2024年06月21日更新
のれんの減損とは?償却との違いや株価への影響、税務を解説【事例あり】
貸借対照表にあるのれんとは無形固定資産であり、減損とは価値が低下した資産の帳簿価額を下げる会計処理のことです。一般にはあまりなじみのない、のれんの減損について、償却との違いや株価への影響、税務などを事例とともに解説します。
1. のれんの減損とは
近年では、経営戦略の一環として、M&Aが用いられることが多くなっています。M&A関連の話題が上がることも増えており、それに合わせて、のれんの減損という言葉を耳にする機会も増えました。
「のれんの減損」は、ニュアンス的にマイナス効果を含むものであることはわかりますが、具体的にはどのようなものを意味するのでしょうか。この項では、のれんや、のれんの減損の基本的な意味を解説します。
「のれん」とは
のれんとは、目に見えない資産価値のことを指します。M&Aで買収された企業の時価純資産評価額と実際の買収価額の差額がのれんとして計上されます。
時価純資産評価額と実際の買収価額に差異が生まれる理由は、企業にはブランドや技術力、人的資源などの目に見えない資産(=無形資産)があるからにほかなりません。
無形資産は、M&Aの際には上乗せされて評価がされます。従業員なども人的資源としてそのなかに含まれるため、事業活動を行っている会社であれば、無形資産を保有していることになります。
なお、時価純資産評価額より実際の買収価額が下回ることもあります。これは負ののれんとして知られ、買収される企業が致命的なリスクを抱えているなどの原因で、マイナス評価がされるために発生する現象です。
のれんの会計基準
ここでは、のれんの会計基準について説明します。日本の基準と国際会計基準(IFRS)の違いに注目して読み進めてください。
日本の会計基準では、のれんは資産として計上され、20年以内のその効果が及ぶ期間にわたり、定額法や他の合理的な方法で規則的に償却されます。ただし、のれんの金額が重要でない場合には、発生した年度の費用として処理することもできます。
また、のれんは無形固定資産として表示され、その償却費用は「販売費及び一般管理費」に計上されます。
これに対して、国際会計基準(IFRS)では、日本と異なり、のれんは償却されません。これは、のれんの価値を評価し、減少を見積もることが難しいためです。
しかし、取得した企業の業績が悪化した場合などには、のれんの価値が毀損したとみなされ、一括で減額する減損処理が行われます。巨額ののれんを抱えている企業は、その減損リスクが指摘されることがあります。
のれんの減損とは
のれんの減損とは、M&Aの際に計上したのれんの価値を正しく書き直すことです。のれんは実在する資産(=有形資産)ではないため、何かしらの原因で価値がなくなったり減少したりした場合は、正しい価値に修正しなくてはなりません。
のれんの減損が起きる端的な理由は、本来の価値より高い価額で買収したためと考えられます。高いシナジー効果を期待できる買収のため、高額資金を投じ過ぎて高値つかみとなってしまったケースです。
また、M&A後の引継ぎに失敗したことで、想定した事業利益を生み出せないパターンもあります。M&A後に行われる経営統合プロセス(PMI=Post Merger Integration)に失敗すると、シナジー効果を出せずに終わってしまうからです。
そのように、期待してきたのれんの価値が失われてしまったときに、のれんの減損処理を行って適正な価値へと修正します。
2. のれんの減損と償却との違い
のれんとして計上されている無形資産は、将来にわたって収益力を発揮し続けるわけではありません。のれんの価値は年数がたつごとに失われていくため、一定期間にわたって減価償却することで適正な価値を反映するように努める必要があります。
減損と償却はどちらも企業の資産価値を下げる処理ですが、損金計上の可否という点が大きな違いです。
3. のれんの減損による株価への影響
のれんの減損処理を行うと、企業の資産価値を大きく引き下げることになるため、株価や株主に対する影響が懸念されます。
過去ののれんの減損事例を見ると、株価に反映されるというわけではありませんが、十分に注意しておく必要があるのは明白です。
のれんの減損は株価に影響を与える
企業がのれんの減損処理を行うと、貸借対照表に記載されているのれんの価額が引き下げられ、特別損失に計上されます。
特別損失に計上された分だけ当期の純利益が目減りするので、株価への影響が危惧されます。
株価は、PER(株価収益率)という指標が目安に用いられています。「株価=純利益÷発行済株式数×PER」という式が使われており、純利益が下がるほど株価にも反映されます。
なお、PERはあくまでも目安であるため、株価が変動するとは限りません。実際に、パーソルホールディングスのオーストラリア子会社ののれん減損事例では、一時的に株価が急落したものの、数日後には元の水準にまで回復しています。
のれんの減損は株主にも影響を与える
のれんの減損による株主への影響とは、配当金の減少です。のれんの減損処理は、のれんの減損額と同じ分を資本から減らすことで対応するため、資本から切り崩して行われている株主への配当金も減少することを意味します。
のれんの減損が巨額になる場合は、該当期の配当金はゼロという対応を取るケースも珍しくありません。株価減少による資産価値の減少という影響も合わせて、株主への影響は大きいといえます。
4. のれんを減損した際の税務
のれんの減損は、会計上と税務上で扱いが異なります。会計上では費用として処理され損金に計上されますが、税務上では損金として認められないケースが多いです。
のれんの減損が認められた段階で、経費にできない特別損失の計上が確定するため、事業の採算が取れていない企業にとっては、頭を抱える問題であることはいうまでもありません。
過去の減損事例のなかには、のれんの減損処理をきっかけに巨額な特別損失を計上し、経営状態が一転した企業も数多く見受けられます。
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5. のれんの減損事例
のれんの減損処理が行われたM&Aは、結果的に失敗したことを意味します。この項では、のれんの減損処理が行われた事例について、以下の4件をピックアップしました。
【のれんの減損事例】
- ベネッセホールディングスの減損処理
- LIXILグループの減損処理
- キリンホールディングスの減損処理
- NTTの減損処理
①ベネッセホールディングスの減損処理
2020(令和2)年5月、ベネッセホールディングスは、2020年3月期の決算において、のれんなどの減損損失を計上すると発表しました。のれん減損の対象となった連結子会社は2社です。
1社目はBerlitz Corporationで15億8,500万円、もう1社はベネッセビースタジオで15億6,000万円の減損額となっています。どちらも理由としては、新型コロナウイルス感染症拡大による外部環境の悪化により、当初想定した収益が見込めなくなったためということです。
そして、この減損処理と合わせて両社の株式評価額も下落したとして、Berlitz Corporation213億4,900万円、ベネッセビースタジオ20億300万円の株式評価損を特別損失として計上する事態となっています。
②LIXILグループの減損処理
2014(平成26)年、LIXILグループはドイツ水栓金具大手「グローエグループ」を約4,100億円で買収しました。1月に87.5%、12月に12.5%の株式を取得して完全子会社化しています。
巨額を投じたM&Aでその後の発展が期待されてました。しかし、2015(平成27)年4月にグローエグループの中国の子会社ジョウユウでの不正会計の発覚により事態は急変しました。
グローエグループは2009(平成21)年からジョウユウに出資していましたが、主要な財務情報にアクセスできていないことをLIXILに報告していなかったのです。
調査が行われると、ジョウユウは深刻な債務超過に陥っており、関係会社投資の減損損失や債務保証関連損として総額608億円の特別損失を計上しました。
③キリンホールディングスの減損処理
2011(平成23)年、キリンホールディングスはブラジルのビール会社「スキンカリオール」を買収しました。8月に50.45%の株式を取得し、続いて11月に残りの株式を取得して完全子会社化しています。
ビール市場で中国・米国に次ぐ第3位であるブラジルへの本格進出を目的として、買収費用に約3,000億円を投じた一大事業でした。
当時のスキンカリオール(買収後、ブラジルキリンと改名)は、ブラジル国内シェア2位の大手ビール事業者です。ブラジル進出の足掛かりとして期待されましたが、ブラジル国内の景気減速や競合他社との競争激化により業績は低迷します。
キリンホールディングスが描いた成長とは反する結果となり、2015年12月期に約1,100億円の減損損失を計上して、上場以来初の最終赤字となりました。
なお、その後の2017(平成29)年4月、キリンホールディングスは、ブラジルキリンをオランダのハイネケンに770億円で売却しています。
④NTTの減損処理
2010(平成22)年10月、NTTは南アフリカのIT会社「ディメンションデータ」を約2,860億円で買収しました。
ディメンションデータは、ネットワーク機器やサーバーなどの構築・運用を中核事業としているIT大手会社です。アジア・欧米・アフリカなどで事業展開しており、6,000社を超える法人顧客を保有していました。
買収の決め手は、NTTの事業領域と補完関係にあることとしていましたが、不採算事業の改善などの課題も多かったため、2016(平成28)年12月期において488億円の減損損失を計上しています。
6. のれんの減損まとめ
のれんは将来的な収益価値を見込んで計上されるものですが、判断を誤ると減損処理による特別損失で経営状態が悪化することもあります。
のれんの減損を避けるためには、M&Aの段階で売却企業の価値を正しく見極めることが重要です。計画性が求められますから、専門家のサポートを受けながらM&Aを進めることをおすすめします。
【のれんの減損】
- のれんとは目に見えない資産価値のこと
- のれんの減損とはのれんの価値を正しく書き直すこと
【のれんの減損による株価・株主への影響】
- 当期純利益減少による株価低下リスクがある
- 資本金減少による配当金減少
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