2023年04月14日更新
抱合せ株式とは?用語の意味から消滅で生じるメリットとデメリットまで解説!
本記事では、抱合せ株式とはどのようなものなのか、生じるケースや必要となる経理処理を解説します。抱合せ株式とは、会社の合併や分割で消滅してしまう株式をさし、消滅会社の法人格が消滅すると存続会社が持っている株式も消滅します。抱合せ株式について知りたい方は必見です。
1. 抱合せ株式とは
経営の効率化やコスト削減などのため、企業は合併や分割を行うことがありますが、その際に「抱合せ株式」が発生することがあるでしょう。
抱合せ株式とは、合併や分割時に存続会社が持っている消滅会社の株式のことです。英語表記は「Tie-in Shares」です。
一般的に、存続会社が消滅会社の株式を所有している場合、存続会社から消滅会社に対価が支払われますが、抱合せ株式の場合は例外的に対価を支払うことが認められていないため、抱合せ株式は消滅します。会計処理は、親会社が子会社を吸収合併する場合と子会社同士における合併の場合で異なります。
この記事では、抱合せ株式が発生するケースや会計処理、抱合せ株式の消滅によるメリットやデメリットを見ましょう。
2. 抱合せ株式が生じるケースと必要な会計処理
抱合せ株式が生じるケースは、合併の場合と会社分割の場合があります。この章では、それぞれのケースにおける会計処理を見ましょう。
合併の場合
合併には吸収合併と新設合併がありますが、多くの場合で吸収合併が用いられています。ここでは、吸収合併のケースを取り上げて解説します。
親子関係にある企業での吸収合併時
親会社のA社が子会社のB社を吸収合併する場合、吸収合併前にA社が持っていたB社の株が抱合せ株式です。
吸収合併によってA社はB社の資産も負債も引き継ぎますが、会計処理ではA社が引き継いだ純資産は時価、消滅するB社の株式は簿価となるため差額が生じます。この差額を「抱合せ株式消滅差損益」といい、特別損益に計上します。
A社以外の個人や会社が持っているB社の株を買う場合、株主が純資産と同じ金額で株を売ることはまずありません。株主にとって、株を売るよりも毎年利益をもらったほうが得だからです。
この株を買うには純資産より高い金額を支払わなければなりませんが、そうなると純資産と買取価格に差額が生じます。この純資産と買取価格の差額は「のれん(あるいは負ののれん)」です。
のれんは、無形固定資産に計上されて減価償却をします。償却期間はのれんの効果が及ぶ期間内で、20年以内で自由に設定できます。
償却方法には毎年同じ金額が償却される定額償却と、初年度の償却金額が一番大きく毎年償却金額が減っていく定率償却がありますが、のれんの場合は定額償却です。
B社がA社の100%子会社のときは税制適格合併となる可能性があり、その場合は資産および負債を簿価で引き継ぎます。この場合、税務上の利益が出ることはなく、みなし配当も発生しません。
100%子会社でない場合は税制非適格合併となり、子会社の資産と負債は時価で引き継ぐので損益が出る可能性があり、みなし配当も発生します。
合併については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
会社分割の場合
次は会社分割の場合における会計処理を見ていきましょう。会社分割や合併において、その前後で同じ株主によって継続的に支配される場合は共通支配下の取引になり、100%親子関係にある会社間もこれに該当します。
ここでは、実務上多い100%親子関係にあり無対価での分割における会計処理を解説しましょう。
親会社から子会社への分割時
100%親子関係にある親会社から子会社への事業(親会社が持つ事業の一部)を移す場合、適正な簿価で引き継ぎます。分割前後で両社の間では投資が続くため、どちらの会社にも移転損益は認識しないためです。
分割を引き継ぐ子会社における株主資本などの増減は、以下におけるどちらかの方法で引き継ぎの処理をします。
- 子会社が分割契約で決めた「資本金」あるいは「資本剰余金」として処理
- 親会社の資本金と資本剰余金は子会社の「資本剰余金」、利益剰余金は「その他利益剰余金」として処理する
子会社から親会社への分割時
100%親子関係にあるケースでは、子会社から親会社に事業(子会社が持つ事業の一部)を移した場合、親会社は子会社への投資を清算したものとして損益を認識します。子会社の消滅する株式=抱合せ株式となり、親会社は抱合せ株式の簿価とそれに伴う資本(増加資本)の差額は「抱合せ株式消滅差損益」として計上します。
子会社は分割先が親会社になるため、投資は続くと考え適正な簿価での引き継ぎとなり、移転損益は認識しません。連結決算上は、子会社株式および抱合せ株式消滅差益をその他利益剰余金と相殺するので、損益への影響はありません。
会社分割には簡易分割の方法があり、移転する資産の簿価額が分割会社の総資産における5分の1以下の場合、株主総会決議を省略できます。しかし、抱合せ株式消滅差損が生じるケースでは行えないため、注意が必要です。
子会社間での分割時
兄弟会社にあたる100%子会社同士で分割を行った場合も、会計上は共通支配下の取引と考えます。会計処理では、資産や負債の移動は分割元の適正な簿価で計上します。
この場合、親会社が子会社の純資産を受け入れないので、抱合せ株式消滅差損益は発生しません。株式資本の増減に関する処理は、親会社から子会社へ分割する場合と同様に取り扱います。
連結財務諸表と抱合せ株式
連結財務諸表ではどのような処理となるのか、100%子会社を吸収合併したケースを例として見ましょう。
ケースでは、子会社の純資産と親会社が持つ子会社株式の帳簿価額における差額を抱合せ株式消滅差損益と考えます。連結上、グループ間の取引なので、抱合せ株式消滅差損益を崩して、利益剰余金と相殺します。
抱合せ株式消滅差損益部分の損益は、過年度に子会社が計上した損益の累積です。すでに決算書に取り込んでいるため、相殺します。
会社分割の適格分割・非適格分割については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
3. 抱合せ株式の消滅で生じるメリットとデメリット
合併や分割は事業の効率化などを目的として行われることが多いですが、その際に生じる抱合せ株式の消滅には、どのようなメリットがあるのでしょうか。この章では、抱合せ株式の消滅で生じるメリットだけでなく、デメリットも見ましょう。
2つのメリット
抱合せ株式が消滅することによって得られるメリットは、主に次の2つです。
【抱合せ株式の消滅によるメリット】
- グループ全体としての節税につながる
- 相続税評価額が下がる場合がある
グループ全体としての節税につながる
抱合せ株式の消滅が生じることによって、グループ全体の節税につながることもあります。100%子会社であっても、連結納税を選択していない限り、他社の損失を相殺して申告できません。
しかし、例えば合併によって抱合せ株式の消滅が生じる場合は、損失や欠損金を損益通算できるので節税になる可能性があります。
相続税評価額が下がる場合がある
抱合せ株式の消滅により純資産が圧縮されたり、損益通算により利益水準が圧縮されたりすることがあります。
相続税は、純資産の評価額によって決まります。しかし、抱合せ株式を消滅させることで純資産の評価額が下がれば、相続税の評価額も下がるので、節税できるケースがあるでしょう。
2つのデメリット
次は、抱合せ株式の消滅で生じ得るデメリットを解説します。主なデメリットは、次の2つです。
【抱合せ株式の消滅で生じ得るデメリット】
- 中小企業の特例が活用できなくなる
- 相続税評価額が上がる場合がある
中小企業の特例が活用できなくなる
中小企業者の実務負担を図るために、消費税の計算を簡素化した簡易課税制度がありますが、中小企業者が合併の消滅会社である場合、この制度が適用外となる可能性があります。
将来繰り越すはずだった欠損金が消滅してしまうこともあるため、事前にしっかり試算しましょう。
相続税評価額が上がる場合がある
先程、抱合せ株式の消滅によって相続税評価額が下がれば節税につながるメリットを挙げましたが、実際は相続税評価額が上がるケースもあります。抱合せ株式を消滅させることで利益水準が圧縮しても、必ず株式評価額が下がるとは限らないためです。
抱合せ株式を消滅させる際は、メリットだけでなくデメリットがどの程度及ぶのかもしっかり検討してください。
M&Aの売り手側のメリット・デメリットについては下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
4. 抱合せ株式とM&Aに関する相談先
抱合せ株式の消滅にはメリットがありますが、特例が使えなくなる可能性などのデメリットもあります。M&Aを行う際は、デメリットを極力抑えてメリットを最大化できるよう、計画的に進めましょう。
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5. 抱合せ株式のまとめ
経営の効率化やコスト削減などのために合併や分割が行われることも多いですが、その際、存続会社が持つ被合併会社の株式が「抱合せ株式」となり消滅することがあります。
抱合せ株式の消滅にはメリットもデメリットもあるので、事前によく検討することが大切です。
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