事業売却とは?会社売却との違い、メリット、手続きの流れを解説!

会計提携第二部 部長
向井 崇

銀行系M&A仲介・アドバイザリー会社にて、上場企業から中小企業まで業種問わず20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、不動産業、建設・設備工事業、運送業を始め、幅広い業種のM&A・事業承継に対応。

事業売却とは、会社にある事業を売却することをさします。しかし、事業譲渡との違いを把握している経営者の方は少ないです。この記事では、事業売却・事業譲渡がどのようなものか解説します。事業売却のメリットや手続きの流れ、注意点なども詳しく紹介します。

目次

  1. 事業売却とは
  2. 事業売却の目的
  3. 事業売却のメリット
  4. 事業売却のデメリット
  5. 事業売却を行う手続きの流れ
  6. 事業売却を高値で行うための3つの条件
  7. 事業売却をするときの注意点
  8. 事業売却の取引価格
  9. 事業売却で発生する税金
  10. 事業売却に関する会計処理方法
  11. 事業売却の成功事例10選【2024年最新】
  12. 事業売却のまとめ
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1. 事業売却とは


事業売却とは、会社や組織として行っている事業の一部や全部を第三者に譲渡する方法です。事業譲渡ともいいます。

事業売却は、譲渡するものを選択することが可能なため、全部を売却する「全部売却」、一部を売却する「一部売却」がありますが、どちらも事業売却と呼ぶのが一般的です。

売却する事業は、財産である権利だけではなく、仕入れ先や取引先、販路、運営組織などを含む場合もあります。他にも技術などの無形財産も譲渡されるため、時価純資産に「のれん」を含めるケースが多くあるでしょう。

事業売却した場合に発生した利益は、売却元の会社に還元されます。オーナーが利益を手にできるわけではないので、注意しましょう。

大企業のオーナー社長など、利益を目的とした事業売却を検討する場合はデメリットになりえるので注意しましょう。

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事業売却と事業譲渡との違い

事業譲渡とは、「事業の全体または一部を他の会社に譲り渡す」ことを指します。一般的に、事業売却と事業譲渡は同義とされていますが、法律上は「事業譲渡」という用語が使用されます。特に会社法では、事業の一部を売買する行為を「事業譲渡」と呼びます。したがって、事業売却は法律用語で「事業譲渡」と理解しておくと良いでしょう。

事業売却と会社売却との違い

事業売却とは何かを確認していくうえで、事業売却と会社売却の違いを理解しておくのも大切なポイントです。事業売却は、特定の事業や複数の事業を他の会社に譲渡する仕組みです。

この場合、会社自体がなくなるわけではありません。
 

一方で、会社売却の場合は会社が持つ全ての株式を他社に譲渡します。その会社に関わるあらゆる事業や資産を他社へ譲渡するのが会社売却の考え方です。つまり、会社の経営権を手放す考え方ができます。

売却の対象

事業売却は、その事業を構成している資産・負債を個別に契約を結んで売却します。取得企業と個別に契約を結んで売買条件を確認するのです。

一方で、会社売却では、会社の所有権を分割したものである株式の売却を通じて会社そのものを売却します。したがって、取得企業と個別に契約を結ぶのではなく、包括承継を行います。

対価の受領者

事業売却の対価の受領者は会社です。一方で、会社売却はその対価の受領者は株主となります。

したがって、事業売却では、株主の構成比率に変更は起こりませんが、会社売却では、株主の構成比率が変化します。

消費税の課税対象に含まれるかどうか

事業売却では、消費税の課税対象となる資産が売却されるとき、その資産に対しては消費税の課税があります。消費税が課税される対象となるのは、特定の資産だけです。土地のような資産を取得した場合には、消費税は課されません。

一方で、会社売却は株式の売却になるので、消費税はかかりません。株式譲渡には、消費税はかかりませんが、その他の各種税金がかかります。

事業売却とその他手法との違い

会社分割との違い

事業売却と会社分割はM&Aの手法の1つです。
どちらも譲渡企業の事業の全部または一部を別の会社に承継させる点では共通しています。

しかし、会社法上の組織再編に該当するかどうかに違いがあります。 会社分割は、会社法上の組織再編行為に該当します。 一方で、事業売却は事業資産を個別に取引する売買行為で、会社法上の組織再編には該当しません。

また、会社分割は事業部門単位での包括承継となるため、事業譲渡では引き継げない許認可も、買い手側が引き継ぐことができます。とはいえ、事業の種類によっては新たに取得が必要な許認可もあるので要注意です。

いずれの手法を選択するかは、会社の状況に合わせて決定すると良いでしょう。

合併との違い

事業売却と合併の主な違いは以下のとおりです。

  • 会社の消滅の有無
  • 権利義務が包括承継か個別承継か
  • 従業員の承継方法
  • 競業避止義務の有無
  • 債務の承継

事業売却で売り手の法人格は消滅しませんが、合併では存続会社以外は消滅します。また、権利義務に関しては、事業売却では契約により債権債務を個別に引き継ぎますが、合併では消滅会社の権利義務を包括的に引き継ぐ点が大きな特徴です。

2. 事業売却の目的

事業売却では主に2つの目的が挙げられます。

経営の効率化

事業売却の目的のほとんどが、経営の効率化です。複数の事業を持つ会社の場合、経営方針として選択と集中を迫られる場面があります。1つの事業に絞って会社を成長させる考え方です。

会社の財務状況が悪化した場合も、経営の効率化を図るために赤字事業を売却することがあります。事業を売却し会社の経営を立て直す手段として事業売却が活用されやすいです。

事業再生

事業売却は、事業再生のためにも行われます。事業再生とは、業績不振や債務超過などの事業を立て直すことです。

後継者がいなかったり赤字だったりする会社が廃業すると、顧客や取引先への影響力が大きい事業を他社に売却することで事業や従業員を守ります。自社の力で存続できないため、資金力のある別会社へ売却し、事業を存続させることが理想です。

このように赤字事業ですが、事業を存続させる必要がある場合に事業売却を選ぶことがあります。

事業売却の方法

事業売却をする場合、以下の手法を選んで手続きを行います。

  • 事業譲渡
  • 株式譲渡

それぞれどのような手法なのか解説します。

事業譲渡

事業譲渡とは、事業そのものを売却する方法をいいます。一般的に、事業売却といえば事業譲渡をさす場合がほとんどです。事業の所有者が変わる手続きなので、売却後も会社自体は存続します。

事業におけるすべての契約や権利を買い手が引き継ぐので、手続きが非常に複雑です。譲渡の対価は現金ですが、対価を受け取るのは会社です。経営者が資金を得るには社内で仕組みを作らなければならないため、注意しましょう。

株式譲渡

株式譲渡とは、自社の株式を譲渡し会社の経営権を譲渡することです。株主が変わって経営権が移るだけのシンプルな事業売却の方法です。

株式譲渡は、対象企業の資産・負債を全て引き継ぎます。株式を譲渡すると、売り手の経営者は現金を手に入れることが可能です。株式譲渡では一部の事業を売却できません。すべての事業、つまり会社自体を譲る手続きが株式譲渡です。

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3. 事業売却のメリット

事業売却には多くのメリットがあります。売却側と買収側に分けて、事業売却のメリットを解説します。

売却側のメリット


事業売却をすると、対価として資金を得られます。売却する事業には、ヒト・モノ・カネ・情報・ノウハウといった多くの財産が含まれているためです。

これらの財産に対して買い手は支払います。事業売却後における新規事業の立ち上げや借入金の返済に充てることも可能です。ただし、経営者が資金を受け取るわけではありません。事業売却の場合、法人が対価としての資金を受け取るので注意しましょう。

一部の事業のみを譲渡できる

事業売却をすると、会社の一部の事業のみを譲渡でき、残った事業で会社を存続できます。赤字の不採算部門のみを売却するなど、会社に不要な事業のみを売却できます。

多角経営している場合、選択と集中に迫られる局面も少なくありません。そのようなとき、事業売却をすれば会社を残したまま組織再編できる点はメリットです。

残したい従業員や資産を残せる

事業売却をすれば、残したい従業員や資産を会社に残せます。つまり、会社で必要なヒト・モノ・カネ・情報・ノウハウを残すことが可能です。

事業売却は会社売却と違い、売却する資産を選べます。決めた内容は契約書に記載し、譲渡するもの・しないものを明確にしなければなりません。買い手の同意が必要なため、交渉に時間がかかることも留意してください。

債権者への通知や公告は不要


事業売却の場合は債権者への通知や公告が不要となる点もメリットです。余計な手続きや公告せずに事業売却を進めることができます。

買収側のメリット

取引対象の範囲を選べる

買収側は、取引対象の範囲を選べます。つまり、譲り受けたい事業の範囲を選択することが可能です。利益が見込める事業、譲り受けたい人材を選べるので、自社が求める部分のみを譲り受けられます。

会社の債務は引き継ぐ必要がなく、財務面のリスクを負う必要がありません。必要な事業のみ譲り受けることが可能な点は、大きなメリットといえます。

負債・債務の承継が不要

株式譲渡では譲渡対象が会社全体なので、売却側に債務があればその債務も引き継ぎます。しかし事業売却では、債務や負債などを引き継ぐ必要がありません

買収側にとって負債・債務の承継せず、将来性がある事業のみを選択し譲り受けられる点はメリットです。ただし、商号を継続して用いる際は、承継する事業により生じた債務を引き継ぐこともあります。

節税効果が見込める

買収側では、節税効果が見込めるメリットも得られます。事業売却では、のれんに相当する額の償却や有形固定資産の減価償却を買収側の損金として計上することが可能です。

計上額は課税対象外となり、節税効果が期待できます。

4. 事業売却のデメリット

事業売却とは何か、株式譲渡や会社売却との違いも含めた中で理解を促進していくのがポイントです。その中で、事業売却を行うデメリットも確認します。

メリットとともにデメリットも把握すれば、事業売却をより一層理解できるようになるはずです。売り手側・買い手側の立場からデメリットを確認しましょう。

売り手側のデメリット

まずは、事業売却による売り手側のデメリットとはどういったものなのか確認を進めていきます。事業売却のデメリットにも目を向けたうえで、慎重に事業売却を進めるのも大きなポイントです。売り手側のデメリットは以下のとおりになります。

株主総会での特別決議が必要

事業売却や事業譲渡をするデメリットとしては、株主総会での特別決議が必要となる点が挙げられます(売却する資産が売却会社における総資産の5分の1を超える場合)。事業譲渡に際しては株主からの賛同が必要になる点が、売り手側のデメリットです。

そのための根回しや手続きを行うのも必要となり、時間的な制約が取られます。

負債の取り扱い

売り手側のデメリットは、事業譲渡に際して負債が発生する場合にその取り扱いをどのようにするか検討する必要がある点です。

利益が出ている事業であれば問題はありませんが、負債を抱えている事業は慎重に検討を重ねるのが求められるでしょう。

売却益には税金がかかる

事業売却や事業譲渡のメリットとして売却益を得られるのは先述しましたが、その売却益には税金がかかるのも忘れてはいけません。

後述で事業売却に際して発生する税金の種類や相場を詳しく紹介します。自社の売却に際して税金がどれほど発生するのか知りたい人は、確認してみましょう。

売却後の事業内容に制限がかかる


事業売却した後、会社法によって売り手側は20年間、同一の市町村と隣接する市町村の区域内で、売却をした事業と同じ事業を行えないとされています。

この制限がかかる競業避止義務は、当事者間が同意したうえで特約を付けた場合、その期間を拡大・縮小可能です。競業避止義務の排除も可能と解釈されています。

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買い手側のデメリット

続いては、事業売却や事業譲渡による買い手側のデメリットを確認します。株式譲渡やM&Aなどとは異なる点や似た点も含めて、事業売却のデメリットを理解しておく必要があるのです。買い手側のデメリットは以下のとおりです。

各種移転手続きが必要

M&Aや株式譲渡、会社売却の際もそうですが、事業売却や事業譲渡の際には各種移転手続きが必要となるところが買い手側のデメリットです。それだけの時間的制約や物理的制約がかかって、事業売却時には多くの労働力が割かれます。

許認可の新たな取得

事業売却や事業譲渡に際しては許認可の新たな取得が求められるのもデメリットとして挙げられます。許認可の種類にもよりますが、M&Aや株式譲渡の際には、許認可は基本的に承継されます。

ところが事業譲渡に際しては、新たに行政上の手続きを進めるケースが必要です。事業譲渡は、すでに許認可権を取得している、いわば同業者間により行われるケースが多いようです。

従業員や取引先との契約

事業売却や事業譲渡を進めるにあたって、該当事業に従事していた従業員をそのまま雇用する場合、買い手側は従業員との雇用契約を結ぶ必要があります。取引先との契約も同様に締結し直さねばなりません。

もちろん、それぞれの同意を取り付ける必要があり、その手続きや同意の取り付けにかかる労力も大きなデメリットです。

5. 事業売却を行う手続きの流れ

続いて、実際に事業売却するときの流れを解説します。事業売却をする際は、大きく9つのステップに分けられます。

①社内で検討する

まず、事業売却の実施を社内で検討します。経営者1人で事業売却の構想を練っても社内の協力がなければ成功できません。検討する内容は、以下のとおりです。

  • 本当に事業売却が最善の経営判断か
  • ほかの選択肢はないか
  • どのような企業に事業売却をするか
  • いつまでに事業売却をするか
  • 売却する事業の範囲はどこまでか

しっかりと合意を得た状態で事業売却を進める必要があります。取締役会やキーパーソンを集めて検討しましょう。

②事業売却に向けた準備

次に、事業売却に向けた準備です。

買収側は売却側を探す準備として、決算書三期分の準備などを行います。売却側は、買収先の条件の絞り込みなどを実施します。

③M&A仲介会社に相談する

次に、M&A仲介会社へ相談します。M&A仲介会社とは、事業売却や会社売却のサポートを行う会社です。M&Aアドバイザーと呼ばれる専門家が在籍しています。

M&Aアドバイザーは、売却先の選定やアプローチ、交渉の立ち合いやアドバイスを実施します。事業売却をするための業界知識だけでなく、法務や税理、会計などのさまざまな知識を有するので、事業売却をスムーズに進めるためにもM&A仲介会社に相談しましょう。

M&A総合研究所では、知識や経験が豊富なM&Aアドバイザーが案件をフルサポートいたします。料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。

無料相談をお受けしていますので、どうぞお気軽にお問合せください。

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④買い手候補企業を選定する

M&A仲介会社に相談したら、買い手候補を選定してもらいましょう。社内検討で決めた事業売却の目的や買い手の理想像を伝えることで、事業売却の成功に近づきます

気になる買い手候補を選出したら、M&A仲介会社が会社を売り込む提案資料を用いてアピールします。買い手候補が興味を持てば秘密保持契約を締結し、社名や詳しい内部情報が公開される仕組みです。買い手が交渉したい意思を示せば、トップ面談に移ります。

⑤トップ面談を行う

秘密保持契約の締結後、譲渡対象の事業内容や財務情報が記載されたIM(インフォメーション・メモランダム)の書類が買い手に共有されます。お互いに事業売却の話を進めたい場合は、経営者同士でトップ面談を行いましょう。

トップ面談では、売却・買収に至った経緯や経営者としての理念・経営方針を話し合います。トップ面談にはM&Aアドバイザーも立ち会うため、安心して臨めます。気になることがあればトップ面談で質問し、自社の事業を譲渡しても良いか判断してください。

⑥基本合意契約を交わす

トップ面談を繰り返し行った後、事業売却の条件に関して話し合い、基本合意契約を交わします。基本合意契約を交わす前に、買い手から意向表明書が提示されるかもしれません。

意向表明書とは、買収方法・買収価格・買収条件などの提案が書かれた資料のことです。意向表明書をもとに条件のすり合わせを行い、最終的に合意した内容で基本合意契約を交わしましょう。次のデューデリジェンスで問題がなければ、この条件で事業売却が成立します。

⑦デューデリジェンスを行う

基本合意契約の締結後、買い手によるデューデリジェンスが行われます。デューデリジェンスとは、譲渡対象となる事業の資産やリスクをあらかじめ買い手が調査することです。

過去の業績や売り上げはもちろん、法務・税務・会計など多角的に調査し、事前にリスクや課題を洗い出すことで買収後の解決策が立てられます。書類の提出や現場訪問の立ち合いなど、売り手に依頼されることがあるので、できるだけ迅速に応え正しい内容を報告してください。

⑧取締役会で決定

事業売却とはどういったものなのか、デューデリジェンスとは何かも含めて理解をして手続きを進めていくのが求められます。デューデリジェンスまで終えた後、続いての手続きとして取締役会で事業売却を決定します。

会社役員の決議を取り、最終的な事業売却に向けて本格的な契約を進める段階に入っていき、この時点で書類や契約事項に不備がないように最終確認をしておくのも大切です。

⑨事業譲渡契約書を締結

取締役会での決定を終えた後、事業譲渡契約書を締結する手続きへと移行します。取締役会の承認を得た後で、事業譲渡契約書の締結によって事業譲渡の契約は完了です。

ここまでの流れに留意して、ひとつひとつの手続きを進めていくのがポイントとなるでしょう。書類も人数分用意して、1人1人が適切に内容確認できるようにしておくのが求められます。

⑩報告書の提出と届け出

事業譲渡契約書の締結を終了後、報告書の提出と届出を行います。社内で事業売却の情報を保管しておくためにも重要な書類です。この段階で臨時報告書の提出と公正取引委員会への届け出も行います。

事業売却は1回だけで終了するとは限りません。今後の事業売却の際にも過去の記録を参照できるように、社内で事業売却に関する報告書を適切に管理しておくのがポイントです。

⑪株主への通知・公告と株式総会で説明

事業売却とは株主総会での決議が必要な行為でもあります。会社や事業の方針を株主に説明するのと同様に、事業売却も株主への通知と公告が必要です。

基本的には、議決権の過半数の株主が出席したうえで、3分の2以上にあたる賛成が必要とされています。万一、事業売却に反対した株主から株式の買い取り請求がなされた場合は、その株式を買い取る必要があるでしょう。

⑫監督官庁の許認可と各種手続き

株主への事業売却の説明を終了して賛成を取り付けた後、最後に監督官庁への許認可と各種手続きを行います。ここでは、会社の財産や権利、債務や契約といった事項を移転する手続きも求められるのです。

雇用契約の手続きや事業のノウハウ、のれんなどの譲渡手続きも済ませたうえで、最終的な事業売却の完了となります。

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6. 事業売却を高値で行うための3つの条件

M&Aで会社や事業の売却額を上げる3つの条件を取り上げます。

①事業の利益が出ている

事業売却の売却額で最も重要なポイントは、事業の利益が出ているかどうかです。過去3年〜5年の利益を見て事業の将来性が判断されます。

単純に売り上げを見るのではなく利益が注目されるため、しっかりと売り上げを伸ばし経費削減を行いましょう。将来性をアピールするため今後5年間の事業計画を提示することも有効です。

②独自の強みを持っている

独自の強みを持っていると、事業売却の売却価格を引き上げられます。例えば、独自の技術力や特許などです。

優秀な営業マンや固定客、販売ネットワークを事業の強みとしてアピールできます。買い手に「お金を払ってでも手に入れたい」と思わせる強みを探すために、自社分析を行いましょう。

③健全な法務・財務状況である

常に健全な法務・財務状況をキープすれば、事業売却の売却価格を高められます。デューデリジェンスによる詳しい調査で少しでもリスクが発見されれば、買い手による提示額は大きく引き下げられるためです。具体的には、以下のリスクを排除しましょう。

  • 訴訟問題
  • 簿外債務
  • 会計処理や確定申告の不正
  • 従業員や取引先との不適切な契約

マイナス要素はすべてなくし、健全な経営状況を保ってください。

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7. 事業売却をするときの注意点

事業売却をする際に、気をつけるべき注意点が3つあります。

①負債も一緒に承継されるとは限らない

事業売却を行う際、負債も一緒に承継されるとは限りません。事業売却の手法である事業譲渡は、承継範囲(譲渡範囲)を両社の話し合いで決めるためです。

赤字を理由に売却を決断した場合でも、現在の借入はそのまま会社に残ることも可能性として考えなければなりません。事業売却で負債も承継したいなら、しっかりと時間をかけて買い手と交渉しなければならないことを覚えておきましょう。

どうしても負債を手放したい場合は、株式譲渡の手法を検討する必要があります。株式譲渡では、会社の持つ資産・負債をすべて譲渡し、負債も必ず承継させられるためです。ただし、会社の存続はできないため、メリット・デメリットを考えて手法を決めましょう。

②譲渡益に税金が発生する

事業売却によって得た譲渡益に対して税金が発生します。譲渡益とは、事業の売却価格から事業の純資産や経費を差し引いた額です。事業を売却したことで得た利益をさします。

M&A仲介会社への業務委託やコンサル料は、経費として差し引くことが可能です。事業売却をする前に、どれくらいの税金が発生するのか確認しましょう。

③売却手法によって株主による承認が必要になる

事業売却の手法によっては株主による承認が必要とされます。会社の経営は代表取締役や取締役が実行しますが、会社を所有しているのは株主です。会社にとって重要な事業の売却を実施する場合は、株主の承認が求められます。

株主の多くから同意を得るためには、事業売却の説明を実施しなければなりません。

8. 事業売却の取引価格

事業売却では、売却側・買収側の交渉により取引価格が決まります。売り手企業や事業の価値評価を行い、それを交渉のベースとするのが一般的です。この評価方法をバリュエーションと呼んでいます。

バリュエーションには専門的かつ複雑な算定方法が数多く存在しており、M&A仲介会社などの専門家に依頼し、複数の算定方法を組み合わせて算定結果を導き出すのが一般的です。事業譲渡の算定結果で得られる金額を簡単に表現すると、以下のとおりです。

  • 事業時価純資産額+のれん代(営業権)

事業価値の算出方法

コストアプローチ

コストアプローチとは企業の純資産を基準に企業価値を決めるM&A評価基準です。

具体的な計算方法には時価純資産法などがあります。時価純資産法とは、事業の有する資産・負債の時価を算定し、時価評価された資産から負債を差し引いて、純資産の時価を算定する方法です。

事業の有する資産・負債を正確に時価評価しなければならないので、通常は、専門家に依頼して資産・負債の時価評価を行わなければなりません。そうしないと、正確な時価純資産を算定できないからです。

マーケットアプローチ

市場が決めた企業価値に基づいて企業価値を算出するM&A評価基準方法です。

具体的な計算方法には類似会社比較法などがあります。類似会社比較法とは、類似している上場企業の株価に基づいて、売却予定の事業の価値を算定する方法です。

上場企業の主要な財務数字に対する倍率(マルチプル)を用いて算出する方法なので、マルチプル法と呼ばれる場合もあります。よく用いられる財務数値は、売上高・営業利益・当期純利益などの財務諸表の数字、EBITDAの財務指標が利用されています。

インカムアプローチ

インカムアプローチは将来、見込まれる収益を予測して現在の企業価値に換算した算出方法です。

具体的な計算方法にはDCF法などがあります。DCF法とは、Discounted Cash Flow 法の略で、日本語では、「割引現在価値法」と呼ばれます。

割引現在価値の計算は、将来得られるキャッシュフローを現在の価値に換算して(割り引いて)計算するのが一般的です。

売却対象の事業から将来どれくらいのキャッシュインフローがあるかを見積もって、それを現在価値に割り引いて事業の価値を算定します。

9. 事業売却で発生する税金

事業売却は、会社の事業を売る行為です。事業売却をすると利益が発生して税金がかかります。株式譲渡か事業譲渡かによって、事業売却で課税される税金が異なるので詳しく解説します。

事業譲渡で発生する税金

事業譲渡で事業売却をした場合、譲渡益は法人税の対象となります。事業譲渡の場合、対価を受け取るのは会社です。法人税は、譲渡益の19%~23.2%程度で、各企業によって税率は異なります。

事業譲渡による事業売却には、消費税も発生します。課税対象となる資産における10%分の消費税を支払わなければなりません。

株式譲渡で発生する税金

株式譲渡で事業売却をした場合、株主が法人か個人かによって発生する税金が異なります。株主が法人の場合は、事業譲渡と同じように法人税を支払わなければなりません。

株主が個人の場合は、譲渡益ではなく譲渡所得となるので注意してください。譲渡所得は所得税・住民税の対象で、所得税が15.315%、住民税が5%なので、譲渡所得における20.315%の税金を払う必要があります。

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10. 事業売却に関する会計処理方法

事業売却をした場合は、会計処理も適切に行わなければなりません。売り手企業と買い手企業で会計処理方法が変わるので、それぞれの会計処理を解説します。

売り手企業の会計処理

まずは、売り手企業の会計処理方法です。事業売却後に、事業売却によって生じた損益を仕訳処理します。ここからは、具体的に仕訳の例を確認しましょう。

  • 譲渡資産の帳簿価格:1,000万円
  • 譲渡負債の帳簿価格:600万円
  • 付随費用:50万円
  • 譲渡価格:1,500万円
 
借方 貸方
譲渡負債 600万円 譲渡資産 1,000万円
付随費用 50万円 現預金 50万円
現預金 1,500万円 移転損益 1,100万円

譲渡益や譲渡損は移転損益の科目で会計処理をします。実際には譲渡資産名は詳細に科目を入れるため、アドバイザーと相談しながら会計処理を進めてください。

買い手企業の会計処理

続いて、買い手企業の会計処理方法を解説します。事業売却の会計処理では、「のれん」の計上が重要です。のれんとは、買収した事業のブランド力・ノウハウ・従業員の能力・特許などの価値をさします。

会計処理方法は、買収した事業の純資産(時価)と取得にかかった金額の差額分を計上します。具体的に仕訳の例を解説します。

  • 譲受資産の時価:700万円
  • 譲受負債の時価:300万円
  • 取得原価:1,500万円
 
借方 貸方
譲受資産 700万円 譲受負債 300万円
のれん 1,100万円 現預金 1,500万円

「のれん」は、20年以内の期間で均等償却します。売却後も毎年処理するため、その点も留意してください。

11. 事業売却の成功事例10選【2024年最新】


ここからは、事業売却の成功事例を紹介します。

虔十社によるしょうわ出版への翔進予備校事業の売却

富士山マガジンサービスは、連結子会社のしょうわ出版を通じて、虔十社の翔進予備校事業、アカデミア事業、および関連する塾事業部門を譲り受けることを決定しました。

しょうわ出版は社会保険・介護保険関係の出版物の編集、作成、販売を行っています。虔十社は、医学部や早稲田大学、慶応義塾大学、MARCHなどの難関大学を目指す受験生向けに理数系の集団授業や個別指導塾を運営しています。

富士山マガジンサービスグループはEdTech事業を推進しており、すでに沖縄県のオンライン個別指導塾Create Education Online株式会社(CEO社)を連結子会社化しています。今回の譲受により、CEO社の受講生に対して高度な理数系科目の授業を提供することを目指しています。

連結子会社による事業の譲受に関するお知らせ

ベストバイによる買取王国への総合リユースショップ事業の売却

買取王国は、ベストバイの総合リユースショップ「良品買館」事業の一部と、プロ工具専門店「ツールマン」事業の全てを譲り受けることを決定しました。

買取王国は総合リユース小売業として、買取王国、工具買取王国などを運営しています。ベストバイは総合リユース事業やプロ工具専門店事業などを展開しています。

買取王国は東海地方を中心に店舗展開しており、今後は関西地方を第二の主要エリアとして店舗展開を強化する計画です。ベストバイの事業はすべて関西地方に位置し、特に大阪北部で高い知名度を持つ「良品買館」は買取王国の事業と高い親和性を持つため、相乗効果が期待されます。

株式会社ベストバイの事業譲受に関するお知らせ

キメラによるSun Asteriskへのサブスクリプション管理プラットフォーム「AE」事業の売却

Sun Asteriskは、キメラが運営する「AE」の事業譲渡契約を締結しました。

Sun Asteriskは、2,000名以上のエンジニアやクリエイターを擁するデジタル・クリエイティブスタジオ事業を展開しています。キメラはパブリッシャー向けのビジネス成長支援を行い、サブスクリプション管理プラットフォーム「AE」を運営しています。

今回の事業譲渡により、Sun Asteriskは「AE」を自社のデジタル・クリエイティブスタジオ事業に組み込み、企業に新たなマネタイズ手段を提供します。さらに、両社のシナジーを活かし、新たな価値創造を目指します。

今後は、追加機能の開発やSun Asteriskの顧客基盤を活用し、メディア以外の企業にもサービスを提供し、事業成長を図ります。

キメラ社が運営するサブスクリプション管理プラットフォーム「AE」を事業譲受

シティアネットによるHOUSEIへのITインフラ構築・運用業務受託事業等の売却

HOUSEIは、シティアネットの事業を譲受するための契約を締結しました。

HOUSEIは情報システム事業を展開しており、シティアネットはITインフラ構築および運用業務受託事業、IT技術者の人材派遣事業を行っています。

この譲受により、HOUSEIはITインフラ関連事業を強化し、システム基盤の構築・開発から運用まで、顧客の要望にワンストップで対応できる体制を整え、事業全体の成長を目指します。

日本郵船によるENEOSホールディングスへの海運事業の売却

ENEOSホールディングスは、グループ会社ENEOSオーシャンの原油タンカー事業以外のLPG船、ケミカルタンカー、プロダクトタンカーおよび貨物船を中心とする海運事業を、新たに設立する完全子会社に吸収分割し、その株式の80%を日本郵船に譲渡することで合意しました。この取引は公正取引委員会などの承認を得た後、2025年4月1日に完了する予定です。

ENEOSオーシャンは、様々な海上輸送を行っており、日本郵船は国内外の海運業界のリーダーです。今回の取引は、船価の高騰や環境規制への対応、DX推進の課題に対処するため、新たなオーナーのもとで事業を進めることが最適と判断されました。ENEOSホールディングスは、新会社株式の20%を保有し、引き続き対象事業に関与し、日本郵船と共にその成長を目指します。

当社グループ海運事業の一部譲渡について

ニチイ学館によるイオンペットへの事業売却

ニチイ学館は2022年6月、グルーミング事業をイオンペットへ売却しました。

ニチイ学館は、主に医療・介護・保育サービスを展開する企業です。グルーミング事業である「A-LOVE」の20サロンあるうち、19サロンを売却しました。グルーミング事業とは、ペットのブラッシング、耳そうじ、シャンプー、爪切りなどを行うものです。

イオンペットは、ペット関連商品の販売、グルーミングサロン、ペットホテル、動物病院、しつけ教室などの運営を手掛けています。

今回のM&Aにより、グルーミング技術と知識を有する人材の確保、地域に密着した顧客サービスのノウハウを獲得し、質の高いサービス提供を目指します。

参考:事業譲渡に関するお知らせ

セントラルによるカネモトの子会社NEKへの事業売却


セントラルは2022年5月、カナモトの子会社であるNEKへ事業売却を実施しました。

セントラルは岩手県奥州市に拠点を置く会社で、建設機械・設備機器・空調・備品のリース・レンタル・販売などを展開しています。仙台地方裁判所より、民事再生手続きの開始決定を受けていました。

カナモトは、建設機械器具のレンタル、鉄鋼製品の販売、周辺機器のレンタルを行う会社です。完全子会社であるNEKは、岩手県奥州市に拠点を置く会社で、事業の譲り受けによりセントラルへ社名変更を行う予定です。

今回のM&Aにより、カナモトは国内営業基盤の拡充、東北地区のシェア拡大、サービス強化を目指します。

参考:当社子会社による事業譲受ならびに事業開始に関するお知らせ

旭化成による三井化学への事業売却


旭化成は2022年5月、半導体や液晶パネルで使用されるフォトマスク用ペリクル事業を三井化学に売却しました。

旭化成株式会社は、化学、繊維、住宅、医薬品、医療などの事業を展開する大手総合化学メーカーです。三井化学は、ペリクル市場の大手で、EUV露光用でも上位の実績を保有しています。三井化学はペリクル事業をIoT材料の中心と位置付けており、能力増強などに取り組んでいます。

旭化成は、ペリクル事業に関して、競争力の向上や高精細化による技術開発・追加投資が必要と判断し、事業継続のあり方を模索していました。そんな中、旭化成と三井化学の思惑が一致し、事業売却となったのです。

今回のM&Aにより、関連する子会社の旭化成EMSの全ての株式も譲受します。そして三井化学はペリクル事業の事業拡大、新製品の開発、技術向上を目指します。

参考:フォトマスク用ペリクル事業の 三井化学株式会社への承継に関するお知らせ

グンゼによるダイセルへの事業売却

グンゼは2022年4月、電子部品事業部フィルム部門をダイセルへ売却しました。

グンゼは、機能ソリューション事業、アパレル事業、ライフクリエイト事業などを展開する企業です。事業売却の対象となった電子部品事業部フィルム部門は、亀岡工場をメインとした電子部品用フィルムの開発・製造などを行う部門です。

ダイセルは、メディカル・ヘルスケア、マテリアル、エンジニアリングプラスチックの製品その他の製造・販売を展開しています。今回のM&Aは、グンゼの事業構造の最適化を目的に実施されました。

参考:電子部品事業部フィルム部門の譲渡に関するお知らせ

エスエスディーによるタカショーデジテックへの事業売却

エスエスディーは2022年3月、イルミネーション事業部をタカショーデジテックへ事業売却をしました。

エスエスディーは、中古自動車の販売、新車の販売、輸入車のレンタカー事業、イルミネーションの施工、イルミネーションを活用したトータルコーディネートなど、幅広い事業を展開する企業です。タカショーデジテックは、ガーデンや商業施設など、光の空間演出を手掛ける企業です。

今回のM&Aにより、タカショーデジテックは顧客企業へのサービスの拡大、幅広い商品展開を目指します。

参考:イルミネーション関連事業の事業譲受に関するお知らせ

12. 事業売却のまとめ

事業売却とは、会社にある事業を売却することです。事業売却を決めた場合は、M&A仲介会社に相談してください。上手にM&A仲介会社を頼りながら、自社を成長させるために事業売却を成功させましょう。

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