繰越欠損金とは?節税効果の要件や法改正から特例まで詳しく解説!

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

本記事では、繰越欠損金の内容、節税効果や使用制限、特例などの概要を紹介します。企業にとって決算が赤字となるのは避けたいですが、万が一そうなった場合は、赤字額を繰越欠損金として翌期以降で節税に用いることが望ましいです。繰越欠損金について知りたい方は必見です。

目次

  1. 繰越欠損金とは
  2. 繰越欠損金の節税効果の概要
  3. 繰越欠損金が解消されるケースとは
  4. 繰越欠損金の会計処理・仕訳
  5. 繰越欠損金の特例について
  6. 繰越欠損金と赤字企業のM&A
  7. 繰越欠損金の相談は専門家にしよう
  8. 繰越欠損金のまとめ
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1. 繰越欠損金とは

会社経営上、納税は義務ですが、適法であるならばなるべく節税をしたいのは経営者であれば、誰でも考え得ることです。節税対策の1つとして、繰越欠損金があります。本章では、繰越欠損金の正確な意味合いを解説します。

繰越欠損金の意味

企業に課される主な税金は法人税ですが、それは各社の1年ごとの決算における利益額に対して課税計算されます。いわゆる赤字決算の場合、その利益がありませんから法人税は課されません。

赤字額は、法人税の課税ルール上、赤字となった当該年度だけでなく翌期以降にも持ち越せます。

例えば、赤字を計上した翌年度に出た黒字(利益額)に対して、前年度の赤字額と損益通算したうえで法人税の課税計算をすることが認められています。この赤字額が、本記事で取り上げる繰越欠損金のことです。

ただし、繰越欠損金には、適用できる期間や限度額などが定められているので注意が必要です。

繰越欠損金のメリット

繰越欠損金がある場合、利益額に対して損益通算し、利益分を相殺できるため、法人税の計算上、ダイレクトに節税効果を発揮します。

その節税効果の内容や、適用上の要件や規定などは、順次、次項以降で説明します。

赤字会社の買収・売却価格の相場や算定方法については、下記の記事でも紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】赤字会社の買収・売却価格の相場や算定方法を解説【成功事例あり】

2. 繰越欠損金の節税効果の概要

この項では、繰越欠損金のメリットである節税効果と、その適用要件などを説明します。

繰越欠損金の節税効果

以下は、繰越欠損金の節税効果を説明するための仮定です。

  • 前期赤字額(繰越欠損金):1億円
  • 当期利益額:1.5億円
  • 法人税率:40%(例示上の架空の設定)

以上の仮定に基づき、繰越欠損金を利用しないケースと利用するケースで納税額の違いを表にすると、下記のとおりです。
 
  繰越欠損金を利用しないとき 繰越欠損金を利用したとき
前期納税額 0円 0円
当期納税額 6,000万円 2,000万円
節税額 4,000万円

上表を解説すると、まず前期は赤字であるため法人税は課税されません。当期は、繰越欠損金を勘案しない場合、1.5億円の利益に対して40%の納税額となり、納付する法人税額は6,000万円です。

一方、繰越欠損金を用いるケースでは、登記利益1.5億円から繰越欠損金額の1億円が相殺されるので、法人税の対象利益額は5,000万円となります。この5,000万円の40%が納税額であるため、法人税額は2,000万円です。

このように、繰越欠損金があることで、法人税では大きな節税効果が見込まれます。

繰越欠損金を利用するための要件

繰越欠損金を利用するには、以下3つの要件をすべて満たしている必要があります。

  • 青色申告書を提出している
  • 繰越欠損金が発生した年度以降も決算書を提出している
  • 帳簿書類などを保管している

青色申告書を提出している

1つ目の要件は、青色申告書を提出していることです。青色申告書とは、財務会計を管理し、決算書を提出すると宣言した個人や法人に対して認定されるものです。青色申告の際に決算書を提出する場合にはさまざまな制約がありますが、それだけ優遇を受けられます。

確定申告や企業の決算は自己申告制であり、申告に基づいた所得税や法人税を徴収されます。脱税するために虚偽の申告を行う個人や法人も少なからずいるのが実情です。

税務署は申告が正しく行われているかをチェックしますが、その業務量は膨大です。その負担を軽減しスムーズな処理を行えるよう、個人や企業自身に申告をしてもらう代わりに、基礎控除額などを増やした制度が青色申告制度です。

繰越欠損金の適用を受けるためには青色申告書を提出していることが必要ですが、欠損金を繰り越せるのは青色申告書を提出していた年度に限られます

青色申告書を提出する前に発生した欠損金は、繰り越せないので注意が必要です。

繰越欠損金が発生した年度以降も決算書を提出している

2つ目の要件は、繰越欠損金が発生した年度以降も決算書を提出していることです。欠損金発生年度以降も決算書を作成していることで、財務会計をしっかり管理していると判断されるため、継続して決算書を提出していることで繰越欠損金が認められます。

赤字が発生すると財務状況が悪いと判断されるため、金融機関から融資が受けにくくなる、株価が低下するなどのデメリットがあるおそれもあります。しかし、財務会計の管理を行っていると認められるには、欠損金が発生した以降の年度も決算書を提出しましょう。

帳簿書類などを保管している

3つ目の要件は、帳簿書類などを保管していることです。青色申告書に添付する帳簿や書類は、最低7年間保管することが定められています。

保管するための理由には、税務調査のときに帳簿や書類などの提示が必要になるためです。税務署は、決算書や確定申告を提出した年度で、すべての虚偽申告や計算ミスなどを発見できるとは限りません。

場合によっては、決算書や確定申告を提出してから数年以上経過して発見されることもあり、そのときに決算書や確定申告に関する資料によって詳細の調査を行います。過去の税務調査に協力できる状態を常に維持するにあたり、繰越欠損金が認められています

繰越欠損金の繰越期間に関する法改正

2016(平成28)年に行われた税制改正によって、2018(平成30)年4月1日以降に開始する事業年度で発生する欠損金は最大10年まで繰り越せるようになりました。

詳細は後述しますが、繰越欠損金の繰越期間は頻繁に法改正されているため、発生した欠損金をいつまで繰り越せるかを念入りに把握しておく必要があります。

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繰越欠損金を適用できる期限

繰越欠損金を適用できる期限は、発生年度によって異なります。これは、法改正によってたびたびその年度ごとの期限が変更されてきたためです。

繰越欠損金を利用する場合は、いつ発生した欠損金であるかを把握しなければなりません。その具体内容は、下表のとおりです。
 

欠損金発生年度 欠損金を繰り越せる期間
2001(平成13)年3月31日以前 5年間
2001年4月1日以降 7年間
2008(平成20)年4月1日以降 9年間
2018年4月1日以降 10年間

上表でわかるとおり、すでに繰越期限が終わっている欠損金もあります。2020(令和2)年の場合、2011(平成23)年度以降に発生した欠損金があれば、繰り越して利用することが可能です。

繰越欠損金の控除限度額

繰越欠損金の控除限度額は、中小法人(資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下の法人、ただし100%子会社は除く)とそれ以外で異なります。中小法人は、金額の制限なく繰越欠損金を利用できます

一方、中小法人以外の企業が利用できる繰越欠損金限度額は下表のとおりです。欠損金が発生した年度によって、利益(税法上は所得額といいます)と相殺できる欠損金額の割合が変わります。
 

  中小法人 中小法人以外
2008年3月31日以前 制限なし 制限なし
2008年4月1日以降 所得の80%
2015(平成27)年4月1日以降 所得の65%
2016年4月1日以降 所得の60%
2017年4月1日以降 所得の55%
2018年4月1日以降 所得の50%

表を見てわかるとおり、繰越欠損金を用いられる金額が近年になるにつれて下がってきています。詳細は後述しますが、M&Aによって赤字企業を買収すれば繰越欠損金を計上できるので、大企業などではこれを利用して節税が可能です。

赤字企業の買収を繰り返すと相当額の節税が可能になってしまうため、利用できる額を減少させていると考えられています。ただし、一般企業としては節税余地が減り納税額が高くなることを意味しますから、そのこととトレードオフとして繰越欠損金の使用期限が延長されたと考えられています。

3. 繰越欠損金が解消されるケースとは

繰越欠損金が解消されることは、繰り越す赤字が消滅したことを意味します。先述の「繰越越欠損金の節税効果」で説明した例を用いると、前年度の欠損金1億円全額を当期利益と相殺しましたから、それで繰越欠損金が解消したことを意味します。

現実には1年間で繰越決算金を解消することはまれなケースであり、複数年かけて繰越欠損金が解消されるのが一般的です。この理由は、将来的な事業リスクを回避するためです。

例えば、翌年度で決算上は利益が出て法人税を納付しなければならないのに保有している現金が納税額に足らないケースは、大いにあり得ます。

そのような事態を想定して、繰越欠損金全額を1度に使ってしまわず、ある程度の額を見越して残しておくのが一般的です。つまり、繰越欠損金は、将来の業績予想を踏まえて計画的に解消させると良いでしょう。

4. 繰越欠損金の会計処理・仕訳

ここでは、繰越欠損金を計上するために実際に求められる会計処理を解説します。欠損金が300万円あるケースを想定し、上限を全額、実効税率30%で繰越欠損金とする場合の会計処置は以下のとおりです。

  • 繰越欠損金=300万円×30%=90万円

仕訳は下表のとおりです。
 
借方 貸方
繰延税金資産 900,000 法人税等調整額 900,000

5. 繰越欠損金の特例について

繰越欠損金には、特例が設けられています。その内容を解説します。

中小法人への特例

1つ目は、中小法人への特例であり、具体的には繰越欠損金の上限額が定められていないことです。この特例の対象となる法人は、主に下記になります。

  • 資本金、または出資金が1億円以下の普通法人(100%親会社のいる法人は除外)
  • 公益法人など
  • 協同組合など
  • 人格のない社団法人など

その他の特例

中小法人・それ以外を問わず、以下の条件を満たす法人は所得の100%分まで繰越欠損金を利用できます。この特例は、新設法人や再建中の法人に対して財務や経営再建に影響を与えないように配慮して決められました。

  • 新設法人(設立から7年までの事業年度は利用できる)
  • 事業再生や更生手続きを行っている法人(開始日から7年までの事業年度は利用できる)

6. 繰越欠損金と赤字企業のM&A

ここでは、繰越欠損金とM&Aの関係を解説します。M&Aにより買収を行う場合、対象企業が赤字であるケースも少なくありません。

しかし、スキルやノウハウなどの強みがあっても、多額の負債を抱えている企業を買収することは、大きなリスクを伴います。赤字企業を買収するリスクを低減するために、M&Aでも繰越欠損金のルールを適用可能です。

赤字企業の買収と繰越欠損金

赤字企業を買収し、買収した企業の事業を継続させていれば、原則として繰越欠損金が利用可能です。買収企業が計上する利益に対して売却企業が保有していた繰越欠損金を利用すると、課税対象額が減少するため法人税の額も減少し、多額の節税効果が得られます。

ただし、税務署に繰越欠損金目的の買収と判断された場合は、繰越欠損金を利用できません。繰越欠損金による節税のメリットは、あくまで副次的なものとして考えましょう。

M&Aを行うにあたり最も重要なのは、赤字企業であっても買収したいと考えるか否かです。繰越欠損金は、あくまでもそのリスクを軽減するために利用できる制度と捉えることが大切です。

7. 繰越欠損金の相談は専門家にしよう

繰越欠損金を利用するには、専門的な知識が必要です。会社法など会社経営に関する法律に精通している専門家へサポートをしてもらうことをおすすめします。M&A総合研究所は中小企業のM&Aに数多く携わっており、M&Aに豊富な知識と経験を持つM&Aアドバイザーがフルサポートします。

料金体系は完全成功報酬制(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)で、着手金は譲渡企業様・譲受企業様とも完全無料です。繰越欠損金を加味したM&Aを実施する場合も有効なアドバイスとサポートが可能ですので、M&Aをご検討の際はどうぞお気軽にお問い合わせください。

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8. 繰越欠損金のまとめ

本記事では、繰越欠損金の節税効果や適用条件などを解説しました。繰越欠損金を利用すれば節税効果を得られますが、適用条件に該当しているだけでなく、日頃から財務会計を整理しておくことが大切です。

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