2023年12月13日更新
事業承継における弁護士の役割と業務!【費用相場あり】
事業承継を成功させるためには、さまざまな専門家のサポートが必要となりますが、そのなかで法的な面からサポートを行うのが弁護士です。本記事では、事業承継における弁護士の役割と業務、費用相場、弁護士に事業承継を依頼するメリットなどを紹介します。
1. 事業承継における弁護士の役割と業務!
事業承継の際は、さまざまな専門家からのサポートが必要になる場面も多くあります。弁護士も事業承継の際は、重要な役割を果たしています。
本記事では、事業承継における弁護士の役割と業務、弁護士費用の相場、弁護士に依頼するメリットと注意点を紹介しますが、まずは事業承継の種類と弁護士の役割・業務について解説します。
事業承継とは
事業承継とは、事業を継続・発展させる目的で後継者へ事業を引き継ぐことを指します。事業承継は、事業の引き継ぎ相手によって、メリット・デメリット、進め方や注意点が変わるため、弁護士に求められる役割や業務も変わります。
事業承継は引き継ぎ先によって、親族内事業承継・親族外事業承継・M&Aによる事業承継に分けることができます。本節では、各承継方法の特徴と弁護士の役割・業務について解説します。
親族内事業承継
親族内事業承継とは、経営者の子どもなど親族を後継者として事業を引き継ぐことを指します。親族内事業承継における弁護士の役割には、経営者親族との相続・贈与トラブル対応や、経営者親族以外の株主とのトラブル対応などがあります。
親族内事業承継の際は、相続による経営権の分散リスクが発生することがあります。経営権が分散すると後継者による円滑な経営に支障がでる可能性があるので、あらかじめ弁護士に相談して適切に対処する必要があります。
自社株式や事業用資産の分散リスクについては、弁護士に依頼し経営者が元気なうちに対処することが重要であり、主な対処方法としては遺言作成などがあります。
遺言を作成しておく場合は、記載漏れやあいまいな表現をなくすこと、遺留分侵害額請求を考慮した内容にすることがポイントです。
そのほかにも、種類株式の発行、議決権のない株式を後継者以外に相続させる、株式の売渡請求ができるよう定款に定めておく、遺言代用信託の活用などの対処方法があり、弁護士に相談することによりこれらの適切な対処についてサポートを受けられます。
親族外事業承継
親族外事業承継とは、親族以外の従業員などに事業を引き継ぐことを指します。親族外事業承継における弁護士の役割には、経営者親族とのトラブル対応や金融機関との経営者保証、資金調達に関する対応などがあります。
親族外事業承継では経営者親族との関係性が重要であるため、遺贈や贈与の場合は弁護士が間に入ることで、親族と円滑な交渉を進めていくことが可能になります。
また、親族外事業承継の場合、相続・贈与で自社株式・事業用資産を譲渡する親族内事業承継とは違い、有償で譲渡するケースも多くみられます。
その際には、後継者の資金調達が課題となります。後継者が自前で資金を用意できない場合、金融機関から借入れを行ったり、後継者候補の役員報酬の引き上げなどによって対処する必要があります。
また、現経営者の経営者保証解除や、後継者の保証契約の継続についても対処しなければなりません。弁護士が金融機関との交渉などをサポートすることで、円滑に交渉が進められる可能性が高まります。
M&Aによる事業承継
M&Aによる事業承継とは、M&Aを活用して第三者へ事業承継を行うことを指します。M&Aによる事業承継における弁護士の役割には、M&A条件の交渉や各種契約書の作成、契約に関するトラブル対応、法務デューデリジェンスの実施などがあります。
また、弁護士の力を借りることによって、法的な面から社内体制の整備、企業価値の向上、労務管理、取引先などとの契約整理、訴訟リスクなどの解消などを行っておけば、M&Aによる事業承継の成功率を上げることが可能です。
特に、中小企業経営者にとって、M&A相手との交渉は精神的な負担が大きくなりがちです。また、M&Aの手続きにかける時間的余裕がない経営者も少なくありません。
弁護士は中小企業経営者のM&Aによる事業承継手続きを代行するだけでなく、精神的負担や時間的負担を軽減する役割も果たします。
事業承継での弁護士の役割
【事業承継での弁護士の役割】
- 事業承継を行う上で最善の方法をアドバイス
- 事業承継時の法的サポート
- 金融機関との交渉
- 取引先などとの契約整備
- 後継者が会社運営する上での法的サポート
- 労務体制の整備、各種契約の作成・アドバイス
1.事業承継を行う上で最善の方法をアドバイス
前述のように、事業を引き継ぐ相手によって事業承継の進め方やメリット・デメリット、注意点は変わります。
また、同じ引き継ぎ相手であっても案件によって事情はさまざまであることから、案件に応じた最善の方法を構築する必要があります。
弁護士は、引き継ぎ相手ごと・案件ごとに最善の策を柔軟に構築し、アドバイスを行います。弁護士のアドバイスがないまま親族内事業承継を進めた場合、親族内でトラブルが生じて相続・贈与に時間がかかる可能性があります。
また、弁護士のアドバイスがないまま親族外事業承継を進めた場合、資金調達や経営者保証などについて金融機関との交渉が円滑に進まず、事業承継の進行が滞る可能性があります。
M&Aによる事業承継を弁護士のアドバイスなしで進めた場合は、譲渡先企業との交渉が長引いたり、途中で交渉が決裂するといった問題が生じる可能性があります。
2.事業承継時の法的サポート
弁護士は事業承継のアドバイスだけでなく、法的な面からサポートも行います。事業承継を円滑に進めるためには、さまざまな専門家のサポートが必要となります。
例えば、事業承継のきっかけ作りや準備の際は、公的機関や商工会・商工会議所によるサポートが有効です。また、税金に関することは税理士や公認会計士、経営に関することは中小企業診断士に相談することができます。
M&Aによる事業承継の場合は、M&A仲介会社やマッチングプラットフォームを活用して譲渡先を探したり、M&A仲介会社にM&Aをトータルでコーディネートしてもらったりすることが可能です。
そして、事業承継の法的サポートを得意とするのが弁護士です。弁護士からの法的サポートを含め、各専門家からのサポートを複合的に受けることで円滑な事業承継が可能となります。
3.金融機関との交渉
親族外事業承継の際に後継者へ有償で事業を引き継ぐ場合、後継者は金融機関から資金調達を行うことがあります。また、経営者保証の解除や、後継者の経営者保証契約の必要性について交渉する必要もあります。
M&Aによる事業承継の場合は、買い手企業が買収資金を金融機関から借り入れることもあり、その場合にも金融機関との交渉が必要です。これらのような金融機関との交渉も弁護士の対応範囲となっています。
金融機関との交渉を弁護士に依頼した際の手数料は、調達金額や弁護士の貢献具合などによっても違いますが、最低でも着手金は10万円から50万円程度、報酬は30万円から100万円程度がだいたいの相場と思われます。
4.取引先などとの契約整備
取引先との関係で弁護士に依頼するケースとしては、取引先とトラブルになった場合だけでなく、取引先との契約関係を見直すためにも弁護士に依頼することができます。
親族内事業承継や親族外事業承継の場合、後継者へ取引先に関するリスクをなるべく負わせないようにするため、取引先との契約内容を整備しておくことが重要になります。
また、M&Aによる事業承継の場合は、取引先との契約整備が買い手企業にとっての安心材料となり、よい買い手がみつかりやすくなったり、条件交渉が有利になったりする可能性があります。
中小企業・小規模事業者の場合、しっかりと契約書を作らないまま取引を続けている取引先があるケースも珍しくありません。
弁護士に依頼して取引先との契約を整備することで、上記のようなメリットが得られる可能性があります。
5.後継者が会社運営する上での法的サポート
事業承継は後継者に引き継いだら終わりではありません。事業承継後も後継者が会社を運営していかなければならないため、事業承継後のサポートも重要です。
親族内事業承継や親族外事業承継の場合、後継者がほかの役員や従業員、取引先、顧客などとの関係を円滑に築くことができず、事業承継後の経営に支障がでることも少なくありません。
また、M&Aによる事業承継の場合も、買い手企業が想定していたようなシナジー効果が得られないケースもよくあります。
これらの問題を引き起こさないようにするため、弁護士による法的サポートを受けるという方法もあります。具体的には、社内規定やコンプライアンス・契約書の整備、訴訟・クレームなどのトラブル処理などが挙げられます。
これらのサポートはすぐに直接売上に反映されるものではありませんが、弁護士のサポートを受けることで経営の落とし穴に陥ることを防ぐことができます。
6.労務体制の整備、各種契約の作成・アドバイス
事業承継を成功させるには、労務管理を徹底することも大切です。事業承継の際に従業員のモチベーションが低かったら後継者のモチベーションまで下がってしまう可能性があり、よい買い手企業がみつからない、希望条件で会社を譲渡できないなどの可能性もでてきます。
また、労務管理がしっかりしていなければ、従業員の離職率が高くなってしまうことも考えられます。
後継者や買い手企業は、事業承継の際にどのような人材がいるかも考慮して、会社を引き継ぐ決定をしたり、事業承継後の経営を考えていきます。
しかし、事業承継をきっかけに従業員が流出してしまったら、後継者や買い手企業は計画が狂うことになります。そこで、弁護士に依頼して労務管理を行ってもらい、事業承継をきっかけとする従業員の離職などの問題発生を防ぐことが可能です。
そのほか、弁護士は各種契約書の作成やアドバイスも行います。特にM&Aによる事業承継では、契約書の内容が少し違うだけでも後々トラブルになりかねません。契約書の作成は弁護士のチェックを受けることがトラブルの防止につながります。
事業承継での弁護士の業務
【事業承継での弁護士の業務】
- 事業承継前の会社調査
- 事業承継計画の相談・立案
- 事業承継・株式承継のサポート
- M&Aによる事業承継のサポート
- 民事信託に関するアドバイス
1.事業承継前の会社調査
事業承継を成功させるためには、まず自社の現状を調査・把握したうえで、会社の磨き上げを行う必要があります。弁護士に依頼することで、自社の課題を法的な観点から確認することができます。
また、M&Aによる事業承継の場合はデューデリジェンスを行うことがあります。デューデリジェンスとは買収監査のことです。
デューデリジェンスにはさまざまな種類がありますが、弁護士が担当するのは法務デューデリジェンスです。
デューデリジェンスは主に買い手企業が売り手企業に対して行いますが、案件によっては売り手企業が自社について行うことがあります。その際は売り手企業が企業法務に詳しい弁護士に依頼し、自社の分析を実施してもらいます。
中小企業の場合は簡易的なデューデリジェンスを弁護士に依頼することで、費用を抑えつつ自社の調査を行ってもらうこともできます。
2.事業承継計画の相談・立案
事業承継を行う際は、事業承継計画を策定することで事業承継を着実に進めていくことが可能です。弁護士のなかには、事業承継計画の相談・立案にも対応しているケースがあります。
前述のように、事業承継を円滑に進めるには経営者と後継者だけでなく、経営者の親族や従業員、取引先、金融機関など、さまざまな関係者の協力が必要です。
そのため、事業承継計画書では関係者との関係を考慮しながら中長期の経営方針などを決め、そこから具体的な事業承継の行動計画に落とし込んでいきます。
しかし、事業承継計画書を経営者だけで完璧に作り上げることは簡単ではないので、弁護士など専門家の力も借りながら作っていくと、客観的で具体的な計画を作りやすくなります。
3.事業承継・株式承継のサポート
事業承継の際は、自社株式・事業用資産の承継で問題が発生することがあり、その際には弁護士に相談することで自社株式・事業用資産の円滑な承継が可能となります。
前述のように、親族内事業承継や親族外事業承継の際は、相続による経営権の分散リスクが発生することがあります。
自社株式や事業用資産の分散リスクに対処する方法として、弁護士のサポートを受けながら遺言の作成や種類株式の発行、議決権のない株式を後継者以外に相続させる、株式の売渡請求ができるよう定款に定めておく、遺言代用信託の活用などがあります。
弁護士に相談することで、これらのなかから適切なものを選んで、サポートを受けることができます。
4.M&Aによる事業承継のサポート
M&Aによる事業承継でも弁護士の力が必要になります。弁護士はM&Aの際に契約書のアドバイスや作成代行をしたり、法務デューデリジェンスを実施します。
また、弁護士事務所によってはM&A手続きをさらに幅広くサポートしているケースもあります。
特に、買い手企業は売り手企業に対して法務デューデリジェンスを行ったり、買収資金を調達するために金融機関と交渉したりするために、弁護士の力が必要となる場面も多いです。
また、売り手企業と買い手企業でトラブルがあった場合の解決、M&A後の労務管理サポートなど、M&Aにおける弁護士の業務にはさまざまなものがあります。
5.民事信託に関するアドバイス
経営者が亡くなった場合や認知症になった場合の対策として、民事信託を活用することもありますが、その際にも弁護士からアドバイスを受けることができます。
民事信託のなかで事業承継の際に利用されるのは、遺言代用信託です。遺言代用信託を利用することで、経営者が亡くなった場合の自社株式の承継について、経営者の意思を実現することができます。
弁護士に相談して遺言代用信託を利用することにより、後継者が株式を取得できる、株式の分散リスクを防止できる、経営の空白期間が生じないなどのメリットが得られます。
2. 事業承継を行う際に弁護士を依頼した場合の費用相場
弁護士に事業承継のサポートを依頼した場合の費用は、依頼内容や依頼の規模、弁護士事務所によって違うため、本章では平均的な弁護士費用を紹介します。
弁護士に事業承継のサポートを依頼する前は、まず弁護士事務所に初回相談を行います。弁護士事務所への初回相談の費用は、無料の場合もあれば数万円の場合もあるなど、弁護士事務所によってさまざまです。
弁護士と契約した際の着手金は、依頼した内容や弁護士事務所によって大きく違います。例えば、前述したように金融機関との交渉を弁護士に依頼した際の着手金は、最低でも10万円から50万円ほどと、弁護士事務所によって幅があります。
弁護士への依頼内容が完了した際に支払う報酬金も、依頼した内容や弁護士事務所によって大きく違います。
上記の例でいうと、金融機関との交渉に対する報酬は最低でも30万円から100万円ほどと、こちらも弁護士事務所によって開きがあります。
弁護士事務所と顧問契約を結ぶ場合は、毎月固定の費用を支払うケースが一般的です。顧問契約料も弁護士事務所によりますが、相場は数万円であるケースがほとんどです。
3. 事業承継を行う際に弁護士に依頼するメリットと注意点
事業承継を行う際はさまざまな専門家のサポートを受けることがありますが、専門家によって特徴は大きく違います。本章では、事業承継を弁護士に依頼した場合のメリットと注意点を解説します。
【事業承継を行う際に弁護士に依頼するメリット】
- 煩雑で専門的な業務を代行してもらえる
- 相続問題など交渉が難しい課題についてサポートしてもらえる
- トラブルの発生を未然に防ぐことができる
【事業承継を行う際に弁護士に依頼する注意点】
- 弁護士費用をよく確認し、費用対効果が十分に得られそうかどうかをよく検討する
- 相手も弁護士に依頼することでお互いの主張が対立し、問題が大きくなることがまれにある
- もし相手と対立した場合はどこまで主張を譲れるかといった点についても検討しておく
事業承継を行う際に弁護士に依頼するメリット
弁護士に依頼するメリットは、各種書類の作成や取得など、煩雑で専門的な知識が求められるプロセスを弁護士に代行してもらうことができる点です。
時間のかかるプロセスを弁護士に代行してもらうことにより、経営者は事業承継手続きに必要な時間を節約し、日常業務への負担を減らすことができます。
また、相続問題など交渉が難しい課題についてサポートが受けられる点も弁護士に依頼するメリットです。相続問題は感情的な対立が起き大きな問題に発展することもあるなど、精神的負担も大きくなりがちです。
弁護士が間に入ることで問題を最小限に抑えることができ、事業承継に伴う精神的負担を減らすことができます。
そのほか、弁護士に依頼するメリットとして、トラブルの発生を未然に防ぐことができる点が挙げられます。
トラブルが発生してから弁護士に相談するケースも多いですが、あらかじめ弁護士にサポートを依頼しておくことで、トラブルの発生を未然に防いだり最小限に抑えたりすることが可能です。
事業承継を行う際に弁護士に依頼する注意点
弁護士に依頼する際は、弁護士費用をよく確認して費用対効果が十分に得られそうかどうかを検討する必要があります。
事業承継に関するサポートをより十分に受けようとすればするほど費用も高くなります。なかには弁護士費用の負担がネックとなり、弁護士への依頼を諦めるケースもみられます。
また、相手も弁護士に依頼することでお互いの主張が対立し、問題が大きくなるケースもまれにあります。
弁護士は依頼者の利益を優先して動くので、依頼者同士が一歩も譲らなければ問題も大きくなりかねません。
弁護士に依頼したから安心というわけではなく、もし相手と対立した場合はどこまで主張を譲れるかといった点についてもよく検討しておく必要があります。
4. まとめ
- 親族内事業承継
- 親族外事業承継
- M&Aによる事業承継
- 事業承継を行ううえで最善の方法をアドバイスする
- 事業承継時の法的サポートを行う
- 金融機関との交渉を代行する
- 取引先などとの契約整備をする
- 後継者が会社運営するうえでの法的サポートを行う
- 労務体制の整備、各種契約の作成・アドバイスをする
- 事業承継前の会社調査
- 事業承継計画の相談・立案
- 事業承継・株式承継のサポート
- M&Aによる事業承継のサポート
- 民事信託に関するアドバイス
【事業承継を行う際に弁護士に依頼するメリット】
- 煩雑で専門的な業務を代行してもらえる
- 相続問題など交渉が難しい課題についてサポートしてもらえる
- トラブルの発生を未然に防ぐことができる
【事業承継を行う際に弁護士に依頼する注意点】
- 弁護士費用をよく確認し、費用対効果が十分に得られそうかどうかをよく検討する
- 相手も弁護士に依頼することでお互いの主張が対立し、問題が大きくなることがまれにある
- もし相手と対立した場合はどこまで主張を譲れるかといった点についても検討しておく