事業承継支援機関とは?支援機関の成り立ち・制度・選び方を徹底解説

会計提携第二部 部長
向井 崇

銀行系M&A仲介・アドバイザリー会社にて、上場企業から中小企業まで業種問わず20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、不動産業、建設・設備工事業、運送業を始め、幅広い業種のM&A・事業承継に対応。

事業承継支援期間は数多くあります。しかし、どのような成り立ちでどういった制度のもと活動しているのか、特徴や種類、メリット・デメリットなどを知っておかなければ正しく活用できません。本記事では事業承継支援機関について、どのような機関なのか詳しく解説し、適切な支援を受けられる方法を紹介します。

目次

  1. そもそもM&A(事業承継)支援支援機関とは?
  2. M&A支援機関登録制度とは?
  3. 事業承継支援機関・サービス一覧!
  4. 事業承継支援機関・サービスを利用するメリット・デメリット
  5. 事業承継支援機関・サービスの選び方5つ
  6. 事業承継支援機関・サービス一覧まとめ
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1. そもそもM&A(事業承継)支援支援機関とは?

M&A(事業承継)支援支援機関とは、企業のM&A(合併・買収)、事業承継におけるアドバイザーとしての役割を担う専門の機関です。M&Aや事業承継には、法律や税務、財務、人事など、様々な分野に精通した知識が必要です。

このような専門知識を持つ支援機関が企業のM&Aや事業承継に関する戦略立案や実務において、アドバイスや支援を提供します。

M&A支援機関の概要

M&A支援機関は、企業のM&Aや事業承継に関する戦略立案や実務において、アドバイスや支援を提供します。具体的には、以下のような業務を行います。

  • 企業価値評価
  • 交渉支援
  • デューデリジェンス(事前尽職調査)
  • 契約書作成支援


企業価値評価:M&Aや事業承継において、企業の評価は非常に重要です。M&A支援機関は、企業の評価に関する専門知識を持っており、客観的かつ適切な評価を行います。

交渉支援:M&Aや事業承継には、多くの場合、交渉が伴います。M&A支援機関は、交渉に必要な情報収集や分析を行い、交渉に有利な立場を築くことを支援します。

デューデリジェンス(事前尽職調査):M&Aや事業承継の際には、対象企業の詳細な情報を収集する必要があります。M&A支援機関は、対象企業の財務、法務、人事などの分野についてデューデリジェンスを行い、問題点やリスクを明らかにします。

契約書作成支援:M&Aや事業承継の際には、契約書を作成する必要があります。M&A支援機関は、適切な契約書作成を支援し、法的リスクを最小限に抑えるためのアドバイスを提供します。

M&A支援機関の種類

M&A支援機関には、以下のような種類があります。

  • 投資銀行
  • 法律事務所
  • 会計事務所
  • コンサルティングファーム
  • 企業再生支援機関

投資銀行
投資銀行は、企業のM&Aや事業承継において、アドバイザーとしての役割を担います。主に、企業価値評価、財務分析、交渉支援、契約書作成支援などの業務を行います。投資銀行は、M&A市場の情報に詳しく、交渉の力関係や市場動向などの情報を提供することができます。

法律事務所
法律事務所は、M&Aや事業承継において、法律的なアドバイスを提供します。主に、契約書の作成や法的リスクの評価、訴訟リスクの評価などの業務を行います。法律事務所は、企業の法的問題について専門的なアドバイスを提供することができます。

会計事務所
会計事務所は、M&Aや事業承継において、財務面でのアドバイスを提供します。主に、財務分析や企業価値評価、デューデリジェンスなどの業務を行います。会計事務所は、企業の財務状況について専門的なアドバイスを提供することができます。

コンサルティングファーム
コンサルティングファームは、M&Aや事業承継において、戦略的なアドバイスを提供します。主に、M&A戦略の策定、企業再編のアドバイス、事業承継の支援などの業務を行います。コンサルティングファームは、企業の戦略について専門的なアドバイスを提供することができます。

企業再生支援機関
企業再生支援機関は、M&Aや事業承継において、事業再生やリストラクチャリングの支援を提供します。主に、財務再生の支援、経営改善のアドバイス、業務再編の支援などの業務を行います。企業再生支援機関は、企業の再建について専門的なアドバイスを提供することができます。


以上が、M&A支援機関の代表的な種類です。それぞれの種類によって、提供するサービスや得意分野が異なります。また、M&A支援機関は、複数の種類の専門家が所属しており、複合的なアドバイスを提供することができます。企業は、自社のニーズに合わせて、適切なM&A支援機関を選択することが重要です

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2. M&A支援機関登録制度とは?

M&A支援機関登録制度とは、経済産業省が行っているM&A支援機関の登録制度です。M&A支援機関は、企業にとって重要なパートナーであるため、企業が信頼できる支援機関を選択できるよう、登録制度が設けられています

M&A支援機関登録制度に登録された支援機関は、企業に対して、適切かつ専門的なアドバイスを提供することが求められます。M&A支援機関登録制度には、以下のような要件があります。

M&A支援機関登録制度創設の流れ

中小企業の後継者問題や業務の効率化、企業の成長を促すために、M&Aという手段が注目されています。そのため、M&A支援業者の数も増え、選択肢が多くなりました。

しかし、M&Aに関する知識や経験が不十分な業者も存在し、依頼企業とのトラブルが起きることもあります。このため、経済産業省は、中小企業が安心してM&A支援機関を選ぶことができるよう、M&A支援機関登録制度を創設しました。

登録制度には、一定の基準を満たした支援機関が登録され、中小M&Aガイドラインを遵守することが求められます。これにより、中小企業が適切なM&A支援機関を選び、M&Aに関するトラブルを減らすことが期待されています。

M&A支援機関登録制度の概要

M&A支援機関登録制度は、経済産業省が設けた制度であり、中小企業が安心してM&A支援機関を選ぶことができるよう、登録基準をクリアした支援機関を登録しています。登録された支援機関は、中小M&Aガイドラインを遵守することが求められ、中小企業がM&Aに関するトラブルを減らすことが期待されています。

登録制度には、以下のような詳細があります。

登録するための条件

M&A支援機関登録制度に登録するためには、以下の3つの条件が必要です。

  1. 中小M&Aガイドラインの遵守
  2. 料金表の提出
  3. 情報提供窓口への制限禁止

①中小M&Aガイドラインの遵守
中小M&Aガイドラインには、中小企業のM&A支援において遵守すべき行動指針が示されています。登録支援機関は、このガイドラインに基づいた適切な支援業務を行うことが求められます。

②料金表の提出
登録支援機関は、報酬体系が透明かつ公正であることを証明するため、料金表を提出する必要があります。このことで、依頼企業側も料金について安心することができます。

③情報提供窓口への制限禁止
登録支援機関にM&Aの支援業務を依頼した場合でも、依頼企業はなんの制約もなく、情報提供窓口に相談できます。また、虚偽の内容を含む申請を行った場合は、登録が取り消されるだけでなく、民法上および刑法上の法的責任が問われることになります。

登録対象

M&A支援機関登録制度では、登録対象となるのは、M&Aの支援業務を行う機関です。つまり、企業がM&Aに関する業務を行う際に、支援を受けるために利用する機関が対象となります。

ただし、デューデリジェンス業務のみを行う士業などの専門家は、M&A支援機関登録制度の対象外となります。

登録後の遵守事項

M&A支援機関登録制度に登録されたFAや仲介業者は、以下のことを遵守する必要があります。これらのルールは、企業がM&A支援機関を選ぶ際に、安心・信頼を高めるために必要なことです。

  • 宣言
  • 説明
  • 報告

宣言
登録支援機関は、自社のホームページ上で中小M&Aガイドラインを遵守することを宣言する必要があります。もしホームページを持っていない場合は、資料やパンフレットなどで中小M&Aガイドラインの遵守を掲載することが求められます。

説明
登録支援機関は、依頼企業と契約を結ぶ前に、中小M&Aガイドラインを遵守していることを説明しなければなりません。この説明は、資料やパンフレットを用いることができます。

報告
登録支援機関は、年度ごとに成約実績についてM&A支援機関登録事務局に報告する必要があります。このことで、登録支援機関が中小企業に対して適切な支援業務を提供しているかを監視することができます。

登録の取り消し

M&A支援機関登録制度では、登録支援機関が以下の条件に違反した場合は、登録が取り消されることになっています。

  • 不正な方法で登録を申請した場合
  • 正当な理由がないにも関わらず、実績報告を行わない場合
  • ホームページやパンフレットなどで、自社が中小M&Aガイドラインを遵守していることを公表していない場合
  • 中小企業などから多数の情報提供受付窓口に相談が寄せられた結果、M&A支援機関として登録するのが適当ではないと判断された場合

登録が取り消された場合、その旨が公表されるだけでなく、補助金の事業承継・引継ぎ補助金において、登録が取り消されたことが通知されることになっています。

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M&A支援機関の検索方法

中小企業庁では、中小企業の事業承継を後押しするための支援策として、登録支援機関のデータベースを運用しています。ここでは、企業名/事業所名(商号)などの情報を入力することで、事業承継・引継ぎ補助金で仲介手数料やフィナンシャルアドバイザー費用が補助対象となる登録支援機関を検索することが可能です。

3. 事業承継支援機関・サービス一覧!

帝国データバンクの全国・後継者不在企業動向調査によると、2019年の中小企業の後継者不在率は65.2%であることが判明しました。60歳以上の経営者のうち、50%以上が将来的な廃業を予定しています。後継者不足が与える影響が広がっていることが分かります。

後継者不足による廃業を回避するためには、企業が独自で事業承継に取り組むことも大切でしょう。しかし、外部の支援機関・サービスの支援を受けながら、事業承継を進める方法もあります。

事業承継の支援を受けられる機関・サービスは多数あります。公的・民間の両方が行っているので、各機関・サービスの特徴を押さえておくと、事業承継の選択の幅を広げられるでしょう。

公的な事業承継支援機関・サービス

まずは、公的な事業承継支援機関・サービスの特徴を紹介します。積極的な支援を行っているのは以下のとおりです。

【公的な事業承継支援機関・サービス】

  • 事業承継・引継ぎ支援センター
  • 後継者人材バンク
  • よろず支援拠点
  • 事業承継ガイドライン
  • 農林水産省の手引書
  • 中小企業基盤整備機構ファンド事業

事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターは、事業承継に関する無料相談ができる支援機関です。全国47都道府県に設置され、事業承継全般に関する相談・情報提供・助言や、事業承継計画の策定、M&Aのマッチング支援などを、原則無料で行っています。

相談窓口では、事業承継コーディネーターやサブマネージャーが相談を受け付け、さまざまな課題を整理しながらアドバイスします。それ以外にも、税理士や中小企業診断士などの専門家と連携を取り、事業承継計画の策定を支援してくれるため安心です。

事業開始時は設置地域も限定的だったため、相談数も伸び悩んでいました。しかし、現在は全国に拡充されており、地方の中小企業の相談先として認識が広まりつつあります。

中小機構の事業引継ぎポータルサイトの情報によると、令和元年の相談件数は48,000件を超えています。民間の支援機関を利用する際のセカンドオピニオンとして活用されることも多いようです。

後継者人材バンク

後継者人材バンクは、事業承継・引継ぎ支援センター内に設置されているマッチング支援システムです。後継者不在の事業者と創業希望者を引き合わせることで、廃業を回避させることを目的としています。

後継者に求める情報を登録しておくと、近い条件の創業希望者が現れた時に自動でマッチングしてくれます。登録する創業者も事業に意欲のある人材ばかりなので、経営を任せられる適任者である可能性も高くなるでしょう。

支援範囲はマッチングまでとなっています。後の交渉は当事者同士で進めなくてはなりません。進行に不安がある場合は、センターに相談して、専門家の紹介を受けるなどの対策が必要になります。

よろず支援拠点

よろず支援拠点は、国が全国に設置する中小企業・小規模事業者の経営相談所です。多様な分野に精通した専門家が在籍しており、経営者の悩みに耳を傾けて、根本的な課題解決を支援しています。

支援範囲は幅広く、チーフコーディネーターによるヒアリング、アドバイザーによるフォローアップなど、充実した内容になっています。相談内容は事業承継に限定されていないため、気軽に相談できるでしょう。

公式サイトに公開されている活動実績では、令和元年の相談件数は326,584件となっています。平成26年の利用件数と比較すると、約5倍の件数になっており、多くの事業者の間で認識が広がっていることが分かります。

事業承継ガイドライン

事業承継ガイドラインは、中小企業庁が公式サイトで公布している事業承継に関する手引書です。後継者問題が深刻化する中、各事業者に早期かつ計画的な準備を促すために公布されています。

全6章で構成されており、事業承継対策の必要性や取り組み方が盛り込まれています。事業承継の大まかな方針を立てる際に役立つので、事業承継計画を立てる前に一度は目を通しておきたい手引書といえるでしょう。

事業承継の類型ごとの解説もあります。親族への承継・従業員承継・M&Aによる事業承継の3タイプの特徴や取り組み方など、目的に合わせた事業承継を選ぶ際にも参考になる情報が載っています。

農林水産省の手引書

農業経営者に向けた事業承継の手引書です。法人経営の事業承継を前提として作成されています。しかし、家族経営や個人事業主でも事業承継のタイミングは訪れるため、参考になる情報は多いでしょう。

農業の事業承継は、農地や農機具などの有形資産や技術・ノウハウなどの無形資産を引き継ぐ必要があります。規模が大きくなる傾向にあり、事業承継の準備に10年前後かかることも珍しくありません。計画的に取り組む必要があるでしょう。

中小企業基盤整備機構ファンド事業

ファンドから投資を受け、資金調達を希望する中小企業者に向けて、ファンドの情報提供をしてくれます。その他にも、投資を受ける際の交渉のアドバイスや、交渉の際に必要な経営計画・資金計画の作成をサポートする事業です。

ファンドを活用したMBO(Management Buyout)を含む事業承継ができます。投資を受ける際の流れは以下のとおりです。

  • ファンド運営会社による投資の検討
  • 経営計画・事業計画書の策定
  • 投資会社を探す(ファンド検索システムを利用)
  • 投資会社へ問い合わせる
  • 経営計画・事業計画書の提出
  • 投資会社による審査・決定

公的な事業承継支援制度

ここまでの事業承継支援機関・サービス以外にも、複数の公的な事業承継支援制度があります。主な支援制度は以下のとおりです。

  • 事業承継・引継ぎ補助金
  • M&A支援機関登録制度
  • 法人版事業承継税制
  • 個人版事業承継税制
  • 経営資源集約化税制
  • 登録免許税・不動産取得税の特例
  • 日本政策金融公庫などの融資、信用保証
  • 事業承継時の経営者保証解除支援
  • 遺留分に関する民法の特例
  • 所在不明株主に関する会社法の特例

事業承継・引継ぎ補助金

事業承継・引継ぎ補助金とは、中小企業・小規模事業者などの事業承継や経営資源引継ぎを支援する制度です。事業再編・統合などを行う事業承継の積極的推進や、経営革新を進める場合にかかる経費の一部を補助してくれます。

事業承継を機に新たな取り組みを始めようとする中小企業者は、ぜひこの制度を活用するとよいでしょう。事業承継・引継ぎ補助金には、下記のように大きく3つの種類があります。

  • 事業承継・引継ぎ補助金(経営革新)
  • 事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用)
  • 事業承継・引継ぎ補助金(廃業・再チャレンジ)

経営革新は、さらにⅠ型(創業支援型)・Ⅱ型(経営者交代型)・Ⅲ型(M&A型)に、専門家活用は、Ⅰ型(買い手支援型)・Ⅱ型(売り手支援型)に分かれます。

それぞれの類型ごとに補助金額や条件が異なるため、自社に合ったものを申請しましょう。

M&A支援機関登録制度

M&Aを支援する機関には、M&A仲介会社・金融機関・士業などの専門家(公認会計士や弁護士など)・M&Aプラットフォーマー・事業承継・引継ぎ支援センターなどがあります。昨今、M&Aのニーズが高まるにつれ、M&Aを支援する事業者が急激に増えつつあります。

M&A支援機関登録制度とは、一定の基準を満たした支援機関を登録し、中小企業者が安心して支援機関を選べるようにした制度です。事業承継・引継ぎ補助金の専門家活用型を申請する際、このM&A支援機関登録制度に登録した業者の支援のみが対象となります。

法人版事業承継税制

事業承継税制とは、非上場の中小企業において、後継者に会社を引き継ぐ際に相続税や贈与税が発生する場合、その負担を軽減させることを目的とした制度です。事業承継税制には、法人版と個人版があります。

具体的には、後継者である相続人などが、非上場株式などに係る相続税や贈与税について、一定の要件を満たした場合に納税を猶予されます。その後継者が死亡した場合、猶予されている相続税や贈与税が免除される制度です。

一般措置と特例措置とは、平成30年度の税制改正後を特例措置と呼び、それ以前を一般措置としています。この制度を活用するには、次のような要件を満たさなければなりません。

  • 経営者:会社の代表者であった、贈与(相続)直前に、親族内で議決権数の過半数を保有、親族内で筆頭株主など
  • 後継者:会社の代表者である、生前贈与で親族内における議決権数の過半数を保有、18歳以上(贈与)、役員就任後3年経過している(贈与)
  • 会社が満たすべき要件:主に中小企業者であること

それ以外にも、細かい要件が設定されています。詳細は、中小企業庁の公式サイトをご確認ください。

個人版事業承継税制

個人事業主の特定事業用資産の承継に伴う相続税・贈与税の負担を100%ゼロにする制度です。令和元年度の税制改正で新たに創設されました。

申請時に条件があり、2024年3月までに個人事業承継計画を策定し提出しなければなりません。そして、2028年までに事業承継を実施する必要があります。

認定申請時は、贈与税・相続税とも、先代から後継者へ贈与・生計一親族などから後継者へ贈与する場合によって、申請様式が異なります。中小企業庁の公式サイトをよく確認のうえ、この制度を活用するとよいでしょう。

経営資源集約化税制

経営資源集約化税制とは、経営力向上計画の認定を受けた中小企業者がM&Aを実施した場合、経営を安定しやすくするために、2020年12月に制定されました。具体的には、次のような税制措置を活用できます。

  • 設備投資減税:経営力向上計画に基づき設備などを取得した場合、投資額の10%を税額控除、または全額即時償却する。
  • 準備金の積立:経営力向上計画に沿ってM&Aを実施した後に発生し得るリスクに備え、投資額の70%以下の金額を準備金として積立できる。株式譲渡の際に適用。

登録免許税・不動産取得税の特例

経営力向上計画に認定を受けた中小企業者がM&Aを実施する際に、不動産の権利移転にかかる登録免許税と不動産取得税を軽減する制度です。具体的には、他の中小企業者から事業承継を行うために合併、会社分割、事業承継を行う際、不動産権利移転がある場合に適用となります。

日本政策金融公庫などの融資、信用保証

中小企業の事業承継を支援する目的で、「経営承継円滑化法」が制定されています。その中の金融支援に、融資と信用保証があります。

融資は、日本政策金融公庫と沖縄振興開発金融公庫の融資制度の利用が可能です。株式の買い取りや相続税・贈与税納付などの承継時に必要な資金として、会社の代表者が融資を受けられる制度です。

融資支援の対象者は、中小企業の代表者と、これから他の中小企業者の経営を承継する予定の事業を営んでいない個人となります。それ以外にも、都道府県知事の認定が必要です。

信用保証は、経営承継円滑化法に基づく認定の後、金融機関から資金を借り入れる際、信用保証協会の通常枠とは別に枠が用意されています。支援の対象者は、中小企業者、中小企業の代表者、他者から経営を承継する予定の中小企業者、他者から経営を承継する予定の事業を営んでいない個人です。

事業承継時の経営者保証解除支援

事業承継時の経営者保証に関する支援もあります。具体的には、「経営者保証に関するガイドライン」の特則の適用と、経営者保証解除に向けた、「経営者保証コーディネーター」による支援、経営者保証が不要の「事業承継特別保証」です。

「経営者保証に関するガイドライン」の特則の適用は、原則として、経営者と後継者の双方から二重に保証を求めないことです。「経営者保証コーディネーター」による支援は、経営者保証解除に向けた、中小企業者と金融機関との目線合わせをサポートします。

「事業承継特別保証制度」は、経営者保証不要の保証制度です。既存の個人保証ありの借入からの借り換えもできます。

遺留分に関する民法の特例

株式の集約から中小企業を支援する施策もあります。後継者が「遺留分に関する民法の特例」の適用を受けられます。これには前提条件があり、相続遺留分の権利がある者全員と合意があることや、所要の手続きをすることを行わなければなりません。

遺留分とは、民法で定められている決まりです。遺族の生活安定や平等などの点から、相続人に最低限の相続の権利を保障することをいいます。

後継者に自社株や資産を集中させたくても、他の相続人からこの遺留分を主張されると、事業承継がスムーズに進みません。トラブルに発展することもあるでしょう。この特例の適用を受けると、相続による親族との紛争や、自社株・事業資産の分散を回避できます。

経営承継円滑化法で定められており、中小企業庁で確認を行っています。後継者への承継をスムーズに行うために有効といえるでしょう。

所在不明株主に関する会社法の特例

先の「遺留分に関する民法の特例」と同様、「経営承継円滑化法」の中に、「所在不明株主に関する会社法の特例」があります。所在不明株主の株式取得にかかる手続きの期間を短縮できるでしょう。

現行の会社法では、所在不明株主に対して行う通知や手続きに要する期間は5年と定められています。これでは事業承継がスムーズに進まないため、1年に短縮する特例が創設されました。

経営承継円滑化法におけるこの会社法特例を利用するには、中小企業者が経営困難であることや、円滑な承継が困難である一定の要件を満たさなければなりません。詳細は、中小企業庁の公式サイトをご確認ください。

民間の事業承継支援機関・サービス

続いて、民間の事業承継支援機関・サービスの特徴を紹介します。公的の支援機関と比較すると、事業者数が多いため選択肢が広がるでしょう。特に精力的に活動している民間の支援機関・サービスを紹介します。

M&A仲介会社

M&A仲介会社は、M&Aの専門家による仲介支援を提供している支援機関です。譲渡企業と譲受企業の間に入り、中立的な立場から情報提供・助言などを行い、M&Aの成約を目指します。

アドバイザリー型と呼ばれる、依頼者の利益最大化を優先するタイプもあります。一般的な仲介型と比較すると、手数料が高くなる傾向です。事業承継に求める条件を通しやすくなるメリットがあるでしょう。

特徴は、相談から成約までの一貫した支援があげられます。多くの仲介会社は、幅広い分野の専門家が在籍していて、一貫した支援体制を確立しています。依頼者の立場としては、複数の支援機関を介さなくても成約しやすい点がメリットといえるでしょう。

仲介会社は事業承継支援も手掛けていることが多いです。M&Aの仲介支援で培われたノウハウは、事業承継の後継者探しにも活用されています。

弁護士・公認会計士・税理士など

弁護士・公認会計士・税理士などの士業も事業承継支援を手掛けています。事業承継を進めるためには幅広い分野の知識が必要になるので、各士業の支援を受けるのがおすすめです。

弁護士は、法務リスクの調査や各種契約書のチェックなどの役割を持ちます。法務面のチェックを怠ると事業承継の正当性が失われてしまうこともあるため、大変重要な役割といえるでしょう。

公認会計士は、財務デューデリジェンスや企業価値評価を担当します。適正な価格を算定するために、客観的な視点からの調査や評価が求められます。

税理士は、税金対策や確定申告処理などを行います。親族への事業承継の場合は相続税・贈与税、M&Aによる事業承継の場合は法人税が課せられるので、税務の知識が必要になります。

M&Aマッチングサイト

M&Aマッチングサイトは、オンライン上でM&A・事業承継案件をチェックできる支援サービスです。譲渡・譲受の双方が気軽にチェックできるので、事業承継の第一歩として活用されています。

支援範囲はマッチングする場の提供に留めているサービスが多いため、手数料が比較的割安になることが多いでしょう。費用面の負担が心配な事業者も利用しやすく、小規模事業者や個人事業主も積極的に活用しています。

詳細な支援範囲は、サイトによって違いが見られます。利用の際は、複数のサイトを比較検討するとよいでしょう。

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その他身近な相談先

事業承継支援を行っている相談先は身近にもあります。

取引のある金融機関

取引先の金融機関であれば、事業承継の相談がしやすいでしょう。昨今はM&A・事業承継を取り扱っている金融機関などもあります。また、金融機関は地域経済に大きな影響力を持つ存在とし地元企業の豊富なネットワークがあるため、M&Aの相手先を紹介してもらえるケースもあるでしょう。

親族・知人

親族や知人に相談をし、後継者候補を探す方法もあるでしょう。親族内に後継者候補がいる場合は、事業を引き継ぐことが可能です。M&Aによる事業承継を検討している場合は、事前に親族に相談することでトラブルを避けられます。


あるいは知人を介して後継者を探す方法もあります。しかし、後継者候補は限定的であり、経営者の資質があるかは不明なため難しいかもしれません。

役員・従業員

役員や従業員から後継者候補を探す方法もあるでしょう。役員や従業員であれば経営理念や会社の内情などもよく知っているため、適任者がいれば安心して事業を任せることが可能です。

しかし、経営権の譲渡には有償による株式譲渡が一般的です。そのため、株式を買い取る資金力がなく、事業承継が成立しにくいというデメリットがあります。

外部・取引先の経営者

外部・取引先の経営者に事業承継支援の相談をする方法もあるでしょう。経営者同士の交流会や中小企業同好会などのネットワークを活用して後継者や事業承継先を紹介してもらえるケースもあります。しかし、希望条件と合致できる相手先が見つかる可能性は低いかもしれません。

4. 事業承継支援機関・サービスを利用するメリット・デメリット

事業承継の支援機関・サービスは、得られる効果に着目しながら決めることが大切です。この章では、公的・民間の事業承継支援機関のメリット・デメリットを解説します。

公的な事業承継支援機関・サービスを利用するメリット・デメリット

後継者問題を解消して日本経済の健全化を図るために、公的な支援機関・サービスが充実しています。まずは、公的であることから生じるメリットとデメリットを解説します。

公的な事業承継支援機関・サービスを利用するメリット

公的な事業承継支援機関・サービスを利用するメリットは、費用負担を軽くできることです。公的な支援機関は、利益をあげることを目的としていないため、ほとんどのサービスを無料で受けられます。

事業承継では、計画策定や税金、専門家の相談費用などで出費が多くなる傾向が強いでしょう。無料で助言を受けられて、大まかな方針を立てられることは、大きな利点といえます。

情報流出リスクが限りなく低いという利点もあります。円滑な事業承継の実現を活動目的としているため、利益目的で情報がやり取りされる可能性はほとんどゼロに近いといえるでしょう。

公的な事業承継支援機関・サービスを利用するデメリット

公的な事業承継支援機関・サービスを利用するデメリットは、認知度の広がりが限定的であることです。事業開始から数年がたち、利用者数・相談件数は飛躍的に増加しています。しかし、依然として支援機関の存在や支援内容を知らない事業者も多いです。

地域によっては利用者が限定的になり、後継者探しが全くマッチングしない事態も起こり得ます。そもそも、相手が見つからないと事業承継を進められないでしょう。

事業承継における一貫したサポートを受けられない点もデメリットの一つといえるでしょう。支援内容は助言・マッチング・専門家の紹介などに留まっているので、直接的な交渉や契約書の締結は自社で進めるか、他の専門家に相談・依頼する必要があります。

民間の事業承継支援機関・サービスを利用するメリット・デメリット

M&A・事業承継の需要の高まりに応じて、民間の事業承継支援機関・サービスも充実してきています。民間の支援機関を利用することで生じるメリットとデメリットを紹介します。

民間の事業承継支援機関・サービスを利用するメリット

民間の事業承継支援機関・サービスを利用するメリットは、全体的に支援内容の質が高いことでしょう。民間の支援機関は利益を出すことを目的としています。質の高い支援を提供して高い成約率を維持しなければ、業績を向上させられません。

事業承継の交渉が途中で破談にでもなると、支援機関が受ける被害が大きくなってしまいます。成約に向けた支援や努力を惜しまない傾向が強いといえるでしょう。

民間ならではのネットワークも魅力的です。早期の事業承継成約が実現することも珍しくありません。

民間の事業承継支援機関・サービスを利用するデメリット

民間の事業承継支援機関・サービスを利用するデメリットは、高額の仲介手数料がかかることでしょう。民間の支援機関の仲介により成約した場合、事業承継の譲渡価格をベースにした成功報酬が発生します。

事業承継対象の規模に応じて高くなるものです。小規模事業者は数十万円で済むこともありますが、中小企業の場合は数千万以上かかることもあります。事業承継後の資金運用に支障が出る恐れもあるので、事前に大まかに試算しておく必要があるでしょう。

支援機関によっては中立性を欠いた支援を行うことがあります。仲介をうたいながら、片方に利益を集中させるように交渉を進行させる場合があるので、自分自身で判断する力が求められるでしょう。

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5. 事業承継支援機関・サービスの選び方5つ

複数の事業承継支援機関・サービスがある中で、自社に合う支援機関・サービスを見つけるためには、選び方を押さえておくことが大切です。特に重要なポイントは以下の5つです。

【事業承継支援機関・サービスの選び方】

  1. まず事業承継の目的を明確にする
  2. 事業の分野が得意所を選ぶ
  3. 実績や経験などをよく聞く
  4. 手数料・相談料などの費用
  5. 担当した人間との相性

①まず事業承継の目的を明確にする

事業承継の目的は事業者によってさまざまです。「親族に引き継がせたい」「事業の存続を最優先にしたい」など、初期段階で目的を明確化することで、事業承継の方向性を定められるでしょう。

親族への引継ぎであれば、後継者候補に経営者のスキルを身につけさせておく必要があります。経験を積ませるために数年以上かかることも珍しくありません。早期に後継者育成を支援してくる支援機関・サービスに相談して、取り組んでおかなければならないでしょう。

後継者不在の状態で事業存続を優先する場合は、M&Aの専門家のサポートを依頼するのがおすすめです。後継者の選定・交渉や契約書の締結などを行うので、計画策定段階からM&Aの専門家に相談しておくことが望ましいでしょう。

②事業の分野が得意所を選ぶ

事業承継の支援機関・サービスは、それぞれに得意とする事業分野があります。特定の業種に特化して事業承継支援を行っている機関・サービスもあるので、相談の前に確認しておくようにしましょう。

得意な事業分野を確認する方法は、過去の実績確認が手早く済みます。民間の事業承継支援機関・サービスは、自社サイト上で実績を公開していることが多いので、参考にするとよいでしょう。

③実績や経験などをよく聞く

事業承継という大掛かりな取引を支援してもらうことになるので、支援機関・サービスの実績や経験は重要なポイントといえるでしょう。実績や経験が多いほど、多くの事業者から信頼を獲得していることを意味するので、安心して相談できます。

支援機関・サービスの実績や経験は、直接尋ねて確認する方法があります。相談の際に、自社の規模・業種と類似する実績や経験などを質問しておくとよいでしょう。

④手数料・相談料などの費用

事業承継支援機関・サービスなどの公的機関は無料で利用できるところが多いです。
しかし、民間は手数料・相談料が必要になることが一般的です。

近年はレーマン方式を用いた完全成功報酬制の業者が多くなりました。しかし、一般的とされる1~5%から大きく乖離した料率を設定しているところもあります。

着手金や中間金などの料金体系は、支援機関・サービスによって異なります。事前確認を怠ると思わぬ箇所で高額の手数料が発生することもあるので、アドバイザリー契約を締結する前に確認しておくとよいでしょう。

⑤担当した人間との相性

事業承継の支援機関・サービスに支援を依頼すると専属の担当者がつきます。事業承継の準備から成約まで一貫してサポートしてもらうことになるので、担当者との相性のよさも重要なポイントです。

M&A・事業承継の経験が豊富でサポート力の高い担当者であっても、相性が悪いと事業承継に求める条件や要望に耳を傾けてくれないなどの事態も起こり得ます。事業承継が成約するまで付き合うことになるので、事業承継全体の進行に支障が出る可能性もあります。

相性が悪いと感じたら、担当者の交代を申し出るか、他の支援機関・サービスの利用も検討した方がよい結果につながることもあるでしょう。

事業承継支援機関の登録件数

出典:https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2021/211007m_and_a_01.pdf

事業承継支援機関の登録件数は、法人1,700件、個人578件の合計2,278件でした。

また、種類別として、M&A専門業者(仲介)が544件、FAが394件、税理士が517件、公認会計士が233件、地方銀行が75件、信用金庫・信用組合が50件とされています。

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6. 事業承継支援機関・サービス一覧まとめ

公的・民間の事業承継支援機関・サービスのメリット・デメリットや選び方を解説しました。複数存在する支援機関・サービスにはそれぞれ特徴があるため、事業承継の目的に合わせて相談先を選ぶことが大切です。

円滑な事業承継を実現するためには、入念な準備が必要となります。綿密な計画が求められるので、早期から相談先を選定しておき、準備を進めておくことが望ましいでしょう。

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