2021年03月23日更新
【平成30年改正】事業承継税制のメリット・デメリットまとめ!

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。
デメリット改善のため平成30年改正が行われた事業承継税制は、中小企業後継者の自社株取得に関し相続税・贈与税を納付猶予する特例です。平成30年改正事業承継税制特例の内容とまだ残るデメリット、国税庁や認定支援機関との関わりなどについて解説します。
目次
1. 事業承継税制を利用するには
中小企業の事業承継を行う際に、後継者の税金負担を考慮して事業承継税制を利用したいと考えている経営者も多いでしょう。しかし、事業承継税制を利用するには、後継者とともに制度の内容について、しっかり理解することが重要です。
本記事では、以下の内容で事業承継税制について話を進めます。
- 事業承継税制について
- 事業承継税制平成30年改正の内容について
- 事業承継税制のメリットとデメリットについて
- 個人事業者向け事業承継税制について
事業承継税制を活用する当事者となる中小企業の後継者は、特に内容を熟知しましょう。
2. 事業承継税制とは
まずは、事業承継税制の概要を知りましょう。事業承継税制とは、非上場の中小企業において、現経営者から後継者へ円滑に事業承継が進むことを側面援助する趣旨で制定された制度です。
端的には、中小企業の後継者が新たな経営者となるべく取得した自社株式に関して生じる、相続税・贈与税の納付猶予が受けられるものですが、その詳細について以下に順を追って記します。
定義
事業承継税制とは、非上場である中小企業の後継者が、その株式を先代経営者から相続もしくは贈与されたときに課税される相続税・贈与税について、手続きにより都道府県知事の認定を受けることができれば、猶予もしくは免除される特例です。2008(平成20)年に制定されました。
事業承継税制に限らず、納税に関しては国税庁が所管していますが、事業承継税制の対象者は中小企業経営者であるため、中小企業庁でも事業承継税制活用の相談に対応しています。したがって、国税庁、中小企業庁どちらのホームページでも詳細の閲覧が可能です。
なお、事業承継税制の適用を受けることができる会社については、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」で定められていますが、詳細は後述します。
目的
事業承継税制が創設された目的は、中小企業の事業承継を促進するためです。近年、中小企業経営者の高齢化が進行しており、帝国データバンクの調査「全国社長年齢分析(2020年)」では、2020(令和2)年の中小企業経営者の平均年齢は61.1歳となっています。
同じく帝国データバンクの『全国企業「後継者不在率」動向調査(2020年)』によると、後継者不在状況が全体の65.1%で、円滑な事業承継実施が危ぶまれている状況です。
後継者がいないまま、引退年齢を迎えた経営者の選択肢は会社の廃業しかありません。そのような状況が進行し続ければ中小企業は減少してしまい、地域経済へ打撃を与え失業者が増加するでしょう。
そこで政府は、この状況に歯止めをかけるために、税制の面から後継者を支援することで事業承継を促進させるべく、2008年に事業承継税制を創設し、国税庁、中小企業庁も協力体制を敷いています。
そして、事業承継税制をより活用しやすい内容に変更した特例が、平成30年改正です。
承継の種類
ここで、税制の話とは別に、事業承継の本来の意味合いについて考えてみましょう。事業承継の内容を分別すると、その内容は以下の2つに分けられます。
- 人的事業承継
- 物的事業承継
それぞれの意味合いを確認しましょう。
人的事業承継
人的事業承継には、会社の経営権だけでなく、ノウハウなど知的財産の承継も含みます。
事業は、従業員の協力や今まで培ってきたノウハウなどをうまく使いこなせないと成り立ちません。つまり、事業承継が完了した後、後継者が人的事業承継で引き継いだものをうまく使いこなす必要があります。
そのため、先代経営者は、後継者の教育をしっかり行うことが必要です。
なお、中小企業白書の「事業承継・廃業 ―次世代へのバトンタッチ―」によると、後継者の教育に要した期間は5~10年の回答が最も多い結果でした。つまり、事業承継は長期間にわたって行うため、計画性が求められるといえるでしょう。
物的事業承継
物的事業承継とは、自社の株式だけでなく、事業用の資産や運転資金も含まれます。通常であれば事業資産は会社の所有物であり、運転資金は会社が借り入れるものです。
しかし、非上場の中小企業では、資産が経営者名義であったり、借入金に経営者が個人保証をしていたりするなど、個人と会社が線引きされていないケースも少なくありません。
そのような状態で相続が発生すると、自社株式も含めトラブルや混乱となるため、現経営者は後継者への相続について、抜かりなく対策を立てる必要があります。
特に自社の株式については、経営権に関わる根本的な存在なので、生前贈与や除外合意・固定合意などの対策をしっかりと実施しましょう。
3. 事業承継税制のメリット
ここからは、会社の状態、事業承継の方法など、それぞれのケースにおける事業承継税制のメリットについて紹介します。
どのような企業にメリットがあるのか
事業承継税制の適用がかなえば、中小企業の後継者は相続税・贈与税の納付が猶予してもらえます。
2019年の経済産業省による「中小企業・小規模事業者向け 事業承継の集中支援について」によると、平成30年改正以前は年間約400件程度だった申請が、年間約6,000件の申請に数字が跳ね上がりました。
それだけ、事業承継税制が平成30年改正の特例でメリットが拡大したことを示しています。そこで、どのような中小企業であれば、そのメリットを享受できるのか、以下に2つの要素を提示するので確認してください。
自社株評価額1億円以上
自社株の評価額が1億円以上の場合、事業承継税制のメリットがあります。その理由は、自社株評価額が1億円以下であれば、相続税の控除で対応できる可能性があるからです。
相続税の基礎控除額は3,000万円+(600万円×法定相続人の数)と定められています。つまり、法定相続人が3人いた場合、基礎控除額は4,800万円です。
また、贈与を行うと相続時精算課税制度を適用でき、1人につき2,500万円まで特別控除されます。3人に相続を行う場合、最大7,500万円分の控除を受けられるのです。
これらの控除を使うことで、相続税もしくは贈与税の額を軽減できます。しかし、自社株の評価額が1億円以上の場合、これらの控除を用いても納税額がかなりの額になるでしょう。その場合は、相続税・贈与税が猶予される事業承継税制の利用を考えるべきだといえます。
右肩上がり
現在の事業業績が右肩上がりである中小企業も、事業承継税制の利用を考えるべきでしょう。
事業承継税制は、5年間の事業継続ができれば、相続税・贈与税の納付猶予が得られる制度です。そのため、事業承継税制を利用し始めてから5年間の業績が右肩上がりになると考えられる場合は、事業承継税制を利用するのが得策です。
親族内承継の場合
親族内承継の場合に事業承継税制を利用すると、後継者に引継ぎしやすいでしょう。事業承継税制で子供や配偶者など身内である後継者への負担を減らせるからです。具体的な負担軽減内容は、以下です。
- 相続税・贈与税が猶予されるため、すぐに納税する必要がなくなること
- 雇用要件における事実上の撤廃による負担の軽減
- 事業の売却・廃業時に納税額の再計算による差額分の免除
特に平成30年改正により後継者の負担は今までよりかなり軽減されたので、より大きなメリットが得られる状況です。
親族外承継の場合
親族外承継とは、社内の役員や従業員への事業承継のことです。社内承継ともいいます。この場合、会社を引き継ぐ際には株式取得のために、その対価を支払わないと事業承継できません。そのため、親族外の後継者は莫大な資金が必要です。
しかし、対価の支払いは不要で、とにかく社内の人材に事業を引き継いでもらいたいと考える経営者もいるでしょう。
そのような場合、経営者から後継者に株式を贈与することが考えられます。この贈与に対して事業承継税制を利用すると、贈与税を100%猶予扱いにできます。
また、事業承継税制を利用するときに限り、親族外承継で相続時精算課税制度を利用できます。通常、相続時精算課税制度は親族内のみの適用です。しかし、事業承継税制を利用すると、特例として親族外の承継時でも適用を受けられます。
つまり、親族外承継においても、事業承継税制を利用することで後継者の税負担を軽減できるのです。
M&Aの場合
M&Aにより事業承継を行う場合は、事業承継税制の適用外です。しかし、売却側は、事業を売却することで相応の対価として現金収入を得られるメリットがあります。仮に廃業と比較すれば、金銭面では大きなメリットです。
4. 事業承継税制のメリットを最大限生かすなら
事業承継税制を利用する場合は、専門家のサポートを活用することをおすすめします。
M&A総合研究所は、中小・中堅企業のM&Aを主にサポートする仲介会社です。
M&A総合研究所には、豊富な知識と経験を持つM&Aアドバイザーが在籍しており、案件をフルサポートいたします。「後継者がいないため事業承継できない」といったお悩みがある場合も、ぜひご相談ください。
また、料金システムは完全成功報酬制(譲渡企業のみ)を採用しております。無料相談を行っておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。
5. 事業承継税制のデメリット
大きなメリットばかりが感じられる事業承継税制ですが、少なからずデメリットもあります。以下、事業承継税制のデメリットについて順を追って確認しましょう。
納税猶予取り消し
事業承継税制が適用されたとき、相続税・贈与税はあくまでも猶予されるだけです。要件を満たし続ければ結果的に免除と同等の状態にはなりますが、表面上は猶予措置であることに変わりはありません。
つまり、猶予措置が取り消された場合、相続税・贈与税は即時、国税庁に支払わなければならないデメリットもあります。
取り消し理由
事業承継税制のデメリットとなる適用取り消し条件は、適用開始から5年間までと、5年目以降では異なります。
適用開始5年間の中で事業承継税制の適用が取り消されるのは、適用要件のどれか1つでも満たせなくなったときです。例えば、会社が成長して上場した場合や、後継者が会社の代表者でなくなったケースなどが該当します。
適用開始から5年が経過すれば要件は緩和されますが、一定の条件に達すると相続税・贈与税が猶予されなくなる点は注意が必要です。
具体的には、引き継いだ事業の年間収入がゼロになるケース、資本金・資本準備金が減少するケース、引き継いだ会社が解散・消滅または子会社化されるケースなどが該当します。
上記以外でも、事業承継税制の適用外となる条件・状況があるため、詳細な具体例の確認などは、中小企業庁や国税庁に問い合わせるとよいでしょう。中小企業庁・国税庁ともに、事業承継税制についての説明は、ホームページに記載しています。
特に国税庁のホームページでは、国税庁制作による事業承継税制に関するパンフレットや国税庁の見解がわかるQ&A集、その他事業承継税制の手続き関連など、数多くの資料が閲覧可能です。個人で詳細を調べる際は、一度、国税庁のホームページを見てみましょう。
※参考:事業承継税制(国税庁)
利子税
利子税とは、税金を期限以内に収められなかったとき、本来支払うべき税金とは別に納める必要がある税金です。
事業承継税制の適用中は納税が猶予されますが、その適用が取り消しとなったとき、単に本来の税額を納付するだけでなく、猶予されていた期間分の利子税が課税されます。
当然ながら、利子税は猶予されていた期間が長いほど納税額が多くなる点にも注意が必要です。これもデメリットといえるでしょう。
親族内承継の場合
親族内承継で事業承継税制を利用する場合にもデメリットが存在します。それは、事業承継のために親族内における遺産の分配に偏りが生じ、相続争いに発展する可能性です。
相続争い
事業承継税制を利用するためには、全発行済み株式のうち半分以上を保有する必要があり、経営者はそうなるように後継者に相続させるでしょう。
しかし、親族内で遺産を相続する場合には法定相続分が定義されており、その分を受け取れないときは遺留分を請求できます。そのため、経営者の死後、親族内で相続争いが起こる可能性があるのです。
相続人には遺産をきちんと分配し、かつ後継者には自社株式を引き継ぐことができるように相続対策を行う必要があるでしょう。その対策例として、除外合意や固定合意があります。
除外合意とは、後継者に贈与した自社株式は遺留分の請求ができないと決める合意のことです。また、固定合意とは、贈与された自社株式について、遺産分配時の株式価格を贈与時の評価額として計算するように決める合意を意味します。
いずれも自社株が相続争いの原因にならないための対策です。なお、いずれの合意も法定相続人全員の合意が必要となるため、比較的ハードルが高い対策方法といえるでしょう。しかし、デメリット排除のためには、何とかしておくに越したことはありません。
親族外承継の場合
親族外承継の場合、後継者は事業を引き継ぎたい強い意思が必要です。事業承継税制は、引き継いだときの相続税・贈与税の負担を軽減することが目的です。
後継者が親族外の場合、そもそも後継者にならず、株式の贈与を受けなければ、贈与税を負担する必要はありません。このように感じる後継者候補が多いと、なかなか事業承継は進みません。
事業承継税制は、親族外承継の促進に効果はあります。しかし、永続的に煩雑な手続きが続く事業承継税制の適用を受けてまで後継者になる気持ちのある後継者候補が多くいるかどうか、という点がデメリットになり得ます。
M&Aの場合
M&Aにより事業・会社を売却して事業承継を実現させる場合、事業承継税制の適用を受けることはできません。つまり、M&Aによる事業承継の場合は、現行の事業承継税制では、その恩恵を受けられないことがデメリットです。
6. 事業承継税制は使い勝手が悪い?その理由
事業承継税制が創設されてから、「難しくて活用しにくい」という声もあります。どのような点が、積極的な活用を阻むのか見ていきましょう。
制度自体が複雑
事業承継税制は、制度自体が複雑です。適用を受けるには、いくつかの要件を満たさなければなりません。
例えば、一定期限までに都道府県知事の認定を受ける、前経営者は会社の代表権を持ち、かつ承継直前で議決権の50%超を有す(贈与は過去会社の代表権を持つが贈与時には代表から退いている)、などです。
要件自体も複雑であり、実務で活用するときの要件はより細かくなるので、全要件をしっかりと満たしているかどうかの判断だけでも大変だといえます。
手続きが非常に煩雑
事業承継税制は実務での手続きも煩雑で、例を挙げると、相続で今の事業承継税制適用を受けるには、以下の手続きを迅速に進める必要があります。
- 2023年3月31日までに特例承継計画を都道府県庁へ提出
- 後継者が自社株式を相続
- 相続開始の日以後8ヵ月以内に都道府県知事の円滑化法認定を受ける
- 相続開始の日以後10ヵ月以内に相続税の申告書を税務署に提出し担保を提供
- 年次報告書・継続届出書を年1回、都道府県庁と税務署に提出
相続では、被相続人個人の準確定申告書提出や遺言書の確認など、他にもいろいろな手続きを行います。
遺産分割協議が難しくなると、相続税の申告書を期限内に提出できない可能性もあり、事業承継税制をスムーズに利用するには事前準備と円満な相続が欠かせません。
7. 事業承継税制の平成30年改正の内容
事業承継税制は、平成30年改正として特例措置が加えられました。ここでは、平成30年改正事業承継税制の内容について、細かく見ていきます。
なお、事業承継税制の平成30年改正は2027(令和9)年12月31日までの時限立法措置です。また、従来からある制度が全面的に改正されたのではなく、従来制度は一般措置として残り、そのうえで時限措置の特例が付加された状態です。
つまり、現在の事業承継税制は、一般措置と特例が並列しているのです。以下の内容については、その点を踏まえてご覧ください。
納税猶予対象株式
これまでの事業承継税制における納税猶予対象の株式は、承継した自社株式の3分の2を上限としていました。しかし、平成30年改正の特例では、承継した自社株式全てを対象とし、適用範囲を広げています。
納税猶予税額
事業承継税制における納税猶予税額について、これまでは相続税が80%、贈与税が100%猶予でした。しかし、平成30年改正の特例では、相続税・贈与税ともに100%猶予となりました。
後継者の人数
これまでの事業承継税制では、1人の先代経営者から1人の後継者へ相続もしくは贈与したときに限り、事業承継税制の利用が可能でした。しかし、近年の実態として、後継者の負担を減らすために共同で会社を引き継ぐ事例も増えています。
また、自社株式を保有する人が先代経営者だけでなく、配偶者や親族関係者も保有する場合があるのも実状です。このように、経営の引継ぎは一元的ではないため、平成30年改正の特例では、対象株式の引継ぎができる株主や後継者の人数を増やしました。
具体的には、親族外を含む複数の株主から、代表者である後継者(最大3人まで)への引継ぎも事業承継税制の対象です。
雇用確保要件
新たな経営者となった後継者が納税猶予状態を継続させるために、従業員の雇用状況について定められた要件がありました。
これまでの事業承継税制では、事業承継後5年間の平均で、雇用の8割を維持する必要がありましたが、平成30年改正の特例では、雇用の確保要件は実質的に撤廃されました。
ただし、5年間の平均で雇用の8割を維持できなかった場合、その理由を報告する必要はあります。また、経営悪化により雇用の8割を維持できなかった場合は、認定支援機関による指導や助言が必要とされました。
この認定支援機関とは、中小企業庁が認定した中小企業の経営を支援できる機関のことです。認定支援機関の別称として、経営革新等支援機関とも呼ばれます。
具体的には、商工会・商工会議所や金融機関、公認会計士や中小企業診断士などの士業事務所などが認定支援機関として認められています。
認定支援機関は、2020年4月24日の時点で全国に35,537機関あり、少し探せば身近で認定支援機関が見つかるでしょう。
納付金額の再計算
事業承継税制を利用した場合、会社の経営状況を維持するよう努力する必要があります。また、事業承継税制の一定要件を満たせなくなると、猶予されていた相続税・贈与税を国税庁に支払わねばなりません。
猶予されていた相続税・贈与税の国税庁への納付について、これまでの事業承継税制では、事業承継時の株価を基に納税額を計算し、その額を納税となっていました。
しかし、昨今の経営環境変化が速いことや、後継者の不安解消を意図して、この部分についても改正となりました。
平成30年改正の特例では、経営が維持できなくなった場合において、会社の廃業・売却などの際に株価を基に納税額を再計算し、猶予されていた納税額との差額を減免することになりました。
要件
平成30年改正の特例では、事業承継税制の適用要件も緩和されました。緩和された要件について詳しく見ていきましょう。
特例承継計画の提出
特例承継計画とは、認定支援機関による指導および助言を受けて、会社が作成する経営計画のことです。これまでの事業承継税制では、提出義務はありませんでした。
しかし、平成30年改正の特例では、適用される会社数の拡大にともない、認定支援機関との連携も含めて特例承継計画の提出を求めることになったのです。認定支援機関との相談のうえ提出する特例承継計画には、主に以下6つの内容を記載します。
- 会社について
- 特例を利用する経営者について
- 特例を受ける後継者について
- 事業承継が行われるまでの経営計画について
- 事業承継後5年間の経営計画について
- 認定支援機関による所見
上記の④については、事業承継を行った後に事業承継税制を利用する場合、記載する必要はありません。また、⑤の経営計画では、先代経営者と後継者が話し合い、事業の維持・発展のために必要と考えられる事柄について記載します。
売上額など具体的な目標数値は、決まっていなければ記載しなくてもよいことになっています。いずれにしても、記載内容は認定支援機関とよく相談しましょう。
経営者の要件
平成30年改正の特例では、先代経営者の要件に変更はありません。従来と変わらない、事業承継税制利用における経営者の要件は以下の2つです。
- その会社の代表者であること
- その会社の議決権を半分以上有し、かつその会社における筆頭株主であること
後継者の要件
後継者については先述のとおり、平成30年改正の特例で最大3人まで適用が広げられました。事業承継税制上、後継者として認められる要件には以下の3つがあります。
- 事業承継後、会社の代表者になること
- 事業承継後、その会社における議決権を半分以上有し、かつその会社の筆頭株主になっていること
- 複数人が後継者となる場合、後継者が2人のときはその2人で自社株式の保有割合が1位と2位であること、後継者が3人のときはその3人で1位から3位であること
なお、贈与税について事業承継税制を利用する場合は、1つ要件が加わります。それは、後継者が20歳以上で、かつ3年間以上その会社における役員であることです。
認定対象会社の要件
事業承継税制における認定対象会社の要件は、中小企業庁が定める中小企業の定義に当てはまらなければなりません。以下の表で、資本金または従業員の基準を満たしていれば、中小企業として認定されます。
業態分類 | 資本金基準 | 従業員基準 |
製造業その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
担保提供
相続税もしくは贈与税を猶予する場合は、その額に相当する担保を国税庁に提供することが必要です。ほとんどの場合は、自社株式を担保に提供され、株式については担保株式と呼ばれます。
株式を発券している会社の場合は、担保株式を法務局へ供託しましょう。株式を発券していない会社は、国税庁・税務署へ必要書類を提出することで、担保の提供となります。
5年間の要件
事業承継税制の適用を受けるためには、ここまで紹介してきた要件を5年間守りながら事業を継続しなければなりません。
つまり、事業承継税制を活用したい後継者は、最低でも5年間、経営を維持する気概が必要です。
次の事業承継の要件
5年間事業を継続させた後は、事業承継税制の要件が以下のとおりに緩和されます。
- 対象株式を継続して保有し続けること
- 対象の会社が資産管理会社に変わらないこと
以上の2点を守り続ければ、対象の株式については永久的に相続税が猶予されます。しかし、株式を譲渡するなど条件を満たせなくなった場合は、その時点で相続税を支払わなければなりません。
8. 事業承継税制補足・個人版事業承継税制
本記事でここまで取り上げた事業承継税制は、中小企業などの法人を対象としたものです。一方、それとは別立てで、個人事業者向けの事業承継税制が2019年4月1日に創設されています。
両者を区別するため、法人向けについては法人版事業承継税制、個人事業向けは個人版事業承継税制という呼称です。
なお、個人版事業承継税制は、法人版事業承継税制の平成30年改正特例と同様に10年間の時限措置であるため、期限は2029年12月31日までです。
個人版事業承継税制の対象資産
個人事業は法人組織ではないため、株式が存在します。したがって、個人版事業承継税制において贈与税・相続税の猶予対象となるのは、事業主から後継者に贈与・相続される事業用資産です。一般に考えられる事業用資産には、以下があります。
- 土地
- 建物
- 機械
- 器具備品
- 営業用自動車
- その他の固定資産
ただし、事業用資産として認められるのは、貸借対照表に記載・計上されたもの限定です。
個人版事業承継税制の要件
個人版事業承継税制が適用されるための要件は、ほぼ、法人版事業承継税制の平成30年改正特例と同様です。ただし、事業形態の違いにより、個人版事業承継税制独特の要件も含まれる点には注意しましょう。以下に、主な適用要件を掲示します。
- 青色申告を行ってきた事業者
- 後継者も青色申告を継続する
- 2024(令和6)年3月31日までに個人事業承継計画を都道府県知事に提出し認定を受ける
- 個人事業承継計画提出の際は認定支援機関への相談が必要
- 猶予される贈与税に見合う担保を国税庁・税務署に供する
- 後継者は20歳以上
なお、個人事業者からの相続に関しては、別途、「事業用小規模宅地特例」という相続税の特例制度があります。相続人(後継者)は、事業用小規模宅地特例と個人版事業承継税制のどちらかしか活用できない選択制です。選択は専門家に相談し、慎重に判断しましょう。
9. 事業承継税制のメリット・デメリットまとめ
事業承継税制の利用を検討するときは、制度の要件、メリットとデメリットをよく理解したうえで判断しましょう。経営者と後継者で意見を交換し、財務に関する専門家や認定支援機関などへの相談をしたうえで決めてください。
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