2024年07月02日更新
M&Aにおけるソーシングの業務内容は?方法やM&A仲介会社の選び方まで解説
M&A上のソーシングとは、ニーズの掘り起こしや売り手・買い手企業同士の交渉段階にいたるまでの業務を指します。本記事では、具体的にどのような業務が行われるのか、その方法やメリット・注意点、 ソーシングを依頼するM&A仲介会社の選び方などについてまとめています。
目次
1. M&Aでのソーシングとは
M&Aでのソーシングとは、自社の希望時や条件に合う相手企業を選定し、交渉するプロセスを言います。
M&A業務のプロセスを大きく段階分けすると、「ソーシング」「オリジネーション」「エグゼキューション」の3段階あります。M&Aのソーシングとは、M&Aのニーズを掘り起こす段階からM&Aの相手と交渉する段階までをさします。
いくら魅力的な会社でも、その魅力を生かせるM&A相手が見つからなければ意味がありません。M&A相手が見つかったとしても、交渉が破談してしまってはせっかくの機会を失うことになります。
実際に、売り手企業と買い手企業の事業シナジーが高いと見られるにもかかわらず、交渉が破談になったケースは少なくありません。それほどM&Aのソーシングは、M&A業務の中でも重要な役割を担っています。
ソーシング
M&Aのソーシングとは、M&Aのニーズを掘り起こす段階からM&Aの相手と交渉する段階までをさします。M&Aの全プロセスの中で、前半部分がソーシングです。
一般的なソーシングは、商品の仕様や取引条件などの購買条件を決め、取引先の選択や最適な条件を獲得することです。ですがM&Aでは、売り手や買い手の相手企業を選定し、交渉を行うことを言います。
オリジネーション
オリジネーションは、M&A案件を打診、発掘して交渉する段階までです。
これに対して、ソーシングは、M&Aの案件発掘からマッチング、基本合意書の締結までの業務を指すことが多く、M&Aの初期段階の業務を意味する「オリジネーション」と一部重複します。ソーシングとオリジネーションを明確に区別する場合、案件発掘業務をソーシング、マッチングや条件提案業務をオリジネーションと分類します。
エグゼキューション
M&Aの後半部分とされているエグゼキューションは、M&Aの手続き実行からクロージングまでのことです。具体的なM&Aプロセスは、以下のようになります(売却側の場合)。
- デューデリジェンス(買収監査)の受け入れ
- 条件の最終調整
- 最終契約書の締結
- クロージング(契約内容の履行)
2. M&Aのソーシングの重要性
M&Aを検討している場合は、M&A案件が大規模になるほど、買い手と売り手の組み合わせの選択が狭まります。商談でのエクゼキューション業務やPMI(Post Merger Integration=経営統合プロセス)業務がより重要です。
中規模以下のM&Aでは、買い手と売り手の組み合わせの選択はかなり広がります。シナジー効果は組み合わせにより変わってくるため、商談を始める前の案件ソーシング・マッチングが成功を左右するでしょう。
企業がいかに有力な国内外売却案件をソーシングできるか、そして売却を行う企業は、いかに有力な買収候補とマッチングできるかがポイントとなります。
3. M&Aのソーシングを行うタイミング
M&Aのソーシングが始まるタイミングは、最も初期段階であるM&Aの準備プロセスからです。
M&Aが最適な選択肢でりM&Aの決意が固まったら、M&A仲介会社といった専門家に相談をします。M&A仲介会社では、自社の希望や条件を伝え、提案やアドバイスを受けることができます。
M&A仲介会社に依頼することを決めたら、2つの契約をします。「秘密保持契約」とは、企業の大切な情報を守るための契約で、情報をM&A以外で使わないと約束します。「アドバイザリー契約」とは、仲介業務を正式に依頼する契約です。
次に、M&Aを進めるための情報や資料を仲介会社に渡します。会社はこれらの情報を基に、自分の会社がどれくらいの価格で取引できるかを評価します。同時に、概要や候補企業への提案書も準備します。対象企業の選定を行い、絞り込めたら交渉を行います。
この流れがソーシングの基本的なステップです。
4. M&Aのソーシングの業務内容・手順
M&Aにおけるソーシング業務は、以下の手順で進めます。
①条件・希望の明確化
M&Aの相手先探しと選定、その後の交渉の全てにかかってくるのが、M&A戦略の策定です。そして、M&A戦略策定のためには、M&Aを実施する企業において、目的が定まっていなければなりません。M&Aで得られるメリットには、さまざまなものがあります。
どのメリットを得ることが目的であるかによって、M&A戦略は変わるものです。M&Aの目的は1つに限りません。複数のメリット獲得を目指すことはよくあります。ただし、その場合、条件や希望の優先順位をつけておくことが肝要です。
M&Aは、相手との交渉によって全てが決まります。こちらの希望が全て受け入れられることは想像しにくく、その場合、妥協も必要となるでしょう。妥協できるものとできないもの、それを把握するためにも、M&Aにおける条件・希望の明確化が欠かせません。
②M&A先企業の検討
M&Aの専門家は依頼者がなぜM&Aを行いたいのかをよく把握したうえで、目的や希望条件に合ったM&A先企業を選定していきます。M&A先企業の選定を行う場合、まず行うのは、業種や規模・地域・予算などを考慮しながら、対象企業のひととおりのリストアップです。
この時点で参照できる企業情報は基本的な情報だけですが、その中からさらに絞り込みを行い、アプローチする企業を決めていきます。M&Aの専門家が保有している企業のリストは専門家ごとに異なるので、どの専門家にM&Aを依頼するかによって、出会える企業も違うものです。
③ロングリスト・ショートリストの作成
M&A先企業の絞り込みに使われるのが、ロングリストとショートリストです。ロングリストとショートリストのリスティングには、依頼者がM&Aを行う目的や希望条件が反映されます。
ロングリストとは
ロングリストとは、依頼者の希望条件などを満たすM&A先企業の基本情報を並べたリストです。ロングリストには最低限の情報のみ記載されています。依頼者はロングリストの中から興味を持った企業をピックアップし、その結果がショートリストです。
M&Aの専門家は、依頼者へのヒアリングを通してロングリストを作成するので、依頼者は目的や希望条件を明確にしておく必要があります。ロングリストに何社記載するかは専門家によって違いますが、数十社程度を記載するのが一般的です。
ショートリストとは
ロングリストの企業情報から興味を持った企業をピックアップしたリストが、ショートリストです。ショートリストでは、数社程度の企業数まで絞り込みます。
ショートリストは、ロングリストよりも対象企業の情報量が増えるのが一般的です。アプローチするかどうかの判断材料が増えるとともに、情報が外部に漏れたときのリスクも高くなります。
ショートリストに記載されている企業情報を、外部に漏らさないよう注意が必要です。M&Aの専門家とアドバイザー契約を結ぶ際には、同時に秘密保持契約も結びます。もし情報を漏らした場合には、トラブルに発展する可能性があるからです。
④M&A先企業との交渉
ショートリストに対象企業を絞り込んだら、対象企業へのアプローチに向けて以下のような準備を進めていきます。
- 相手企業の資料収集・資料作成
- 事業シナジーの検証
- 質疑応答の準備
- スケジュールの策定
- M&Aスキームの策定
- 企業価値算定
準備が完了したら、直接M&A先企業と条件交渉を行います。このとき、M&Aの専門家は交渉の日程や場所を設定したり、お互いの交渉内容をある程度まで調整や直接は伝えにくい要望などをあらかじめ伝えたりと、交渉が円滑に進むように動くのが常です。
中小企業のM&A交渉は、細かい条件よりも経営者同士の信頼関係がどこまで築けるかで、成約に至るかどうかが決まるケースも少なくありません。そのような意味でも、中小企業はソーシングを得意とするM&Aの専門家にサポートを依頼することが重要です。
5. M&Aのソーシングの種類
M&Aのソーシングの方法として、以下の2つに大別されます。
プル型ソーシング | プッシュ型ソーシング | |
---|---|---|
メリット | ・作業の大半をM&Aの専門家にサポートしてもらえる ・自社の希望に合う候補企業をリストから見つけてもらえる |
・当事者同士が直接話し合うことができる ・費用を抑えることができる |
注意点 | ・自社の希望やM&Aの目的を明確化する必要がある ・M&Aを行う場合、費用が発生する |
・候補企業の選択肢が限られる ・M&Aの知識不足により、進捗に問題が生じる |
プル型ソーシング
プル型ソーシングとは、M&A案件情報をこちらに引き込んで行うものです。具体的には、M&A仲介会社などの専門家に業務依頼をして行うソーシングが該当します。M&A仲介会社などが持つネットワークから、多くの交渉相手候補情報が得られるイメージがプル型の由縁です。
プル型ソーシングのメリットは、M&Aに不慣れな中小企業でも、専門家のサポートを得ることで有望な交渉相手が見つかりやすいことが挙げられます。ただし、そのためには、M&Aの目的・条件・希望を適切かつ正確に専門家に伝えることが肝要です。
専門家を起用する場合は、相応の手数料が発生するため、その予算も組んでおく必要があります。
プル型ソーシングのメリット
プル型ソーシングの圧倒的なメリットは、M&Aの専門家に作業をサポートしてもらえることです。M&Aに取り組もうとする中小企業の多くは、初めてのM&Aであり、知識やノウハウが不足しがちになっています。
また、売り手や買い手を探すためのリストやコネクションもほとんど持っていません。しかし、M&A仲介会社などの専門家に依頼すれば、自社の希望に合う候補企業をリストから見つけてもらえます。
基本合意書や最終契約書、デューデリジェンス、M&A後のPMI(Post Merger Integration、売り手企業と買い手企業を統合する作業)など、M&Aに必要な作業はほぼすべて専門家に依頼することができます。これが、プル型ソーシングの大きなメリットです。
プル型ソーシングの注意点
プル型ソーシングにおける注意点は、仲介会社にできるだけ詳細に自社の希望やM&Aの目的などを伝えなければ、M&Aが望むように進まないことです。仲介会社が優秀であっても、リクエストが正しく伝わらなければ、希望した結果につながりません。
したがって、必要な資料は全て揃え、自社の意向や候補企業のイメージを仲介会社のアドバイザーと共有することが大切です。 また、仲介会社を介してM&Aを行う場合、費用が発生することにも注意すべきでしょう。
プッシュ型ソーシング
プッシュ型ソーシングは、M&Aを積極的に推し進めていくイメージのソーシングです。具体的には、自社の営業力やネットワークをフルに稼働させ、独力でM&A候補先企業を探します。M&A仲介会社などに業務は依頼しません。
プッシュ型ソーシングは、M&A仲介会社などへの手数料が発生しないことがメリットです。候補企業が見つかれば、直接アプローチしているだけに短期間でM&Aが成約する可能性があります。しかし、一般企業が自力でM&A候補を探すのは簡単ではありません。
本当に適切な候補が見つけられるかどうかも難しいでしょう。各プロセスで必要な専門的な知識・経験が不十分であることも不安材料です。
プッシュ型ソーシングのメリット
プッシュ型ソーシングには、M&Aの当事者同士が直接話し合うことができるという大きなメリットがあります。仲介会社や専門家を介さずに直接話し合えるため、不必要な手数料や仲介費用を抑えることが可能です。
また、直接話し合うことで、M&Aの進め方や条件についてスピーディーに合意することができる場合があります。特に、相手企業と早急にM&Aを進めたい場合や、M&Aにかかる費用を抑えたい場合には有効です。
プッシュ型ソーシングの注意点
プッシュ型ソーシングにおける最大の注意点は、候補企業の選択肢が限られることです。候補企業が決まっている場合は別ですが、自分たちで候補企業を探さなければならないため、仲介会社のように多数のリストを持っているわけではありません。
そのため、理想的な企業に出会う可能性が低くなってしまいます。また、M&Aを進めるにあたって、専門知識が必要な場面が出てきます。例えば、契約書の作成やリーガルチェック、スキームの選定などがそれにあたります。
このような場面でM&Aに関して知識不足であると、進捗に問題が生じることがあります。
6. M&A仲介会社へソーシングを依頼する際のポイント
M&A仲介会社へソーシングを依頼する際は、以下のポイントを押さえておく必要があります。
①M&Aの目的・戦略を明確に決めておく
M&Aを行う際は、目的と優先順位をはっきりさせることで、M&A先企業との交渉も迷うことなく行えます。M&Aの専門家とともにM&Aの目的を明確化しておくと、専門家側も戦略が明確になり、M&Aの相手に対して明確な交渉ができるでしょう。
以下は、売り手がM&Aを行う一般的な目的です。
- 創業者利潤獲得
- 後継者問題解決
- 個人保証解除
- 会社の成長のため
- 従業員・取引先のため
一方、以下は買い手がM&Aを行う一般的な目的です。
- 新規事業への参入
- 既存事業の強化
- 人材・ノウハウの獲得
M&A戦略についても目的によって最適な戦略は変わります。そのため、仲介会社へ依頼する前に必ず目的や戦略を明確にしておく必要があります。
②自社の資料をまとめておく
M&Aで理想の企業と合併するには、自社の情報を正確に相手企業に伝える必要があります。そのためには、必要な情報を整理することが大切です。
相手企業に情報を伝えるためにも、仲介会社に正しい情報を伝える必要があります。会社概要や決算書、契約書や許認可証などの書類を整理しておくと、いつでも開示できるようになります。以下は、一般的に必要とされる書類の例です。
- 会社概要
- 決算書類一式
- 定款
- 履歴事項全部証明書
- 株主名簿
- 組織図
- 直近の試算表
- 直近の預貯金と借入金の内訳
- 法人が所有している不動産に関する資料一式
- 事務所や工場などの契約書
- 機械や車両などのリース契約書
- 営業許可証や免許など
- その他事業に関するデータ
中小企業の場合、普段から自社のデータをまとめていないことも多いため、M&Aの際に提供した情報があいまいだったり間違ったりして、M&A仲介会社が情報の整理に苦労することがあります。
あいまいな情報や間違った情報は、M&A仲介会社によるソーシングの精度に影響が出るだけでなく、M&A先企業に不信感を抱かせることにもなりかねません。普段から、いずれM&Aを行うことを意識してデータをまとめておくことも必要です。
③秘密保持契約の締結を厳守
M&Aのソーシングを専門家に依頼する大きなメリットとして、情報漏えい対策ができることは重要です。専門家をとおさないM&A先企業探しは、情報漏えいのリスクが高くなります。しかし、専門家を通しているからと安心せず、秘密を厳守する意識が必要です。
情報漏えいは、M&Aが破談になるだけでなく、自社と相手企業の信用を著しく落とします。M&Aの専門家にソーシングを依頼する際は、秘密保持契約締結を厳守することが重要です。
④手数料の有無を確認する
M&Aをするときには、仲介会社に支払う手数料も考慮しておく必要があります。仲介会社への手数料には、相談料や着手金、中間金、デューデリジェンス費用、そして成功報酬などが一般的にあります。以下は、手数料の内容と相場です。
手数料名 | 内容 | 相場 |
相談料 | 正式な依頼をする前の相談料 | 0~1万円 |
着手金 | 業務の本格的な依頼をするための手数料 | 50万~200万円 |
中間金 | M&A基本合意契約を締結したときに発生する手数料 | 50万~200万円 |
成功報酬 | M&A成立時の最終契約を締結したときに発生する手数料 | 売却費用に左右される |
リテイナーフィー(月額報酬) | 毎月支払う月額定額手数料 | 30万~200万円/月 |
デューデリジェンス費用 | 企業調査費用 | 0~200万円 |
業務実行にかかる実費 | 出張費や弁護士相談費用など、業務実行に付加して生じる費用 | 実費 |
手数料が安いからと言って、それが良いわけではありません。たとえば、着手金が無料だと、M&Aに興味がない企業も登録してしまい、成約率が下がってしまうこともあります。
適切なM&Aを進めるためには、適切な手数料もかかってしまうことを覚悟し、仲介会社を選ぶことが大切です。
⑤自社の強みだけでなく弱みも明確にしておく
候補企業に対してM&Aによってアピールしたいポイントや弱み、課題などを整理し、必要な書類を準備しておくことが大切です。
具体的には、工場や生産設備の規模、市場での競合優位性や市場シェア、製品やサービスの特徴や技術力、ブランド力などの強みについて明確に示すことが求められます。また、業界の成長性やトレンド、将来の市場予測などについても分析し、企業価値の向上に繋がるポイントをまとめることが必要です。
一方で、弱みや課題についても隠さずに整理しておくことが重要です。例えば、収益性の低さ、経営者の引退や後継者問題、技術的課題、法規制の変更など、M&Aによって解決できる可能性のある問題点を把握しておくことが求められます。
このような弱みや課題について、どのようなプロセスで克服するかを検討し、解決策を提示することが重要です。また、アピールしたいポイントや弱みに関連する書類やデータもまとめておくことが必要です。
工場や生産設備の規模や性能、市場データ、財務諸表、特許や商標登録などの証明書類、社員数や組織図などの人事関連資料など、M&Aに関する重要な書類やデータを整理し、必要な時にすぐにアクセスできるようにしておきましょう。
⑥自社の業種や規模感を得意とした仲介会社へ依頼する
M&A仲介会社によって得意とする会社の規模感や、業種、エリアなどは異なってきます。M&A仲介会社は多種多様であるため、どこに依頼するかは重要になります。
自社の業種や業界に精通していることや、得意な企業の規模感や対象地域であるかをM&A仲介会社を依頼する基準にしておきましょう。
7. M&Aのソーシングまとめ
M&Aはソーシング・オリジネーションとエグゼキューションがうまくつながっていくことでスムーズに進んでいきます。
有効なソーシングにするために目的を明確化させ、事前に自社資料をまとめておくと良いでしょう。また、M&A仲介会社などの専門家選びも成否を左右するため、慎重に選ぶようにしましょう。
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