、会社の経営実態の精査などを行い、本当に投資に値する企業か、自分が経営者として貢献できる企業であるかを見極める必要があるでしょう。
投資実行
買収する企業が決定したら、投資家から買収資金を調達して会社を買収します。資金調達では、投資家に対し買収する企業の成長戦略、リスクへの対応などを説明し、魅力的な投資案件であることを伝えましょう。
投資先の経営
買収後はサーチャーが経営者になり、5年から7年程度の期間をかけて会社の成長に尽力します。
投資資金の回収
企業の成長に成功したら、利益を投資家に還元するとともに、サーチャーも成功報酬を受け取ります。還元方法は、上場、経営陣や従業員による株式買い取りなど、最適な手法で検討されるでしょう。
3. サーチファンドのメリット・デメリット
サーチファンドはまだ珍しい形態なので、普通のM&Aと比べて何がメリット・デメリットなのか分かりにくい部分があります。
サーチファンドを理解するためには、サーチファンド特有のメリット・デメリットを把握することが大切です。
メリット
サーチファンドのメリットは、買収される会社側の視点では、事業承継に活用できる、事業の独立性や社歴・社名が残せるといった点が挙げられます。
そして、サーチャーの視点で見ると、成功報酬の比率が高い、経営者の経験がなくてもチャレンジできることがメリットです。
自分の価値観に合った相手を探せるのは、サーチャー・被買収企業側双方のメリットちいえるでしょう。
【サーチファンドのメリット】
- 事業承継に活用できる
- 事業の独立性・社歴や社名が残せる
- 自分の価値観に合った相手を探せる
- 成功報酬の比率が非常に高い
- 経営者の経験がなくてもチャレンジできる
①事業承継に活用できる
サーチファンドは、原則としてイグジットによるキャピタルゲインを狙うためのものですが、その仕組みから事業承継にも活用ができます。
サーチファンドの対象となるのは伸びしろのある中小企業なので、こういった企業が積極的にサーチファンドで事業承継できる状況になれば、日本の事業承継問題の解消に大きく寄与できる可能性もあるでしょう。
②事業の独立性・社歴や社名が残せる
近年は、中小企業の事業承継問題解決の手段として、仲介会社などを利用して企業が企業を買収する形態の事業承継が増えています。
このタイプの事業承継は親族内承継にはないメリットがある反面、会社を売却してしまうため事業の独立性がなくなることがデメリットです。
買収側のグループ企業となった場合、社名が変わって社歴も残らなくなってしまうかもしれません。
これに対して、サーチファンドは個人による買収のため、買収された会社は子会社にはならないので、親族内承継と同じように、事業の独立性を保ち社歴・社名を残せる利点があります。
③自分の価値観に合った相手を探せる
仲介会社やマッチングサイトによるM&Aは、豊富な案件からふるいにかけて、条件に合う買収・売却先を選べるメリットがあります。
一方で、M&A締結までに売り手・買い手の経営者同士が顔を合わせる回数が少ないので、相手の企業理念や価値観を見極める機会が乏しい点がデメリットです。
サーチファンドは、サーチャーと買収候補企業がお互いを見極める期間を十分とれるため、サーチャー・被買収企業双方にとって、自分の価値観に合った相手を探しやすくなります。
サーチファンドは普通のM&Aと比べると、買収後に価値観や経営方針の違いでトラブルになる可能性が低い手法といえるでしょう。
④成功報酬の比率が非常に高い
サーチファンドでは、サーチャーが企業の成長に成功したら成功報酬を受け取ります。
成功報酬の額は、欧米では事業拡大の度合いに対して20%から30%といわれています。もし大幅な事業拡大に成功した場合、サーチャーに数十億円規模の報酬が入る可能性も高いでしょう。実際にそういう事例もあります。
このように、サーチャーは単なる雇われ社長ではなく、起業家と同じように事業の成功が自らの経済的成功に直結することになるので、サーチャーのモチベーションが非常に高く保てるのも、サーチファンドのメリットの一つです。
⑤経営者の経験がなくてもチャレンジできる
サーチファンドを立ち上げるのに条件はなく、経営者の経験がない人でもサーチャーになることが可能です。よって、能力はあるがまだ経験が少ない人が、すぐに経営者になって経験を積むのに適した手法といえます。
若い人が経営者の経験を積む方法は、起業するしか選択肢がほぼないのが現状です。もしサーチファンドの普及により若手が経営の経験を積む方法が多様になれば、優秀な経営者が増えて日本経済全体の底上げにもつながる可能性があります。
デメリット
サーチファンドのデメリットとしては、主に以下の3点が挙げられます。
【サーチファンドのデメリット】
- 譲渡後の経営はサーチャーの能力に大きく依存する
- 期待利回りが低いと投資されないこともある
- 日本での認知度がまだまだ低い
①譲渡後の経営はサーチャーの能力に大きく依存する
サーチファンドでは買収後はサーチャーが経営を行うので、リターンが得られるかはサーチャーの個人的な能力次第です。
これは投資する側にとってはかなりの不確定要素となるので、投資しづらいと感じる投資家もいると考えられます。
買収する企業も原則としてサーチャーが探してくるので、この点も投資家からみればコントロールしづらい要素です。
サーチャーになる人は30歳台の若手が多く、過去の実績から能力を判断することも難しい面があり、投資家はサーチャーの能力を実績よりもポテンシャルで見極めなければなりません。
サーチャーの能力に大きく依存する点は、投資家や被買収企業にとってデメリットとなりうるといえるでしょう。
②期待利回りが低いと投資されないこともある
サーチファンドは投資家の投資がなければ会社を買収できないので、期待利回りが低いと投資家の食指が動かず、買収できずに終わることもあります。
サーチファンドは、まず第1のステップとして買収企業を探す資金を投資してもらって、第2ステップとして買収資金を投資してもらう2つのステップが必要です。
もし期待利回りが低く投資されないと、第1ステップで頓挫してしまい、買収すら実現せずに投資資金が無駄になるといった事態も起こります。
実際アメリカでは、サーチファンドの約20%は買収に至らず終わるといったデータがあります。
サーチファンドは、サーチャーがいかに良い企業を探してきて、投資家に高い期待利回りを提示できるかが重要といえるでしょう。
③日本での認知度がまだまだ低い
日本ではサーチファンドの認知度がまだ低く、投資家がサーチファンドを知らないことも多いです。
資金を募るにはまずサーチファンドとは何かを説明することから始めるケースも多くなり、投資家の理解を得て資金を得るのが難しくなることがあるのはデメリットといえます。
4. 事業承継問題の解決策としてのサーチファンド
2020年代は、日本の中小企業経営者の多くを占める、団塊世代周辺の年齢層が引退する時期です。しかし、引退が近いにもかかわらず後継者が決まっていない中小企業が多く、このままでは多数の廃業と雇用およびGDPの消失が懸念されています。
事業承継の手法には、親族内承継や役員・従業員などによる承継、M&Aによる事業承継、マッチングサイトによる事業承継があります。ここにサーチファンドが新たに加われば、より幅広い選択肢から事業承継を行えるようになるでしょう。
サーチファンドは、主に買収額数億円程度の中小企業を対象としており、サーチャーは経営自体に興味と情熱があり単なる投資活動とは違う特性があるため、事業承継の手段として適性があるといえます。
近年は個人M&Aが増えている状況なので、サーチファンドも受け入れられる土壌はできつつあると考えられます。
5. サーチファンドにおける今後の課題
サーチファンドは日本ではまだ始まったばかりの形態なので、今後の課題もいくつか存在します。
これらの課題は主にサーチファンドがまだ普及していないことに起因しているので、サーチファンドを手がける業者、およびサーチャーの成功事例が今後いかに増えていくかが重要です。
【サーチファンドにおける今後の課題】
- サーチファンド向けの投資家層の拡大
- 個人活動を補強するサポート体制・存在が必要
- 経営支援の効率化
サーチファンド向けの投資家層の拡大
サーチファンドは投資家が投資しないと成立しないにも関わらず、サーチファンド向けの投資家層がまだ少ないのが現状です。
サーチファンドはサーチャー個人の信用に依存する部分が大きく、投資家からみると興味はあっても投資を決断するには勇気がいる面もあります。
今後サーチファンドが普及するためには、投資家に幅広くサーチファンドを知ってもらうとともに、サーチファンドを得意とする投資家層が増えることが重要になるでしょう。
アメリカのサーチファンドはすでに40年近くの歴史があるので、元サーチャーが投資する側にまわるケースが多いです。
日本でもサーチファンドの歴史が積み上がれば、アメリカと同様に投資家層が拡大していくと考えられます。
個人活動を補強するサポート体制・存在が必要
サーチファンドはサーチャーが一人で企業探しから経営まで行うので、サーチャー個人の負担が大きすぎる面があります。
サーチャーの個人活動を補強するサポート体制が整えば、サーチャーになりたい人がさらに増えてくるでしょう。
サーチファンドは原則として個人で行うものですが、二人以上のチームで行うことも可能です。
アメリカでは、二人で手がけるサーチファンドの成功率が高いといったデータもあります。今後サーチファンドが普及するには、サーチャーの活動をサポートする、より洗練されたシステムの構築が重要といえるでしょう。
経営支援の効率化
中小規模のM&Aが普及しづらい原因の一つとして、大規模M&Aに比べて労力に対するリターンが効率的でない点があります。
M&Aの成功報酬は買収額に一定割合を掛けて求めるのが通例ですが、小規模M&Aは大規模案件と労力がそれほど変わらないのに、買収額が小さいために報酬が少なくなることが主な原因です。
これはサーチファンドにもいえることで、大規模な買収のほうが効率的に多額の成功報酬を得やすくなる面があります。
しかし、サーチファンドは今のところ原則として中小企業を対象とするので、労力に対するリターンの効率性をいかに高めるかは重要な問題です。
サーチファンドの性質上、大規模な買収に対象を広げるよりも、中小企業の経営支援の効率化についてノウハウを蓄積し、支援の手法を洗練させていくことが重要になると考えられます。
6. サーチファンド型M&Aとは
中小企業の経営者の高齢化や後継者不足問題が深刻な問題です。サーチファンド型M&Aは、従来のM&Aとは異なり、経営者と次世代の経営者をマッチングする仕組みとなっています。事業承継を検討している経営者が、後継者候補を指名できるのが大きな特徴です。
特に地方の中小企業にとって、次世代の経営候補者は貴重な存在です。今までは、都市部で活躍していた若手の人材が自発的にUターン・Iターンをし、地元企業や地域を活性化させる方法でしたが、昨今は地方を盛り上げたいといった経営者候補も見られます。
サーチファンド型M&Aは、若手経営候補者を育成することを重視しているため、中小企業の事業承継として最適な方法といえるでしょう。
7. M&Aによる事業承継のご相談はM&A総合研究所へ
サーチファンドによる事業承継はメリットも多いですが、まだ取り扱う業者やサーチャーも少なく、当面はM&Aによる事業承継が主流になると考えられます。
M&A総合研究所は、売上規模数億円から数十億円程度の、中堅・中小企業M&Aを手がけている仲介会社です。多数の成約実績を持つアドバイザーのサポートにより、満足度の高いM&Aを実現すべく全力でお手伝いいたします。
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8. サーチファンドのまとめ
サーチファンドは日本ではまだマイナーですが、今後普及して中小企業や若手経営者の有力な選択肢となっていく可能性があります。サーチファンドの仕組みや、メリット・デメリットを理解しておくことが今後重要になるでしょう。
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