事業承継・引継ぎ補助金とは?採択率や申請書、事例を解説【令和4年度当初予算案】

会計提携第二部 部長
向井 崇

銀行系M&A仲介・アドバイザリー会社にて、上場企業から中小企業まで業種問わず20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、不動産業、建設・設備工事業、運送業を始め、幅広い業種のM&A・事業承継に対応。

事業承継補助金とは、後継者が事業承継に要する経費の一部に充てられる補助金を得られる制度です。この記事では、事業承継補助金の募集要項や採択率、申請書の書き方や手続きの流れ、注意点やおすすめの相談先などについて、事例とともに解説します。

目次

  1. 事業承継・引継ぎ補助金とは
  2. 事業承継・引継ぎ補助金の種類
  3. 事業承継・引継ぎ補助金の採択率とは
  4. 事業承継・引継ぎ補助金の対象となる承継形態・事業内容
  5. 事業承継・引継ぎ補助金の対象となる経費
  6. 事業承継・引継ぎ補助金の補助率・補助上限(下限)額
  7. 事業承継・引継ぎ補助金のスケジュール・必要書類
  8. 事業承継・引継ぎ補助金の交付申請の流れ
  9. 事業承継・引継ぎ補助金の事例
  10. 事業承継・引継ぎ補助金申請の注意点
  11. 事業承継・引継ぎ補助金に関する相談先
  12. 事業承継・引継ぎ補助金のまとめ
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1. 事業承継・引継ぎ補助金とは

事業承継・引継ぎ補助金とは

事業承継補助金とは、事業承継を契機に新たな取り組みをする中小企業・小規模事業者を対象とした補助金制度です。昨今、中小企業は、主として後継者不足を原因として、やむを得ず廃業するケースが目立つようになりました。そうした状況下、国による事業承継を支援する数々の取り組みが行われ、事業承継補助金もその流れで誕生しています。

事業承継補助金は、親族内事業承継を行った場合でも、M&Aで事業承継を行った場合でも、中小企業の後継者が積極的に投資を行って事業を存続・発展させる試みを応援する制度です。

事業承継・引継ぎ補助金の補助対象者

事業承継・引継ぎ補助金の補助対象者は、事業承継を契機として新しい取り組みなどを行う中小企業者などおよび事業再編・事業統合に伴う経営資源の引継ぎを行う中小企業者などと定められています。

ただし、中小事業者などに次の方は含まれません。

  • 社会福祉法人、医療法人、一般社団・財団法人、公益社団・財団法人、学校法人、農事組合法人、組合(農業協同組 合、生活協同組合、中小企業など協同組合法に基づく組合など)
  • 資本金または出資金が5億円以上の法人に直接または間接に100%の株式を保有される中小企業者など
  • 交付申請時において確定している(申告済みの)直近過去3年分における各年または各事業年度の課税所得における年平均額が15億円を超える中小企業者など

細かい要件は、募集要項を確認しましょう。

事業承継・引継ぎ補助金の申請時期

2022年7月25日~8月15日の間に、事業承継・引継ぎ補助金の申請を行わなければなりません。令和4年度当初予算事業承継・引継ぎ補助金のWebサイトで確認できます。申請期間は長くないので、できるだけ早く準備しましょう。

事業承継・引継ぎ補助金の目的

事業承継・引継ぎ補助金の制度では、事業承継をきっかけに新しい取り組みなどを実施する中小企業者、事業再編や事業統合に伴う経営資源の引継ぎを実施する中小企業者などをサポートします。予算は約16億円です。1年で約550社の中小企業におけるサポートを目標としています。

【関連】【平成30年度改正】事業承継補助金とは?【採択率・募集要項・申請書】

2. 事業承継・引継ぎ補助金の種類

事業承継・引継ぎ補助金の種類

事業承継・引継ぎ補助金は2つに分かれています。「経営革新」と「専門家活用」の2つです。それぞれ複数の項目に細分化されます。

以下では、経営革新と専門家活用の補助金における概要を説明します。

事業承継・引継ぎ補助金(経営革新)

事業承継・引継ぎ補助金(経営革新)は事業承継、M&A(経営資源を引き継いで行う創業を含む)を契機として、経営革新等に挑戦する中小企業・小規模事業者(個人事業主を含む)を支援するための補助金制度です。

この補助金は以下の方が利用するのを想定しています。

  • 新しい商品の開発やサービスの提供を行いたい事業者
  • 新たな顧客層の開拓に取り組みたい事業者
  • 今まで行っていなかった事業活動を始めたい事業者

この補助金は、さらに3つの補助金に細分化されています。【Ⅰ型】創業支援型、【Ⅱ型】経営者交代型、【Ⅲ型】M&A型の3種類です。類型ごとに補助上限額が異なっているので、どの申請類型にするか十分に確認したうえで交付申請を行う必要があります。

【Ⅰ型】創業支援型

【Ⅰ型】創業支援型の補助金は、廃業を予定している者などから有機的一体として機能する経営資源を引き継いで創業して間もない中小企業・小規模事業者であり、以下の①および②における要件を満たしている場合に利用可能な補助金です。

  • 創業を契機として、引き継いだ経営資源を活用して経営革新等に取り組む者であること。
  • 産業競争力強化法に基づく認定市区町村または認定連携創業支援事業者により特定創業支援事業を受ける者など、一定の実績や知識などを有している者であること。

ここでいう新たな取り組みとは、たとえば次のものをいいます。
  • 新商品の開発または生産
  • 新役務の開発または提供
  • 商品の新たな生産または販売の方式における導入
  • 役務の新たな提供の方式における導入
  • 事業転換による新分野への進出
  • 上記によらず、その他における新たな事業活動による販路拡大や新市
  • 場開拓、生産性向上など、事業の活性化につながる取り組みなど

【Ⅱ型】経営者交代型

【Ⅱ型】経営者交代型の補助金は、事業承継を行う中小企業者などであり、以下における全ての要件を満たせば利用可能な補助金です。

  • 事業承継を契機として経営革新等に取り組む者であること
  • 産業競争力強化法に基づく認定市区町村または認定連携創業支援事業者により特定創業支援事業を受ける者など、一定の実績や知識などを有している者であること
  • 地域の雇用をはじめ、地域経済全般をけん引する事業等創業を契機として、引き継いだ経営資源を活用して経営革新等に取り組む者であること

【Ⅱ型】経営者交代型の補助金は、経営革新等にかかる取り組みであるのに加え、「新事業展開等要件」または「生産性向上要件」を満たす必要がある点に注意しましょう。
  • 新商品の開発または生産
  • 新役務の開発または提供
  • 商品の新たな生産または販売の方式における導入
  • 役務の新たな提供の方式における導入
  • 事業転換による新分野への進出
  • 上記によらず、その他における新たな事業活動による販路拡大や新市場開拓、生産性向上など、事業の活性化につながる取り組みなど

補助対象となる事業は、以上の1〜6に例⽰する内容を伴うもので、補助事業期間をつうじた事業計画の実⾏⽀援について、認定経営革新等支援機関の記名がある確認書により確認される事業でなければなりません。

「新事業展開等要件」とは、上記の1、2、5のいずれかにおける内容を伴う事業計画があり、補助金交付の事務局が定める期間において重要員数を1名以上増加させる計画をいいます。

一方、「生産性向上要件」とは、承継者が2017年4月1日以降から交付申請日までの間に本補助事業において申請を行う事業と同一の内容で「先端設備等導入計画」または「経営革新計画」のいずれかにおける認定を受けている状態をいいます。

【Ⅲ型】M&A型

【Ⅲ型】M&A型の補助金は事業再編・事業統合などを行う中小企業者などで、以下の全てにおける要件を満たせば利用可能な補助金です。これを利用すれば、設備投資費用・人件費・店舗、事務所の改築工事費用といった経費の一部について補助を受けられ、資金力が不足しがちな中小事業者でも成長のための投資を積極的に行えます

  • 事業再編・事業統合などを契機として、経営革新等に取り組む者
  • 産業競争力強化法に基づく認定市区町村または認定連携創業支援事業者により特定創業支援事業を受ける者など、一定の実績や知識などを有している者
  • 地域の雇用をはじめ、地域経済全般をけん引する事業など事業承継を契機に経営革新等に取り組む者

Ⅱ型が事象承継(事業再生を伴うものを含む)を行う中小企業などを対象としているのに対して、Ⅲ型は事業再編・事業統合などを行う中小企業等を対象としています。その他における要件は、Ⅱ型の要件と同様です。Ⅲ型における補助金の上限額は400万〜800万円で、M&Aを契機に事業の拡大を行う事業者に有利な補助金です。

事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用)

次に、事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用)を説明します。この補助金は、M&Aにより経営資源を他者から引き継ぐ、あるいは他者に引き継ぐ予定の中小企業・小規模事業者(個人事業主を含む)に向けた補助金です。

以下の事業者を想定しています。

  • M&Aの成約に向けて取り組みを進めている人
  • M&Aに着手しようと考えている人

事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用)には、【Ⅰ型】買い手支援型、【Ⅱ型】売り手交代型の2種類があります。以下で、それぞれについて見ていきましょう。

【Ⅰ型】買い手支援型

【Ⅰ型】買い手支援型の補助金は、地域の需要および雇用の維持や、地域における新たな需要の創造および雇用の創出を図り経済を活性化させる事業の再編や事業の統合促進を目的とした補助金制度です。

資源を譲り受けたあと、以下における全ての要件を満たしていれば利用可能な補助金になります。

  • シナジーを生かした経営革新を行うのが見込まれる
  • 地域の雇用をはじめ、地域経済全体をけん引する事業を行うことが見込まれる

【Ⅱ型】売り手交代型

【Ⅱ型】売り手支援型の補助金は、事業再編・事業統合などに伴い自社が有する経営資源を譲り渡す予定の中小企業者などであり、以下の要件を満たす事業者が利用できる補助金です。

  • 地域の雇用をはじめ、地域経済全体をけん引する事業などを行っており、事業再編・事業統合により、これらが第三者により継続されるのが見込まれること

事業承継・引継ぎ補助金(廃業・再チャレンジ)

2020年度の第3次補正予算と2021年度における当初予算の補助金では、引き継ぎの際に廃業を伴うケースでは200万円を上乗せしました。2022年度分は、「廃業・再チャレンジ」といった一つの類型となっています。補助率は1/2、補助額は150万円以内で、他の枠組みと併用が可能です。

3. 事業承継・引継ぎ補助金の採択率とは

事業承継・引継ぎ補助金の採択率とは

2017(平成29)年よりスタートした事業承継補助金制度ですが、初年度は予算も少なく採択率は13%の結果に終わっています。認知度も低く申請数も少ない中、採択された企業はたった1割強でした。

2018(平成30)年では、補助金の種類や募集期間などの改正とともに大幅な予算増額が図られ、予算は50億円まで上がっています。その結果、採択率は70%超えとなり、多くの企業が事業承継補助金を受け取りました

参考まで、以下が2018年分の申請数、採択数、採択率です。

2018年事業承継補助金採択状況 募集時期 申請数 採択数 採択率
Ⅰ型「後継者承継支援型」 1次募集 481 374 77.8%
2次募集 273 224 82.1%
3次募集 75 55 73.3%
Ⅱ型「事業再編・事業統合支援型」 1次募集 220 119 54.1%
2次募集 43 25 58.1%

翌年2019(令和元)年は、前年度と同じ予算の50億円でした。結果は下表のとおりですが、1次募集分はⅠ型が採択率73.7%、Ⅱ型が53.4%と前年度とほぼ同じ採択率です。しかし、2次募集分はⅠ型が41.0%、Ⅱ型が24.7%と前年よりも大きく下がる結果となってしまいました。

前年度の採択率が高かった影響と認知度が上がって、Ⅰ型は1次募集の時点で申請数・採択数ともに約1.5倍となりました。この時点で前年における全体採択数の8割相当が採択され、2次募集は予算の関係もあり厳選されたと考えられます。

2019年事業承継補助金採択状況 募集時期 申請数 採択数 採択率
Ⅰ型「後継者承継支援型」 1次募集 710 523 73.7%
2次募集 329 134 41.0%
Ⅱ型「事業再編・事業統合支援型」 1次募集 204 109 53.4%
2次募集 121 30 24.7%

2020(令和2)年の事業承継補助金の公募は、一度しか行われませんでした。ただし、コロナ禍の影響もあり、公募期限は延長されるなどの措置はされています。コロナ禍が原因で事業承継が進まなかったのかどうかは定かでありませんが、申請数は前年度よりも減少しました。

2020年事業承継補助金採択状況 申請数 採択数 採択率
Ⅰ型「後継者承継支援型」 455 350 77.7%
Ⅱ型「事業再編・事業統合支援型」 194 118 60.8%

なお、採択決定後、Ⅰ型「後継者承継支援型」では2社、Ⅱ型「事業再編・事業統合支援型」では1社から辞退(交付決定取下げ届け)がありましたが、上表はその数を含めた数値です。

採択決定時には、全ての採択決定企業について、会社名・代表者名・所在地(市区町村名)・申請事業内容・申請を認定した経営革新等支援機関名が、ウェブ上で公表されます。

経営革新等支援機関とは、中小企業等経営強化法で定められた制度です。中小企業に対して専門性の高い支援事業を行う個人、法人、中小企業支援機関などを、中小企業庁が経営革新等支援機関として認定します。機関名は中小企業庁ホームページで公表されているので、いつでも確認可能です。

2021年事業承継補助金採択状況 募集時期 申請数 採択数 採択率
Ⅰ型「後継者承継支援型」 1次募集 335 167 49.8%
2次募集 375 187 49.8%
Ⅱ型「事業再編・事業統合支援型」 1次募集 412 346 83.9%
2次募集 420 330 78.5%

2021(令和3)年における事業承継補助金の公募は、1次募集と二次募集が行われました。どの事業者に補助金が交付されたかは、ホームページで公表されています。ただし、専門家活用の交付事業者は、補助事業の特性に鑑みて採択者は非公表です。

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4. 事業承継・引継ぎ補助金の対象となる承継形態・事業内容

事業承継・引継ぎ補助金の対象となる承継形態・事業内容

補助金を受けるためには、補助金の要件をきちんとクリアする必要があります。ここでは、事業承継・引継ぎ補助金の対象となる承継形態の要件と事業内容の要件を見ていきましょう。

承継形態の要件

補助の対象となる承継形態には一定の要件が定められています。この要件に沿って事業承継が行われていないと補助金の対象とはならないので注意が必要です。経営革新か専門家活用かによって、補助金の対象となる承継形態が定められているので、きちんと確認しましょう。

以下では、補助金の型に応じた承継形態を説明します。

事業承継の要件(経営革新)

経営者交代型(Ⅰ型)では、承継者が個人事業主の場合、事業承継の形態は事業譲渡のみが補助金の対象となります。それ以外の事業承継における形態は、この補助金における対象になりません。

一方、承継者が法人の場合 、原則として同一法人内での代表者交代が補助金の対象となりますが、法人から法人外の個人事業主へ事業譲渡が行われて、承継者である個人事業主が法人となるケース(予定を含む)、個人事業主間での事業譲渡が行われて、承継者たる個人事業主が法人となるケース(予定も含む)も補助金の対象です。

M&A型(Ⅱ型)では、承継者が個人事業主の場合、事業承継の形態は、事業譲渡または株式譲渡が補助金の対象です。M&A型の方が、より幅広い事業承継の形態が補助金の対象となります。

一方、承継者が法人の場合、事業承継の形態は、吸収合併・吸収分割・事業譲渡・株式交換・株式譲渡・株式移転・新設合併といった複数の承継形態が補助金の対象です。

ただし、補助金の申請者である法人の総議決権数における過半数を有する者と、被承継者である個人事業主が同一でない場合は、複数の承継形態は認められておらず、事業譲渡の事業承継における形態だけが認められています。

経営資源引継ぎの要件(専門家活用)

買い手支援型(1型)において、補助対象者が法人である場合は、株式譲渡・第三者割当増資・株式交換・吸収合併・吸収分割・事業譲渡といった経営資源の引継ぎ形態が補助金の対象となります。一方で、補助対象者が個人事業主である場合は、株式譲渡・第三者割当増資・事業譲渡といった経営資源の引継ぎ形態が補助金の対象です。

他方で、売り手支援型(Ⅱ型)は、原則として株式譲渡といった経営資源の引継ぎが補助金の対象となりますが、他にも、補助対象者によって異なるものの、廃業・第三者割当増資・株式交換・株式移転・新設合併・吸収合併・吸収分割・事業譲渡・事業再編が補助金の対象として認められています。

対象となる事業内容

以下の事業内容を営む企業は、補助金の交付を受けられません

  • 公序良俗に反する事業
  • 公的な資金の使途として社会通念上、不適切であると判断される事業(風俗営業などの規制および業務の適正化などに関する法律(昭和23年法律第121号)第2条において規定される各営業を含む)
  • 国(独立行政法人を含む)および地方自治体における他の補助金、助成金を活用する事業

なお、同一の補助対象経費に対して、国(独立行政法人を含む)および地方自治体における他の補助金、助成金の交付を受けている、受けるのが決まっている、または受ける見込みである場合、補助金の対象外となるので注意が必要です。

以下では、経営革新の補助対象となる事業内容と専門家活用の補助対象となる事業内容を説明します。

経営革新の補助対象となる事業内容

経営革新の補助は、被承継者から事業を引き継いだ承継者による経営革新等にかかる取り組みであることが条件で、 補助対象事業は、以下に例示する内容を伴わなければなりません

  • 新商品の開発または生産
  • 新役務の開発または提供
  • 商品の新たな生産または販売の方式における導入
  • 役務の新たな提供の方式における導入
  • 事業転換による新分野への進出
  • 上記によらず、その他における新たな事業活動による販路拡大や新市場開拓、生産性向上など、事業の活性化につながる取り組みなど

経営者交代型(Ⅱ型)または M&A 型(Ⅲ型)で補助金の申請を行う場合は、新事業展開等要件もしくは生産性向上要件を満たさなければなりません。

この要件を満たしているかは、審査により確定されます。したがって、申請の結果、形式的な要件の充足のみで実態が伴っていないと判断された場合、補助対象外となる可能性があるので注意が必要です。

専門家活用の補助対象となる事業内容

専門家活用の補助対象となる事業内容としては、対象となる経営資源引継ぎと経営資源引継ぎの要件に該当していれば、上記で説明した事業内容を行っていない限り、補助金の対象となります。

5. 事業承継・引継ぎ補助金の対象となる経費

事業承継・引継ぎ補助金の対象となる経費

事業承継・引継ぎ補助金は、企業が支払う特定の経費に限定されています。

特に、補助対象事業を実施するために必要となる経費のうち、以下の1、2、3における条件を全て満たす経費であり、事務局が必要かつ適切と認めた補助対象経費だけが補助の対象です。したがって、全ての経費を補助金で賄えません。

  1. 使用目的が補助対象事業の遂行に必要なものと明確に特定できる経費
  2. 補助事業期間内に契約・発注を行い支払った経費(原則として、被承継者が取り扱った経費は対象外)
  3. 補助事業期間終了後の実績報告で提出する証拠書類などによって金額・支払いなどが確認できる経費

経営革新における補助対象の経費

経営革新における補助対象経費は以下のとおりです。
 

費目名 概要
1. 事業費  
人件費 補助対象事業に要する賃金
店舗等借入費 国内の店舗・事務所・駐車場の賃借料・共益費・仲介手数料
設備費 国内の店舗・事務所の工事、国内で使用する機械器具など調達費用
原材料費 試供品・サンプル品の製作にかかる経費(原材料費)
産業財産権など関連経費 補助対象事業実施における特許権など取得に要する弁理士費用
謝金 補助対象事業実施のために謝金として依頼した専門家などに支払う経費
旅費 販路開拓などを目的とした国内外出張にかかる交通費、宿泊費
マーケティング調査費 自社で行うマーケティング調査にかかる費用
広報費 自社で行う広報にかかる費用
会場借料費 販路開拓や広報活動にかかる説明会などでの一時的な会場借料費
外注費 業務の一部を第三者に外注(請負)するために支払われる経費
委託費 業務の一部を第三者に委託(委任)するために支払われる経費
Ⅱ廃業費  
廃業登記費 廃業に関する登記申請手続きに伴う司法書士等に支払う作成経費
在庫処分費 既存の事業商品在庫を専門業者に依頼して処分した際の経費
解体費 既存事業の廃止に伴う建物・設備などの解体費
原状回復費 借りていた設備などを返却する際に義務となっていた原状回復費用
移転・移設費用(Ⅱ型のみ計上可) 効率化のため設備などを移転・移設するために支払われる経費

専門家活用における補助対象の経費

専門家活用における補助対象経費は以下のとおりです。
 

タイプ 補助対象経費の区分
買い手支援型
(Ⅰ型)
謝金、旅費、外注費、委託費、システム利用料、保険料
売り手支援型
(Ⅱ型)
謝金、旅費、外注費、委託費、システム利用料、保険料、 (廃業費)廃業登記費、在庫処分費、解体費、原状回復費

なお、詳細は、【公募要領】(別紙)補助対象経費を参照してください。

6. 事業承継・引継ぎ補助金の補助率・補助上限(下限)額

事業承継・引継ぎ補助金の補助率・補助上限(下限)額

補助金の補助対象者に交付する補助金の金額は、補助対象となる経費における3分の2以内と定められています。補助金の交付は、事業完了後における精算後の支払い(実費弁済)となっており、補助事業は借入金などで必要な資金を自己調達する必要がある点に留意してください。

経営革新の補助率・補助上限(下限)額

経営革新の補助率・補助上限(下限)額を見ていきましょう。

事業承継・引継ぎ補助金事務局「令和2年度第3次補正予算 事業承継・引継ぎ補助金 創業支援型 経営者交代型 M&A 型 【公募要領】」

出典:https://jsh.go.jp/r2h/assets/pdf/business-innovation-requirements.pdf

(注1)
新事業展開等要件を選択した場合で、補助事業期間内に補助対象事業に直接従事する従業員(有期の雇用契約を除く)を1名以上雇い入れた事実が確認できない場合は、補助率(2分の1以内)、補助上限額(経営者交代型(Ⅱ型)は250万円以内、M&A型(Ⅲ型)は500万円以内)の変更が行われます。

(注2)
補助額が補助下限額を上回らなければなりません。

(注3)
事業転換により廃業登記費、在庫処分費、解体費、原状回復費および移転・移設費(Ⅰ型及びⅢ型のみ計上可)がある場合のみ認められます。上乗せ額の対象となる廃業登記費、在庫処分費、解体費、原状回復費および移転・移設費(Ⅰ型及びⅢ型のみ計上可)のみの交付申請はできないので注意が必要です。

なお、事業転換とは、少なくとも1つの事業所または事業の廃業・廃止を伴うものをいいます(一部の事業を承継後に被承継者が残りの事業における廃業・廃止を行うものも含みます)。

専門家活用の補助率・補助上限(下限)額

専門家活用の補助率・補助上限(下限)額を見ていきましょう。

事業承継・引継ぎ補助金事務局「令和2年度第3次補正予算 事業承継・引継ぎ補助金 専門家活用型【公募要領】」

出典:https://jsh.go.jp/r2h/assets/pdf/experts-requirements.pdf

(注1)
補助額が補助下限額を下回る場合は補助対象とならないので注意が必要です。補助下限額が決まっているので、補助申請をして補助を受けることが決まったら、必ず50万円以上の補助を受ける必要があります。下限が決まっているのは、せっかく交付された補助金を事業者が使わずにいるのを防ぐためです。

(注2)
補助事業期間内に経営資源の引継ぎができなかったときは(補助対象事業においてクロージングしなかった場合)、補助上限額(200万円以内)の変更が行われて、補助金の上限額が400万円から200万円に減額となります。

(注3)
廃業費用の補助上限額は200万円です。ただし、廃業費用は関連する経営資源の引継ぎが補助事業期間内にできなかった場合、補助対象外となります。

7. 事業承継・引継ぎ補助金のスケジュール・必要書類

事業承継・引継ぎ補助金のスケジュール・必要書類

ここでは、事業承継・引継ぎ補助金のスケジュール・必要書類を説明します。

スケジュール

事業承継・引継ぎ補助金事業の補助事業期間(スケジュール)は、補助金の交付が決定した日から最長で2021年12月31日(金)までです。補助金の交付が決定した日以前に発生した経費は、補助の対象とならないので注意してください。

ただし、経営革新、専門家活用それぞれの公募要領が公開された日以降の申請時点で、補助対象経費にかかる契約・発注を行う場合、または行う予定がある場合は、申請時に事前着手の届出を申請して、事務局の承認を受ければ、事務局が認めた日を補助対象事業の補助事業開始日にできます。

必要書類

「経営革新」と「専門家活用」のどちらを利用するかによって、提出するべき必要書類は異なります。ここからは、「経営革新」と「専門家活用」に分けて必要書類を見ていきましょう。

経営革新の必要書類一覧

経営革新の補助金に申請する際、書類の提出が必要です。経営革新の場合、最大12種類の書類提出が必要です。必要書類のチェックリストは公開されているので、詳細はそちらで確認しましょう。

専門家活用の必要書類一覧

専門家活用の補助金に申請する際は、書類の提出が必要です。専門家活用の場合、最大4種類の書類提出が必要です。必要書類のチェックリストは公開されているので、詳細はそちらで確認ください。

8. 事業承継・引継ぎ補助金の交付申請の流れ

事業承継・引継ぎ補助金の交付申請の流れ

ここまでで、事業承継補助金申請の概要は網羅しました。実際に申請を行い、採択されて補助金を受領した場合のプロセスについて、4段階に分けて見ていきましょう。

  1. 事前準備
  2. 事業承継・引継ぎ補助金の交付申請
  3. 事業承継・引継ぎ補助金の交付決定
  4. 事業承継・引継ぎ補助金の受領

①事前準備

まずは、事業承継補助金専用サイトで必要な情報を得て、その内容をよく把握してください。提出用資料のひな型なども全てウェブサイトから入手できます。

次に、認定経営革新等支援機関への相談を行います。中小企業庁のホームページに認定経営革新等支援機関の一覧があるので、最寄りの機関を探し、計画書の内容における相談・確認をしましょう。相談後は、確認書を発行してもらうことも忘れないでください。

事前準備の最後は、GビズIDのアカウント取得です。事業承継補助金は電子申請で行いますが、その際、GビズIDのアカウントが必要になります。アカウントの取得方法は、事業承継補助金サイトで説明されているので、指示どおりに取得しましょう。

②事業承継・引継ぎ補助金の交付申請

全ての必要書類がそろったら、公募期間内に電子申請を行います。採択結果にかかわらず、事務局より申請マイページをとおして通知が届くので、結果を待ちましょう。採択された場合は、中小企業庁のホームページや事業承継補助金サイト上の一覧表でも公表されます。

③事業承継・引継ぎ補助金の交付決定

採択となったら、補助金の受領が確定します。注意したいのは、補助金が受け取れるのは、対象事業の完了後である点です。つまり、後払いです。対象事業実施時の支払い全額分は、自前で支払っておく必要があります。

採択決定通知を得たら速やかに対象事業を開始し、それが完了したら30日以内に実績報告をしなければなりません。実績報告を提出すると、事務局で確定検査が行われるので、完了次第、補助金交付手続きをしましょう。

④事業承継・引継ぎ補助金の受領

補助金交付手続きの2~3カ月後を目安に、事業承継補助金事務局より補助金が交付されます。時間的な目安は、その都度、自分で確認しましょう。

補助金交付後5年間は、事業化状況報告などを行うことが義務づけられています。補助金を受領して終わりではないので、注意しましょう。

【関連】中小企業庁が事業承継の5ヶ年計画を策定!その内容を簡単解説!

9. 事業承継・引継ぎ補助金の事例

事業承継・引継ぎ補助金の事例

中小企業庁の事業承継補助金事務局で公開されている、事業承継補助金を受け取った事例を抜粋して紹介します。

  1. 鈴木酒造店長井蔵
  2. 黒木鉄工所
  3. 今澤アソシエイツ
  4. カラーズジャパン
  5. 小麦家

①鈴木酒造店長井蔵

鈴木酒造店長井蔵は、酒類の製造・卸販売を営む企業です。地域の人口減少とインターネット環境の充実といった時代背景から、市場形態の変化が激しく、消費者ニーズの把握やブランド力向上の課題を抱えていました。

新たな取り組みは、商品の魅力と銘柄の認知度を上げるための印刷作業と並行してラベル貼付ができる新型のボトルラベラー導入です。

消費者は印刷された二次元コードをスマートフォンなどで読み取れば、簡単に商品の詳細な情報をチェックできるようになりました。時代の流れに沿った、新たな取り組みといえるでしょう。

新たな取り組みの標題 新規格ボトルラベラーの導入
業種 製造業(酒類)
資本金 3,000万円
従業員数 12名
承継者との関係 子ども

②黒木鉄工所

黒木鉄工所は、産業機械部品製造の企業です。切削機械を利用して金属・ステンレス・樹脂などを削り、部品加工を行っています。従業員の高齢化や経営状態悪化による負債などから、事業承継へと至りました。

新たな取り組みは、事業内容に産業機械制作とそのメンテナンスも加えるものです。これまでは部品製造に特化していましたが、消費者からの「機械が壊れて困っている」「メンテナンスの仕方がわからない」といった意見に耳を傾け、実施にかじを切りました。

新たな取り組みの標題 産業機械づくりとメンテナンス
業種 製造業(産業機械)
資本金 300万円
従業員数 7名
承継者との関係 子ども

③今澤アソシエイツ

今澤アソシエイツは、就職支援、採用支援事業を手掛けている企業です。事業承継前は、収益性と安定性といった財務問題や、業務効率化と生産性向上といった業務プロセス問題などの経営課題を抱えていました。

新たな取り組みは、在学中から大学・企業協同型のインターンによってキャリア形成ができるプログラムを確立するものでした。具体的な内容としては、大学・学生・企業が協同で取り組むコミュニティ「人材育成研究会」の設立・運営です。

地方の人口減少といった課題を解決する点で、企業の人員不足と若者のキャリア生成という両面において有効な取り組みといえます。

新たな取り組みの標題 教育機関と連携した学生と地域企業との雇用ミスマッチ解消支援事業
業種 サービス業
資本金 800万円
従業員数 4名
承継者との関係 子ども

④カラーズジャパン

カラーズジャパンは、ヘア・ネイル・アイサロンを運営する企業です。競争の激しい美容業界において新たな差別化要素を生み出すのが必要だと考え、M&Aによってアイラッシュ専門店である「アスクレア」の全株式を譲り受けました。

新たな取り組みは、既存店にカフェを併設するものです。居心地の良い空間を作り出して競合店との差別化を図るとともに、従業員の定着率向上といった経営課題のクリアも目指します。

どちらもサービス業ではあるものの、全く違う職種の2つが共存して新たな相乗効果を期待する取り組みです。

新たな取り組みの標題 内面からの美しさづくりによる差別化と働き方の多様化
業種 生活関連サービス(美容業)・娯楽業
資本金 900万円
従業員数 147名
承継者との関係 その他の親族外

⑤小麦家

小麦家は、外食(カフェ、レストラン、ホテル)を対象とした、パンの製造および卸売を行っている企業です。現在抱えている顧客だけでは、今後、売上が減少していくことが想定され、新たな販売経路の開拓が急務でした。

新たな取り組みは、最新のオーブンや冷凍設備を増強して美味しい冷凍パンの開発がしやすい環境を整えるビジネスです。完成した冷凍パンは、首都圏の展示館に出展して積極的に新規顧客の獲得を目指します。

新たな取り組みの標題 高級冷凍パンの生産性向上および販路開拓
業種 製造業
資本金 1,000万円
従業員数 50名
承継者との関係 子ども

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10. 事業承継・引継ぎ補助金申請の注意点

事業承継・引継ぎ補助金申請の注意点

事業承継補助金を申請するにあたり、注意しなければならないポイントがあります。採択に大きくかかわるものもあるので、しっかり確認しましょう。

  1. 申請には加点ポイントがある
  2. 申請要件を満たしていること
  3. 補助金は後払いとなる

①申請には加点ポイントがある

加点ポイントは、採択率や受け取る補助金の金額に大きく影響します。該当するポイントがあれば、それを証明できる参考資料を添付して提出しましょう。

【事業承継補助金の加点ポイント】

  • 債権放棄などの抜本的な金融支援を含む事業再生計画を策定している
  • 「中小企業の会計に関する基本要領」または「中小企業の会計に関する指針」の適用を受けている
  • 交付申請時に経営力向上計画の認定を受けている
  • 地域経済への貢献(内容から貢献度を計測)

②申請要件を満たしていること

事業承継補助金事務局が定める申請要件は、満たさなければいけません。対象となる事業承継・補助対象者・事業承継の要件などを確認し、自社が条件を満たしていることを確認してください。

要件を満たしていても記載すべき事項や資料漏れがあると、採択されなくなってしまうケースもあり得ます。申請前に、何度も確認しましょう。

③補助金は後払いとなる

補助金交付は後払いです。自社が新しい取り組みの成果を見せなければ、補助金は交付されません。成果を提出してから実際に補助金を受け取るまでに、2~3カ月程度の期間が空きます。事業承継を実施してから補助金を手にするまでは、かなりの時間を要する点に注意してください。

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11. 事業承継・引継ぎ補助金に関する相談先

事業承継・引継ぎ補助金に関する相談先

事業承継補助金は、申請したら受け取れるわけではありません。採択率を上げるためには、事業承継後の事業内容・コンセプトを事務局にわかりやすく伝えられる資料作りが必須です。M&Aや事業承継にかかわりが深い専門家に相談することをおすすめします。

M&A総合研究所はM&A・事業承継の仲介を数多く手掛けておりますので、M&Aや事業承継によって得られる事業展開や取り組みも無理のないコンセプト・スケジュールの提案が可能です。

無料相談を受け付けておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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12. 事業承継・引継ぎ補助金のまとめ

事業承継・引継ぎ補助金のまとめ

事業承継補助金は、最大1,200万円の補助金を受け取れるので、承継者にとって心強い制度です。事業承継を契機に経営や既存事業を見直し、業績拡大のために新たな取り組みを行う際は、ぜひ事業承継補助金を活用しましょう。

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