M&Aの手法・方法とは?分類一覧やメリット・税金知識・方法ごとの成功事例を徹底解説!

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

M&Aの手法・方法は買収・合併・提携の3種類に大別でき、それぞれ異なる特徴があります。また、各手法は株式譲渡や事業譲渡などに細分化されるため、それぞれの目的や状況に合わせなければいけません。M&A手法について、事例・特徴・メリット・デメリットを解説します。

目次

  1. M&Aとは
  2. M&Aの手法・方法一覧
  3. M&Aの手法・方法を用いる際の流れ(11ステップ)
  4. M&Aの手法・方法別に課される税金
  5. M&Aの手法選びのポイント
  6. M&Aの手法に必要な会計・仕訳
  7. M&Aの手法にかかる費用・手数料
  8. M&Aの手法を活用する企業が増える背景
  9. M&Aの手法・方法を用いた成功事例
  10. M&Aの手法(やり方)・方法まとめ
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1. M&Aとは

M&Aとは、「Mergers(合併)& Acquisitions(買収)」の略称で、事業や会社そのものの売買取引や企業間の組織再編行為の総称です。M&Aスキーム(手法)は、合併と買収だけではありません。

M&Aのスキームには非常に多くの手法があり、それぞれの手法を、企業の経営戦略や対象企業の状況に応じて選ぶことが肝要です。まずは、M&Aの目的やメリット・デメリットを解説します。

M&Aの手法・方法を用いる目的

M&Aにおける最大の目的は、自社・対象企業の良い点を生かし、シナジー効果を最大限に引き出すことにあります。シナジー効果とは、日本語で相乗効果といい、お互いの企業の良い点を掛け合わせることで、1+1が2を超える成果を上げる意味です。

具体的には、以下のような目的でM&Aは行われます。

  • 事業の拡大
  • 新規事業への参入
  • 優秀な人材の獲得
  • 事業承継問題の解決

M&Aによって2つ以上の企業が経営統合すると、企業の規模や事業領域が拡大します。異業種の企業とM&Aを行えば、新規事業への参入が可能です。高い技術力や統率力などを持つ優秀な人材獲得も、M&Aにおける目的の1つとなっています。

M&Aで売り手側の目的となるのが、事業承継問題の解決です。昨今、日本では、少子化や価値観の多様化などの影響で、後継者不足に悩む中小企業が多くあります。M&Aで会社を売却すれば、その買い手が後継者(新たな経営者)となり、事業承継が実現します。

M&Aの手法・方法を用いるメリット

以前は、M&Aは大企業が行うものというイメージがありました。しかし近年では、中小企業でも会社の発展や存続のための戦略として、たくさんのM&Aが行われています。

M&Aのメリットにはどのようなものがあるのか、買収側企業のメリットと売却側企業のメリットに分けて見てみましょう。

買収のメリット

M&Aの買収側企業のメリットとして、まず、事業の拡大と新規事業への参入が挙げられるでしょう。事業の拡大や新規事業への参入を自社のみで行うと、事業拡大のための費用、人材の確保、新規参入のための商品やサービスを開発する費用など、膨大な予算がかかります。

人材の確保や商品・サービスの開発には、時間がかかるのが通例です。しかし、M&Aを行うことで、取引先や仕入れ先も獲得できるため、事業の拡大や新規参入をスピーディーに行えるでしょう。

弱い分野や事業に対し、強みを持っている企業とM&Aを行えば、技術・知識・ノウハウ・取引先・人材を獲得できます。優秀な人材を確保できれば、自社の成長スピードが加速され、既存の事業を強化できるでしょう。

売却のメリット

M&Aの売却側企業のメリットとして一番に挙げられるのが、事業承継問題の解決です。日本では後継者不足に悩む中小企業が非常に多く、近年はその解決手段としてM&Aが用いられるようになってきました。

M&Aによって会社が存続すれば、取引先との関係を続けられ、従業員の雇用も守られるでしょう。M&Aは、経営基盤の安定化にもなります。大手企業の傘下に入れば、事業拡大や技術・サービスの向上だけでなく、財務面の心配がなくなり、安定した経営を行えるでしょう。

中小企業のオーナー経営者の場合、M&Aで株式譲渡を実施すれば相応の売却益が得られます。

M&Aの手法・方法を用いるデメリット

M&Aにはデメリットも存在します。M&Aを行うにあたり考えられるデメリットを、買収側と売却側に分けて確認しましょう。

買収のデメリット

買収によるM&Aを行う側には、M&Aの最終契約書締結が終わって実際に企業の統合を行う際に、企業文化が合わず思ったように統合を行えないデメリットがあります。

企業によって社内の雰囲気はさまざまなので、文化が合わず、意思決定の遅れや企業ガバナンスの弱体化を招くおそれがあるでしょう。これによって、優秀な人材が流出してしまう可能性も否定できません。

買収後、M&A対象会社の帳簿に記載されていない債務(簿外債務)があったり、買収したことにより訴訟が起きたりして、経営にダメージを与えるリスクの発生も考えられます。

これらのデメリットを予防するためには、対象企業に対して行うデューデリジェンス(買収監査)をしっかり行い、M&A後の適切な経営統合プロセス(PMI=Post Merger Integration)実施が大切です。

売却のデメリット

M&Aによって会社・事業を売却する側のデメリットは、自社が想定していた価額で会社を買収してもらえず、想定していたよりも安い金額で買収されるリスクがあることです。従業員の雇用条件が変わる可能性もあります。

雇用条件が悪化すると、モチベーションの低下や人材の流出につながるため、従業員の雇用条件も含めてM&Aの締結を行いましょう。企業にはそれぞれの文化や価値観があり、M&A実施後は、互いに融合・定着させるのが必要です。

しかし、文化や価値観があまりにも違う企業同士の場合は経営統合が難しい場合もあり、M&Aは避けた方がよいケースもあります。

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2. M&Aの手法・方法一覧

M&Aの分類

上図はM&Aの手法を一覧にしたものです。以下では、上図にないものも含めて各M&A手法の概要を説明します。なお、上図に示されているとおり、単なる業務提携は資本の移動を伴わず、共同業務契約にとどまりますので、M&Aとは見なされません。

  1. 株式譲渡
  2. 株式交換
  3. 株式交付
  4. 株式移転
  5. 第三者割当増資
  6. 事業譲渡
  7. 合併
  8. 会社分割
  9. 資本提携
  10. TOB
  11. MBO

①株式譲渡

株式譲渡とは、対象企業の株式を買収することで、その企業の経営権を取得するM&A手法です。株式譲渡での対価には現金が用いられます。株式譲渡によるM&Aのメリットと特徴は、M&Aの手続き自体が容易であるためM&Aを早く行えることです。

株式譲渡によるM&Aのデメリットは、会社を丸ごと取得する包括承継であるため、負債なども引き受けてしまうリスクが避けられないことです。買収の際は、資金の準備が必要になります。

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②株式交換

株式交換とは、完全親子会社関係になる前提で買い手が売り手の株式を取得し、その対価として買い手の株式を交付する手法です。つまり、売り手側の株主は、買い手側の株主へと立場が変わります。

株式交換によるM&Aのメリットと特徴は、資金を準備する必要がないこと、株主全員の賛成を得られなくても株主総会の特別決議の承認があれば実施できることなどです。

株式交換によるM&Aのデメリットは、株式譲渡と比較すると手続きが複雑なこと、買い手企業の株主構成が変わってしまうことなどが挙げられます。

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③株式交付

株式交付とは、完全親子会社ではない親子会社関係になる場合(=売り手企業の全株式は取得しないケース)でも、株式交換と同様のやり方ができる手法のことです。2019(令和元)年の会社法改正で、新たに認められました。特徴・メリット・デメリットは株式交換と同様です。

【関連】株式交付制度とは?株式交換との違いや手続きなどの概要、注意点を解説

④株式移転

株式移転とは、新しく親会社を立ち上げ、既存の会社は自社株式を親会社に移転させて子会社となる手法です。いわゆるホールディングス体制(持株会社体制)を取る際に実施され、既存会社の株主は、対価として持株会社の株式を得ます。

株式移転のメリットは、買収するときに株式を交付できるので、買収資金は必要ありません。事業会社(子会社)はそれぞれ独立した組織なので、多くの事業会社がいる場合でもPMI(経営統合プロセス)の負担が少ないこともメリットです。

デメリットは、事務的な手続きに手間がかかる点でしょう。企業数が増えるため管理費用が増え、株価が下落する可能性があることもデメリットといえます。

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⑤第三者割当増資

第三者割当増資とは、特定の第三者に対し、売り手側企業の新株式、または所有する自社株式を交付する手法です。買い手としては買収ではなく出資であり、売り手は増資して資金調達したことになります。したがって、課税を受けません。

買い手が取得する株式の割合によって、売り手企業の経営に及ぼす影響力が変わります。第三者割当増資によるM&Aのメリットと特徴は、手続きが容易であること、株式の再売却を行う際も手続きが簡単であることなどです。

第三者割当増資によるM&Aのデメリットは、買い手は資金が必要であること、出資比率が低ければ経営には関与できないことなどが挙げられます。

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⑥事業譲渡

事業譲渡とは、売り手側の事業・資産・権利など選別して売買取引する手法です。買い手側は、対価を現金で支払います。事業譲渡によるM&Aのメリットと特徴は、一部の事業を選んで買収できるため、売り手側が抱える負債などは引き受ける必要がないことです。

事業譲渡によるM&Aのデメリットは、譲渡する事業・資産・権利ごとに手続きをしなければならないため、これが煩雑であること、事業の許認可は譲渡対象にできないこと、事業譲渡で得た利益には法人税が課されることなどがあります。

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⑦合併

複数の企業が1つに統合される手法が合併です。存続会社は、統合された企業の事業や資産、権利義務全てを承継します。存続会社以外の企業(消滅会社)の法人格は、消滅して残りません。合併には、吸収合併と新設合併の2種があります。

合併を行うメリットは、以下の3つです。1つ目は、対価を株式交付にできるため、合併する際に資金を準備する必要がないことになります。2つ目は企業の拡大効果を得られること、3つ目は契約や許認可などを存続会社に引き継げることです。

合併によるM&Aのデメリットは、包括承継であるため、簿外債務などがあっても引き継がなければならない点でしょう。2つ以上の会社における株主が一緒になるため、経営戦略の差異が生まれる点なども挙げられます。

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吸収合併

吸収合併を行う企業をA社とし、吸収される企業をB社とします。吸収合併の場合、A社が存続会社、B社が消滅会社です。A社はB社の株主に、吸収合併をする際、株式などを対価として支払います。そして、B社が吸収されA社に統合となると、B社の株主はA社の株主です。

A社はB社が持っていた権利などを取得し、B社は合併後に解散登記を行って消滅しA社が存続します。吸収合併によるM&Aの特徴とメリットは、会社を丸ごと統合するので、従業員や権利など事業ごとに細かく分ける手間がないことです。

対価は株式で払えばよいので特別に資金を用意する必要がありません。そのうえ、大規模な会社による小規模な会社の吸収合併では、取締役会決議のみで吸収合併を決定できる簡易合併という制度があり、簡単に実施できます。

新設合併

新設合併とは、既存企業が新設企業に吸収・統合される合併のことです。新設合併は手続きが複雑なため、合併の場合は、吸収合併が選ばれることがほとんどでしょう。

⑧会社分割

会社分割とは、売り手企業の事業部門を丸ごと切り出し、買い手企業がそれを取得・承継する手法です。会社分割の場合も、吸収分割と新設分割の2種があります。買い手は、対価に自社株式を用いることが可能です。

会社分割によるM&Aのメリットと特徴は、包括承継であるため許認可なども引き継げること、現金の準備が必要ないことなどが挙げられます。

会社分割によるM&Aのデメリットは、事業部門を丸ごと分割するため、その事業が負債を抱えていた場合、その負債も引き受けなければならないことです。業種によっては、許認可を引き継げない場合があります。

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吸収分割

吸収分割とは、既存企業間で行われる会社分割のことです。吸収分割によるM&Aのメリットは、分割の際の支払いは現金だけではなく株式でも可能なため資金の準備が必要ないこと、分割する事業を選べることが挙げられます。

吸収分割によるM&Aのデメリットは、不要な債権なども引き継ぐリスクがあることです。

新設分割

新設分割とは、新設された企業が既存企業の事業部門を承継する会社分割のことです。新設分割によるM&Aのメリット・デメリットは、吸収分割の場合と同じになります。

⑨資本提携

資本提携は、資本の移動を伴うため、広義のM&Aとされています。資本提携の具体的な手法としては、第三者割当増資、株式の持ち合い、合弁会社の設立がありますが、第三者割当増資は説明済みですから、ここでは、株式の持ち合い、合弁会社の設立を見てみましょう。

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株式の持ち合い

複数の企業が相互に相手企業の株式を所有することが、株式の持ち合いです。株式の取得方法としては、第三者割当増資が用いられます。近年は、単に株式を持ち合うだけでなく、業務提携と合わせ資本業務提携として行われる傾向が強いです。

合弁会社の設立

合弁会社設立とは、複数の企業が出資をして新たに会社を設立するものです。ジョイントベンチャーともいいます。合弁会社設立の主なメリットは以下の3点です。1つ目は、合弁を行う会社と協力して出資を行うため、出資のリスクを抑えられます

2つ目は、合弁を行う企業同士の強みを活用できることです。3つ目に、新規分野への参入や海外進出などが行いやすいことが挙げられます。

⑩TOB

TOB(Take Over Bit=株式公開買付)とは、上場企業の株式に対し市場外で株式を買付することです。株式公開買付では、買付価額と買付数、買付期間を公表し株式の買付を行います。

TOBのメリットは、大量の株式を買収できることや、買収価額を宣言して行うため予算が立てやすいことです。TOBは、予定した株式数の申し込みがなければ取引のキャンセルができます。

TOBのデメリットは、TOBを実施する側とTOBをされる側に敵対する意思があった場合、TOBを行う側が損をしてしまう、あるいはTOBが成功しない可能性があることです。

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⑪MBO

MBO(Management Buyout)とは、会社の取締役が自社の株式を買収することによって経営権を取得する方法です。MBOの目的は、上場を廃止することで敵対的TOBから自社を守ったり、中小企業では事業承継問題を解決したりするために利用されます。

MBOのメリットと特徴は、経営の効率化や迅速な意思決定ができるようになることです。一方、MBOのデメリットは、自社が発行している株式を株主から買収するのは難しい点が挙げられます。

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3. M&Aの手法・方法を用いる際の流れ(11ステップ)

M&Aを実施する方法は、11のステップに分けられます。11のステップは、以下のとおりです。

  1. 事前準備
  2. アドバイザー選定
  3. アプローチ
  4. 秘密保持契約
  5. IM提示
  6. トップ面談
  7. 基本合意書締結
  8. デューデリジェンス
  9. 条件交渉
  10. 最終契約とクロージング
  11. PMI

①事前準備

M&Aを行うための事前準備として重要なのが、目的の明確化です。M&Aにおける最大の目的は、対象企業と協力して、シナジー効果を最大限に引き出すことにあります。自社はどのような企業を目指しているのか検討することが大切です。

買収側であれば、目的の明確化は、最終契約書締結後のPMI実施を想定して検討すると、より具体的な目的を取り決められます。M&Aの目的を決めたら、その目的をM&Aを行うチーム全体で共有するのも重要です。

②アドバイザー選定

事前準備として目的の明確化を終えたら、M&Aのアドバイザーを選定します。M&Aのアドバイザーは、M&A仲介会社から選定するのが一般的です。M&Aアドバイザーの選定を終えたら、業務委託契約を締結します。

業務委託契約はFA(ファイナンシャルアドバイザリー)締結とも呼ばれ、この契約を結ぶことにより正式に企業のM&Aアドバイザーとして就任します。アドバイザーが決まったら取引候補となる企業の選定ですが、M&A仲介会社を利用することで適切な相手を選べるでしょう。

ただし、昨今はM&A仲介会社も急増していることから、アドバイザー選びに迷ってしまうかもしれません。そのような場合​​​​​​には、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。M&A総合研究所には、M&Aの専門知識や経験が豊富なアドバイザーが多数在籍しており、培ったノウハウを生かしてM&Aをフルサポートします。

料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。随時、無料相談を行っていますので、M&Aをご検討の際には、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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③アプローチ

M&A仲介会社のリサーチで候補先が決定したら、アプローチを実施します。ここでのアプローチとは、M&A取引候補企業に対し、M&Aを実施する意思を問うことです。なお、このプロセスでは、具体的な会社名などは明かされていません。

マッチングのポイント

M&Aの相手候補選び(マッチング)では、特に以下の3点を留意しましょう。

  • 業務を依頼するM&A仲介会社は、得意とする業種や企業規模が自社と合致しているか確認して決める
  • できるだけ多種多様なシナジー効果が望める相手を選ぶ
  • 経営統合が行いやすいと思える相手を選ぶ(買い手側)

④秘密保持契約

対象会社へのアプローチを終えてM&Aの意思を確認できたら、秘密保持契約(NDA=Non-Disclosure Agreement)を締結します。M&Aは企業にとって非常にデリケートな問題なので、情報がもれないように細心の注意を払わなければなりません。

秘密保持契約は、売り手側が自社の機密情報を守るため、そして買い手側も自社の情報を守るために締結するものです。

⑤IM提示

秘密保持契約を締結したら、IM(Information Memorandum)の提示です。IMとは、売り手企業に関する詳細な情報が記載された資料をさします。IMは、基本的に、売り手側のM&A担当者やアドバイザーが作成するものです。

情報を公開する範囲は売り手側が決定します。しかし、基本的には、M&Aの実施にあたり、メリットとなる内容が多く記載されることがほとんどです。

⑥トップ面談

IMの内容をもとに、M&Aの条件を社内で検討をしたら交渉開始です。基本的に条件交渉は、M&A仲介会社が行います。交渉の過程で実施されるのがトップ面談です。売り手・買い手双方の経営トップが、直接会って話をします。

条件交渉はM&A仲介会社が行いますから、トップ面談では経営ビジョンや企業風土などを話し、お互いの人物像を見極めるのも狙いです。

⑦基本合意書締結

M&Aの条件が大筋で合意できたら、基本合意書の締結です。基本合意書には、M&Aのスキームや買収価額など、さまざまな基本的な内容が記載されます。ただし、基本合意書は現時点での合意内容確認書という位置付けです。法的拘束力はありません

M&Aの成約は保証されていない点には、注意が必要です。

⑧デューデリジェンス

基本合意書の締結を行ったら、デューデリジェンスの実施です。デューデリジェンスとは、買収監査のことで、企業を買収するにあたり大きなリスクはないか、買収価額は適正かなどを買収側が調査します。PMI計画策定に必要な情報収集も欠かせません。

財務・税務・法務・労務・IT・事業などの分野ごとに、士業などの専門家を起用して行います。

⑨条件交渉

デューデリジェンスで得られた情報をもとに、条件の最終交渉です。デューデリジェンスで発覚したリスクや技術の情報をもとに、買収価額や権利の譲渡など、M&Aに関する細かい条件の交渉を行います。

売り手側は高く買収してもらいたい、買い手側は安価で入手したいと考えるのが一般的なため、お互いの意見を尊重しつつ条件の交渉を行うことが重要です。

⑩最終契約とクロージング

最終条件交渉によりM&Aの条件が決定したら、最終契約書の締結です。最終契約書の締結により、法的拘束力をもってM&Aは成約します。クロージングとは、契約書に記載された内容を相互に履行することです。

売り手であれば、株式の引き渡しや株主名簿の書き換え、登記内容変更手続きなど、買い手であれば、対価の支払い、資産や権利の引き継ぎ手続き、各種届出などが該当します。

⑪PMI

最終契約書を締結したら、PMIの実施です。PMIでは、売り手企業と買い手企業の経営統合を行います。具体的には、業務システム、管理システム、ITシステム、組織の再編成と人員の再配置、社内規定、人事制度、企業風土などの統合です。

PMIの失敗はM&Aの失敗を意味します。したがって、PMIの計画策定は入念に準備を行い、万全なものを用意しなければなりません。

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4. M&Aの手法・方法別に課される税金

下表に、M&Aの手法・方法別に課される税金を簡単にまとめました。
 

  株式譲渡
(個人)
株式譲渡
(法人)
事業譲渡
(法人)
税金 所得税、住民税 法人税等 法人税等、消費税など
税率 20.315%
(所得税15.315%、住民税5%)
29.74% 法人税29.74%、消費税10%
課税方式 分離課税 総合課税 総合課税
納税者 株主 法人 法人


この章では、M&Aでよく利用される株式譲渡、事業譲渡、合併や会社分割などの組織再編行為に課される税金を解説します。

株式譲渡

株式譲渡では、M&Aで会社を売る側の株主が、会社を買う側に株式を売却して売却代金を取得します。課税の対象は売却代金を受け取った株主です。株主が個人の場合は、受け取った利益である株式譲渡所得に分離課税されます。

この所得税は、売却した翌年の確定申告での納税です。税率は所得税・住民税・復興特別所得税(2037(令和19)年までの時限税)を合わせて20.315%(2022(令和4)年8月現在)です。給与・事業収入などの所得が高い場合でも、納税額を抑えられます。

株主が法人の場合に課せられるのは、法人税(法人税、法人住民税、法人事業税、特別法人事業税)です。個人のような分離課税はなく、他の損益と通算した利益額に課税されます。4つの法人税を合わせた実効税率は約31%(2022年8月現在)です。

法人の場合、損益を通算し決算が赤字であれば課税を受けません。節税のために、株式譲渡を実施する時期を調整してみてもよいでしょう。

事業譲渡

事業譲渡の売却当事者は売り手側の法人です。したがって、売り手企業に法人税が課されます。課税内容は株式譲渡の場合と同様です。譲渡対象に消費税課税資産が含まれている場合、買い手企業に消費税が課されます。消費税課税資産は、以下のとおりです。

  • 有形固定資産(土地は除く)
  • 無形資産
  • 棚卸資産
  • のれん

組織再編行為

合併や会社分割などの組織再編では、税制適格要件という規定があります。この税制適格要件を満たした合併や会社分割であれば、課税は受けません。

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5. M&Aの手法選びのポイント

M&A(企業の合併や買収)を進める際には、次の4つのポイントを考慮することが重要です。

  • 利益が見込めるか
  • 買収の価格が妥当か
  • 実施のタイミングが適切か
  • 企業統合後の計画(PMI)が明確か

まず、企業合併や買収の手法を選ぶ時、それが自社にとって利益をもたらす可能性があるか考えることが必要です。選んだ手法にこだわり過ぎず、交渉の相手や状況に応じて柔軟に考え、必要なら手法を変えることも視野に入れてください。

また、M&Aでは売り手と買い手の間で交渉を通じて買収価格が決まります。双方が納得のいく価格にするためには、適切な企業価値の評価と、買収の前に行う徹底した調査(デューデリジェンス)が必要です。

さらに、M&Aはタイミングが大切です。売り手としては、業界の市場が成長している時期や業界が再編成される時期を狙うと、買い手を見つけやすくなります。一方、買い手としては、後継者がいない中小企業を探す専門家に依頼すると、より多くの情報が得られるでしょう。

最後に、買収が完了した後の企業統合計画(PMI)が明確であることが重要です。売り手企業の情報も必要なので、デューデリジェンスでは情報収集も行い、その情報をもとにPMI計画を策定します。M&AやPMIが初めての企業の場合、PMI計画の策定について専門家からサポートを受けることが重要です。

6. M&Aの手法に必要な会計・仕訳

M&A(企業の合併や買収)においては、次の3つの種類の会計が必要になります。

  • 個別会計:一つの企業だけを対象とする会計で、企業の財務状況を明確にするためのもの
  • 連結会計:親会社とその子会社全体を含む企業グループの財務状況をまとめて表示するための会計
  • 税務会計:税法に基づいて行われる会計で、税金の計算や申告のために必要なもの。同じ項目でも、他の会計とは異なる計算方法を用いることがある。

さらに、会計を行う際には、次の3つの基準のいずれかを選ぶことになります。
  • 日本基準
  • 国際財務報告基準(IFRS)
  • 米国基準

これらの基準にはそれぞれ特徴があり、企業の状況や目的によって適切な基準を選びます。

7. M&Aの手法にかかる費用・手数料

M&A(企業の合併や買収)を進める過程では、以下のような種類の手数料が発生することがあります。

  • 相談料:専門家との最初の相談の際に必要となる手数料で、近年では多くの会社が無料で提供している
  • 着手金:業務を正式に開始する際に必要な手数料だが、全ての報酬を成功に応じて受け取るタイプの会社では、この手数料は発生しない
  • リテイナーフィー:契約締結後、合意に至るまで毎月必要な顧問料だが、多くの会社ではこの料金は無料
  • 中間金:基本合意が成立したときに必要な手数料で、成功報酬の一部を前払いする形を取る
  • 成功報酬:M&Aが正式に合意に至ったときに必要な手数料で、この料金の計算方法は会社によって異なる
  • バリュエーション費:企業価値を評価するために必要な手数料で、多くの会社では成功報酬に含まれている
  • デューデリジェンス費:買収対象企業の詳細な調査を行うための手数料で、成功報酬とは別に発生する

なお、基本的な合意書には法的な拘束力がないので、最終的な契約書が締結するまでM&Aの成約は確定しません。そのため、最終契約書が締結するまでの間に、取引が中止になる可能性があることを把握しておきましょう。

もしM&Aが途中で破談になった場合、それまでに支払った成功報酬以外の手数料は返金されないのが通常です。

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8. M&Aの手法を活用する企業が増える背景

日本の中小企業は、後継者がいなくて困っているところが多いです。後継者がいないと、企業がつぶれてしまうおそれがあります。そして、企業がなくなれば、働いている人たちが仕事を失ってしまいます。廃業を避けたい経営者たちが、他の企業と合併する「M&A」を選ぶようになってきました。

さらに、日本の経済が厳しい時期が続いている中、新しい市場を求めて外国の企業を買収する日本企業も増えています。これにより、日本の企業が外国での影響力を増しています。

また、特定の資金を集めて企業を買収する「ファンド」が増えてきています。前は、ファンドの活動を警戒する企業も多かったのですが、最近ではその考えが変わり、ファンドが市場での役割を増してきました。

ベンチャー企業、つまり新しい技術やアイディアを持つスタートアップの企業も、M&Aの対象となって増えています。資金を集めるのが難しいベンチャー企業は、大きな企業と合併することで、新しい事業を速く展開することができます。

9. M&Aの手法・方法を用いた成功事例

ここでは、最新のM&A事例の中から、各M&A手法が用いられた代表的な成功事例を紹介します。

株式譲渡の成功事例

2022年3月、ケイ・テクノスは、株式譲渡により西九州電建工業の全株式を取得し完全子会社化しました。取得価額は公表されていません。ケイ・テクノスは、エクシオグループの完全子会社で、通信インフラ事業、土木・舗装工事、電気・空調・環境施設工事などを行っています。

エクシオグループは、通信・土木・建築・電気設備・再生可能エネルギー事業やシステムソリューション事業などを行っている企業です。西九州電建工業は、情報通信事業、電気設備工事事業を行っています。

エクシオグループとしては、グループ各社と西九州電建工業の施工技術力の融合により、人財・ノウハウ・リソースの共有で高いシナジー効果を創出し、グループ全体の企業価値向上を図る考えです。

グループ会社のケイ・テクノスによる西九州電建工業の子会社化に関するお知らせ

株式交換の成功事例

2022年3月、ケーズホールディングスは、株式交換によりサワハタキャリーサービスの全株式を取得し完全子会社化しました。株式交換比率は、ケーズホールディングス:サワハタキャリーサービス=1:0.0009と発表されています。

ケーズホールディングスは、家庭電化製品・関連商品の販売・付帯工事・修理などを行っている企業です。サワハタキャリーサービスは、一般貨物自動車運送業、業務用機器・家電製品メンテナンス、電気工事業、産業廃棄物収集運搬業などを行っています。

ケーズホールディングスとサワハタキャリーサービスは、25年間に渡り業務委託・受託関係にありました。ケーズホールディングスとしては、今回の子会社化でグループ内の配送・工事事業に関し効率的で安定した体制を構築する目的です。

当社と株式会社サワハタキャリーサービスとの株式交換に関する基本合意書締結のお知らせ

第三者割当増資の成功事例

2022年3月、KOMPEITOは第三者割当増資を実施し、約13億円の資金調達をしました。KOMPEITOは、日本のオフィスを健康にする「OFFICE DE YASAI」の企画・運営、食に関するイベントの企画・運営などを行っています。

出資者は、ニッセイ・キャピタル、インキュべイトファンド、JICベンチャー・グロース・インベストメンツ、DDホールディングス ベンチャーキャピタル、中国銀行、京銀リース・キャピタル、とっとりキャピタル、NOBUNAGAキャピタルビレッジです。

各社個別の出資額は公表されていません。KOMPEITOにとって、コア事業であるOFFICE DE YASAIの地方拡大の加速化と進化、新規事業「SALAD STAND」の拡大に向けた資金調達となっています。

KOMPEITO、シリーズCで約13億円の資金調達を完了

事業譲渡の成功事例

2022年2月、エフ・コードは、事業譲渡によりコミクスのSaaS事業を譲受しました。譲渡価額は3億円です。エフ・コードは、CX向上SaaSの提供事業、DX戦略設計・実行支援事業、デジタルマーケティング支援事業などを行っています。

コミクスは、デジタルマーケティング支援事業、SaaS支援事業、DX支援事業、SaaS事業などを行っていますが、今回、譲渡した具体的な事業は、EFO CUBE事業、chroko事業、Butterfly事業、Growth Hack LTV事業です。

エフ・コードとしては、SaaS事業におけるサービス内容の拡充を実現し、顧客満足度向上を図る目的でM&Aを実施しました。

事業譲受に関するお知らせ

合併の成功事例

2022年3月、クスリのアオキは、ホーマス・キリンヤおよびフードパワーセンター・バリューと吸収合併を実施しました。クスリのアオキが存続会社、ホーマス・キリンヤとフードパワーセンター・バリューが消滅会社となります。

合併の対価は現金が交付されていますが、具体額は公表されていません。クスリのアオキは、クスリのアオキホールディングスの完全子会社で、医薬品・化粧品・日用雑貨などの近隣型小売(ドラッグストア)業、調剤業務(調剤薬局業)を行っています。

ホーマス・キリンヤは、岩手県と宮城県で食品スーパー6店舗、衣料品店2店舗を運営し、フードパワーセンター・バリューは、ホーマス・ キリンヤが運営する店舗向けに飲食料品・日用雑貨品の仕入業務を行っている企業です。

クスリのアオキホールディングスとしては、東北地方におけるドミナントの強化を図るとともに、食品スーパーの持つ新鮮な食材の品ぞろえをドラッグストアに組み合わせて顧客に訴求を図る狙いです。

株式会社ホーマス・キリンヤ及び株式会社フードパワーセンター・バリューの吸収合併に関するお知らせ

会社分割の成功事例

2022年1月、アサヒグループホールディングスは、会社分割(新設分割)により、新設した完全子会社であるアサヒグループジャパンに、グループ内の国内事業の事業管理などに関する事業を承継させました。アサヒグループジャパンは、対価として普通株式1株を交付しています。

アサヒグループホールディングスは、国内外で酒類事業、飲料事業、食品事業を行うグループの持株会社です。今後は、グループ全体の戦略策定と経営管理に特化するために、中間持株会社を設立して事業の一部を移管しました。

吸収分割に係る事後開示書面

資本業務提携の成功事例

2022年3月、東芝デジタルソリューションズとDATAFLUCTは、資本業務提携契約を締結しました。資本提携としては、DATAFLUCTが発行する新株を東芝デジタルソリューションズが取得しますが、株式数や出資額は公表されていません。

東芝グループの東芝デジタルソリューションズは、システムインテグレーションおよびIoT/AIを活用したICTソリューションの開発・製造・販売を行っている企業です。

DATAFLUCTは、マルチモーダルデータ活用サービス(AI・機械学習・ビッグデータ解析)の提供、企業のDX支援などを行っています。

業務提携の内容は、東芝デジタルソリューションズのAIとDATAFLUCTのデータ基盤を組み合わせ、新たなデータサービスを開発し、製薬業界をはじめ需要のある業界へ提供することです。

株式会社DATAFLUCTと資本業務提携契約を締結
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10. M&Aの手法(やり方)・方法まとめ

M&Aにおける最大の目的は、お互いの協力によってシナジー効果を最大限に引き出すことです。M&Aの手法はさまざまありますが、それぞれのメリット・デメリットを把握し、自社の行うM&Aには何が適切なのか選択しましょう。

M&Aのやり方には11のステップがあり、それぞれのステップで重要な点があります。それぞれのM&Aのやり方を理解しつつM&Aアドバイザーのアドバイスを聞いてリスク回避を行い、M&Aの成功率を上げましょう。

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