2023年09月21日更新
株式の持ち合いとは?メリットや持ち合いの解消が進む理由を解説!
持ち合い株式とは、複数の株式会社が相互に相手方の株式を保有することをいいます。長期的かつ安定的な関係の維持や敵対的買収の防衛策など幅広く活用されています。今回は、持ち合い株式の意味やメリット・デメリットについて解説します。
目次
1. 株式の持ち合いとは?
株式会社の意思決定は、株主で構成される株主総会によって決議されます。議決権は株式の持分比率に応じて与えられるので、株式会社における株式は非常に重要な役割を持ちます。
持ち合い株式は、複数の株式会社で相互に株式を取得しあうことをいい、1980年代後半のバブル全盛期まで広く活用されていました。
株式の持ち合いの意味
持ち合い株式とは、複数の株式会社が相互に発行済み株式を保有することをいいます。日本銀行金融研究所の定義では、「上場企業の2社が相互に株式を保有している状態」とされています。
持ち合い株式の目的や株価等に関して、当事会社同士で交渉を行った後、合意をもって互いに株式を取得します。
株式の持ち合いを行う目的
持ち合い株式は、複数の株式会社間で合意をもって行われます。その際の主な目的は以下の3つが挙げられます。
【持ち合い株式の目的】
- 敵対的買収の防衛策
- 系列グループの関係維持
- 取引先との関係強化
1.敵対的買収の防衛策
持ち合い株式は、敵対的買収の防衛策としての機能が期待できます。これは、友好的な第三者に自社株を保有してもらうことで、議決権のある株式が外部に流出するリスクが低くなるためです。
敵対的な第三者がTOBなどを用いて株式の買い付けを行っても、経営権を獲得できる水準まで持分比率を高めることが難しくなります。
2.系列グループの関係維持
持ち合い株式は、両社の友好的な関係を構築・維持させるために行われています。持ち合い株式でグループ化や株主の安定化を図ることで、グループの規模拡大や関係維持に活用することができます。
3.取引先との関係強化
株式会社においては、議決権のある株式の持分比率が高い株主の意向が強く反映されますが、持ち合い株式の合意による持分比率に関しては、経営に干渉しないという暗黙の了解を得られます。
これにより、持ち合い株式の関係にある会社は互いに経営陣によるスムーズな経営が行いやすくなり、友好的な関係も構築しやすくなります。
株式の持ち合いが生まれた背景
持ち合い株式が使われるようになったきっかけは、戦後の財閥解体とされています。その後、戦後の不況やバブル期などを経て広まっていくことになります。
【持ち合い株式が生まれた背景】
- 財閥解体と証券取引所の再開
- 戦後の不況とオイルショック
- バブル期
1.財閥解体と証券取引所の再開
戦後の財閥解体と証券取引所の再開で、日本企業の株式は個人に放出されましたが、戦争に敗北して疲弊しきった日本人が株式を保有し続けることは難しく、個人保有の株式は外資に買い占められるケースが急増しました。
これをきっかけとして持ち合い株式の考え方が広まり、買い占めの対抗策として急速に発展しました。
2.戦後の不況とオイルショック
1960年代には、戦後の不況対策として株式買取期間により株式の市場放出が行われ、日本企業の株式が大量に市場に流れることで敵対的買収の危険性が増すことになりました。
また、1964年には日本のOECD(経済協力開発機構)への加盟で、証券市場の対外取引の自由化が行われました。グローバル競争力で劣る日本企業は、外資企業に買収される恐れが高まることとなります。
こうした背景のなか、産業界首脳による政府への打診で持ち合い株式に関する商法の改正を実現します。これにより持ち合い株式の利便性が向上し、一気に広まることとなりました。
3.バブル期
最後は石油危機からバブル期までです。エクイティ・ファイナンス(株式発行による資金調達)の活性化により金融機関が事業会社の株式を取得することが多くなり、金融機関の持分比率が上昇することになります。
金融機関と事業会社の持ち合い株式の関係のメリットは、金融機関側は含み益の増大、事業会社側は金融機関という安定株主の確保というものがあります。
2. 株式の持ち合いの議決権
議決権とは、株主総会の決議に投票できる権利のことで、多くの場合は1単元株に対して1つの議決権が付与されています。
この議決権に関して、持ち合い株式にある規制が設けられています。この章では、議決権の制限内容と相互保有株式の確認について解説します。
議決権の制限
議決権の制限は、持ち合い株式の関係にある当事会社が互いに4分の1以上の株式を取得している場合、議決権が停止される(会社法308条)というものです。
これは、持ち合い株式の友好的な関係を悪用して相手方の会社を通じて、都合のよい権利行使をさせないことが目的として設けられています。
ただし、持ち合い株式の関係が三社以上で成り立っている場合、三角持ち合いや循環的相互保有となり、議決権の規制対象ではなくなります。
相互保有株式の確認
持ち合い株式で、議決権の制限がかかるほどの持分比率を高めることは滅多にありませんが、規制対象になると目的が達成できなくなる恐れもあります。
株主総会の決議の有効性を維持するためにも、株主名簿の書き換えは随時適切に行って、いつでも相互保有株式の確認ができる状態にしておくことが望ましいと考えられています。
3. 株式の持ち合いのメリット・デメリット
持ち合い株式は適切に運用すればメリットを得ることができますが、同時に注意しなければならないデメリットもあります。
持ち合い株式のメリット
持ち合い株式のメリットは、前述した目的がそのままあてはまります。相互に株式を保有することで、両社間の友好的な関係を維持して経営を安定させることができます。
さらに、市場に流通する株数が減少することで株価の安定効果も期待できます。そのため、持ち合い株式は株主のためではなく、経営陣のための経営戦略といえます。
【持ち合い株式のメリット】
- 安定的かつ長期的な取引関係を構築しやすい
- 大量に発行された株式の受け皿に使える
- 買収防衛策として活用できる
持ち合い株式のデメリット
持ち合い株式のデメリットは、少数株主の意向が反映されにくいことです。自社と相手方の保有株式で持分比率の大変が占有されているので、両社の経営陣の意向が尊重されやすい仕組みになっています。
また、会社の限りある資金を持ち合い株式の取得に費やすという資産効率の低下という問題もあります。
経営陣の方針に不信感を抱いた投資家は保有株式を手放す可能性が高いです。結果的に市場に株式が放出されることになり、株価下落に繋がる恐れもあります。
【持ち合い株式のデメリット】
- 少数株主の意向が反映されにくい
- 資産効率の低下
- 株価下落による経営状態の悪化リスクが伴う
4. 株式の持ち合いの解消が進む理由
持ち合い株式は、当事会社の関係強化や結束力を高める効果が期待できますが、さまざまな要因により持ち合いを解消する動きが強まっています。
【持ち合い株式の解消が進む理由】
- バブル崩壊による影響
- 会計基準の変更
- 海外投資家などの圧力
- コーポレートガバナンス・コードの影響
1.バブル崩壊による影響
1つ目の理由は、バブル崩壊による長期間の景気低迷です。多くの事業会社の資金繰りが悪化したため、保有株式を売却して資金を確保する必要が生じました。
持ち合い株式の資産効率低下や、株価下落による悪影響というマイナス面が顕在化したことで、解消する動きが強まりました。
2.会計基準の変更
2つ目の理由は、金融ビッグバンにより会計基準が変更されたことです。日本の会計基準を国際基準に近づけるため、1996年から2001年度にかけて金融制度改革が行われました。
金融ビッグバンによる変更では、持ち合い株式の有価証券の計上を取得原価から時価評価して、貸借対照表の資本に変更することが義務付けられました。
これによって、持ち合い株式の利益・損失が自己資本比率に強く影響することとなり、業績とは関係のない部分で持ち合い株式の保有が変化することを嫌って、持ち合い株式の解消が進められるようになりました。
3.海外投資家などの圧力
持ち合い株式の解消が進む理由には、海外投資家からの圧力もあります。指摘内容には、「資産の空洞化」や「株主総会の機能不全」などがあります。
資産の空洞化
資産の空洞化とは、会社の資本が誤った使い方をされることで、効率的な経営の妨げになっていることをいいます。
本来、企業の資本は成長事業に投資するべきものです。業績が向上して利益が出たら投資していた株主に配当金を出すというのが一般的です。
しかし、持ち合い株式は成長事業と関係のない取引先の株式取得に資金を投じ、配当金の分配も持ち合い株式の間でやり取りされます。
持ち合い株式は互いの成長に直接貢献せず、資産の有効活用も行えていないため、海外投資家からは資産の空洞化といわれています。
株主総会の機能不全
持ち合い株式の当事会社は、互いに経営に干渉しなくなる場合が多いです。経営陣にとって最も都合のよい存在は「出資するだけで物言わぬ株主」なので、暗黙の了解として互いに口出ししないことが一般的です。
これは、一貫性のある経営を行いやすくなりますが、株主総会の機能不全による経営陣の暴走を招く危険性もあります。
4.コーポレートガバナンス・コードの影響
2015年6月施行の「コーポレートガバナンス・コード」で、上場企業に対して、持ち合い株式の保有に関する合理的理由の説明が義務付けられました。
施行後も改訂が行われており、持ち合い株式の解消を加速させる1つの要因となっています。
コーポレートガバナンスとは
コーポレートガバナンスとは、会社経営を管理・監督する仕組みのことです。株式会社においては、株主の利益を実現できる仕組みになっているか監視することを目的としたシステムです。
バブル崩壊をきっかけに、持ち合い株式のさまざまなデメリットが顕在化したことで、コーポレートガバナンスによる監視体制が強められることとなりました。
5. 株式の持ち合いの解消の事例
持ち合い株式の解消事例は、直近では2019年8月のメガバンク含む13社によるリクルートホールディングスの株式売却の一斉表明が話題になりました。
本事例で売却された総株式数は、1億1675万株(発行済み株式数の約7%)です。時価総額は、同日の終値ベースで3868億円となっています。
本事例の解消理由は、リクルートホールディングスのグループ会社リクルートキャリアが就職情報サイト「リクナビ」で得た学生データを企業に販売していたことが発覚したためです。
上場企業に義務付けられているコーポレートガバナンスに抵触する可能性が高いとして、株式保有リスクを嫌って売却に至ったとみられています。
6. 株式の持ち合いの解消の手続き
持ち合い株式の解消は、両社の合意をもって行われることが一般的です。というのは、合理的な理由もなく一方的に株式を売却すると、友好的な関係が失われる可能性が高いためです。
株式の取引方法に関しては、第三者への売却か自社株買いの2つの方法があります。株式市場に放出する場合も株価への影響が考えられるため、事前の取り決めが重要になります。
株式市場を介さずに直接取得する場合は、株主総会の特別決議が必要です。株主総会の開催は招集通知や決議などを順を追って進めていきます。
株式売買のご相談はM&Aの専門家へ
持ち合い株式の解消による株式売買は、M&A手法を用いて行うことも可能です。M&Aの専門家であれば、さまざまM&A手法に精通しているので、適切な方法を用いて持ち合い株式を解消することができます。
M&A総合研究所は、M&A仲介を手掛けるM&Aの専門家です。創業以来から豊富な実績を積み重ねており、M&Aの経験とノウハウを培っています。
M&Aの料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です。(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。
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7. 株式の持ち合いの解消は今後どうなる?
持ち合い株式は、戦後からバブル崩壊まで幅広く活用されていました。当時は外資による敵対的買収の危険性も高く、各企業の自衛手段が必要であったことも強く影響しています。
しかし、バブル崩壊以降からは、持ち合い株式を解消する流れが強くなっています。社会環境の変化や海外投資家からの指摘で、持ち合い株式の問題が浮彫になったためです。
コーポレートガバナンスの施行なども含めて持ち合い株式の逆風が続いているので、今後も解消の流れは続いていくとみられています。
8. まとめ
持ち合い株式は多くのメリットがある反面、いくつかのデメリットもあります。解消事例も増えており、今後は更なるグローバル化が進んで日本特有文化の持ち合い株式は廃れていく可能性が高いでしょう。
持ち合い株式の解消で株式の売買をする場合は、M&Aの専門家に相談することをおすすめします。専門的知見によるアドバイスを受けることで適切な手法を検討することができます。
【持ち合い株式の目的】
- 敵対的買収の防衛策
- 系列グループの関係維持
- 取引先との関係強化
【持ち合い株式が生まれた背景】
- 財閥解体と証券取引所の再開
- 戦後の不況とオイルショック
- バブル期
【持ち合い株式のメリット】
- 安定的かつ長期的な取引関係を構築しやすい
- 大量に発行された株式の受け皿に使える
- 買収防衛策として活用できる
【持ち合い株式のデメリット】
- 少数株主の意向が反映されにくい
- 資産効率の低下
- 株価下落による経営状態の悪化リスクが伴う
【持ち合い株式の解消が進む理由】
- バブル崩壊による影響
- 会計基準の変更
- 海外投資家などの圧力
- コーポレートガバナンス・コードの影響
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