2025年08月22日更新
事業承継に最適?持株会社設立のメリット・デメリットと最新事例を解説
事業承継を円滑に進める有効な手段として、持株会社設立が注目されています。本記事では、持株会社設立のメリット・デメリット、設立方法、手順、そして最新の事例を交えながら、事業承継の観点も踏まえて解説します。
目次
1. 持株会社とは?事業承継における役割を解説
超高齢社会の到来に伴い、多くの企業、特に中小企業は事業承継問題に直面しています。後継者不足や経営の円滑な移行など、企業の存続に関わる重要な課題です。こうした中で、持株会社を活用した事業承継が注目を集めています。
かつては独占禁止法によって規制されていた持株会社設立ですが、1999年の法改正により、企業グループの再編や事業承継の手段として広く活用されるようになりました。
持株会社の種類
ホールディングスとも呼ばれる持株会社ですが、「純粋持株会社」と「事業持株会社」の2つの種類があります。
ここでは、「純粋持株会社」と「事業持株会社」に関して、持株会社による定義などを簡単に解説します。
純粋持株会社の定義
持株会社の種類の1つである「純粋持株会社」の定義によると、その会社自身は販売や製造などの事業を行いません。自分以外の会社の事業を掌握します。他の会社を掌握することが、純粋持株会社の事業です。
事業持株会社の定義
一方で、「事業持株会社」とは、グループ内各社の株式を所持して子会社を掌握し、自身も販売や製造などにより利益を生んでいくものです。
投資のための株式所有ではない
ベンチャーキャピタルなどの会社をはじめ、投資をするために他社の株式を所有するケースがほとんどです。
しかし、持株会社では株式を所有した会社の事業活動をコントロール下に置くことが目的なので、投資をするために他社の株式を所有するわけではありません。株式を所有した会社の事業活動を事実上支配して、利益を得ます。
合併による経営統合との違い
経営統合と似た方法に、合併が存在します。端的にいえば、経営統合は複数の企業が存在するのに対して、合併は1つの企業しか存在しないため、さまざまな事務的な違いが存在します。
持株会社を設立し統合すると、それぞれの会社自体は存在を続けるため、その会社が持っていた社内規定・方式・社内での手順・手続きを変更する必要がありません。あくまでも会社は既存のままでありながら、経営的に統合する形です。
一方で、合併は複数の企業が1つになる方法であるため、会社による手続きの違いや手順の違いなどが発生します。合併は社風や事務手続きなど全ての面で統合が行われることから、多くの時間と費用がかかります。
業務提携との違い
業務提携とは、複数の企業が経営資源を出し合い、1社のみでは解決できない問題を協力し合うことで事業成長・競争力強化を行う施策のことです。
経営統合とは違い、業務上の提携のみに留まります。株式・資本が移動しないことから、両社のつながりは比較的密接ではありません。
資本提携との違い
資本提携とは、複数の企業がそれぞれの技術・ノウハウ・資金などを提供し合い、1社単独では達成が難しい成果の獲得を目指す提携関係のことです。
資本を持ち合うのみの関係を構築することから、持株会社化による経営統合よりも結びつきは緩やかだといえます。
2. 事業承継における持株会社設立の目的
事業承継において、持株会社を設立する目的は主に以下の点が挙げられます。
- 経営権の円滑な移行:後継者への株式の集中、世代交代の円滑化
- 経営の安定化:親族内紛の防止、経営と所有の分離
- 事業の多角化・成長:グループ経営によるシナジー効果、新規事業への進出
- 相続税対策:株式評価額の適正化、納税資金の確保
3. 持株会社設立の方法と事業承継への適用
持株会社設立の方法は、主に以下の3つです。事業承継という観点から、それぞれの手続きとメリット・デメリットを解説します。
- 株式移転方式
- 株式交換方式
- 抜け殻方式(会社分割方式)
①株式移転方式
株式移転方式は、新たに設立する持株会社に既存事業会社の株式を移転する方法です。事業承継においては、後継者が所有する株式を移転することで、持株会社を通じてグループ経営を統括する体制を構築できます。
②株式交換方式
株式交換方式は、既存の会社を親会社とし、他の会社を子会社化する方法です。事業承継では、後継者が経営権を握る会社を親会社として、他の事業会社を子会社化することで、グループ全体の経営権を掌握できます。
③抜け殻方式
持株会社経営統合の作り方の3つ目は「抜け殻方式」です。抜け殻方式とは、純粋持株会社設立を目的とした際に取り入れられる手続きです。親会社となる既存会社から現物での出資や事業の譲渡などを行うことで子会社に事業を分割します。
親となる会社は自身で事業を行わず、子会社を支配することを事業とする手続きを取ります。
4. 事業承継を見据えた持株会社設立の手順
持株会社を設立する手順を解説します。先に解説した3つの方式の設立手順を取り上げます。
- 株式移転での流れ
- 株式交換での流れ
- 抜け殻での流れ
①株式移転での流れ
3つある持株会社の設立手順のうち、まずは株式移転を用いたときの手順を紹介します。株式移転は、経営統合を目的とした持株会社を設立する際に、株式を移転する手続きです。
別グループの会社同士が経営統合
経営統合の持株会社を設立する手法として株式移転を用いた場合、手順としてはまず別グループの会社同士が経営統合を行います。この手法により、子会社化する会社の経営統合が行えます。
株式移転先の親会社を新たに設立
別グループの会社同士が経営統合した後に、株式移転先となる親会社を新たに設立します。これにより、経営統合による持株会社が作られます。新設した会社は、資本金や定款といった手続きや会計処理も円滑に行わなければなりません。
株式移転方式のメリット
株式移転方式による持株会社の経営統合のメリットは、さまざま存在します。まず、事業に必要な許認可が存在する場合、許認可に対しての移転手続きが必要ないメリットです。
持株会社となった既存会社に対して、事業への影響を最小限に留めることもメリットです。経営統合などを行う際の手続きも期間が短く抑えられることや、他の方式と比較すると資金の調達などが不要な点もメリットとして挙げられます。
既存会社もなくならないため、取引先や従業員などへの影響もほとんどない点にもメリットがあります。
②株式交換での流れ
次に、株式交換による持株会社設立で経営統合をする手順を解説します。株式交換とは、それぞれの会社の株式を交換することで、お互いが親子関係となる手続きです。
持株会社の親となる会社が子会社の株式を取得
まず、持株会社の親となる会社が子会社となる会社の株式を取得します。このとき、子会社となる株式を親会社はすべて保有することになります。この手続きを行う前までに、株式交換の価格や手順などの打ち合わせをしておきましょう。
対価として親会社である自社の株式を交付
次に、対価として子会社に親会社の株式が交付されます。株式交換は少数の株主からは強制的に株式を交換させることが可能であり、M&Aでは頻繁に用いられる手続きです。
株式交換方式のメリット
株式交換方式の最大のメリットは、現金の調達が不要な点です。株式交換方式は多くの現金を必要としない手続きとなるため、手順さえしっかりと踏まえれば比較的スムーズに進められます。
強制的に少数の株主の交換を行えることもメリットです。会社の資産を運用できたり、新たな株主が経営に参加し企業が活発化したりするなどのメリットも見込まれます。
③抜け殻での流れ
最後に、抜け殻方式での経営統合を目的とした持株会社設立はどのような手順なのか解説します。抜け殻方式は、経営の効率を高めるために行われることが多い方式です。
事業譲渡や会社分割、現物出資などで親会社の事業を子会社に移動
抜け殻方式は「会社分割方式」とも呼ばれる方式です。事業譲渡などによる事業分割や会社分割のほか、現物出資などの手順で親会社の事業を、子会社に移動するといった方法が採用されます。
親会社は子会社の株式だけを保有する状態となる
先の手順ですべての業務は子会社に移動するため、移動元であった親会社は子会社の株式のみを所有している状態になります。これにより、親会社は子会社の支配を主な事業とします。
抜け殻方式のメリット
向け柄方式の最大のメリットは、現金の調達が不要である点です。これは、子会社に対して親会社が事業や資産を移動するためです。費用面でもメリットがある方法といえます。
すでにある会社に対して手続きが行われる方法のため、株式の移動もありません。株主からすると株式変更などの手続きが必要ないことがメリットです。
5. 事業承継における持株会社設立のメリット
持株会社による経営統合にはどのようなメリットがあるのか、簡単に解説します。持株会社の設立による経営統合のメリットはさまざま考えられますが、ここでは以下の7つに絞り紹介します。
①既存事業への影響を最小限に抑えられる
持株会社設立による事業承継では、既存事業の組織や人事制度を大きく変更する必要がないため、従業員への影響を最小限に抑えられます。
②グループ経営によるシナジー効果創出
グループ経営によるシナジー効果は、事業の多角化や効率化を促進します。各子会社の専門性を活かし、連携を強化することで、新たなビジネスチャンスの創出や市場競争力の向上が期待できます。
③経営資源の効率的な配分
持株会社は、グループ全体を統括する立場から、経営資源の最適な配分を図ることができます。資金、人材、技術などを効率的に活用することで、グループ全体の成長を最大化できます。
④ガバナンスの強化と透明性向上
持株会社設立で経営統合における4番目のメリットは、コーポレート・メリットガバナンスを向上させることです。横列他社への競争心や正当性などの向上が見込めます。
⑤事業の選択と集中による競争力強化
持株会社設立による経営統合の5番目のメリットは、各会社で労働条件が統一されることです。労働条件の統一は、従業員にとってやりがいを与えるため、働き方が向上する可能性があります。
⑥リスク分散と事業の安定化
持株会社設立による経営統合の6番目のメリットは、共倒れするリスクの回避です。1つの会社の業績が不振に陥ったとしても、それを理由に経営不振が頻発することはありません。
⑦後継者育成の促進と円滑な事業承継
持株会社設立による経営統合の7番目のメリットは、後継者を育てやすい環境になることです。これは、ホールディングス化された子会社がグループ内部で競い合うことで、より優れた後継者が育っていくためです。
後継者を成長させる環境を整えることは、経営者にとって重要といえます。成長できる環境を作り上げることが、企業のさらなる成長を促します。
6. 事業承継における持株会社設立の最新事例と注意点
一方で、持株会社による経営統合にはデメリットも存在します。持株会社の設立による経営統合に対するデメリットとして、以下の4つに絞り紹介します。
- 子会社同士の連携が崩れる可能性
- 会社間での損益通算がわかりにくい
- シナジー効果が出にくいことがある
- 事務負担や事業の重複が起こる可能性
①子会社同士の連携が崩れる可能性
合併のように1つの会社に生まれ変わるのであれば、社員同士の意思の疎通は取りやすいです。しかし、子会社同士となると、連携が取れないことも多くあります。
同じ企業体でありながら、コミュニケーションの不足が生まれて事業が円滑に進まなくなることもあり得ます。このような状況になるのは、定款や資本金が違う会社同士なので仕方がありません。会計処理が違ううえに、意思の疎通が取りにくい可能性もあります。
②会社間での損益通算がわかりにくい
ホールディングス化が進められると、グループ内部での業務が多くなるため、会計処理などの管理費用は増加する傾向があります。会社間での損益通算がわかりにくくなり、結果的に多くの費用が損失として計上されかねません。
同じ傘下で会計処理が複雑化する可能性もあります。お互いの会社同士はそれぞれの会計処理を行っているものの、グループ内でのやり取りの会計処理が統一されるためです。こうした会計処理の複雑化がデメリットとして考えられます。
③シナジー効果が出にくいことがある
会社の一体化がスムーズに進まないときは、シナジー効果が出にくいこともあります。持株会社のもとで子会社は各企業文化や制度を存続できますが、子会社同士の連携が困難になると経営統合によって生じるシナジー効果が出ないデメリットも考えられます。
④事務負担や事業の重複が起こる可能性
デメリットとして考えられることの1つに、事務負担や事業の重複があります。会計処理の複雑化により、事務負担が増えるばかりか事業まで重複してしまうと、業務効率が著しく低下してしまいかねません。
持株会社設立による経営統合には、メリットと合わせてデメリットもあります。デメリットにどのように対応していくかが、持株会社設立による経営統合では重要なポイントです。
7. 事業承継のための持株会社設立を検討する上での注意点
専門家への相談が重要
持株会社設立は複雑な手続きを伴います。税理士、弁護士、司法書士などの専門家と連携し、最適なスキームを構築することが重要です。2024年4月施行の電子帳簿保存法への対応なども含め、専門家のアドバイスを受けることで、スムーズな設立と円滑な事業承継を実現できます。
関係者との合意形成
持株会社設立は、株主、従業員、取引先など、多くの関係者に影響を与える可能性があります。事前に十分な説明を行い、理解と協力を得ることが大切です。
長期的な視点での検討
持株会社設立は、短期的な利益ではなく、長期的な企業価値の向上を目指すべきです。事業承継後の経営戦略、株式の分散状況、将来の事業展開などを考慮し、持株会社設立のメリット・デメリットを慎重に検討しましょう。
8. 持株会社設立における注意事項
持株会社設立による経営統合では、費用や作り方なども含め注意するポイントが数点あります。ここでは、持株会社設立の注意点を、以下の項目に沿って解説します。
- 株主総会
- 許認可
- 雇用条件や社会保険
- 債権者
- 開示手続き
- 開業届
①株主総会
持株会社設立による経営統合では、株主総会がどのように関わってくるのでしょうか。株式移転方式の場合は、株式の移転と事業の分割が必要となるので、株主総会の決議が必要です。
抜け殻方式の場合、子会社となる会社に事業を引き継ぐため、株主総会の決議が必要です。このように、それぞれの方式によって株主総会の決議が必要ですので、事前に計画を立てて円滑に進めましょう。
②許認可
許認可は、抜け殻方式を導入した場合に注意する必要があります。許認可を承継できない場合があるためです。認可が必要になる場合、当初の計画どおりに子会社化できなくなります。許認可が必要となる業種があるので確認しておきましょう。
定款や資本金など会社設立に必要な会計処理が会社設立に必要となる場合があるので、専門家と相談しながら進めることをおすすめします。
持株会社設立による経営統合をご検討の場合は、ぜひM&A総合研究所にお任せください。M&A総合研究所では、知識・実績豊富なM&Aアドバイザーが親身になってフルサポートいたします。
ご相談は無料となっておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
③雇用条件や社会保険
定款や資本金といった会社設立に必要な事項以外に、従業員の雇用の条件や社会保険などの手続きも必要です。これは、会社分割などによる異動には伴わないものの、会社を転籍すると捉えられるためです。
持株会社設立による経営統合によって会社を設立した場合は、定款や資本金以外にもしっかりと経営を見据えておきましょう。
④債権者
債権者に対しては、持株会社設立による経営統合の説明を行う必要があります。債権者の保護手続きが必要となるためです。事前に債権者には持株会社の設立の目的や手続きだけではなく、資本金や定款といった内容も説明しておくと良いでしょう。
⑤開示手続き
持株会社設立による経営統合を行う会社を上場企業とする場合、株式移転方式では適時開示などを行い、上場手続きを行う必要があります。抜け殻方式でも適時開示が必要です。
資本金の調達や定款を作るなどの通常の会社設立手続きと違い、事務手続きが複雑な点もあります。もちろん、資本金や定款などの設立も大切です。専門家と相談しながら、進めていくことをおすすめします。
⑥開業届
新たな会社を設立するので、資本金や定款などと合わせて、開業届を提出する必要があります。設立後3カ月以内に提出しましょう。
以上、持株会社設立による経営統合における注意点を解説しました。すでに会社を起業した方であれば、資本金や定款に関して迷うことはないでしょう。
しかし、持株会社設立による経営統合は、資本金や定款以外にもさまざまな手続きが必要です。自社の判断のみで進めずに、必ず専門家に相談しましょう。
9. 持株会社設立による経営統合のまとめ
持株会社設立による経営統合を解説しました。内容的に難しい部分もありますが、紹介したメリットやデメリットを確認し、なるべく費用面を抑えながら経営統合を図ることで、よりスリムな経営が可能です。わからない部分があれば、専門家の手を借りることが重要です。
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