個人事業承継時の減価償却費の計上方法を解説

提携本部 ⾦融提携部 部⻑
向井 崇

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個人事業を事業承継した場合、後継者が承継する建物や備品などの固定資産の中には、減価償却費として経費計上できるものがあり、後継者としてはその内容を押さえておきたいところです。本記事では、個人事業承継時の減価償却費計上方法を解説します。

目次

  1. 個人事業を承継した際は固定資産が重要
  2. 個人事業承継時に減価償却費を計上する方法
  3. 個人事業を相続した場合の減価償却について
  4. 個人事業を承継する際に贈与税や相続税を非課税にする制度
  5. 個人事業承継時の減価償却費の計上方法に関する相談先
  6. 個人事業承継時の減価償却費の計上方法まとめ
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1. 個人事業を承継した際は固定資産が重要

個人事業を事業承継した場合は、自動車や建物など事業用固定資産の引き継ぎの取り扱いが重要になります。その理由は、会計処理を適正に行うことによって、引き継いだ事業用固定資産を減価償却費として経費計上が認められれば、事業を引き継いだ後継者はメリットを受けられるからです。

減価償却できる可能性がある事業用固定資産には、建物、自動車などの車両運搬具、工場や土地、施設などがあります。それらの資産とともに、個人事業を親族が事業承継する方法は以下の2種類です。

  • 生前贈与:先代の事業主が生きている間に引き継ぐ
  • 相続:亡くなってから引き継ぐ

引き継ぐ際に、事業用固定資産の減価償却計上を適切に行っておくと、固定資産の評価額が抑えられるため、贈与税や相続税負担の低減化が図れるでしょう。

固定資産を事業承継した場合

後継者が個人事業に関わる固定資産を事業承継した場合、前経営者が取得した資産を後継者が継続して所有している扱いです。つまり、前経営者が該当固定資産を取得した時期や価額をそのまま引き継ぎ、通常どおりの減価償却を行えます。

注意したいのは、減価償却の償却方法(減価償却費の計算方法)は引き継げない点です。詳細は後述しますが、減価償却の計算方法には定率法と定額法の2つがあります。何の届け出もしなかった場合は、原則的に定額法しか用いられません。

定率法を用いたい場合は、固定資産を引き継いだ時点で税務署に届け出をすることが必要です。引き継いだ固定資産は相続税・贈与税の課税対象ですが、課税計算においては未償却額(取得価額から過去の償却額を差し引いた金額)が基準となります。

固定資産を事業承継しなかった場合

個人事業の事業承継において、後継者の贈与税負担を抑えるために、後継者は事業のみを承継し、事業に必要な固定資産は従来のまま全経営者が保有する方法があります。この場合、後継者が事業を行うために、前経営者が固定資産を貸す形態です。

固定資産の所有権は移動していないので、後継者に贈与税は発生しません。固定資産は事業用に貸与されているため、従来どおり減価償却費の計上が可能です。ただし、後継者と前経営者が日常生活をともにしている必要があります。

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2. 個人事業承継時に減価償却費を計上する方法

個人事業を事業承継する場合、生前贈与により事業承継するケースと相続により事業承継するケースが多いですが、その際はどのように減価償却すればよいのでしょうか。ここでは、個人事業を生前贈与により事業承継した場合に減価償却費を計上する方法を解説します。

個人事業の承継は生前贈与が基本

個人事業の事業承継は、基本的に生前贈与することが多くなっています。その理由は、事業や事業用資産の引き継ぎなどを行ううえで、先代の事業主が関与するほうが手続きなど事業承継がスムーズに遂行できるからです。

建物など事業用固定資産の引き継ぎを先代からの相続によって行おうとすれば、事業承継後に後継者が事業を行う際に、不動産賃借料などの経費が発生する点をどうするかという点も考慮しなければなりません。

この場合、事業のための固定資産の賃貸借、生計を一にする親族からの使用貸借であれば減価償却可能です。他方、事業承継に伴う自動車や建物などの事業用固定資産の承継を生前贈与することにより、減価償却が可能になれば経費計上できるメリットがあります。

ただし、事業用固定資産を生前贈与する場合には、資産価値が高くなる傾向があり、高額な贈与税が発生するかもしれません。したがって、贈与税の年間非課税枠や事業承継税制の活用なども含め、よく検討する必要があります。

個人事業を承継した場合に減価償却費を計上する手段

個人事業を生前贈与によって事業承継した場合、事業用固定資産の減価償却費計上における引き継ぐ事業用固定資産に関して、以下のようなルールが決められています。

  • 先代事業主の事業用固定資産(償却用資産)の取得時期や取得価額をそのまま引き継ぐ(未償却残高や減価償却累計額も引き継がれる)
  • 減価償却費を計算する償却方法は引き継がれないので、事業用固定資産引き継ぎ時点で、後継者が減価償却を「定額法」と「定率法」のどちらで行うかを管轄税務署に届け出る(届け出を行わなかった場合は定額法になる)

引き継いだ事業用固定資産には、引き継ぎ時点での未償却残高を基準に算出された贈与税が課されます。

高額な贈与税を懸念して、事業用固定資産を事業承継時点で引き継がない場合でも、事業用の貸借(賃貸借または生計を一にする親族からの使用貸借)と認められれば、減価償却が可能です。

定額法

減価償却の方法には定額法と定率法がありますので、その違いを説明します。まず、定額法とは、毎年、一定額(同一額)で減価償却する方法です。固定資産には法定耐用年数がありますので、固定資産の取得価額を耐用年数で割って1年分の減価償却額を算出します。

たとえば、800万円で取得した固定資産の耐用年数が10年だった場合、毎年の減価償却額は80万円です。計算が簡易で帳簿管理も行いやすいですが、実態に即した経費計上とならない懸念があります。

現実の固定資産では、法定耐用年数よりも早く使い物にならなくなるケースが多く、そのような場合、後年においては、使用実態がないのに経費計上が続いてしまうことになるでしょう。

固定資産の中には、定率法が選択できず定額法のみが指定されているものもあります。一例としては、以下のとおりです。

  • 1998(平成10)年4月1日以降に取得した建物
  • 建物付属設備
  • 建物付属構築物
  • 無形固定資産
  • 生物

定率法

定率法は、未償却残高に定められた一定の比率を掛けることで減価償却額を算出します。

  • 当該年度分の減価償却額=期首未償却残高×定率法の償却率

定率法では、この計算方法により、初めの年度の方が減価償却額が大きく、毎年、徐々に減っていきます。取得年度は節税効果が高く、それが徐々に落ちていくわけですが、定額法と比べると計算は複雑で帳場上の管理負担も大きいといえるでしょう。

定率法には「償却保証額」が設定されており、これに満たなくなった年分以後は、「改定取得価額×改定償却率」という算出方法により、毎年、減価償却額は同額となる点も注意が必要です。

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3. 個人事業を相続した場合の減価償却について

ここでは、個人事業を生前贈与ではなく、相続により事業承継した場合の減価償却を解説します。

取得価額は?

減価償却資産の取得価額とは、資産の購入代金および資産を事業用に供するために要した費用をさし、耐用年数と同様に各年度に経費計上する金額を算出する際の基礎になるものです。

減価償却資産の取得価額から減価償却累計額を控除した金額が未償却残高となり、個人事業を相続により事業承継した場合、減価償却資産の取得価額などは先代の事業主の価額をそのまま引き継ぎます。

耐用年数は?

減価償却資産の耐用年数とは減価償却資産が利用に耐える年数をさし、各年度に経費計上する経費の金額を算出する場合の基礎になるものです。個人事業を相続により事業承継した場合、減価償却資産の耐用年数は、先代の事業主の耐用年数をそのまま引き継ぎます。

このとき、引き継ぎ資産が中古資産として扱われることはありません。減価償却費を算出するうえで用いるのは、国が決めている「法定耐用年数」です。法定耐用年数は、資産の種類・建物の構造・用途などで違いがあります。

耐用年数を過ぎた事業用資産は、資産として実使用はできますが、減価償却はできません。したがって、一般的に不動産担保価値などが大幅に低下します。

償却方法は?

相続により個人事業を事業承継したケースでは、被相続人の減価償却の償却方法は引き継げません。減価償却の方法には、毎年一定金額を償却費として計上する定額法と、未償却残高を一定割合で償却していく定率法の2種類があります。

相続人である後継者は原則として定額法になり、定率法を選択したい場合は​管轄税務署への届け出が必要です。定額法は計算が簡単で毎年一定額なので、複数の資産があっても将来の計画が立てやすい特徴があります。

対して、定率法は計算は複雑ですが減価償却費が徐々に逓減していくので、減価償却開始当初の節税効果が大きいのが特徴です。どちらの償却方法を選択するかにより経費の計上方法が変わり、収益に影響を及ぼすことにもなるので熟慮して選択しましょう。

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4. 個人事業を承継する際に贈与税や相続税を非課税にする制度

個人事業を事業承継する際に、原則として、固定資産を贈与する場合には贈与税、相続する場合には相続税が課税されます。贈与税には110万円の非課税枠がありますので、110万円以下の固定資産の贈与であれば非課税です。

青色申告にかかる事業の後継者として、2019(平成31)年1月1日から2024(令和6)年3月31日までに都道府県知事から認定を受け、2019年1月1日から2028(令和10)年12月31日までの贈与・相続などにより特定事業用資産を承継した場合に、事業承継税制が適用されます。

事業承継税制が適用されると、会社や個人事業の後継者が取得した一定の資産について、贈与税や相続税の納税が猶予され、最終的には免除も可能です。

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5. 個人事業承継時の減価償却費の計上方法に関する相談先

個人事業の事業承継を行う場合、複雑な手続きだけでなく減価償却費の会計処理なども必要になります。専門的な知識やスキルが求められる場面も少なくないため、個人事業の承継を検討している場合は、M&A仲介会社など専門家への相談がおすすめです。

個人事業の承継をお考えの際は、ぜひM&A総合研究所にご相談ください。M&A総合研究所では、M&A・事業承継の知識・経験豊富なアドバイザーが専任でフルサポートします。

料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。随時、無料相談を受け付けていますので、事業承継・M&Aをご検討の際は、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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6. 個人事業承継時の減価償却費の計上方法まとめ

個人事業の承継を行う場合には、煩雑な引き継ぎの手続きが発生します。減価償却費の計上など事業を引き継ぐ者にとっては有利となる会計処理方法もあるので、事前によく検討することも必要です。

事業承継では専門的な知識が必要であるうえ、複雑な手続きも多いので、事業主単独で進めてしまうと本業を圧迫する可能性もあります。個人事業の事業承継をスムーズに進めるためには、M&A仲介会社などの専門家に依頼するのがおすすめです。

本記事の概要は、以下のようになります。

・個人事業承継の減価償却費の計上方法
→事業承継した事業用固定資産は通常どおりの減価償却
→事業承継時点で事業用固定資産を引き継がない場合、事業用資産としての貸借(賃貸借または生計を一にする親族からの使用貸借)と認められれば減価償却が可能

・個人事業主の事業承継の場合における償却資産の引き継ぎ
→先代事業主の事業用固定資産(償却用資産)の取得時期や取得価額をそのまま引き継ぐ(未償却残高や減価償却累計額も引き継がれる)
→減価償却費を計算する償却方法は引き継がれないので、事業用固定資産引き継ぎ時点で、後継者が減価償却を定額法と定率法のどちらで行うかを管轄税務署に届け出る(届け出を行わなかった場合は定額法)

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