2024年02月19日更新
事業承継で負債があるとどうなる? リスクと分社化のメリット・対策を紹介
事業承継をする際は、連帯保証や負債も引き継ぐことになるため、細心の注意が必要です。しかし、負債がある状態で実施するケースも少なくありません。本記事では、負債のある事業継承が持つリスクや、分社化することによって得られるメリット、負債対策などについて解説します。
目次
1. 事業承継は負債のある会社でもできる?
会社を永く続けるためには、適切なタイミングで事業承継する必要があります。しかし、会社が負債を抱えていると、引き継ぎの決意や段取りに遅れが出ることも少なくありません。では、負債のある会社の事業承継はどのように進めるべきなのでしょうか。ここでは、事業承継の負債の引き継ぎに関して解説します。
負債(債務超過)とは
負債とは、金銭や物資などを借り受けていて将来的に金銭などの経済的資源を返済する義務のことです。会社の負債の場合、経営者や代表者ではなく会社に返済義務が課されます。
負債には、借入金のほかに買掛金や未払金なども含まれます。会社の経済状況にかかわらず経常的に発生するものもあるので、どのような会社でも一定の負債を抱えているのが一般的です。
しかし、債務超過は危険です。会社が保有するすべての資産を売却しても負債を返済できないことで、会社の存続が困難な状態に陥ります。
負債は大まかに、流動負債と固定負債の2つに分かれます。流動負債とは、未払金や買掛金といった支払期限が比較的短期間の負債のことです。これに対して、固定負債とは、長期借入金や社債といった支払期限が1年以上の負債を意味します。
赤字との違い
赤字とは、損益計算書で支出が収入を上回っている状態を意味する言葉です。債務超過と赤字は類似する言葉であるものの、たとえ赤字を計上しているからといって、必ずしも債務超過であるとは限りません。いずれの状態も経営状況を改善する必要がある点は共通しているものの、厳密にいうと異なる状態である点を把握しておきましょう。
負債のある会社を事業承継するリスク
近年は事業承継の必要性が主張されることも多いですが、事業承継後のリスクまで取り上げられることは少ないです。リスクを把握していないと事業承継後に苦しむ結果にもなりかねません。ここでは、負債のある会社を事業承継する2つのリスクを紹介します。
- 負債を引き継ぐ
- 連帯保証も引き継ぐ
負債を引き継ぐ
1つ目のリスクは負債を引き継ぐことです。事業承継は会社の経営権や資産とともに負債も引き継ぐため、イメージとしては現経営者から後継者に負債を引き継ぐことになります。
後継者は、返済スケジュールに沿って会社の収益で返済していきます。返済が難しい場合は、土地や建物などの不動産を売却することもあり、事業用資産なら収益性が低下して悪循環に陥りかねません。
資産を売却しても負債を返済できなくなると、返済・利息で純資産が徐々に減る危険な状態です。キャッシュフローが悪化して事業資金も不足すると、廃業・倒産の危機に陥ります。
連帯保証も引き継ぐ
原則、会社の負債は代表者や経営者に返済の義務はありません。負債が原因で会社が廃業・倒産しても、経営者が個人資産で弁済する必要はないでしょう。
しかし、多くの場合は資金を借り受ける際に経営者が連帯保証人になります。中小企業は財務状況が不透明なこともあるため、債権者の安全性を確保するために連帯保証を要求するのが一般的です。
事業承継では、経営者から後継者に連帯保証人を引き継ぎます。現経営者は事業を失って連帯保証人としての役割を果たせなくなるので、後継者が請け負わなくてはなりません。事業承継後に返済が困難な状態になったら、後継者の個人資産で弁済する必要があります。
負債のある会社の事業承継はおすすめできない
負債の返済のめどが立たないまま事業承継を行うと、後継者が行動を起こしづらくなり事業に失敗する可能性が高まります。手間をかけて事業承継した会社が廃業・倒産することにもなりかねないので、負債のある会社の事業承継はおすすめできません。
負債のある会社の事業承継は、分社化がおすすめです。資産と負債を整理することで、返済負担の軽減が期待できます。
2. 負債のある会社を分社化して事業承継するメリット
負債のある会社の事業承継に分社化を活用することは、実際にどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、特に効果が期待できるメリット2つを紹介します。
- 収益性の高い事業だけを引き継げる
- 債務超過を回避できる
収益性の高い事業だけを引き継げる
分社化で用いる手法は、事業譲渡や会社分割です。これらの手法には、持ち出す事業を自由に選択できる点に特徴があります。事業承継後も収益が期待できる事業のみを分社化し、負債返済の負担を軽減可能です。後継者の返済負担が軽くなれば事業展開もやりやすくなり、結果を出しやすくなります。
会社の財務状況が良くなれば、新しく融資を受けることも難しくありません。潤沢な事業資金を確保して、事業承継を機に新たな事業に着手する選択も可能です。
債務超過を回避できる
分社化で持ち出す負債は、資産とバランスが取れる範囲に抑えることで債務超過を回避できます。例えば、5,000万円の負債と3,000万円の資産がある場合、3,000万円の負債と3,000万円の資産を持ち出すことで負債は0円となります。
財務状況が健全で返済能力があることを示すことが重要なので、即座に資産を売却して負債を返済する必要はありません。一般的に返済は、事業の収益の一部で行います。
残された負債の2,000万円は、旧会社に返済義務があります。連帯保証がない場合は法人の破産手続き、ある場合は経営者の分割払いによる返済や個人資産での弁済を行う決まりです。多くの場合、経営者が連帯保証人になっています。負債は返済する必要がありますが、会社をきれいな状態で引き継ぐことで後継者や従業員を守られます。
3. 負債のある会社を事業承継する際のポイント
負債のある会社を事業承継する際は、押さえておきたいポイントがあります。特に重要なポイントは次の3つです。
- 資産と負債を把握する
- 債務超過の状態から脱却する
- 事業再生の手段もある
資産と負債を把握する
事業承継の際は、資産と負債を明確に把握することが大切です。中小企業は現経営者の個人資産と会社の資産が混同していることも多いので、事前に分類しておかなくてはなりません。
現経営者だけでなく後継者との共有も大切です。後継者は事業承継後の事業も考える必要があるので、事前に会社の財務状況を把握しておくことが求められます。
親族以外に事業承継する場合、負債を隠しているとトラブルに発展することもあります。裁判沙汰に発展する可能性もあるので、資産・負債の状況把握と共有は必要不可欠です。
債務超過の状態から脱却する
中小企業では、代表が企業に対して個人的に資金を貸し付けているケースが一般的です。このケースでは「債務免除」を受けることで、債務超過の状態から脱却できる可能性があります。
貸付人が企業に融資をしている貸付金にも相続税は発生しますが、債務免除をすることで経営者は資産を減らせるため、節税効果を得ながら企業の経営状態の改善を図れます。
ただし、債務免除を受けた場合は、消滅した債務の分は「債務免除益」の利益として計上される点に注意しましょう。債務免除によって業績が黒字になった場合、法人税が課される点を把握しておかなければなりません。
事業再生の手段もある
事業承継は、事業再生を目的に行われることもあります。特に利用されることの多い手法は第二会社方式です。
これは、財務状況が悪化している会社から収益性のある事業を切り出し、新設あるいは既存法人に移転させて、負債や不採算事業が残った法人は特別清算などを用いて整理する手法です。
支援措置や認定要件などを把握する必要はありますが、事業承継を機会に会社全体の健全化を目指せます。
4. 事業承継前からできる借入金対策
続いて、借入金を効果的に管理するために必要な、事業承継前からできる対策方法について解説します。事前に事業承継する計画を立てておけば、事業の移行もスムーズにできるようになるでしょう。
事業の資金繰りを改善させる
事業継承は今後を左右する大きな決断となるため、資金繰りを改善させておくことが不可欠です。まずは財政状況を確認し、資金調達の目処を立て、資金を確保できる体制作りを目指しましょう。
また、金融機関にも事業の改善が図れることをアピールできます。さらに、資金繰りに関する相談は、会計士や商工会議所、税理士などでもできるため、プロの意見を聞くのも効果的です。
役員借入金を減らしておく
役員借入金は、融資を受ける際に発生する金銭的な負担の一部であるため、減少させられれば財務状況を改善し、事業継承をスムーズに行える体制作りに役立ちます。
具体的な方法としては以下3つがあげられます。
- 役員報酬を抑えて役員借入金を返済する
- DES(デット・エクイティ・スワップ)の活用
- 暦年贈与
それでは、それぞれがどのような方法なのかみていきましょう。
役員報酬を抑えて役員借入金を返済する
役員報酬を抑える方法は、返済資金を確保するために用いられる手段です。また、経営資源を有効活用できるようになり、住民税や所得税などの各種税金を減らすこともできるでしょう。
つまり役員報酬を減らすことで、その他の経費に回したり、税金対策したりすることも可能になります。
DES(デット・エクイティ・スワップ)の活用
DESとは、債務との交換で株式を発行することにより、過剰債務から立て直す方法として活用される方法です。また、資金調達のコストを下げられるデジタル資産を活用するのも可能で、新しい方法として注目を集めています。
なお、DESに類似する手法に、DDS(デット・デット・スワップ)があります。これは、負債を劣後ローンへ借り換える手法です。一定の要件を満たした劣後ローンは金融機関で資本としてみなされるため、金融機関による評価が向上する可能性があります。劣後ローンとは、債権において他の債権と比べて優先順位が低く設定されているローンのことです。
暦年贈与
役員に対して毎年定められた金額を支払う暦年贈与も、有効的な手段です。また、年間110万円以内であれば基礎控除となるため、贈与税がかからないのも特徴です。
しかし、税務署から計画的贈与とみなされる恐れもあるため、支払い時期や贈与額を変えるなどの対策を取っていかなければなりません。
金融機関との交渉
相続によって継承する場合は、借入金の相続も視野に入れて判断しなければなりません。また、借入金の債務は遺産分割の対象外となるため、被相続人である現経営者が亡くなった場合は平等に引き継ぐ必要があります。
そこで効果的なのが金融機関との交渉です。事業承継する相続人以外の債務免除を金融機関と交渉しておけば、余計な債務は発生しません。
後継者に個人資産を蓄積してもらう
後継者に個人資産を蓄積してもらっておくことも重要です。実際に経営が悪化してしまい、プライベート資金から資金を調達しなければなくなった ケースも少なくありません。
後継者がある程度の個人資産を持っていれば、債務が発生した場合にも慌てずに対応できるようになります。
相続放棄を検討してもらう
相続放棄は、役員が株式を相続する権利を放棄することを指します。この方法を用いれば、役員は株式ではなく、企業から現金を受け取れるようになります。これにより役員借入金も減少させることが可能です。
しかし、資産を引き継ぐ権利を失うことにもなるため、相続人同士での話し合いで納得してもらわなければなりません。
法人向けの生命保険を活用
法人向けの生命保険は、万一のときに保険金を受け取れるようになるため、借入金対策や自社株対策としても有効な手段です。
また、自社株の評価が高くなれば、より高額な相続税が必要になります。
そこで、保険金である程度現金を受け取れるようにしておけば、経営権を守れなくなるリスクを回避することもできるでしょう。特に借入金の一括返済が必要な場合に効果的な方法になります。
5. 個人事業主における事業承継と借入金
ここでは、個人事業主における事業承継と借入金について解説します。企業と個人では対応すべきポイントも変化してくるため、しっかりと違いを確認しておきましょう。
個人事業主の事業承継は借入金を引き継ぐ必要はない
個人事業主が事業承継を行う場合は、事業承継者が借入金を引き継ぐ必要はありません。資産の譲渡や、個人事業主の資産の移行、個人事業主の負債の移行などは行う必要がありますが、借入金に関しては移行や譲渡の対象外となります。
それこそが、個人事業主の方が中小企業よりも事業継承がしやすいといわれる理由です。
個人事業主が事業承継で借入金を引き継ぐ場合
個人事業主は事業承継で借入金を引き継ぐ必要がないと前述しましたが、引き継がざるをえない場合も存在します。
自社が借入金で資金繰りをしていた場合、後継者の個人資産が充実していなければ、借入金なしで運営するのは困難です。そのため、借入金と預金の両方を引き継ぐケースも多くあります。
6. 負債のある会社を事業承継する際の流れ
負債を抱えた会社は、通常の事業承継よりも必要な手続きが多くなります。負債のある会社の引き継ぐ際は、事業承継の全体の流れを把握しておきましょう。
- 資産・負債を確認する
- 事業承継先を選ぶ
- 事業承継計画・分社化の立案
- 後継者による事業計画の立案
- 負債への対処
①資産・負債を確認する
事業承継の準備は、会社の財務状況を確認することから始めます。引き継ぐ資産・負債を明確にしておかないと、事業承継後に事業に支障をきたすおそれがあるためです。
資産・負債の確認では、特に簿外債務に注意が必要です。退職給付引当金・リース債務などは簿外債務の場合が多いので、帳簿上は資産が上回っていても実状は債務超過だったケースも珍しくありません。
事業承継は、引き継ぐ資産価値に応じて税金が課せられます。税金対策の方針を決めるためにも、資産・負債の把握は重要です。
従業員・年齢・キャッシュフローなどの経営資源の確認も必須です。これらの資源は事業を行うために必要なものなので、事業承継計画立案時の指針として活用できます。
②事業承継先を選ぶ
事業承継では、資産・負債を引き継ぐ後継者が必要不可欠です。親族内に後継者がいない場合は、社内の人材や外部の第三者に引き継ぐ選択肢もあります。
社内の人材に引き継ぐ場合は、早めに後継者育成を進めておかなくてはなりません。重要な役職への配置や取引先のあいさつ回りに同行させて経験を積ませる必要があります。
外部の第三者に引き継ぐ場合は、後継者育成に時間をかける必要がありません。時間がかかりづらく取り組みやすいため、後継者問題を抱えている企業にとって有力な選択肢です。
第三者への引き継ぎでは、経営者が売却益を獲得できるメリットもあります。残された負債の返済にも充てられるので、後継者がいないときや返済手段のあてがないときにも有効な方法です。
③事業承継計画・分社化の立案
後継者が決まったら、事業承継計画・分社化の立案です。決めるべき事項は多いですが、事業承継を円滑に進めるためには並行できるように準備しておかなくてはなりません。
事業承継の方法に合わせて、実現可能なスケジュールを策定します。後継者が親族や社内の人材である場合、後継者育成のために年単位の時間を確保する必要があります。
事業承継で相続が発生する場合は、想定される問題への対処も必要です。法定相続人の有無や株式保有の状況等を確認しておき、納税資金の確保なども決めておかなければなりません。
分社化には、事業譲渡や会社分割などのM&A手法を用います。事業承継とは異なる手続きが必要となるので、別方面で計画を進行しなくてはなりません。
事業譲渡は権利義務の包括承継ができないので、手続きが煩雑になる傾向があります。会社分割も専門的な知識が必要になるので、立案段階からM&Aの専門家に相談すると円滑に進めやすいでしょう。
④後継者による事業計画の立案
後継者は事業計画の立案も行います。分社化の立案で引き継ぎが決まった事業の運営方針を立てて事業承継に備えましょう。事業承継は社内に与える影響が大きく、しばらくは利益が出せなくなる状況も考えられるため、さまざまな可能性を考慮したうえで事業計画を立てておく必要があります。
事業計画は、債権者に納得材料を提供するためにも大切です。稼ぐ力があると判断してもらえれば、負債の引き継ぎの了承や新たな融資の取り付けも可能です。
⑤負債への対処
負債のある会社の分社化で避けられないのが、旧会社に残された負債の対処です。収益性のある事業は切り離していて返済能力がないため、法人の破産手続きを行います。
金融機関からの借入で連帯保証人の場合は、経営者に返済義務があります。しかし、経営者の個人資産では返済しきれないことが多く、経営者個人の破産手続きも必要になるケースが多いでしょう。
経営者の破産手続きを行う場合、自宅を含めた不動産も返済に充てられます。必要最低限の資金を残して返済することが求められるため、家族への影響も計り知れません。
なお、経営者に収入があって返済能力がある場合は、破産ではなく長期的な返済プランを提案されることもあります。なぜなら、債務者の自己破産は債権者の立場からは損失が大きく、可能な限り資金回収できるプランを取りたいためです。
どのプランを選ぶにしても、大切なのは債権者の同意を得たうえで実行することです。事業承継の分社化は戦略の1つなので、債権者の協力を得られれば成功する可能性も高まります。
7. 負債のある会社の事業承継に関する相談先
分社化には、事業譲渡や会社分割などのM&A手法を用いて行います。事業承継はすべての資産・負債を引き継ぐ方法ですが、分社化は引き継ぐ事業を選定するために手続きが複雑になりがちです。
事業承継の後継者が親族の場合でも、M&A分野の知識が必要になります。負債のある会社の分社化を検討の際は、M&A・事業承継の専門家に相談することをおすすめします。
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8. 負債のある会社の事業承継まとめ
負債が膨らんで債務超過に陥ると、会社の財務状況は一変します。膨らんだ負債をそのままの状態で放置して事業承継すると、後継者が取れる選択肢が限定されてしまい、事業がうまくいかない可能性が高まります。
会社をできるだけ良い状態で引き継ぐためには、分社化による資産・負債の整理がおすすめです。その際はM&A・事業承継の専門家に相談すると円滑に進めやすくなります。
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