2024年06月20日更新
分割型分割と分社型分割とは?適格要件や会計処理から会社法上の扱いまで解説!
本記事では、分割型分割と分社型分割の違い、適格要件や仕訳・会計処理、会社上場の取り扱いや税務を解説します。会社分割には、新設分割・吸収分割の他、分割型分割と分社型分割もあるので、違いの理解が重要です。分割型分割と分社型分割について知りたい方は必見です。
目次
1. 分割型分割と分社型分割とは
会社分割とは、ある会社がいくつかの事業を同時に営んでいる場合に、そのうちの一部を他の会社へ譲り渡すことです。
事業譲渡と類似する部分もありますが、会社分割では事業を包括的に承継できる点に違いがあります。取引先などと結んでいる契約は、新たに結び直す必要がなく、分割する事業で働いている従業員から個別に同意を得る必要もありません。
会社分割は、大まかに分割型会社分割と分社型会社分割の2種類に分かれます。
事業譲渡の場合、対価は現金ですが、分割型分割・分社型分割では株式を新たに発行して対価とするのが一般的です。事業を買い取るための資金を用意できなくても、分割型分割や分社型分割を行うことが可能です。
会社分割には、分割型分割と分社型分割の分類以外に、新たに作った会社が事業を引き継ぐ「新設分割」と、もともとある会社が事業を引き継ぐ「吸収分割」の区分もあります。
対価を会社に支払うか株主に支払うかで2種類、新しい会社に引き継ぐかもともとある会社に引き継ぐかで2種類、合計で4種類の会社分割がある点を把握しておきましょう。
これら4種類の会社分割は、分割型新設分割・分割型吸収分割・分社型新設分割・分社型吸収分割と呼ばれます。
分割型分割とは
分割型分割とは、事業を譲り受けて引き継ぐ会社(承継会社)が、事業を分割して譲り渡した会社(分割会社)の株式を保有している株主に対価を払う取引です。この場合、分割会社へ対価は支払われません。
会社法では分割型分割の規定はなく、分社型分割に剰余金の配当を組み合わせたものを分割型分割と呼んでいます。分割型分割は一部の事業の譲渡を想定していますが、もしも全事業を譲渡した場合は吸収合併と同様に扱われるため、分割型分割は吸収合併と類似する部分があります。
無対価分割型分割とは
無対価分割型分割とは、分割対価資産を交付せずに分割する手法です。具体的には、分割会社の発行済み株式等を承継会社が全て保有している場合、分割会社が承継会社の株式等を保有していない場合の分割を指します。
ただ注意が必要なのは、無対価であっても分割後に当事者間の完全支配関係が継続する適格要件を満たす場合は、適格分割型分割に該当するという点です。無対価の分割がすべて「無対価分割型分割」として扱われるわけではありません。
分社型分割とは
分社型分割とは、事業を分割して譲り渡した会社が、その事業を承継した会社から対価として株式などを受け取る取引のことです。
分割型分割と分社型分割の違いは「対価を誰が受け取るか」にあるので、違いを理解するのは難しくありません。
2. 分割型分割と分社型分割の適格要件
適格要件とは、一定の条件を満たす場合に、分割型分割や分社型分割の税制が優遇される制度のことです。分割型分割や分社型分割を行う際は、適格要件を満たすかどうか確認することが大切です。
分割型分割と分社型分割の適格要件は、事業を分割する会社とそれを承継する会社間に、支配関係があるかどうかにより変動します。
株式を100%保有している場合を完全支配関係、50%超100%未満の場合を支配関係と呼びますが、分割型分割と分社型分割の適格要件は完全支配関係・支配関係・支配関係なしの場合でそれぞれ条件が変わります。
この章では、分割型分割と分社型分割、それぞれの適格要件を解説します。
分割型分割の適格要件
分割型分割では、支配株主がいない会社同士の分割である「スピンオフ分割」に特徴があります。
完全支配関係が最も条件が緩く、次いで支配関係・支配関係なしの順に条件が厳しくなっていきます。スピンオフ分割では、非支配の継続など独自の3つの条件が課せられるのが注意点です。
要件 | 株式を100%持っている | 株式を50%超持っている | 株式を50%以下持っている | スピンオフ分割 |
対価としてお金などを支払わない | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
保有株式数に比例した対価 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
株主が株を引き続き持ち続ける | 〇 | 〇 | 〇 | |
主要な事業の移転 | 〇 | 〇 | 〇 | |
事業の継続 | 〇 | 〇 | 〇 | |
事業の関連性 | 〇 | |||
事業規模の差が大き過ぎない または経営への参画 |
〇 | |||
承継会社の設立 | 〇 | |||
特定の株主が支配しない | 〇 | |||
役員に就くこと | 〇 |
金銭等を交付しない
金銭等を交付しない要件とは、事業を承継する会社が対価を支払う場合に、自社か自社の完全親会社の株式以外を交付しないことです。
案分型の交付
案分型の交付とは、株主の保有株式数に比例して対価を支払うことです。案分型の交付要件は、分社型分割で課されることはありません。
株式の継続保有
株式の継続保有要件とは、対価を受けた株主がその株式を継続して保有する見込みであることです。完全支配関係または支配関係の場合は、分割後も完全支配関係または支配関係の継続が見込まれます。
主要な事業の移転
主要な事業の移転とは、分割した事業の主要な資産と負債が承継会社に移転するとともに、分割する事業で働いていた従業員のおおむね80%以上が、承継会社で働くことが見込まれることです。
事業の継続
事業の継続要件とは、事業が分割後に営業を終了することなく継続すること、その見込みが十分にあることです。
事業の関連性
事業の関連性要件とは、分割会社が承継会社に譲り渡した事業が承継会社の営んでいる事業と関連性を持っていることです。複数の事業を営んでいる場合、そのうちのいずれかが関連性を持っていれば要件を満たせます。
規模の同等
規模の同等要件とは、分割した事業の規模と、それを承継した会社が営んでいる事業の規模が大きく違わないことです。
具体的には、売上高で約5倍、従業員の数で約5倍を超えないことと定められており、いずれか一方の条件に該当すれば要件を満たせます。
経営参画
経営参画要件とは、分割会社と承継会社の特定役員(勤続5年以下の役員)のうち1人以上が、分割後の承継会社の特定役員の職に就くこと、またはそれが見込まれることです。
法人の新設
法人の新設要件とは、分割した事業を承継する会社が既存の会社ではなく新たに設立された会社であることです。
非支配の継続
非支配の継続要件とは、分割した事業を承継した会社が特定の株主に支配されないことです。
特定役員の要件
特定役員の要件とは、事業を分割した会社の役員または重要な使用人が分割後に承継会社の役員となることです。
重要な使用人とは使用人の中で最高の権限を持つ者のことで、誰が該当するかは会社によって異なります。一般的には、理事・監事・本部長などが重要な使用人となることが多いです。
分社型分割の適格要件
分社型分割の適格要件は以下のとおりです。分割型分割と同様に、完全支配関係・支配関係・支配関係なしの3つの場合に分かれ、完全支配関係の要件が最も緩く、次いで支配関係、支配関係なしの順に要件が厳しくなります。
株式を100%持っている | 株式を50%超持っている | 株式を50%以下持っている | |
対価としてお金などを支払わない | 〇 | 〇 | 〇 |
保有株式数に比例した対価 | 〇 | 〇 | 〇 |
主要な事業の移転 | 〇 | 〇 | |
事業の継続 | 〇 | 〇 | |
事業の関連性 | 〇 | ||
規模の同等または経営参画 | 〇 |
三角分割の適格要件
分社型分割には、「三角分割」と呼ばれる手法があります。三角分割とは、分割対価として承継会社の株式ではなく、承継会社の親会社の株式を分割会社に交付する方法です。これを行うには、承継会社に親会社が存在する必要があり、既存の他会社に事業を承継させる「吸収分割」で用いられます。
三角分割を行う場合、通常の分社型分割と適格要件に大きな違いはありません。ただし、「金銭等不交付要件」に関して、対価として使用できる株式の種類が異なる点に注意が必要です。通常の分社型分割と比較すると、三角分割では以下のように制限されます。
【使用できる株式の種類】
- 通常の分社型分割:承継会社の株式、承継会社の親会社株式
- 三角分割:承継会社の親会社株式
三角分割で承継会社の親会社株式のみが使用できる理由は、三角分割自体が承継会社の親会社株式を交付する方法だからです。
会社分割の適格分割・非適格分割については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
3. 分割型分割と分社型分割の仕訳と会計処理
分割型分割や分社型分割では、どのように仕訳・会計処理を行うかが分かりにくいでしょう。
詳細な仕訳・会計処理は会計士などの専門家でないと理解が難しいですが、この章では、分割型分割や分社型分割の仕訳・会計処理がおおむねどのような形で行われるか、その概要を解説します。
分割型分割の仕訳と会計処理
会社法には分割型分割に関する規定がなく、いったん分割会社が対価を受け取った後、その株式をあらためて株主に配当する形で仕訳・会計処理を行います。したがって、まず分社型分割と同じ仕訳・会計処理を行ったうえで、株式の現物配当の仕訳・会計処理を行います。
分割型分割と分社型分割は承継会社にとっては株式の交付先が違うのみなので、承継会社の仕訳・会計処理は分社型分割の場合と同様に行えば問題ありません。
分割型分割の場合は、対価を受け取った分割会社の株主の仕訳・会計処理も発生します。分割会社の株式を貸方、交付された承継会社の株式を借方に計上し、適格要件を満たさない場合はみなし配当や譲渡損益を計上します。
分社型分割の仕訳と会計処理
分社型分割では、取引の対象となるのは事業を分割する会社とそれを承継する会社で、分割型分割のように株主は関係しません。
まず事業を分割した会社は事業に関する資産と負債を承継会社へ譲渡し、代わりに承継会社の株式を取得するので、これらの取引を仕訳・会計処理すれば問題ありません。
適格要件を満たさない場合は、加えて譲渡損益の仕訳・会計処理が必要になるため、注意が必要です。
事業を承継した会社は分割会社の仕訳・会計処理の逆を行えば問題ありませんが、適格要件を満たさない場合は資産・負債の額が時価になる点、純資産の増減を考慮する点に注意しましょう。
会社分割の仕訳・会計処理については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
4. 分割型分割と分社型分割の会社法上の扱い
分割型分割と分社型分割を規定している法律は会社法ですが、これらはどのように規定されているのでしょうか。この章では、分割型分割と分社型分割の会社法上の扱いを解説します。
分割型分割の会社法上の扱い
旧商法には分割型分割に関する規定がありましたが、会社法で分割型分割は廃止され、明確な規定が存在しません。
しかし、分社型分割でいったん対価を分割会社が受け取ったうえで、それを株主に配当として交付すれば分割型分割と同じになるので、規定されていないからといって分割型分割ができないわけではありません。
分社型分割の会社法上の扱い
会社法で規定されているのは分社型分割のみで、分割型分割は「人的分割類似行為」と呼ばれる、分社型分割の派生に近い形で取り扱われています。
5. 分割型分割と分社型分割の税務上の区分
分社型分割をはじめとする会社分割では、譲渡益などに対する税務を理解しておく必要があります。適格要件を満たすかどうかでも区分が変わってくるので、注意が必要です。
分割型分割は人為的分割
分割型分割は、人為的分割(または人的分割)とも呼ばれ、その対価を株主が受け取る取引です。事業を分割した会社と譲り受けた会社に加えて、対価を受け取った株主の税務も考える必要があります。税金が生じるのは事業を譲り渡した側の会社とその株主です。
適格要件を満たす場合
適格要件を満たす場合、所得税や法人税は課せられません。税務としては、分割会社は分割した事業に関する資産と負債の消滅およびそれに伴う資本金と利益積立金の移転を行います。
続いて、承継会社は承継した事業に関する資産・負債を簿価で引き継ぎます。分割会社の株主からすると、もともと保有していた分割会社の株式が事業を分割した分のみ価値が減少するとともに、その減少分は新たに取得した承継会社の株式の取得原価となります。
非適格分割型分割の場合
適格要件を満たさない非適格分割型分割の場合、税金がかかってくるので注意が必要です。
資産・負債や対価を時価評価するのに伴い、譲渡損益やみなし配当が発生します。また、所得税や法人税も考える必要があります。
分社型分割は物的分割
分社型分割は株主の税務が関係しないので、分割型分割に比べると税務はやや簡単になります。適格分社型分割の場合のみ税金が発生するのは、分割型分割と同じです。
適格要件を満たさない場合、分割した資産・負債の含み損益に応じて、事業を譲渡した分割会社に税金が発生します。
会社分割の税金・税務については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
6. 分割型分割と分社型分割の違い一覧
ここまで分割型分割と分社型分割に関して、適格要件・仕訳と会計処理・会社法上の扱い・税務上の区分の面で違いを述べましたが、分かりやすく表にまとめると以下のとおりです。
分割型分割 | 分社型分割 | |
適格要件 | スピンオフ分割の制度がある | 案分型の交付要件がない |
仕訳・会計処理 | 分割会社と承継会社のみ | 分割会社の株主にも仕訳が発生 |
会社法上の扱い | 規定されていない | 規定されている |
税務上の区分 | 分割会社・分割会社の株主に課税(非適格分割型分割) | 分割会社に課税(非適格分社型分割) |
7. M&Aによる分割型分割や分社型分割の相談先
M&A総合研究所は、分割型分割や分社型分割をはじめとするM&Aの支援実績豊富な仲介会社です。さまざまな業種で多数のM&A実績を持つM&Aアドバイザーが、クロージングまで親身になってサポートします。
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8. 分割型分割と分社型分割のまとめ
本記事では、分割型分割と分社型分割の違いを解説しました。主な違いは、対価を株主に支払うのが分割型分割、対価を分割会社に支払うのが分社型分割という点です。そのほか、適格要件の違いなどもあるため、会社分割を行う際は両者の違いを理解しておくことが大切です。
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