2021年09月20日更新
株式譲渡の譲渡益は総合課税になる?株式譲渡の税務まとめ!
本記事では、株式譲渡の際に発生した譲渡益は、総合課税と分離課税のどちらが適用されるのかといった株式譲渡の税務について解説しています。また、総合課税となる所得の種類や、株式譲渡の譲渡益にかかる税務についても詳しく解説しています。
1. 株式譲渡とは
株式譲渡とは、買い手に株式を売却することで会社の経営権を譲り渡すM&A手法です。
手続きが簡単で売り手は手軽に現金を手にできること、株主が変わること以外に大きな変化がないので取引先や従業員に混乱が起こりにくいことなどがメリットです。
一方で、全ての債権と債務がそのまま引き継がれるため、譲渡後に簿外債務が発覚するなどのトラブルが起こる可能性がある点がデメリットといえます。
上場株式の譲渡
上場株式を譲渡する場合、TOB(公開買い付け)や市場買い付けなどの手法を使うことになります。
TOBというと敵対的買収のイメージが強いですが、友好的買収にもTOBは有効な方法です。
市場買い付けはTOBよりもシンプルな方法ですが、あまり大量の買い付けを行うと株価が乱高下するリスクもあります。
非上場株式の譲渡
非上場株式はTOBや市場買い付けができないため、譲渡方法は必然的に相対取引となります。
経営者が株式のほとんどを保有している場合は、手続きを比較的スムーズに進めることができますが、株主が複数に分散している場合は、交渉手続きに時間がかかることがあります。
2. 総合課税とは
総合課税とは、さまざまな種類の所得を合算し、その合計所得から所得税額を算出する課税方法です。
これに対して、他の所得と合算せず、分離して課税する制度を分離課税といいます。分離課税は、源泉徴収される源泉分離課税と、自分で確定申告して納税する申告分離課税に分けられます。
所得税法では、所得の種類によって、利子所得・配当所得・不動産所得・事業所得・給与所得・退職所得・山林所得・譲渡所得・一時所得という9種類の所得に分類されます。
この中には、総合課税のもの・分離課税のもの・どちらにもなり得るもの・どちらの課税方式にするか選択できるものがあります。
総合課税の対象となる所得一覧
この章では、所得税法で定められる9つの所得のうち、総合課税の対象となる所得の一覧を解説します。
必ず総合課税になるものだけでなく、条件次第で分離課税になるものも含めて網羅的にご紹介します。
利子所得
利子所得とは、預貯金や公社債の利子および公社債投資信託など、一部の投資信託の収益のことをさします。
利子所得は多くの場合分離課税ですが、源泉徴収ができない海外の預貯金の利子など、一部の利子所得は総合課税となります。
配当所得
配当所得とは、株や投資信託などの配当として得た所得のことです。利益の配当以外に、剰余金の分配も配当所得に含まれます。
ただし、投資信託は、公社債投資信託などの配当が利子所得として扱われる一部の投資信託を除きます。
配当所得は上場株式の配当を除いて、原則として総合課税になります。また、配当の額が一定額以下の場合は、確定申告をしなくてもよい「確定申告不要制度」もあります。
不動産所得
不動産所得とは、土地や建物など不動産の賃貸で得た所得のことです。
土地や建物だけでなく、船舶や航空機の賃貸による収入も不動産所得に含まれます。不動産所得は全て総合課税となります。
事業所得
事業所得とは、製造業・サービス業などの事業で得た所得です。事業所得は一部の例外を除き、原則として総合課税となります。
ただし不動産の貸し付けは、たとえ事業目的であったとしても不動産所得に分類され、山林の譲渡は山林所得に分類されます。
給与所得
給与所得とは、会社や個人事業主に雇用されている従業員が労働の対価として得る所得のことです。給与所得は全て総合課税になります。
会社員やアルバイトの給料は、この給与所得に該当します。また、賞与は給与所得に含まれますが、退職金は退職所得という別の区分になります。
このように雇用主から受け取る報酬の区分によって、給与所得に当てはまるかどうか変わってくる部分もあるので注意が必要です。
譲渡所得
譲渡所得とは、土地や建物・株式などを譲り受けて得た所得のことです。山林の譲渡は譲渡所得にならず、山林所得という別の区分になります。
土地・建物・株式以外の譲渡(ゴルフ会員権や骨とう品など)は総合課税になりますが、衣類や家具など生活必需品の譲渡は原則として非課税になります。
一時所得
一時所得とは、一時的な所得のうち、労働の対価や資産の譲渡ではないもの、営利目的でない行為から得られた所得です。
例えば、競輪や競馬を当てたときの払戻金、生命保険や損害保険の一時金や満期返還金、落とし物を拾ったときに落とし主からもらった報労金などが該当します。
一部の例外を除き、一時所得は総合課税です。一時所得は他の所得と違い、所得の全額ではなく2分の1のみを総所得に加えるという特徴があります。
雑所得
雑所得とは、所得税法で定められている所得のうち、どの所得にも属さない所得のことです。
一例としては、公的年金・執筆や講演などで得た一時的な所得・仮想通貨やFXなどで得た利益・ネットオークションで物を売って得た利益などがあります。
雑所得は、源泉分離課税される一部の例外を除き、原則として総合課税となります。
条件次第で総合課税にならない所得
続いて、先ほどご紹介した総合課税の所得の中から、条件次第で総合課税にならないものをご紹介します。
申告分離課税になるもの・源泉分離課税になるもの・総合課税か分離課税か選択できるものなど、ひと口に分離課税といっても種類があるので注意が必要です。
利子所得
最も身近な利子所得である預貯金の利子を始め、公社債の利子・公社債投資信託の収益など、ほとんどの利子所得は分離課税となります。
利子所得は原則として源泉分離課税ですが、特定公社債の利子など、申告分離課税か源泉分離課税かを選択できる利子所得もあります。
配当所得
配当所得は原則として総合課税ですが、上場株式の配当のみ、総合課税と申告分離課税から選ぶことができます。
また、上場株式の場合、配当の金額によらず確定申告不要制度を利用できます。
事業所得
事業所得は原則として総合課税ですが、事業として株式や先物取引をして所得を得た場合、例外的に申告分離課税となります。
譲渡所得
譲渡所得は基本的には総合課税ですが、土地や建物、株式の譲渡は申告分離課税となっています。
タイミングよく土地や建物の譲渡を行うことで、租税回避に利用されるのを防ぐためです。
一時所得
一時所得のうち、懸賞金付預貯金の懸賞金・一時払養老保険の差益など、一部の所得は源泉分離課税となります。
申告分離課税や総合課税との選択は不可なため、これらについて確定申告を行うことはできず、自動的に源泉徴収されて納税完了となります。
雑所得
雑所得のうち、株取引や先物取引・金融類似商品の利益・原稿料や講演料などは、分離課税です。
原稿料や講演料などは源泉分離課税ですが、先物取引の所得は申告分離課税となります。
3. 株式譲渡の譲渡益は総合課税ではなく分離課税
株式譲渡の譲渡益は、総合課税ではなく分離課税になるので、株式譲渡によるM&Aを実施する際は、分離課税について理解しておくことが大切です。
しかし、分離課税は総合課税に比べてなじみが薄いので、あまり詳しくない方も多いのではないでしょうか。そこでこの章では、分離課税とは何かについて詳しく解説します。
分離課税とは
分離課税とは、総合課税の対象となる所得に合算せず、分離して税額を計算する課税方式のことです。
株式の譲渡益や利子所得といった一時的な収入は、その年の所得を大幅に上げてしまうことがあり、これを総合課税で課税すると税金が高くなりすぎることがあります。
分離課税は、一時的に得た大きな所得によって税金が高くなりすぎるのを防ぐ制度です。
総合課税との違い
分離課税はそれぞれ独自の税率が設定されており、総合課税とは税率が異なるのが特徴です。
例えば、株式譲渡の譲渡益の税率は一律20%となっており、累進課税の所得税とは全く異なる税率となっています。
分離課税の種類
分離課税は納税方法の違いによって、さらに以下2つの種類に分けられます。それぞれについて解説していきます。
- 申告分離課税
- 源泉分離課税
申告分離課税
申告分離課税は、確定申告で納税する分離課税です。源泉徴収はされないので、自分で申告して納税しなければなりません。
例えば、株式や不動産の譲渡益などは、申告分離課税で納税することになります。
源泉分離課税
所得を受ける時点で税金が源泉徴収されるのが、源泉分離課税です。こちらは申告分離課税と違って、確定申告をする必要はありません。
利子所得や投資信託の収益などは、源泉分離課税で納税されます。
4. 株式譲渡の譲渡益にかかる税務
株式譲渡の譲渡益にかかる税率は、上場株式か非上場株式かで違いはありません。譲渡価格から必要経費を引いた部分に、所得税15%・住民税5%、計20%の税金が課せられます。
注意すべきなのは、譲渡価格が適正価格と異なっている場合です。状況によって、贈与税やみなし譲渡所得税など、所得税以外の税が課せられるケースがあります。
以下では、譲渡側と譲受側、個人の場合と法人の場合に分けて、株式譲渡の税務を解説していきます。
譲渡側にかかる税務
まずは譲渡側、つまり株式を売却する側の税務を、個人の場合と法人の場合に分けて解説します。
個人の場合
個人が株式譲渡する場合、原則として譲渡所得税20.315%がかかります。ただし、適正価格より高く譲渡した場合、その差額分に対しては所得税ではなく贈与税が課せられます。
法人に対して適正価格より安く譲渡した場合、または個人に対して適正価格の2分の1未満で譲渡した場合は、みなし譲渡所得税が適用され、適正価格で譲渡したときと同じ額の税金が課されます。
法人の場合
法人が株式を譲渡した場合、その譲渡益に対して法人税が課されます。適正価格より安く譲渡した場合は、その差額分を損金に算入します。
譲受側にかかる税務
続いて譲受側、つまり株式を買う側の税務を、個人の場合と法人の場合に分けて解説します。
個人の場合
個人が株式を譲受する場合、原則として課税はされません。ただし適正価格より安く譲受した場合は、譲渡側が個人ならみなし贈与税、譲渡側が法人なら所得税が課せられます。
法人の場合
法人が株式を譲受した場合、適正価格なら課税はされません。適正価格より安く譲受した場合は、その差額分に対して法人税がかかります。
適正価格より高く譲受した場合は、差額分が損金に算入されます。
5. 株式譲渡に関する注意点
株式譲渡の譲渡益の税務は状況によって変わる部分があるので、注意して正しい方法で計算する必要があることをご紹介してきました。
株式譲渡においては、それ以外にも注意すべき点がいくつかあります。以下では、特に気をつけておきたい注意点について解説しています。
譲渡損失を出した際の注意
株式譲渡で譲渡損失が出た場合、確定申告で繰越控除の手続きをする必要があります。繰越控除をすることで、翌年以降3年間、譲渡益を損失と相殺して申告できるようになります。
ただし、繰越控除が適用されるのは上場株式の場合だけで、非上場株式には適用されないため注意が必要です。
非上場株式でも、いわゆる「エンジェル税制」の対象となっている企業の場合、特例で損失の繰越控除が受けられる場合があります。
エンジェル税制とは、ベンチャー企業を支援するための税制上の優遇措置です。株式譲渡の際は、損失が出たときに繰越控除ができるかどうか確認しておきましょう。
みなし配当に関する注意
非上場会社の株主が会社に株式を譲渡した場合、「みなし配当」と呼ばれる所得が生じ、課税の対象となるケースがあるので注意しましょう。
みなし配当とは、厳密な意味での配当ではありませんが、事実上配当とみなされる金銭の授受のことです。
1株当たりの資本金を上回る額で株式を譲渡した場合、上回った分はみなし配当となり課税の対象になります。
みなし配当は、非上場株式に適用される課税方式です。上場株式にはみなし配当はなく、通常の譲渡所得が課税されます。
M&Aで分散した株式を集めるときの税金
親族などに株式が分散しているときは、M&Aを円滑に行うために前もって株式を買い集めることもあり、買取価格として額面と相続税評価額がよく用いられます。
会社設立時に設定した株式発行価格が額面で、ほとんどの場合かなり安価な金額となっています。相続税評価額は、理論上、時価に近い額となっています。
額面で買い取って時価とかなりの差が出るときは、差額が贈与と見なされて贈与税がかかるケースもあります。相続税評価額で買い取れば問題ありませんが、買取価格は高額となるでしょう。
贈与税を支払っても額面で買い取るほうが全体のコストが低いこともあるので、どちらを選ぶかは専門家に相談して検討することをおすすめします。
6. 株式譲渡の相談におすすめの仲介会社
株式譲渡にはさまざまな注意点があるため、M&Aの際には専門家の相談を受けることをおすすめします。
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7. まとめ
本記事では株式譲渡の譲渡益について詳しく解説しました。株式譲渡の譲渡益は総合課税ではなく分離課税になること、譲渡価格によって税務が違ってくる場合があること、損失が出た際の繰越控除やみなし配当に注意することなどがポイントです。
株式譲渡の譲渡益について正しく理解して、譲渡における税金の申告がスムーズにいくように心がけましょう。
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