事業譲渡をする際の会社法上の注意点は?定義・手続きから特別決議・競業避止義務も解説!

提携本部 ⾦融提携部 部⻑
向井 崇

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事業譲渡に関することは会社法で制定されています。会社法の条文では、事業譲渡の定義や要件、債権者保護などの各種手続きなど細かい規定があり、それらを順守しなければなりません。会社法第21条にある競業避止義務にも注意が必要です。

目次

  1. 事業譲渡と会社法の関係性
  2. 事業譲渡をする際の会社法上の注意点
  3. 株主総会の特別決議手続きが必要な事業譲渡要件
  4. 事業譲渡で注意すべき会社法第21条
  5. 事業譲渡の主な手続き
  6. 事業譲渡をする際の会社法上の注意点まとめ
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1. 事業譲渡と会社法の関係性

事業譲渡を行う際の会社法の注意点に触れる前に、まず事業譲渡と会社法の基本情報を確認しましょう。

事業譲渡とは?

事業譲渡とは?

事業譲渡はM&Aスキーム(手法)の1つで、会社の一部または全部の事業を売買することをさします。事業譲渡では、売却する事業に関連する資産・権利義務などを選別して取引することが可能です。譲渡側は売りたいものだけ、譲受側は買いたいものだけ選べます。

事業譲渡の特徴は、譲渡の当事者は会社であり会社組織は従来のまま残ることと個別承継であることです。株式譲渡のような包括承継ではないため、取引先との契約や従業員との労働契約は、全て個別に同意を取りつけ、改めて締結し直さなければなりません。

譲受側が積極的に債務を引き取ることは考えにくいですが、仮に債務を移転する場合は債権者の承諾が必要です。事業の許認可は、申請した事業主に与えられるものなので、事業譲渡の対象にできません。

したがって、事業譲渡の譲受側は、買収した事業を行うために許認可の申請・取得が必須です。なお、譲渡対象に消費税課税資産が含まれている場合、事業譲渡では、譲受側に消費税が発生するため、その分の資金の準備も必要になります。

財産譲渡との違い

財産譲渡とは、単に会社の資産を売却することです。権利義務(取引先との契約など)・ノウハウ(従業員など)などは含まれませんから、事業譲渡とは異なります。会社法で定める手続き面の違いも見られ、内容は以下のとおりです。

  • 財産譲渡の実施は取締役会設置会社であれば取締役会の決議で可能(会社法362条4項1号)

詳細は後述しますが、事業譲渡の場合、実施を決定するには株主総会を招集し特別決議を得なければなりません。

会社分割との違い

会社分割は、一見すると事業譲渡と類似しています。会社分割とは、売り手企業の事業部門を丸ごと買い手に移転させるM&Aスキームです。事業を譲渡することでは事業譲渡と変わりませんが、事業譲渡のように譲渡対象は選別されず、事業部門を丸ごと包括承継します。

このように会社部門は包括承継ですから、個別承継である事業譲渡のように各種契約の締結し直しは必要ありません。譲受側に消費税は発生せず、許認可も引き継げます(業種によっては引き継げない許認可もある)。

一方、事業譲渡では不要な債権者保護手続きが、会社分割では必要です。包括承継であるため、経営リスクとなる簿外債務などを引き継いでしまう懸念があります(事業譲渡は対象を選別できるため引き継ぎを阻止できる)。

会社分割は、会社法では組織再編行為とされており、税制上の適格要件を満たせば、譲受側は法人税の軽減措置が適用可能です(事業譲渡は組織再編行為ではない)。

会社法とは?

会社法は、会社の設立、運営、仕組みなどを定めた法律です。以前は、商法や有限会社法など別々の法律の条文に規定されていたものを、1つにまとめる形で2006(平成18)年に施行されました。

会社法制定の際に、いくつかの改正や新規則の追加が行われており、その主なポイントは以下のとおりです。

  • 最低資本金制度の廃止
  • 会社の機関設計の自由化(取締役会や監査役などの設置について)
  • 有限会社形態の廃止(会社法施行後)と合同会社形態の追加
  • M&Aのための組織再編手続きの簡略化(合併、会社分割、株式交換など)
  • 株式制度の柔軟化(種類株式の発行や株式交換の対象拡大など)

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2. 事業譲渡をする際の会社法上の注意点

会社法では、当然ながら事業譲渡も定められています。

事業譲渡に関する会社法の条文

会社法で事業譲渡を定義している条文は、第467条と第468条です。

  • 第467条:株主総会の特別決議を要する事業譲渡の行為を定義
  • 第468条:第467条の行為であっても、株主総会の特別決議を要しない行為を定義

まずは、会社法の条文をそのままを提示し、その概要を解説します。ただし、それでもまだ内容が複雑ですので、もっと簡単に、会社法の定義に従う必要のある要件を「株主総会の特別決議手続きが必要な事業譲渡要件」として後述しますので、合わせてご覧ください。

なお、これらの条文とは別に、譲渡側において当該事業における債務を譲受側に移転する場合、個々の債権者の同意を得る必要があります。

会社法第467条「事業譲渡等の承認等」の条文

まずは会社法第467条について、「電子政府の総合窓口e-gav」より、条文をそのまま引用しました。ただし、これをそのまま読んで理解することは難しいので、その下に解説を掲示します。

(事業譲渡等の承認等)
第四百六十七条 株式会社は、次に掲げる行為をする場合には、当該行為がその効力を生ずる日(以下この章において「効力発生日」という。)の前日までに、株主総会の決議によって、当該行為に係る契約の承認を受けなければならない。

一 事業の全部の譲渡

二 事業の重要な一部の譲渡(当該譲渡により譲り渡す資産の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えないものを除く。)

二の二 その子会社の株式又は持分の全部又は一部の譲渡(次のいずれにも該当する場合における譲渡に限る。)
イ 当該譲渡により譲り渡す株式又は持分の帳簿価額が当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えるとき。
ロ 当該株式会社が、効力発生日において当該子会社の議決権の総数の過半数の議決権を有しないとき。

三 他の会社(外国会社その他の法人を含む。次条において同じ。)の事業の全部の譲受け

四 事業の全部の賃貸、事業の全部の経営の委任、他人と事業上の損益の全部を共通にする契約その他これらに準ずる契約の締結、変更又は解約

五 当該株式会社(第二十五条第一項各号に掲げる方法により設立したものに限る。以下この号において同じ。)の成立後二年以内におけるその成立前から存在する財産であってその事業のために継続して使用するものの取得。ただし、イに掲げる額のロに掲げる額に対する割合が五分の一(これを下回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合を除く。
イ 当該財産の対価として交付する財産の帳簿価額の合計額
ロ 当該株式会社の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額

2 前項第三号に掲げる行為をする場合において、当該行為をする株式会社が譲り受ける資産に当該株式会社の株式が含まれるときは、取締役は、同項の株主総会において、当該株式に関する事項を説明しなければならない。

会社法第467条の解説

会社法第467条は、株主総会の特別決議を経て決定しなければならない事業譲渡の行為を定義しています。具体的には、株式会社は以下の行為をする場合に、その行為の「効力発生日」の前日までに、株主総会の特別決議による「契約の承認」を受けなければなりません。

なお、株主総会の特別決議は別途、後述します。

  1. 事業全部の譲渡
  2. 事業の重要な一部の譲渡(会社の帳簿価額における全資産の5分の1以上を譲渡する場合。ただし、定款でこれを下回る割合を定めた場合は、その割合以上)
  3. 他の会社の事業全部の譲受
  4. 事業の全部の賃貸、事業の全部の経営の委任、他人と事業上の損益の全部を共通にする契約、その他これらに準ずる契約の締結、変更または解約
  5. 株式会社の「成立後2年以内」における、その「成立前から存在する財産」であって、その事業のために継続して使用するものの取得(ただし、「当該財産の対価として交付する財産の帳簿価額の合計額」が「当該株式会社の純資産額」の5分の1を超えない場合を除く)

③項の「他の会社の事業全部の譲受」について、会社が譲受する資産に当該株式会社の株式が含まれる場合は、取締役が株主総会において、その譲受する株式に関する事項を説明しなければなりません。

なお、これとは別に譲渡側においては、債務を移転する場合、そのことについて個々の債権者の同意が必要です。

会社法第468条「事業譲渡等の承認を要しない場合」の条文

会社法第468条も、「電子政府の総合窓口e-gav」より、まずは条文をそのまま掲載します。その下に解説を掲示しますので、そちらで内容を確認してください。

(事業譲渡等の承認を要しない場合)
第四百六十八条 前条の規定は、同条第一項第一号から第四号までに掲げる行為(以下この章において「事業譲渡等」という。)に係る契約の相手方が当該事業譲渡等をする株式会社の特別支配会社(ある株式会社の総株主の議決権の十分の九(これを上回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)以上を他の会社及び当該他の会社が発行済株式の全部を有する株式会社その他これに準ずるものとして法務省令で定める法人が有している場合における当該他の会社をいう。以下同じ。)である場合には、適用しない。

2 前条の規定は、同条第一項第三号に掲げる行為をする場合において、第一号に掲げる額の第二号に掲げる額に対する割合が五分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えないときは、適用しない。
一 当該他の会社の事業の全部の対価として交付する財産の帳簿価額の合計額
二 当該株式会社の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額

3 前項に規定する場合において、法務省令で定める数の株式(前条第一項の株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)を有する株主が次条第三項の規定による通知又は同条第四項の公告の日から二週間以内に前条第一項第三号に掲げる行為に反対する旨を当該行為をする株式会社に対し通知したときは、当該株式会社は、効力発生日の前日までに、株主総会の決議によって、当該行為に係る契約の承認を受けなければならない。

会社法第468条の解説

会社法第468条は、株主総会の特別決議を要する事業譲渡の行為を規定した第467条に対して、承認を要しない事業譲渡について定義しています。

  1. 事業の譲渡側において、事業譲渡の契約の相手方が当該事業譲渡などをする株式会社の特別支配会社である場合
  2. 事業の譲受側の、他の会社(外国会社その他の法人を含む)の事業全部の譲受けにおいて、「事業の譲受けの対価として譲受会社が交付する財産の帳簿価額の合計額」が「譲受会社の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額」の5分の1を超えない場合

①の場合は略式手続事業譲渡、②の場合は簡易手続事業譲渡と呼ばれ、株主総会の特別決議は不要になります。

ただし、②においては、法務省令で定める「一定数の株式」を有する株主が、事業全部の譲受についての「通知」または「公告」の日から2週間以内に、それに反対する旨を会社に通知したときは無効です。つまり、譲受企業において株主総会の特別決議を必要とします。

なお、①において登場した特別支配会社とは、「ある株式会社の総株主の議決権の10分の9以上を保有する他の会社」のことです(ただし、10分の9を上回る割合を定款で定めた場合は、その割合)。

10分の9以上の議決権は、会社単独で持っている場合のほか、完全子会社と合わせて持っている場合も含みます。

①をより具体的に解説すると、事業の譲渡側において、事業譲渡の相手が自社の総株主の10分の9以上の議決権を持っている会社(つまりは親会社)であれば、株主総会の特別決議は不要ということです。

そしてこれとは別に、譲渡側においては、債務を移転することについて個々の債権者からの同意が必要になります。

特別決議の定義

株主総会の決議は会社法第309条の条文に定義されており、その第2項に特別決議が必要な事項について定められています。

会社法第309条「株主総会の決議」の条文

株主総会の決議について「電子政府の総合窓口e-gav」より、会社法第309条の条文の一部を引用します。特別決議を定義しているのは、第2項です。

(株主総会の決議)
第三百九条 株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。

2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。

会社法第309条の解説

会社法第309条2項を解説すると、「議決権ベースで過半数以上を満たす株主が出席したうえで、出席した株主の議決権の3分の2以上によって行われなければならない決議」です。

これがそのまま、株主総会の特別決議になります。この特別決議が必要な行為の中に、事業譲渡を定義している会社法第467条の行為が含まれています。

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3. 株主総会の特別決議手続きが必要な事業譲渡要件

事業譲渡における事業譲渡会社をA社事業譲受会社をB社とし、特別決議が必要となる事業譲渡要件を以下に例示しながら説明します。

譲渡会社が手続きする特別決議

会社法において定める株主総会の特別決議が必要な事業譲渡要件を、譲渡側から紹介します。

全事業を譲渡する場合

【事業譲渡前】

A社 U事業
V事業
W事業
 
B社 X事業
Y事業
Z事業

【事業譲渡後】
A社 なし
 
B社 U事業
V事業
W事業
X事業
Y事業
Z事業

A社の事業全てを、B社に事業譲渡します。全事業を譲渡する要件を満たしており、A社において株主総会の特別決議が必要です。このケースでA社の債務(借入金など)をB社に移転する場合、A社において債権者の承諾が必要になります。

重要な事業の一部(総資産額の5分の1を超える事業)を譲渡する場合

【事業譲渡前】

A社 U事業(総資産額の50%)
V事業(同35%)
W事業(同15%)
 
B社 X事業
Y事業
Z事業

【事業譲渡後】
A社 U事業(総資産額の50%)
W事業(同15%)
 
B社
V事業
X事業
Y事業
Z事業

A社は、総資産の35%を占めるV事業をB社に譲渡します。A社にとって総資産の5分の1を超える事業の譲渡という要件を満たしており、株主総会の特別決議が必要です。このケースでA社の債務をB社に移転する場合、A社において債権者の承諾が必要になります。

事業の全賃貸、全経営を委任する場合

【事業譲渡前】

A社 U事業
V事業
W事業
 
B社 X事業
Y事業
Z事業

【事業譲渡後】
A社 (U事業)
(V事業)
(W事業)
 
B社 (U事業)
(V事業)
(W事業)
X事業
Y事業
Z事業

A社はU、V、Wのカッコ書きの事業について、事業の全部の賃貸、経営の委任、損益の全部をB社と共通にする契約をします。この場合、A社において株主総会の特別決議が必要です。このケースでA社の債務をB社に移転する場合、A社において債権者の承諾が必要になります。

譲受会社が手続きする特別決議

会社法において定める株主総会の特別決議が必要な事業譲渡の要件を、譲受側から紹介します。

全事業を譲受する場合

【事業譲渡前】

A社
(総資産50億円)
U事業
V事業
W事業
 
B社
(総資産100億円)
X事業
Y事業
Z事業

【事業譲渡後】
A社 なし
 
B社
(総資産100億円+A社の総資産50億円)
※A社の総資産はB社の総資産の5分の1以上
U事業
V事業
W事業
X事業
Y事業
Z事業

B社は、A社の全事業を譲受します。この場合、全事業の譲受の要件、かつB社にとって自社の総資産の5分の1以上の事業を譲受する要件を満たしており、B社において株主総会の特別決議が必要です。A社の債務をB社に移転する場合、A社において債権者の承諾が必要になります。

設立2年以内の譲受企業に事業譲渡した場合

【事業譲渡前】

A社 U事業(資産額100億円)
V事業(同70億円)
W事業(同30億円)
 
B社
(会社設立後2年以内)
(純資産100億円)
なし

【事業譲渡後】
A社 U事業(資産額100億円)
W事業(同30億円)
 
B社
(会社設立後2年以内)
(純資産100億円)
V事業(資産額70億円)

設立後2年以内のB社は、A社のV事業の財産を譲受します。V事業の資産額70億円は、B社の純資産100億円の5分の1以上で要件を満たしますので、B社において株主総会の特別決議が必要です。A社の債務をB社に移転する場合、A社において債権者の承諾が必要になります。

事業譲渡のおすすめ相談先

ここまでの説明でもおわかりのように、事業譲渡の手続きは細心の注意を払って実施する必要があります。おそらく多くの中小企業の場合、自社だけで対応するには無理があるでしょう。

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4. 事業譲渡で注意すべき会社法第21条

事業譲渡において、さらに注意しなければならないのが会社法第21条です。会社法第21条には競業避止義務が規定されており、これを解説します。

会社法21条「譲渡会社の競業の禁止」の条文

まずは会社法第21条について、「電子政府の総合窓口e-gav」より、条文をそのまま引用・掲示します。

(譲渡会社の競業の禁止)
第二十一条 事業を譲渡した会社(以下この章において「譲渡会社」という。)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(特別区を含むものとし、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市にあっては、区又は総合区。以下この項において同じ。)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から二十年間は、同一の事業を行ってはならない。

2 譲渡会社が同一の事業を行わない旨の特約をした場合には、その特約は、その事業を譲渡した日から三十年の期間内に限り、その効力を有する。

3 前二項の規定にかかわらず、譲渡会社は、不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはならない。

会社法第21条が定義する「競業避止義務」の解説

会社法第21条が規定する競業避止義務とは、事業譲渡の譲渡側に対する義務です。

会社法第21条では、事業譲渡した会社は「同一の市町村およびその隣接市町村の区域内で、譲渡の日から20年間は同一の事業を行うことができません。この会社法第21条の競業避止義務が及ぶ期間は、特約により最大30年まで延長できます。

現代社会から見た会社法第21条

会社法第21条の定義では、「同一の市町村およびその隣接市町村の区域内で」の競業避止義務が定義されています。しかし、事業内容にもよりますが、現代はインターネットさえあれば、世界中どこに対しても事業を行うことが可能です。

地域を限定した会社法第21条の競業避止義務が、そもそも時代に合っておらず、その有効性に疑問が投げかけられていることは否めません。ただし、実際の事業譲渡契約では、競業避止義務を会社法第21条の「同一・隣接市区町村」という競業避止範囲に限定しない取り決めも可能です。

会社法第21条の「同一の事業」という点も、もう少し広い競業避止範囲に定義できます。したがって、状況が許す場合は、会社法第21条の競業避止の定義よりも細かく、事業譲渡契約書に定めておくと有効でしょう。

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5. 事業譲渡の主な手続き

本項では、事業譲渡の流れについて、順番に紹介します。なお、ここでは触れていませんが、譲渡側において当該事業における債務を移転する場合、個々の債権者の同意を得なければなりません。

取締役会による決議

事業譲渡の譲渡側においては、事業譲渡のほとんどが、重要な財産を処分することを含みます。したがって、まずは、取締役会設置会社においては取締役会の決議手続きが必要です。この段階では、事業譲渡の交渉期間や売却する事業などの基本的な部分を、過半数以上の賛成で決議します。

事業譲渡契約書の締結

事業譲渡側・譲受側双方の交渉によって、細部に至るまで事業譲渡の内容がまとまったら、事業譲渡契約書の締結手続きです。会社法21条の競業避止義務を細かく定める場合、この事業譲渡契約書に条項を入れます。

ただし、事業譲渡契約書を結んだ段階では、その効力はまだ発生しません。後述の手続きを行う必要があります。

事業譲渡の通知および告知

各種書類を提出し、事業譲渡を公に通知および告知する手続きが必要です。事業譲渡では、譲渡側において当該事業における債務を譲受側に移転する場合、個々の債権者の同意を得る必要がありますが、この時点で債権者それぞれに、すぐ同意を得られるよう準備しておくのが望ましいでしょう。

公正取引委員会への届出

独占禁止法などの規定により、事業譲渡をする会社の国内売上高合計額が200億円を超えていて、以下いずれかの条件を超える事業譲渡の場合は、公正取引委員会への届け出が必要となります。

  • 国内売上高が30億円を超える会社の全ての事業譲渡をする場合
  • 事業譲渡する一部事業の国内売上高が30億円を超える場合
  • 事業譲渡する事業の固定資産による国内売上高が30億円を超える場合

臨時報告書の提出

有価証券報告書の提出義務がある会社は、以下の要件に該当する事業譲渡の場合、内閣総理大臣に臨時報告書を提出することが会社法で規定されています。

  • 事業譲渡または譲受によって、資産額が最近事業年度の末日現在の純資産額よりも30%以上増減する場合
  • 事業譲渡または譲受によって、売上高が最近事業年度の実績に対して10%増減する場合

株主への通知

事業譲渡の効力発生日の20日前までに、株主へ事業譲渡を行う旨の通知もしくは公告を行う必要があります。

株主総会による決議

事業譲渡の譲渡側、譲受側双方において、事業譲渡の効力発生日前日までに株主総会の特別決議で承認を得る手続きを取らなければならないことが会社法で定められています。特別決議について、および特別決議が必要な事業譲渡は、すでに述べたとおりです。

株式買取請求手続き

事業譲渡の譲渡側、譲受側双方において、事業譲渡に反対する株主には株式の買取請求権が与えられます。買取請求権は、事業譲渡の効力発生日の20日前から前日までに行使可能です。

この請求があった場合、会社側では事業譲渡の効力発生日から60日以内に、公正な価格での買取と対価の支払を行う手続きを取る必要があります。

事業譲渡の効力発生

一連の手続きの流れを経て、通常は事業譲渡契約書に記載された実行日をもって、事業譲渡の効力が発生します。

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6. 事業譲渡をする際の会社法上の注意点まとめ

事業譲渡は、会社の一部または全部の事業を売却することをさします。事業譲渡では、債務(借入金など)の移転には、債権者の承諾が必要です。そして、事業譲渡にあたっては、原則として株主総会の特別決議を必要とすることが、会社法において定められています。

会社法では事業譲渡の実施に際して細かい規定があり、当事者となる場合は、その内容の把握が重要です。特に譲渡側の場合に課せられる会社法第21条の競業避止義務は、よく把握しておきましょう。

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