2023年09月21日更新
事業再生ADR?制度と手続きについて解説!成功例と失敗例も紹介
事業再生ADRは「準則型私的整理」と呼ばれる再生手法であり、私的再生と法的再生の中間のような位置づけになります。本記事では事業再生ADRについて、その制度や手続きを解説するとともに、実際に行われた成功例と失敗例も紹介します。
目次
1. 事業再生ADR
会社の資金繰りが立ち行かなくなった時は、金融機関と話し合って私的再生で解決するか、民事再生・会社更生などの法的再生を利用することになります。
しかし、会社の事業再生手続きはこれらだけではなく、「事業再生ADR」という方法もあります。
聞きなれない言葉かもしれませんが、アイフルやエドウィンなどの有名企業が利用した方法です。まずこの章では、事業再生ADRについての基礎知識を解説していきます。
ADRとは
ADRとは「裁判外紛争解決手続(Alternative Dispute Resolution)」の略で、裁判をせずにさまざまな紛争を解決する手続きのことです。
ただし、当事者同士だけで話し合うのではなく、第三者機関が間に入り、一定のルールのもとで手続きを進めていきます。あっせんや調停、仲裁などはADRの一種です。
当事者同士の話し合いではどうしても解決できず、裁判をするお金や時間がない場合は、ADRによる解決が有力な手段になります。
事業再生ADRとは
事業再生ADRとは、ADRを利用した会社の事業再生のことです。事業再生というと私的再生か法的再生が一般的ですが、事業再生ADRはその中間的な位置づけになります。
私的再生と法的再生は有力な手段ですが、私的再生は債権者同士で損失の押し付け合いになることがあり、法的再生は事業再生の事実が公表されてしまうのも難点です。
事業再生ADRは、私的再生と法的再生の欠点を補った解決手段だといえます。事業再生の事実を公表せず、第三者仲介のもと一定のルールに従って事業再生することができます。
事業再生ADRの現状
事業再生ADRの利用件数は非常に少なく、ほぼ毎年10件以下で推移しています。しかし、2016年から1019年にかけてはやや増加傾向にあります。下の表は2015年からのデータですが、2014年以前もおおむね10件前後となっています。
事業再生ADRは、コスト面などの問題で大企業でないと利用しにくいことや、知名度が低いなどの理由で、事業再生の主要な手段となるには至っていません。
【事業再生ADRの利用件数】
年 | 件数 |
2015 | 3 |
2016 | 2 |
2017 | 5 |
2018 | 8 |
2019 | 9 |
2. 事業再生ADRの特徴
事業再生ADRは、おおまかにいうと私的再生と法的再生の中間のような手続きですが、知名度はあまり高くありません。事業再生ADRを利用するには、その特徴を理解しておくことが重要です。
事業再生ADRの特徴としては、主に以下の5点が挙げられます。この章ではこれらの特徴について解説していきます。
【事業再生ADRの特徴】
- 債権者による債権の無税償却ができる
- 商取引を円滑に継続できる
- 事業資金を調達できる
- 法的再生レベル以上の再生ができる
- 法的再生手続に移行することもできる
1.債権者による債権の無税償却ができる
一般の私的再生では、金融機関などの債権者に対して債務を免除してもらった場合、債権者がその損失を損金にできるかどうかは分かりません。税務署に個別に審査してもらい、損金にするか判断することになります。
一方、事業再生ADRでは、債権者が放棄した債権は損金算入できるため、課税の対象から除くことができます。金融機関にとっては税務の面で私的再生より有利なので、再建計画やつなぎ融資の承認もしやすくなります。
2.商取引を円滑に継続できる
事業再生ADRは私的再生と同様、主な債権者とは交渉を進めながら、そのほかの商取引は通常どおり進めていくことが可能です。
法的再生のような返済の停止は行われないため、返済をしながら手続きを進められるのが特徴です。
3.事業資金を調達できる
事業再生ADRでは、手続き申請後に借り入れたつなぎ融資に対して、優先弁済の権利が認められます。
このため、金融機関からみれば事業再生ADRは融資を行いやすく、事業資金を調達しやすい特徴があります。
しかし、全額保証されないなどの理由により、実際はつなぎ融資に応じる金融機関は少ないといわれています。
4.法的再生レベル以上の再生ができる
事業再生ADRは私的再生に準じる手続きでありながら、第三者機関の監督のもとでルールに則った事業再生を行うことができます。
私的再生と法的再生両方が持つメリットをうまく活用できれば、法的再生レベル以上の再生ができる可能性もあります。
5.法的再生手続に移行することもできる
事業再生ADRが失敗した場合でも、法的再生に移行して事業再生を続行することができます。
通常の法的再生に比べて、手続きの簡易化や商取引債権の保護などの優遇が受けられるのも特徴です。
3. 事業再生ADR制度の対象者
事業再生実務家協会によると、事業再生ADR制度の対象者となるのは、以下の条件を満たす法人です。
この条件を満たさない法人は、事業再生ADRを行うことができません。また、個人事業主は事業再生ADRの対象とはなりません。
【事業再生ADR制度の対象者】
- 自力での事業再生が難しい
- 支援を受ければ事業再生できる見込みがある
- 法的再生を行うと著しい支障が生じる
- 破産手続きより回収額が増える見込みがある
- 適切な事業再生計画を立てる見込みがある
4. 事業再生ADRの手続き・申請
事業再生ADRの手続き・申請は、以下のようなプロセスで進んでいきます。
【事業再生ADRの手続き・申請】
- 事業再生実務家協会に申請する
- 事業再生計画を作成する
- 債権者会議による協議・決議
- 全債権者による事業再生計画の同意
1.事業再生実務家協会に申請する
事業再生ADRを行うためには、まず認証を受けた事業再生ADR事業者である事業再生実務家協会に申請する必要があります。申請は協会指定の申請書に記入し、必要な添付書類とともに提出します。
2.事業再生計画を作成する
申請が受理されたら、債権者から同意を得られるような事業再生計画案を作成します。事業再生計画案は、債権者に公開する前に事前審査が行われ、通過した場合のみ手続きを進めます。
審査のポイントは、破産手続きよりも多く弁済できる計画であることで、債権者にとって法的再生より有利であることが重要になります。
3.債権者会議による協議・決議
事業再生計画の審査が通ったら、債権支払いの一時停止手続きを行った後、対象となる債権者を集めて債権者会議を開きます。債権者会議は3回行われ、1回目が概要説明、2回目が協議、3回目が決議となります。
債権支払いの停止通知を発送してから、2週間以内に1回目の会議を行う必要があるのが注意点です。
4.全債権者による事業再生計画の同意
3回目の債権者会議で、出席した全債権者から事業再生計画の同意が得られれば、事業再生ADRが成立し再生計画が実行されます。
もし1人でも反対が出れば事業再生ADRは不成立となり、法的再生手続きに移行することになります。
5. 事業再生ADRのメリット・デメリット
事業再生ADRはやや特殊な手続きなので、そのメリットとデメリットを理解して使う必要があります。この章では、事業再生ADRのメリット・デメリットについて、主なポイントを解説していきます。
事業再生ADRのメリット
事業再生ADRの主なメリットは以下の3つです。
【事業再生ADRのメリット】
- 事業再生ADRをしている事実が公表されない
- 第三者機関の関与による信頼性
- 法的再生に移行しやすい
①事業再生ADRをしている事実が公表されない
法的再生は法律に則った手続きができるのがメリットですが、手続きをしている事実が公表されてしまうので、会社が倒産するというマイナスイメージがついてしまいます。
一方で、事業再生ADRは手続きを行っている事実が公表されないので、周りに対するマイナスイメージや風評被害を避けることができます。
②第三者機関の関与による信頼性
私的再生はあくまで当事者同士の話し合いになるので、思うように交渉が進まなかったり、債権者同士で言い争いが起こることもあります。
一方で、事業再生ADRは第三者機関が間に入って手続きを進めていくので、私的再生で起こりがちなトラブルを回避することができます。
③法的再生に移行しやすい
事業再生ADRは、債権者の同意が得られなければ法的再生に移行してしまうので、この点がネックになり申請をためらうことがあると考えられます。
しかし、事業再生ADRは法的再生に移行しやすいさまざまな措置がとられており、単に法的再生を選ぶよりもスムーズに手続きができるように配慮されています。
事業再生ADRのデメリット
事業再生ADRの主なデメリットとしては、以下の3点が挙げられます。
【事業再生ADRのデメリット】
- 1人でも反対されると実行できない
- コストがかかる
- 私的再生に比べると柔軟性がない
①1人でも反対されると実行できない
事業再生ADRは、申請したからといって実行できるわけではないのが注意点です。債権者が納得できる事業再生計画案を作成し、債権者全員の同意を得なければなりません。
もし1人でも反対者がでれば、たとえほかの全員が同意したとしても事業再生ADRを実行することはできません。同意が得られなかった場合は、法的再生手続きに移行することになります。
②コストがかかる
事業再生ADRは、事業再生実務家協会の仲介により手続きを進めていく必要がありますが、協会に支払う手数料は少なくても約1000万円、大規模な案件だと1億円近くかかるケースもあり、コストがかかるのがデメリットです。
経営の苦しい中小企業がこれだけの手数料を支払うのは難しいので、事業再生ADRは事実上大企業専用の制度となっているのが現状です。
③私的再生に比べると柔軟性がない
事業再生ADRは法的再生に比べると柔軟性が高いですが、それでも第三者機関が仲介する分だけ私的再生に比べると柔軟性に劣ります。
事業再生ADRのように、一定のルールに則って進められる私的再生のことを「準則型私的整理」といいます。
事業再生ADRは私的再生のメリットを取り入れていますが、全く同じメリットが得られるわけではないのは注意点です。
6. 事業再生ADRの成功例と失敗例
この章では実際に行われた事業再生ADR事例から、3つを紹介します。
【事業再生ADRの成功例と失敗例】
- 曙ブレーキ工業の事業再生ADR事例
- 田淵電機の事業再生ADR事例
- 大和システムの事業再生ADR事例
曙ブレーキ工業の事業再生ADR成功事例
1つ目の事例は、曙ブレーキ工業株式会社が行った事業再生ADRです。自動車部品メーカーの曙ブレーキ工業は、2019年に事業再生ADRを申請し、約560億円の債務免除が認められました。
日本・アメリカ・フランスなどの工場を閉鎖して事業規模を縮小し、さらに事業再生ファンドから200億円の融資を受けて事業再生を進めています。
田淵電機の事業再生ADR成功事例
大阪の電気機器メーカーである田淵電機は、2018年に事業再生ADRの申請を行い受理されました。これにより約49億円の債務免除を受け、それ以外の借入金約40億円の返済猶予が認められました。
この事例では、同じ大阪を拠点とし以前から取引関係があった、ダイヤモンド電機がスポンサーについたことが成功の要因だと考えられます。
田淵電機は現在、ダイヤモンドエレクトリックホールディングスの子会社として、経営再建を進めています。
大和システムの事業再生ADR失敗事例
不動産事業などを手がける大和システム株式会社は、2010年に事業再生ADRを申請しました。申請は受理されて事業再生計画が実行されましたが、途中でスポンサーからの支援が中止されたため法的再生に切り替えました。
民事再生法の適用により大和システムは上場廃止、倒産となりましたが、2017年に同名の会社を再度設立して再出発しています。
7. M&Aによる事業再生を目指す方におすすめの仲介会社
事業再生ADRは私的再生と法的再生の欠点を補う有力な手法ですが、コストがかかるので大企業しか利用できないのが欠点です。中小企業が事業再生する場合は、ほかの手法を考える必要があります。
中小企業の事業再生手段として、M&Aを利用するのも有力です。債務超過の会社は売り手として不利ではありますが、買い手をみつけることは十分可能です。
M&A総合研究所は、売上規模一億円から数十億円の中堅・中小企業M&Aを手がける仲介会社です。事業再生ADRを実施できない小規模な会社様の、M&Aによる事業再生を全力でサポートいたします。
当社は完全成功報酬制(※譲渡企業のみ)となっております。無料相談はお電話・Webより随時お受けしておりますので、M&Aをご検討の際はお気軽にご連絡ください。
8. まとめ
事業再生ADRは大企業向けではありますが、私的再生と法的再生両方のメリットがある有力な事業再生手段です。
今のところ実施件数は少ないですが、制度が整備されて知名度が上がれば今後件数が増える可能性もあります。
【事業再生ADRの利用件数】
年 | 件数 |
2015 | 3 |
2016 | 2 |
2017 | 5 |
2018 | 8 |
2019 | 9 |
【事業再生ADRの特徴】
- 債権者による債権の無税償却ができる
- 商取引を円滑に継続できる
- 事業資金を調達できる
- 法的再生レベル以上の再生ができる
- 法的再生手続に移行することもできる
【事業再生ADR制度の対象者】
- 自力での事業再生が難しい
- 支援を受ければ事業再生できる見込みがある
- 法的再生を行うと著しい支障が生じる
- 破産手続きより回収額が増える見込みがある
- 適切な事業再生計画を立てる見込みがある
【事業再生ADRの手続き・申請】
- 事業再生実務家協会に申請する
- 事業再生計画を作成する
- 債権者会議による協議・決議
- 全債権者による事業再生計画の同意
【事業再生ADRのメリット】
- 事業再生ADRをしている事実が公表されない
- 第三者機関の関与による信頼性
- 法的再生に移行しやすい
【事業再生ADRのデメリット】
- 1人でも反対されると実行できない
- コストがかかる
- 私的再生に比べると柔軟性がない
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