2024年01月27日更新
ショートリストとロングリストの違いは?用語の意味、M&Aにおける役割と作り方を解説
M&Aで売買相手を選定する際、「ショートリスト」と「ロングリスト」という候補のリストを作成します。この記事では、ショートリストについてM&Aにおける役割や作り方、ロングリストと何が違うのかなどを解説するので参考にしてください。
1. ショートリストとは?
M&Aは、多数の買い手・売り手候補から最適な相手をマッチングする作業なので、いかに企業を選定していくかも成功のポイントとなります。M&Aで最適な相手を選ぶプロセスとして用いられるのが、「ショートリスト」の書面を作成することです。
ショートリストの作成は、仲介会社に任せきりにできない部分もあるので、M&Aを行う経営者側もその内容や作成のポイントを理解しましょう。この章では、ショートリストの意味や用いられる場面について、基礎的な内容を解説します。
ショートリストの意味
ショートリストとは、M&Aを行いたい相手企業の候補リストのことです。ロングリストで、M&Aを検討する企業に対し相手となる候補先企業をリストアップしますが、ここから一定の条件で候補先を絞ったものがショートリストになります。
M&Aは今まで取引関係や面識のなかった企業と行うことが多いので、どの企業とM&Aを行うかの選択が非常に重要です。
思い付きで手当たり次第に交渉を持ちかけても成功するわけはなく、自社がM&Aをしている情報をむやみに拡散してしまうことにもなるでしょう。
こういった失敗を避けるためにも、本格的な交渉に入る前にしっかりとショートリストを作成し、成約の見込みのある厳選した企業に交渉を持ちかけることが大切です。
ショートリストを用いられる場面
ショートリストはM&Aで交渉相手を選ぶときに使われる手法ですが、数多くの対象から有力な候補を選ぶショートリストの考え方は、M&A以外の場面でも活用できます。
たとえば、事業において取引先をどこにするか選びたいときなどに、ショートリストを活用できるでしょう。取引先の選定もM&A相手の選定も、数ある企業から最もよい企業を選ぶことは同じなので、ショートリストの手法はどちらでも有効です。
他には、地方自治体が民間企業を活用して事業を行いたいときに、民間企業の選定にショートリストを利用する例がみられます。人材採用会社が求人を募集する企業に合う人材を選び出す際に、ショートリストを作成するケースもあります。
2. ショートリストとロングリストの違い
ロングリストはM&Aの相手となりうる候補を網羅的にピックアップしたもので、ショートリストはロングリストから特に有力な相手企業を絞り込んだものです。
実際は、まずロングリストを作成し、そこからショートリストを作成する流れになります。ロングリストはショートリストに入れる企業の候補をできるだけ多く拾い上げるので、数十社から多いときは100社くらいのリストになることもあるでしょう。
ロングリストの段階では各企業の細かい調査はせず、業種や事業内容、事業規模といった表面上の情報から、少しでもM&Aの相手として可能性がありそうな企業をスクリーニングしていきます。
ショートリストではロングリストで選んだ企業からさらに条件を絞り込み、実際にトップ面談を持ちかける5社から10社くらいを選び出します。
ロングリストはM&Aの相手として全く適当でない企業を排除する意味合いが強いですが、ショートリストはM&Aの相手として適切な相手を絞り込む目的の作業です。
3. ショートリストの役割
ショートリストの作成は、その後におけるM&Aの成功を大きく左右するといえます。M&Aが成功するかどうかはどの相手企業とM&Aを行うかにかかっているので、相手企業選定のためのショートリストが重要なのは当然でしょう。
質の高いショートリストを作成するためには、ショートリストの役割をしっかり理解し、ショートリストのメリットを引き出すことを意識して作成することがポイントです。この章では、ショートリストの主な役割を詳しく解説します。
【ショートリストの役割】
- 売り込み先の選択と集中
- 理想の後継者・譲受先を具体化
- 相手先に対する戦略の整理
売り込み先の選択と集中
M&A仲介会社は、M&Aを検討中の売り手・買い手企業の膨大なリストやネットワークを持っています。M&Aを手掛ける金融機関の場合、融資先などがM&A相手の候補となることもあるでしょう。
M&Aを行うためには、この膨大なM&A相手となり得る企業のなかから、自社におけるM&Aの目的と合致する企業を選び出さなければなりません。
ショートリストの作成は、膨大な売り込み先の候補から適切な企業を選択・集中するために必要となる作業です。
いいかげんな方法で選択と集中を行うと、有力な候補となる企業を漏らしてしまったり、M&Aができる見込みのない企業がリストに大量に混ざったりして、選定作業の質が落ちます。
自社にとって魅力のある相手先候補を選定するためにも、しっかりとした方法論にもとづいたショートリストを作成することが大切です。
理想の後継者・譲受先を具体化
M&Aの理想の後継者・譲受先を具体化するためには、ショートリストの作成をとおして具体的な企業をイメージしなければなりません。M&Aを行おうと決断する初期の段階では、事業承継でよい会社に後継者になってほしい、シナジー効果を得て自社の事業を拡大したいなど、M&Aに対する漠然とした成功イメージを抱いています。
この時点ではまだイメージが抽象的なため、ここから本格的なM&Aを進めるにつれて、イメージと現実とのギャップに直面することもあるでしょう。ショートリストの作成は、具体的な企業の詳細を調べて比較検討する作業なので、M&Aに対する漠然とした成功イメージを具体化するのに役立ちます。
たとえば、自社の製品開発力と候補先企業の販売ルートやブランド力を融合すれば、製品が今まで以上に売れるだろうといった、M&A後の具体的なプランを考えられるでしょう。
逆に、良いと思っていた会社が調べてみると意外に理想と違う、自社とM&Aをしてもうまく協働できないだろう、とわかることもあります。こうした選定作業を繰り返していくことで、あいまいな状態だったM&Aのプランが具体的な目標として固まります。
相手先に対する戦略の整理
M&Aを成功させるには、自社が魅力的な経営資源を持っていることはもちろん重要ですが、その経営資源を求めている買い手を的確に選び出し、買い手の食指を動かすアピールを行えるかも大切です。
いくら自社が優れた経営資源を持っていても、それを求めていない買い手は自社を買収したいとは考えません。経営資源を欲しがっている買い手に対しても、アピールのピントがずれていると効果的な売り込みにはなりません。
例えば、人材を欲しがっている買い手がいても、優秀な人材を求めている場合もあれば、単に人材の数を増やしたいと思っている買い手もいます。一人や二人でも優秀な人材を求めている買い手に対し、人材の数をアピールするのはピントがずれています。
M&Aを成功させるためには、買い手のニーズを的確に把握し、自社ならそのニーズを満たせるといった形でアピールする戦略が必要です。
本格的な交渉に入る前にショートリストをしっかりと練り込むと、相手先に対する戦略を整理し、実際の交渉に向けた効果的なアピール方法を考えられます。
4. ショートリストの作り方
ショートリストはM&Aの交渉相手を決める重要な作業なので、正しい手順で質の高いショートリストを作成しなければなりません。ショートリストに決まった作り方はありませんが、一例として以下の手順で作成すると良いリストが作りやすいでしょう。
初めてショートリストを作成する場合は、まずこの手順に従って作成するとよいです。この章では、ショートリストの作り方における各手順を詳しく解説します。
【ショートリストの作り方】
- 自社の強みと弱みを分析する
- 自社の買収ニーズを考える
- ニーズ別にロングリストの候補を分類する
- 希望・理想の買い手増に合わせて優先度を決める
- 買収ニーズを比較して優先順位を決める
自社の強みと弱みを分析する
ショートリストを具体的に作成していく前の作業として、自社の強みと弱みをあらためて分析しておくことが重要です。ショートリストは買い手候補を決めるためのリストなので、自社が買い手に対してどのような魅力があるか明らかにすることで、効果的に売り込みできる買い手候補を選別しやすくなります。
経営者であれば自社の強みと弱みはわかっているはずですが、役員や仲介会社のアドバイザーなども交えてあらためて分析しなおすことで、経営者自身が自覚していなかった強みが見つかることもあるでしょう。
強みだけでなく、弱みを分析しておくことも非常に重要です。弱みの分析は自社がアピールできない部分を明確にするだけでなく、アピールするべき買い手候補を明確にする役割も果たすことがあります。
たとえば、自社の弱みを補完できる経営資源を持っている買い手候補にとっては、弱みの存在がむしろ競争相手が減る要素として好意的に映ったり、弱みの補完によって高いシナジーを得られる期待感となったりすることも考えられるでしょう。
自社の買収ニーズを考える
ショートリスト作成のためには、自社がどのような買収ニーズに対応できるか明確にすることが重要です。ショートリストの段階ではまだ具体的な交渉などは行っていないため、はっきりとした買収ニーズを思い描くのが難しい面もあるでしょう。
ショートリストの段階でできるだけ具体的に買収ニーズを把握する方法としては、こちら側の好みにこだわらず客観的に考えること、一定の買収ニーズにおけるパターンに当てはめて考えることなどが有効です。
【買収ニーズを考える際のポイント】
- 好みではなく客観的に考える
- 4つの買収ニーズパターンから考える
好みではなく客観的に考える
M&Aは自社が何らかのメリットを得るために行うものなので、最終的な交渉相手を選ぶ段階では、こちら側の好みを重視する必要があります。しかし、ショートリストはまだ候補を選定する段階なので、自社の好みではない候補も、買収ニーズがあるなら網羅的にリストに入れるほうがよいでしょう。
この作業をとおして客観的に自社の買収ニーズを把握することで、適切なM&A戦略を考えやすくなったり、当初は想定していなかった買収ニーズに気づくきっかけになったりすることもあります。
たとえば、代々続く家業を事業承継で存続させたい売り手は、その地域で多くの固定客を持っていることが多いでしょう。そういった売り手は新規エリアへ出店を目指す同業の大手チェーンにとって、魅力的な案件に映るかもしれません。
家業を存続させる目的の売り手は大手チェーンに入ることは望まないでしょうが、ショートリストの作成段階では、こういったニーズも念のためにピックアップしましょう。
4つの買収ニーズパターンから考える
買収ニーズといっても、初めてM&Aを行う方にとっては、そもそもどのような買収ニーズがあるのかピンとこないことが多いです。M&Aの買収ニーズはある程度決まったパターンがあるので、基本パターンをまず押さえて分析すると考えやすくなります。
M&Aで買い手が獲得したいと考える主なニーズは以下の4つです。初めてショートリストを作成する際は、まずこの4つに当てはまる強みが自社に存在するか検討しましょう。
経営の安定化は、既存事業を買収することによる事業拡大と、別な事業を買収することによるリスク分散があります。経営資源の獲得とシナジー効果ははっきり分類できないこともありますが、その場合は両方の可能性を考慮するなどして、必ずしも一つのパターンに当てはめる必要はありません。
【買収ニーズの4つの基本パターン】
- 経営資源の獲得
- シナジー効果の獲得
- 経営の安定化(事業拡大またはリスク分散)
- 成長企業への投資
ニーズ別にロングリストの候補を分類する
買い手候補の視点で自社がどの買収ニーズを満たすか分析できたら、そのニーズ別にロングリストの候補を分類します。
ニーズの分類は前節の4つの基本パターンをそのまま用いてもよいですが、自社におけるM&Aの目的や業種などに適した項目を設定できるほうがよりよいです。適した項目が思いつかない場合は、M&A仲介会社などと相談しながら進めましょう。
買い手候補ごとにどのニーズがあるかを分析していくと、複数のニーズが当てはまる買い手もいれば、一つも当てはまらない買い手もでてきます。一つも当てはまらない買い手候補は、ショートリストから除外の対象です。
候補を分類していくことで、単に候補を選定するだけでなく、より有力な買い手候補と、有力とはいえないが一応ショートリストに入れておきたい程度の買い手候補が明確になります。分類の結果、満足いく買い手候補が一つもなかった場合は、ロングリストの選定が適切でなかった可能性があります。
仲介会社にロングリストを持ってきてもらった場合は、良い候補が見つからなかったことを正直に告げ、ロングリストの再提出を求めましょう。その際は、M&Aの目的をより詳しく説明したうえで、目的に合致するロングリストが作成できるよう意思疎通することが大切です。
希望・理想の買い手像に合わせて優先度を決める
ニーズ別にロングリストの候補を分類できたら、それをさらにランク分けして、より理想に近い候補はどれかを考えて優先度を決めます。ショートリスト作成の段階ではまだ買い手との面談などもしていないので、はっきりとした買い手像を思い描くことは難しいものです。
ある程度抽象的な想像になるのはやむを得ないですが、できるだけ具体化できるように心がけていくことが、質の高いショートリストの作成につながります。理想の買い手像をイメージし、できるだけ具体的に優先度を決めるためには、下記に示した3つのポイントを押さえましょう。
【優先度を決めるときのポイント】
- 自社のM&Aの目的を整理する
- どのような買い手が目的に合うかを考える
- シナジー効果がどの程度得られるかを考える
自社のM&Aの目的を整理する
買い手像をはっきりさせて優先度を決めていくためには、まず自社におけるM&Aの目的を整理しておくことが大切です。優先度の設定は自社におけるM&Aの目的次第なので、ここがあいまいだと質の高いショートリストを作成できません。
M&Aの目的は、売却益の獲得など比較的はっきりしていることもあれば、シナジー効果の獲得といったやや抽象的なものもあります。複合的な理由でM&Aを検討していて、目的を一つには絞れないこともあるでしょう。
目的を一つに絞れない場合でも、各目的に順位をつけられるならつけておきます。つけられない場合は無理に順位付けする必要はありません。
重要なのは、M&Aの成約はあくまで手段であり、成約によって目的が達成されなければ意味がないことを意識することです。
M&Aは交渉が長引いて精神的に疲弊してくると、成約すること自体が目的化してしまうこともあります。長いM&A手続きをしっかりとした軸を持って臨むためにも、ショートリストの段階で目的をしっかり整理することが大切です。
どのような買い手が目的に合うかを考える
M&Aの目的がはっきりしたら、ロングリストの買い手候補のうち、どの買い手が最も目的に合いそうか考えています。交渉していない段階で資料だけから想像していくのは難しいこともありますが、相手企業の立場になり、自社を獲得したらどのような経営をしていきたいかなどをイメージして考えましょう。
シナジー効果がどの程度得られるかを考える
シナジー効果がどの程度得られそうかといった点は、買い手候補における選定の重要なポイントです。
M&A後にシナジー効果が得られるかどうかは行ってみないとわからない部分もありますが、ショートリストの段階でシナジー効果のイメージができない相手企業では、現実にシナジーを得られる見込みはないといえます。
シナジー効果はやや抽象的でイメージしにくい部分がありますが、シナジー効果には一定のパターンがあるので、それをもとに考えるのがおすすめです。
まず、サプライチェーンの川上と川下における企業同士のM&Aは、シナジー効果を得やすい傾向があります。たとえば、メーカーと物流企業がM&Aを行えば、一貫したサプライチェーンを自社グループ内で築けるでしょう。
同業種におけるM&Aの場合は、規模の経済による効率化が典型的なシナジー効果の例になります。両社が生産システムを共有することで、どれくらいコスト削減や効率化が見込めそうか試算してみるとよいでしょう。
買収ニーズを比較して優先順位を決める
前節の手順で買収ニーズごとの優先順位を決め、優先度の高いニーズを満たす買い手からショートリストに入れていきます。順位をはっきり決めるのが難しい場合は、必ずしも順位付けをする必要はありません。優先するべきかするべきでないかといった、ある程度あいまいな順位付けでもかまいません。
重要なのは、数十社から100社くらいあるロングリストの買い手候補から、5社から10社くらいを選定することです。この段階で買い手候補を絞り切れない場合は、一度前の段階に戻り、自社がなぜM&Aを行いたいかという根本の部分を問い直します。
どうしてもM&Aの目的を明確化できない場合は、これまでの自社における経営を振り返ったり、その内容を文章に書き出してみたりするなどの方法が有効なケースもあります。それでも明確化できないなら、そもそもM&Aをするべきなのかといった原点に一度立ち返る必要があるでしょう。
接触を避けるべき相手がいないかをチェックする
ショートリストの作成で一つ注意しておきたいのが、自社がM&Aを検討していることを知られたくない企業が買い手候補に入らないようにすることです。
M&Aは、原則として秘密裡に進めます。M&Aを検討していることが取引先や同業者、融資を受けている金融機関などに知れると、取引や融資を制限される危険性があるからです。
同業者同士におけるM&Aの場合は、この点を特に注意しましょう。仮に同業者同士でトップ面談をして結局破談となった場合、ライバル企業に自社の情報を漏らしてしまっただけといった事態にもなりかねません。
M&A仲介会社は、個々の案件の業種・業界事情などに精通していないこともあるので、接触してはいけない相手かどうかの判断が難しいこともあります。この点は、仲介会社任せにせず経営者側がしっかり判断し、仲介会社と意思疎通しておくことが重要です。
5. M&Aのショートリスト・ロングリストに関する相談先
ショートリストの作成は、M&Aを行う経営者と仲介会社の意思疎通のもと、協力して行うことが大切です。M&Aを行う際は、ショートリストの作成に精通した仲介会社のサポートを得ましょう。
M&Aのショートリスト・ロングリストに関する相談先をお探しの際は、ぜひM&A総合研究所にお任せください。
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6. ショートリストとロングリストの違いまとめ
ショートリストは初めてM&Aを行う経営者にとってなじみが薄いですが、M&A成功のためのキーポイントにおける1つになります。ショートリストの役割や作成方法を理解し、仲介会社任せではなく積極的に働きかけて、質の高いリストを作成しましょう。
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