2023年04月08日更新
優先株とは?必要とされる理由からメリットとデメリットまで詳しく解説!
本記事では、優先株式とはどのようなものなのか、普通株式との違いやメリット・デメリット、M&Aで会社を売却する際の優先株式の活用を解説します。株式には普通株式以外に優先株式と呼ばれるものがあり、M&Aで活用されます。優先株について知りたい方は必見です。
目次
1. 優先株式とは
株式には、普通株式だけでなく「優先株式」と呼ばれるものもあります。優先株式は、銀行からの借り入れや普通株式発行のどちらとも違う性質を持っています。
優先株式はいわゆる「メザニン・ファイナンス」の1つであり、活用することで経営や投資の幅を広げることが可能です。この章では、優先株式に基本的な内容と、普通株式と何が違うのかを解説します。
優先株式とはどのようなものか
優先株式とは、投資家にとって普通株式より有利な何らかの権利を持つ株式のことです。種類株式と似たような意味ですが、種類株式は必ずしも投資家にとって有利とは限らず厳密には同じ概念ではありません。
優先株式には、普通株式よりも配当が高かったり、役員の選任に関して特別な権利を持っていたりと、普通株式にはないメリットがあります。優先株式に付与できる優先権の種類は会社法で定められており、資金調達や事業再生など経営のさまざまな場面で活用できます。
投資家には、優先株式は配当が高く長期的なメリットが大きいのが利点です。しかし、一般の投資家が優先株式を取得できる場面はそれほど多くなく、株式市場で取得できる銘柄はほとんどない点にデメリットがあります。
優先株式の3つの種類
優先株式は大きく分けて、参加型・非参加型・制限参加型の3種類があります。
- 参加型
- 非参加型
- 制限参加型
参加型
参加型優先株式とは、優先配当と普通配当を両方受け取れる優先株式のことです。
まず優先株式の株主のみが受け取れる優先配当を受け取った後、普通株式の株主に配当できる利益がまだ残っていた場合は、普通株式の株主と同じように普通配当も受け取れます。
参加型優先株式は二重に配当を受け取れるので非常に有利です。その代わりに株価は高くなる傾向があります。取得コストがかかるのがデメリットです。
非参加型
非参加型優先株式とは、優先配当だけ受け取れる優先株式のことです。参加型優先株式と違って普通配当は受け取れないので、その分メリットは少ないでしょう。
普通配当がもらえなくても、優先配当がもらえるならば得だと考える人もいます。しかし、優先配当の額が普通配当より必ずしも多いとは限らず、かえって損をしてしまうケースがないとはいえません。
非参加型優先株式のメリットは、配当が少ない分株価が安くなる傾向があることです。取得コストと配当のメリット・デメリットを見極めながら、出資の判断をします。
制限参加型
制限参加型優先株式とは、優先配当に加えて普通配当の一部を受け取れる優先株式のことです。参加型優先株式と非参加型優先株式の、中間に位置付けられます。
普通配当の受け取りの制限としては、普通配当の額に対して一定の比率を掛けたり、上限額を決めたりするケースがあります。
累積型と非累積型
優先株式の分類の仕方は、前述の参加型・非参加型以外に、累積型と非累積型もあります。累積型優先株式とは、ある年の優先配当が少なかった場合、次年度に持ち越して不足分を受け取れる優先株式のことです。逆に非累積型優先株式は、不足分を次年度に持ち越せません。
累積型優先株式のほうが非累積型優先株式よりもメリットは大きいでしょう。その分株価は、高くなる傾向があります。
優先株と普通株との違い
優先株式と普通株式の主な違いは、優先配当がもらえることです。ところが、それ以外にもさまざまな違いがあります。例えば、会社が解散した場合に、残余財産を優先的に受け取れるようにすることも可能です。優先株式では、ほかにもさまざまな優先権を与えられます。
しかし、優先株式はメリットだけでなく、普通株式にはないデメリットもあるので注意が必要です。例えば、優先株式は優先権がある分だけ普通株式よりも株価が高くなる傾向があります。優先株式は、議決権に制限が付いているのが一般的です。経営への参加の側面では、普通株式よりもメリットが低くなります。
優先株と社債の関係性
優先株式を用いる場合、優先配当とともに議決権制限が定められるケースが多く見られます。この場合、経営権を持たないものの優先して配当を受け取れる点で、社債に近い性質を持ちます。社債とは、会社が資金調達を目的に、投資家からの金銭の払込みと引き替えに発行する債券のことです。
2. 優先株に付与できる主な優先権・条項
ここでは、優先株式に付与できる主な優先権や条項を紹介します。付与できる主な事項は以下のとおりです。優先株式を発行する際は、これらの中から必要な優先権・条項を選んで付与します。
- 剰余金の配当
- 残余財産の分配
- 取得請求権
- 役員選任権
- 拒否権
- 転換請求権
- 全部取得条項
- 強制転換条項
剰余金の配当
剰余金とは、大まかにいうと、株主から出資してもらったお金のうち資本金にしなかった部分のことです。剰余金の一部は株主に配当できますが、優先株式は剰余金の配当を普通株式より優先させられます。
例えば、優先株式1株あたり1万円や2万円といった具体的な額を設定してもいいですし、普通株式の配当額の1.5倍・2倍といったように比率で設定することも可能です。
残余財産の分配
残余財産とは、会社が解散する場合に債権と債務をすべて整理して最終的に残った資産のことです。残余財産は株主に分配されますが、普通株式の株主に対しては株主平等の原則に基づき保有株数に応じて分配されます。
一方、優先株式は、残余財産の分配を普通株式より優先させることが可能です。残余財産も配当金の場合と同じように、参加型と非参加型があります。
取得請求権
取得請求権とは、持っている株式を会社に買い取ってもらう権利のことで、優先株式には取得請求権を付与できます。優先株式を買い取った会社側は、対価として株主に現金を支払うか普通株式を交付します。
役員選任権
普通株式の株主も株主総会で役員選任の意思表示を行えます。しかし、優先株式では、より強い役員選任権を付与することが可能です。優先株式に役員選任権を付与すると、優先株式の株主だけの株主総会(種類株主総会)で役員の選任・解任を決議できます。
拒否権
優先株式の株主は、一般的に普通株式の株主に比べて少数派であるため、普通株式の株主に意図的に優先株式の優位性を奪うような決議をされる可能性があります。
こういったケースから優先株式の株主を保護するために、優先株式には拒否権を付与することが可能です。拒否権があると、株主総会で決議された事項を種類株主総会で拒否できるようになります。
転換請求権
転換請求権とは、優先株式を普通株式に変えることを請求する権利のことで、取得請求権の一種です。転換請求権を付与しておくと、会社が上場した場合などに優先株式を普通株式に転換して市場で売却できます。
事業再生の一環として、いったん優先株式をなくしたい場合に転換請求権が利用されることもあります。
全部取得条項
全部取得条項とは、会社が優先株式を全て取得して回収できる条項のことです。全部取得条項が必要となる場面としては、M&Aで少数株主を強制的に排除する場合や、事業再生で100%減資を行う場合などがあります。そのほか、敵対的買収の防衛策として使われることもあります。
強制転換条項
強制転換条項とは、会社側の意思で優先株式を強制的に普通株式にできる条項のことです。転換請求権は株主側の権利ですが、強制転換条項は会社側が持つ権利です。
強制転換条項が必要になる場面としては、上場する場合などが考えられます。優先株式をなくすことで、一般の投資家から出資を募りやすくなります。
3. 優先株が必要とされる3つの理由
優先株式は、優先株式を取得する新規の株主、優先株式の発行以前から普通株式を保有している既存株主、優先株式を発行する会社の三者にとって、それぞれメリットがあります。
それぞれの立場から見て、優先株式が必要とされる理由は以下の3点が挙げられます。
- ストックオプションの効果維持のため
- 株主の投資リスクを減らすため
- 持ち株比率の低下を防ぐため
ストックオプションの効果維持のため
ベンチャー企業やスタートアップ企業では、従業員への報酬の一部としてストックオプションを交付することがあります。ストックオプションとは、あらかじめ決められた価格(権利行使価格)で将来株式を購入できる権利です。会社の業績が伸びて株価が上がれば、権利行使価格と現在の株価の差額が利益となります。
ストックオプションで利益を得るためには、行使価格の基準となる付与時の普通株式の株価を安く抑えなければなりません。そこで優先株式を発行すれば、優先株式は一般に普通株式より株価が高いので、ストックオプションの行使価格を相対的に低く抑え、効果維持に利用できます。
株主の投資リスクを減らすため
優先株式は普通株式より配当を多くもらえるほか、解散時に残余財産を多く受け取れるメリットがあります。これらのメリットは、株主の投資リスクの軽減に効果的です。長期的視点で安定した利益を得たい投資家に魅力的です。
持ち株比率の低下を防ぐため
優先株式は普通株式よりも株価が高いので、発行する会社からすれば少ない株数で多くの出資を募れます。既存株主には、持ち株比率の低下を抑えることにつながります。
4. 優先株のメリットとデメリット
優先株式は普通株式に比べて必ずしもメリットばかりではなく、デメリットと両面を見て発行すべきかを考える必要があります。経営者として優先株式を発行する立場と投資家として優先株式を取得して出資する立場があるので、両者の視点で考えることも大切です。
この章では、会社と投資家にとっての優先株式のメリット・デメリットをそれぞれ解説します。
会社にとってのメリット
優先株式を発行する会社側の主なメリットとしては、経営に介入されずに資金調達ができる点が挙げられます。資金調達の手段は普通株式を発行するほうが一般的です。普通株式を発行すると株主構成が変化し、新しい株主に経営に介入されます。
一方、優先株式は議決権が制限されるので、発行しても普通株式ほどは経営介入されません。
会社側から見たデメリット
優先株式は債務超過の会社が事業再生のために用いることが多く、優先株式を発行する会社は経営が苦しいイメージを持つ人もいます。たとえ事業再生でない理由だったとしても、会社のイメージが悪くなる可能性がある点はデメリットです。優先株式を発行するには定款変更が必要なので、手続きが面倒である点にデメリットもあります。
投資家にとってのメリット
投資家にとって優先株式は、普通株式よりもリスクヘッジ効果が高いのがメリットです。優先株式は優先的に配当を受け取れるので、普通株式よりリターンが安定する傾向があります。
会社が解散した場合に残余財産を優先的に受け取れるので、会社が倒産した場合でも普通株式よりは損失を抑えられます。
投資家から見たデメリット
投資家にとっての優先株式の主なデメリットは、値上がりによる売却益は狙いにくい点が挙げられます。日本では、優先株式が普通株式のように株式市場で売買されない習慣があり、流動性が非常に低いでしょう。投機的な売買をする投資家から見れば、優先株式はそこまでメリットがあるものではないといえます。
優先株式は議決権が制限される点もデメリットです。議決権があれば、株価が上がるような経営判断を促すよう働きかけることも可能です。議決権の制限は、経営への参加という面だけでなく投資の面でもデメリットになる可能性があります。
5. スタートアップ・M&A時に多く用いられる優先株とは
優先株式は、スタートアップ企業やM&Aで活用されるケースも多く見られます。スタートアップ企業への出資は投資家にとってリスクが大きく、優先株式にして残余財産の分配を有利にしておけば出資しやすくなるためです。
優先株式を発行する経営者側としては、普通株式よりも株価の高い優先株式で資金調達することで、自分の持ち株比率をそれほど下げずに済むメリットがあります。
M&Aでは、売却益を株主に優先的に分配したい場合に、優先株式が利用されることがあります。この場合は優先株式に残余財産の分配を付与しておいて、会社の売却を「みなし清算」とすることで株主に利益を分配可能です。
近年はIPOに代わってM&Aによるイグジットが増えつつあり、M&Aで優先株式が活用されるケースも増えてくると考えられます。
スタートアップのM&A事例については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
6. 優先株に関する3つの注意点とポイント
優先株式は適切に活用すると非常に有用ですが、普通株式の株主との兼ね合いもあるので、注意点やポイントを押さえておく必要があります。優先株式に関する主な注意点・ポイントとしては、以下の3点が挙げられます。
- 年間配当率・配当の分配および受け取り方法を株主と協議して取り決める
- 種類株主総会における議決権の範囲をよく検討する
- 普通株式に転換する際はタイミングやコストに注意する
年間配当率・配当の分配および受け取り方法を株主と協議して取り決める
優先株式を発行する際は、年間配当率や配当の分配、それらの受け取り方法を既存株主としっかり協議する必要があります。
年間配当率
優先株式を発行している場合は、年間配当率をしっかり決めておく必要があります。具体的な配当率は、発行会社によって違います。普通株式の配当率に3%から10%程度上乗せするケースが多いでしょう。
優先株式が株式市場で取引されることはほとんどありません。伊藤園だけが優先株式を上場しており、配当率は普通株式の1.25倍(25%)です。
配当の分配方法
優先株式の配当の分配方法には、参加型・非参加型・制限参加型があります。配当のメリットをより高くしたい場合は参加型、配当のメリットが少ない代わりに株価を安くしたい場合は非参加型の優先株式を発行することになります。
配当の受け取り方法
優先株式の配当の受け取り方法には、累積型と非累積型の2種類があります。一般に累積型のほうが配当は多くなるので、配当コストとの兼ね合いでどちらを発行すべきか判断します。
種類株主総会における議決権の範囲をよく検討する
優先株式は、配当が高い代わりに議決権を制限します。どれほど議決権を認めるかは、発行時によく検討する必要があります。あまりにも議決権を制限しすぎると、普通株式の株主に狙い撃ちされ、優先株式の株主に不利な決議をされてしまいかねません。
一方、議決権の範囲を広くしすぎると、会社が何かを決めるときに種類株主総会を開かなければならないケースが増えて、円滑に経営できなくなります。
普通株式に転換する際はタイミングやコストに注意する
上場や事業再生などで優先株式を普通株式に転換することがあります。転換のタイミングや配当コストには、注意が必要です。
転換の条件
優先株式の株主が普通株式への転換を行う条件としては、配当よりも議決権を得たい場合や、上場企業なら市場で普通株式を取引したい場合などが考えられます。
優先株式から普通株式への転換の条件は、適切に設定する必要があります。上場などで強制的に転換が必要になる場合に加えて、株主が転換請求権を行使した場合の対応も、きちんと取り決めておくことが大切です。
配当コスト
優先株式は普通株式より配当コストがかかるので、配当が利益を圧迫しないように注意する必要があります。ただし、配当コストを下げるために優先株式の配当をあまりにも低くすると、株主が優先株式を保有するメリットがなくなってしまいます。
優先株式の配当を考える際は、コストと株主のメリットなどさまざまな面を考慮して適切なコストに抑えることが重要です。
転換タイミング
優先株式から普通株式の転換のタイミングは、転換する目的によって変動します。例えば、上場のために優先株式を普通株式に転換するならば、上場する前に転換しておきます。しかし、上場における優先株式の転換は義務ではないので、優先株式のまま審査を受けることも可能です。
そのほか、議決権を取得したいために株主が自主的に転換するケースも考えられます。この場合は、議決権を行使したい目的によって、適切な転換タイミングが変動します。会社の業績が良く株価の推移が好調な時期も、転換のタイミングの1つです。
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