2022年12月16日更新
M&Aの現物出資とは?メリット・デメリットや検査役による調査、金銭出資との違いも解説
M&Aにおける会社設立や募集株式の発行の際に、金銭以外の財産で出資することを現物出資といいます。今回の記事では、M&Aにおける現物出資にはどのようなメリットがあるのか、検査役によって行われる調査は何かを解説します。
目次
1. M&Aの現物出資とは
M&Aにおける手法の1つに「現物出資」があります。現物出資とは金銭の代わりに現物で出資することをいい、募集株式の発行や会社設立時、増資を行う際などに金銭の代わりに債権や不動産など現物によって出資ができます。
まずは、M&Aの現物出資における現物出資の対象となる範囲、現物出資を実施可能な人物、分社型分割との相違点などを見ましょう。
現物出資の対象となる範囲
現物出資できる「現物」とは、譲渡が可能であり、貸借対照表に資産として計上可能な金銭以外の物と定義されています。
具体的には、不動産や自動車など以下のようなものが対象の範囲となります。なお、信用や労務、ノウハウといった無形物やローンの残債が残っている資産、名義書換できない預金や保険証券などは現物出資の対象とはなりません。
【現物出資の対象となる範囲】
- 土地・建物などの不動産
- 自動車
- 債権
- パソコン・OA機器などの機械類
- 机や椅子などのオフィス家具
- 株式などの有価証券
- ゴルフ会員権・リゾート会員権
- 特許権などの知的財産権
実施可能な人物
現物出資ができるのは出資者本人であり、会社設立の場合であれば発起人、募集株式発行の場合は募集株式の引受人です。募集設立の場合における募集株式の引受人は現物出資ができません。募集設立とは、株式会社を設立するにあたり、総株式の一部を発起人、残りを一般から株主募集する形式をいいます。
出資は、設立する会社や株式を発行する会社に、金銭や現物を提供する代わりに株式を引き受けることであるため、発起人や募集株式の引受人など出資者以外の第三者の出資はできません。
分社型分割との相違点
現物出資と分社型会社分割は、どちらも資産を他社に移転する代わりに会社の株式を引き受ける意味では同様の行為です。しかし、現物出資は出資形態の1つであり、分社型会社分割は組織再編の1形態であるため、必要な手続きは大きく異なります。
現物出資の手続きでは、現物の時価調査や定款への現物に関する記載、調査報告書や資産引き継ぎ書の作成などが必要となります。
これに対して、分社型会社分割は、分割計画書の作成、事前開示書類の備置、労働者への事前通知、反対株主の株式買取請求通知、債権者保護手続き、株主総会の特別決議、登記申請などが必要です。
現物出資の手続きに関して、出資する財産の価値が適正であるかどうかは原則として裁判所選任の検査役の調査が必要ですが、分社型会社分割の場合は検査役の調査が不要です。
現物出資の場合は消費税が課されますが、分社型会社分割の場合は消費税が課されません。不動産取得税はどちらも一定の場合非課税になりますが、非課税要件はそれぞれ異なります。
金銭出資との違い
金銭出資とは増資方法の一つであり、金銭によって出資を行う方法です。株式会社の設立や新株発行などの際に増資する手段として、金銭出資と現物出資の2種類が挙げられます。
金銭による出資は運用上資金面での融通が利き、手続きもシンプルであるメリットが挙げられるでしょう。そして、金銭出資の場合は口座振り込みのシンプルな形で完了するため、手続きもコストもほとんど発生しないでしょう。
したがって、現物出資と金銭出資との違いは、金銭出資はわかりやすく評価できますが、現物出資の場合はその出資の目的物が、金銭のように簡単に評価できない点です。現物出資は金銭出資とは異なり、出資額が過大に評価される可能性もあるため、評価が難しいです。
2. M&Aの現物出資で行われる調査
M&Aの現物出資をする際は、手続きの一環で検査役の調査が原則必要となります。ここでは、検査役の調査手続きや目的、調査手続きを省略できるケースを解説します。
出資する財産に対して検査役が調査を行う
現物出資を実施する際には、会社と出資者との協議によって、出資する財産の内容や価額などを決定します。現物出資の価額が相当であるかどうかは、原則として裁判所選任の検査役の調査を受けることが会社法上義務づけられています。
これは、出資する現物の評価が適切でなければ、ほかの株主との間に不公平が生じ得るためです。流れは、取締役が現物出資の調査報告書を作成して、裁判所に検査役の選任を申請して調査を受けることになります。
検査役の調査を省略できるケース
検査役の調査を受けるためには、多額の費用と長い時間が必要となります。すべての現物出資のケースで、検査役の調査を要求するのはあまりにも非合理的であるため、一定のケースでは省略することが認められています。
省略できるケースは、現物出資財産の価額が少額である場合や有価証券のように市場価格が判明している場合、弁護士や公認会計士などの専門家から証明を受けた場合などです。
【検査役の調査を省略できるケース】
- 現物出資財産の価額が500万円以下の場合
- 現物出資財産が市場価格のある有価証券で、価額が市場価格以下の場合
- 現物出資の価額に関して、弁護士・公認会計士・監査法人・税理士などの専門家による相当であることの証明書がある場合(不動産は併せて不動産鑑定士の鑑定評価も必要)
デット・エクイティ・スワップ
「デット・エクイティ・スワップ」(DES)は債務の株式化と呼ばれ、債務を現物出資して株式を引き受けることを指します。この場合の債務とは、株式発行会社にとっての債務であり、出資者は債権者といった図式です。
例えば、ある会社に金銭債権を保有している債権者が、その債権を債務者である会社に現物出資する場合は株式を引き受ける手続きを行います。DESを行う場合、現物出資の対象となる債権が弁済期の到来している会社に対する金銭債権であり、債権の価額が負債の帳簿価額を超えていない場合は、検査役の調査を受けずに手続きすることが可能です。
3. M&Aで現物出資を行うメリット
現物出資の活用によって、さまざまなメリットを得られます。ここでは、現物出資の以下のメリットを掘り下げます。
【現物出資のメリット】
- 手元資金がなくてもM&Aを実行できる
- 減価償却によって節税効果を得られる
- 資本金を増やせる
- 増資にも活用できる
- キャッシュがなくても発起人になれる
手元資金がなくてもM&Aを実行できる
M&Aによる買収では相手企業の株式を取得しなければなりませんが、株式取得の対価は金銭であることが一般的です。株式価格によっては手元資金の用意が難しい場合も考えられます。しかし、現物出資は、金銭以外の現物を出資して株式を取得できるので、現金などの手元資金がなくても不動産などの現物があれば、M&Aを実行できます。
減価償却によって節税効果を得られる
現物出資財産がパソコンなどの減価償却資産の場合には、耐用年数に応じて費用として計上できるので節税効果を得られます。減価償却によって節税効果を得られることは、M&Aの現物出資を選択する1つのメリットといえます。
資本金を増やせる
資本金の額は、対外的信用力だけでなく融資を受ける際にも重要となりますが、手元に十分な資金がない場合もあるでしょう。そのような場合、現物出資を活用することで資本金を増やすことが可能になります。例えば、債権やパソコンなど現物があれば、現物出資によって資本金の額を増やすことが可能です。
増資にも活用できる
現物出資は資本金の増額としてだけではなく、増資の手段としても活用することが可能です。具体的には、第三者割当などの募集株式の発行手続きを活用して増資をする際、株式引受人に現金がなくとも現物出資をしてもらえます。
キャッシュがなくても発起人になれる
会社設立時も、現物出資は利用できます。先に触れたように、会社設立の場合は、発起人だけが現物出資をすることが可能です。現金がなくても、発起人が有している個人資産で現物出資の対象となる財産があれば、現物出資をすることによって、発起人となり会社を設立することが可能となります。
4. M&Aで現物出資を行うデメリット
M&Aで現物出資を利用する場合、デメリットがいくつか存在します。
手続きに多くの時間がかかる
現物出資は手続きに多くの時間がかかるでしょう。定款への追加記載、調査報告書の作成、登録や登記が必要な資産などそれぞれの手続きを行う必要があり、手間がかかります。
定款に記載する内容は、出資する発起人の氏名・住所、出資財産、価額、出資者に割り与える株式数などです。調査報告書は、現物出資がある場合のみ調査報告書を作成します。現物出資財産の価額設定は適切に行われ、引き継ぎ作業が完了していることを取締役が確認した後に作成する書類です。
定款に記載した金額が間違っている、記載額と比較して財産の価額が不足しているなどの場合、出資人はその差額を支払う義務を負わなければなりません。
資本金に対して現金の割合が少なくなる
現物出資で調達した金額が多いと、設立当初は資本金の金額よりも、現金が少ない状況が続くでしょう。手元にすぐ使用可能な資金が不足していると、すぐに資金がショートしてしまう事態に陥りかねません。
したがって、現物出資が多すぎると収入より支出が多い状態が続き、そのまま資金がパンクして会社が傾きかねません。現物出資を行う場合は、設立後の資金繰り計画を正確に立てておく必要があるでしょう。
このように現物出資が多い場合、銀行の融資審査でも資本金が多ければ高額融資を受けられるとは限らないため、現物出資に頼り過ぎるのは危険かもしれません。
5. M&Aで現物出資する際に必要となる手続き
現物出資を行うためには、いくつかの手続きが必要です。現物出資を考えている場合は、あらかじめ必要な手続きを把握しておくとスムーズに進めていけます。
この章では、会社法で規定されている現物出資の手続きを解説します。
出資する現物の時価調査を行う
現物出資をする際は、株式発行会社と出資者の間で協議して、財産の価額や与える株式数などを決定しなければなりません。これらを決定するためには財産の時価を把握している必要があるので、財産の時価調査を株式発行会社の取締役が行います。
出資する現物について定款に記載する
現物出資をするには、財産の内容や出資者の氏名などに関する以下のような事項を定款に記載しなければなりません。
【出資する現物について定款に記載する主な事項】
- 出資者の氏名・名称
- 出資の目的たる財産
- 財産の価額
- 出資者に与える株式の数
調査報告書と資産引き継ぎ書を作成する
現物出資には、株式発行会社の取締役による財産の時価調査や調査報告書の作成が必要です。監査役が置かれている会社であれば、監査役も調査や調査報告書の作成に加わらなければなりません。
現物が出資者から会社に引き継がれたときは、株式発行会社の取締役による資産引継書の作成も必要になります。
6. M&Aの現物出資は税金に注意が必要
M&Aの現物出資を行った場合、現物出資した会社に対しては現物出資時に資産の譲渡があったものとされ、税金が課される対象になります。ただし、100%グループ企業内で実施される現物出資は、一定の場合、適格現物出資に該当して譲渡損益は課税されず、帳簿価額のまま引き継がれます。
なお、現物出資を受けた会社は、現物出資した会社の出資直前の帳簿価額を引き継ぎます。資本金が増えることによって、地方税均等割や事業税などが高くなる可能性もあるでしょう。
現物出資財産に不動産が含まれている場合には、登録免許税や不動産取得税が発生します。なお、現物出資により法人を新設する場合には、不動産取得税の特例があり、一定要件を満たす場合は非課税です。
現物出資財産に消費税の課税対象資産が含まれていれば、消費税の課税対象になります。現物出資財産に土地など消費税非課税資産が含まれていれば、非課税売上となり、課税業者であれば、課税売上割合に影響が出るため留意が必要です。
7. M&Aの現物出資をする際におすすめの相談先
M&Aにおいて現物出資をするうえでは法律や税金など専門的な知識が不可欠であり、M&Aに関する知識やノウハウも必要です。M&Aの現物出資をお考えの場合は、ぜひM&A総合研究所にご相談ください。M&Aに精通した専門アドバイザーが親身になってフルサポートします。
料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談を随時、受け付けていますので、M&Aでお困りの場合はお気軽にM&A総合研究所にご連絡ください。
8. M&Aの現物出資まとめ
手元資金が十分にない場合でも、現物出資を活用すれば資本金の増額やM&Aの実行が可能になります。メリットも多いですが、税金や法律面で注意すべきこともあるため、専門家に相談しながら進めていくようにしましょう。
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