M&Aによる事業承継|件数推移からメリット・デメリット、成功のポイントまで網羅的に解説

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

後継者不在の解決策として、M&Aによる事業承継が注目されています。本記事では、事業承継にM&Aが選ばれる理由や最新の動向、メリット・デメリット、成功させるためのポイントを専門家がわかりやすく解説します。

目次

  1. 事業承継M&Aとは
  2. 事業承継M&Aの件数の推移
  3. 事業承継M&Aの件数が急増している理由
  4. 事業承継M&Aのメリット・デメリット
  5. 事業承継M&Aの流れ
  6. 事業承継M&Aの相談先と費用相場
  7. M&A以外の事業承継方法
  8. 事業承継M&Aを成功に近づける企業価値向上のポイント
  9. まとめ
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1. 事業承継M&Aとは

事業承継には、親族承継や親族外承継などさまざま形がありますが、近年は事業承継M&Aの件数が急増しつつあります。

事業承継M&Aは後継者探しの範囲が限定されないため、後継者問題を抱えている中小企業などにとっても大きなメリットがあります。

事業承継とは

事業承継とは、会社の経営権や事業を後継者に引き継ぐことを指します。具体的には、株式などの「経営権」、事業用資産や資金などの「資産」、そして経営理念や技術・ノウハウ、取引先との関係性といった目に見えない「知的資産」の3つを総合的に承継することです。

経営者の高齢化が進む中で、会社の持続的な成長を実現するためには、適切なタイミングでの事業承継が不可欠となります。
 

【関連】事業承継とは?事業承継の方法・流れやポイントを徹底解説!

M&Aとは

M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略で、企業の合併や買収の総称です。複数の会社を1つに統合したり、他社の株式や事業を取得して経営権を得たりすることを指します。

かつては「身売り」といったネガティブなイメージもありましたが、現在では企業の成長戦略や事業承継問題を解決するための有効な手段として、広く認知・活用されています。


【M&Aの手法】

  1. 株式譲渡
  2. 事業譲渡
  3. その他

①株式譲渡

株式譲渡とは、株式を譲渡(売却)して他者に経営権を移転するM&A手法です。株式会社は株主が経営に対する影響力をもつため、買収側が過半数を超える株式を得ることで経営権を移転させることができます。

株式譲渡の特徴は、手続きが比較的簡便なことです。株式の売買や株主名簿の書き換えを行うことで経営権の移転が完了するので、取引先や従業員から個別に同意を得ることなく実施することができます。

中小企業のM&Aにおいては、手続きが簡便なことや経営者に株式が集中しているといった理由から、株式譲渡が利用されるケースが多くなっています。

②事業譲渡

事業譲渡とは、事業の一部あるいは全部を譲渡(売却)するM&A手法です。事業譲渡における事業とは事業に用する資産のことを指し、固定資産や人的資産なども含まれます。

会社そのものを譲渡(売却)する株式譲渡とは違い、会社の経営権に影響がないのが特徴です。また、M&A範囲を自由に選択することができるので、不要な事業を切り離して会社の再建を図ることも可能です。

売却益は会社の事業資金として活用することができ、残存事業や新規事業の立ち上げ資金にすることで、効果的な事業成長を図れます。

③その他

株式譲渡や事業譲渡以外の代表的なM&A手法には合併があります。合併とは、複数の法人格を一つの法人格に統合させるM&A手法です。

子会社として存続する株式譲渡とは違い、合併における売却側は消滅します。売却側(被合併会社)は、自社のあらゆる資産を買収側(合併会社)に包括承継した後に消滅します。

合併はより強いシナジー効果を求めて行われることが多く、完全に法人格が統一されるので、それぞれが単独で事業を行うよりも効率的な事業展開が可能になります。

事業承継とM&Aの違い

事業承継は、後継者の属性によって「親族内承継」「従業員承継(親族外)」「第三者承継(M&A)」に大別されます。つまり、M&Aは事業承継を実現するための手法の一つです。

従来は親族内承継が主流でしたが、後継者不在の企業が増加したことで、社外の第三者に事業を引き継ぐM&Aの活用が近年急速に拡大しています。

2. 事業承継M&Aの件数の推移

近年、国内市場の成熟化や少子高齢化、グローバル化などの影響により、日本企業が抱える課題は日々複雑になっています。このような課題の対策するため、事業承継M&Aの実施件数は増加傾向にあります。

中小企業白書によると、事業承継M&Aの件数は2017年に3,050件を記録しています。リーマンショックなどの社会的不況の影響で2011年までは減少傾向でしたが、2012年からは復調傾向にあり年々件数が増加しています。

中小企業の事業承継M&Aは仲介機関を介さないケースも多いため、実際に行われている件数は記録されている数字よりもさらに伸びていると予測されています。

3. 事業承継M&Aの件数が急増している理由

近年、事業承継M&Aの件数が急増しています。その理由はさまざまですが、特に大きな影響を及ぼしているのは以下の5点です。

【事業承継M&Aの件数が急増している理由】

  1. 中小企業経営者は高年齢化が進んでいる
  2. 近年では親族承継が行われなくなっている
  3. 人材の教育が必要なため従業員承継も時間的なリスクがある
  4. 廃業によるコストを考えた場合に事業承継M&A選ぶ
  5. 従業員の人手不足

①中小企業経営者は高年齢化が進んでいる

経営者の高年齢化は、リーダーシップや牽引力が低下するために経営に大きな支障がでる可能性があるので、余力のあるうちに次世代へ引き継ぐことが好ましいと考えられています。

事業承継M&Aであれば広範囲から後継者候補を探すことができるので、経営者の高年齢化が進んだ状態でも対応することが可能です。

特に、中小企業の経営者の高年齢化は加速しており、多くの中小企業が事業承継のタイミングを迎えつつあります。

②近年では親族承継が行われなくなっている

従来の事業承継は、親族に会社を引き継ぐ親族承継が主流でした。親族に引き継げるうえ、後継者候補が適格者であれば円滑に進められるなどのメリットがあるため、真っ先に検討される選択肢でした。

しかし、近年は親族承継の件数は減少傾向にあります。親族が会社や事業を引き継いでくれなかったり、少子高齢化の影響でそもそも親族内に後継者候補がいなかったりというケースが増加しています。

後継者が不在のままでは会社は廃業することになってしまうため、事業承継M&Aで後継者を探そうとする動きが強まっています。親族承継ができない企業にとって、事業承継M&Aは有力な選択肢の1つになっています。

③人材の教育が必要なため従業員承継も時間的なリスクがある

事業承継の選択肢としては、社内の役員・従業員に引き継ぐ方法もあります。従業員承継は社風や企業文化を維持しやすいメリットがある反面、教育にかかる時間が長くなりやすいというリスクもあります。

人材の教育は、後継者候補の選任から指導・育成、各種セミナーへの参加など、中長期的に取り組む必要があるので、現経営者の引退のタイミングに間に合わないケースも珍しくありません。

特に、経営セミナーの活用は、経営者に求められる一般的知識や能力を効率的に習得することができます。公的機関の商工会議所・商工会や民間の仲介機関、金融機関が開催するセミナーに積極的に参加させるなど、時間をかける必要があります。

④廃業によるコストを考えた場合に事業承継M&A選ぶ

事業承継以外に廃業という選択肢もあります。会社が抱える経営課題が多すぎる場合、無理して会社を存続させるより、廃業して会社や資産を整理しようと考える経営者も少なくありません。

しかし、廃業には解散登記・清算結了登記といった法的手続きの費用や、事務所の原状回復費用、設備・在庫の処分費用など、多額のコストと手間がかかります。

事業承継を目的としたM&Aであれば、これらの廃業コストを回避できるだけでなく、会社の価値に応じた売却益(創業者利潤)を得られる可能性があります。これにより、経営者は引退後の生活資金を確保することも可能です。
 

⑤従業員の人手不足

中小企業庁の「中小企業景況調査」によると、従業員数過不足DIは2010年から継続して低下しており、国内市場の成熟化よりも人材不足を不安要素に挙げる中小企業も少なくありません。

近年は、少子高齢化の影響で働き手不足が深刻化しており、あらゆる業種で人材獲得競争が激化しています。特に大手企業に流れる傾向が強く、中小企業の人材不足に対する不安の高まりは年々増加していると考えられます。

廃業によるリスク

人材不足が深刻化すると満足に事業を行えなくなるため、廃業リスクが高くなります。中小企業では、特に建設業とサービス業を中心に人材不足が続いており、廃業を検討するケースも増えています。

事業承継M&Aを行えば、廃業を回避することが可能です。合併を選べば会社は消滅しますが、株式譲渡であれば会社の名前を残すことも可能です。

また、人材不足という点では買収側も同じ悩みを抱えていることが多く、従業員を引き継ぐケースも珍しくないので、従業員の解雇を回避するという目的でも事業承継M&Aは有効です。

4. 事業承継M&Aのメリット・デメリット

事業承継M&Aは中小企業に中心に件数が増加していますが、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。この章では、事業承継M&Aのメリット・デメリットを解説します。

事業承継M&Aのメリット

まずは、事業承継M&Aで得られるメリットを解説します。特に影響が大きいものには、以下の6点が挙げられます。

【事業承継M&Aのメリット】

  1. M&Aにより承継先の選択肢が増える
  2. 事業規模が拡大する可能性もある
  3. 後継者問題をスムーズに解決
  4. ノウハウ・技術を伝える事ができる
  5. 売却益を得ることが出来る
  6. 個人担保・保証などから解消できる

①M&Aにより承継先の選択肢が増える

事業承継M&Aは、通常の事業承継とは違い、承継先の選択肢が豊富です。親族に後継者候補がいなくても会社を存続させることができるので、後継者不在の中小企業の有効な選択肢として徐々に浸透しています。

また、広範囲から後継者候補を選べることは会社の成長という面でもプラスになり、適格者を選びやすくなるため、事業承継M&A後の成長にも期待することができます。

②事業規模が拡大する可能性もある

M&Aの買収側は、自社グループの経営資源を共有して企業価値の向上を目指すことがほとんどです。

特に多くみられるのは、大手企業が新事業立ち上げの際に既存事業を買収するケースです。新事業をゼロから立ち上げるよりも、既に一定のノウハウを積み重ねている既存事業を買収するほうが時間効率がよいためです。

このようなケースでは、売却側が豊富な経営資源を活用することも可能です。短期間で事業規模を拡大させたい時は、あえて大手グループの傘下入りを狙うのも有効な手段です。

③後継者問題をスムーズに解決

中小企業の経営者にとって、後継者問題は頭を悩ませるものです。事業承継に万全の体制で臨むためには、後継者育成に早期着手しておく必要がありますが、なかなかリソースを回す余裕がないのが実情です。

その点、事業承継M&Aであれば買収側に後継者問題を任せることができます。常に考えなければならなかった次期後継者の選任・育成などの方針に関して、一任できるので後継者問題の悩みから解放されます。

④ノウハウ・技術を伝える事ができる

事業承継やM&Aではなく廃業を選択した場合、会社の消滅と同時にノウハウ・技術も失われてしまいます。しかし、事業承継M&Aならば培ってきたノウハウ・技術を継承することができます。

買収側としてもノウハウ・技術の取得は大きなメリットです。無形資産として高い評価を受けることもあるため、高額の売却益獲得に繋がるケースも珍しくありません。

⑤売却益を得ることが出来る

事業承継M&Aは、後継者候補に株式を売却する手法です。事業承継とは違い、買収側から株式の対価が支払われることになるので、会社の価値に応じた売却益を獲得することができます。

事業承継M&Aの取引価格は、売却側と買収側の交渉で決定されます。交渉前のシミュレーションで正確な価格は算出できませんが、買収側が名乗りを上げて交渉に発展している時点で一定以上の評価がされているといえるでしょう。

⑥個人担保・保証などから解消できる

中小企業の金融機関からの資金調達は、経営者の個人担保・保証の提供を求められることが一般的です。大手企業とは違い、経営や財務状況が不透明ということもあり、一定の保証が必要になります。

資金調達のためにはやむを得ませんが、個人担保・保証は経営者にとって大きなストレス要因にもなります。

経営状況の悪化などにより借入金の返済ができなくなった場合は、経営者の個人資産で弁済しなくてはなりません。

事業承継M&Aであれば、会社の経営権と一緒に個人担保・保証を引き継ぐことが可能です。買収側との交渉をしっかり行うことができれば、会社を手放した後に債務だけが手元に残るということはありません。

事業承継M&Aのデメリット

事業承継M&Aには沢山のメリットがある反面、いくつかのデメリットがあります。特に注意すべきデメリットには以下の4点が挙げられます。

【事業承継M&Aのデメリット】

  1. 承継相手がなかなか見付からない
  2. M&Aの成立まで時間がかかる
  3. 経営者が変わることによる旧従業員の反発
  4. 労働条件などが変更され人材が流出する可能性

①承継相手がなかなか見付からない

事業承継M&Aは広範囲から承継相手を探せるというメリットがありますが、範囲が広すぎるために承継相手をみつけづらいという問題もあります。

好条件の相手をみつけるためには相応のネットワークが求められるため、M&Aの専門家に相談するなどの対策が必要になるでしょう。
 

②M&Aの成立まで時間がかかる

M&Aの成立までには、一般的に6ヶ月から1年以上かかるとされています。相手企業の選定から始まり、トップ面談、条件交渉、デューデリジェンス(買収監査)、最終契約の締結まで、多くのステップを踏む必要があるためです。

特に交渉が難航した場合や、買い手候補がなかなか見つからない場合は、数年単位の長期戦になることも覚悟しておく必要があります。

③経営者が変わることによる旧従業員の反発

中小企業の場合、経営者のリーダーシップが経営に大きな影響を及ぼします。しかし、経営者の影響力が強いことが裏目にでてしまい、事業承継M&A後に旧従業員の反発を生む恐れもあります。

反発を防ぐためには統合プロセスの徹底が必要です。事業承継M&A後の待遇や職場環境の改善を図ることで、対処することができます。

しかし、買収側の経営方針に落ち目がなかったとしても、変化に対する嫌悪感で反発することも考えられます。このケースでは、ある程度は許容することも必要になるでしょう。

④労働条件などが変更され人材が流出する可能性

事業承継M&Aでは、従業員を引き継ぐ契約が一般的です。買収側も継続した事業展開のために、経験やノウハウを有する人材引継ぎは欠かせません。

しかし、M&Aの交渉内容次第では労働条件が変更される可能性もあります。労働条件の変更内容によっては、従業員からの猛反発を生むことにもなりかねないため、大量流出に繋がることもあります。

従業員の雇用を守るためには、交渉段階で労働条件に関する取り決めをしておく必要があります。数年間は労働条件を維持するなどの条項を盛り込むなど、交渉が必要になるでしょう。

5. 事業承継M&Aの流れ

事業承継M&Aを実行するためには、まず全体の流れを把握しておくことが必要です。この章では、事業承継M&Aの流れを解説します。

【事業承継M&Aの流れ】

  1. M&Aの専門家に相談
  2. M&Aの相談先と秘密保持契約を締結
  3. M&A先の選定・打診
  4. 基本合意書の締結
  5. 条件交渉
  6. デューデリジェンス
  7. クロージング

①M&Aの専門家に相談

事業承継M&Aは、通常の事業承継とは違い、特別な手続きが必要になります。M&A先の選定・交渉などは、M&Aセミナーでの知識では限界があるので、M&Aの専門家のサポートが必要不可欠といえるでしょう。

M&Aの専門家は沢山ありますが、特におすすめの相談先はM&A仲介会社です。M&Aの専門家であり、事業承継を扱う会社も多いので、事業承継M&Aの相談先として最適です。

②M&Aの相談先と秘密保持契約を締結

秘密保持契約とは、取引で開示する秘密情報を目的外使用しないことを誓約する契約書です。通常のビジネスシーンでも多用されますが、M&Aにおいても重要な役割をもちます。

特に、売却側は自社のあらゆる情報を提供しなくてはなりません。独自に保有するノウハウ・技術も含まれるので、流出を防ぐ目的で秘密保持契約を締結します。

③M&A先の選定・打診

M&Aの相談先と秘密保持契約を締結したら、M&A先の選定を行います。企業独自の繋がりでは範囲が限定されるため、相談先の専門家が持つネットワークを活用して広範囲からより条件の合うM&A先を探します。

複数の候補をピックアップしたらそれぞれに打診を行います。財務状況や事業の状態が分かる資料を提供してM&A先の反応をうかがうことになります。

④基本合意書の締結

基本合意書とは、最終契約に先立って締結する契約書です。今後の進行を円滑にする意味合いが強くなっており、記載される条項については最終的な内容ではなく仮決定となります。

ただし、秘密保持義務や独占的交渉権など、一部条項については法的な効力を持たせることが一般的です。法的効力については問題になることも多いので、締結前に確認しておくことが大切です。

⑤条件交渉

基本合意書を締結するとM&A成立に向けて本格的な交渉に入ります。交渉の主な内容には、譲渡価格・条件・時期などがあります。

なお、条件の後出しは、基本的にしてはなりません。M&A先に悪い印象を与えることを避けるためにも、M&Aの目的や求める条件については、漏れなく伝えておくほうがよいでしょう。

⑥デューデリジェンス

デューデリジェンスとは、事業承継M&A対象の価値・リスクを調査する活動です。不動産などの投資でも耳にすることが多い言葉ですが、M&Aの際にも必要不可欠な工程です。

書類で提供している情報と実態に差異がないか確認するために、買収側より派遣された専門家が調査します。調査範囲は財務・法務・税務などのあらゆる分野に及ぶため、基本的に時間がかかる工程です。

⑦クロージング

デューデリジェンスで深刻な問題がみつからなかった場合は、最終契約書の締結へと進みます。最終契約書は基本合意書とは違い、あらゆる条項において法的な効力を持ちます。

最終契約書の締結から一定期間を空けた後、クロージングを実施します。売却側のM&A対象の引き渡しと買収側の取得対価の支払いをもって、事業承継M&Aは完了です。

6. 事業承継M&Aの相談先と費用相場

M&Aによる事業承継を検討する際には、どこに相談すればよいのか、どのくらいの費用がかかるのかを把握しておくことが重要です。

主なM&Aの相談先

M&Aの相談先は、M&A仲介会社やFA(フィナンシャル・アドバイザー)が代表的です。その他、顧問税理士や会計士、取引金融機関、商工会議所なども相談窓口となります。中でもM&A仲介会社は、売り手と買い手の双方から中立的な立場で交渉を進め、成約までを包括的にサポートしてくれるため、初めてM&Aを検討する経営者にとって心強い存在です。

M&A仲介会社に依頼する際の費用

M&A仲介会社に依頼する場合、一般的に「相談料」「着手金」「中間報酬」「成功報酬」などの費用が発生します。料金体系は会社によって異なり、近年は着手金無料の完全成功報酬型も増えています。成功報酬は、取引金額に応じて料率が変動する「レーマン方式」が採用されることが多く、取引規模が小さい中小企業M&Aでは、最低報酬額が設定されている場合もあります。

公的機関の支援制度も活用しよう

費用を抑えたい場合や、まずは気軽に相談したい場合は、国が設置する「事業承継・引継ぎ支援センター」の活用がおすすめです。全国47都道府県に設置されており、事業承継に関する専門家への無料相談が可能です。また、同センターが運営するM&A支援機関登録制度に登録されている専門家を選ぶことで、安心して相談できる機関を見つけやすくなります。

7. M&A以外の事業承継方法

中小企業の事業承継はM&A以外にも、さまざまな選択肢があります。代表なものとしては、以下の4つが挙げられます。

【M&A以外の事業承継の方法】

  1. 親族間・従業員への承継
  2. 上場による承継
  3. 廃業
  4. マッチングサービス

①親族間・従業員への承継

経営者の子どもなどの親族や、社内の役員・従業員に事業を引き継ぐ方法です。経営方針や企業文化を維持しやすいメリットがある一方、後継者候補に株式の買取資金がない、経営者が個人で負っている債務保証の引き継ぎが難しいといった課題があります。

また、候補者本人に承継の意思がないケースも多く、近年は件数が減少傾向にあります。

②上場による承継

株式上場して自社株を売り出すという事業承継の方法もあります。上場して知名度が飛躍的に向上すると有用な人材が集まりやすくなり、優秀な後継者を選びやすくなるメリットがあります。

デメリットは、上場の審査基準をクリアできる企業にしか使えない手段という点です。証券取引所が定める一定の条件を満たすことができなければ、上場による承継は使うことができません。

③廃業

会社を存続させるためには事業承継やM&Aを行う必要があります。しかし、会社の存続に拘らない場合は、会社の廃業という選択肢もあります。

廃業は事業承継やM&Aとは違い、複雑な手続きや交渉の必要はありませんが、廃業費用の支出や従業員の解雇などが必要になるため、経営者としてはできる限り避けたい選択肢です。

④マッチングサービス

M&Aマッチングサービスを使って後継者を探す方法もあります。売却側と買収側の双方が気軽に検索できるサービスなので、M&A案件を確認する手段としても最適です。

マッチングサービスを提供しているサイトは沢山あるので、複数のサイトをチェックしておくと条件の合う案件がみつけやすくなります。

8. 事業承継M&Aを成功に近づける企業価値向上のポイント

事業承継M&Aで好条件の相手をみつけるためには、自社の企業価値向上が必要不可欠です。この章では、企業価値向上のポイント5つを紹介します。

【事業承継M&Aを成功に近づける企業価値向上のポイント】

  1. 節税をしすぎず適切な運営を行う
  2. 株主名簿・総会議事録などの管理・保管
  3. 特許などの知的財産権を取得しておく
  4. 役員間・従業員同士のトラブルがないようにする
  5. 事業承継M&Aの専門家に相談する

①節税をしすぎず適切な運営を行う

企業価値向上のポイントとして節税が挙げられることが多いですが、適正範囲を大きく超えると逆効果になることもあります。

特に注意したいポイントは、過度な経費計上です。やりすぎると本来の事業利益と節税後の利益の間で矛盾が生じ、適正な会計数値にならなくなることがあります。

財務管理が適切に行えていない企業は、M&A先に不信感を与えてしまいます。過度な節税は避けて適切な運営を心掛けることが、事業承継M&A成功の早道です。

また、節税に関する知識はセミナーで身につけることもできます。節税に焦点を当てたセミナーもあるので、普段からセミナーに足を運んでおくと適切な運営がしやすくなります。

②株主名簿・株主総会議事録などの管理・保管

株主名簿は、株主を把握するために作成される名簿です。事業承継M&Aでは株主が変更されるため、株主名簿の書き換えを行う必要があります。

議事録は、株主総会や取締役会の決議内容や出席者などが記録される正式な書面です。譲渡制限株式の場合、株主総会による承認を受けた株主総会議事録が必要(取締役会の場合は取締役会議事録)です。

どちらもクロージングの際に提出する書類なので、最終契約書の締結後の準備期間に用意しておく必要があります。

③特許などの知的財産権を取得しておく

事業承継M&Aにおいては、土地や建物などの有形資産だけでなく、特許などの無形資産も評価対象に含まれます。

特許などの活用実績や事例が少ない場合は、実態が掴みづらいことから客観的な評価が難しいとされていますが、アプローチ次第では企業価値を大幅に向上させることも可能です。

該当の分野に精通している専門家に相談することで、特許などのの知的財産権を含めた知的資産の「見える化」も行いやすくなります。

④役員間・従業員同士のトラブルがないようにする

事業承継M&Aで動く資産は物だけではありません。役員・従業員も転籍することになるので、事業承継M&A後も安定して働いてもらうためには、それぞれのケアが必要です。

役員間・従業員同士のトラブルがあると、大量の自主退職が発生する可能性があります。特に、就業規則や雇用条件に関しては徹底した説明が求められます。

事業承継M&Aにおける買収側の目的は、労働力の獲得であることが多いです。役員や従業員は人的資産として取引価格に含まれているので、交渉中に従業員の大量流出が発生すると交渉に支障が出る恐れもあります。

⑤事業承継M&Aの専門家に相談する

これまで解説したポイントを経営者自身がすべて実行するのは、大きな負担となります。事業承継を目的としたM&Aを成功させるためには、M&A仲介会社やFA(フィナンシャル・アドバイザー)といった専門家のサポートが不可欠です。

専門家は豊富な経験とネットワークを活かし、企業価値の向上策の提案から最適な相手探し、複雑な交渉までを一貫して支援してくれます。早期に相談することで、より良い条件での成約につながりやすくなります。

9. まとめ

会社を存続させるためには事業承継が必要ですが、必ずしも後継者がいるわけではありません。その際の選択肢の1つとしてM&Aが利用されるケースが増えています。

M&Aが急激に浸透していますが、それでもまだまだ身近な存在というわけではありません。事業承継やM&Aに関して疑問がある場合は、M&A仲介会社などの専門家が行う無料相談などを利用してみることもおすすめします。

【事業承継とM&Aの違い】

  • 事業承継とは会社や事業を後継者に引き継ぐこと
  • M&Aとは企業の合併や買収の総称
  • 事業承継とM&Aの違いは承継先の範囲

【M&Aの代表的な手法】
  1. 株式譲渡
  2. 事業譲渡
  3. 合併

【事業承継M&Aの件数が急増している理由】
  1. 中小企業経営者は高年齢化が進んでいる
  2. 近年では親族承継が行われなくなっている
  3. 人材の教育が必要なため従業員承継も時間的なリスクがある
  4. 廃業によるコストを考えた場合に事業承継M&A選ぶ
  5. 従業員の人手不足

【事業承継M&Aのメリット】
  1. M&Aにより承継先の選択肢が増える
  2. 事業規模が拡大する可能性もある
  3. 後継者問題をスムーズに解決
  4. ノウハウ・技術を伝える事ができる
  5. 売却益を得ることが出来る
  6. 個人担保・保証などから解消できる

【事業承継M&Aのデメリット】
  1. 承継相手がなかなか見付からない
  2. M&Aの成立まで時間がかかる
  3. 経営者が変わることによる旧従業員の反発
  4. 労働条件などが変更され人材が流出する可能性

【事業承継M&Aの流れ】
  1. M&Aの専門家に相談
  2. M&Aの相談先と秘密保持契約を締結
  3. M&A先の選定・打診
  4. 基本合意書の締結
  5. 条件交渉
  6. デューデリジェンス
  7. クロージング

【M&A以外の事業承継の方法】
  1. 親族間・従業員への承継
  2. 上場による承継
  3. 廃業
  4. マッチングサービス

【事業承継M&Aを成功に近づける企業価値向上のポイント】
  1. 節税をしすぎず適切な運営を行う
  2. 株主名簿・総会議事録などの管理・保管
  3. 特許などの知的財産権を取得しておく
  4. 役員間・従業員同士のトラブルがないようにする
  5. 事業承継M&Aの専門家に相談する

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