期待収益率を求める意味とは? 目的や種類と計算・活用法をまとめて紹介!

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

期待収益率は、投資やM&Aを実施する際の指標として活用されます。本記事ではなぜ期待収益率が必要なのか、どのようなときに活用するのか、目的や計算方法、活用方法などについて解説。 また、資本コストの考え方やリスクについても解説しているため、期待収益率の理解が深まります。

目次

  1. 期待収益率とは
  2. 期待収益率の計算方法
  3. 資金調達の資本コストの考え方
  4. 株式の期待収益率が債券の期待収益率を上回るための条件
  5. M&Aでの期待収益率の活用
  6. 期待収益率とリスク
  7. 期待収益率とM&Aに関する相談先
  8. 期待収益率のまとめ
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1. 期待収益率とは

期待収益率は投資や経営だけでなくM&Aなどでもよく活用されるので、その意味や計算方法を理解しておくと便利です。

期待収益率の計算は、基本的には簡単な四則演算を使うので、専門家であれば理解できるでしょう。期待収益率の意味だけでなく計算式も理解しておけば、期待収益率をより有効活用できます。

期待収益率の意味・定義

期待収益率(または要求収益率)とは、投資をしたときにどれくらいもうけが出そうかを予想した数値のことです。

投資といえば株や不動産などがありますが、株は銘柄によって値上がりしそうな株もあれば下がりそうなものもあり、不動産も立地や設備などによってどれくらい利益を得られるかが変わってきます。

投資は不確実なものですが、だからといって勘や経験だけで投資していては利益を上げられません。そこで、ある程度信頼できそうな方法でリターンの予想を試み、投資判断の参考となる情報を得ることが、期待収益率の意味合いといえます。

期待収益率が活用できる場面

上記に加え、債権や預金などの低リスクな投資と、株式やFXなどのハイリスクな投資では得られる利益が全く違います。つまり、投資先となる資産ごとに期待収益率は異なるでしょう。

期待収益率は、将来のリターンを予想したい場面であれば、基本的に何にでも活用できるでしょう。株などの投資で使われることが多いですが、M&Aで売り手企業が将来どの程度利益を出せそうかを予想する際にも使われます。

期待収益率と投資資産の関係

上記でも触れたとおり、投資資産ごとに、期待収益率は違ってきます。リターンが初めから固定している預金や国債など安全資産の運用と比較した場合、株式や外貨への投資は値動きがあるので不確実性が高いでしょう。

ファイナンスでは不確実性をリスクと捉えます。不確実性が高い投資の場合、期待収益率も同様に高まりがちです。ハイリスクな資産の場合、リスクに応じた高いリターンを投資家は求めます。

2. 期待収益率の計算方法

期待収益率は、不確実な将来の収益を予想するものなので、機械的に1つの公式に当てはめて済ませるのは難しいです。ある程度有効だと思われる計算方法のなかから、期待収益率を計算する方法を選びます。期待収益率の計算で使われる主な手法は以下のとおりです。

【期待収益率の計算式】

  1. 過去のリターンから求める(ヒストリカルデータ方式)
  2. 個別の資産における期待収益率を求める
  3. ポートフォリオの期待収益率を求める
  4. リターンの構成要素ごとの期待収益率を積み上げる(ビルディングブロック方式)

①過去のリターンから求める(ヒストリカルデータ方式)

ヒストリカルデータ方式とは、投資対象が過去に得たリターンのデータをもとに、期待収益率を計算する手法です。期待収益率の計算方法としては、最も単純な手法といえます。

過去のデータを用いるため、ヒストリカルデータ方式で求めた期待収益率が、必ずしも将来のリターンをいい当てているとは限りません。しかし、過去のデータは客観的な事実なので、恣意的要素が入りにくいのはメリットです。

②個別の資産における期待収益率を求める

過去のデータから信頼できる期待収益率が求められない場合は、将来の値動きなどを予想して個別資産の期待収益率を求めます。

例えば、将来の景気動向を予測して、好景気になる確率や不景気になる確率、現状維持の確率を見積もり、そこにそれぞれの期待収益率を掛けるといった方法が考えられます。

一例として、好景気・現状維持・不景気の確率がそれぞれ30%・50%・20%とし、各期待収益率を10%・5%・1%とすると、(30%×10%)+(50%×5%)+(20%×1%)=3%+2.5%+0.2%=5.7%となり、この資産における期待収益率は、5.7%です。

③ポートフォリオの期待収益率を求める

ポートフォリオとは、いくつかの投資対象を組み合わせることです。複数の投資対象に投資している場合は、全ての投資対象におけるトータルの期待収益率を求める必要があります。

例として、期待収益率10%のA株を100株、期待収益率20%のB株を200株持っている場合を計算しましょう。

この例では、トータル300株を持ち、そのうちA株が1/3、B株が2/3なので、計算式は0.1×(1/3)+0.2×(2/3)=約0.167となり、期待収益率は約16.7%と計算できます。

求め方1

求め方1では、それぞれの証券における期待収益率の加重平均で、求めます。例を見てみましょう。A株式:期待収益率20%、B株式:期待収益率10%を、6:4で投資する場合です。

  • 20%×0.6+10%×0.4=16%(期待収益率)

ただし、この求め方ではリスクにおける数値に誤りが出るので、リスクも求めたい場合は求め方2をチェックしてください。

求め方2

求め方2では、将来のリターンを好景気・不景気など複数の状況に分け、各期待値をとる「シナリオアプローチ方式」を見てみましょう。各状況でのポートフォリオの収益率を計算し、加重平均で期待収益率を出します。

例を見ましょう。A株式とB株式の状況別収益率は下記です。
 

為替相場 確率 A株式の収益率 B株式の収益率
円高 0.4 20% 5%
変わらない 0.4 10% 10%
円安 0.2 1% 20%

A証券に60%、B証券に40%の資産を投資すると、収益率は下記のとおりです。

  • 円高:20%×0.6+5%×0.4=14%
  • 変わらない:10%×0.6+10%×0.4=10%
  • 円安:1%×0.6+20%×0.4=8.6%

各状況の発生確率の加重平均によりポートフォリオの期待収益率を計算します。
  • 14%×0.4+10%×0.4+8.6%×0.2=11.32%(期待収益率)

求め方ごとに異なる数値例を使用したので答えは異なりますが、データが同じであればどちらを使用しても、期待収益率は同じになるでしょう。

④リターンの構成要素ごとの期待収益率を積み上げる(ビルディングブロック方式)

投資によって得られる利益は、ベース部分とリスクプレミアムに分解できます。リターンの構成要素ごとの期待収益率を積み上げていくのが、『ビルディングブロック方式』です。

ビルディングブロック方式で期待収益率を計算する場合、ベース部分になるのは無リスク資産の収益率です。たとえば、預金や国債の利回りが該当します。またリスクプレミアム部分の算出には、ヒストリカルデータ方式を用いるのが一般的です。

リスクプレミアムとは

投資の期待収益率から、預金や国債などの無リスク資産の収益率を引くことで、リスクプレミアムを算出することができます。たとえば、定期預金は無リスク資産であり、株式投資は変動リスクがある金利商品です。もしも定期預金と株式投資のリターンが同じであれば、多くの人々はよりリスクの少ない定期預金を選ぶでしょう。

リスクプレミアムとは、投資家がリスクのある金利商品に投資を行うことを検討するために必要な利回りの増加量を示す値です。投資が高リスクであるほど、リスクプレミアムも大きくなります。

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3. 資金調達の資本コストの考え方

期待収益率は投資に対するリターンを求めるものなので、投資家だけに重要な指標と思われるかもしれません。しかし、株主に株式のリターンを与えるのは会社なので、会社側から見ても期待収益率は重要です。

特に資金調達の戦略を練るときは、期待収益率を考えることが大切になります。株主にとっての期待収益率は、会社から見ると資本コストとなるからです。

この章では、資金調達における資本コストの考え方として、代表的な指標である「WACC」を解説し、WACCと期待収益率の関係を見ます。

資本コスト(WACC)とは

資本コストとは、会社が資金調達する際に必要となるコストであり、借入の場合は利息、株式の場合は配当のことです。

株主がある価格まで株価が上昇することを期待しているなら、期待される上昇分も資本コストの一部となります。会社の利益が資本コストを上回れば、経営状態はおおむね良好です。

資本コストは会社から見るとコストですが、債権者や株主からみれば利益であり、その予想値が期待収益率になります。

資本コストの計算方法として一般的なのが、WACC(ワック)の手法です。資本コストは債権者・株主側からみれば期待収益率なので、WACCと期待収益率には密接な関係があります。

資本コスト(WACC)求め方

資本コスト(WACC)の求め方は、まず借り入れている負債と株主から出資してもらった資本について、それぞれ負債コストと株主資本コストを計算します。負債コストと株主資本コストは、要するに債権者と株主にとっての期待収益率です。

期待収益率を求めたら、前章で解説したポートフォリオの期待収益率の計算を用いて、借入と出資におけるトータルの期待収益率を求めます。

負債には法人税の節税効果があるので、例えば法人税が40%なら1-0.4=0.6を掛けて節税効果を考慮してください。

では、資本コスト(WACC)を求める方法を例を用いて見ましょう。このケースでは、借入が60%、株主からの出資が40%として、期待収益率がそれぞれ5%と10%、法人税率が40%として計算します。

資本コスト(WACC)の計算式は、借入の部分が60%×5%×(1-0.4)=3%×0.6=1.8%です。同様に、株主資本の部分は40%×10%=4%になるので、両者を足して1.8%+4%=5.8%が資本コスト(WACC)の値となります。

【関連】資金調達コストとは?計算方法やコスト比較、抑える方法を解説

4. 株式の期待収益率が債券の期待収益率を上回るための条件

この章では、株式の期待収益率が債券の期待収益率を上回るための条件を見ましょう。

通常、「株式の期待収益率>債券の期待収益率」と考えられますが、必ずしもそうではありません。一般的にこのように考えられているだけで、債券の期待収益率を上回るためには条件があるでしょう。

ある企業へ投資する場合、株式と債券への投資が選べます。株式の要求収益率が債券の要求収益率を上回るには、株式に投資する魅力が債券へ投資する魅力を越えなければなりません。会社は十分な配当を支払う、あるいは内部留保を使って効率的に投資する必要があります。

債券にお金を出す方が魅力的な場合は、株式の期待収益率は債券の期待収益率より下がるでしょう。株式の期待収益率が債券の期待収益率よりも上回るには、株式投資への魅力を外部へ示さなければなりません。

5. M&Aでの期待収益率の活用

M&Aと期待収益率の関係は一見わかりにくいかもしれませんが、M&Aは会社の買収合併によって将来の利益を目指すものであり、得られる利益は不確実です。

こうした将来の不確実な利益の判断は、株式投資などの場合と同様、期待収益率を活用できます。この章では、M&Aで期待収益率がどのように活用されるのか見ましょう。

M&Aを実施すべきかの判断

M&Aで買収を目指す買い手企業は、買収される売り手企業の経営状態や、買い手とのシナジー効果などを総合的に見て、M&Aを実施するべきか判断しなければなりません。

売り手企業が将来どれくらい利益を上げそうかを見積もる必要があり、この目的で期待収益率が活用されます。

企業価値評価の代表的な手法

M&Aにおいて、企業の価格を決定する際には、会社の価値を算出する企業価値評価が重要です。算出する手法はいくつかありますが、大きく3つに分類できます。
 

  • インカムアプローチ
  • マーケットアプローチ
  • コストアプローチ

1つ目はインカムアプローチで、将来のキャッシュフローを現在価値に換算して評価します。2つ目はマーケットアプローチで、上場企業の株価や過去の類似企業の買収事例をもとに評価します。3つ目はコストアプローチで、資産額から負債額を差し引いた金額をもとに評価します。


企業価値評価にどの手法を用いるかは、企業によって異なります。中小企業の場合、インカムアプローチやコストアプローチを使用するケースが多いとされています。

DCF法で用いる割引率が期待収益率

企業価値評価の手法の一つであるDCF法では、将来のキャッシュフローを現在価値に換算して、企業の価値を算出します。DCF法においては、期待収益率が使用されます。

同じ金額であっても、現在手元にあるキャッシュの方が将来に受け取るキャッシュよりも高く評価されます。なぜなら、手元にあるキャッシュは運用によって増やすことができる可能性があるからです。

一方、将来に受け取るキャッシュは、受け取るまで運用できないため、現在価値を算出するためには割引が必要です。この割引率には、期待収益率が使われます。

DCF法で企業価値を算出する手順

M&Aでは、企業の価値を算出し、買い手と売り手が価格交渉を行います。企業価値はDCF法を使って算出されます。DCF法では以下の手順で計算が行われます。

まず、期待収益率(WACC)を計算します。次に将来のキャッシュフローを予測し、その後継続価値を求めます。将来のキャッシュフローと継続価値を期待収益率で現在価値に換算して、事業価値を算出します。非事業資産を時価評価により価値を求め、有利子負債を減算した後、事業価値に加えます。

数十年先までのキャッシュフローを予測することは困難です。そこで、一般的に5年程度の期間を見据えた事業計画の期間以降は、継続価値として算出します。

継続価値は、例えば最終年から一定の割合(1%程度)で成長し続けると仮定する『永久成長率法』や、みなし税引後営業利益を再投資する形で成長率を求める『バリュードライバー』法で算出されます。

M&Aの収益性を判断するのに買い手が利用

M&A(企業の買収・合併)によって得られる利益が十分かどうかを判断するために、期待収益率を計算することができます。買収額や仲介会社の報酬などのコストと、期待収益率を比較すると、どちらが大きいでしょうか?

もし買い手が支払うコストよりも期待収益率が低い場合、M&Aを行っても十分な利益が得られません。このような場合、M&Aは大きな損失を招くことがありますので、やめることが賢明です。

逆に、期待収益率の方がコストよりも高い場合、M&Aによってかけた費用を回収する見込みがあるため、M&Aに踏み切ることができます。

付加価値も考慮する

企業の価値を決めるためには、将来のキャッシュフローだけでなく、その他の付加価値も考慮する必要があります。シナジー効果やブランド価値、取引先、ノウハウなどが代表的な例です。

買収の判断には、期待収益率だけでなく、その他の付加価値も重視すべきです。たとえ期待収益率が低くても、買収後にシナジー効果が発揮されれば、計算以上の収益が得られることがあります。

また、取引が難しい企業との取引を希望する場合は、買収によって取引先との関係を構築することができるかもしれません。買収の可否を判断する際には、期待収益率とともに、その他の価値も総合的に判断することが必要です。

企業価値の算定

M&Aでは売り手企業の企業価値を算定しますが、純資産などの現在価値をもとに計算する手法と、将来のキャッシュフローをもとに計算する手法があります。

将来のキャッシュフローから企業価値を算定する代表的な手法に、DCF法があり、DCF法の計算には資本コスト、つまり期待収益率が必要です。現在の企業価値から期待収益率を割り引くことにより、将来における価値の予想に基づく企業価値算定ができます。

【関連】M&Aの企業価値評価(バリュエーション)とは?算定方法の種類、メリット・デメリットを解説【事例・動画あり】| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

6. 期待収益率とリスク

投資におけるリスクとは単に損をする危険性だけでなく、将来における不確実性の大きさを意味します。

例えば、確実に100万円もらえるのと半分の確率で200万円もらえるのでは、期待収益率は同じでも後者の方がリスクは大きいです。期待収益率を活用するにあたっては、期待収益率とリスクの関係も知ることが大切です。

リスクプレミアムとの関係

リスクプレミアムとは、株式などリスクのある資産の期待収益率から、国債などリスクのない資産の期待収益率を引いたものをさします。リスク資産に投資すれば、元本割れなどのリスクと引きかえにリスクプレミアムが得られると解釈できます。

リスクプレミアムを考慮して期待収益率を求める手法としてCAPMがあり、ヒストリカルデータ方式などの単純な方法と比べると計算は複雑ですが、リスクプレミアムを考慮したより精度の高い期待収益率の計算が可能です。

7. 期待収益率とM&Aに関する相談先

M&Aでは、企業価値評価における期待収益率の計算など、専門的な知識と経験が必要です。スムーズにM&Aの手続きを進めていくためには、M&A仲介会社など専門家のサポートがおすすめといえるでしょう。

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8. 期待収益率のまとめ

期待収益率を理解するには、数式の計算も必要なので敬遠する方もいるかもしれません。しかし、決して計算式が難しいわけではないので、基本的な計算を知れば、投資やM&Aに活用できるでしょう。

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