事業承継の課題と現状を徹底解説【中小企業庁の分析データ参照】

会計提携第二部 部長
向井 崇

銀行系M&A仲介・アドバイザリー会社にて、上場企業から中小企業まで業種問わず20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、不動産業、建設・設備工事業、運送業を始め、幅広い業種のM&A・事業承継に対応。

中小企業の事業承継の実態を調査すると、後継者問題の厳しい現状と課題が見えてきました。本記事では、実態調査による中小企業庁の統計データを見ながら事業承継に関する課題と現状を解説するとともに、事業承継を円滑に進める方法も紹介します。

目次

  1. 事業承継の現状
  2. 事業承継に関する課題
  3. 事業承継の課題を解決できない場合のデメリット
  4. 事業承継の課題の解決策
  5. 事業承継の課題・現状に関する相談先
  6. 事業承継の課題と現状まとめ
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1. 事業承継の現状

事業承継の現状

中小企業の事業承継に関する厳しい現状は、統計データから見て取れます。ここでは、事業承継の現状と課題を、実態調査による統計データとともに確認しましょう。

統計データで見る事業承継の実態調査

まずは、事業承継の現状と課題を、実態調査による統計データとともに解説します。

企業数の減少推移

2020年版 中小企業白書・小規模企業白書

出典:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/chusho/b1_3_1.html

企業数の推移を取り上げます。上記のグラフのとおり、年々減少傾向です。このうち、中小企業は約358万社で、内訳は小規模企業が約305万社、中規模企業が約53万社です。

休廃業・解散企業件数の推移

東京商工リサーチ「2021年 休廃業・解散、倒産件数 年次推移」

出典:https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20220118_01.html

東京商工リサーチの調査によると、2021(令和3)年の「休廃業・解散」企業は、全国で4万4,377件(前年比10.7%減)でした。過去最多だった2020(令和2)年の4万9,698件から、1割以上減少しています。2021年の企業倒産は、6,030件と低水準でした。

これは、コロナ禍における政府からの給付金や金融機関からの貸付などにより、一時的に減少したと考えられます。コロナ禍で事業環境が悪化しているにもかかわらず、コロナ関連支援によって継続している企業が多いのが実態です。

経営者の高齢化や後継者不足の課題は解消しておらず、今後も休廃業・解散・倒産件数は増加傾向が予測されています。

経営者の平均年齢推移

統計データで見る事業承継の実態調査①

東京商工リサーチ「2021年 全国社長の年齢調査」

出典:https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20210804_02.html

実態調査による統計データを見ると、経営者の平均年齢は年々上がっています。2020年には、62.49歳です。今後5年から10年の間に引退していくと考えた場合、多くの経営者が今のうちから事業承継に向けて具体的に準備しなければ、後継者問題に悩むでしょう。

日本が超高齢社会である点を踏まえると、社長の平均年齢が今後下がるとは考えにくいです。今後は、ますます平均年齢が高くなっていくと予想されます。

中小企業経営者の年齢分布

統計データで見る事業承継の実態調査②

中小企業庁「2019年版 中小企業白書」

出典:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap1_web.pdf

中小企業経営者の年齢の統計データを見ると、さらに深刻な現状がわかります。実態調査によると、最も人数が多い年齢層は年々高くなっており、1994(平成6)年に40代後半だった経営者年齢の山は、2018(平成30)年には70歳に達する勢いです。

ほとんどの中小企業が、事業承継の準備をしなければ手遅れになる課題をすでに抱えているといえます。経営者の高齢化が進むと、年齢を理由に経営者は引退するしかありません。

こうした中で、地域社会ひいては日本経済を維持・発展させるためには、新たな経営の担い手の参入や、有用な事業・経営資源を次世代に引継ぐことが重要です。

経営者の年齢別増減収率

統計データで見る事業承継の実態調査③

東京商工リサーチ「2017年 全国社長の年齢調査」

出典:https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20180213_02.html

事業承継の実態調査における統計データで、経営者の年齢と会社の増収率・減収率を見比べてみると、年齢が上がるほど増収率は下がり、逆に減収率は上がっています

この実態調査から、東京商工リサーチは、高齢の経営者ほど過去の成功体験にこだわり、現状に合った施策を打ち出せていない傾向があると分析しました。後継者がいない場合、事業への投資が減少するのも要因の1つと見ています。後継者問題は、会社の利益率にも影響を与えるでしょう。

経営者交代による経常利益率の違い

統計データで見る事業承継の実態調査④

中小企業庁「事業承継に関する現状と課題について」(平成28年11月28日)

出典:https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/kihonmondai/2016/download/161128kihonmondai03.pdf

上記の調査結果を見ると、経営者が交代した企業や若年の経営者が利益率や売上高を向上させていることがわかります。計画的な事業承継は、成長の観点からも非常に重要です。スムーズな事業承継は、会社の成長を促す可能性があるといえるでしょう。

経営者の年齢別事業承継準備状況

統計データで見る事業承継の実態調査⑤

中小企業庁「事業承継に関する現状と課題について」(平成28年11月28日)

出典:https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/kihonmondai/2016/download/161128kihonmondai03.pdf

実態調査による統計データで年齢別の事業承継準備状況を見ると、60代以上の経営者の約半数が「まだ準備をしていない」「準備をする予定がない」「事業承継を考えていない」と答えています。

70代や80代の経営者でも、準備が終わっていると回答した企業は半数以下です。事業承継が進んでいない実態が見えてきました。別の統計データでは、中小企業経営者の平均引退年齢が67歳から70歳で、事業承継の準備に5年から10年かかるとされています。

ほとんどの中小企業が、準備不足のまま事業承継を進めざるを得ない課題を抱えている状況です。事業承継の際のトラブルや、事業承継後に円滑な会社経営ができなくなるリスクは、会社の経営維持にとって深刻な課題になります。

日々の業務に追われていたり、まだ大丈夫だろうと事業承継の準備を後回しにしていたりすることも課題といえるでしょう。

後継者の決定状況

統計データで見る事業承継の実態調査⑥

日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2019年調査)」

出典:https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/sme_findings200124.pdf

後継者の決定状況を事業別にまとめた統計データでは、多くの企業が廃業を予定していると答えています。中小企業の事業承継の見とおしによると、後継者が決まっており後継者本人も承諾している「決定企業」はわずか12.5%にとどまっている状況です。

後継者が決まっていない「未定企業」が22.0%、「廃業予定企業」が52.6%、「時期尚早企業」が12.9%となるなど、事業承継が進んでいない実態が明らかです。「廃業予定企業」の割合は、2015(平成27)年調査の50.0%と比べてわずかながら上昇しているのも確認できます。

ここで課題となるのが、事業の将来性があるにもかかわらず後継者問題で廃業せざるを得ない中小企業が多い点です。別の統計データでは、廃業を予定していると答えた中小企業の半数近くが、今後も事業の継続と成長が可能な状態であると答えています。

将来性があるにもかかわらず、後継者問題によって廃業せざるを得ない課題は、その企業だけでなく取引先企業・地方経済・日本経済にとっても大きな損失です。

廃業理由

統計データで見る事業承継の実態調査⑦

日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2019年調査)」

出典:https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/sme_findings200124.pdf

実態調査による統計データを見ると、廃業を予定している理由として、「子どもに継ぐ意思がない」「子どもがいない」「適当な後継者が見つからない」といった後継者問題が原因の中小企業は、3割近くまで及んでいます。

統計データの「当初から自分の代でやめようと思っていた」も後継者問題が理由の経営者がいる事実を考慮すると、さらに割合が高いと考えていいでしょう。

「廃業予定企業」の廃業理由としては、「そもそも誰かに継いでもらいたいと思っていない」が43.2%と最も高い割合です。一方で、「子どもがいない」「子どもに継ぐ意思がない」「適当な後継者が見つからない」を合わせた後継者難による廃業も29.0%と高い水準でした。

「そもそも誰かに継いでもらいたいと思っていない」理由を詳しくみると、以下が上位を占めています。

「経営者個人の感性・個性が欠かせない事業だから」(27.2%)、「自分の趣味で始めた事業だから」(20.6%)、「高度な技術・技能が求められる事業だから」(17.7%)など、経営者の属人的な資源や能力に関連する理由を挙げる割合が高いです。

事業承継によって出てくる課題や、事業承継後に後継者が会社を経営していく際の課題などが容易に想像できることから、早い段階で廃業を決める経営者が多く見られます。

事業承継方法の選択状況

統計データで見る事業承継の実態調査⑧

中小企業庁「事業承継に関する現状と課題について」(平成28年11月28日)

出典:https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/kihonmondai/2016/download/161128kihonmondai03.pdf

上記の調査によると、直近10年で法人経営者の親族内承継の割合が急減しているのがわかります。つまり、会社を身内に承継させていない法人経営者が増えているのです。その代わり、従業員や社外の第三者といった親族外承継が6割超に達しています。

経営者の高齢化が進んでいる状況下では、事業承継を円滑に進める必要があります。しかし、多くの法人経営者は親族内承継を希望していない現状も浮き彫りです。親族内への承継だけではなく、第三者も含めた親族外承継を合わせて促進する必要があります。

第三者承継における悩み

第三者承継における悩み

中小企業庁「中小企業白書2013」

出典:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H26/h26/html/b3_3_2_3.html

上記の統計データは、第三者承継を実施する際の課題・悩みについて、中規模企業・小規模事業者別に表したものです。上位3つは以下が挙げられています。

  • 借入金の穂個人保証の引継ぎが困難
  • 後継者による自社株式の買取りが困難
  • 後継者による事業用資産の買取りが困難

これらの悩みの内容から推察して、第三者承継の中でも特に社内承継のケースで発生していると考えられます。社内承継とは、従業員や役員が後継者となる事業承継です。親族内承継が減る一方で、社内承継は実施数が増えてきています。

しかし、従業員や役員の場合、後継者の資質としての問題はなくても、財力・資金力の点に課題があることが、この統計データからわかりました。

事業承継(後継者)問題の相談相手

統計データで見る事業承継の実態調査⑨

中小企業庁「事業承継に関する現状と課題について」(平成28年11月28日)

出典:https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/kihonmondai/2016/download/161128kihonmondai03.pdf

上記の調査では、後継者問題の相談相手がいるかどうかをアンケート調査によって明らかにしています。最多の回答は「特に相談相手はいない」で、36.5%です。事業承継にあたり、相談相手がいない経営者が多いのが明らかです。

次いで、「顧問税理士・公認会計士」「社内役員」「親族」となっています。顧問税理士や公認会計士は事業承継の専門家ではないため、適切なアドバイスができていない可能性もあるでしょう。

事業承継の3つの方法

事業承継は、誰に事業承継するかによって3つの方法に分かれます。ここからは、事業承継の方法の違いを解説します。

親族内承継

親族内承継とは、現経営者が子どもや親族などの後継者に自社株式や事業用資産を相続・贈与の形で事業を承継することです。相続や贈与で親族に事業承継した場合は、後継者が多額の税金を払わなければならない問題が生じます。

経営者が生きているうちに自社株や事業用資産を事業承継する際は、贈与税がかかるのが通常です。贈与税は、年間110万円までの基礎控除分は課税されません。基礎控除分を超えると、累進課税によって課税されます。

相続税は、亡くなった経営者の財産を取得した場合の課税です。これも、遺産の総額が基礎控除額を超えた分に対して課税されます。相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数)」での算出です。

相続税や贈与税を負担に感じる後継者は、事業承継税制によって納税猶予や免除が受けられます。事業承継税制を利用すれば、自社株式の贈与税は全額猶予、相続税は80%猶予を受けることが可能です。事業承継税制を利用するには、5年間の事業継続要件を満たしたうえで届出を行う必要があります。

親族外承継

会社の役員や従業員などに事業承継する親族外承継(社内承継)の場合は、後継者が経営者から会社の株式を買い取るケースがほとんどです。後継者は株式の買取りに向けて、いかに資金調達を行うかが課題となります。

資金調達の方法は、銀行からの借入や経営承継円滑化法に基づいた対象の金融機関からの借入などが選択肢です。後継者候補となる役員の報酬を引き上げるのも有効でしょう。成長性の高い大規模な中小企業の場合は、ファンドやベンチャーキャピタルの支援を得られる場合もあります。

M&Aによる事業承継

親族や社内に後継者候補がいない場合は、M&Aによって第三者に事業を引継ぐことで後継者問題を解決する方法があります。M&Aを活用する場合は、いかに会社の価値を魅力的にするかが課題です。そのためには、時間をかけて企業価値を上げておく必要があります。

中小企業の場合、M&Aは、株式譲渡事業譲渡のいずれかの手法で行われるケースがほとんどです。株式譲渡は株主が変わるのみですませられるため、事業承継後もスムーズに事業を進めやすいメリットがあります。

一方で、会社を丸ごと引継ぐため、思わぬ債務やリスクまで引継ぐおそれがある点は課題です。事業譲渡は、必要な資産を特定して事業承継を行わなければなりません。事業承継のリスクは少なくなりますが、事業承継後のマネジメントをしっかりと行わなければいけない課題があります。

M&Aを行う場合は、専門家のサポートを受けるのがおすすめです。M&Aには、自社の企業価値評価や相手企業の選定、相手先との交渉から相手先の調査と、多岐に渡る専門的なプロセスがあります。

M&Aの専門家は、財務・税務・法務の知識、コミュニケーション能力などが備わっているため、安心してM&Aを任せられるでしょう。

M&Aの相談先をお探しの際は、ぜひM&A総合研究所へご連絡ください。M&A総合研究所では、M&Aに精通したM&Aアドバイザーが、案件をフルサポートいたします。

料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談をお受けしておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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事業承継の3要素

後継者問題を解決し、事業承継後も安定した経営を続けるには、事業承継を計画的に進めつつ、3つの構成要素を後継者に託す必要があります。事業承継の3要素とは、人的承継・資産承継・知的資産承継です。1つずつ解説します。

人的承継

中小企業庁は、人的資産として以下の要素を挙げています。

  • 経営権
  • 後継者の選定・育成
  • 後継者との対話
  • 後継者教育

経営権を渡す後継者を選定する際は、しっかりとした経営ビジョンを持っているか、経営者となる覚悟はあるか、事業への意欲はあるか、実務能力はあるかなどの評価基準を満たした人材を見つけるのが課題です。

この基準をクリアしたうえで、社内でさまざまな部門の業務を担当させる、責任ある地位を任せる、現経営者のノウハウや理念を直接伝えるなどの教育をします。他社での経験を積ませて人脈を増やす、自社以外の経営スキルを学ばせる、など方法はさまざまです。

資産承継

中小企業庁によると、資産とは以下の要素をさします。

  • 株式
  • 事業用資産(設備・不動産など)
  • 資金(運転資金・借入資金など)
  • 許認可

これらの資産が分散しないように、経営者は前もって個人資産や会社資産を整理しておくことが重要です。特に、個人事業主は事業用資産の分散リスクが大きな課題となります。対策していなかったために相続でもめるケースや、事業承継後にトラブルとなるケースもあります。

これらの資産をスムーズに引継ぐには、遺言などを法律に沿って確実な形で残すなど、専門家に相談しながら対策を講じておくとよいでしょう。

知的資産承継

中小企業庁によると、知的資産には以下の要素が該当します。

  • 経営理念
  • 経営者の信用
  • 取引先との人脈
  • 従業員の技術・ノウハウ
  • 顧客情報

会社の経営理念や経営者の信用などは、数字として目に見えにくい部分です。しかし、事業承継後も会社を維持・成長させていくためには重要な課題です。老舗企業などでは、新人研修で会社の歴史を学ばせる会社も少なくありません。

会社の知的資産を後継者へ目に見える形にして伝えれば、それまで会社が築いてきたものを生かせるでしょう。中小企業庁では、知的資産を後継者に伝える課題解決方法として、「知的資産経営報告書」や「事業価値を高める経営レポート」の作成を推奨しています。

それらを経営者と後継者がともに作成すれば、理念や思いを伝えることが可能です。

事業承継の手順

経営者が事業承継を検討し始めたら、スムーズでトラブルのない事業承継を進めるために手順を押さえましょう。

事業承継に向けた心の準備

まずは、経営者が事業承継を準備する必要性を実感しなければなりません。実態調査の統計データでも見て取れたように、日々の業務の忙しさ、後継者問題に対する認識の薄さ、相談先がわからないなどの理由で、多くの経営者が事業承継の準備に取りかかれていない現状があります。

支援機関へ早めに相談するなどして、後継者問題の解決と事業承継の準備に向けた心構えを作りましょう。

経営状況や経営課題の把握

事業承継の準備を進めるにあたって、会社の現在の状況や課題を把握することが重要です。経営者が頭の中で把握しているだけでは十分ではありません。後継者や従業員と共有するために、現状と課題の見える化を行いましょう。

事業の強み・弱みを洗い出し、会社の体質強化や改善に向けて現状と課題を把握してください。会社の資産と経営者個人の資産を区別し、後継者に何が残せるかをしっかりと分類すれば、後継者の不安が減ります。

また、財務状況を詳細かつ明確にし、金融機関や取引先との信頼関係をさらに強化しましょう。

企業価値の向上

会社の現状と課題が把握できたら、次は実際に企業価値の向上に努めます。会社の強みをさらに磨き上げたり、事業の弱みを強みに変える方法を見つけ出したり、業務の効率化を進めたり、従業員のモチベーションを上げたりと、しなければいけない課題は山積みです。

事業計画立案策定

事業承継に向けて事業承継計画を作成します。事業承継計画では、会社の10年後を見据えて経営方針を固めることがポイントです。事業承継計画を作る際は、経営者が1人で考えるのではなく、後継者候補や従業員も巻き込んで効果を高めましょう。具体的には、以下の過程を踏みます。

  • 会社の中長期目標
  • 事業承継に向けた経営者の行動
  • 事業承継に向けた後継者の行動
  • 事業承継に向けた会社の行動
  • 関係者との事業承継計画の共有

会社の中長期的な計画やビジョンを作る際は、大まかな方向性だけでなく具体的な数値も決めておくことが大切です。中長期の事業計画が決まったら、経営者が行動を起こします。具体的には、後継者の選定、専門家への相談、後継者の教育、関係者への公表などです。

事業承継計画は、取引先や金融機関などにも共有し、事業承継後の経営や後継者に対する信用を得られるよう努めましょう。

後継者選定・育成

経営者が後継者を選定し、事業承継計画も完成したら、続いて後継者も行動を起こします。社内外でさまざまな知識や実務を学びながら、経営者としての能力と社内外の関係者の信用を得ていくのが一般的です。

地方自治体の経営者を育成するセミナーに参加するのも効果的でしょう。また、事業承継の際に発生する相続税や贈与税への準備を同時並行で進めます。

企業資産整理

企業資産の整理とは、主に経営権の分散を防止するための準備を進めることです。具体的には、定款を変更し、経営者へ退職金を支給するための資金準備も始めます。自社株の集約や、経営者の資産と会社の資産を明確に分ける作業も必要です。

【関連】個人事業をM&Aで事業承継する方法と問題点まとめ!| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

2. 事業承継に関する課題

事業承継に関する課題

事業承継に関する課題は、人、お金、法律などさまざまな範囲に及びます。事業承継の際に起こり得る課題を見ていきましょう。

①後継者問題

中小企業の後継者不在の問題は深刻化している状況です。後継者となる意思を持った人間がいない、後継者としてふさわしい資質を持った人間がいないなど、多くの中小企業が後継者問題で悩んでいる現状があります。

見つからない

後継者問題の課題として、後継者が見つからないことが課題です。従来は中小企業の事業承継というと、経営者の子どもが引継ぐケースがほとんどでしたが、近年は事業承継したがらない子どもが増え、また少子化により子ども自体がいないケースもあります。

経営者も無理に子どもに継がせようとしなくなり、今後、子ども以外の選択肢を持たなければ後継者候補が見つからない事態が続いてしまうでしょう。

資質・能力不足

後継者の資質や能力不足によって事業承継ができないケースもあります。後継者の育成に必要な期間は、一般的に5~10年程度です。子どもや親族を後継者として育てる準備ができている企業は、多くありません。

日々の仕事に追われ、後継者の育成を先送りにしている経営者も多いのが実情です。昨今は、社内の優秀な従業員や役員を後継者として事業承継するケースも増えていますが、経営者としての資質がなかったために従業員や顧客からの信頼を失ってしまう事例も見られます。

後継者の経営者としての能力をいかに伸ばすかが、後継者問題の課題です。

後継者確立までに立ちはだかる課題

後継者が親族のケースでは、家族問題により相談内容が繊細になり、専門家が立ち入りにくい部分が生まれて、後継者問題が解決しにくい面があります。

後継者が親族でないケースでも、後継者不足である事実が自社の弱みにつながることもあるので、公にしたくない状況になることもあるでしょう。

親族以外の従業員や社外の人へ後継者の対象を広げるのは、後継者問題を解決する一つの方法です。しかし、下記の課題は立ちはだかるといえるでしょう。

  • 親族外へと範囲を広げても後継者にしたい人材がいるとは限らない
  • 後継者にしたい人材がいても育成の時間が必要
  • 新しい人材を後継者にすると関係者との調整や理解を要する
  • 今までの事業における経営者の力量などが大きい場合、事業承継で事業の状況が一時的に悪くなるリスクが上昇する

上記をクリアしても、後継者は自社株を引継ぐための資金がいります。後継者へ資金を融資する措置もありますが、資金融資には審査があるので、必ず受けられるとは限りません。

②廃業件数が増えている

東京商工リサーチによると、企業の倒産件数は2008年以降減少し続けているのに対して、休業・廃業件数は増加傾向にあります。2020年には、休業・廃業件数が過去最高となりました。

理由

廃業件数が増えている理由として、経営者の高齢化があります。帝国データバンクの「特別企画:全国企業「休廃業・解散」動向調査(2021 年)」によると、休廃業・解散を行った企業の代表者における年齢は、70.3歳(2021年平均)でした。初めて70歳を超えています。

多くの中小企業経営者がまもなく引退年齢を迎えるか、すでに超えている状況です。当初から自分の代で廃業しようと考えていた経営者も多く見られます。事業承継の課題は深刻さを増しているといえるでしょう。

③税負担が大きい

事業承継で親族の後継者が株式を引継ぐと、贈与税や相続税を負担しなければなりません。税負担を軽減する制度もありますが、さまざまな条件があるため、あらかじめ専門家に相談するなどしてしっかりと対策しておく必要があるでしょう。

ぎりぎりまで対策していなかったため、税金の支払いに苦しむケースも多いです。経営者が自分の子どもや親族に税金を負担させることを苦痛に感じる場合や、子どもが税負担を理由の1つとして事業承継を嫌がる場合もあるため、早めに対策を講じましょう。

事業承継税制のデメリット

事業承継税制とは、後継者が自社株式を相続や贈与で取得した際に、一定の条件を満たせば納税が猶予されたり免除されたりする制度です。適用されれば非常に大きなメリットがあります。ただし、手続きが面倒な点や適用条件が厳しい点はデメリットです。

申請したものの、最終的に適用条件を満たせなかった事例も多く見られます。そこで、2017(平成29)年度の税制改正によって条件が緩和され、以前よりも適用条件を満たしやすくなりました。しかし、申請すれば適用されるわけではないため、課題の残る制度といえます。

④個人保証の引継ぎ

中小企業が銀行からお金を借りる際は、経営者が連帯保証人として個人保証するため、円滑に融資が受けられるメリットがあります。しかし、この個人保証が事業承継を妨げる課題でしょう。事業承継の際、後継者にも個人保証が継続されるため、後継者が負債を抱えなければなりません。

そこで、後継者に負債を抱えさせないために、経営者は銀行に個人保証を外してもらうように依頼するのが一般的です。しかし、銀行としては、後継者の信用度に不安があるため、個人保証の解除に消極的な姿勢を取る場合があります。

この課題を解消するために、日本商工会議所と一般社団法人全国銀行協会が「経営者保証ガイドライン」を策定しました。中小企業の経営状況によっては、個人保証を解除するよう求めるものです。ただし、経営者保証ガイドラインに強制力はありません。

それでも最近はガイドラインの主旨が浸透し、銀行が個人保証の解除に応じるケースや、解除はされなかったものの理由を具体的に説明してもらえるケースが増えつつあります。課題は残っていますが、以前と比べて改善が見られるようになりました。

⑤自社株買取りのための資金不足

親族が事業承継する際は、相続や贈与によって自社株を取得します。役員や従業員などが事業承継する場合は、現経営者から自社株を買い取ることがほとんどです。この買取り資金の調達が、後継者にとって大きな課題となります。

資金調達の方法は、多くが金融機関からの借入でしょう。しかし、経営者の交代は会社の信用力低下につながるため、借入が難しくなる懸念があります。この課題に対処するために活用したいのが「経営承継円滑化法」です。

これにより、資金不足で事業承継が困難である中小企業が都道府県知事の認定によって金融支援を受けられます。都道府県知事や金融機関などの審査は必要ですが、自社株買取り資金の融資が受けやすくなるでしょう。

⑥経営権の分散

事業承継する際は、後継者に自社株式を集中させなければ、さまざまな問題が生じるリスクがあります。具体的には、少数株主から株式買取りを要求されたり、突然、経営者や役員に対して株主代表訴訟を起こされたりするなどのリスクです。

事前に自社株式の分散防止対策を打っておかないと、株式を後継者に100%集中させるのが難しい場合があります。具体策としては、自社株式の生前贈与や安定株主の導入、遺言書の作成などです。

これらの対策には専門家のアドバイスが欠かせず、資金・時間がかかります。準備するつもりでいながら、いつのまにか手遅れになってしまわないよう注意しましょう。

⑦株式が集まらない

事業承継によって株式が分散してしまう課題のほかに、株式が集まらない課題もあります。1990(平成2)年以前に設立された株式会社の場合は、他人名義で取得した名義株の株主が存在する場合があるため特に注意が必要です。

名義株主の所在が不明なまま放置していると、突然、名義株主が現れて権利を主張し、トラブルになるケースもあります。株主名簿に名前はあっても現在の所在地がわからずに連絡が取れないトラブルは、会社の設立が古いほど発生しやすい課題です。

所在不明の株主が多いほど、リスクは高まります。5年以上に渡り連絡が取れない株主の株式は処分が可能ですが、条件や手続きが複雑であるため、弁護士への相談が必須です。

⑧従業員の雇用維持

近年は親族や社内の人間ではなく、M&Aを活用した第三者への譲渡も事業承継の方法として受け入れられるようになりました。ただし、経営者が第三者に会社を譲渡する際、従業員の雇用が守られるかどうかは大きな課題でしょう。

他の企業に事業を承継すると、さまざまな課題が生まれます。労働条件の変化・業務内容の変更・経営方針の転換などによって、従業員がこれまでよりも悪い条件で働かされるケースや、会社を辞めざるを得なくなるケースもあるかもしれません。

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3. 事業承継の課題を解決できない場合のデメリット

事業承継の課題を解決できない場合のデメリット

経営者の高齢化・後継者問題・廃業件数の増加傾向など、事業承継の課題はさまざまです。ここでは、これらを解決できない場合、どのようなデメリットが考えられるのか確認しましょう。

日本では、全国の企業のうち中小企業の数が圧倒的な割合を占めています。日本経済を支えているのは、中小企業といえるでしょう。その中小企業が事業承継できずに休廃業が進めば、日本経済全体の縮小が進むことは想像に難くありません。

休廃業などにより会社が存続できないとなれば、これまで培ってきた技術・ノウハウ・雇用が失われてしまいます。これは、日本全体の生産性低下の問題につながりかねません。この課題を解決すべく、早期の事業承継対策が急務といえます。

4. 事業承継の課題の解決策

事業承継の課題の解決策

事業承継のさまざまな課題について、専門家の助けを受けることなく解決するのは難しいです。課題に応じて適切な専門家に相談するのが必要不可欠といえます。

経営者にとって身近な機関を挙げると、商工会・商工会議所・地元の金融機関・顧問税理士・弁護士・公認会計士が相談しやすい相手です。国の支援機関では、各都道府県に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターや、よろず支援拠点などが無料で相談に応じてくれます。

M&Aによって第三者に事業を引継ぐ場合は、M&A仲介会社が一番の相談先です。これらの専門家の力を最大限に活用することが、事業承継の成功につながります。そのほか、事業承継・引継ぎ補助金の活用も、課題解決のための解決策の1つです。

事業承継・引継ぎ補助金とは、事業承継をきっかけに新たな取り組みを行う中小企業および、事業再編・事業統合に伴う経営資源の引継ぎを行う中小企業などを支援する制度をさします。

令和3年度補正予算の事業承継・引継ぎ補助金は、「経営革新」「専門家活用」「廃業・再チャレンジ」の3種類で構成されており、経営革新には「創業支援型」「経営者交代型」「M&A型」の3種類、専門家活用には「買い手支援型」「売り手支援型」の2種類です。

類型ごとに補助上限額や要件などが異なるため、どの類型に該当するか確認したうえで交付申請を行う必要があります。たとえば、経営革新の類型を活用する場合、補助上限額は600万円です。専用のサイトがあるので、そちらで詳細を確認できます。

事業承継M&Aの手法

事業承継M&Aの手法として、ここでは株式譲渡と事業譲渡について見ていきましょう。

株式譲渡

売却側が持つ株式を買収側が受け取り、対価に現金を支払う手法が株式譲渡です。特定の部門のみといった譲渡はできません。包括的な譲渡になります。株式の売却なので、取締役会や株主総会から承認を得ます。次に紹介する事業承継と比べて、手続きにかかる手間は少ないです。

事業譲渡

会社が運営する事業を売買する手法が、事業譲渡です。包括的な譲渡ではなく、柔軟な譲渡ができます。特定の事業のみ、AとBの事業のみ、すべての事業、など範囲を決めて譲渡することが可能です。一部の経営を自社で続けることもできます。そのため、廃業も避けられるでしょう。

事業を個別に譲渡するので、手続きは煩雑になりやすいです。例を挙げると、譲渡において従業員との雇用契約や取引先の承認を個別に受ける必要があります。

【関連】事業承継M&Aとは?M&Aと事業承継の違い・メリットや流れを解説

M&Aマッチングサービスの活用

M&Aを行いたくても、自社を評価してくれる会社が見つからなければM&Aが実現しません。また、M&Aを申し出る会社があっても、価格が適切でなければほとんどの経営者は断ります。納得できるM&Aには、より良い相手を見つけることが重要ですが、よい相手に出会えるまでに、時間がかかることもあるでしょう。

このときに活用したいのが、M&Aマッチングサービスです。後継者不在で廃業を予定している会社は、利用してみましょう。質の高いM&Aマッチングサービスを見つけるポイントは下記です。

  • 信用できる会社で倒産などの恐れがない
  • 取り扱い件数や業種が多い
  • じっくり話を聞いてくれる
  • 実績がある
  • 自社と似たケースの実績がある

上記について、問い合わせフォームやメールなどで問い合わせ、複数のM&Aマッチングサービスを確認しましょう。

中小企業庁運用の「M&A支援機関」の登録を受けているかも確認してください。M&A支援機関認定の制度は、中小企業が安心してM&Aを行う基盤を築くために設けられています。登録企業は、中小M&Aガイドラインを遵守しなければならないので、しっかりとした対応が見込めるでしょう。

5. 事業承継の課題・現状に関する相談先

事業承継の課題・現状に関する相談先

事業承継に関する課題は、それぞれ適切な機関への相談が必要です。中小企業庁が発表した事業承継マニュアルでは、課題ごとの相談先を以下のように紹介しています。
 

承継準備を始めるには 商工会、商工会議所、中央会、金融機関、 士業など専門家、よろず支援拠点
承継前の総点検をするには 商工会、商工会議所、中央会、士業など専門家、 よろず支援拠点
後継者に対する教育は 中小企業大学校
相続税・贈与税の相談 税理士
株価に関する相談 士業など専門家
資金調達(株買取)の相談 金融機関、信用保証協会
個人保証を外すには 金融機関、中小機構
債務を整理するには 金融機関、中小企業再生支援協議会、 弁護士
承継後の事業見直しをするには 商工会、商工会議所、中央会、士業など専門家、 よろず支援拠点
後継者を探すには 事業承継・引継ぎ支援センター
円滑に廃業するには 士業など専門家、商工会、商工会議所、 よろず支援拠点

事業承継には、親族内承継・親族外承継・M&Aによる事業承継などさまざまな方法があります。M&Aによる事業承継の場合、まず相手先を探さなければなりません。M&Aによる事業承継を検討している場合は、一貫支援が受けられるM&A仲介会社をおすすめします。

M&A総合研究所は、中小規模のM&Aを主に取り扱うM&A仲介会社です。知識・支援実績の豊富なM&Aアドバイザーが、親身になって案件をサポートいたします。

料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談を行っておりますので、M&Aによる事業承継をご検討の際は、お気軽にお問い合わせください。

【関連】M&A・事業承継ならM&A総合研究所
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6. 事業承継の課題と現状まとめ

事業承継の課題と現状まとめ

事業承継の課題と現状を、実態調査による統計データも見ながら、さまざまな面から紹介しました。経営者の高齢化が進み、多くの中小企業が今すぐに事業承継の準備を進めなければ間に合わない状況です。

しかし、後継者がいない深刻な課題もあり、中小企業の廃業件数は増え続けています。経営者にとって事業承継の課題は大きな不安ともなるため、早い時期から計画的に進めることが大切です。

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