2022年12月26日更新
株式交換の仕訳・会計処理!親会社・子会社の違い、のれんの処理方法も解説
株式交換の仕訳・会計処理は、範囲が広く複雑です。のれんの処理が必要になることも少なくありません。この記事では、株式交換によるM&Aの仕訳や会計処理、のれん処理はどのように行うのか、それらの方法をわかりやすく解説します。
1. 株式交換とは
株式交換とは、子会社となる会社がその発行済株式のすべてを親会社となる会社へ取得させる組織再編にかかわる手続きであり、既存の会社間で完全親子関係を成すための手法です。
M&Aによる企業買収の方法は多様ですが、株式交換は合併のように1つの企業になり株式を直接取得するわけではありません。子会社も会社として存続したまま株式取得の対価として自社株式を交付することで間接的に取得する点が特徴的です。
合併のように完全に1つの会社に統合されるわけではないので、企業統合に付随する人事評価・経理処理などの社内ルールの一本化を行う必要がなく、その負担が軽減されます。
M&Aの方法として株式交換を選択した際、その会計処理や財務処理を理解しておくことが大切です。
株式交換の手法
株式交換は、完全親会社となる会社が完全子会社となる会社の株式のすべてを取得し、代わりに完全子会社の株主へ親会社の自己株式を交付することで成立します。株式交換の手続きは、以下の流れで行われます。
- 当時会社で株式交換を行う契約を結ぶ
- 契約後、当時会社の株主などへ契約内容など定められた内容を公示する
- 株主総会での特別決議の承認を受けることにより株式交換の効力が発生する
当事者間で交わす契約書では、完全親会社・完全子会社の商号・住所、株式交換の数量や割当てに関する事柄、効力発生日を定める必要があります。株式交換の効力発生日から6カ月間、当時会社は定められた内容を事後開示しなくてはなりません。
株式交換と同様に、完全親子会社を形成するための組織再編行為として株式移転がありますが、株式移転では完全親会社となる会社が新たに設立される会社である点で、既存の会社が親会社となる株式交換とは異なります。
適格株式交換と非適格株式交換
株式交換では、要件を満たせば適格となり、満たさない場合は非適格となります。適格株式交換は、子会社ならびに子会社株主に一切の課税が行われないことが大きな利点です。
適格株式交換の場合、子会社の株主は親会社に対して子会社株式を簿価により譲渡したものとみなされます。適格株式交換の場合、子会社には基本的に時価評価課税は行われず、会計処理および税務処理は発生しません。
一方、非適格株式交換の場合、子会社側は時価により株式を譲渡したものとみなされ、子会社には株式交換を行った事業年度に時価評価課税が行われます。
株式交換の特徴・メリット
企業買収の方法はさまざまです。例えば、株式譲渡や合併などの方法があります。その中で株式交換を行うメリットはどこにあるのでしょうか。株式交換を行うメリットには、主に以下の2つです。
- 現金を使用しない
- すべての株主の同意を必要としない
現金を使用しない
株式交換は、親会社となる企業が自社の株式と子会社となる企業の株式を交換することで成立します。親会社にとって株式の取得対価は自己株式となるため、現金を使用せず他社を買収可能です。
株式交換は買収側企業の時価総額が大きい場合に望ましいM&A手法ですが、買収資金の準備が不要になることは買収側企業にとって大きな負担軽減となります。
すべての株主の同意を必要としない
通常、他会社のすべての株式を取得しようとする場合、すべての株主の同意が必要です。しかし、株式交換では、株主総会での特別決議があれば、反対派の少数の株主を無視し強制的に株式の取得を行えます。
特別決議は株主総会で発行済株式の過半数を有する株主が出席し、かつ3分の2以上の賛成をもって成立します。条件を満たすことは簡単ではありませんが、すべての株主の同意を得ずとも企業買収を行えるのは大きなメリットです。
2. 株式交換の仕訳にある特徴
株式交換の実施にあたっては、資産が移動することから、必要に応じて仕訳(会計処理・税務処理)を行う必要があります。本章では、それぞれの仕訳に見られる主な特徴を順番に解説します。
会計上の区分
株式交換の実施にあたっては、以下4種類の会計上の区分が用いられるのが基本です。
- 取得=事業規模・議決権などを確認し、取得した企業が明確なケース
- 持ち分の結合=取得側の会社が明らかではないケース
- 共同支配企業の形成=複数の企業が特定の企業を共同で支配する関係を構築するケース
- 共通支配下の取引=同じグループ内の企業が株式交換を実施するケース
税務上の区分
株式交換の実施にあたっては、以下2種類の税務上の区分が存在します。
- 適格
- 非適格
区分によって譲渡損益と繰越欠損金の取扱が異なるため、念入りに確認しておくことが大切です。適格の場合、資産は帳簿価額により移転することから、譲渡損益は生じないのに対して、非適格の場合は時価により評価されるため、改めて計算する必要があります。
3. 株式交換の仕訳・会計処理
ここからは、株式交換の仕訳・会計処理を、以下の場合に分けて解説します。
- 完全親会社
- 完全子会社
- 完全親会社の株主
- 完全子会社の株主
①完全親会社の仕訳・会計処理
株式交換では、完全親会社は完全子会社の株式の取得と、資本金・資本剰余金の増加を個別会計上で仕訳します。
前述のとおり、企業再編では、「取得」「持分の結合」「共同支配企業の形成」「共通支配下の取引」のパターンがあり、そのいずれに分類されるかにより仕訳・会計処理の方法が決まります。
「取得」「持分の結合」「共同支配企業の形成」「共通支配下の取引」のパターンそれぞれの仕訳・会計処理の方法を解説します。
パーチェス法と持分プーリング法
企業結合の会計の考え方として、パーチェス法と持分プーリング法があります。企業結合は、大まかに以下の2つに分類されます。
- 企業結合を行った企業同士の持分がそのまま結合され、対価として株式を交付する企業結合
- 結合した会社のどちらかが支配企業となり、親会社と子会社が形成される企業結合
パーチェス法とは企業を買収する際、被買収側企業の資産と負債を公正価値で評価し、買収金額の差額をのれんとして計上する会計処理方法です。
これに対して、持分プーリング法とは、結合企業すべての資産、負債、資本を帳簿価格で引き継ぐ方法です。
パーチェス法はどちらかがその後事業を支配し、取得企業がどちらなのかを識別できる場合、持分プーリング法は結合企業が対等でありどちらが取得企業か識別できない場合に用いられます。
「取得」「持分の結合」「共同支配企業の形成」「共通支配下の取引」それぞれにパーチェス法、持分プーリング法のいずれかが用いられる仕組みです。
ただし、持分プーリング法は現在米国では廃止され、パーチェス法へ一本化されている状況です。国際会計基準でも、米国と同様に持分プーリング法を廃止する方向性があります。今後は日本でも、パーチェス法一本で会計処理を行うことも考えられます。
株式交換が取得だった場合
企業結合会計の「取得」とは、ある企業が別の企業に対し事業の支配権を得ることをいい、「共同支配企業の形成」「共通支配下の取引」以外の企業結合は「取得」と判断されます。
取得企業はどちらなのか識別が可能である場合は、取得と分類されます。取得企業がどちらになるかは、取締役会の構成・議決権をどちらが多く持つか・事業規模などによって総合的に判断される仕組みです。
株式交換が取得だった場合、パーチェス法を用い手続きを行います。親会社は子会社の資産・負債を引き継ぎ、自社の個別財務諸表に計上します。
親会社が計上する子会社の株式の取得原価は、株式交換が行われた日の時価などをもとに評価し、算定する仕組みです。
株式交換が持分の結合だった場合
持分の結合となるのは、結合前の会社のどちらが取得会社側であるのか識別できない場合です。
M&Aで企業買収を現金で行った場合は買い手側が取得企業と判定できますが、株式交換など対価を株式とする場合は自己株式を交付した側が取得企業になるとは限りません。
交付した企業が被取得企業となる逆取得の可能性もあるので、議決権比率や事業規模などから総合的に判断する必要があります。
持分の結合の場合は、持分プーリング法を用い手続きを行います。持分の結合であった場合は、すべての結合企業の資産・負債を帳簿価額で引き継ぐ仕組みです。
株式交換が共同支配企業の形成だった場合
共同支配企業の形成とは、複数の独立企業がある企業を共同で支配する関係を形成することです。
企業結合が共同企業の形成であると判定されるには、対価が議決権のある株式であること、当時企業が複数の完全独立起業であること、当時企業間で共同支配となる契約が締結されていることが要件となります。
株式交換が共同支配企業の形成である場合は取得企業が判断できないため、持分プーリング法に準じた方法で手続きを行い、すべての結合企業の資産・負債を帳簿価額で引き継ぎます。
株式交換が共通支配下の取引だった場合
共通支配下の取引とは、連結企業のすべてが取引の前後で同一株主によって支配される取引のことです。共通支配下の取引となるのは、例えば結合する企業が親子会社など、すでに同企業集団内に属する場合です。
株式の交換が共通支配下の取引だった場合は内部取引と考えられるので、個別財務諸表では簿価として処理し、連結時に消去されます。
②完全子会社の仕訳・会計処理
ここからは、完全子会社の仕訳・会計処理を、「新株予約権が消滅した場合」「自己株式に交換対価を割り当てられた場合」「非適格株式交換を行った場合」のそれぞれに分けて解説します。
新株予約権が消滅した場合
新株予約権とは、新株予約権を発行した株式会社に対して行使し、あらかじめ決められた価格でその株式会社の自己株式の交付を受けるものです。
株式交換とは買い手側が相手側の会社を完全子会社化することが目的の取引であることから、完全子会社が発行している自己株式の新株予約権も消滅すると考えるのが通常です。
新株予約権が消滅した場合、新株予約権を発行した会社はその負担をまぬがれるため、その帳簿価格を減額します。その免除益は課税対象となるので、税効果会計により控除した部分が利益となります。
自己株式に交換対価を割り当てられた場合
自己株式に交換対価を割り当てられた場合、完全子会社の自己株式は完全親会社へ移転します。
その処理は、自己株式処分と同様です。自己株式処分とは会社が取得した自己株式を処分することをいい、企業結合などの再編にあたり代用株式として交付するなどさまざまな方法があります。
会計処理上では、取得した完全親会社の自己株式の時価と渡した完全子会社の自己株式における簿価の差額を「その他剰余資本金」へ計上します。
非適格株式交換を行った場合
非適格株式交換を行った場合、資産への課税がなされるため処理が必要です。完全子会社が株式交換前に所持している時価評価資産の評価益損は、益金または損金の額へ算入します。
③完全親会社の株主の仕訳・会計処理
完全親会社の株主は、株式交換取引の当事者ではないため、仕訳をする必要は基本的にありません。ただし、限定されたケースで仕訳が必要なこともあるため、前もって確認しておきましょう。
株式交換で持ち分が大きく動いた場合は、子会社の帳簿価額から時価を引いて交換損益を算出します。株式交換で得た完全子会社の時価総額が大きく、完全子会社の株主へ割り当てた株式数が多くなれば、それまでの完全親会社の株主の持ち分が大きく減ることもあります。
このケースでは、子会社の株式を「その他有価証券」に振り替えて帳簿に記載しましょう。
④完全子会社の株主の仕訳・会計処理
完全子会社の株主の仕訳・会計処理では、初めに「投資が継続されているか」「投資が清算されたか」の判断が必要です。
その判断は、「企業結合の対価が同質なものか、異質なものか」「企業結合の結果、子会社・関連会社・その他の分類に変化が起きるか」といった2つの観点から行われます。
株式交換の場合は子会社株式の対価として同質な親会社株式を受け取ることになるため、「企業結合の結果、子会社・関連会社・その他の分類に変化が起きるか」の観点で、投資が継続されているか清算されたかを判断する仕組みです。
投資の継続性が認められた場合
子会社自己株式が子会社自己株式のまま存続する場合は、投資の継続性が認められます。投資の継続性が認められる場合は交換益損が認識されないことから、交換された株式の帳簿価格をそのまま引き継ぐため、仕訳は必要ありません。
投資が清算された場合
子会社の自己株式が消滅した場合、投資は継続されていないものとして投資は清算されたと認識されます。投資が清算された場合は、交換された株式の消滅を確認し、新たに交付された株式を時価で計上します。
4. 株式交換でのれんはどう処理する?
のれんとは、M&Aで企業が企業を買収した際、対価として支払われた金額のうち被買収企業の純資産を上回った差額をさします。
いわゆるブランド(見えない資産価値)を表し、それまで企業が培ってきたノウハウ・人材・ネットワークなどを評価し支払われる金額です。
株式交換で、のれんは基本的に発生しません。しかし、連結財務諸表にのれんを計上する場合があります。この項目では以下の点を解説します。
- 個別財務諸表と連結財務諸表
- のれんが発生する状況
①個別財務諸表と連結財務諸表
個別財務諸表とは、単体の会社の会計について作成される財務諸表です。連結財務諸表とは、同一グループである複数の会社を1つの企業とみなし、その企業グループの会計について作成される財務諸表をさします。
個別財務諸表のみを見ても企業集団全体の業績を理解できないため、連結財務諸表を作成することが必須です。
個別財務諸表・連結財務諸表ともに、「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」「株主資本等変動計算書」から構成されます。連結財務諸表は、各々の企業が作成した個別財務諸表をもとに作成されます。
日本では連結財務諸表は一般的ではなく、個別財務諸表を重視する風潮でしたが、証券取引法で2000年3月期から連結財務諸表の公開が義務付けられ、連結財務諸表の作成は必須となりました。
②のれんが発生する状況
株式交換を行い、親会社が子会社の株主へ新たに自己株式を発行します。
会計処理上は発行された自己株式の価額が株式取得の対価となり、仕訳の際は取得株式と資本金が同じ額で借り方と貸し方に記載されるため、個別財務諸表でのれんは発生しません。
しかし、決算期には、連結財務諸表を作成すると投資と資本の相殺消去仕訳を計上する必要が出てきます。その内訳は、純資産に対してのれん・子会社株式が同じとなり、ここではじめて会計上のれんの存在が現れることになります。
5. 株式交換の税務処理
通常株式交換で完全子会社の株式を完全親会社が取得する行為は株式の譲渡取引と考えられ、税務上、株式は原則的に時価で評価されます。しかし、一定の要件を満たした株式交換は適格株式交換とされ、帳簿価格で売買が行われたものとみなされる仕組みです。
この章では、株式交換の税務処理を以下のケースに分けて解説します。
- 適格株式交換
- 非適格株式交換
①適格株式交換の税務処理
まずは要件を満たし、適格株式交換となる場合の税務処理を以下の4つに分けて解説します。
- 親会社
- 子会社
- 親会社株主
- 子会社株主
適格株式交換による完全親会社の場合
適格株式交換による完全親会社の税務処理は、株式交換前の完全子会社の株主数によりその取得価額の決め方が異なります。株主数は50人未満の場合、50人以上の場合で区別されます。
株式交換によって増加する完全親会社の資本金などは、取得した完全子会社株式の取得価額から、その株式交換から発生する資本金を減額した金額となる仕組みです。
完全子会社の株主が50人未満の場合
完全子会社の株主が50人未満の場合、株式の取得価額はその株主が有していた完全子会社株式の直前の帳簿価額相当額となります。
完全子会社の株主が50人以上の場合
完全子会社の株主が50人以上の場合、株式の取得価額は完全子会社の簿価純資産価額相当額となります。
適格株式交換による完全子会社の場合
適格株式交換による完全子会社の税務処理は、株主が変わるのみで特に処理は必要ありません。
適格株式交換による完全親会社の株主の場合
株式交換で完全親会社の株主は取引の当事者ではないため、特に必要となる処理はありません。
適格株式交換による完全子会社の株主の場合
適格株式交換の場合、完全子会社の株主は完全親会社へ完全子会社株式を譲渡したものとされ、帳簿価格により各事業年度の所得の金額を計算し、譲渡損益が繰り延べられます。
②非適格株式交換の税務処理
非適格株式交換の税務処理を以下の4つに分けて解説します。
- 親会社
- 子会社
- 親会社株主
- 子会社株主
非適格株式交換による完全親会社の場合
非適格株式交換による完全親会社の税務処理では、その取得価額は株式交換時の時価となります。
株式交換によって増加する完全親会社の資本金などは、取得した完全子会社株式の取得価額から、その株式交換から発生する資本金を減額した金額です。
非適格株式交換による完全子会社の場合
非適格株式交換の場合、完全子会社には時価評価損益への課税が行われるため、時価評価資産の税務処理が必要です。完全子会社は、株式交換直前に有した時価評価資産の益損を計算し、株式交換が行われた事業年度に算入します。
非適格株式交換による完全親会社の株主の場合
株式交換で完全親会社の株主は取引の当事者ではないため、特に必要となる処理はありません。
非適格株式交換による完全子会社の株主の場合
完全子会社株式の対価を完全親会社株式として得た場合、株式交換直前の完全子会社株式の帳簿価格を完全親会社株式に付け替えます。みなし配当は発生しません。
対価を親会社株式以外のもので得ている場合は、その対価を時価で計上し、消滅する完全子会社株式との差額を損益とします。その場合もみなし配当は発生しません。
6. 株式交換の仕訳に関する相談先
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7. 株式交換の仕訳・会計処理まとめ
株式交換における会計処理、税務処理は驚くほど複雑です。体系的な理解が必要になります。
例えば、株式交換の会計におけるのれんの処理は結合する企業の個別財務諸表には現れませんが、連結財務諸表上では仕訳が必要になる例外的なものです。
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