2023年04月13日更新
資産管理会社が事業承継税制の適用外になる場合とならない場合の違い
資産管理会社は原則により、事業承継税制は受けられないとされていますが、一部要件を満たしている場合、事業承継税制を受けられるようになります。 そこで、事業承継税制を受けられる資産会社と受けられない資産会社の違いについて、要件から納税義務まで詳しく解説します。
目次
1. 資産管理会社は事業承継税制の適用外?その理由とは
事業承継税制とは、事業承継の際に相続税・贈与税の納税猶予措置を受けられ、最終的には免除も可能となる制度です。親族が事業承継する際の悩みの種である、後継者の納税負担を抑えて、事業承継が促進されることを目的に制定されました。
中小企業者・個人事業者は積極的に活用したい制度ですが、資産管理会社の判定が下された場合は対象外となり、納税猶予措置を受けられません。判定は、保有する資産を基準に下されます。この章では、資産管理会社の概要や事業承継税制の適用要件を確認しましょう。
資産管理会社とは
資産管理会社は、「資産保有型会社」と「資産運用型会社」の2タイプがあります。その活動内容は不動産や株の管理・運用が主で、オーナー・経営者自身の資産管理を目的に設立されていることが多いです。事業実態が認められない場合は、プライベートカンパニーとも呼ばれます。
特に不動産賃貸業を行う個人事業主が、節税目的で設立することが多いです。所得税と法人税では税率に最大20%以上の開きがあるので設立するメリットの1つになっています。企業グループ全体を管理する持株会社も、資産管理会社になることが多いでしょう。
事業の多角化などに伴い規模が大きくなると、持株会社体制にして経営と事業の分散による効率化が必要になることがあります。持株会社は、各事業会社(子会社)の管理に専念するため事業用資産はほぼ保有せず、資産の大半は子会社の株式です。
資産管理会社の形式要件とは
資産管理会社に該当するかどうかの第一段階の判定として、形式要件というものがあります。資産管理会社の2タイプである資産保有型会社と資産運用型会社は、それぞれ以下の形式要件を満たせば資産管理会社とは判定されません。事業承継税制の適用を受けられます。
- 資産保有型会社:総資産のうち特定資産の割合が70%未満
- 資産運用型会社:総収入金額のうち特定資産の運用収入が75%未満
資産管理会社の対象となる特定資産
特定資産とは、特定の目的のために使途・保有・運用などに制約がある資産のことです。主に有価証券などの金融商品や土地・建物などの遊休不動産が含まれます。
法人が自ら使途・保有・運用などに制約を課す場合は、一般正味財産(法人の意思で使途を決定できる正味財産)、基金および負債が財源です。資産管理会社の判定で対象になる特定資産は以下の5つに分類されます。
それらの資産が前項で記載した割合を超えると、資産管理会社と判定が下されて事業承継税制が適用されません。
- 有価証券:国債、地方債証券、株券(子会社の株式を含む)など
- 自ら使用していない不動産:遊休不動産、賃貸用不動産など
- 販売目的以外の特別施設利用権:ゴルフ・スポーツクラブ・リゾート施設などの会員権
- 販売・事業用以外の貴金属・動産:絵画、彫刻、工芸品、貴金属、宝石など
- 現金類:現金、預金、保険積立金、親族への貸付金、未収金、預け金、差入保証金、立替金など
金融商品は、判定会社の子会社が資産管理会社に該当しない特別子会社の場合は、その分の株式・持分は特定資産から除外されます。つまり、特別子会社の特別子会社(被判定会社の孫会社)の株式は、特定資産に含まれません。
特別子会社の定義
事業承継税制の猶予措置を受ける要件は、認定を受ける会社だけではなく、その会社の特別子会社も対象に含まれます。特別子会社とは、会社の代表者とその同族関係者で総株主議決権数の過半数を有している内国会社および外国会社のことです。
特別子会社が資産管理会社である場合は、特別子会社が保有する株式なども特定資産に含めます。被判定会社だけでなく、特別子会社の保有資産状況によっても特定資産の総価額が変わることに注意しなくてはなりません。
特別子会社が上場企業や風俗営業会社である場合は、親会社も事業承継税制を活用した節税対策が行えなくなります。
事業承継税制の適用要件
事業承継税制の利用には複数の条件が定められています。相続税・贈与税の猶予措置を受けるために必要な要件は以下の6点です。
- 経営承継円滑化法で規定する中小企業であること
- 非上場会社であること
- 風俗営業会社でないこと
- 資産管理会社でないこと
- 総収入金額がゼロでないこと
- 従業員数がゼロでないこと
これらの要件全てを満たさないと事業承継税制の優遇措置は受けられません。ただし、資産管理会社の判定は、特別な要件を達成することで適用を受けることも可能です。この場合は、事業の実態があると認められるかどうかが判定のポイントになります。
資産管理会社が事業承継税制を受けるための条件は、次の章をご覧ください。
2. 資産管理会社が事業承継税制の適用となる場合の定義
資産管理会社でも事業承継税制の適用を受けることは可能です。以下3点全ての事業実態要件を満たす場合は、資産管理会社に該当しないとみなされ、事業承継税制の適用を受けられます。
- 3年以上継続して商品販売・役務提供などを行っている
- 親族を除いた従業員が常時5人以上いる
- 事務所や店舗など固定施設を所有または賃借している
3年以上継続して商品販売・役務提供などを行っている
1つ目の要件は、事業承継以前に3年以上継続して業務を営んでいることです。ここでいう業務とは、「租税特別措置法施行規則の第23条の9第5項」で定められる以下の業務をさします。
- 商品販売・資産の貸付・役務などの提供で、継続して対価を得て行われるもの(商品の開発・生産または役務の開発を含む)
- 商品販売などを行うために必要な資産の所有または賃借(事務所は店舗などは除く)
- 前二号の業務に関連するもの
不動産賃貸業の場合、自社所有の不動産を第三者へ賃貸していても特定資産です。賃貸物件を多く所有している不動産会社は、一般的に資産管理会社と見なされることが多いでしょう。
ただし、3年以上継続して事業を行っていて、以下の2点の要件ともに満たせば、事業承継税制の適用を望めます。
親族を除いた従業員が常時5人以上いる
2つ目の条件は、常時使用する従業員が5人以上雇っていることです。従業員数として認められる基準は、社会保険に加入しているかどうかですが、以下のような判定除外条件もあります。
- 社会保険に加入している
- パートタイマーでも社会保険に加入していれば可
- 後継者と生計を一にする親族を除く
- アルバイトを除く(社会保険に入れない)
- 役員を除く
- 75歳以上は社会保険に加入できないため代わりに2カ月以上の雇用契約があれば従業員と見なされる
要注意点としては、事業承継税制で納税猶予や免除を受ける場合、ずっと継続して要件を満たしていなければなりません。つまり、何らかの事情で従業員数が5人未満となった場合、猶予措置は解除され、相続税または贈与税を納税しなければなりません。
従業員に該当するケース
従業員に該当するかどうかは、「社会保険に加入しているかどうか」が判断基準です。パートタイマーであっても1週間の労働時間、並びに1か月の労働時間が正社員の75%以上であれば社会保険に加入しなければなりません。
他にも、社会保険に加入できなくても2か月以上雇用契約のある75歳以上の授業員も該当します。
まとめると、以下の条件に当てはまると、従業員として該当するといえます。
- 生計を別にする親族を含み、社会保険に加入している従業員
- 社会保険に加入しているパートタイマー
- 2か月以上の雇用契約がある75歳以上の従業員
従業員に該当しないケース
従業員に該当しない人は、社会保険に加入していない労働者、並びに社長です。社長は社会保険に加入していたとしても従業員とはなりません。
まとめると、以下のケースでは従業員としてみなされません。
- 社会保険の加入対象とならないパートタイマーやアルバイト:(1週間の労働時間、1か月の労働時間が正社員の75%に達していない場合)
- 社長
事務所や店舗など固定施設を所有または賃借している
3つ目の条件は、事務所や店舗、工場などの固定施設を所有しているか貸借していることです。子会社から賃貸を受けている場合も含まれます。
事業承継税制の事業実態要件で問題になるのは、従業員の要件になります。資産管理会社に該当する会社は業務量が少なく、従業員5名以上を雇うことは少ないからです。実質的に何らかの事業活動を行っている会社でなければ、事業承継税制を適用を受けられません。
3. 資産管理会社の判定フロー
資産管理会社の事業承継税制の適用は、形式要件と事業実態要件が重要なポイントです。ここまでの流れをまとめると、以下のようなフローになります。
【形式要件】 総資産のうち特定資産の割合が70%未満 総収入金額のうち特定資産の運用収入が75%未満 ↓ |
|||
はい 70%未満、または75%未満 ↓ |
いいえ 70%以上、または75%以上 ↓ |
||
↓ | 【事業実態要件】 1.業務の3年以上の継続 2.従業員が5人以上 3.事務所などの所有や賃借 ↓ |
||
はい 要件を全て満たす ↓ |
いいえ 要件を満たさない ↓ |
||
資産管理会社ではない 事業承継税制を適用できる |
資産管理会社に該当 事業承継税制を適用できない |
4. 納税猶予の取り消し事由について
納税猶予が取り消しとなる事由として挙げられるものとして、「資産管理会社に該当することになった」ということがあります。一度資産管理会社に該当しないと判断され、事業承継税制を受けることができるようになっても、その後、状況が変わり条件を満たさなくなると取り消しされるといえるでしょう。
ここでは納税猶予の取り消し事由について紹介します。
資産運用管理会社に該当してもすぐには納税義務が発生しない
事業承継税制を受けることができていた企業が、資産管理会社に該当すると判断されたとした場合、以前は即時納税の必要がありました。現在は6か月の猶予が設けられ、すぐには納税義務が発生しません。
緩和措置について詳しく解説します。
納税取り消し事由の緩和措置(平成31年度税制改正)
平成31年度税制改正により、納税取り消し事由に対する緩和措置が導入されました。改正のポイントは、上記の通り納税猶予期間が6か月ある、という点です。
改正前と改正後の違いについて、以下で解説します。
改制前
改正前は、やむを得ない事由により資産管理会社として該当するとみなされた場合、納税猶予が取り消しされ、即税金を払う必要がありました。そのため、納税猶予を受ける際には、将来取り消しとなる可能性を視野に入れ、納税能力を確認することが必要でした。
改制後
改正後は納税猶予を受けた場合に取り消し事由が発生しても、納税義務は即時発生しないものとなりました。6か月間の猶予期間があり、その期間内に資産管理会社に該当しなくなった場合には納税は必要ありません。
これは改正された平成31年4月1日以降にやむを得ない地涌により資産管理会社に該当するとみなされた場合に有効となります。
資産保有型会社の判定上やむを得ない場合
資産保有型会社として判断する際のやむを得ない場合であると判断されるポイントは2つあります。
- 借り入れを行った場合
- 損害の保険金を受け取った場合
1つは、事業継続のために借り入れを行った場合であり、2つ目は事業で使っていた資産の譲渡や、資産に生じた損害の保険金を受け取った場合です。このようなことを行った結果として特定資産の割合が70%を超えた場合には、発生してから6か月間は資産保有型会社としてみなされないものとなります。
資産運用型会社の判定上やむを得ない場合
資産運用型会社の場合、やむを得ない場合と判断されるのは、事業を継続するうえで必要となる資金調達のために特定資産の譲渡を行った場合です。これが発生したことで、全ウリ高に対して特定資産運用収入が75%以上を占めた場合に、該当します。
事象発生した事業年度から、その事業年度末翌日を超えて6か月経過した日の事業年度までの各事業年度で、資産保有型会社としてみなされない、という判断となります。
5. 事業承継税制を受ける際の資産管理会社判定の時期
事業承継税制を受ける際の資産管理会社の判定時期は、贈与あるいは相続する年の直前にあたる事業年度開始の日から納税猶予の期限確定日までです。
判定時期は資産保有型会社と資産運用型会社による違いはなく、どちらも同期間中の純資産や総収入金額をもとにして形式要件の判定を行います。事業承継税制の適用に向けて早期から準備を進められる場合、形式要件や事業実態要件を満たせるように調整することも可能です。
6. 事業承継税制の相談は専門家にお任せ
事業承継税制の適用を受けられると納税負担を軽減できます。しかし、資産管理会社の事業承継税制は注意しなければならないポイントが多いです。事業承継税制の猶予措置を受けながら事業承継をスムーズに進めるためには、M&A・事業承継の専門家のサポートが不可欠といえるでしょう。
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7. 資産管理会社は事業承継税制の適用外?まとめ
資産管理会社は原則として事業承継税制の対象外ですが、事業実態要件を満たすことで判定を回避して猶予措置を受けることも可能です。要件以外にも事業承継税制自体の手続きも行う必要があります。
事業承継税制の手続きは複雑なものが多いので、初期段階からM&A仲介会社などの専門家に相談して進めるのがおすすめです。本記事の概要は以下のようになります。
・資産管理会社のまとめ
→資産管理会社には資産保有型会社と資産運用型会社の2種類がある
→資産保有型会社:総資産のうち特定資産の割合が70%以上
→資産運用型会社:総収入金額のうち特定資産の運用収入が75%以上
→資産管理会社は事業実態要件を満たすことで事業承継税制の適用を受けられる
・資産管理会社の事業実態要件
→3年以上継続して商品販売・役務提供などを行っている
→親族を除いた従業員が常時5人以上いる
→事務所や店舗など固定施設を所有または賃借している
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